皆さんお久しぶりです。
リアルが忙しかったんですがなんとか1話更新できました。
それでは30話をどうぞ。
「お前…何を根拠にそんなことを言っている?」
突然の宣告を受けたマコトは一気に落ち着きを取り戻すと、困惑混じりの声でそう尋ねてきた。
「アリウススクワッドへの尋問を行った結果、エデン条約調印式襲撃において羽沼マコトからの協力があったという情報がもたらされた。我々にとって今の貴女は万魔殿の議長ではなく、1人の
もう隠す必要は無いと一気に捲し立てを始めるヒナ。
眼前の相手を睨見つける目つきがより一層鋭く険しいものになった。
「キキッ…キキキッ!キヒャヒャヒャヒャッ!!」
だがそれに対してマコトは突然大笑いをし始める。
そんな態度を見せられたヒナは彼女の突然の豹変を受けて一気に怒りの感情よりも困惑が表に出るようになってしまった。
「何が可笑しいの?」
「当然だろう!?そんなテロリスト共の言うことを真に受けて私の事を共犯者呼ばわりするなどお笑いだ!!まさかお前達がそこまで脳足りんの集まりだとは思わかなったぞ!!…いや待てよ?そもそも初めからそういう腹づもりだったんだな?自分達の企みが発覚することを恐れたお前は私をテロリストの仲間だということに仕立て上げて議長の座から蹴落とそうとしていた訳だ!そうだろう!?」
「私達の目的はあくまで事実を明らかにすること。何も貴女をテロリストの仲間に仕立て上げようと躍起になっているわけじゃない。アリウススクワッドの供述を正当なものとして認定したのは、その内容とあの日確認された被害の状況に部分的な一致が確認されたせいで一概に無視することができなかったからよ。」
「ほう?ならそれは一体何だ?言ってみろ。」
「それじゃあ答えてもらえる?あの日万魔殿が乗ってきた飛行船、あれはどこから購入したものなの?」
「飛行、船…?」
エデン条約調印式の日、万魔殿は新しく『購入した』飛行船で会場へやってきていた。
件の飛行船は当日のうちに墜落したのだが、それに関してはいくつか不審な点が事件の直後から早々に指摘されていたのである。
「そう。錠前サオリは、以前から結託していた万魔殿に対し『友好の印』を装って爆弾を積載した飛行船を提供し、それを自分達の手で墜落させたと言っていた。そして件の飛行船は墜落の原因が地対空ミサイルといった外部からの攻撃ではなく内部で起きた爆発だったことが回収された残骸から既に判明していた。貴女が自分で購入した乗り物にわざわざ爆弾を搭載して彼女らの襲撃に合わせて自爆したとは考えられないから、彼女の供述が一定の真実味を帯びてしまったのよ。」
「…。」
「それに付随して気がかりな点はもう一つある。実はここに来る前、アコに万魔殿の経理関係について調べてもらった。あれほど巨大な飛行船を購入したとなれば、それなりに大きな金額がどこかへ支払われているはず。それが確認できれば錠前サオリの供述は全くのデタラメだったと判断できるからね。でも、そのような記録は一切確認できなかった。貴女は購買関係の記録はきちんと残しておく人だった筈だし、昨日使用していた戦艦を購入した記録はきちんと残されていたというのに。だからあの飛行船が本当に購入したものかどうかがまず疑われてしまっている。」
「あ、あれは…。」
「けれど資金の出処は何も一つじゃない。学園の経費でないなら個人の出費で購入したものであるという可能性も考えられる。でもこればかりは貴女の口から直接話してもらうしか証明する方法が無いの。」
「う…。」
「もしかして企業名を言っても分からないかもしれないと思ってる?大丈夫。あれだけの飛行船を保管して取り扱えるような企業となればキヴォトスといえども数は限られてくるから調査の労力はそれほど必要じゃないわ。だから正直に話してちょうだい。貴女自身の潔白をここで証明するためにも。」
ヒナはじっと相手を見つめたまま催促を繰り返す。
「その…。」
「どうしたの?貴女がこの件に関して返答を躊躇う理由など一つも無いはずよ?」
「えっと、だな…。」
一方のマコトはそれに対して歯切れの悪い返事しかできなかった。
彼女が以前風紀委員会への説明で語った『飛行船を購入した』という話はほとんど嘘であり、実際はサオリの言う通りアリウス分校から無償で贈られたものだった。
費用を支払った形跡が無いのも、そもそも購入していないのだから当たり前である。
適当に誤魔化そうにも、飛行船は銃のように購入先が星の数ほどある訳ではなく、例えブラックマーケットを含めたとしても100に達するかどうかといった数しかない。
ヒナが本気を出せば総当たりで十分調べ上げられる程度のものだ。
適当に名前をでっち上げてもすぐにバレるだろうし、そもそもマコト自身そこまで航空機を販売している企業の名前に詳しい訳ではない。
どう答えても嘘が発覚するのは避けられない状況だった。
「マコト先輩、変に牛歩しても事態は好転しませんよ。早く白状したらどうなんですか。」
「何を言うイロハ、白状も何もないだろう?私は今思い出そうとしているだけで…。」
「あ、言っておきますけど風紀委員長達は本当のことを全部知ってますよ。誤魔化しは効きませんからね。」
「な、何ぃっ!?」
さも当たり前のようにそんな大事なことを言うイロハの方にグルリと顔を向けながら驚愕の声を上げるマコト。
「どうして連中がそれを知っている!?」
「私が話しました。」
「何故そんなことをした!?」
「別に言うなとは言われませんでしたからね。それにわざわざ隠す必要も無いでしょう?マコト先輩が言ってたじゃないですか。我々は只の被害者だって。」
身内が裏切ったのではないかと慄き出すマコトに対してイロハは先程彼女自身が言っていた主張をそっくりそのままお返しした。
自分達は被害者であり、責められる道理は一切無い。だから隠す必要もないだろうと。
イロハ自身は決して意図したものではなかったが、追い詰められて冷静な判断力を失っていたマコトには彼女がそう言いかけてくれたかのように聞こえた。
故に、マコトはその言葉を自分へ向けた声援として受け取ってしまった。
「ああ!ああそうだとも!私はエデン条約調印式前からアリウス分校と結託していた!!目障りな
「容疑を認めるのね。じゃあエデン条約を締結する気も初めから無かったの?」
「そんなものこれっぽっちも興味無かったね!!私が関心を持っていたのは邪魔者を排除することだけだったんだからな!!だが結局、アリウス分校は初めから我々と手を組む気など無かった!!その後奴らが何をしたかはお前達も知っての通りさ!!私は連中に良いように利用されて捨てられた、只の被害者なんだよ!!」
「それ本気で言ってるの?アリウス分校は初めから先生の殺害も攻撃計画の中に組み込んでいた。貴女が協力したせいで彼女らはそれを半ば成功させてしまったというのに自分は何も悪くないと思ってるわけ?」
「私はアリウス分校の真の目的などこれっぽっちも知らなかった!!先生への襲撃も奴らの完全なる独断だ!!何も関与していない私が悪い訳ないだろうが!!」
「…そう。ならもういいわ。」
マコトの話を聞いたヒナの表情に、既に怒りの感情は無かった。
あったのは呆れと憐れみ、そして諦めだった。
「ん?」
「貴女が本当に只の被害者かどうか、彼女達に判断してもらうことにしましょう。」
そう言うと、ヒナはポケットから携帯型の無線機を取り出した。
それには既に起動していることを示す青いランプが灯っていた。
「お前…誰と連絡を取っている?」
「すぐにわかるわよ。」
そう言った直後、何者かが部屋の扉を勢いよく開け放った。
皆の視線が入り口の方へと集中する。
「サツキ…?」
そこに居たのは万魔殿のメンバー、京極サツキだった。
そして彼女の手にはヒナが持っているものと同じタイプの無線機が握られていた。
マコトの思考がどんどんクリアになっていく。
同時に脳内に浮かんできたのは考えうる限りで最悪の結論だった。
「まさか…!」
狼狽えるマコトを他所にサツキは手前にいたヒナ達を通過してどんどん近づいてくる。
酷く憔悴した、目の前の現実を受け入れたくないという表情を浮かべながら。
「マコトちゃん、今の話はどういうことなの…?」
「いや、これはだな…。」
「あのアリウス分校のテロを裏で手引きしていたっていうの…!?」
「…そうだ、その通りだ!!私は初めからアリウス分校と裏で結託していた!!だが私は連中に騙されたうえにあっさり切り捨てられたんだ!!」
「でもそれのせいで先生は死ぬところだったんでしょう…!?」
「だから先生を狙ったのはアリウス分校だ!!私は何もしていない!!」
最早開き直ることしかできなくなったのか、友人からの問い詰めに対して延々と責任転嫁を繰り返すマコト。
その発言を聞いたサツキの表情が段々と失望に染まっていく。
「どうして…どうして『そんなのは全部嘘っぱちのデタラメだ』って言ってくれないの…?」
ついには顔を手で覆いながら嗚咽を零しはじめる。
ここにいる者は皆、彼女がこれほど悲しむ様子を今まで見たことが無かった。
さすがのマコトもこの光景を目にして威勢を張れるような神経は持っていなかった。
「サツキ…?」
「ねえ…チアキとイブキがここに来なかった理由、分かる?」
「…ん?」
「今の話を聞いて、イブキが『マコト先輩なんかもう顔も見たくない』って言って部屋に閉じ籠もっちゃったのよ。チアキは心配して追いかけて行ったけど、あの子は誰も部屋に入れようとしてくれないって。ただでさえ先生が亡くなってからずっと泣いてばかりだったのに…一体どうすればいいの?ねえ?」
「な…!?」
『イブキが悲しんでいる』そう理解した瞬間、彼女の思考は完全に暗闇に沈んだ。
同時に居ても経ってもいられず、
「待ちなさい。まだ話は済んでいない。」
ヒナは隣を通過しようとした彼女の腕を掴んで引き留める。
「手を離せ風紀委員長…。」
「断る。さっきも言ったようにテロリストの共犯者である羽沼マコトの命令になど従うわけにはいかない。」
ゲヘナ最強と謳われる風紀委員長から向けられる敵意にも一切怯むことなく、マコトは真正面から相手に抗議する。
そのまま数秒間2人は固まったまま黙り込んでいた。
次に言葉を発したのはヒナだった。
「考えてみなさいマコト。仮に今の貴女がイブキの所へ向かったとして、事態が良くなると思う?」
「何だと…!?そもそもお前が仕組んだ
「私はただ本当のことを教えだけ。それを知ってどう思うかは当人次第よ。何故
その言葉を聞いて、マコトは改めてこれまでの経緯を思い出す。
自分が起こした行動を知った他の面々がどんな反応だったか。
ヒナとアコは強烈な怒りを見せた。
イロハは自分に対して『反省の一つもないのか』と問うた。
サツキは『どうして「そんなのは全部嘘っぱちのデタラメだ」と言ってくれないのか』と泣いた。
そしてイブキは…『マコト先輩なんかもう顔も見たくない』と拒絶した。
自分に向けられたのは負の感情ばかり。
つまり…。
(全部…私のせい?)
他の誰でもない、自分のせい。
自身の起こした行動がこれだけの負の感情を引き起こし、何よりも大切な
それだけに留まらず、自分はイブキから完全に嫌われた。以前勝手にプリンを食べた時のように。
それも自分の行動が招いた結果に他ならない。
そう理解した瞬間、マコトはその場に膝から崩れ落ちてしまった。
顔を伏せ、虚ろな瞳でじっと床を見つめたまま黙り込んでしまう。
「少しは自覚できた?自分がしたことの重大さが。周りの人間が今の貴女をどう見ているか。」
ヒナからの質問に今のマコトは一切反応を返さない。
煽り文句の一つさえも。
「…今この場でこれ以上の追求は無理そうね。」
「今更追求の必要などありません。即刻処罰にかけるべきです。」
その様子を見ていたヒナとアコは、呆然としているマコトを見てこれ以上話ができるような状態ではないと判断する。
早々に決着を着けようとするアコに対してヒナの口から出た言葉はおおよそ普段の彼女らしくないものだった。
「羽沼マコトの今後の処遇はひとまず万魔殿に任せる。どのようにするか、一度そちらで決めなさい。」
「委員長!?いいんですか!?」
「わかりました。」
「アリウススクワッドはゲヘナ学園外へ移送する。共犯者がいる学園内での拘留は脱走を手助けされる可能性が捨てきれないから。」
「例のSRTの方々の所ですか?」
「ええ。こんな事態になってしまった以上、この学園内よりも彼女らの元の方がよっぽど安心してスクワッドの身柄を任せられると判断させてもらった。」
「しかしSRTの生徒達は学生を名乗ってこそいるものの、母校を失った今では無所属の不良同然の存在です。それにあそこは只の公園。それこそ長期間の拘留なんて現実的でないのでは?」
「彼女達にもちゃんと所属している組織はあるわ。他ならぬ『連邦捜査部
「そうですか。サツキ先輩、いいですよね?」
「…わかったわ。」
イロハとサツキが呼びかけに応じたのを確認したヒナは困惑するアコを他所に踵を返して出口へ向けて歩き出す。
「それと今のうちにはっきり言わせてもらうけど、今後ゲヘナ学園におけるアリウススクワッドの処遇に関する全ては風紀委員会が請け負う。共犯者を出した万魔殿からの介入は一切認めない。わかった?」
直後に顔だけを僅かに振り向かせてマコトをギロリと睨みつけながらそう宣言した。
それを告げられた当人はその言葉に対してすら一切反応を返さなかった。
「アコ、行くよ。」
「は、はい。」
サオリを連れた風紀委員達は何の躊躇いもなく部屋を後にする。
室内にはすっかり覇気を失った万魔殿の面々だけが残された。
「少しは反省する気になりましたか?マコト先輩。」
イロハの問いかけに対する返事は、無かった。
(これは少しやり過ぎましたね…。)
一方
万魔殿の建物を出たヒナ達はこの場へ来る為に使用した護送車に再び乗り込むと、元来た道を真っ直ぐ引き返していた。
チナツとアコに運転席を任せ、ヒナはサオリ達と共に車両後部に収容されている。
仮にスクワッドが反抗した場合に備えた対抗手段として乗り込んでいる…という建前である。
「お疲れ様、もう大丈夫。」
ヒナはそう言うとスクワッドの4人に掛けられていた鉄製の手錠を順番に外していく。
アツコ達も緊張が解けたのか大きく溜息を吐いていた。
「悪いけど
サオリ達の右手首には腕輪のような物体が嵌められていた。
色は白単色、形は至ってシンプルで飾り気の無いもので、装飾はおろか僅かな凹凸すら存在していない。
「そういえばこれは一体何なんだ?」
「それはつい先日配備が始まったばかりの最新式の手錠よ。GPS内蔵だから24時間リアルタイムで対象の行き先を追跡できる。強度も申し分ないから人間の力ではまず外せない。私達風紀委員を始めとした特定の人間が持っている専用の解除機器を使わない限りはね。」
「というと、どのくらい頑丈なんだ?」
「製作したのはミレニアムだから具体的な素材まではよく覚えていないのだけれど、少なくとも私が自力で破壊できなかった程度には頑丈よ。」
「…それならまず我々では傷付けることもできないだろうな。」
「加えて無理に外そうとした場合に備えて、内蔵されている注射器サイズの針を射出して腕の神経に直接激痛を与える機構が搭載されている。さらに超大音量のアラームも鳴る仕組みになっているわ。」
「なるほど、脱走対策も万全というわけか。だがそれも反抗するようなことをしなければ只の飾りに過ぎないだろう?」
「勿論。それに誤作動が起きないようにセンサーも高精度のものが搭載されてる。ただの銃撃戦に巻き込まれた程度の衝撃だったら誤検知することも無いから、日々の生活を送る分には気にする必要は無いわ。」
「これを付けるだけでいいのなら文句なんて無いさ。」
激痛を与えるといった単語を聞いたヒヨリがこの世の終わりかのような表情を浮かべ始めたためヒナは安心させるようにフォローを付け足す。
一方、一通りの説明を聞いたサオリは安心しきったような表情をしていた。
「ところで良かったんですか?あの人達に一旦処遇を任せて。」
「イロハやサツキがいるなら大丈夫。それにマコトへ本当に反省を促すのなら、私達が武力行使するよりもアレが一番効果的よ。」
「それはそうなんですけど…。」
「納得できないかしら?」
「いえ、マコト議長の様子を見るに確かに効果絶大なのは分かるんですが、やはり普段の私達の役職を考えると…いえ、今更そんなことを気にしても仕方ないかもしれませんね。」
「今ここで議長を引きずり降ろすようなことをすれば誰かがその後釜に入らなければならなくなる。でも私達や他の万魔殿議員では彼女の代わりが務まらないことくらい貴女もわかっているでしょう?」
「まあ…そうですね。」
「それにマコトの言っていた私達がアリウススクワッドと共謀しているという指摘自体は決して間違っていない。これ以上探りを入れさせないためにも、今は万魔殿を本件に介入させないことを優先するわ。」
「わかりました。」
いくらか腑に落ちない様子だったアコにそう言い聞かせて納得させる。
だがヒナが起こした今回の行動に疑問を持っていたのはアコ1人だけではなかった。
「あの、ヒナさん?」
「何?」
「どうしてここまで私達の味方をしてくれるんですか?私がアリウスで教えられたヒナさんの人柄はもっと厳格かつ生真面目で、指名手配犯の要望を聞いて手を貸すような性格ではないと思っていたんですけど…。」
「貴女達が先生の生徒だから、じゃあ駄目?」
「そう言っていただけるのはとても嬉しいんですけど…やっぱりまだ違和感があるんです。そもそもいくら私達が先生に受け入れられた生徒だとしても、あの事件を起こした実行犯なのは変わりません。それなのに何の罰も与えずに受け入れるなんてあまりに都合が良すぎる気がするんです…。」
ヒヨリが恐る恐るそんなことを尋ねる。
彼女はエデン条約調印式の際にヒナを足止めする任務を与えられており、作戦遂行の為に標的の人柄を他の面々よりも細かく教え込まれていた。
そんな中で今回行動を共にしているヒナが自分の知っている人物のそれとかけ離れていることがずっと違和感となっていたのである。
そのことを指摘されたヒナはどこか遠い目をしながら質問に答えた。
「都合が良すぎる、ね。確かにこれは完全に私個人の感情を優先した行動よ。世間からすれば犯罪者に手を貸している悪いことだと言えるんでしょうね。」
「それを分かっていてどうして?」
「
「…理由を教えてもらえますか?」
皆の注目がヒナに集まる。
ゲヘナ学園へ来る前に話をする機会は一度あったが、彼女がここまで協力をしてくれる具体的な理由まで聞くことはできていなかった。
「数日前、先生が亡くなった知らせを聞いてから、私はおかしくなった。現実を受け入れられなくて、ひたすら仕事にのめり込んで誤魔化そうとした。もういっそ、そのまま過労で
「…。」
「そんな時、友人がある人達を連れてきてくれた。普段なら捕まえる対象である筈の、問題児達を。私は最初、それを歯牙にもかけなかった。周りのことなんて一切見えていなかったから。でも無理に体を動かしていたことが祟って、すぐに倒れた。」
「それで…?」
「目が覚めた後、その問題児からこっ酷く叱られたわ。普段なら私から一目散に逃げ出すような人なのに、その時は違った。本気で私のことを心配して、怒ってくれた。私は、そこで限界を迎えた。」
「限界を迎えた…?」
「1人じゃ抱えきれなかったの。我慢できなくなって、それまで溜め込んでいた不安も、不満も全部吐き出した。そして、皆はそんな私を受け入れてくれた。風紀委員長としてではなく、1人の生徒として。」
「…。」
「一度壊れそうになった私を助けてくれたのは今まで敵対してきた問題児達と、これまで一緒にいてくれた仲間達。だから昨日見たサキとサオリのことが、ほんの少し前までの自分と重なって見えてしまって…。」
「それで私達のことを…。」
「今までずっと捕まえようとしてきた問題児達に私がこうして助けられているのだから、他の人にだってそんな境遇があっても良いはず。少なくとも今の私はそう考えている。今の
ヒナはハッキリとそう宣言する。
そんな彼女の様子を見たサオリは改めて目の前の相手に向き直り、その瞳を真っ直ぐ見据えた。
「ヒナ。」
「ん?」
「今の話を聞いて改めて決心がついた。私は必ずサキの力に、心の支えになる。約束する。絶対に。」
その言葉には、確固たる意志が宿っていた。
「…ええ、お願い。その役目はきっと貴女にしかできないことよ。他の誰でもない、貴女のね。」
そう言うと、ヒナはサオリに向けて手袋を外した手を伸ばした。
握手を求める動作で。
「ああ…!」
サオリは同じように手袋を外し、自分よりだいぶ小さな相手の手を強く握り返した。
その直後、車のスピードが次第に落ちていく感覚を皆が感じた。
「どうかしたの?」
「誰かが前方に…。」
ヒナは後部室と運転席の間に設けられた小窓を覗き込みながらアコ達に声を掛ける。
小窓から見えた景色には、車の進路を塞ぐように立ちはだかる1人の少女の姿が映っていた。
その人物が着ている服装は、運転席に座る2人にとって見覚えのあるものだった。
「ニコさん…?」
チナツがポツリとそう呟く。
白と黒を基調とした制服に桃色の髪と頭から突き出る2つの耳は、昨日出会ったニコの特徴に間違いなかった。
彼女はわざわざ目立つように大きく手を降っている。
そして車が停車したことを確認すると早足でこちらへと近付いてきた。
ニコの様子を見たチナツはおもむろに窓を開けて相手の出方を待った。
「急に停めてしまってすみません。風紀委員会の皆さんに取り急ぎお伝えしなければならないことがあって…。」
「どうしたんですか?」
車のすぐ隣へ貼り付いたニコの表情には僅かな焦りが浮かんでいた。
「現在小ウサギ公園にはトリニティ総合学園の正義実現委員会とティーパーティーのホストが来ているんです。今公園に踏み入れば面倒な事態になります。」
「トリニティのトップが?一体何のために?」
チナツがそう尋ねた途端、ニコは悲痛な表情を浮かべ始める。
そして酷く落ち込んだ声色でこう答えた。
「それが…怪物1号が駆除されたことで、トリニティ内で今度は
彼女の発言によって、車内は一気に緊張感に包まれた。
次の更新は早くて1ヶ月後くらいになると思います。
どうか気長にお待ちください…。