お久しぶりです。投稿者です。
皆さん本作の評価、コメントいつもありがとうございます。
4月は休載とか言いつつ5月の投稿までほぼ滑り込み状態になってしまったー!ほぼ2ヶ月更新なしじゃんかヤダー!
文章力の無さが恨めしい…。
なにはともあれまだ続けますのでどうかお付き合いくだされば嬉しいです。
それでは25話です。
※FOX小隊の設定が間違っていたのでクルミのセリフを少し直しました。
「う、ん…?」
目を覚ますと、サキの視界には見覚えのある天井が広がっていた。
いつも寝ている小ウサギ公園のテントのものだ。
ゆっくりと体を起こし、周りを見回す。
「あっ、起きた。」
「…クルミ先輩?」
声のした方に目を向けると、床に座り込んだままこちらを見ているFOX小隊のクルミと目が合った。
「ん…。」
「あら?サオリも起きちゃったの?まだ寝てて良いのに。」
「え?」
クルミがこちらを見ながらそんなことを言うので、ぼんやりしていたサキの意識は急速に覚醒していく。
すると片方の手にだけ何か柔らかい感触があることに気がついた。
咄嗟にそちらに顔を向ける。
「サオリ…?」
自分の隣には先日知り合った錠前サオリが座り込んでいた。
どうやら座る体勢で眠っていたようだ。
サキ達も訓練で何度か経験した、作戦行動中に仮眠を取る時のものだ。
サオリはまだ若干開ききっていない瞳でこちらをじっと見据えていたが、すぐに血相を変えて声を張り上げた。
「サキ…!おい大丈夫か!?また悪い夢を見て目が覚めたんじゃ…!」
「心配しないで、もう朝だから。魘されたりもせずにずっと寝てたわよ。聞いていた話が嘘みたいにね。」
「そうか、よかった…。」
クルミの話を聞いたサオリは安心したように表情を綻ばせる。
そしてサキは自身の手が感じている感触の正体に気付いた。
サオリがずっと自分の手を握ってくれていたのだ。
「すまない、結局私まで寝てしまった。」
「いいのよ。貴女だって元から相当疲れてたんでしょう?顔色とか目つき見ればすぐに分かるわ。そんな人に徹夜させるのも気が引けるし、こっちは最近ずっと規則正しい生活してたおかげでコンディション最高だったから別にどうってことないわよ。」
「そうか。その…ありがとう。」
「そうそう!貴女はもっと人にお礼を言うことを心掛けていきなさい!」
サオリに向けて笑顔でそんなことを話すクルミ。
だが一方のサキはというとそんな状況に困惑を隠しきれなかった。
(なんだこの光景…私まだ夢見てるのか?)
サキの認識ではサオリとクルミに接点など全く無かった筈である。
ましてや片方は純然たる指名手配犯、片方は元とはいえSRT特殊学園のエリートだ。
こうも和やかに談笑している様子が全く想像できない。
そんな二人が並んでいる光景など現実のものである筈がないと勝手に思い始めていた。
「ちょっとサキ大丈夫?さっきからボーッとして。」
「いや、まだ私夢見てるのかなって…。」
「何言ってるの私達は現実よ…ってまあアンタはずっと寝てたんだから何があったか分からなくて当然か。」
一瞬ムッとした顔をしたクルミだったが、サキの置かれた状況を察したのか強張った表情を崩すとこれまでの経緯を話し始めた。
「アンタは昨日サオリ達アリウススクワッドとゲヘナ学園の風紀委員達にここまで送ってもらったのよ。病院で眠っちゃったこと覚えてる?」
「病院…。」
クルミの話を聞いて昨日のことを次第に思い出していく。
ミヤコ達と一緒に病院へ行ったこと。
医者からPTSDだと診断されたこと。
サオリやヒナ達に出会ったこと。
あの日に起こった真実を皆に打ち明けたこと。
そして…。
『私も先生が貴女のことを許さないとは思わない。だって貴女は、みんなを守りたい一心でゴジラを撃ったんでしょう?』
『サキ、例えこの世界の全てがお前を許さなかったとしても、私はお前を許す。お前は一人じゃない。私がさせない。絶対に。』
二人から掛けられたあの言葉。
誰からも許されない、いや許されてはいけないのだと考えていた。
自分の身勝手な行動が大切な人の命を奪い、その人を慕う者達を悲しみと絶望のドン底に突き落とした。
そんな奴の居場所など何処にもあるわけがないのだと、そう思っていた。
だがそれでも許されていいと言った人達がいた。
自らの意思で先生を傷付け殺害しようとした者、そしてそれを守りきれなかった者。
その二人が自分も許されて良い存在なのだと言ってくれた。
サキが眠ってしまう前に感じたのは、それが現実として存在していることに対する安心感だった。
「大丈夫か?」
サオリが心配そうにそう聞いてくる。
こちらの手を握る力が少し強くなるのをサキは感じていた。
どうやら自分でも気付かないうちに泣きそうな顔をしてしまっていたらしい。
「…大丈夫だ。ありがとう。でも先輩達もよく受け入れたな。サオリ達が指名手配犯なのは知ってただろうに。」
「当然、最初は凄く警戒したわよ。いくら前もってミヤコが連絡してくれてたとはいえそう簡単に信用できる相手じゃないもの。だけど一緒にいたゲヘナの風紀委員…あの凄い服着た人は行政官だったかしら?その人が何度もサオリ達を擁護してくれてね。流石にエデン条約調印式にいた当事者達にそうされちゃ無碍にもできないから受け入れたのよ。まあ結局、彼女達の言うことが正しかったわけね。サオリは本気でアンタのことを心配してたんだもの。それこそ一晩中そばに居させてくれって必死で頼み込んできたんだから。」
「その擁護も『ヒナ委員長のため』という理由付きだがな。」
しみじみとそう語る2人。
それを聞いて思わずサオリの方へ向き直ると、こちらをじっと見つめる彼女の瞳と目が合った。
「言っただろう。お前を一人にはしない、と。」
サオリの表情が綻び、まるでこちらを安心させようとしているかのような優しげな表情へと変わる。
それを見たサキは溢れ出る感情を抑えきれず彼女の胸に顔を埋めて小さく嗚咽を漏らし始めてしまう。
サオリは一瞬驚いたものの、すぐに相手の様子を察したのか彼女のことを抱きしめながら落ち着くまで頭を撫で続けていた。
落ち着きを取り戻したサキはクルミに対して気になっていたことを尋ねた。
「そういえばミヤコ達はどうしたんだ?外にでもいるのか?」
昨晩真実を伝えた、同じ小隊の3人。
全てを知った彼女達が今何を思っているのか、それが知りたかった。
例え最悪の結果になったとしても、覚悟はできているつもりだ。
「ああそのことなんだけれど、とりあえず外に出てみない?さっき連絡があったからもうすぐ3人とも帰ってくるはずよ。」
だがクルミは質問にそう返すと着いて来いとばかりにテントの外へと歩き出していく。
(帰ってくる?一体どこから?)
彼女に続いて2人もテントから出てみると、外は既に太陽が昇ってすっかり明るくなっていた。
そしてサキの視界に広がっていたのは、見慣れた制服を着た自分の先輩達と見慣れない服を着た生徒達が固まって一つのスマートフォンを食い入るように眺めている様子だった。
(これは…また夢みたいな光景だな。)
どうやら見慣れない服装の面々は昨日会ったアリウス分校の3人と、ゲヘナ学園の風紀委員会の1人であるメガネを掛けていた人物のようだった。
先程目覚めてから予想だにしない出来事が立て続けに起こっているが、この光景はとりわけ異様としか呼べない。
これが今や当然なのかと思いきや…。
「えっ、何この光景…。」
意気揚々とテントを出ていったクルミが困惑しきった様子でそんなことを呟いた。
どうやら彼女から見ても異様な光景だったらしい。
「ねえみんな何してるの?」
「ん?クルミ?…あっ!サキちゃん!おはよう。昨日はよく眠れた?」
「おはようニコ先輩。ああ。とってもよく眠れた。ところで、先輩達は集まって何してるんだ?」
「…たった今、連邦生徒会が緊急会見を始めてね。それを見てたんだ。」
「緊急会見?」
「そう。昨日から実施されてる怪物1号駆除作戦に関することでね。」
「何っ!?」
それを聞いた瞬間、サキは驚愕の声を上げる。
そしてすぐさま自分のスマートフォンを取り出し、動画配信サービスを起動する。
連邦生徒会の緊急会見生中継は現在最も閲覧数の多い動画として真っ先に表示されていた。
画面を凝視するサキの両脇からクルミとサオリも顔を近づけ、隣の群団と同じように集まって視聴を始める。
シャーレの先生を殺害した犯人に関する話題ということで注目度も高く、大手の報道陣は会場に大勢集まっているようである。
中継動画の視聴者数も既に数十万に達していた。
そして会見用の壇上に首席行政官のリンが上がるとガヤガヤと喚いていた人々は次第に静まり始め、会場は沈黙に包まれる。
それから程なくして彼女は口を開き始めた。
『只今より、先日存在が確認された巨大不明生物『怪物1号』に関する緊急会見を行います。昨日連邦生徒会内にて発足した非常対策委員会指揮の元、本日5時30分を持って巨大不明生物『怪物1号』の駆除が完了致しましたことを正式に発表致します。繰り返します。巨大不明生物『怪物1号』の駆除が完了致しましたことをここに正式に発表致します。』
彼女のその言葉が静まり返った会場に一際大きく響き渡る。
感嘆とも安堵とも取れるような空気がその場に広がっていく感覚を皆が肌で感じていた。
そんな群衆を横目にリンは会見を続ける。
『これより作戦の経過報告を公表致します。昨日20時33分、捜索作業を行っていたトリニティ総合学園所属フリゲート艦ランカスターが公海上にて怪物1号を発見しこれと交戦、攻撃を受けた目標は近海に位置していた無人島、ラゴス島へ上陸し、島内へ潜伏しました。』
すると会場の前方、リンが立っている場所のすぐ隣に設置されていた大型スクリーンに記録写真が映され始めた。
映し出されたのは無数の背鰭を備えた巨大な恐竜のような生物が船の甲板上で乗員達から銃撃を受けている写真だった。
「これがゴジラなのか?」
「…そうだ。間違いない。」
隣から動画を覗き込んでいたサオリの問いかけにサキが応える。
写真に写るその姿は彼女の記憶にある呉爾羅のものと完全に一致していた。
「なんか昔見た映画にこんな見た目の恐竜が出てきた記憶があるわ。衛星電話を飲み込んじゃったせいで着信音が鳴ると近づいて来てるのがわかるってやつ。」
一方でクルミは記憶の中にある生物で該当するものを当てはめているようだった。
『その後怪物1号はレーダー等の索敵機器に感知されない特殊な表皮を備えていることが判明したため、非常対策委員会では緊急の捜索部隊を編成し上陸作戦を実行、島内を索敵し目標を発見した後、事前より編成していた討伐部隊を中心とした歩兵部隊よる直接攻撃を行いました。』
その言葉と共に写真が切り替わる。
次に映されたのは捜索隊が記録用に撮ったと思わしき、ヒナやツルギといったキヴォトス内でも名の知れた強者達と呉爾羅が交戦している様子が映された写真だった。
それらの中には呉爾羅が自分の周囲を飛び回る彼女らを大口を開けて追撃している瞬間を捉えたようなものまである。
そんな交戦中の写真が次々と切り替わりながら表示されていく。
何れも呉爾羅を中心に撮られたものばかりだったが、その中の1枚にとある人物達が映っているのをサキは見逃さなかった。
(ミヤコ、ミユ…)
あの2人が呉爾羅と対峙している姿が映っている。
それを見たサキはここにいない3人がどこに行っていたのかを理解した。
ここには映っていないがモエもきっとこの場にいたのだろう。
それに続いて映された写真には森の中に横たわる傷だらけの呉爾羅をミヤコ達を含めた大勢の生徒達が包囲している様子が写されていた。
(は…?)
あの恐ろしい呉爾羅が見る影もないほどに痛めつけられ、地面に倒れ伏している。
その光景が映された瞬間、会見を行っていた会場内は僅かな歓声を含んだどよめきに包まれ、コメント欄は作戦に参加していた者達を称賛する内容のもので埋め尽くされる。
シャーレの先生を殺害した犯人を倒した瞬間がまさにこれなのだと誰もが思い、それに歓喜していた。
ただ一人を除いて。
「なんだよ…やっぱりワカモの言ってた通りじゃないか…。」
サキはスマートフォンを力なく取り落とすとその場に崩れ落ちる。
同時にどこからかヘリコプターの飛行音が聞こえてきた。
その音は次第に大きくなってきており、こちらに近づいていることが推測できた。
程なくしてサキにとって見覚えのある青い機体が彼女の視界に映った。
「お疲れ様でした。委員長。」
「チナツもお疲れ様。ごめんなさい。貴女だけにここを任せることになってしまって。まさか万魔殿が私以外の風紀委員にまで急に招集を出すなんて…まったく。」
「緊急事態でしたから仕方ありませんよ。それに私もサオリさん達のことをより一層知ることができましたから。正直、調印式の時に見たのと別人ではないかと思ってしまうほとでしたけど。」
着陸したヘリコプターから降りてきたヒナに労いの言葉を掛けるチナツ。
病院での一件以降、ヒナの指示で彼女はアリウススクワッドの監視役とトラブルが発生した際の交渉役として子ウサギ公園に残っていた。
今回の行動は外部に知られれば風紀委員会がどのようなバッシングを浴びるか分からないような危険なものであったのだが、結果として悪い出来事は発生することなく無事に朝を迎えることができていたのだった。
むしろサオリが見せたサキへの献身的な態度はチナツがずっと持っていたテロリストとしての彼女達のイメージを大きく覆すものであり、ゆっくりとではあるものの交友関係を築き始めるところにまで至っていた。
チナツがアリウス分校に抱くイメージは確実に変化していたのである。
「ところで空井サキの姿が見えないのだけど、どこにいるのかしら?」
「それが…」
「報告します。RABBIT1、RABBIT3、RABBIT4、
「FOX2、RABBIT1からの報告を受領しました。みんな、お疲れ様。」
ミヤコが報告を行い、それを受けたニコが応答する。
実際のところ、今の両者に報告を要するような上下関係は存在していない。
いくら元が同じ学園の生徒同士であっても現在のFOX小隊にとってRABBIT小隊は友軍ではなく保護対象であり、指揮系統は完全に隔絶している別部隊扱いなのだ。
それでもこうして形式上だけの報告作業を行っているのはひとえに彼女達がこれまで送ってきた学園生活の中で身に付けた生真面目さによるものである。
「先輩方も、ありがとうございました。急に来訪者の対応までお願いしてしまって。」
「大丈夫大丈夫、気にしないで。ゲヘナのチナツちゃんも、それにサオリ達もみんな良い子達だったから。」
「ミヤコさんや風紀委員長が私達を信じてくれたんだもの。裏切る訳にはいかない。」
「アツコさん…。」
「良い子って、何もしないで大人しくしてただけでしょ…。話くらいはしたけど。」
2人の話を聞いていたアツコが会話に参加してくる。
一方でその隣にいた戒野ミサキは何もしていない自分達がやたら褒められていることが腑に落ちない様子だった。
だがミヤコは自分達のそばにやってきたアリウススクワッドの面々を見てある違和感を覚えた。
「あの、サオリさんはどちらに?」
「サッちゃんは…あそこに。」
そう言って指差す先にはRABBIT小隊が普段寝泊まりに使用しているテントがあった。
そして間髪を入れずにこう続けた。
「今はあの中でサキさんと一緒にいるよ。」
その言葉を聞いたRABBIT小隊の面々に緊張が走った。
昨晩病院でこれまで抱えていた様々な感情を爆発させたサキはサオリに抱き締められたまま眠ってしまい、そのままミヤコ達は駆除作戦に出動することとなった。
そのためあの後サキがこちらをどう思っているのか彼女達は知る術が無かったのである。
確かにミヤコ達は友人を苦しめる呉爾羅を倒すために作戦に参加した。
だがそれはサキから頼まれたものではなく自発的に行った、言うなれば独り善がりな行動とも取れるものなのだ。
故に呉爾羅を倒したんだと彼女に伝えても、果たしてそれでサキが自分達に再び心を開いてくれるのか分からなかった。
それどころか全てが終わった今、彼女にどのような声を掛ければいいのかを考える余裕すらなかったのだ。
故にミヤコ達はほんの数メートル先にいるであろう、今一番会いたい友人の所へ行くための最初の一歩を踏み出すことができなかった。
「あの、サキはあれからどうしていましたか?」
「…さっきまで私達と一緒に連邦生徒会の緊急会見を見てたんだけど、ヘリコプターが見えた途端公園の外へ逃げ出そうとしたんだ。だけど逃げ道が無いって気付いたら今度はテントに走って行って…サオリはそれを追いかけてあの中に。」
「…そうですか。」
ミヤコからの質問に戒野ミサキが渋々といった様子で答える。
ミサキ自身、今このことを教えるのはかなり憚られたのだが、隠しておいても相手の為にならないと思い正直に教えることにしたのである。
そしてそれを聞かされた3人は彼女の予想通り一気に表情を曇らせてしまった。
自分達が近づいた途端に友人が身を隠したと言われればこうなってしまうのも致し方ないことだろう。
故にミヤコはこんなことも考えるようになってしまった。
(もしかしたら、今はまだサキに会うべきではないのかもしれない…。)
今のサキが自分達から距離を取ろうとしているのは明らかだ。
それなら、相手が落ち着くまで少し時間を開けるほうが良いのかもしれないと、そう思い始めていた。
だがそんな彼女の肩に手を置く人物がいた。
ミヤコが振り返ると、その人物がこちらの顔を見上げながらこう話しかけてくる。
「行きましょう。」
「風紀委員長…。」
「ここで待っていても事態は好転しないわ。今は少しでも彼女と話をするべきよ。彼女が何を考えているのか、本当にこちらを拒絶しているのか。本人の口から聞かないと私達にはわからないわ。少なくとも、今の私達は
ヒナが先頭に立ちながら後ろの3人に語りかける。
その言葉はどこか諦めの感情を持ち始めていたミヤコの気持ちを再起させるのに十分なものだった。
昨晩の件で、サキは周囲との関係が明確に断裂してしまったと、そう思ってしまっている。
それならば、これからは新しい関係を彼女と築き直すためにこちらが歩み寄らなければならない。
自分達が彼女のことを今でも大切な仲間で、友人だと思っていることは何も変わっていないのだから。
ここで距離を取るような行動はむしろ逆効果だ。それこそ、彼女を本当の孤独に陥れることになりかねない。
傍観だけでは状況が好転しないというのは既に身を持って知っている。
「行きましょう。」
自分に言い聞かせるかのように一言そう告げる。
その呼び掛けにモエとミユも「うん。」と応じた。
揃ってテントの入り口にまで移動すると、意を決してミヤコは声を掛けた。
「サキ。只今戻りました。」
呼び掛けに返事は無い。
テントの中からはサオリのものらしき話し声だけが微かに聞こえた。
「入りますよ。」
隣に立つヒナに目配せをするとミヤコはそのままテントの入り口を捲った。
走り出したサキを追いかけてテントに飛び込んだサオリが目にしたのは部屋の隅で蹲って嗚咽を漏らす彼女の姿だった。
「やっぱり…」
「ん?」
「やっぱり思った通りだ。あの時先生と一緒にいたのが私じゃなかったらきっとあんなことにはならなかったんだ。もし一緒にいたのがワカモだったら、風紀委員長だったら…ミヤコだったら呉爾羅をちゃんと倒して、先生も死なずに済んだんだ…。私なんかがあの場にいたせいで…。」
それを聞いてサオリはようやく気がつく。
呉爾羅を生徒達が倒せてしまったことはサキにしてみれば他の皆ができたことが自分にはできなかったという事実を突き付けられたことに他ならない。
その失敗がどうしようもなく取り返しのつかないものであったことが彼女の後悔をより決定的なものにしてしまっていた。
(どうする?こんな時、一体どうすればいいんだ!?)
誰かを励ますということも、元気づけるということも、サオリはどのようにすればいいのか全く知らない。
これまで他者にしてきたことといえば、暴力と指揮系統を傘に『「生きろ」という命令に従わせる』ことと、生き残る為の戦闘訓練を施すことばかりだった。
昨日あれだけの大見得を切っていながら、『サキを助けたい』という感情に突き動かされるままに行動していた彼女にはそれ以降の具体的な計画が全く無かった。
というよりそれらを考えることができるような人生を送ってこれなかったのである。
(何か…何かないのか!!アイツに一体どんな言葉を掛ければいい!?)
どれだけ頭を捻っても、他人より知識の劣る自分では何も考えが浮かばない。
自身に学が無いことを呪ったことはこれまで何度もあったが、今はそれを一番強烈に感じていた。
だがそんな時、自分の右手付近から何かの音声が鳴り続けていることにサオリは気付いた。
『今回発生したシャーレの先生の殉職、非常対策委員会指揮下で行われた駆除作戦における環境被害の発生等を受け、七神リン首席行政官はその役職を解任、同時に連邦生徒会からの退任が決定されました。』
彼女が握っていたのはサキが動画の再生に使っていたスマートフォン。
逃げ出す直前に落としていったものを咄嗟に拾い上げていたのだ。
その画面からは先程まで見ていた会見が引き続き中継され続けていた。
(待て、そもそも非常対策委員会は本当に普通の銃撃だけでゴジラを倒したのか?もしかしたら…)
今映っている連邦生徒会役員が話す内容はさっぱり分からなかったが、サオリは藁にも縋る思いで中継映像を遡り始めた。
3人で見ていたのは会見の最初のほうだけ。
あの後に語られたであろう部分に何かヒントがないかと目をつけたのである。
(これは…!)
そして、それはすぐに見つかった。
「サキ、会見の続きを見てみろ。これを見てもまだお前は他人だったら絶対失敗を犯さなかったと思うのか?」
そう言いながらサオリはサキの隣に腰を下ろす。
そして目を伏せる彼女の耳に聞こえるように会見の続きを再生し始めた。
『怪物1号はレーダー等の索敵機器に感知されない特殊な表皮を備えていることが判明したため、非常対策委員会では緊急の捜索部隊を編成し上陸作戦を実行、島内を索敵し目標を発見した後、事前より編成していた討伐部隊を中心とした歩兵部隊よる直接攻撃を行いました。』
『しかし、その集中攻撃を持ってしても目標を絶命させるには至りませんでした。そこでミレニアムサイエンススクール所属の明星ヒマリさんより提供された新型兵器の使用を実行、ラゴス島の4分の1の消失と共に怪物1号の消滅を本日5時30分に確認致しました。』
「…え?」
その声を聞いてサキは慌ててスマートフォンに視線を向ける。
するとそこに映されていた写真は先程までのような島内を映していたものではなく、海上から島を撮影したもののようだった。
それには遥か天空まで届きそうな大きさのきのこ雲が朝焼けを迎えた空に立ち昇っている様子が撮られていた。
会場からもどよめきの声が上がっている。
これまではただ謎の生物ということしか分からなかった相手の正体がキヴォトス最高戦力達の総攻撃を耐えきる程の驚異的な防御力を備えた存在だったと判明したこと、そしてそれほどの相手を駆除できるような兵器を当たり前のように準備して使用していたこと。
特に新型兵器とやらは超大型のきのこ雲が発生しているところから推察するに、巨大な爆発を伴う兵器であることが推察できた。
『この新型兵器による攻撃によってラゴス島及びその周辺海域にて放射線濃度の急激な上昇が現在確認されております。以降指定された区域より半径20キロメートルの範囲を危険水域と定め、船舶の航行、その他無許可での立ち入りを全面禁止と致します。この制限の解除期限は現在未定となっております。』
「わかったか?ゴジラはお前が考えているよりも遥かに恐ろしい、強力な生物だったんだ。それこそこんな兵器の投入を連邦生徒会に決断させるほどにな。それでもお前は他の奴らなら絶対に失敗を犯さなかったと思うのか?」
サオリは画面に釘付けになったままのサキに静かに訊ねる。
だが彼女はそれに答えることもせず、じっと食い入るように会見の続きを見続けた。
『す、すみません首席行政官!質問をさせていただいてよろしいでしょうか!?』
『…手短にお願い致します。』
『ありがとうございます!私はクロノススクール報道部の風巻マイと申します!それでは本題なのですが、その放射線濃度の急上昇はミレニアムサイエンススクールの開発した新兵器と直接的な関係はあるのでしょうか!?判明していればお答えください!』
『それに関して現状では明確な回答を行える分析結果がこちらにもたらされておりません。その件に関しましては判明次第発表させていただきます。』
『かしこまりました!ありがとうございます!あの、続いての質問なのですが、本作戦において既にラゴス島及びその周辺の環境に多大な影響が齎されたものと思われますが、それに関する責任の所在は一体どうなるのでしょうか?お答えください!』
『本件に関する一切の責任の所在は全て非常対策委員会、そしてその最高司令官であった私にあります。以降発生しうる対応、補償に関する事柄は全て非常対策委員会、ひいては連邦生徒会を中心に行うことと致します。』
『か、かしこまりました。では続いての質問ですが…』
『おい!いつまで一人で質問を続けるつもりだ!?』
『いい加減こちらにも時間を譲れ!!』
延々と質問を続けるマイに痺れを切らした他の報道関係者達がギャアギャアと騒ぎ始める。
なのだが、そもそも今は本来の質疑応答の時間ではなく…。
『皆さん、纏まった質疑応答の時間はこの後ご用意しております。質問がございましたらそちらで行っていただきますようお願い致します。』
リンが冷たい声でそう告げるものの、一度噴き上がった会場の熱気は全く留まるところを知らず次々と質問が投げかけられる。
いつもと同じように報道の自由という名目の下、自分勝手な行動ばかりするキヴォトスの報道関係者達に連邦生徒会の委員達も辟易している様子を隠しきれていない。
仕方なく本来の会見の予定を急遽変更し質疑応答の時間へと移行していった。
リンの淡々とした声が流れていた会見は、記者達の煩い質問が飛び交う混沌としたものへと変化してしまった。
そこでようやくサキの意識がスマートフォンから逸れる。
「呉爾羅を倒すためにこんなものを…?」
「そうだ。あの風紀委員長でも、正義実現委員長でも倒せないような生物がゴジラだったんだ。」
「じゃあ、やっぱり最初から先生の言う通りにしておけば良かったんじゃないか!私が攻撃をしたせいで…!」
「そうだ。お前は最初から勝ち目の無い戦いを仕掛けてしまった。だがその選択は特別でも何でもない、誰もが選びうるようなものだった。違うか?」
「…何を言ってるんだ?」
「考えてみろ。仮に他の誰かが、あの日お前の代わりに大戸島でゴジラに遭遇したとして、攻撃をせずに見逃すような奴がどれだけいると思う?現にキヴォトスにいる人間のほとんどがゴジラを倒そうと躍起になるばかりで『そもそも倒せるような相手じゃない』と考えていた奴なんて全くいなかったんだぞ。」
サオリは自分の頭の中に浮かんだ考えを必死に紡ぎ出す。
彼女自身、自分の口からこんな言葉が次々と飛び出してくることに内心驚愕し続けていた。
「もしあの日、あの場にお前ではなく私だったとしても、間違いなくお前と同じことをする。断言していい。ただの巨大生物ならばきっと駆逐できるだろうと考えてな。私だけじゃない、誰もがそうしていたはずだ。」
「そう、きっと皆がそうしていた筈よ。」
サオリの熱弁に割り込む新たな声。
2人揃って驚きながら声のした方を振り向くと、そこには昨晩駆除作戦へと向かっていった4人がテントの入り口からこちらをじっと眺めていた。
どうやら集中しすぎて皆が帰ってきていたのに気付かなかったようだ。
そして声の主であるヒナはそのまま周囲に言い聞かせるように言葉を続ける。
「聞いて、空井サキ。貴女の言うゴジラは私達キヴォトスの生徒が単独で戦うには余りにも危険な、常軌を逸した存在だったのよ。私の放った銃弾が全て命中したのに、あの生物は死ななかった。当然、貴女も私の放つ銃弾の威力がどれくらいのものかは知っているわよね?」
「
「そう。私だけじゃないわ。トリニティ総合学園の剣先ツルギ、ミレニアムサイエンススクールの美甘ネル、アビドス高等学校の小鳥遊ホシノ。私達と同行していたメンバー全員での攻撃でも、表皮に傷を負わせるだけで致命傷を与えることはできなかった。唯一効果があったのは、銃弾よりも遥かに巨大な質量をぶつけて内側を攻撃する方法だけ。これを仕掛けるために私達は陽動部隊と攻撃部隊に別れて戦うしかなかった。そしてその戦法を取っても尚決定打に欠けていて消耗戦の状態になってしまったわ。」
「それじゃあ、呉爾羅が地面に倒れ伏したあの写真は何だったんだ?倒せなかったのなら、どうやってあれを撮ったんだ?」
「あの状態にできたのは島中に散っていた捜索隊が集結して総攻撃を仕掛けたからよ。要は数の暴力のおかげ。それにその頃には効果的な対処法も確立していて、それをスケールアップするだけで実戦運用ができたから。でも…結局それだけでは殺すことができなかったのよ。」
「そんな…」
「私達は、一度は相手を地面に倒れ伏させることには成功した。だけど、ほんの数分後にゴジラは再び立ち上がって反撃を仕掛けてきた。その事態を受けて、非常対策委員会は攻撃方法をより強力なものへと引き上げることにしたのよ。」
「それが、あの爆発?」
「その通り。TNT換算で16キロトンの強大な火力、そして周囲に散布された高濃度の放射性物質。それらによってあらゆる生物を殺傷する新兵器。私はそう聞いているわ。」
「は?なんだよそのSF映画の超兵器みたいな馬鹿げた代物は。」
「たしかに頭のネジが何本も外れているとしか言えないような異常な兵器よ。だけど、あの爆煙を見ればそれが真っ赤な嘘だとはとても思えないでしょう?」
「…。」
「開発者の明星ヒマリは、これを『放射熱線』と呼んでいたわ。」
「放射、熱線…。」
「今回ゴジラを倒せたのは、大量の兵力を揃えたうえで、強力な装備、兵器を準備していたからよ。私達個人の戦力差なんて全く結果に寄与しなかった。信じられないことにね。」
そう言われてサキはスマートフォンの画面に映るきのこ雲の写真に目を落とす。
あの風紀委員長がこの件でデタラメを言うとも思えない。
そんな衝撃的な結果を齎した存在こそが、彼女が知らなかった呉爾羅の正体だった。
「けれど、アレがそれほどに強力な生物だと最初から分かっていた者は1人もいなかった。皆がゴジラを倒してやると息巻いて、相手の実力をどこか楽観視していた。だから錠前サオリが言っていたように、もしあの日、あの場所で貴女の代わりに他の誰かが先生と一緒にいたとしても、皆が貴女と同じような行動をして、同じような結果に至っていた筈よ。」
サキが置かれた当時の状況と、呉爾羅の真の戦闘能力、そしてキヴォトスでは誰もが持っていた通常の生物に対する普遍的な考え。
それらを把握したうえでヒナは自分なりの結論を彼女に伝えた。
「じゃあ、私はただ運が悪かっただけだと、そう言いたいのか?」
「…辛い言い方をすれば、そうなってしまうわね。」
「なら、私はこの先どうすればいいんだよ…。どれだけの『もしも』で塗り固めても、私が失敗したせいで先生が死んで、みんなが悲しんでる事実は何も変わらないじゃないか…。」
「そう。確かに事実は変わらない。けれど…」
「少なくとも、貴女の周りは間違いなく変わっているわ。」
「…周り?」
「ええ。よく見て。貴女がいる場所は今もまだ真っ暗闇で、自分一人しかいない孤独な場所かしら?」
そう言われてサキは周囲に視線を配る。
彼女の目に映ったのは…。
「サキ。」
「ミヤコ…。」
これまで何度も苦楽を共にしてきたRABBIT小隊の3人。
ミヤコはサキの名前を呼ぶと、荷物の中からある物体を取り出した。
「これは私が回収したゴジラの背鰭の一部です。」
そう言われてサキは一瞬ギョッとした表情を浮かべると彼女の手に握られた黒い背鰭の破片を凝視する。
あの日遭遇した呉爾羅が一部だけとはいえ目の前に存在していることがにわかには信じられなかった。
「私達も風紀委員長達と共にゴジラと戦いました。彼女の言う通り、アレはただの巨大生物と呼ぶには余りにも強力無比な存在でした。我々の想像より遥かに。」
ミヤコはそう話を続ける。
彼女がこの破片を回収していたのは自分達が実際に呉爾羅と対面していたということをサキに証明するためだった。
「それに、私は貴女に謝らなければならないことがあります。」
「…何だ?」
「実は、私も風紀委員長の言っていた、ゴジラの能力を楽観視していた人間の1人でした。最初は貴女を苦しめている元凶に直接手を下してやると息巻いていたんです。けれど、結局私達の実力では火力面で全く役に立たず、陽動役に徹するしかありませんでした。あの放射熱線を使うべきだと主張したうちの1人は私なんです。」
悲痛な表情を浮かべながらそう話を続けるミヤコ。
それにサキはただ黙って耳を傾けていた。
「だから思ったんです。もし自分がサキと同じ状況に置かれたらどうなっていただろうか、と。」
「…。」
「そうなった時、私は自分がアレに対して正しい選択を取れていたとは思えません。きっと貴女と同じようにその場で殺害を試みます。それはSRTの教え云々の話だけではなく、もっと根本的な人間の防衛本能に基づくものです。まして自分達の手には通常の生物をいとも簡単に殺害できる道具があるのだから当然です。だから…」
そう言いながらミヤコはサキにゆっくりと歩み寄る。
そして座り込んでいた彼女と目線を合わせるようにかがみ込むと、こう告げた。
「貴女が背負っているものを私に、いえ、私達に少しだけでも分けてもらえませんか?」
「私の…背負っているもの?」
彼女の発言の真意が分からず、サキは思わずそう聞き返してしまう。
ミヤコはそのまま話を続ける。
「私達はサオリさんや風紀委員長のように、貴女と同じ立場に立つことは…軽々しく今の貴女の気持ちが分かるなんてことはとても言えません。ですがあの日、貴女が何故ゴジラを攻撃したのか、それは痛いほど分かります。」
「…。」
「だから…改めて私達を貴女の味方として側に居させてください。私達はこれからの人生も、サキと一緒に生きていきたいんです。」
ミヤコの言葉にモエとミユも力強く頷いて応える。
既に3人の考えは一つに纏まっていた。
だがサキはそれを受け入れることを戸惑った。
「なんで皆そこまでするんだ…。私が何をしたかは分かってるだろう!?自分から危険を呼び込んで、先生を死なせて、それを隠してお前達の善意につけ込んで平気な顔をしていたのが私だ!!そんな奴をどうして…!」
怒号が轟く。
だがそれに対してモエが呆れたような態度でこう答えた。
「どうしてって、そんなの決まってるじゃん。その『そんな奴』ってのが私達の知ってるサキと何も変わらないからだよ。超生真面目で、頭でっかちで、融通が利かなくて、そして誰よりも正義感が強いRABBIT小隊のポイントマン、空井サキからね。」
そう言われてサキは涙を溜め込んだ瞳を大きく見開く。
「自分が平気な顔をしてたって?馬鹿言わないでよ。口では平気だ平気だなんて言いながら、あんな今にも死にそうな顔してた人が平気そうに見える訳ないじゃん。サキが罪の意識に苦しんでるのなんてみんなすぐにわかった。ていうか1回本当に死のうとしてたし。私達はサキが苦しんでる本当の理由が一体何なのか、それがずっとわからなかっただけ。だけど昨日、ようやくそれを知ることができた。全部を知ったうえで私達はサキの味方で居たいんだよ。」
「だが!…そうだ、私の味方でいたら皆まで世間からバッシングを受けるぞ?全員がサオリや風紀委員長みたいに私のしたことを許してる訳じゃないんだ。そんな目に遭いたくはないだろう?それに学園の復活はどうするんだ?私なんかが一緒にいたら邪魔になるだけじゃないか?」
「はぁ。じゃあさ、サキはもし私達の誰かがあの日自分の代わりに先生と一緒にいて、同じようになっていたらどうしてた?その世間の連中みたいに見限って糾弾してた?ミヤコが悪いんだ、ミユが悪いんだって非難してた?サキはRABBIT小隊よりも学園を復活させる方が大事?」
「っ!!そんなわけないだろう!!みんな大切な仲間なん、だ…ぞ…。」
その時漆黒の靄に包まれていたサキの思考が一気に晴れていき、次第に鮮明なものに変わっていく。
「…わかった?私達の気持ちが。」
フンと鼻を鳴らしながらそう呟くモエの顔が見える。
「サキちゃん。私、サキちゃんは凄く勇気のある人だと思ってるよ。きっと私だったら、本当のことを言うのが怖くて誰にも言い出せなかったと思う。自分がした失敗をみんなに明かして、それに向き合うってことは、誰にでもできることじゃ…ないよ。」
モエの横から姿を出したミユが少したどたどしげにそう言っているのが見える。
「サキ。改めて言わせてもらいます。全てを知った今でも、私達は貴女のことを何よりも大切な仲間で、友人だと思っています。今の私達にとって、貴女以上に大切なものなんてありません。だから…この先の未来も、どうか貴女と一緒に歩ませて貰えませんか?」
堂々とした表情でそんなことを言うミヤコには思わず面食らってしまう。
自分は先生が命を落とす原因を作った張本人である。
そして皆はそれぞれ先生に好意的な感情を持っていたはずだ。
普通の考えならば恩人の仇とも呼べるような人間と同じ道を歩みたいと言いだすなど狂っているとしか言えないだろう。
だが今なら彼女達が考えていることがハッキリと理解できた。
すると、不意に横から伸びてきた腕に体を包み込まれ、そのままぎゅっと抱き締められた。
その腕の中は昨日病院で眠ってしまった時と同じ安心感を感じるものだった。
「わかるか、サキ。この光景は夢じゃない、現実なんだ。お前は1人じゃない。ミヤコや私、皆がサキの味方だ。だから…生きることを諦めるんじゃない。」
サオリは自身の腕の中にいるサキに向かってそう語りかけた。
昨日と同じように、自分の心臓の鼓動を聴かせながら。
(これが…現実?こんなに幸せなことが?)
「どうかしら?今の貴女の目には何が見えた?」
ヒナが改めてそう尋ねてくる。
だがそれは最早確認するまでもないだろうと言わんばかりの達観した態度だった。
「あとは貴女の心持ち次第よ。貴女はこれから、一体どうしたい?」
(私の…)
サキの心が大きく揺れ動かされる。
誰からも非難される筈のことをした私がこんなにも幸せであって良いのだろうかと。
「私は…」
自分がこの先元通りの生活を、日常を送れるとは決して思わない。
先日のワカモやカズサのように敵意を顕にする者が居なくなることはないだろう。
今回引き起こされてしまった悲劇は余りにも多くの人間に影響を与えすぎた。
それに、きっとまだPTSDも治ってはいない。
大好きだった先生も今となっては自分の罪の象徴として恐怖すら覚える存在になってしまっていた。
だが、それでも。
「私…」
こんな私のことを許してくれる人がいるのならば。
こんな私を受け入れてくれる人がいるのならば。
「私…もう一度先生と会って、謝って…しっかりお別れを言いたい…。」
本当はずっと言いたかった、けれど言えなかったあの言葉が、今なら言える。
みんなを信じているから。
「私は…もう一度生きてみたい…。」
「だから…助けてくれ…みんな。」
やっと、言えた。
「はい…!勿論です!!」
「やっと言ってくれたね。その言葉。」
「うん…これからもずっと一緒だよ!サキちゃん!」
「私にできることならば、何だってする。必ずな。」
「皆最初からそのつもりよ。だから安心して。
ミヤコが、モエが、ミユが、サオリが、ヒナが、助けを求める言葉に応える。
サキの心から暗闇が消え去り、その後には今まで感じたことの無いような温かさが一杯に満ちていった。
それが何なのか理解した瞬間、彼女の感情のダムは決壊した。
ずっと溜め込んでいた涙が両目から一気に溢れだす。
それは嘆きの涙などではなく、安堵の涙だった。
幼子のようにわんわんと泣くサキのことを皆が抱きしめ、頭を撫でる。
そして今与えられる精一杯の温もりで、彼女のことを優しく包みこんでいった。
止まりかけていたサキの人生の時計は、再び動き出したのだった。
ゴジラが出ない部分の方が作るの遅いんですの…。
今回16000字超えの高密度になったせいで文面がおかしいとか誤字が結構あるかもしれないです。