BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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皆さん沢山のコメントありがとうございます!
誤字脱字の報告もありがとうございます!

24話になります。
これから暫くはゴジラが登場しませんがどうか気長にお待ちください…。






思いやり(身勝手な考え)

「あの…ユウカさん?」

 

 静まり返った船内でヒマリが恐る恐るといった様子でユウカに話しかける。

 だが話し掛けられた方はというとそれに対して特に反応を示すことなく黙って操作端末に向かい続けていた。

 

「ヒマリやめとけ。話し掛けないほうがいい。」

「はあ…。」

「今のアイツは相当気が立ってる。変に刺激すると怖えぞ。」

「…よくご存じですね。」

「まあ普段から色々あるからよ…。」

 

 ネルはヒマリに小声でそう伝える。

 C&Cとしてセミナーからの依頼をこなしている一方で、度々大破壊をもたらしてユウカから雷を落とされることが半ば常態化していたネルは彼女の感情の乱高下がどのようなものか察知する能力が非情に高くなっていた。

 彼女の推測では今のユウカは高額な請求書を渡された時と同じ、つまり噴火寸前の状態だと判断していた。

 

「こちら特殊艦艇『ムサシ2号』乗員早瀬ユウカ、あと20分で港へ到着します。入港許可を願います。」

『港湾局より早瀬ユウカさんへ、現在入港待ちの船舶が渋滞しており入港を許可することができません。すみませんが暫く湾外でお待ちください。』

「…了解しました。待機します。」

 

 ユウカは疲れを隠そうともしない声色で応答する港湾局の生徒の返答を聞いて申し訳なさそうに返事をする。

 その会話を最後に室内は再び沈黙に支配された。

 

 こうなってしまったのは放射熱線の使用後に周辺から放射能が検出されたことが原因だった。

 先程ガイガーカウンターの反応を見たユウカは即座にCPにそのことを報告した。

 それを聞いた司令部は当然大混乱に陥った。

 なにしろあらゆる生物にとって脅威となりうる物質が夥しい量撒き散らされたのだから当然である。

 そのため作戦に参加した者達をそのまま解散させる訳にもいかなくなり、近辺に展開していた艦艇、それらの搭乗員全てに緊急の検査と除染作業を施してから帰ってもらうことになったため帰港作業がスムーズに進んでいないのだった。

 

 放射性物質が散布されてしまった事実を最初に知った時、ユウカは真っ先にヒマリに向けて烈火の如く怒りながらそのことを問い質した。

 ヒマリは彼女の本気の怒りを前にたじたじになりながら放射熱線に関する真実を説明した。

 放射熱線は核分裂によって引き起こされる爆発を発生させた際に広範囲に放射性物質をバラ撒く性質を持っていること。

 もし仮に怪物1号があの爆発を生き延びたとしても、その次は猛毒となる放射能によって確実に殺せるという二段構えとなっていたのだ。

 それはつまり、あれがひたすら生物を殺すことだけに特化した性質を持った悪魔の兵器であることの証左に他ならず、彼女が抱いていた殺意の高さを伺い知れた。

 一方でヒマリ曰く、キヴォトス人は放射能に対しても並の生物より高い耐性があるため、短時間で汚染地域を離脱できた今回は皆が放射能の影響を受けることは無いとも説明していた。

 

 だがユウカが怒っていた理由は放射性物質の有無そのものではなく、何故そのような大事な事を黙ったまま使おうとしていたのかということだった。

 しかしそれに対するヒマリの返答はただ、『すみませんでした。』であった。

 彼女の発する並々ならぬオーラが室内を支配し、ネル達が話しかけるのを躊躇しだしたのはそれからである。

 そんな中、ユウカは一際大きく深呼吸をすると、ヒマリを真っ直ぐ見据えながら声を発した。

 

「ヒマリ先輩。」

「はい。」

「私は貴女の起こした行動をこれ以上追求するつもりはありません。先程までの貴女は正常な判断力を失っていた。それはきっと貴女だけじゃない、みんながそうだったんだと思うわ。そう、あの場で大勢の人間が貴女の申し出に賛同していたんだもの。当然、私も。」

「ユウカさんはずっと反対していたでしょう。」

「でも最後には賛同した。過程がどうあれ私も皆と同じ、放射熱線の使用を望んだ人間の一人よ。」

 

 落ち着いた様子で淡々とユウカはそう語る。

 彼女はヒマリのしたことについてこれ以上とやかく言うつもりは既に無く、頭の中はこれから待っているであろう事後処理に関することで一杯だった。

 情報の伝達不足があったとはいえ今回の出来事は皆が望んだ結果起こってしまったもの。

 それならば、これからするべきことは一人の人間に責任を全て押し付けて責め立てるのではなく、皆で協力して今後の対応に力を入れていくべきだろうというのが彼女の考え方だった。

 

「だから、ここからはみんなでこの先の対応について考えていきましょう。きっと1週間、1ヶ月かかっても終わらないような後始末が待っているでしょうからね。」

 

 ユウカは鼻を鳴らしながら吹っ切れた様子でそう続ける。 

 それに対してヒマリはどこか影を落とした表情のまま相手から目を逸らした。

 その様子は何かどうしようもない申し訳なさを必死で押し殺そうとしているかのようだった。

 そんな彼女を他所にユウカは気を取り直してハキハキした声で周囲に呼びかける。

 

「さて!私達も当分ここで待たないと行けなさそうだし…」

 

 と、そう言いかけたところで新たな事件が起きる。

 今まで大人しくしていたワカモが突然手錠を外し隣にいたヒマリを担いで立ち上がったのだ。

 脱獄のプロと言える彼女にとっては簡素な手錠から抜け出すことなど最早造作もないことだった*1

 

「っ!!てめえ!!」

 

 完全に逃げ出そうとしている様子を見せた彼女に向けてネルが吠える。

 だがワカモはそんなことを気にもとめず、突然自分のスカートの裾を引っ張った。

 すると中から大量の手榴弾が一斉に転がり落ちてきた。

 それらの見た目は一般的な爆風破片手榴弾(フラググレネード)のソレであり、更には起爆用のピンがしっかりと全て抜かれている状態だった。

 

「なっ!?」

 

 突然自爆攻撃を始めたワカモに思わずネルは気を取られて動きが止まってしまう。

 だが彼女の予想に反して手榴弾達は爆発せず、代わりに大量の白煙を吹き出し始めた。

 

(クソッ!!スモークかよ!!)

 

 夥しい量の煙によって室内は一瞬で視界がゼロになる。

 

(逃がすか!!)

 

 周りは見えないが、ネルは既にこの部屋の間取りを完璧に把握していた。

 となれば補足は容易だ。

 しかし突如として軽い銃声が一発鳴り響き、同時にユウカが悲鳴をあげる。

 

「きゃっ!!」

「おいユウカッ!!大丈夫か!?」

「あれ…?だ、大丈夫!当たってないわ!」

 

 ユウカはネルに向けて安心させるかのように大声で答える。

 今の銃声は小口径の拳銃のもので間違いない。

 そしてこの部屋にいる人物でそんなものを持っているのはヒマリしかいない。

 

(ヒマリの奴ユウカを撃ちやがったのか!?何を考えてやがる!?)

 

 直後誰かが室内をドタドタと走り回る音、続いてドアを乱暴に蹴破る音が聞こえた。

 十中八九ワカモ達だ。

 二人が逃げた先は、おそらく音が聞こえた方向から推測するとこの部屋へ入ってきた扉、ヘリの格納庫に繋がる通路だ。

 

(ヘリで逃げるつもりか!?)

 

 この船に搭載されていたヘリは元々通常の有人機だったものを無人機に改造したものであることが外観から想像できた。

 となれば、あの機体は手動操縦がまだできる可能性が高い。

 飛び立たれれば間違いなく逃げられてしまうだろう。

 

「あいつらヘリで逃げるつもりだぞ!ユウカ!」

「ま、待って…煙で前が…!先輩は先に行って!!早く!!」

「チッ!ああわかった!!」

 

 一刻の猶予も無い状況のためネルはユウカを待たずに一人で追跡に飛び出す。

 煙を越えて通路の扉に飛び込んだ、その瞬間。

 

 ネルの足元が爆発した。

 

「がっ!?」

 

 爆発と同時に大量の小さな鉄粒が音速を超える勢いで飛散し、ネルの体に次々と突き刺さる。

 

(クレイモア!?)

 

 指向性対人地雷(クレイモア)

 キヴォトスの中でも大量に流通している武器の一種だ。

 どうやら部屋を飛び出した後一瞬のうちにこれを設置していったらしい。

 ワカモの破壊工作の手際の良さはやはり天才的だ。

 流石にキヴォトス人がこの程度の攻撃で致命傷を受けることはないのだが、動きを鈍らせることに関しては充分な威力を持っている。

 素早く逃走する必要があるワカモ達にとってはピッタリな装備だ。

 ましてやこの狭い一本道でそれを回避しなから進もうとなると、それだけで間違いなく手間を取られてしまうだろう。

 

「舐めんなァ!!」

 

 相手の目的は初めからこちらが辿り着くまでの時間稼ぎだ。   

 むこうの策にはハマるつもりなど毛頭無い。

 即座に体勢を立て直し、走り出す。

 常人を遥かに上回るスピードでネルは通路を駆けていった。

 

「オッラァ!!」

 

 突き当たりの目的地まで辿り着くとその勢いのまま扉を思い切り吹き飛ばして格納庫に飛び込んだ。

 そこに駐機されていたヘリコプターは今まさに飛び立とうとローターを回転させている最中だった。

 コックピットにはワカモとヒマリが並んで座っているのが見える。

 部屋の天井部は既に完全に開いていてその先には早朝の青空が広がっており、いつでも離陸ができる状態になっていた。

 

「一体どういうつもりか知らねえが、逃さねえぞ…お前ら!!」

 

 凶暴な笑みを浮かべながらヘリに近付いていく。

 近距離戦最強のネルと離陸できていない状態のヘリに乗った二人では戦ったところで勝敗は明らかだった。

 だが、そこで状況をひっくり返すような出来事が起きる。

 

 ワカモがヒマリの首筋に短刀を突き付けたのだ。

 

「っ…!」

 

 それを見たネルは咄嗟に歩みを止める。

 キヴォトス人にとって刃物は時によって銃よりも凶器となりうる存在である。

 医療用に使われるメスは勿論、注射針ですら銃弾を跳ね返す頑強さを持った皮膚をいとも簡単に傷付け出血させることが可能なのだ*2

 つまり短刀で首の動脈を搔き切れば相手を失血死させることが可能なのである。

 そんな刃物があまり武器として普及していないのは、単純に相手に近付かないと役に立たない使い勝手の悪さや、そもそも殺人行為そのものを忌避する感性を皆が持っているからである。

 だがここにいるワカモはそれら大衆とはまるで違う感性を持った凶悪な犯罪者だった。

 

(ヒマリは人質ってことかよ…。)

 

 ネルはここでワカモがヒマリを攫った理由を悟った。

 初めから自分が逃走する際の保険用として彼女に目を付けていたのだ。

 放射熱線の存在が明るみになった今、それの開発者たるヒマリを連れ去ることがこの先どれ程大きな爆弾となるかを考えればかなりリスクの高い行動だとは思うが、ワカモにとってそんなものは自分の逃走に役立てられれば何でも良いのだろう。

 

 そうしている間にもヘリはローターの回転数を上げていき、ついには宙に浮き上がり始める。

 こうして動きを止めている間にも相手は着々と目の前から離れていく。

 その事実がネルを焦らせた。

 咄嗟にヘリに目掛けて一歩足を踏み出す。

 しかし、それを止めるよう釘を刺すかのようにワカモは短刀を更に相手の肌に深く食い込ませた。

 ついにヒマリの首筋から血が流れ始め、それが一筋の赤い線となる。

 

(コイツ…!!)

 

 ワカモの行動は決して脅しではない。

 ここで迂闊に近づけば躊躇いなく人質を殺害するだろう。

 それを見たネルは歩みを止めるしかなかった。

 そうしているうちにヘリはどんどん高度を上げていき、ついにはネルのジャンプでも届かないような高度にまで上がってしまう。

 更に不幸なことにこの船の近辺には友軍の艦艇が一隻もいなかった。

 充分な高さまで上昇した機体は悠々とネルの頭上を飛び去って行く。

 もう二人を追跡することはできない。

 

『ネル先輩!?返事して!!ネル先輩!!』

「…どうした?」

『ネル先輩!!よかった…返事がなかったから心配になって…。』

 

 無線機からユウカの声が聞こえる。

 どうやら今まで声を掛けられていたことに全く気付かなかったようだ。

 

『先輩!二人はどうしましたか!?』

「…ヘリで逃げられた。」

『えっ?そんな…。』

「すまねえ。全部私の不手際のせいだ…。」

『…それなら何もできなかった私にだって責任はあるわ。とにかく、今は逃げた二人をどうにかして捕まえることを考えましょう。』

「ああ…。なあ、そこからあのヘリの遠隔操縦ができないか?この船に装備されてた機体なら操縦装置も船に備え付けてあると思うんだが。」

『実は…その操縦装置がどうも私のすぐ後ろにあったみたいで…さっきの銃撃で破壊されてしまったのよ。多分あれは私じゃなくて初めからこの装置を狙って撃ったんだと思うわ。』

「そうか。なるほど、ワカモは初めからそこまで全部織り込み済みだったわけか。ならそれを撃ったのもアイツで間違いなさそうだな。」

『えっ?でもワカモの銃はまだこっちに置きっぱなしよ?』

「ヒマリの銃を奪って使ったんだよ。あの銃声は38口径の拳銃のものだ。」

『じゃあヒマリ先輩がワカモと共謀して…?』

「違うな。ヒマリは人質に取られたんだ。」

『人質…?』

「ワカモの奴、私を見た途端隣に乗せてたヒマリに短刀を突き立てやがったんだ。私にこれ以上近づくなって脅すみてえにな。」

『えっ!?じゃあヒマリ先輩は!?大丈夫なの!?』

「わからねえ。ただ短刀が首筋に突き付けられた時、ヒマリの首筋から血が流れ出すのが見えたんだ。」

『嘘でしょ…?』

 

 ユウカが困惑と怯えが混じったような声でか細く呟く。

 これまでのワカモの行動を鑑みればこの先どんな荒事を起こすか全く予想できない。

 もしかしたらヒマリを助けるには一刻の猶予も無いかもしれないという焦りがユウカの中で生まれ始めていた。

 

『二人に通信は…さすがにもう繋がらないわね…。ネル先輩、ひとまずこちらに戻ってきて。私はノアに連絡を取るわ。』

「了解。」

 

 会話を終えたネルは元来た道を重い足取りで引き返し始めた。

 その表情は苦虫を噛みつぶしたかのような、余りにも悔しそうなものだった。

 

 

 

 

 

 ネルとの会話を終えたユウカは疾る鼓動を抑えながらノアとの通信を開始する。

 

「ノア、聞こえる?」

『ユウカちゃん?どうしました?』

「頼みたいことがあるわ。ミレニアムサイエンススクール、セミナーからの正式な依頼として、連邦生徒会へ明星ヒマリをキヴォトス全域で指名手配してもらうよう要請して。」

『…理由をお伺いしても?』

「緊急事態が起きたわ。ワカモがヒマリ先輩を人質にしてヘリで逃走したの。ごめんなさい。私達がもっとしっかりしていれば…。」

『えっと…すみません、色々お聞きしたいのですが、何故人質にされたヒマリ先輩を指名手配するんですか?救助が必要ならばそちらの方で要請を出すべきなのでは…。』

「今のヒマリ先輩は大量破壊兵器『放射熱線』を開発した危険人物という立場になっているわ。そして動機は何であれ、こうして逃走した形になってしまった以上指名手配すること自体は特段おかしいものじゃない。それに今のワカモは人質を傷付けることを全く厭わない状態になっているそうなの。だから先輩の身の安全を守る為にも早急に捜索を始めて身柄を確保してもらいたいのよ。それこそキヴォトスの全学園を巻き込んででも、ね。」

『なるほど。連邦生徒会から直に行われる指名手配であればキヴォトスの全学園の治安機関に犯人を逮捕できる権利が与えられ、尚且つ身柄を確保した場合は矯正局に収監する関係からヴァルキューレ警察学校に引き渡すことが条約で定められている…捜索の速度と範囲を重視しての方法ということですね。わかりました。直ちに連邦生徒会へ連絡を取らせていただきます。』

「ありがとう。頼んだわ。」

 

 話を終えた直後、ユウカは先程渡された退学届を拾い上げると、ここまでの鬱憤を全てぶつけるかのように思い切りそれを破り捨て、粉々にしてしまった。

 正式な手続きを経ずに渡された届出を真面目に受け取るような義理はユウカには無かったのである。

 これによってヒマリの退学申請届は却下されることとなった。

 

(絶対助けに行きます。だから…どうか無事でいてください。ヒマリ先輩…。)

 

 

 

 

 

「すみません、揺れで手元が少し狂ってしまいました。」

「いえ、この程度の傷でしたら大丈夫です。ごめんなさい、貴女にこんな役を押し付ける形になってしまって。」

「他人から疎まれるのには慣れてますよ。止血はできますか?」

「ミレニアム製の止血剤があります。ご安心ください。」

 

 そう言うとヒマリはポケットに入っていた医療品を取り出し傷口に当てて治療を始める。

 そんな彼女の様子をワカモは心配そうに横目で見ていた。

 

「ところで、良かったんですか?あんなことまで言われたのにユウカさん達から逃げ出して。」

「…。」

「私達の協力関係はまだ解消されていません。私も貴女もこれまでそれに関する話を一切口にしていなかったのですから。私は予定通り当初の約束をしっかり守らせてもらいます。ですが、あの様子だとこんなことをする必要は無かったのではと思えて仕方ないのですが。」

 

 ワカモの考えを聞いたヒマリは閉口する。

 二人が交わした約束は怪物1号への攻撃をワカモに行わせる代わりにヒマリが身を隠すことを彼女に手助けさせるということ。

 ワカモは初めからその約束を果たそうと行動していたのだが、先程までのやり取りを見ているとわざわざ彼女がユウカ達から隠れるという選択を取った理由が分からなかった。

 

「最初にユウカさんの提案を受け入れた時はそのままミレニアムに戻るものとばかり思ってました。ですが貴女は私達が交わしていた契約のことを彼女達に明かさず、私に連れ去られている間も一切抵抗をしなかった。何故ですか?こんなことをしても貴女には良いことなど無いのではありませんか?」

「それは…」

「ご希望ならばすぐにユウカさん達の所へ引き返します。今ならネルさんに少し叩かれるくらいで済みそうですからね。」

「…いえ、このまま身を隠せる場所まで向かってください。」

「よろしいのですか?」

「はい。」

「…そうですか。」

 

 ワカモはどこか渋々といった様子でそう答える。

 ヒマリはどう見ても前向きな感情で今の行動を決断したとは思えなかったが、本人がそう言っている以上希望に沿うしかない。

 

「学園に戻る気になりましたらいつでもお伝えください。すぐに連れていきますから。」

「ありがとうございます。ご迷惑をお掛けしますね。」

「まだ契約は続いていますからね。貴女が約束を果たした以上、私もそれに応えるまでです。」

 

 二人を乗せたヘリは全速力で陸地を目指して透き通るような青空を飛行していく。

 

(でも今の貴女は私とではなく、ユウカさん達と一緒にいるべきではないかと思うんですけどね…ヒマリさん。)

 

 ユウカからの慈愛に満ちた対応と、それを無碍に扱うようなヒマリの行動を見ていたワカモは彼女にしては珍しく、隣に座っている相手のことを心の底から心配していた。

 

 

 

 

 

(ごめんなさいユウカさん…やはりこの事態にミレニアム(貴女達)を巻き込むことはできません。この罪は、私一人が背負うべきことなんです。)

 

 ヒマリは放射熱線の破壊力を目の当たりにして以降、自分がこれからどうするべきかをずっと考え続けていた。

 

 当初の予定通り学園(ミレニアム)から縁を切り、この件の負債全てを自分一人で背負っていくか、それとも学園の全員を巻き込んでしまうか。

 

 先程ユウカから話を振られた時は、自分の起こした事態の深刻さに打ちのめされてしまった直後ということもあり、思わず彼女の優しさに甘えて楽な道を選ぼうとしてしまった。

 ユウカは放射熱線の危険性を正しく認識し、あの状況下でも使用に大反対していた聡明な子だ。

 一方で自分はというと、それが発生させる二次被害のことを知っていながら彼女達に一切説明せず、目先の短絡的な結果だけを求めて行動してしまった。

 結局最後の最後まで身勝手な行いを繰り返して、先生の仇を取ると躍起になって、恐ろしい兵器を使った後になってこうして激しく後悔している。

 更にはそんな結果の後始末をあろうことか彼女達(学園)に押し付けようとしてしまっていた。

 そのことに気付いた瞬間、そんなことは絶対に許されてはいけないという気持ちが沸々と湧き上がってしまったのだ。

 

 故にワカモに部屋から連れ出された時、彼女は自分一人で全て背負っていくという道を再び選び直した。

 自分のわがままな行動の責任は自分が全て取るべきであって、他人に押し付けて良い筈がないのだと。

 

 責任を負ってくれる大人(先生)はもうこの世にいないのだから。

 

 ワカモともそう遠くないうちに縁を切らなければならない。

 ヒマリはそう考え始めていた。

 

 それが彼女の忌み嫌っていたリオの考え方と全く同じものであることに気付けない程に彼女の精神は追い詰められ始めてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

*1
ワカモは親子丼を使って手錠を外すという謎の技能を持っていたりする。一体どうやっているのか

*2
サツキの絆ストーリーで注射を普通に怖がる描写がある





??「ごめんなさいユウカちゃん。」


もう2週間に1話投稿がすっかり当たり前になったなあ。




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