BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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23話です。
皆さん沢山の評価、コメントありがとうごさいます!!
誤字脱字報告もありがとうございます!!
今後も引き続き更新を続けていくつもりですのでお付き合いしていただけると嬉しいです。

それではどうぞ。






作戦終了

 眩い閃光で視界が真っ白に染まる。

 収容された艦艇の中から外を見ていたヒナ達は思わず目を塞いでしまった。

 

「うっ!」

 

 閃光が過ぎ去ると、彼女達の視界にはにわかに信じられない光景が広がっていた。

 

 超巨大な爆発、そして爆煙。

 膨大な炎で煌々と照らし出されたそれは5キロメートル以上離れた場所で発生したものにも関わらず、圧倒的な巨大さがここから分かるほどに大きい。

 最早爆煙というより黒い入道雲とでも呼ぶべきであろうソレがラゴス島を丸ごと飲み込んでいた。

 そんな非現実的な光景に目を奪われていると、艦体が突然強い衝撃に襲われる。

 

「きゃぁっ!!」

「うわぁっ!!」

 

 放射熱線の爆発が生み出した衝撃波がこの場所まで到達したのだ。

 不意に地震のような揺れに見舞われ、何人かは思わず立っていられずに転倒してしまう。

 ほんの一瞬だけ襲来した揺れが収まると、遅れて巨大な爆発音と地鳴りのような轟音が耳に入ってくる。

 その轟音がフィナーレとなってこの一大イベントは終了となった。

 

 皆が言葉を失っていた。

 静まり返った艦内の面々は未だに島の全体を覆い尽くしているきのこ雲に釘付けになっている。

 彼女達は先生の復讐を成し遂げた。しかしそこに歓喜の感情は見られなかった。

 そこにあったのは不安と恐怖、そして得体の知れない後悔の念だった。

 目の前で起きた絵空事のような出来事にひたすら圧倒され、様々な負の感情がぐちゃぐちゃになっている。

 そのうちの一人だったヒナはこんなことを思っていた。

 

『自分達は何か取り返しの付かないことをしてしまったのではないか?』と。

 

 先程まで使うべきだと考えていたうちの一人でありながら身勝手極まりないものだということは自覚しているが、いざこのような光景を見せられてはそんな考えに至るのも仕方のないことだった。

 

「はは…やった…怪物1号を倒したんだ…。」

 

 人混みの中で誰かがポツリとそう呟く。

 沈黙の中で発せられたその小さな声はとても大きく聞こえた。

 それを聞いた皆が次々と賛同する声をあげ始める。

 

「そうよ!この為にみんなで頑張っていたんだもの!!」

「私達は怪物1号を倒した!先生の仇を討ったんだ!!」

 

 次々と歓声があがり始める。

 だがその声はどこか空元気で、心の底から喜んでいるものとは到底思えなかった。

 むしろ今抱えている負の感情を消し飛ばそうと、自分達の行いを正当化するためにどうにか理由を作り出そうとしているかのようだった。

 

(みんな、考えていることは同じなのね。)

 

 その様子を見ていたヒナはそんなことを考える。

 彼女もまた心の底では、自分も大勢の人間達と同じ側でいられたことにどこか安心感を覚えてしまっていた。

 すると今度は無線機から喧しい声が聞こえてくる。

 

『おい司令部!!私の声が聞こえるか!!』

「…マコト議長?」

 

 声の主はヒナのよく知る人物のものだった。

 怒り心頭な様子の彼女はそのまま間髪入れずにまくし立てててくる。

 

『ヒナか!?お前そこにいるんだな!!今の爆発は一体なんだ!!』

「貴女、何処にいるの?あの爆発が見えたの?」

 

 これまで一切姿を見せなかったにも関わらず現状を目の当たりにしているかのような口ぶりのマコトに疑問を抱く。

 そんな様子を見かねたのか別の者が二人の会話に割り込んできた。

 

『すみません風紀委員長。その質問には私がお答えします。』

「イロハ?」

『はい。実はマコト先輩がいつの間にかビスマルク級(戦艦)を購入していまして。これによる砲撃で怪物1号を駆除しようというのが今回の企みでした。』

「そうだったのね。なら今はこの海域の近くに?」

『はい。現在我々はラゴス島から15キロほど離れた位置を移動中です。たった今巨大な爆発が進路の先に見えましたので連絡をさせてもらいました。』

「なるほど。でもどうして今その位置に?攻撃を行うなら早々に戦線に参加するつもりじゃなかったの?」 

『キキキッ!お前達だけでは怪物1号の駆除など不可能だろうと思ってな、無様に敗北を晒したところで我々が必勝の一撃を…』

『いえ、マコト先輩が急に出撃命令を出したせいで準備が間に合わず出航が遅れただけです。』

『おいイロハァ!!余計な事を言うな!!』

「…だいたいわかったわ。」

 

 どうやら作戦の詰めが甘かったせいで彼女らは行動開始が遅れてしまったらしい。

 ビスマルク級の動力機関は始動から船を動かすだけの出力を発生させるまでに数時間を要するのだから何の前触れもなく出撃しろと言われてもすぐに動かせないのは当然だ。

 

 むしろ今のヒナにとっては彼女の『お前達だけでは怪物1号の駆除など不可能』という言葉が普段の嫌味と違って心にグサリと突き刺さっていた。

 

『それで、島で何があったんですか?マコト先輩の命令で無線封鎖をしていたせいでこちらは状況を把握できていないのですが。』

「なにやってるのよ…。今貴女達が見たのは放射熱線の攻撃による爆発よ。」

『放射熱線?なんだそれは?』

「ミレニアムサイエンススクールの明星ヒマリが製作した兵器だと聞いているわ。安心して、貴女が懸念している雷帝絡みのものではないわよ。」

『お前、その話を信じたのか?』

「ええ。」

『見損なったぞ…空崎ヒナ。』

「…そう。」

『その明星ヒマリの話が本当だという保証が何処にあった!?あれ程巨大な爆発を起こすような兵器が雷帝の遺産でないという根拠がどこにある!?もしソイツの言葉が嘘だったらどうするつもりだったんだ!?』

 

 マコトはヒナに対して怒号を浴びせる。

 彼女からすればこれまで様々な手段を講じて行って過去の負の遺産を地道に処理してきたというのにその努力があっさり無に帰したように思えてしまっていたのだった。

 

「彼女は雷帝の遺産とは無関係だとわざわざ名指しして言っていたわ。少しはこの件に関しても他人を信用しなさい、マコト議長。」

『それで信じた結果がアレか!?あんなものを見せつけられて私がお前らを信用できるわけが無いだろう!!その放射熱線を使ったせいで取り返しのつかない事態が起きる可能性を考えなかったのか!?』

 

 マコトは次々と言葉をぶつける。

 それらはどこまでも正論で、怪物1号を倒すという短絡的な結果だけを求めてあの恐ろしい力に手を出したヒナ達を容赦なく非難してくる。

 ゲヘナの雷帝が残した遺産はどれも戦略的、政治的な面で強い影響力を及ぼすようなものばかり。

 アビドスに残されていたシェマタ(列車砲)はその最もたる例だ。

 あちらは所有権を巡っていただけであれだけの騒動を起こしたのだから、もし実際に使用されていたら今頃どうなっていたか分からない。

 故にマコトの言いいたいことはヒナ自身もよく理解していた。

 だがそんな認識とは裏腹に彼女の心に浮かんできたのは理不尽な憤りだった。

 

『もしも彼女がもう少し早くこの場へ姿を現していれば』

『もしも彼女が最初から戦艦を投入することを皆に伝えていれば』

『もしも彼女が無線封鎖をせずあの会話に参加して明確に反対の意思を示していれば』

 

 この状況を回避できたかもしれない様々な『もしも』が次々と脳内に溢れてくる。

 どれもマコト達がもっと早くここへ来ていれば、というものばかりだった。

 普段のヒナならば絶対にしないような、他人に責任を押し付けようとする考え方だ。

 彼女もまた、この状況で正常な考え方ができなくなっていた人間の一人だったのだ。

 

『まさかお前まで世間の連中のように先生の仇討ちに目が眩んで目先のことしか考えられなくなっていた訳ではないだろうな!?おい!!』

「どうして…」

『ん?』

「どうして貴女はもっと早くここへ来なかったの…。」

『なんだと?』

「そもそも貴女が戦艦なんて持って来るなら初めからこちらにもその話を伝えておくべきだったのよ…。そうすれば私達にもまた違う選択肢があったかもしれないのに…!」

『な…』

 

 もし仮に彼女らがもっと早く到着していれば、ビスマルク級の38センチ砲を使う選択肢が初めから存在していれば、ヒナもそちらを使うことを選んでいただろう。

 なにしろその威力は全砲門で斉射すれば着弾点の地形そのものを余裕で変えてしまう程であり、ユウカが提案した対艦ミサイルでの攻撃よりも遥かに高い効果が確実に見込めるからだ。

 

「私達はあの時点で選べる選択肢の中から確実に倒せる方法を選んだ。あの時、あの場にいなかった貴女にそれを非難する権利なんて無いわ。いいわね?」

 

 ヒナが冷徹な声でそう告げる。

 いつになく真面目なトーンで自分の立場を言い切られたマコトは何も言い返すことができなかった。

 

『CPより作戦行動中の全部隊へ。現時刻を持って、怪物1号駆除作戦を終了します。展開中の全艦艇は速やかに当海域を離脱し、以降の確認作業は無人航空機、無人潜水艇にて行うこととします。繰り返します。現時刻を持って…』

 

 無線機から今度はリンの声が聞こえる。

 どうやら駆除作戦は終了となったようだ。

 

『…わかった、もうこれ以上は何も言わん。だがこの作戦の経過報告書だけは戻り次第直ちに作成してもらうぞ。いいな?万魔殿(こちら)への提出は本日中、だからな。』

「ええ。わかったわ。」

 

 それを最後に通信が切れる。

 話を終えたヒナは複雑な感情を抱えたまま、朝日で次第に明るくなり始めた空に立ち昇るきのこ雲をじっと見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

「風紀委員長、なんと言ってました?」

「あの時、あの場にいなかった我々に、自分達のした選択を非難する権利は無い、だそうだ。」

「…そうですか。」

 

 戦艦の艦橋でイロハとマコトが会話する。

 二人以外にも艦を操舵する万魔殿の部員達がいつになく焦った様子を見せていた議長を訝しげに眺めながら二人の会話に耳を傾けていた。

 

「議長、展開中の艦艇は全て作戦海域を離脱し帰投するとのことです。我々はどうしますか?」

 

 部員の一人がマコトに尋ねる。

 少しの間呆然とした後、我に返った彼女は新たな指示を飛ばした。

 

「非常対策委員会司令部の命令に従い、我が艦もこれよりゲヘナ学園へ帰投するぞ!取舵一杯!」

 

 その命令を受けて巨艦が左へと大きく旋回し帰路に着く。

 普段通りの調子に見えながらもどこか上の空な様子のマコトに向けてイロハが話掛けた。

 

「マコト先輩、確かに風紀委員長達の選択は貴女からすれば間違ったものに見えたかもしれません。ですが…」

 

 彼女はそこで一度言葉を区切ると、ラゴス島の方を見つめながらこう続けた。

 

「私、今だいぶ清々しい気分ですよ。だって、怪物1号(先生を殺した奴)がこの世から消えたんですから。」

 

 

 

 

 

 放射熱線が発生させた衝撃波はヒマリ達が乗っている船の元にも到達し、その船体を大きく揺らした。

 

「きゃあっっ!!」

 

 ユウカが悲鳴を上げる。

 他の面々も周りの物体にしがみついて衝撃に耐えていた。

 モニターもいくつかが消灯する。

 どうやら衝撃でカメラが損傷したらしい。

 一瞬転覆するのではないかと心配になる揺れに襲われたものの、過ぎてしまえば数十秒前と変わらない状態に戻っていた。

 

「こりゃあ…ヤベえな…。」

「あんなに大きなきのこ雲ができるなんて…。」

 

 ネルとユウカが呟く。

 4人が見つめる一つのモニターには放射熱線によって引き起こされた巨大な爆煙が映っている。

 爆発が日常茶飯事のキヴォトスできのこ雲を見るのは別に珍しいことではない。

 だがあれ程に大きなものはここにいる者の誰一人として見たことが無かった。

 

「攻撃終了。CP、次の指示を願います。」

 

 ヒマリは無線機に向けて静かにそう告げる。

 司令部もこの光景を見て呆然としていたのか、少し遅れて反応した。

 

『…あぁ、はい。観測班、無人偵察機からの映像は確認できますか?』

『現在確認作業中です…駄目ですね。爆煙に覆われて島の状況把握が不可能です。熱源探知も高熱に遮られて機能しません。この温度では人が近づくこともできませんから、当分は無人機で探索を行うしかないかと。』

『わかりました。…CPより作戦行動中の全部隊へ。現時刻を持って、怪物1号駆除作戦を終了します。展開中の全艦艇は速やかに当海域を離脱し、以降の確認作業は無人航空機、無人潜水艇にて行うこととします。繰り返します。現時刻を持って…』

 

 無線機からリンや司令部の生徒達の声が聞こえ続ける。

 流石に今のラゴス島に人間を送り込もうという考えは無いようだった。

 

「最初に話を聞いた時はどうなるかと思いましたが、まさかこれ程のものとは思いませんでしたね。」

 

 ワカモがヒマリに向けてそんなことを呟く。

 だが一方のヒマリは興味もなさげにこう返答した。

 

「そうですね。想像以上の威力です。…しかし、これで終わりです。」

「終わり?」

 

 何のことかとワカモが疑問に思っていると、船外から何かが崩れているかのような轟音が聞こえ始めた。

 

「あ、あれ!!」

 

 ユウカが放射熱線の映っているモニターを指さす。

 その画面には射撃を終えた発射機が砂のように崩れ始めている光景が映っていた。

 

「この兵器には元より発射の反動に耐えれるだけの耐久性が考慮されていませんでした。というより、熱線の凄まじい火力を耐えるように作ることが不可能だったのでしょう。いずれにしろ、これは最初から使い捨て前提の代物だったんです。」

 

 ヒマリが話終わると同時に放射熱線が完全に崩壊し、灰色の塊へと変貌する。

 最早原型は全く留めていなかった。

 

「これで放射熱線はこの惑星から消滅しました。この兵器を使用するのはこれが最初で最後です。」

 

 大仕事を全て終えたヒマリはそう宣言する。

 これにて全てが終わった。

 

 

 

 と思ったのも束の間。

 

「はあっ!!」

 

 暫く黙ったまま後ろに控えていたネルが二人に襲いかかってきた。

 

「なっ!?」

「おらァ!!」

 

 不意打ちを仕掛けたネルは一瞬でワカモの眼前まで詰め寄り相手の腕を捻りあげる。

 そのまま体を後ろ向きに回転させると背中から彼女の体を司令室のテーブルに押さえ込んだ。

 そんなやり取りを見て呆気にとられていたヒマリに向けてユウカがサブマシンガンを突き付けた。

 

「ヒマリせんぱ…いえ、明星ヒマリさん。」

「ユウカさん…?」

「貴女を大量破壊兵器の使用、及び所持の現行犯で逮捕します。」

 

 ユウカがいつになく畏まった言葉遣いでそう告げる。

 先程ネルが彼女に耳打ちしていた内容、それは危険人物と化したヒマリの身柄をどうやって確保するかというものだった。

 

 ネルがそのことを考え出したのはラゴス島で放射熱線に関する無線通話をした時からだった。

 ヒマリに居場所を尋ねたのも最初から危険な兵器を保有する彼女の身柄を捕らえることが目的だった。

 だがバカ正直にその旨を伝えるわけにもいかず、ヒマリが敵愾心を向けるリオの名前を持ち出して揺さぶりをかけたうえで『新兵器の使用はセミナーの監視下で行う』という最早形骸化していたルール*1を伝えることでどうにか居場所を聞き出そうとしていたのである。

 これに相手が応じるかは一か八かの掛けだったが、ヒマリ自身の思惑もあり、結果としてネル達は目的の場所へと辿り着くことに成功した。

 そして身柄確保のタイミングは正にこの瞬間、放射熱線(大量破壊兵器)を使用した直後だった。

 

 犯罪者を逮捕する場合、法執行機関には2種類の方法がある。

 一つは犯行後に被疑者を特定し逮捕状を準備してから捕らえるもの。

 もう一つは犯行を起こした瞬間に捕らえる現行犯逮捕である。

 

「逮捕…ですか。」

「はい。言っておきますがこれは正当な逮捕権の行使ですよ。私はセミナー、ネル先輩はC&Cの所属ですから。」

 

 ネルもユウカもミレニアムにおける法執行機関の一員であり、放射熱線という大量破壊兵器を使用する瞬間を目の当たりにした今ではヒマリを正当な理由で逮捕する権利を有していた。

 

「なるほど。これは迂闊でしたね。」

「そうですよ。普段のヒマリさんならこんな簡単なことに気付かない筈がありません。今の貴女は正常な判断ができなくなってしまってるんです。ですから、今抱いている感情だけで未来を棒に振るようなことはやめてください。いっしょに帰りましょう、私達の学園(ミレニアム)へ。貴女を一人にしたりはしません。私も、先輩達もいっしょにいます。この先もずっと、ずっとです。」

 

 逮捕という名目ではあるものの、二人は牢屋に入れるといった意味でヒマリを逮捕をしようとしていたわけではなく、世界の行く末を左右しうる力を持ってしまった彼女をなるべく安全な学園内で守ろうというのが本当の目的だった。

 そうでなくともこれまで苦楽を共にしてきた学友をこのまま放っておく選択など初めから二人には無かった。

 

「無駄な抵抗はやめとけワカモ。この距離じゃお前はあたしに勝てねえよ。」

 

 たった今押さえ込んだ相手に対してネルは降伏を促す。

 それでも尚ワカモは抵抗の意思を見せ、どうにかして拘束から脱出しようともがいている。

 そんな彼女に向けてヒマリが声を掛けた。

 

「ワカモさん、今はネルさんの言うことに従ってください。」

「ヒマリさん!?」

 

 驚くワカモを他所にヒマリは両手を上げて降参の意思を示した。

 

「ここまでされては、受け入れない訳にいきませんね。」

「…ヒマリ先輩(・・)!」

「ユウカさん、貴女の命令をお受けします。どうぞなんなりと。」

 

 その言葉を聞いたユウカはホッと胸を撫で下ろす。

 どうやら一触即発の事態は回避することはできたようだ。

 

「ではお二人を拘束させてもらいます。一応貴女達は被疑者ですので。ネル先輩、手伝ってください。」

「ああ。」

 

 携帯していたバンド型の手錠を二人の手に掛ける。

 ヒマリが従った様子を見て諦めたのかワカモも今回は大人しく手錠を掛けられていた。

 

「それでは、現時刻をもってこの船の操舵権は私が引き継がせてもらうわ。」

「かしこまりました。」

「それでこの船を私達が出航した港まで移動させたいのだけれど…どれを動かせばいいの?」

 

 取り繕う必要が無くなったのか、普段通りの口調に戻ったユウカが室内のモニターや操作盤達を眺めながらそう尋ねる。

 ミレニアムでも指折りの数学の鬼才である彼女だが機械関係に関してはあまり詳しい方では無かった。

 

「ん?」

 

 そのまま辺りを見回していると、とあるものが目に付いた。

 それは何かのメーターのようなもので、表示されている計測用の針は振り切れんばかりの反応を示し続けている。

 この類の計測器で針が振り切れている状態というのは大体異常な数値が計測されている場合だと相場が決まっているものだ。

 

「これ何のメーターかしら?えっと名前は…」

 

 

 

「『Out() side() Geiger(ガイガー) counter(カウンター)』…嘘!?だとするとこの反応ってまさか…放射能!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人間達から度重なる暴行を受けた後放置された呉爾羅はその後も島内に留まり続けていた。

 体は既に血まみれで傷だらけだったが、それでも尚死の淵にまでは至っておらず、持ち前の再生能力で回復できる程度の状態だった。

 しかし今の怪我では流石に安静にせざるを得ず、突然逃げ出して行った敵群団の追撃は断念せざるを得なかったのだった。

 そうしてじっとしていたところ、突然強烈な光と衝撃が呉爾羅を襲った。

 放射熱線の爆発が発生させた衝撃波はその巨体を紙切れのように軽々と吹き飛ばした。

 島から放り出された呉爾羅は勢いそのままに海面へと叩きつけられ、荒波に飲み込まれながら海中へと沈んでいく。

 同時に凄まじい高熱がその体を焼き尽くした。

 生半可な攻撃では傷一つ付かなかった体表が一瞬で沸騰し、皮膚はめくれ上がり肉は焦げ、辛うじて残っていた左の眼球は蒸発する。

 だがそれでも驚異的な再生能力を持った呉爾羅は死滅することなく必死に体を復元させていった。

 

 しかし、そこで予想だにしないことが起こった。

 放射熱線に含まれていた放射性物質が体内に侵入したことで呉爾羅の細胞内にあったDNAが崩壊しガン細胞化、元の形が分からなくなった状態で復元を行った結果再生能力が暴走を始めてしまい、復元を通り越して歪な急成長を始めたのである。

 その結果表皮はゴツゴツとした岩のような様相に変貌し、背鰭は雪の結晶のようにあらゆる方向に枝を伸ばしていった。

 それは層をなし、まるで何十年も海底で生き続けてきた牡蠣殻のような姿に変わった。

 元々大きかった体は更に際限なく巨大化していき、以前の姿を遥かに凌ぐ巨体と化していった。

 更に体内でも次々と異常が発生し、元々あった内臓は新たに膨張してきた臓器…莫大なエネルギーを伴う正体不明の物に押しつぶされて本来の機能を失っていった。

 想像を絶する痛みを伴いながら肉体がどんどん変異し、今まで自覚すら無かった大切な何か(・・)が自分の中で失われていく感覚を呉爾羅は感じていた。

 それでも尚死ぬことを許されなかった呉爾羅が抱いたのは、これ程の不条理を与えたこの世界に対しての、そして自分を何度も傷付けた小さな生き物(人間)達への凄まじい怒りだった。

 

 

 

 

 

 この瞬間、世界を滅せる程の力を持った『怪獣』がキヴォトスに誕生してしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

*1
一応規則としてそうなっているがミレニアムでは平然と暴発や実験の失敗等で爆発事故が頻発しているため、いつしか皆に忘れ去られたルールとなっていた





ちょっとリアルの方の問題で4月いっぱい更新ができないかもしれません。

最初に更新続けるって言ったのに早速コレですみませんが…。

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