お待たせしました。26話です。
皆さん沢山のコメント、評価をくださりありがとうございます。
今後も2週間に1話くらいのペースで更新を続けていきたいと思ってます。
どうかお付き合いいただければ嬉しいです。
それでは本編をどうぞ。
「それじゃあ、貴女達も先生に会いに行くのね?」
「はい。サキも行きたいと言っていましたし、私達も先生とのお別れはしっかりしておきたいですから。」
ヒナからの質問にミヤコは短くそう答える。
サキを連れてテントから外へ出た一同はそのまま集まっていたニコ達と合流していた。
ニコ達も怯えながらテントへ走って行ったサキが元気を取り戻した様子で戻ってきたのを見てホッとしたようで、今は揃って彼女に労いの言葉をかけたり頭を撫でたりしている。
サキの方ももみくちゃにされながらも迷惑をかけたことに対する謝罪や何度も守ってくれたことへの感謝をしきりに伝えていた。
そんな和やかな空気になった彼女らに切り出す話題としては少し気分の乗らないものではあったのだが、話を切り出すなら今しかないとミヤコは腹を括った。
「皆さん、今から先生との面会申請を行います。いいですね?」
皆に聞こえるように彼女は声を張る。
特に今一番気に掛けている相手を一直線に見つめながら。
「…サキ、行けそうか?」
サオリが心配そうに声を掛ける。
今の彼女達は、全てにおいてサキを中心に動いていると言っても過言ではない。
確かに彼女は先生に会いに行きたいと言っていたが、流石に先程のやりとりだけで元から持っていた恐怖を全て払拭できたと考えるのは早計としか言えない。
もしサキが行くことを拒否すれば、ミヤコ達も先生の元へは行かないだろう。
「大丈夫だよ。私達も一緒に行くから。」
「うん。」
モエとミユも安心させるように声を掛ける。
皆の注目がサキに集まる中、幾分か不安そうな表情をした彼女は少し間を置いた後、口を開いた。
「…サオリ達も来てくれるよな?」
何か懇願するような表情をサオリに向けながらそう呟く。
その姿は、まるで幼い少女が姉や母親に助けを求めているかのようだった。
「当然だ。」
サオリは迷いなくその頼みに応える。
彼女の返事を聞いたサキはホッとした表情を浮かべた。
「私も行くわ。私が一緒にいたほうがサオリ達が動きやすいでしょうし。」
「ありがとう、助かる。」
ヒナからの提案にサオリは礼を送る。
今の2人に、嘗てあった敵同士という認識はすっかり無くなっていた。
「であれば、時間を調節して心療科の受診もしておきましょう。サキの治療の為に準備をしてくれている筈ですし、病院側にも今の状況を知らせておきたいですから。」
そう言いながらミヤコはスマートフォンとにらめっこを始める。
そのまま暫く固まった後、再び口を開いた。
「すみません、やはり心療科が混んでいるようで、受診の時間を考えると行けるのは昨日と同じくらいの時間なりそうです。いいですか?」
「ああ。ミヤコに任せる。」
そう返事をするサキの表情が一瞬だけ歪んだのを仲間達は見逃さなかった。
「ちょっとサキ、また何か申し訳なく思ってるんじゃない?私のせいで迷惑がかかったーとか。」
「いやそんなの…悪い、少し思った。」
「もうそういうの気にするの一旦やめ!!私達は迷惑とかそういうの一切思ってないからさ!!」
「う…わ、わかったよ。」
俯きそうになったサキの肩に抱き着きながらモエが説教する。
彼女の言っていることは皆が思っていることの総意でしかなく、今はサキのことが最優先で迷惑だなどとは全員一切思っていない。
ここで一度それをはっきりと伝えておきたかったのだ。
「よし!じゃあこの話はここまで!ねえミヤコ、今から朝ご飯にしない?一晩中働きっぱなしでお腹減ったよ!」
「そういえば昨日から何も食べていませんでしたね。ですが…。」
「ん?どしたの?」
「朝食にするのはいいのですが、普段私達が食べているものはあまり他人に見せられたものではないというか…。」
「あー…。」
ミヤコが言わんとすることを察したモエはそのまま言葉に詰まってしまう。
考えてみれば普段は身内しかいないので気にしていなかったが、初めての客人が大勢いる中で振る舞うには余りにも御粗末な食料しか今のRABBIT小隊は所有していない。
かと言ってこの状況で自分達だけが食事を摂るのもそれはそれで失礼だ。
「何だ?お前達も食料の確保には普段から苦労してるのか…?」
「いや、幸い今はそうじゃないんだけど…。え?お前達”も”ってどういうこと?」
「まさか、この前貰った弁当も本当は相当貴重なものだったんじゃないのか!?もしそうだったなら私はなんてことを…。」
「いやいや!それは気にしなくていいから!本当に!!」
「では何をそんなに気にしているんだ?」
「だって…。」
「今この場で客人相手にコンビニの廃棄弁当なんて出すのは失礼だと思わない?」
モエが気まずそうにそう答える。
だがアリウススクワッドの槌永ヒヨリがそれに対して大声で異を唱えた。
「そんな!!あんな豪勢なものを出すことが失礼だなんて全く思いませんよ!!」
「はい?」
「普段の私達からすればコンビニのお弁当なんて中々手の届かない高級品ですよ!?この前貰ったものも凄く美味しかったんですから!」
「えっと…ヒヨリさん達って普段一体どんな生活をしてるんですか?」
「え?普段でしたら廃墟を転々として寝床を確保したり、飲んでも大丈夫そうな水を探したり…。あっ、暖を取るために大事にしていた本を燃料として燃やしたことも何度かありました。」
「嘘でしょう…?」
「本当です…。でも、仕方ないですよ。私達はそれだけの罰を与えられて当然なことをしたんですから…。」
ヒヨリの話を聞いてミヤコ達は絶句してしまう。
自分達の生活様式も傍から見れば相当下層に位置するものだと思っていたが、目の前にいる相手はそれより遥かに下だ。
自虐的な笑みを浮かべながら身の上を語るヒヨリの姿が痛々しく見えて仕方がなかった。
「おいミヤコ!今すぐ朝飯だ!高そうな弁当全部出せ!!」
「わかりました!さあヒヨリさん達も一緒に来てください!」
「い、いいんですか!?」
「当たり前です!どうぞ好きなものを食べてください!」
「う…うわぁん!!ありがとうございますー!!」
サキが大声を張り上げたのを合図にRABBIT小隊は大急ぎで朝食の準備を始めた。
先程までとは打って変わってサオリやヒヨリ達の背中を押して自分達の使っているスペースに引き込もうとまでしている。
まるで小さなお祭りでも始まったかのような喧騒が公園内に響き渡っていた。
その光景は彼女らを心配していたニコ達を安心させるのに十分なものだった。
「ミユちゃん、私達は自分達用の食料があるからここで少しお暇させてもらうね。」
「え?あ、はい。わかりました。」
「それじゃあ、みんなごゆっくり。」
そう言い残すと4人は立ち去っていく。
しかしその動きは異常に素早く、まるで作戦行動を取っている最中のようであった。
だがミユがそのことに気付いた時には、もう既に先輩達の姿はどこにも無かった。
「あの、風紀委員会のお二人は…。」
ニコ達と同じようにことの流れを見守っていたゲヘナ学園の2人にもミヤコから話が振られる。
だが振り向いた先にいたヒナの視線はこちらには向いておらず、何やら公園の外周へ警戒を配っているように見えた。
一方のチナツは警戒態勢を取り始めたヒナに怪訝な視線を向けたまま固まっていた。
風紀委員長がこうなった時は、ほぼ100%近くに敵がいるものだということを既に知っていたのだ。
「ごめんなさい、私達も少しお暇させてもらうわ。貴女達は構わず朝食にしてちょうだい。」
「…何かありましたか?」
明らかに先程までと雰囲気が変わったヒナを見て、何かただならぬことが起きたのではないかとミヤコは疑問を呈する。
すると顔をこちらに向けたヒナは相手の耳元にまで顔を寄せると小声で話を始めた。
「ここを見張ってる奴がいるわ。多分、
「なっ…!?」
ヒナからそう言われて驚愕の声を漏らすミヤコ。
これまで様々な作戦を遂行し、それだけ実力も積んできたと自負していたのだが、ヒナから言われるまでその異常に気付くことができなかった。
しかも自分達はここ数日間何度も外敵からの襲撃を受けている身である。
敵の探知が遅れて先手を取られることは即ち破滅を意味する。
もし今ここに自分達しかいなかったら、何か取り返しの付かないことになっていたかもしれない。
これは完全に
「落ち着いて。相手の目的は貴女達への攻撃ではないわ。目的は恐らく、
「皆さんを…?一体ゲヘナの誰が?」
「正体は大体想像つくわ。だから貴女はそのまま気付かないフリをしていてちょうだい。大丈夫、貴女の先輩達もアレには既に気付いてる。もうじき制圧を終える筈よ。」
ミヤコを安心させるようにそう語った直後、ヒナの携帯電話に着信がかかる。
スマートフォンを取り出し画面を見ると、そこには彼女のよく知る相手である『天雨アコ』の名前が表示されていた。
すぐさま通話ボタンを押し、返事をする。
「もしもし?」
『ヒナ委員長!すみません、たった今万魔殿から風紀委員会に緊急の召集命令がありまして…。』
「そう。召集の理由は?」
『不明です。とにかく早急に来るように、と。もしかしたら、昨日の病院での一件がどこからか漏れてしまったのかもしれません。そうだったとしたら…。』
「わかったわ。それと、恐らく貴女の予想は当たってるわよ。」
『えぇっ!?嘘でしょう!?』
「今チナツと子ウサギ公園にいるのだけれど、誰かがこちらを監視しているわ。きっと万魔殿の生徒よ。」
『そんな…!!まったく、普段こっちに何でもかんでも押し付けてくるくせに、そういうことばかりは素早くこなすんですからあの人達は…!!』
「とりあえず、私はすぐゲヘナに戻るわ。マコト議長にもそう伝えておいて。」
『…わかりました。』
「お願いね、アコ。」
そう言い残し電話を切る。
直後に大きなため息を吐き出した。
それを見ていたチナツも今何が起きているのかを理解したようだった。
「それじゃあ、私達はこれで。」
「わかりました。その…色々とありがとうございました。」
そのまま何事も無かったかのように立ち去ろうとする2人に向けてミヤコは大きく礼をして感謝を述べる。
「ええ。またこれから、一緒に頑張っていきましょう。それと、貴女も一度しっかり休息を取りなさい。疲れが溜まっていると、大事な時に本来のポテンシャルを発揮できなくなるわよ。」
ヒナはそれに対して微笑みながらそう伝えると、子ウサギ公園に背を向けて歩き去っていった。
「あの…委員長、他人に休息を取れと言うなら、まずは自分から実践してみてはどうでしょうか。」
「…私は最近ちゃんと休んでるからいいのよ。」
部下から速攻お小言を言われる
「本部へ、こちら監視班、標的が移動を開始しました。」
『こちら本部了解。引き続き監視を続行せよ。』
「了解。」
子ウサギ公園から少々離れた位置にあるビルの屋上から万魔殿所属の生徒2人が無線機で本部と連絡を取りながら監視を続けていた。
風紀委員会が便利屋68と協力関係を構築し始めたことに端を発して、ヒナの協力者が更に増えるのではないかと警戒したマコトが万が一の情報収集の為にと組織した特務機関の一員が彼女達だった。
そして数日間の監視を経た昨日、なんとあのアリウススクワッドと風紀委員会が共存している光景を目撃してしまったのである。
この件は当然の如く緊急事態として本部へ報告され、彼女達には引き続き監視を行うようにと命令が下っていたのだった。
元より彼女らは有名人の熱愛報道のようなゴシップネタが大好物な高校生達である。
身近な知り合いが起こしたスキャンダルがこれから一体どのような展開を迎えるのかと野次馬根性剥き出しで任務に当たるようになっていた。
「風紀委員長達、アリウスとどんなこと話してたんだろうな?」
「もしかしたら協力してゲヘナ学園転覆を狙ってるとか…!」
「うーん、最近の風紀委員長見てるとそういうのじゃないんじゃないか?この前なんか委員長室で便利屋の社長の膝の上に乗って昼寝してたんだぞ?きっと今回もそういう方面の奴だって。」
「いやいや、確かに最近の風紀委員長は前よりよくだらけたり休んだりするようになったけど…相手はあのアリウスだぞ?それに何か見慣れない格好した連中も一緒にいたし、何かキナ臭い感じがするんだよなあ。」
「キナ臭そうな格好で悪かったわね。」
「へ?」
何気なく与太話をしていた2人の耳に聞き慣れない声が聞こえた。
慌てて振り向くと、そこには先程公園でヒナ達と一緒にいたセーラー服を着た集団の1人が立っていた。
ライオットシールドを装備した金髪狐耳の人物だ。
「なっ!?いつの間に!?」
「アンタ達警戒感無さすぎよ。偵察任務を2人で行っていながら、視界をカバーし合ったりもせずターゲットに釘付けになって駄弁ってるなんて、もってのほか。SRTだったら即座に撃破判定食らってるところよ。」
「SRT…待て、お前その腕章…SRTのFOX小隊か!?」
「あら?私達のこと知ってたの?いやあ有名人は大変ねえ。」
「何故お前達がここにいる!?SRTは既に廃校になって、お前達FOX小隊は行方不明になっていたんじゃなかったのか!?」
「今の私達は特別任務が与えられた身なのよ。アンタらみたいな、うちの後輩達に害意を向ける連中を退治するっていうね。」
クルミはそう宣言すると盾と短機関銃を両手に構えて戦闘態勢を取る。
それを見た万魔殿の生徒の片方は慌てて弁解を始めた。
目の前にいる人物が真っ向勝負で勝てるような相手ではないと既に知っていたからだ。
「ま、待て!私達が見張ってたのはお前の後輩じゃない!いっしょにいた風紀委員達のほうで…!」
「クソッ!」
そうして必死に説得を計るが、いっしょにいたもう1人は咄嗟に携帯していた小銃を相手に向けて構えようとしてしまった。
だが次の瞬間、どこからか飛来してきた銃弾によって小銃が弾き飛ばされる。
直後に一般的なものよりも重々しい銃声が聞こえてきた。
「狙撃…!?」
強烈な痺れに襲われた両腕を庇いながら咄嗟に弾丸の飛んできた方向へと意識を向ける。
すると数十メートル程離れた先にある建物から、ここからでも認識できるような異様な存在感が放たれているのを感じ取れた。
スコープの反射光を見せないよう高度な隠蔽が施されているはずなのに、あの場所には狙撃手が居て、こちらを狙っているということが本能で分かってしまうほどだった。
「そういえばFOX小隊には、一般的な狙撃手とは違う個性を活かして活躍する生徒がいるって情報が…。」
「アンタ随分私達のことに詳しいのね、大正解よ。さて…。」
もし対話だけで解決できるならばそこまでにしようと一応考えていたクルミだったが、抵抗する素振りを見せた以上は制圧するしかない。
また対話する振りだけ見せて不意打ちを仕掛けてくる可能性があるからだ。
ここはキヴォトス。暴力には暴力で応じる世界である。
「ちょーっとだけ痛いけど我慢しなさいね?」
「ひ、ひぃ…!」
目の前には臨戦態勢を取る白兵戦のプロ、遠方にはこちらに狙いを定めたエリート狙撃手。
ようやく自分達の置かれた状況を理解した万魔殿の2人は尻もちをついたまま目尻に涙を浮かべて震えることしかできなかった。
直後、鈍い打撃音が2つ、ビルの屋上に木霊した。
ヒナの携帯電話が再び着信を伝える振動を発する。
取り出してみると、そこには珍しく、かつ今一番見たく無い人物の名前が表示されていた。
(イロハ…。)
万魔殿の役員の1人、棗イロハ。
元よりマコト議長の横暴に付き合わされる者同士通じ合うものがある相手だったのだが、このタイミングで電話を掛けてくるというのは今の悪い予想を余計に確信へ近づけさせる補強材にしかならない。
少々覚悟を決めながら通話ボタンを押す。
「もしもし?」
『すみません風紀委員長、イロハです。』
「貴女から電話を掛けてくるなんて珍しいわね。それで、用件はマコト議長からの呼び出しに関することかしら?」
『はい。それで単刀直入にお聞きしますが…。』
『風紀委員会とアリウススクワッドが共闘体制を取っているというのは本当ですか?』
やっぱり悪い予想が当たってしまった。
これで昨晩の出来事は既に万魔殿に露呈してしまっていたことが確定した。
「今更それを聞く?さっきから貴女達の部下がずっとこちらを見張ってるのは知ってるわよ。」
『はい?私はマコト議長から話を聞いただけですが…。なるほど、この話は真実だったと見て間違いなさそうですね。』
「…とんだ藪蛇だったわね。迂闊だったわ。」
『それで、どうして貴女がアリウスなんかとの結託を選んだんです?あの連中は風紀委員長にとっては怨敵と呼ぶべき相手じゃなかったんですか?その…色々と。』
イロハは訝しげにそう尋ねてくる。
こちらの事情を知らない彼女からすればヒナ達の行動は完全に気が狂ったものか、もしくは良からぬことを考えているとしか思えなくて当然である。
だがここでヒナにある疑問が浮かんだ。
「ごめんなさい、それに答える前に一つ聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」
『なんですか?』
「何故貴女が今私にそのことを尋ねるの?」
『…。』
「そもそも私達を陥れる目的なら、召集なんてことをせずとも証拠写真でも撮って公表すればそれで済むはず。でもマコト議長は私達にわざわざ召集命令を出して、その理由を明確にしなかった。それに加えて貴女から直接の連絡。私は今の万魔殿が企んでいることがわからない。というより、一枚岩のものに見えない。貴女、一体何を考えているの?」
そう言われたイロハは黙り込んでしまう。
今まで散々万魔殿から様々な負担を押し付けられてきた経験から見ると、今回の行動には不審な点が多すぎる。
マコトが企む嫌がらせの類にしては余りにも効率が悪く、一方のイロハは上司の意向を無視して行動を起こしていた。
疑問を持つのも当然だった。
『その話をする必要があるのなら、まず監視を撒いて貰えませんか?マコト議長の直名を受けた部隊ならば、集音マイクでこちらの音声まで拾っている可能性がありますから。』
そう言われて、ヒナは先程からこちらを見張っていた相手の方を確認する。
すると、そこには既に犯人の姿は無く、代わりにビルの上に立ったクルミがサムズアップをこちらに送りながらニカッと笑っているのが見えた。
「大丈夫。もう監視は居なくなったから。」
『はい?もうですか?』
「ええ。
『は、はあ…。えー、コホン。ではお話します。確かに風紀委員長の言う通り、今の私は万魔殿としてではなく、一個人として行動していますよ。』
「どうしてそんなことを?やはりアリウスへの憎しみから?」
『それに返答できるかどうかは、貴女の答え次第です。さあ、さっきの質問に答えて貰えませんか?』
イロハからの再度の要請。
もうこれ以上質問の応酬を繰り返しても平行線を辿るだけだろう。
あとはヒナの返答次第。そして現状の最善策といえば、正直に全て話すことだ。
少なくとも、今の自分達は他者に迷惑をかけるような行いはしていないのだから。
「少し長い話になるかもしれないけど、いいかしら?」
『ええ。大丈夫ですよ。』
ヒナは昨晩起きた出来事をゆっくりと話し始めた。
「お疲れ様でした。首席行政官。」
会見の壇上から戻ってきたリンに財務室長の扇喜アオイが労いの言葉を掛ける。
結局緊急会見は4時間程にまで延び、終わった頃には関係者達は皆疲弊しきっていた。
特にリンは昨日の駆除作戦を終えてすぐさまこの会見に参加することとなったためその疲労も特に大きいものだった。
「財務室長もお疲れ様でした。会見の補助、ありがとうございます。」
「同じ連邦生徒会の役員として当然のことをしたまでよ。貴女の気苦労と比べれば全然軽いわ。それより…。」
「本当に辞めるのね?貴女。」
「はい。最初にお伝えした通り、この件に関しては然るべき立場の者が責任を取らなければなりませんから。」
「でも、何も退任まですることはないんじゃないかしら?貴女の功績を皆が評価しているのも事実じゃない。」
「結果は過程を正当化しません。怪物1号との遭遇による死亡者の発生、駆除作戦において生じたラゴス島とその周辺海域への環境汚染。これらの責任を取るのが権力と立場を与えられた政治家の仕事です。そして政治家の責任の取り方は、自らの進退です。それは貴女が一番分かっていることではないですか?」
「それは、そうだけど…。」
「ご心配はいりませんよ。引き継ぎはしっかり行っていきます。突然いなくなって迷惑をかけたりはしませんから。」
「そういう問題じゃなくて…!」
リンは大したことないとばかりの態度でそう話すがアオイはそれが気に入らないようだった。
だが彼女も現状を理解していない訳ではない。
ぐっと私情を抑え込み、『財務室長』としてあろうとする。
「…今ここで言っても何にもならないわね。自分の後任は誰にするか決めてるの?」
「いえ、まだ。流石に私の役目を『はい任せます』で押し付けられては困るでしょうから。それも今後皆さんと協議して決定させていただきます。」
「まあ、元より貴女がその『役目の押し付け』を食らって散々大変な目に遭った人だものね。」
そんな話をしながら並んで廊下を歩いていると、リンは自分のスマートフォンが微かに振動していることに気付いた。
着信を知らせるバイブレーションのものだ。
それをポケットから取り出し、画面に表示されていた相手の名前を確認する。
(竜華キサキ…。)
山海経高級中学校の生徒会に相当する組織、玄龍門の門主の名前だ。
キサキの連絡先は、彼女がシャーレに加入した際に万が一の場合に備えた予備連絡先として本人から教えて貰っていた。
もっとも、これまでまともにそれが活用されたことは1回も無かったのだが。
そんな彼女が急に電話を掛けてきたことに一抹の不安を感じながら通話のボタンを押す。
「はい。七神です。」
『忙しいところすまぬの、首席行政官。竜華じゃ。会見の方、ご苦労じゃった。玄龍門を代表して謝辞を送らせてもらう。』
「ありがとうございます。それで、どういったご要件でしょうか?」
『うむ。少し話たいことがあるのじゃが、今は大丈夫かえ?』
キサキからの要望を受けて、リンはアオイに向けてアイコンタクトを送り、手で電話をしたいとジェスチャーする。
アオイは彼女からの意思表示に対して指で輪を作ってOKのサインを送った。
「ええ。大丈夫です。」
『感謝する。それで本題なのじゃが、たった今非常対策委員会の本部宛に以前要請を受けた件の調査結果を送らせてもらったぞ。』
「もう完了したのですか?早急に対応していただき、ありがとうございました。」
『ああ。こちらにも、あの手の物に興味津々な者がいたのでな。それで、今話せる部分だけを簡潔に申すが、昨日そなた達がラゴス島で交戦した生物は先生を殺害した怪物1号と同一個体で間違いない。大戸島で回収された血液と遺伝子情報が一致したそうじゃ。』
「そうですか…。わかりました。それならば、世間により良い報告が行えそうです。」
『良い報告、か。じゃが、余り良くない結果も入っておるぞ。』
「それは一体…?」
『まあ、何も未知の病原菌が発見されたというような緊急性の高いものではない。ただ我々だけではこれに関する対応は決めかねるのでな。』
そう言われてリンは眉を顰める。
ここにきて新たな問題の種が生まれそうな兆候が見え始めてしまったということだ。
「簡潔に言えばどのような問題が?」
『そうさな…安易に公表しようものなら、これまで我々が主張していた怪物1号駆除の正当性が揺るがされる可能性がある、といったところかの。』
「なるほど、わかりました。調査結果はこちらに届き次第確認を致します。その懸念される問題に関しては、こちらから再び指示を行わせていただくことになると思われますが、その場合は正規のホットラインから行ったほうがよろしいですか?」
『ああ。そうしてくりゃれ。その方が後になってから話を蒸し返される可能性も低くできそうじゃからな。』
「わかりました。では後ほど。」
そう言い残し、リンは通話を切った。
「どうかしたの?」
隣で事の成り行きを見守っていたアオイが心配そうに尋ねてくる。
「山海経高級中学校に要請していた案件で何やら問題が発生したようです。」
「要請していたものって確か…。」
「はい。」
「怪物1号の血液検査です。」
「…これが、私達がアリウススクワッドと共闘体制を取った理由よ。」
『なるほど。そういうことでしたか。過去に先生の生死に関わったお二人が、今回先生の死に直接関わった生徒のために、と…。』
「ええ。信じてもらえるかどうかは、貴女次第だけれど…。」
ヒナはことの顛末を全て正直に伝えた。
だが改めて話し終えてみると、自分でもかなり荒唐無稽な話だと思えてしまう。
果たしてイロハはこれをどう思うだろうか。
『他ならぬ風紀委員長の言うことです。信じましょう。貴女がアリウスと結託してまで嘘をつくとも思えませんから。』
「ありがとう、イロハ。それで、この内容は貴女から質問の返答を得られるようなものだったかしら?」
イロハは先程の会話でこちらの返答次第で自分の目的を教えると言っていた。
今語った内容で、それを教えてもらうことができるだろうか。
『わかりました、話します。実はマコト先輩は、エデン条約調印式の際、最初からアリウスと結託していました。』
「なんですって…!?それはどういうこと!?」
『私がそれを知ったのはあの日彼女達が攻撃を開始してからです。マコト先輩は自分からペラペラと全部話してくれましたよ。どうも風紀委員会とトリニティをあの場で纏めて叩き潰す腹積もりだったようです。最も、向こうは初めからこちらと協力するつもりなど無くて、私達はすぐさま飛行船ごと爆破されたんですけど。勿論首謀者本人も。』
「マコトが初めからサオリ達の手引きをしていたと…!?」
『マコト先輩が貴女達の件を大っぴらにしようとしないのは、そこに理由があるんじゃないかと思います。もしかしたら、単純に貴女達が共闘関係を築いたことの事実確認をしたいだけなのかもしれません。』
想像もしていなかった真相を教えられてヒナは動揺を隠せなかった。
イロハの言うことを要約すれば、エデン条約調印式にアリウスが襲撃を仕掛けられた原因の一つはマコトにあったということだ。
調印式を成功させようと必死で過ごしていた日々が無駄になってしまったのも、大勢の怪我人が発生してトリニティ総合学園との戦争に発展仕掛けたのも…先生が重傷を負ったのも、羽沼マコトが原因。
だが当の本人は未だにそのことを秘匿し、何事も無かったかのように過ごしている。
思考がその結論に辿り着いた瞬間、猛烈な怒りがヒナの内側から湧き上がった。
『私は最初風紀委員会がマコト先輩と同じような事を企んでいるのではないかと疑ってたんですが…どうやら違ったようですね。』
「イロハ、もう電話を切っていいかしら?早くアイツの所に行かないとならないから。」
『ああちょっと待ってください風紀委員長。私に考えがあるんです。ここは一つ私と手を組みませんか?』
「…何をする気?」
『ゲヘナ学園とアリウス分校を巻き込んだこの問題を丸く収めようってことですよ。それにマコト先輩に一度しっかりお灸を据えたいのは私も同じですので。』
「それは、どうして?」
『あの襲撃が原因で先生が重傷を負ったからです。好きな人が傷付いた原因を作った相手が反省してる様子を見せなかったら腹が立つでしょう?まあ身勝手だって自覚はありますよ。私が先生のことを気にし出したのは事件の後になってからですし。』
「す、好きな人…。ええそうね、わかった。貴女の提案に乗るわ。」
イロハの口から突然好きな人というセリフが出たのには驚かされたが、ここで彼女の提案を蹴る理由はヒナには無い。
万魔殿内部からの協力者を取り付けられるのは願ってもないことだ。
「それで、私達は何をすればいいのかしら?」
電話をしながら歩くヒナ達の足取りは、さっきよりも随分と軽いものになっていた。
もうすぐ投稿を始めてから1年経つ…?
まだゴジラがゴジラとして出てきてもいないのに…。