BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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皆さんお待たせしました。28話です。
2週間超えて3週間間が開くところだった…。

そしてリアルの関係で9月から2ヶ月間程度再び休載になります。
ご了承ください。


誤字脱字の報告、いつもありがとうごさいます。
文章量が多いと見落としが多くなってしまうのでとても助かっております。
今回も最初は7,000字くらいの文字数にしようと思ってたのに気付けば12,000字に膨れてやがる…。

コメントやお気に入り登録をしてくださる皆さまも、いつもありがとうございます。

それでは本編の続きをどうぞ。


※FOX小隊の設定が今まで間違っていたので9話や25話のセリフ周りを辻褄が合う形に変えました。大筋の内容は変わってないのであまり影響はありませんが。







信じる者

「もぐもぐ…。」

「ヒヨリさん、そんなに慌てて食べなくてもお弁当は逃げたりしませんよ。」

「だって、この焼き肉弁当が美味しくて!…それに、私なんかがこんなに美味しいものを何の対価も無く食べられるわけありません。もしかしたらこれが最後の晩餐になるかもしれないって思うと…。」

「そんなことはありませんよ。むしろこの先の人生には、もっともっと美味しいものを食べる機会が沢山あるはずです。」

「ほ、本当ですかね…?」

「はい!当然です!だから最後の晩餐だなんて言わないでください。私達は今日のお昼も夜も、明日からも、皆でご飯を食べるんですから。」

 

 頬にご飯粒をつけた槌永ヒヨリの後ろ向きな発言にミヤコは笑ってそう言い返す。

 本人の境遇的にそう考えてしまうのは仕方ないにしろ、人生とは決して良くないことばかりが起きるものではないと彼女は信じている。

 

「それに、あんまり急いで食べると喉に詰まってしまいますよ。」

 

 水筒を取り出しお茶を汲む。

 差し出されたそれを少し遠慮がちに受け取るヒヨリの姿が、何故かとても見覚えのあるものに見えた。

 

(ヒヨリさんとは初対面のはずなのに、何でこのやりとりには妙に馴染みがあるんでしょうか………あっ。)

 

 発言の二言目にはネガティブな言葉が出てくる彼女の性格に、どこかミユと似たような気配をミヤコは感じていた。

 

 

 

 

 

「さっきからハンバーグをじっと見つめてどうしたんだ?」

「…少し昔のことを思い出していてな。」

「昔のこと?」

「ああ。アリウス自治区を出て、ブラックマーケットでの暮らしを始めたばかりの頃のことだ。あの時は世の中のことを何一つ知らなくてな。色々と騙されていたんだ。」

「そうだったのか。それでハンバーグで何かあったのか?」

「昼飯を食べようと入った定食屋でハンバーグ定食があってな。店主はブラックマーケットでは中々食べられない食材を使った高級料理だと自慢気に語っていた。私はその言葉を信じて3,000円近くしたそれを注文したんだ。丁度バイト代が入った直後だったからな。」

「で、どうだったんだ?」

「出てきてみればそれは豆腐ハンバーグだった。とても値段に見合う品とは呼べないだろう?でも当時の私はそんなことを知る由もなく、その高額豆腐ハンバーグを食べて満足していたんだ。」

「…さっきヒヨリが言っていたこともだが、サオリ達の苦労は私達が知るそれとはレベルが全然違う気がするぞ。」

「まあそれは否定できないな。でも、今はこうして自分の意思でこの世界に起きる様々な出来事を体験できることがとても新鮮なんだ。豆腐ハンバーグの件も今となっては良い思い出の一つさ。」

「けどそんなの単純に騙されただけだろう。不愉快じゃなかったのか?」

「当然そのことを知った時は『また騙された』とがっかりしたが、同時に良いこともあったんだ。」

「良いこと?」

「その話を聞いたバイト仲間が『本物の』ハンバーグが食べられる店を紹介してくれたんだ。それどころか代金の一部まで肩代わりしてくれた。『あまりにも不憫だから』と言ってな。」

「ははっ、私もそのバイト仲間の気持ちが分かる気がするよ。もしその場にいたら私だって同じようなことをすると思うな…サイフに余裕があればだが。」

「…見た限り、お前達もあまり金には余裕が無いようだな。」

「大当たりだ。それなりに地域貢献をして食料を譲ってもらったりと出費を抑える努力はしているが、それでもお金は常にカツカツだ。仕方ないんだけどな。」

「食料…普通の食材はあるのか?」

「まあ保存の効く食材や調味料なんかはある程度備えてるけど…どうした?」

「いや、ひょっとしたら皆に料理を振る舞える機会があるかもしれないかと一瞬思ったんだが…。」

「料理…サオリが?」

「これでもバイト先で調理担当をさせてもらったことが度々あったからな。それなりの味のものは作れる気でいるんだ。このままでは一方的に食べさせてもらうばかりになりそうな気がして…駄目か?」

「いいや、是非とも食べてみたい!頼めるか!?」

「ふふ、そうとなれば何を作るか考えておかなければな。決してレパートリーが多い訳では無いからあまり期待するなよ?」

 

 隣同士で座っていたサキとサオリはそれぞれの弁当を持ったまま談笑を続ける。

 しかしサオリの話を聞いていると、この4人は本当に酷い経験をしてきたのだなという感想しか出てこない。

 幼い頃から大人に虐げられ、犯罪に加担させられ、使い捨てにされ、それから解放された今も日の当たる場所で生きていくことができないでいる。

 だがそんな生活すらも彼女達にとっては初めて体験できた、自分で自分の未来を決められる『人生』であり、それによって得られる快も不快も新鮮で仕方がないのだろう。

 

 

 

 

 

「ちょっと、何ボーっとしてんのさ。」

「別に。何でもない。」

「そんな訳ないでしょ。さっきからあの2人(サオリ達)の方チラチラ見てたの知ってるんだからね?」

 

 ミサキの横に腰掛けたモエは少し不機嫌そうにしていた彼女にグイグイ絡んでいく。

 一方のミサキは本人の性格もあってか、それをどう相手していいのか分からなかった。

 

「仮にそうだとしても、それが風倉さんに何か関係あるの?」

「モエでいいって。うーん、まあ関係あるっていうか…。」

「何?」

「今の私達、サオリのことを自分達の都合で巻き込んじゃってるからさ。ミサキ達が何か思ってることがあったらなるべく言って欲しいなーって…。」

 

 サオリ自身が希望したこととはいえ、自分達の問題に彼女を巻き込んでしまっていることに対してモエ達も何も思うところが無かった訳では無い。

 本人が気にしていなくても、仲間達の方がこの状況をどう思っているのかは確かめておきたかった。

 特に表情の変化に乏しく、あまり現状を歓迎していないように見えてしまったミサキに注意が向いたのである。

 そのミサキ自身もモエから正直にそう言われてようやく相手の考えていたことを把握することができた。

 

「…別に不満に思ってることは無いよ。そもそも私達とサオリは最近ずっと別行動してたくらいだから。そんなに気にしないで。」

「本当に?」

「本当に。私もサオリが自分でしたいことがあるなら、なるべくそれを応援したいから。」

 

 表情こそ変わらないものの、自分の正直な思いを相手に伝えるミサキ。

 だがモエの方は相変わらず仏頂面なままの彼女を見て不安そうな表情を浮かべている。

 そこであることを思いついた。

 

「これあげる。」

「ん?」

 

 そう言ってミサキがポケットから取り出したのは何やら手のひらサイズの円筒状の物体だった。

 見た限り手榴弾の類だろう。

 

「ご飯の分と、風紀委員達の件のお礼。昨日モエ達と会わなかったら、こんなに平穏な朝は迎えられなかったと思うから。」

「これって…!」

「今の私達にはこんなものしかないから。要らなかったら…。」

 

 そこまで言いかけたところで、モエが急にミサキの耳元に顔を寄せて来た。

 すぐそばまで近づいた彼女の口元からは何やら「はぁはぁ」と荒い息遣いが聞こえてくる。

 唐突に豹変したモエの様子に困惑していると、彼女はヒソヒソと小声で話を始めた。

 

「これって、昔製造中止になったタイプのサーモバリック手榴弾じゃない?めちゃくちゃ火力の高いやつ…!」

「えっ?」

 

 モエは見せられた手榴弾のタイプを一瞬で言い当ててみせた。

 所属していた学園の特徴上、やはりこういった火器類の知識に関しては頭一つ抜けているようだ。

 

「ねえねえ、これどこで手に入れたの?」

「アリウス分校では昔から装備として大量に使われてたから…火を起こす為の最終手段として残り物を持ってたんだけど。」

「てことはアリウス自治区にはまだこれが大量にあるってことだよね?」

「前まではあったけど、今はトリニティの管理下に置かれてるから全部処分されてる…と思う。」

 

 現状に不満が無いこと伝える為の良い案が浮かばず、咄嗟に手持ちの中から何かをプレゼントすることを思い立っての行動だったのだが、こうも根掘り葉掘り聞かれるのはなんとも落ち着かない。

 もしかしたらSRTとしては即刻処分しなければならないような代物だったのかもしれないという考えがふとミサキの頭に浮かんだ。

 

「やっぱりこれも処分したほうがいい?」

 

 思い切ってそう提案してみる。

 だがそれを聞いたモエは即座に相手の手ごと手榴弾を捕まえた。

 

「待った待った、これ私にくれるんでしょ…!?」

「は?えっと、まあ欲しいなら…。」

「本当?やったあ…!ありがとね…!!」

「え、いや…それでいいの?」

 

 これまでだいぶ親しく接していたが、相手は本来治安部隊所属のエリートである。

 てっきり規則に従って危険物の処理を考えているのかと思いきや、サーモバリック爆弾を手に持って急に大喜びし始めた。

 もう何が何やらわからない。

 

(SRTがそれを放っといていいの…?というかあんなもの貰って喜ぶなんて、変なの。)

 

 完全に面食らってしまったミサキはそれ以上話を続けることができず、頬を赤らめながら恍惚とした表情で手榴弾を見つめるモエをじっと眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「ミユさん、それは?」

「ふぇ?ああ、この子はうさぎの『ぴょんこ』です。ちょうどこの子も朝ご飯の時間でしたので。」

「うさぎ…本物を見たのは初めてかも。」

「えっ?そうなんですか?」

 

 ミユの側でご飯を待っていたぴょんこを見つけたアツコは興味津々といった様子でそれに近づいていく。

 アリウス自治区では見たことの無い真っ白で愛くるしい姿は彼女の目にとても新鮮に映っていた。

 

「この子、触っても大丈夫?」

「大丈夫ですよ。この子は人慣れしてますし、アツコさんを見ても逃げてませんから。」

「それじゃあ…。」

 

 恐る恐るぴょんこの背中に手を触れる。

 モコモコの毛並みと高い体温が合わさって何と言えない心地良さが手のひらに伝わってきた。

 そのまま何度も背中を撫でる。

 

「フワフワしてる…。」

 

 アツコは生まれて初めて体験した感触の虜になってしまいそうになっていた。

 一方のぴょんこはそんなことを気にする様子も無く、ミユに向けて『早く飯くれ』とでも言いたげな視線を送っていた。

 

「ぴょんこはまだ小さいので、ご飯にはこのクローバーをあげてるんです。」

 

 そう言いながらミユは今さっき採ってきたらしきクローバーの葉を取り出す。

 ぴょんこの視線が手に握られたその葉っぱを追いかけ始めた。

 

「それをどうするの?」

「普段はこのトレイに置いてあげてるんですけど…アツコさん、あげてみますか?」

「いいの?」

「時々私達も手のひらでご飯をあげたりするんです。こんな感じに…。」

 

 ミユはそのままクローバーを自身の手のひらに置き、ぴょんこの前に差し出す。

 するとぴょんこはその葉っぱをもぐもぐと食べ始めた。

 一心不乱にご飯を食べるぴょんこの姿にアツコは釘付けとなってしまっていた。

 

「どうですか?」

「…やってみたい。」

「それじゃあ、手を出してください。」

 

 今度はアツコの手のひらに採ってきたクローバーをのせる。

 そのまま先程のミユと同じようにすると、ぴょんこは再びもぐもぐと食事を始めた。

 

「かわいい…。」

 

 アツコの表情がどんどん上機嫌そうなものへと変わっていく。

 一方それを隣で見ていたミユは…。

 

(アツコさんって凄く綺麗な顔してるな…まるでお姫様みたい。私なんかとは全然違うな…。)

 

 アツコの綺麗な横顔に釘付けになってしまっていた。

 

 

 

 

 

 これまで全く関わりの無かった皆が、それぞれ思い思いの交流を進めていた。

 サキの表情に混じっていた影は次第に消え去り、以前の彼女が見せた明るい笑顔をまた見せるようになっていった。

 そんな時、彼女は自分の隣に座る人物の様子がおかしいことに気づいた。

 

「サオリ、どうかしたのか?」

「ん?」

「いや、さっきからずっと箸が止まってたから…。何か考え事でもしてるんじゃないかと思って。」

「あ、ああ…そんなところだ。」

 

 サオリは途中から弁当を食べるペースが目に見えて落ちていた。

 それこそ隣にいたサキがすぐ変化に気付いてしまうほどに。

 

「それは…私達には話し辛いことか?」

「いや…。」

「私がこんなことを言うのは図々しいかもしれないが、話せるような内容だったら話してもらえないか?サオリに…無理をしてほしくはないから。」

 

 隣に座るサオリを見据えながらそう語るサキ。

 サオリが彼女を放っておけなかったように、サキもまた自分の理解者になってくれた相手を放っておけなかったのである。

 

(私程度の人間が1人で考え込んでも、きっと解決はしないだろうな…それに今は皆を不安にさせるようなことをするべきではないか。)

 

 元より自分と同じ境遇の者を気に掛ける心理は両者に共通しており、今のサキが自分の支えになりたいと思っていることはサオリも既に察していた。

 故に、彼女は洗いざらい全てを打ち明けることにした。

 

「実は…ゲヘナの風紀委員達のことを考えていたんだ。」

「風紀委員…そうか。」

「ああ。彼女達にとって、私達は完全な怨敵だった筈だ。なのに昨日出会ってからはずっと味方をしてくれている。」

「それが信じられないっていうことか?」

「いや…まあそれも確かにあるんだが、それよりも、この先彼女達とどう接していけばいいか分からないんだ。これまでは只ひたすら見つからないように、捕まらないようにしていればよかった。だが今は、彼女達が私を逮捕しようとするなら、それに応じることが私のするべき選択なのだろうと思っている。」

「つまり逃亡をやめて風紀委員会に大人しく従うことを考えている、と。」

「そうなるな。いくらヒナがこちらの事情を知っているとはいえ、私が起こした出来事が大勢の人間を不幸にしたのは変わらない。だから私は、正当な権利を持つ者に裁かれなければならない筈なんだ。そもそも、今こうして私達に味方している状況そのものが向こう側の面子に泥を塗っている状態だ。風紀委員会からすればアリウススクワッドを捕まえない理由など一つも無いのだからな。だが…。」

「だが?」 

「私はサキのことも見放したくはない。もし今この瞬間に誰かが、風紀委員会だろうがそれ以外であろうが、お前との繋がりを引き裂こうとする者がいたなら、私は全力で抵抗する決心だ。」

「それは…その、ありがとう。」

「それに指名手配されているのは私だけではない。私1人の行動はアツコ達のこれからにも影響を与えてしまうはずだ。」

 

 そう打ち明ける彼女は段々と顔を俯かせ、不安に満ちた表情を浮かべるようになっていく。

 

「だからこそ不安なんだ。もし風紀委員会が今この瞬間に再び私達の敵となってしまったら…。」

「…。」

「風紀委員会はゲヘナ学園の公的な治安維持組織だ。ヒナ達が私情で味方をしてくれている状況がいつまでも続く保証は無い。外部にこのことが発覚すれば本来の役割を果たさない訳にはいかなくなるだろう。そうなれば…私は彼女達の信用を裏切るような選択をしなければならなくなる。そんなことは…したくない。」

「そうか…。」

「それにヒナは…こちらのことを本心ではどう思っているのか、それも分からない。やはり私は、そう簡単に彼女から許してもらえるとはどうしても思えないんだ。」

 

 サオリは自分で考えうる限りの懸念を打ち明けた。

 彼女の言う通り、本来ならばアリウススクワッドのメンバーは風紀委員会に見つかれば問答無用で拘束される立場の者達である。

 それが今こうして平穏な時間を送れているのはヒナ達が個人的な理由で見逃しているからでしかない。

 それどころか、昨日出会った時にはミヤコがサオリを受け入れる為の架け橋にまでなってくれた。

 だが、それがいつまでも続く保証は一切無い。

 そもそも昨日出会ったヒナの性格はサオリが以前収集していた情報とだいぶ異なっていた。

 

『規則に忠実、違反者には一切容赦無し、ゲヘナ最強の風紀委員長』

 

 それがエデン条約調印式前に把握していた空崎ヒナという人物の人柄だったはずだ。

 大犯罪者を個人的な理由で見逃すなど、とても信じられない。

 想定外なことばかり起きているこの状況で、皆にとって少しでも良い結果を得るにはどんな選択を取ればいいのか、サオリには分からなくなってしまったのである。

 そんな彼女の本音を聞いたサキの返答は、なんとも単純なものだった。

 

「…だったら、それを本人に直接聞いてみてもいいんじゃないか?」

「聞く…?」

 

 その返答を聞いてサオリは大きく目を見開きながら顔を振り向かせる。

 

「ああ。」

「だが、それでもし事態が悪化したらどうする?」

 

 サオリが目に見えて慄きながらそう言い返してくる様子を見て、サキは確信した。

 

「やっぱり思った通りだ。」

「?」

「今のサオリの気持ち、私にはよく分かる。昨日までの私がそうだったんだから。」

「昨日まで…。」

「そう。呉爾羅と遭遇したあの日から、私はずっと周りの皆が怖かった。ミヤコも、モエも、ミユも。自分が起こした失敗に巻き込んで、本当は罵られなければいけないはずなのに優しく守ってもらって、それなのに本当のことをずっと言い出せなかった。それが偽りであろうと、優しくしてもらえることに安心感を感じていたのも紛れもない事実だったから。本当のことを知られて、それが失われることが怖かった。今のサオリが感じていることも同じなんじゃないか?」

「…。」

「でも、そんな状態は長く続けられない。そう遠くないうちに自分が限界を迎える。『私が居なくなれば良い』なんて考えて良からぬことを起こすんだ。私がそうだったように。」

 

 サキはそのまま「だから…」と一呼吸おくと、こう告げた。

 

「そんな時は、勇気を出して正直な思いを打ち明けるんだ。私は、そうやって『今』を手にすることができた。」

 

 病院での出来事を思い出す。

 あの時、サキはこれまでの交友関係の一切を捨て去る覚悟であの日起きた出来事の真実を話し、自身の思い抱いていたことを全て打ち明けた。

 その結果、彼女はかつての仲間、そして新たな友人達に支えられて再び前に歩き出すことができたのである。

 

「私の知る風紀委員長は真面目で誠実な人だった。昨日からあれだけこちらを気に掛けてくれているのなら、今更騙すようなことも、途中で投げ出すようなこともするとは思えない。流石にこのまま逃がしてはもらえないと思うけど、それでも皆が悲しまずにいられるような方法なら一緒に考えてくれるさ。今の気持ちを正直に伝えれば、きっと私にとってのサオリのような、大きな支えになってくれる人になるはずだ。」

 

 サキの言葉がサオリの心を揺れ動かす。

 今のサオリの心境は彼女の言う通りだった。

 ヒナ達には数え切れないほどの酷いことをしてしまった。

 なのに今自分はその当人に見逃され、更には味方になってもらっている。

 そんな歪さを心の底では認められず、どこかで自分を裁いて欲しいと、冷酷に罰して欲しいと望んでいた。

 だが一方で今の平穏な日々が崩れることを、目の前にいる人物と引き裂かれることを恐れてもいた。

 だからこそ悩み、決断をすることができなかった。

 

「それとも…やっぱりサオリはまだあの人を信じることができないか?それなら…。」

 

 サオリの青い瞳とサキの青緑色の瞳が真っ直ぐ交差する。

 

「風紀委員長を信じている私のことを、今だけでも信じてくれないか?」

 

 お互いの目をじっと見据えたまま、サキはそう言った。

 サオリの脳内で昨日見た光景が思い出される。

 ヒナが言っていた、あの言葉も。

 

『私は、先生が信じた貴女達を信じたいと思う。同じ先生の生徒として。』

 

(信じる…そうか。そうだな。)

 

 2人の間に沈黙が訪れる中、サオリの表情は次第に微笑を浮かべたものへと変わっていく。

 一方、自分が言っていた言葉の意味を今更自覚したのか、サキの顔はみるみるうちに真っ赤になっていった。

 

「ご、ごめん!つい昨日2人の確執を知ったばかりの奴が勝手なこと言って…。」

「ふふっ…。」

「笑うなよ…私だって、サオリの力になりたいんだ…。」

 

 恥ずかしさから目線を逸らしたサキは自分のヘルメットを深々と被り直すとそのまま顔を伏せてしまった。

 そのヘルメットの上からサオリが頭を撫でる。

 

「いいや、おかげで決心がついたよ。ありがとう、サキ。」

 

 サオリが撫でていた手を離すと、サキは伏せていた顔を上げた。

 

「本当か?」

「ああ。私も信じるよ。お前のことも、風紀委員長のことも。同じ…先生の生徒として。」

 

 サオリのその言葉を聞いた時、サキは再び心が温かい気持ちに満たされていくのを感じていた。

 

(同じ先生の生徒、か。)

 

 自然と顔に笑みが溢れる。

 今の自分を皆と同じように受け入れてくれる相手がいることの幸せを再び噛み締めていた。

 

「…ありがとう。」

「何でサキが礼を言うんだ?」

「サオリの助けになれたことが…嬉しくて。」

 

 そう返事をすると、サオリの表情からも先程まであった影が消えていった。

 彼女の心に、もう迷いは無い。

 

「今夜ヒナに会ったら、今の件を話してみようと思う。それに、スクワッドの皆にも。」

「ああ。大丈夫、きっと悪いようにはならないさ。みんな優しい人達なんだから。」

 

 2人がそんな会話をしていると、公園内に新たな声が響いた。

 

「すみません!RABBIT小隊とアリウススクワッドの皆さん!ゲヘナ学園風紀委員会の火宮チナツです!皆さんにご相談したいことがあります!これから少しお時間を頂けますか!?」

 

「ちょうど向こうから訪ねてきてくれたみたいだぞ?」

「そうだな。」

 

 チナツの声を聞いた2人の表情は明るいものだった。

 

 

 

 

 

「…本当にこれが最後の晩餐になったりしませんよね?」

 

 一方、同じように彼女の声を聞いたヒヨリは食べ終わった弁当箱を片付けながらそんなことを呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「議長、先程風紀委員長が学園に戻られたのを確認しました。間もなくこちらに参られるかと。」

「報告ご苦労。ヒナめ、ようやく戻ってきたか。」

 

 ゲヘナ学園・中央区、万魔殿の執務室。

 絢爛な装飾が施された室内で万魔殿部員からの報告をマコトは聞いていた。

 尊大な態度はいつもの彼女と全く変わっていないように見える。

 

「音信不通になっていた監視部隊の方はどうなった?」

「はい。それがあの後も交信を続けていたところ、監視部隊の無線機から応答があったのですが…その時応えた人物は自身をSRT特殊学園のFOX小隊だと名乗っておりました。」

「FOX小隊だと?学園の閉鎖以降行方不明になっていた部隊があんなところにいたというのか?」

「どうやらそのようなのです。その後、こちら側に生徒を返還すると申し出があり、返還場所の指定がありました。人員を向かわせたところ、気絶した監視部隊の生徒2名と…()SRT特殊学園3年生、七度ユキノがいたそうです。」

「七度ユキノ…FOX小隊の小隊長か。」

「はい、間違いありません。救出した監視部隊2名の報告では、FOX小隊のポイントマンだという金髪に狐耳の、部隊章を付けた制服を着た生徒に気絶させられたとのことで。」

「FOX小隊のポイントマン…確かにその身体的な特徴は以前公表されていた情報と一致するな。」

「七度ユキノは生徒の受け渡しを行う際に、『私達の後輩にこれ以上手を出すようなら容赦しない』と言っていたそうです。」

「後輩だと?」

 

 するとマコトの隣に控えていたイロハが話に参加してくる。

 

「あの公園を拠点にしていたのはSRT特殊学園のRABBIT小隊です。先生が亡くなった際に同行していた空井サキが所属している部隊ですよ。」

「空井サキ…なるほどな。暴徒と化した輩から後輩を守ろうというわけか。だがそのために無関係な相手にまで無差別に武力を振るうなど、SRTも随分と地に堕ちたものだな。」

 

 マコトはフンと鼻を鳴らしながら不機嫌そうにそう呟く。

 彼女にとってはSRTの生徒がどうなろうと関係無く、ただ自身の大切な部下を無碍に傷付けられたことへの憤りがあるだけだった。

 

「事情はわかった。今後あの公園には部隊を近づけるな。そんな奴ら相手に威嚇と取られる行為を続けても余計なトラブルを生むだけだからな。」

「了解しました。それでは失礼します。」

 

 そう言い残し部員の生徒は執務室を出ていく。

 部屋にはマコトのイロハの2人だけが残された。

 

「空井サキの名前も、連邦生徒会の会見が終わった辺りからネットを中心にちょくちょく話題に上がるようになりましたね。大体がネガティブな内容ですけども。」

「先生が亡くなって以降、犯人への報復を望む声は強くなる一方だったからな。その犯人である怪物1号がいなくなった今、次の非難対象が当日の同行者になるのは当然だ。先生が空井サキと共に大戸島に行く予定だったというのはシャーレの関係者にも随分前から周知されていたんだ。情報はどこから漏れてもおかしくない。そうなるのも当然だろう。」

「連邦生徒会は何か対策を考えているんでしょうかね。当事者の保護とか。」

「さあな。我々に対してそういった話は一切無かった。まあ部外者に無駄に話を広げてもトラブルしか生まないのは目に見えてるからな。そもそも連邦生徒会自体は当事者の個人情報に関することなど一切公表していないのにこの有り様だ。であれば、向こうが内々で対処できるならそれに越したことはないんじゃないか?」

「FOX小隊が出現したのがその対処ということでしょうかね?」

「わからんな。わざわざ知る必要も無いだろう。我々には何の関係も無いことだ。」

 

 イロハからの質問に答えつつ、マコトはずっと気になっていたことを尋ねた。

 

「それより、サツキとチアキはどうした?もうすぐ我々万魔殿(パンデモニウム・ソサエティー)が反乱分子たる風紀委員会に鉄槌を下す時だというのに…。」

「あの2人ならイブキのところに行ってもらってますよ。ここ数日間、あの子はずっと元気が無かったですからね。」

「そうか…それなら仕方がないな。」

 

 深刻そうな表情をしたままそう答えるイロハの様子を見て大方を察したのか、マコトはそれ以上の追求をしなかった。

 すると、イロハが再び質問を始める。

 それは例の事柄に関する内容だった。

 

「ところで、風紀委員会がアリウススクワッドと結託して何かを企んでいるというのは本当なんですか?」

「この写真を見てみろ。監視部隊から送られて来たものだ。ヒナと錠前サオリが並んでいる様子が映っているだろう?」

「写真だけが証拠ですか?」

「それだけではない。その写真と同じ場所から映像でも記録されている。残念ながら音声までは録音できなかったがな。」

「つまり2人が何かを話していたということしかわかっていないんですか?」

「それだけで充分だ。あいつらの間に何があったのか、お前も知らない訳ではあるまい。私の知る風紀委員長は、目の前にいる指名手配犯と棒立ちで話し合いをするような奴ではない。錠前サオリの方もそうだ。アイツがあのヒナと対面して何も反抗しない訳が無い。となれば、自ずと答えは出てくる。」

「はあ…。」

「この大事な時に連中がどんな良からぬことを企んでいるのか、このマコト様が全て暴いてくれる!キキキッ!」

 

 いつにも増して元気そうに見えるマコト。

 だがイロハは彼女から顔を逸らしたまま、こんなことを聞いてきた。

 

「それを言うなら、マコト先輩も人のことをどうこう言える立場ですか?」

「ん?何のことだ?」

「アリウス分校との結託。最初にそれを始めたのはマコト先輩ではありませんでしたか?私は以前貴女の口からはっきりとそのことを聞きましたよ?」

「ああ…何かと思えばあの時のことか。」

 

 マコトにとってはどうも記憶の片隅に追いやってしまえるような、大して重要でもない事柄のようだった。

 この時点でイロハの彼女に向ける疑惑の感情が大きくなっていく。

 そんな後輩の気持ちに全く気付かないマコトはそのまま本音をサラッと話してしまった。

 

 

「あの件での我々はただの被害者だっただろう?」

 

 

「…は?」

「あの時アリウス分校は我々との密約をあっさりと破った。その為に私もお前も、イブキにまでも怪我を負わせてしまったんだ。それが被害者でなくて何だと言うんだ?」

「…それが先輩の本心ですか?先輩の手引きを受けてアリウス分校が襲撃を成功させ、それによって先生が重傷を負ったというのに反省の一つも無いんですか?」

「それ自体がアリウス側の独断行動だと言っているんだ。私とは一切関係無いことの何を反省しろと言うんだ?もし反省すべき点があるなら、相手の真の狙いを見抜けなかった自分の詰めの甘さだろう。まったく、トリニティの分派にしてやられたと思うと今でも虫唾が走る。」

 

 依然としてそう語るマコト。

 彼女のそんな返答を聞いたイロハは大きくため息を吐いた後、何も話さなくなってしまった。

 

「イロハ…?」

 

 不審に思いマコトが目線を向けるも、帽子を深々と被り直した彼女の表情は全く伺えない。

 ちょうどその時だった。

 

「議長!失礼します!」

 

 息を切らした万魔殿部員が乱暴に扉を開けて入室してくる。

 

「そんなに慌てて一体どうしたんだ?」

「実はたった今風紀委員長が到着されたのですが…。」

 

 部員が早る口調で説明を始めようとした瞬間、部屋の正面の扉が大きく開け放たれた。

 

「フンッ!ようやくやって来たか!空崎ヒナ!」

 

 扉を開けた人物、ヒナの姿を見たマコトは露骨に嬉しそうな表情を浮かべる。

 彼女が風紀委員会に嫌がらせを行う時によくする表情だった。

 

「招集に応じて来たわよ、議長。今度は一体何の用かしら?」

「キキキッ!何故今こうして招集されたのか、お前自身が一番分かっているだろう!?だが残念だったな!貴様らの良からぬ企みなど、このマコト様には全て筒抜けなのだ!」

 

 自身は豪華な椅子に深々と腰掛けたまま、部屋の前で立ち止まっているヒナに伊勢良く言葉を浴びせるマコト。

 だが一方のヒナはそれに対して顔色一つ変えず、それどころか困惑しているかのような態度だった。

 

「企み?一体何を言っているのかしら?」

「何をとぼけたことを!貴様らがアリウススクワッドと共謀して何かを企んでいることは分かっている!感心しないなあ、指名手配犯を捕らえることもせず、逆に手を組もうなどとは!!」

「…一体何を言い出すかと思えば。」

 

 ヒナはそう言うとゆっくりとマコト達の方へ歩み始める。

 すると彼女に続いてとある人物が部屋へ入室してくる。

 その人物は既に両手を重厚な手錠で繋がれ、風紀委員会の行政官であるアコに後ろから捕まえられていた。

 

「何かを企んでいるなんてとんだ勘違いね。」

 

 直後、手錠を掛けられていた人物はヒナのすぐ後ろ隣に立たされる。

 彼女の格好は白いコートに黒いキャップ帽を深く被り、帽子と同じ黒色のマスクをしていた。

 それは、マコトにとっても非常に見覚えのある姿だった。

 

「私達は、彼女達アリウススクワッドを逮捕しようと動いていただけよ。」

 

 ヒナの隣に立たされたサオリは、かつてのように光を失くした瞳で眼前のマコトを睨み続けていた。

 

 

 

 

 

 




サキの頭なでなではゲームのメモロビ画面っぽい感じを妄想してもらえればと…。ヘルメットカタカタ


ブルアカに再び夏イベントが来てしまう!だが8月1日には『ゴジラ・ザ・ライド グレートクラッシュ』が西武園ゆうえんちで始まるし…一体どっちに大人のカードを使えばいいんじゃあ!



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