BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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お待たせしました。
27話です。

誤字脱字の報告をくださる方々、ありがとうごさいます。
自分だと中々気付けないことが多いので本当に助かります。

コメントやお気に入り登録をしてくださる皆さまも本当にありがとうございます。

それでは本編の続きをどうぞ。







青く光る海

 ミレニアムサイエンススクールの中心部、ミレニアムタワーのとある一室。

 これまで長い期間使われることなく放置されていたその部屋には今、大量のモニターやサーバー類、そして大型の冷却用エアコンが運び込まれていた。

 そのモニター達が発生させる明かりに包まれた室内は、宛ら悪の秘密基地とでも表現できそうな見た目へと変貌しつつあった。

 

「よし、これでもう大丈夫だ。」

 

 モニターに映像を映していた無人偵察機の操縦系を調整していたウタハは安心したようにそう呟いた。

 2人の後ろに控えていたチヒロやハレといった面々も緊張が解けたように大きくため息を吐く。

 

「航行再開。巡航速度を200キロまで加速。」

 

 観測用機器の操作盤の前に座っていた和泉元エイミと音瀬コタマが操縦桿を握り、更にスティックを操作してカメラの向きを変え始める。

 するとひたすら空を映し続けていた画面にはとこまでも広がる海原が表示され始めた。

 

「偵察機1号から3号機、問題なし。」

「4号機から6号機も問題ありません。目標地点上空に到達後、自動操縦に切り替えます。」

 

 2人はモニターに表示されていた映像を確認すると黙々と作業を開始する。

 その様子を見ていたチヒロはウタハの方へと向き直りながら話しかけた。

 

「ありがとうウタハ。ハード面の問題だと私達だけじゃ対処しきれなくて。」

「こういう時はお互い様さ。それにあの機体を作ったのは私達(エンジニア部)だ。トラブルへの対応は万全にしておかなないとね。」

「でもそっちだって今大変でしょ?確か無人探査艇の製作をセミナーから依頼されてたよね?」

 

 チヒロの言うとおり、今のミレニアムサイエンススクールはセミナー、もといユウカからの指示を受けた様々な部活が忙しく活動を始めていた。

 それらの内容は全て、放射熱線使用後の後処理に関すること。

  

 駆除作戦の終了後、帰還したユウカは即座に事後処理に向けて行動を開始した。

 爆心地周辺にて発生した環境被害、風評被害への補償対応、被害地域の観測作業を行うための機材、人員の確保。該当区域を除染するための新技術の開発指示。

 そしてこれらを滞りなく行うために、怪物1号の対処に関する権利をほぼ独占していた連邦生徒会に協力体制の構築を提案。

 元より人材等の不足に悩まされていた連邦生徒会側がこの提案を断る理由は一切無く、この提案はミレニアムサイエンススクールが連邦生徒会の完全な指揮下に入るという条件で正式に認められた。

 連邦生徒会が上位組織としての立場を崩さなかったのは、彼女らのトップ(首席行政官)が『本件において生じた責任問題は全て自分が負う』という主張を最後まで譲らなかったためである。

 

 もっとも、完全な指揮下に入るというという条件は、あくまで責任の所在を明確にすることを目的とした表向きのものでしかなく、実際のミレニアム側には完全な自由行動が最初から認められていた。

 だがこちら側だけが好き勝手に行動して、それで発生した責任は全て無条件で他人に押し付けられるかのようなこの関係は、ユウカにとって気分良く受け入れられるものではなかったのだが。

 

「なに、ヒビキにコトリだっているんだ。私1人が少し抜けたくらいどうってことないよ。」

「そっか。」

「それよりも私からすればチーちゃん達がセミナーの完全な統制下に入ってることの方が気になるよ。こんなことはヴェリタスを立ち上げて以来初めてなんじゃないかい?」

 

 ウタハの言う通り、現在のヴェリタスは公式にセミナーの指揮下で活動をしている。

 元々反セミナーという立場を表明して非公式の部活として発足したものが、逆にそのセミナーの下部組織になっているという状態はヴェリタスの本質を知る者から見れば異様なものに違いなかった。

 

「まあ、今起きてる問題の原因は大半がうちの部長にあるんだし、ユウカ達にだけ苦労を押し付けて知らん顔なんてできないって。連帯責任だよ。」

 

 こうなったのはひとえに放射熱線の使用に関する経緯が原因だった。

 あの新兵器を製作し、使用を進言したのはヴェリタスの元部長であった明星ヒマリ。

 つまり今発生している諸々の問題は彼女が元凶と言っても決して間違いではない。

 故にヒマリは本来この問題の解決に尽力する責任がある立場なのだが、当の本人は現在行方不明となってしまっていた。

 ユウカ達の報告ではワカモによって誘拐されたとのことだが、負うべき責任を放棄して逃亡したということには変わらない。

 そんな状況で同じ部活の仲間であった自分達が知らん顔を決め込むことなどチヒロにはできなかった。

 それは特異現象捜査部でヒマリと共に活動していたエイミも同じである。

 

 加えてユウカが放射熱線の使用を直前まで猛反対していたことも大きな理由だった。 

 最終的には彼女も使用を承諾したが、それすらもタイミングが悪かっただけとしか言えないものだ。

 その場にいた仲間のほぼ全員が自分と反対の立場を取っていた所で、よりによって瀕死だと思われていた敵が目の前で復活して暴れ出してしまったのだから。

 その後に方針転換をしたからといって、それを彼女の本心からの行動だと言い切ることはできないだろう。

 よって今の彼女達は決してセミナーに強要されて手を貸しているのではなく、自分達から進んで協力を申し出ていたのだった。

 

「偵察機群、目標地点上空に到達。観測を開始するよ。」

「了解。それじゃあハレとマキはそのまま交代まで待機。今のうちに操作方法を頭に入れておいてね。」

「はーい。」

 

 黙々と操縦機器を操作していたエイミの報告を聞いたチヒロは自分と共に画面を眺めていた後輩2人に今後の指示を送った。

 その後、画面には今朝方大爆発に見舞われたラゴス島が段々と映し出されていく。

 それと呼応するかのように室内には次第に重々しい空気が満ち始めていった。

 

「報告の通りだね。爆心地は巨大な陥没痕になって今では海の一部に…。」

 

 エイミの独り言が静まり返った室内に響く。

 表示された映像には隕石が落下したかのような円形の巨大な跡が映されていた。

 彼女の言葉通り抉れた地形の4分の1ほどは海と一体化しており、そこから流れ込んだ海水によって今の陥没痕は湖に似たような外観に変わっていた。

 

「天候も回復したみたいだね。まあ…あんまり喜べたものじゃないけど。」

「舞い上がっていた塵が降下しきったのか?」

 

 ウタハが諦めを強く含んだ声色でそう呟く。

 現在のラゴス島上空はどこまでも続く青い空が広がっており、つい数時間前までの地獄のような光景が嘘のようになっていた。

 だがその実態は地獄同然の環境から何一つ変わっていなかった。

 

「空間放射線量は?」

「作戦終了時刻から一切変化無し。きっと、ここはこの先数年間は人が近づけないような場所になるとみて間違いないよ。」

 

 チヒロからの質問にエイミが淡々と答える。

 ラゴス島とその周辺海域は今も尚高濃度の放射能に汚染されており、人が直接乗り込むなど自殺行為としか言えないような死の海域となっていた。

 一見穏やかに見えるこの海原の下で一体どれだけの惨劇が起きていたのか、想像するだけでも恐ろしい。

 だが問題はそれだけに留まらなかった。

 

「ハレ、気象衛星の情報は来てる?」

「うん。どうも舞い上がった塵は風に乗って南東方向へ移動したみたいだよ。全て降下するまで、最短でもあと半日はかかるんじゃないかな。」

 

 放射熱線が発生させた巨大な爆発は、それに見合うだけの大規模な噴煙を生み出し、巻き込まれて吹き飛ばされた塵と海水は遥か天空にまで到達した。

 それらは次第に勢いを失い、広い範囲に散らばった後地表へと降下してくる。

 まるで火山噴火の後に降ってくる火山灰のように。

 だが今回のものは自然現象とは別の重大な問題を発生させていた。

 

「除染の問題は今後どんどん大きくなるだろうね。」

「うん。本当、先が思いやられるよ。」

 

 今回の爆発によって噴き上げられた飛散物は、それ自体が相当な量の放射能に汚染されており、降下した場所までもが放射線被害に見舞われることが既に判明していた。

 そんなものが無差別に撒き散らされるとなれば、最終的にどれだけの範囲に被害が齎されるかは想像もつかない。

 

「ひとまず観測作業は私達だけでも滞りなく行えそうです。副部長はこの現状をセミナーに報告に行っていただいたほうがよろしいかと。」

「わかった。該当海域での船舶の航行を停止してもらうようセミナーに進言しておくよ。それと、雪みたいな物体が降ってきた場所は特に危険だともね。」

 

 コタマにそう言い残し、チヒロが一旦部屋を出ようと振り返ったその時だった。

 

 

 

 偵察機1号機の観測映像に一瞬だけ強烈な光が迸ったのである。

 

 

 

「えっ!?」

 

 思いがけなかった現象を前に咄嗟に振り返るチヒロ。

 

「今の何?…雷?」

 

 光った瞬間を見逃したせいで困惑する彼女にウタハが説明を始める。

 

「いや…今光ったのは空じゃない。海だよ。」

「海…どの辺りが?」

 

 今目に映る風景は先ほどと何も変わらない穏やかなもので、光を発するようなものは一つも映っていない。

 海が光ったとは一体どういうことなのか。

 

「偵察機の映像は全て録画が行われている筈だ。マキ、こっちの端末を起動してさっきの映像を再生してくれないか?」

「うん、わかった。」

 

 並べられたモニター達の一つを起動し、手順に沿って録画の再生を始める。

 

「ここだ。」

 

 それからほんの数分後、爆心地部分の海上を中心に捉えていた画面の端に光が瞬いたほんの一瞬がしっかりと記録されていた。

 

「確かに海面が光ったみたいに見えたけど…今度はスロー再生してもらっていい?これの正体が何なのか突き止めないと。」

 

 チヒロの指示を受けて今度はスローでの再生を始める。

 皆で食い入るように画面を見ていると、再び光が迸しる瞬間が映し出された。

 

「今だ!止めて!」

 

 その一声で動画が停止される。

 ほんの一瞬しか見えなかった謎の光を、今度は静止画として鮮明に確認することができた。

 だがそこに映されたものは、彼女らが知識として知っているどれにも該当しないようなものだった。

 

「何かが…海中で青く光ってる?」

 

 映されていた光は海面から発されているもので間違いなかった。

 だがよく見ると、発光源そのものはどうやら海中にあるようだった。

 更に改めて確認できたその発光色はとても綺麗な青色をしていることがわかった。

 

「何だろうこれ?」

「うーん、海中で青く発光する物体…いや発光現象?」

「さっきはよく見えなかったけど、これってかなり広い範囲が光ってるんじゃない?ほらラゴス島の大きさと比較してみてよ。どんなに小さく見積もっても10メートル以上はあるよ。」

「夜光虫か海ホタルの大群とか?アレって海面を青く光らせるでしょ?」

「いや、プランクトンの類が原因の現象ならこんな閃光みたいな光は起こらない筈だよ。」

「待って、そもそもさ…。」

 

 マキ達がそれぞれの考えを語る中、チヒロは皆の話に割り込むと一際深刻そうな表情を浮かべながらこう言い放った。

 

「今のこの海域で、まだ生きている生物がいるっていうの?」

 

 そう言われて皆もハッとする。

 自分達が観測している海域は、如何なる生物であろうとも確実に死に絶えるような最悪の環境なのである。

 まずはそこから頭を切り替える必要があった。

 

「どこかの無人探査艇?」

「セミナーからは私達以外でここに探査機を送り込む組織がいるなんて報告は聞いてないよ。」

「それなら不法侵入した潜水艦とか?」

「閃光を照射できる機能を持った潜水艦なんて聞いたことが無いな。それに隠れてコソコソしようとしてる奴がわざわざ発光するなんて考えられないよ。自分から存在を教えてるようなものじゃないか。」

 

 人工物の可能性も次々と潰される。

 だが、まだ一つ候補が残っていた。

 

「ハレ、悪いけどエイミと観測作業変わってもらっていい?エイミ、ちょっとこの画像見てもらえる?」

 

 チヒロに呼ばれて観測手を交代したエイミは皆と並んで録画画像を確認し始める。

 ここまで表情をコロコロ変えてきた他の面々と違って、彼女は相変わらずポーカーフェイスを保ち続けていた。

 

「これがさっき見えた光?」

「そう。それで、特異現象捜査部がこれまで調査してきたデカグラマトンの預言者の中にこんな風に発光する機体はいなかった?」

 

 ヒマリが指名手配された関係で、彼女が部長を務めていた特異現象捜査部にはセミナー主導による強制捜査が既に入れられ、部が保有していた情報は片っ端から白日の元に晒されることとなった。

 それによって、これまで極一部にしか開示されていなかったデカグラマトンとその預言者に関する情報も次々と明らかになったのである。

 今回チヒロの頭に浮かんだのはその情報の中にあった、多数の武装を備え、海中を縦横無尽に移動する能力を持つ預言者、『ゲブラ』の存在だった。

 今この場所に何者かが潜航しているのなら、それら自立式機動兵器の可能性が高いと睨んだのである。

 だが、エイミからの返答は彼女が期待していたようなものではなかった。

 

「いや、私の知る限りじゃ青く発光する10メートルサイズの預言者はいないよ。」

「そっか…。」

 

 最後の宛が外れてしまった。

 ではこの謎の光の正体は何なのだろうか。

 

「それと、さっき無人偵察機に装備されてた水中センサーで光の発生源付近を調べてみたんだけど、何の反応も無かったんだ。」

「センサーに反応が無い…?」

 

 エイミは相変わらず感情の読めない表情で淡々と報告する。

 だがそれを聞いて顔を青ざめる人物がいた。

 

「待ってくれ、偵察機に装備したセンサーだったら、10メートルもある発光体なんて個体だろうが群体だろうが、それが存在するのであれば光を発生させる為の運動エネルギーなんかを感知して反応する筈だぞ。それが一切無いなんてあり得ない。」

 

 ウタハが信じられないと言わんばかりの表情を浮かべながら言葉をまくし立てる。

 いよいよこの光の正体が何なのか本当に分からなくなってきた。

 センサー類には反応せず、肉眼では確認できるなどという代物は、もはや生物か機械かという話を飛び越えて特異現象か何かの類にまで話が広がってしまう。

 だがその時、これまで黙って話を聞いていたコタマが特大の爆弾発言を放った。

 

「そういえば、確か怪物1号はソナー類や熱源探知に認識されない未知の特性を持っていたんでしたよね。」

「…あ。」

 

 その瞬間、彼女達の脳内にある一つの仮説が生まれてしまった。 

 

 

 

 『もしかしたら、怪物1号はまだ死んでいないのではないか?』

 

 

 

「いや、いくらなんでもそんなはず…。」

 

 当然の如くチヒロはそれを否定しようとする。

 10メートルにも達する大きさで、センサー類が反応しない特性を持った『何か』が海中にいるのはおそらく確実。

 だが僅かにある断片的な共通点を雑に結びつけて出した結論など、普段ならば箇条書きマジックの産物に過ぎないと片付けて終わらせてしまうような、議論に値しない程度のものだ。

 何よりあの生物が発光現象を起こしたなどという報告は一切されていない。

 否定できる要素は沢山あるはずなのである。

 

 更に言えば、『怪物1号はまだ生きている』という発想は、それこそ断腸の思いで放射熱線の使用を決断したであろうユウカの覚悟も、今の混沌とした状況の中で解決策を模索している自分達の頑張りも、全て否定することになってしまうものだ。

 一個人の気持ちとして、そんなことは絶対に認めたくない。

 

 だが、彼女は結局その否定する言葉を最後まで言い切ることができなかった。

 

 普通に考えれば、あれだけの衝撃波と高熱に巻き込まれ、更に高濃度の放射線に晒されては普通の生物が生き残れる可能性はゼロで間違いない。

 

 だがキヴォトスの最高戦力達に加えて、決して弱小とは言えない他生徒達による総攻撃を受けて尚生命を持っていたアレを果たして『普通の生物』と呼べるのだろうか?

 

 これで死体を発見できていたとなれば、そんな不安はただの杞憂だと吹き飛ばすことができた。

 しかし、実のところ彼女達は怪物1号の死体を直接確認できたわけではない。

 あの爆発で地形ごと消滅させられて欠片一つ残らなかったというのが現在発表されている普遍的な結論だ。

 そんな状態だからこそ、ふと頭に過った『もしも』をあやふやにしたまま放置することはできなかった。

 怪物1号には絶対に死んでいてもらわなければ困るのである。

 

 更に別の新たな疑念も彼女らの頭に浮かんできていた。

 もし本当に、怪物1号があの放射熱線の攻撃にも耐えるほどの生命力を持つような、正真正銘の『怪物』だったとしたら…。

 

 

 今の自分達(人類)は、そんな相手と戦えるだけの力を果たして持っているのだろうか?と。

 

 

「…無人探査艇の開発を急ごう。私は自分の持ち場に戻らせてもらうよ。」

「私もセミナーに報告してくる。皆、後はお願いね。それとウタハ、ユウカに水中探索装備の拡充を申し出ようと思うんだけど、大丈夫かな?」

「是非ともそうしてくれ。装備作成の方はこっちで何とかするよ。」

「ありがとう。じゃあお願いね。」

 

 そう言い残しウタハとチヒロは足速に部屋から立ち去っていった。

 残された4人の間にも重々しい空気が満ちる。

 部屋はすっかり沈黙に支配されてしまっていた。

 

「あんな巨大生物なんて倒せたに決まってるよ。」

 

 突然発されたその声の主に、思わず全員の視線が集中してしまう。

 

「だってそうじゃないとさ…。」

 

 無人偵察機の観測画面を直視したまま、ハレはまるで自分に言い聞かせるかのようにこう呟いた。

 

「ここまでしてきた皆の頑張りも、悲しみも、全部踏み躙ることになっちゃうもの。私は、ヒマリ先輩が作った放射熱線の力を信じてる。」

 

「怪物1号は…もうこの世にいないよ。」

 

 彼女のその言葉は肯定も否定もされることなく、そのまま沈黙の中へと溶け込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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