皆さん大変お久しぶりでした。
8月に入ってから色々とあっていつの間にか1ヶ月丸々更新なしという事態に…。
こんなはずじゃなかったのに…。
大筋はできていても文章の細かい部分を作っては直して作っては直してを繰り返してるせいでどうしても遅くなってしまうのですが、この通り続ける気はありますのでどうか長い目でみていただけると幸いです。
そして9〜11月の間はほぼ確実に更新が止まります。
皆さんのコメントには必ず目を通しております。
本作を読んでいただけて本当に嬉しいです。
それでは29話になります。
少し時間を遡った小ウサギ公園にて。
「ごめんなさい。急に呼び出してしまって。」
再び公園に姿を現したヒナ達は先程よりも幾分か疲れた様子を見せていた。
先程の監視されているという発言も合わせて、ミヤコはこれから告げられる話の内容には不安しか感じられなかったが、努めて平常を振る舞いながら尋ねた。
「いえ、私達は大丈夫です。それよりも一体どうしたんですか?」
「実は…サオリ達に用があるの。」
そう言われてサオリはヒナと目線を合わせる。
「私に?」
「ええ。急で申し訳ないのだけど大丈夫かしら?」
思いがけず自分に用事があると言われたサオリはどこか出鼻をくじかれたような気分になってしまう。
まさかヒナの方が自分に話があるとは思ってもいなかったのだ。
そして彼女から話があるとなると、さっきまで頭に浮かんでいた『良くない事態』が起きてしまうのではという不安が頭に過ってしまう。
だが、ここで逃げ出すような真似はできない。
「私は大丈夫だ。それで、話とは?」
「それじゃあ、単刀直入に聞くのだけど…。」
そこで一度軽く深呼吸をした後、ヒナは話を切り出した。
「サオリ、貴女は今私達のことをどう思っている?」
その質問を聞いたサオリは一瞬思考が止まってしまう。
色々と想定を考えていた中で、そのようなことを聞かれるとは全く想像しておらず、回答の用意が全くできていなかったのだ。
そのため彼女は相手の質問に質問で返すという行動を取ってしまった。
「私達…というのはヒナ達のことか?」
「ええ。ゲヘナ学園とアリウス分校がどんな関係にあるか、貴女も知らないわけではないでしょう?」
「…ああ。」
「けれど、今の私達はお互いに争うこともせず、共通の目的を持って協力し合っている。正直に言うと、かなり歪な関係としか言えないわ。」
「…。」
「昨日出会ってからしっかりと話し合うこともできていなかったし、改めて聞いておきたいの。他者にそこまで寄り添える心を持った貴女が、かつて敵だった私達を今どう思っているのかを。」
「…随分と狡い言い方をするんだな。」
「大事なことだもの。それに貴女が私の想像している通りの人間なら、こう聞かれて返事を誤魔化すようなことはしないでしょうからね。」
サオリの中で少しだけ緊張が解れる。
ヒナからの話は、彼女が想像していたような良からぬ話題ではなく、本来相見えない筈だった相手の本心を知りたいという、どこか自分が考えていたことと似たようなものだった。
故にあの話を切り出すタイミングは今しかないと決心する。
「その…実は私もヒナに話したいことがあったんだ。今の質問の返事にも関わってくる内容だ。」
「うん。」
「だが、これは私1人だけに留まる問題じゃない。きっと…アツコ達のこれからの人生にも影響を及ぼすものだ。」
「それなら…貴女達だけで先に話す時間が必要かしら?」
そう言ってヒナは近くにいたアツコ達へと視線をむける。
だがサオリが1人申し訳なさそうな態度を取っている中で、スクワッドの他の面々は至って落ち着いた様子だった。
彼女ら3人は少しの間お互いに目配せをし合っていたが、やがてアツコがゆっくりと口を開いた。
「サオリ、ヒナさんに話してあげて。私達は大丈夫。サオリが今考えていることは分かってるから。」
「アツコ!?だ、だが…。」
「そんなに驚くことないでしょ。サオリが今何を考えてるかなんてその態度を見れば分かるよ。何年一緒にいたと思ってるの。」
思いがけない言葉にサオリが取り乱し始めるが、それに対して呆れた様子でミサキはそう返答した。
「私達はずっと貴女に助けられて生きてきた。訓練でも、作戦でも、罰を受ける時も。私達がここにいられるのは、全部貴女のおかげ。だからサオリ、貴女に自分の意思で進みたい道があるのなら、私達も一緒に連れて行って。どんな道であろうとも、それが貴女の隣なら、私達は前を向いて歩んでいけるから。」
アツコは微笑みを浮かべながら安心させるようにそう告げた。
かけがえのない大切な家族からの激励に、サオリは咄嗟に涙が零れそうになってしまう。
「…ありがとう。」
感情を抑え込みながら一言礼を告げたサオリは改めてヒナ達の前へ進み出ると、所持していた
「私は、
「…。」
「私達の身に起きていたこと知っているとはいえ、そちらに対して取り返しのつかない被害を与えてしまったのは紛れもない事実だ。貴女達には私達を裁く権利がある。」
「それは、本心からそう思っているのよね?」
「そうだ。そう思えるようになったのも貴女達のおかげだ。」
「私達の?」
「貴女達は私達のことを、同じ先生の生徒であると言って信じてくれた。正直に言って、幻でも見てるんじゃないかと思ったくらいだ。私は、そんな貴女達の信頼を裏切るようなことをしたくない。」
「…。」
「だから貴女達が本来の自分の責務に戻り、私を逮捕しようというならそれに大人しく従いたい。だが…。」
「だが?」
「同時に私は、ここでサキのことを見放したくもない。もし今この瞬間、私と彼女と引き離そうとする者が現れたなら、それに全力で抵抗するつもりだった。」
「そう…。」
「私が話したかったのはそのことだ。貴女達の信頼に応えたいと思っているが、それとは矛盾した願望を同時に抱いてもいるんだ。そもそも私がそんな願望を持てるような立場では無いことも重々分かっている。だがもし仮にそのどちらかを選ばなければならなくなったとしたら…私は再び貴女達の敵になってしまうだろう。」
「何故それを私に話そうと思ったの?」
「1人で考えていても解決することではないと思ったからだ。どれだけの『もしも』を頭の中で重ねても、貴女の判断が全てを決めることは間違いないのだから。それに…。」
「それに?」
「サキに言われたんだ。1人で抱え込んでいる状態を永くは続けられないと。それはいずれ限界を迎える。だからそうなる前に本心を打ち明けるべきだとな。」
そう言われてヒナの目線がサキへと向いた。
自分の名前を出されたことが恥ずかしかったのか、彼女は交差していた視線を咄嗟に逸らした。
「そんなことを私に打ち明けるなんて、躊躇いはなかったの?」
「実を言うと、サキからそう言われるまで私はこのことを貴女に打ち明ける勇気を出せなかった。自分達が過去に何をしたのかを考えると、その相手に本心を洗いざらい打ち明けることが怖かったんだ。でも貴女は私達のことを『同じ先生の生徒だ』と言って信用してくれた。あれだけのことを引き起こした相手にも関わらず。やろうと思えばその場で我々を制圧することもできたはずなのに、そうしなかった。だから、私も
そう言って、サオリは深々と頭を下げた。
「自分勝手なことだとは分かっている。この件が終わった後はどんな処分を下されても構わない。だから今だけは…力を貸して欲しい。お願いだ…。」
絞り出すような声で語られたその願いは紛れもない彼女の本心だった。
するとサオリに並ぶように前へと進み出たアツコ達も同じように所持していた銃火器類を全て地面へと置き、揃って頭を下げる。
「よろしく…お願いします。」
落ち着いていながらも、確たる意思を持って懇願の言葉を紡ぐアツコ。
対面していたヒナは彼女らの精一杯の誠意に静かに耳を傾けていた。
『…それが貴女達の本心ですか。』
するとヒナの側から初めて耳にする声が聞こえてきた。
思わず深々と下げていた頭を上げて目の前の相手を凝視してしまう。
「どう?イロハ。納得はできたかしら。」
『ええ。今のやりとりもしっかり録音させてもらいましたし、十分ですよ。ありがとうございました。』
ヒナはどうやらイロハという人物となにやら通話をしているようだった。
一体何が起きているのかと困惑していると、彼女はポケットからスマートフォンを取り出す。
どうやら今の声は通話状態のスピーカーから聞こえていたものだったらしい。
「な、何だ?」
「隠していてごめんなさい。実は先程貴女達との関係が外部に知られてしまったの。今通話している相手はそのうちの1人よ。安心して、彼女は味方だから。」
『皆さんが本当に信用するべき相手かどうか判断するために風紀委員長に協力していただきました。少し意地悪だったかもしれませんね、すみません。』
「お前は誰だ?」
『ああ自己紹介がまだでしたね。はじめまして、アリウススクワッドの皆さん。私は棗イロハ。ゲヘナ学園、万魔殿の一員です。』
「万魔殿…。」
『ええ。言うなれば風紀委員会の上層部です。サオリさんには聞き覚えのある名前でしたかね。羽沼マコト、という人物を知っているでしょう?』
「羽沼マコト…ああ、知っているとも。私が不幸にした人間の1人だ。」
その名を聞いたサオリは目に見えて落ち込んだ表情を浮かべ始める。
『はて?不幸にしたとはどういう意味でしょうか?』
「我々は初めから裏切るつもりで彼女と密約を交わしていた。その為に貴女達もあの事件に巻き込んだ。何も知らなかったあの頃は、それが虐げられてきたアリウスにとって正当な権利だと信じていたが…。そんなことは許される筈がない。だから…。」
『風紀委員長、今の聞きましたか?』
「ええ。しっかり聞こえたわ。」
懺悔する彼女を他所に何かを確認し合う2人。
サオリからすれば何が起こっているのか全く分からない。
「聞こえたとは一体何だ?何の話をしている?」
『貴女が今言った、密約を交わしていたという部分ですよ。その密約は結果的に我々が被害を受けただけにとどまらず、先生が重傷を負う遠因にもなりました。』
「だが、それは初めから我々が独断で計画し引き起こしたものだ。そちらの仲間が責められる道理など…。」
『私はそうは思いません。そもそもあの人も初めから他者を傷付ける目的でその密約を交わしていたんです。だからマコト先輩も、アリウスも両方悪いと思っています。ですが貴女方は自分達の起こした事件を自覚し、反省し、償いをしようとしている。さっきの言葉は紛れもない本心なんでしょう?』
「勿論だ。」
『ならそれでいいんです。罪を犯した、悪いことをしたと思っているなら、これから償っていくことが大事なんですから。でもそうではない人間がいる。私はそれが気に入らないだけです。』
イロハの気怠げな声が次第にハキハキした物へと変化していくのがわかった。
どうやら本当に何か頭にくるものがあるらしい。
彼女の話が終わると、続いてヒナが口を開いた。
「気に入らないのは私も同じ。だから少しだけ痛い目に合わせてやろうと考えているのよ。そこでサオリ達にも協力をお願いしたいの。」
「…一体何をする気だ?」
「それは順を追って説明するわ。大丈夫、貴女達を見捨てるようなことだけは絶対にしない。約束する。」
ヒナは真っ直ぐサオリの瞳を見つめたままそう告げた。
「どうする?私達はサオリの選択に従うよ。」
アツコの発言で皆の視線がサオリに集まる。
そんな彼女の内心にはサキとの会話で言われたあの言葉が反復していた。
(勇気を出して正直な思いを打ち明ける、か。本当にその通りだったな。)
彼女の言っていた通り、ヒナはこちらのことを見捨てる気は端から無かった。しかも上層部と呼べる相手を巻き込んで自らの味方にまでしている。
この状況の中ではあまりにも心強いことだ。
もしここで本心を打ち明けなかったら、お互いにすれ違いをし続けて最悪の結末を迎えていたかもしれない。
ここまで手を回してくれた相手に対する返答など、既に決まっている。
「了解した、貴女達に協力する。何をすればいい?」
「た、逮捕…?」
「ええそうよ。」
そして現在、サオリを引き連れて現れたヒナの発言を聞いたマコトは先程までの威勢を一気に失ってしまい、なんとも間の抜けた声の返事しかできなかった。
チラッとイロハの方を振り向けば、「ほれ見たことか」と言わんばかりの呆れ混じりの視線をこちらに向けている。
「急な招集だったからもしやと思ってサオリも連れてきてみたのだけど、どうやら正しかったようね。」
「いやいやいや!!騙されんぞ!!お前達がSRT特殊学園の連中が拠点にしている公園で共に何かをしていたのは知っているんだぞ!!」
「拘束して見張っていたんだから一緒にいるのは当然でしょう。」
「それなら一体いつから一緒にいた!言え!何故すぐにソイツらを学園へ連行せずわざわざあんな場所に留めさていたんだ!」
「彼女達と出会ったのは昨日の夜、私達がD.Uの中央病院に行った時よ。先生との面会を終えた後だから万魔殿が病院から去ってだいぶ経った頃になるわね。SRTの子達と出会ったのもその時。学園に連行できなかったのは身柄を確保した後、そのSRTの子達に監視と警戒をお願いしていたからよ。それがどうしてか、なんて今更聞かないで。昨日の夜間に何があったか、忘れたなんて言わせない。」
「う…。」
「怪物1号発見を受けて開始された駆除作戦。私は専門の討伐部隊員として連邦生徒会に招集されて、イオリは捜索部隊員として早急に学園に帰還する必要があった。直接の戦闘に慣れているとはいえないアコやチナツだけでアリウススクワッドの4人を連行するのはリスクが高いと判断したのよ。もし万が一反抗されて逃走を許したら目も当てられないわ。武装を没収していたとはいえ、アリウススクワッドには、それを可能にするだけの充分な実力があったのだから。」
「だからと言ってSRTの連中に任せたのか?母校を失い、ヴァルキューレへの編入すら拒んで浪人になったような奴らを。」
「彼女達RABBIT小隊は以前行われた『虚妄のサンクトゥム攻略戦』で私と共に第3サンクトゥム攻略を達成した優秀な部隊よ。その実力も、皆の人柄も私はよく知っている。だからこそ頼ったの。それにあの場にはRABBIT小隊と同格かそれ以上の能力を有する部隊がその仲間として滞在していた。緊急事態にこれを頼らない理由は無いわ。」
「し、しかしアリウススクワッドが大人しく捕まったというのがにわかには信じられん。それにお前はソイツらを一度痛い目に遭わせてやりたいと思っていたんじゃないのか?あの時の怒りを何故今ぶつけようとしない?」
「彼女達は最初から抵抗することもなく、私達の命令にも素直に従ったもの。『自分達が犯した罪の償いをしたい』と言ってね。そんな無抵抗な相手をいたぶるような趣味は私には無いわ。」
次々と行われる質問にヒナは努めて冷静に返答していく。
最初のうちは威勢よく詰問していたマコトも彼女の返事を聞いているうちに段々とその勢いを失っていった。
だがそれでも尚、自分の正当性を証明しようとする意思そのものは失っていなかった。
「ええいもういい!おい錠前サオリ!次はお前の尋問だ。さあ話せ、ヒナは何を企んでいる!言っておくが拒否権や黙秘権があると思うなよ?今の自分がどんな立場にあるか、わからないない訳ではないだろうな!?」
彼女は次のターゲットをサオリに切り替えて詰問を再開する。
だが当のサオリはその問いに答えることができなかった。
「錠前サオリさん、先にお伝えした通り我々が許可を出すまで発言は認めませんよ。わかっていますね?」
「何っ!?」
彼女の隣に立っていたアコが冷徹な声でそう釘を刺す。
当然の如くマコトはそれに反発する態度を見せた。
「一体どういうつもりだ行政官!?風紀委員会でありながら
「ええそうですとも。他ならぬ風紀委員会として今は
「ど、どうしたのだ…。お前一体何があった?」
アコはいつになく鬼気迫る声で目の前にいる上司にはっきりと拒否の意思を表明した。
普段とは明らかに違うその様子を見たマコトはいよいよ彼女らの身に何が起きたのか心配になってしまい、今まで散々ぞんざいに扱ってきた相手を気遣う素振りを見せ始めた。
「そこまで言われて、まだ気付けないの?それとも過去の自分がアリウス分校と共に何をしたのか本当に忘れているのかしら?」
だがその態度が逆に気に入らなかったのか、ヒナは先程までよりも殺気を含んだ声色で眼前の相手にそう問い詰めた。
それでも尚マコトは一体何のことなのかわからなかったようで、ひたすら困惑した表情で首を傾げるばかりだった。
「羽沼マコト、貴女にはアリウス分校と結託し、彼女らのエデン条約調印式襲撃を幇助した容疑が掛かっている。普段のような行いならいざ知らず、先生を手に掛けようとした組織と繋がっていた人物の命令に、我々は従うことなどできない。」
紫色の瞳に妖しい光を灯し始めたヒナの言葉が室内に響き渡る。
一見普段と変わらないように聞こえる声だったが、彼女をよく知る者達はその中に確かな怒りが込められていることにすぐさま気付いていた。