皆さん大変お久しぶりでした。投稿者です。
まさか2ヶ月も空いてしまうとは想定外…。
11月に入ってからゴジラの新作が発表されたりブルアカはアリウス周りが一段落したりと色々あったりしてますが本作は本作独自の設定で進みます。
できれば投稿ペースを休載前くらいにしたいと思ってはいるのですがまだしばらくは大変かもしれません。
それでは31話をどうぞ。
帰ってきたことをニコ伝いでミヤコ達へ連絡した風紀委員達は車を近辺に停めて公園内へと歩みを進めていた。
既にトリニティの生徒がいるということもあり、今向かっているのはヒナとチナツだけである。
そうして進んでいると、RABBIT小隊のテント群が視界に入ってくる。
その中に一際目立つ真っ黒な翼を備えた大柄な人物の姿が見えた。
「ハスミさん。」
「チナツさん、風紀委員長…。」
「ご無沙汰しております。昨日の駆除作戦はお疲れ様でした。」
「ありがとうございます。お二人もお疲れ様でした。」
チナツの声に気付いたハスミは落ち着いたトーンで返事をする。
お互いに面識のある相手ということもあり、特に険悪な雰囲気になることもなかった。
「RABBIT小隊の皆さんは今どちらに?」
「あちらのテントの中です。今はティーパーティーのホストとお話しております。」
「そうですか。」
「お二人とRABBIT小隊の皆さんに何があったかはミヤコさんから簡潔にですが伺っています。サキさんの件は…心よりお悔やみ申し上げます。」
ハスミの言葉を聞いたヒナは思考を巡らせる。
彼女の言う簡潔に伺ったというのがどこまでを指しているのか、サオリ達のことまでを知っての発言かそうでないのか。
探りを入れることも踏まえてヒナは話を切り出した。
「それなら早速本題に入らせてもらっていいかしら?先程SRTの生徒から聞いた話では、トリニティ内で空井サキを排除しようとした生徒が確認されたそうだけれど、一体何があったの?」
「わかりました。ことの始まりは数時間前、正義実現委員会へ入った匿名の通報からでした。内容は『トリニティ生の一部が他校生徒への襲撃を計画して集まりつつある』というもの。」
「…。」
「そういった事案自体、トリニティ内では決して珍しいものでは無く、正義実現委員会による鎮圧そのものは程なくして完了したのですが、問題が浮上したのは逮捕後に行った事情聴取からでした。」
「その聴取の内容にあの子が浮上したということね。」
「そうです。彼女達が襲撃を企てていた相手こそ、あの日先生と大戸島へ同行していた空井サキ。特に問題だったのは、彼女達は誰かに率いられて今回の行動を起こしたのではなく、各人が自分の意思で自然と集まってきていたということでした。」
「つまり、根本的な問題はまだ解決されていないと?」
「はい。集まっていた生徒達の1人1人が、ある意味で主犯と呼べる存在であるが故に完全に火種を消すことがほぼ不可能。それどころか今後このような行動を起こす生徒は間違いなく増加すると予想されます。」
「…。」
「そのうえ、怪物1号の存在が発表されて以降生徒達の装備する火器類の強大化が目立ち始めています。今回の鎮圧でもこれまでトリニティ内で認知されていなかった武器の使用が確認され、こちらにも想定外の被害が発生しました。そのため…。」
「これまでより強力な装備を持った生徒達が無尽蔵かつ無制限に空井サキへ襲撃を仕掛けてくる可能性が高い…。」
「その通りです。彼女達に避難を呼びかけに来たのもそのためです。」
「けれど今の話を聞く限りだと、そもそもとしてその問題はトリニティ内部で収めるべきものではないのかしら?いくら規模が大きいとはいえ、本来
ヒナは目を鋭く細めながらハスミに向かって問い詰める。
話を聞いてみれば、規模が大きすぎることを言い訳にトリニティ内で起きた問題への対処をサキ達に丸投げしているようにしか聞こえない。
あまりにも無責任すぎるというのが彼女の率直な感想だった。
「それについては私から話をさせてもらおうか。」
二人の会話に新たな声が割り込んでくる。
声のした方を振り向けば、テントから1人の生徒がこちらへ歩いて来ているのが見えた。
その姿は純白の装いにヒナより少々高い背丈と金色の長髪。頭には狐のものに似た耳が生えている。
「貴女は…。」
「こうやって顔を合わせるのは初めてだったかな。改めて自己紹介をさせてもらうとしよう。トリニティ総合学園3年生、ティーパーティー所属、百合園セイアだ。」
「…ゲヘナ学園3年生、風紀委員会委員長、空崎ヒナ。」
「ゲヘナ学園1年生、風紀委員会委員、火宮チナツです。」
「ではお互いに自己紹介も済んだところで、説明を始めさせてもらうよ。」
お互いに軽い自己紹介を交わしていると、テントからはサキ達4人も外に出てきていた。
メンバーが一通り揃ったところでセイアは本題に移り始める。
「まず風紀委員長の指摘した事だが、確かにその通りだ。エデン条約調印式での一件を経た今、トリニティの生徒達が先生が亡くなったことに対してどんな考えを抱くかなど最初から分かりきっていたというのに、私達は事件の犯人を討ち倒すことに目が眩んでやるべきことをしなかったんだ。こうなってしまったのは完全にこちら側の怠慢が原因だ。」
「わかっているなら、何か考えがあると思っていいのよね?」
「勿論だ。空井サキへ向けられている非難の目を解消させる施策は今後ティーパーティーの全力を挙げて取り組むことを約束する。あの島で彼女の身に何があったかは今しがた聞いたよ。結果がどんなものであったにしろ、本人は決して悪意を持って怪物1号…いいや、ゴジラに攻撃を行ったわけではない。そんな人物に対して第三者が敵意を向けて私刑を企むなど絶対にあってはならないことだ。だが…。」
「だが?」
「一度燃え上がってしまった憎悪の炎はそう簡単には消せない。今即座に全ての生徒から彼女への怒りを取り除いて安全を確保するのは非常に難しいと言わざるを得ないんだ。これは現状を努めて冷静に判断したうえでの結論だよ。」
「そう…。」
「だからこそ、今だけはどうか世間から身を隠すことを最優先して欲しい。今回はトリニティの生徒による犯行だったが、空井サキという人物の話題がネット上を中心に際限なく拡散され始めてしまっている今、同じようなことを考える者は今後他の自治区からも必ず現れる。断言していい。ここにずっと留まり続けるのは非常に危険だ。当然、彼女達をただで放り出すつもりなど毛頭ないよ。以前私が身を隠していた時に協力してもらった友人へ既に助力をお願いしている。彼女なら誰にも見つからない完璧な隠れ家を提供してくれるはずだ。何しろアリウス分校に命を狙われた私を最後まで隠匿してくれたんだからね。どうだろう、これで多少は納得してもらえたかい?」
セイアが何をしようとしていたのか把握したヒナは思考を続ける。
トリニティ内で起き始めている騒乱の芽は既にティーパーティーの権限でも易易とは抑えきれない程に拡大し始めており、更には他の自治区でも同じような火種が燻っている状態になっていること。
そして彼女は既にサキの身に起きた出来事を知ったうえで、逼迫した現状の中で身の安全を最優先する手段を提案してくれていること。
残る懸念事項は…。
「サキ、貴女はそれで納得しているの?」
まずは当人がこの提案をどう思っているか確認する。
「え、いや…。」
急に話を振られた本人はというとやはりというべきか、どこか決断をしかねているようだった。
チラチラとヒナの表情を伺いながら何かを切り出そうとしているように見える。
「その…風紀委員長達はどうだったんだんだ?えっと…
サキの口ぶりからある程度の状況を察する。
ここでわざわざサオリ達の名前を出さずに濁した言い方をしたということは、この2人にはまだ彼女達のことを話していないということだ。
「無事解決したわ。当分の間ゲヘナ側でトラブルが起きることはない筈よ。」
「そうか…。」
返事を聞いたサキはホッとした表情を浮かべる。
だがヒナの心情は穏やかになってはいなかった。
(こちらに有利な状況に持ち込むにはどうすれば?トリニティ側と折り合いを付けつつサオリ達とサキ達をこちらへ抱き込むための策は…。)
「用事?」
「…ええ。実は先程まで私達の上層部に招集されていたものでね。」
自分達の知らない話題が出てきたことを訝しんだセイアが質問を掛けてくる。
ヒナがそれに応じていると、突然ミヤコの装着していた無線機が声を発した。
『RABBIT1、こちらFOX4、応答願う。』
「こちらRABBIT1、FOX4、どうしました?」
『
「ゲヘナ学園の生徒ですか…。」
『何れにしろ新たな襲撃者の可能性があるから、接触を図った方がいいと思う。けれど人数がこれまでと比べて明らかに多いから単独で向かうのは危険だね。』
「了解しました。FOX小隊の3名にそちらへ向かっていただきます。」
「ちょっと待ってもらえる?」
通信中のミヤコにヒナが横から声を掛けた。
「どうしました?」
「貴女、今ゲヘナ学園の生徒と言ったわよね?」
「はい。どうやらこちらへ接近している武装集団の中にゲヘナ学園の制服を着た者がいるとのことで。」
「数は?」
「50名ほどだそうです。」
「それなら私が行く。」
「えっ?」
「ゲヘナの生徒が他校生徒に迷惑を掛けるような事態を黙って見過ごすことはできない。それに私なら50人程度の人数は単独で制圧できるから戦力の分散も防げるわ。」
「ですが…。」
「負担を掛けているなんて考えないでちょうだい。もう無関係な間柄じゃないでしょう?」
「では…お願いします。」
「ありがとう。観測手にもそう伝えておいて。百合園セイア、悪いけど話の続きは少々待ってもらえるかしら?」
「ああ、構わないよ。」
「それじゃあ、行ってくる。」
そう言い残しヒナは公園の外へと飛び出して行った。
ヒナは障害物を軽々と飛び越えながら目的地へと急ぎ足で向かう。
ほどなくして話にあった生徒の一団が見えてくる。
報告の通りゲヘナ学園の制服を着た者が数名確認できた。
そんな集団の前方数メートル先に勢いよく着地する。
「な、何だ!?」
「人?が落ちてきた!?」
突然目の前に人間が降ってきたことで集団は一気に混乱状態に陥った。
「この先の小ウサギ公園には現在ゲヘナ学園風紀委員会の保護対象が滞在している。用事がある者は私が窓口になるから用件を言いなさい。」
そんな状況を尻目にヒナは冷徹に風紀委員としての職務を始めた。
「え?ゲヘナ学園風紀委員会…?」
「ちょっと待って、あの人ヒナ委員長だ!!」
「嘘でしょ!?なんでここに!?」
相手の正体を知った武装集団は恐慌状態に陥った。
とても自分達だけで対抗できるような相手では無いと知っているのである。
「どうしたの?私は用事が無いか尋ねただけなのだけど…それとも何か良くないことでも企んでいたのかしら?」
「う…。」
わざと相手を煽るように問い詰める。
自分を見ただけで狼狽えるのは大体校則違反を犯そうとしている者だけだと理解しているが故に、既にヒナの中ではこの一団は武力制圧の対象に認定されていた。
「ど、どうする?」
「やっぱり私帰ろうかな…。」
「今更何言ってるんだよ!」
「だって風紀委員長が敵だとしたら勝てる訳ないし…それにやっぱりこんなことしても意味無いんじゃないかって思えてきて…。」
「待て、落ち着け。良い考えがある。私達の目的は風紀委員長を倒すことじゃない。むしろここへあの人を釣れ出せたなら好都合だ。
ヒナの質問に答えること無く、彼女達はヒソヒソと相談をし始める。
その中のリーダーらしき人物が弱腰になった仲間に向けて発破をかけた。
「何をコソコソ話して…。」
ヒナがそう尋ねた直後、背後の公園内で大きな爆発が起こった。
「FOX4、こちらRABBIT1、先程該当区域へゲヘナ学園の風紀委員長が向かいました。間もなく到着すると思われます。」
『えっ風紀委員長が…?って本当に来てるし。風紀委員長の姿を確認。いやあ早いねえ、流石ゲヘナ学園最強。』
オトギはヒナの超人的な身体能力を見て感嘆の声をあげる。
自分達とは別の生物と呼べるほどの隔絶した能力差があるということは以前から情報で知ってこそいたものの、実物をこうして目の当たりにしたのは彼女も初めてだった。
『風紀委員長が到着したことで武装集団は前進を停止。今は何かを話してるみたい。』
「了解しました。これで引き上げてくれるといいのですが…。」
ひとまず不穏な集団はヒナによる対応で解決できそうであった。
後は相手が風紀委員長の正体を知っていて攻勢に出るような命知らずでないことを祈るのみである。
しかし直後にミヤコ達の耳にとても嫌な音が聞こえてきた。
まるで花火を打ち上げる時のような、あの風を切る音が。
「皆伏せてっ!!」
一際早く音の正体を察知したニコは大声で周囲に警告を送り、隣にいたチナツの頭を抱えて地面に倒れ込んだ。
次の瞬間、彼女達のいた場所のすぐ近くで大きな爆発が起こった。
(爆発!?)
ヒナは公園の方向を振り返る。
するとここからでもハッキリと識別できるほど大きな煙が立ち昇っているのが目に入った。
(砲撃!?それとも別の襲撃者がいた!?)
ここからでは爆発の正体が一体何なのか判別できず、一瞬思考がそちらに引っ張られてしまう。
その結果背後にいた集団の動きを認知するのが僅かに遅れてしまった。
立ちすくヒナの足元にコロンと円筒型の物体が転がってくる。
それはすぐさま大量の白煙を噴き出し始めた。
「催涙弾!?…いや煙幕!?」
ヒナの周囲はあっという間に夥しい量の煙に覆われ視界が塞がってしまう。
咄嗟に空へ飛び上がろうとしたが、次の瞬間自身に近づく気配をヒナは察知した。
「ふっ!!」
機関銃の銃身を振り回し接近してきた敵を張り倒す。
彼女の強大な腕力で殴られた相手は一瞬で遠くに吹き飛ばされていった。
それを皮切りに彼女への攻撃が始まる。
立て続けに20人の少女が武器も持たずに纏まってヒナへ飛びかかった。
「怯むなっ!!リーダーに続けっ!!」
「うおおおっ!!」
突進してきたうちの15人が纏めて吹き飛ばされる中、僅かな隙間を縫って接近に成功した5人がヒナに思い切り抱きつき、相手の自由を奪うようにがっちりとしがみつく。
「捕まえたっ!!」
襲撃者達もあの風紀委員長を相手に真っ向勝負で勝てるとは初めから思っておらず、せいぜい時間稼ぎがいいところだというのはわかりきっていた。
だからこそ今の装備で最も相手を足止めできる方法を考えた。
それこそが視界を奪ったうえでの白兵戦…というより『抱きついて捕まえる』である。
(…こういう時って本当に悪い予想ばかり当たるのね。)
だがヒナは敵がひたすら丸腰でこちらに突進してくる様子を見て目的が自身の足止めだということを即座に看破していた。
となれば、むざむざ相手の企みに乗る理由は無い。
次の一団が飛びかかってくる前に襲撃者達を抱きつかせたまま空高くジャンプする。
「今がチャンスだ!!行け!!行けっ!!」
「みんな大きく散らばれ!!煙を絶やすな!!視界に捉えられなければ狙われないで済むぞ!!」
「
進路上にヒナが居なくなったことを確認した一団は更に大量の白煙で身を隠しながら一気に前進を始める。
(やはりサキが狙いか…!)
『先生殺し』なる発言が聞こえたことで、これまでの疑念は確信に変わる。
(それならここよりも拠点内で防衛するほうが合理的ね。)
飛び上がったヒナはそのまま公園へと進路を向ける。
すると、見覚えのある物がRABBIT小隊の拠点に向かって走り出しているのが目に入った。
(あれは…?)
それは自分達が先程まで乗ってきていた護送車だった。
今車のハンドルを握っているのはアコだったはずである。
アリウススクワッドを乗せた状態でトリニティの生徒達がいる場所に向かうことがどういう事かを彼女が分からないとは思えない。
(アコ、一体何を考えているの?)
彼女らの身に一体何が起こったのか、困惑を感じながらヒナは公園目掛けて滑空を始めた。
「ひいいいっ!!助けてえええっ!!」
「お、落ちるうううっ!!」
飛び降り損ねて必死に自分へ縋り付く2人の悲鳴を聞き流しながら。
「今の爆発はっ!?」
「砲撃っ!!重迫*1クラスっ!!初弾をこの精度で当ててきたあたり、多分GPS誘導弾だ!!」
爆発の直前、ニコの怒号を聞いたSRT生達は過去の訓練通り即座にその場で腹ばいになり、ハスミはセイアの体を抱え込んでその場に伏せる。
直前に鳴っていた風切り音と爆発の大きさからモエは既に攻撃の正体を概ね推測していた。
「了解ですRABBIT3…FOX4!こちらRABBIT1!陣地が砲撃を受けました!重迫撃砲によるものと推測されます!砲台の位置を特定できませんか!?」
『こちらでも爆発を確認!!現在捜索中!!』
ミヤコの通信を受けたオトギは双眼鏡で周囲を見回す。
1発目の着弾からほどなくして、2回目の爆発が起こった。
(方角特定…!さあどこにいる!?)
時折熱源探知なども織り混ぜながら砲弾の飛来した方向を特定し索敵を続ける。
間もなくしてオトギは無線機越しに大声を発した。
『見つけたっ!!南東方向距離5000、発砲煙と思われる高熱源を視認!!だけど砲そのものは建物に遮られてここからは狙えない!対処を願う!!』
「了解しました!ありがとうございます!FOX1!砲台の制圧をお願いします!!」
『了解。FOX1、FOX3で対応に当たる。FOX2は護衛対象の警護を続行。FOX4、新たな襲撃が見られないか観測を続行せよ。』
『了解。』
『了解!』
『了解っ!』
ユキノとクルミは砲撃地点に向かって走り出した。
「爆発!?」
突然の爆発音は護送車内で待機していたアコ達の耳にも届いていた。
「音と揺れの具合から推測するに爆心地までの距離はおそらく400メートル程度といったところだ。その窓から爆煙が見えないか?」
外壁に遮られた車内では音による認識しかできなかったため、サオリは小窓から運転席に向けて声を掛ける。
一方のアコも爆発音の正体を確認しようと周囲を見回していた。
「あっ、見えました。公園内で噴煙が上がってます。」
アコがそう報告した直後、ほぼ同じ場所で再び爆発が巻き起こる。
何者かが明確な意思を持って攻撃していることは間違いなかった。
そのことを悟ったサオリの判断はとても早いものだった。
「おい天雨アコ!!早く車を出せ!!」
「何言ってるんですか!?まさかサキさん達のところに行けって言うんですか!?」
「それ以外に何がある!!こうしている間もあいつらは敵の攻撃に晒されているんだぞ!!」
「私達が何故ここに留まっているか忘れたんですか!?貴女達の姿をティーパーティーや正義実現委員会に見られてしまったらどうするんです!それこそ問答無用で連行されても文句は言えないんですよ!」
「自分の保身のために見捨てろと言うのか!!」
「心配なのはわかりますが少し落ち着いてください!いいですか?彼女達は元よりSRT特殊学園の生徒です。このような状況への対応は充分訓練されているはずです。それにあそこにはヒナ委員長もいます。私達が無理を押して向かわなくても大丈夫に決まってます。今は耐える時です。」
「くっ…。」
冷静さを失いかけていたサオリをアコは必死で宥める。
その問答が一通り済んだところでアツコが周囲に向けて小さく声を掛けた。
「待って、みんな静かに…。」
その一言で全員が一気に黙り込む。
車内が静まり返ったことで、これまで聞こえていなかった物音がよりはっきりと聞こえるようになった。
そして、全員が同じ音を聞いた。
「…足音?」
硬い靴でコンクリートを歩く時のようなコツコツという音。
それも一つではない。
「10…20…いやもっと…。」
「この音の数なら最低でも1個小隊規模*2はいるはず。もし靴を統一してなくて音を鳴らさなかった人がいたら更に多いだろうね。」
大勢の人間が大挙してこの車の周囲を歩き回っている音がする。
ミサキは音の量から敵の凡その数を推察した。
しかし音の量に対する周りの景色は不審極まりないものだった。
「でも人の姿が一切見えません。確かに音は鳴ってるんですけど…。」
アコは音を頼りに周囲へ目を凝らし、時にはミラー類をチェックして後方も確認するが、足音を鳴らしているはずの人間の姿は一人も見当たらない。
まるで心霊現象のようである。
だがこうもタイミング良くそんな出来事に偶然遭遇するなど普通は考えられない。
これは間違いなく人為的に起こされているものだ。
「姿の見えない人間…偽装効果の高い迷彩服を着ているとか?」
「迷彩服…迷彩?」
アツコの『迷彩』という発言を聞いて、アコはだいぶ前にテレビ中継で見た『ミレニアムプライス』の中で表彰されていた、『あるもの』の存在がふと頭に浮かんだ。
『それでは第7位から、受賞作品を発表します!7位はエンジニア部、ウタハさんの「光学迷彩下着セット」です!』
「まさか光学迷彩…?」
アコの呟いたその単語にサオリが食いついた。
「光学迷彩?…待て、聞いたことがあるぞ。確か周囲の風景とほぼ完全に同化し、まるで透明になったかのように誤認させる特殊な迷彩…だったと思ったが。」
「はい。その認識で概ね合っています。」
「だが私が知っているのはあくまで架空の物語に登場する道具としてだ。現実にそんなものが存在しているのか?」
「もし今足音を鳴らして行った集団の中にミレニアムサイエンススクールの関係者がいれば可能性はあります。使い方がヘンテコとはいえ、光学迷彩の技術そのものならあそこは既に開発と実用化が済んでいるんですからね。」
「待て、さっきの爆発が公園内の拠点で起きたものだとしたら、ここから連中が全速力を出せば数十秒程でサキ達の元に到達するぞ!!それなのに迎撃一つ取らないなんて明らかに可笑しい!!きっとあいつらはまだこのことに気付いていないんだ!!」
「委員長に連絡を取ります!!」
事態が想像以上に切羽詰っていることを理解したアコは急いでヒナへと連絡を試みるが…。
「繋がらない…!」
ヒナとの連絡は繋がらなかった。
「サキ達に直接連絡はできないのか?」
「すみません、実は彼女達とはまだ連絡先の交換ができていなくて…。」
「くそ…。」
アコの返答を聞いたサオリは小さく毒づく。
サオリ達のスマートフォンは今朝の一件の後武装類と一緒に回収されて現在は小ウサギ公園内で保管中だった。
通信手段は一切使えない。
そうしている間にも猶予は刻一刻と減っていく。
敵が奇襲を成功させる前に、どうにかしてこのことを知らせなければならない。
「でしたら私が知らせに…。」
「待って、1人で歩いていく気?」
おもむろに車のドアを開けようとしたアコにアツコが待ったをかけた。
「他に行ける人がいますか?」
「けれど、相手はわざわざ姿を消して何かを企んでる人達だよ?今アコさんが急に動き出したのを見て何もしてこないと思う?」
「それは…。」
「相手に見つかっていないことの最大のアドバンテージは、ほぼ確実に先手を取れるということ。向こうはそれを失わないためならきっと手段を選ばないはず。アコさんは透明人間集団の妨害を避けながら1人で400メートルを走り切る自信があるの?」
「ならどうしろって言うんですか?」
「だからこそこの護送車の出番。これを使えば、その妨害されるリスクを大幅に減らしながらサキさん達の所へ知らせに行くことができる。普通の銃撃ならまずビクともしないだろうし、もし万が一ロケット弾なんかを撃たれたとしても、その撃たせる行為自体で相手が持っている『バレていない』という優位性そのものを崩すことができる。どう?いい考えだと思わない?」
そう言われてアコは黙り込んでしまう。
今の状況ではアツコの主張は確実性という点で間違いなく最適なものだった。
そして少しの間思考を続けた後、意を決したように再び口を開いた。
「わかりました。ですが、先程言ったとおりトリニティ側に皆さんを見られたら完全に終わりですよ。それでもいいんですね?」
エンジンを掛けながら後ろにいる面々に改めて確認を取る。
すると間髪入れずにサオリから返事が返ってきた。
「ここで何もせずに取り返しのつかない事態になったら、また後悔することになる…頼む、行ってくれ…!!」
「わかりました…では行きますよ!!」
一度大きく深呼吸をした後、アコはアクセルを勢いよく踏み込んだ。
ユキノとクルミは猛スピードで砲台のある地点へと向かっていた。
ここに来るまでに度々聞こえていた爆発音の数から射撃している砲の数はせいぜい1、2門と推測され、操作している人数もさほど多いとは考えられないこと、こちら側の戦力がそもそも少ないということもあって攻撃は極少数の戦力で行うしかなかった。
程なくして射撃地点と推測される場所に到着し、建物の影から様子を伺う。
「砲撃地点に到達…なっ!?」
「誰も…いない!?」
射撃地点には確かに車輪を備えた大型の牽引式迫撃砲が1門存在していた。
だがそれを操作する人員は一人も居なかった。
既に放棄されてしまったのかと呆気に取られていると、迫撃砲の影から円盤型のドローンがフワフワと姿を現し、吊り下げていた砲弾を砲口へ投入しようとする。
ユキノはそれを見て初めて自分達がまんまと陽動に吊り出されてしまったことを理解した。
「そういうことかっ!!」
砲弾を投入しようとしていたドローンへ即座に銃撃を浴びせて撃墜しつつ無線でミヤコ達へ警告を促す。
ドローンの墜落と同時に落下した砲弾が迫撃砲を巻き込んで大爆発を起こした。
「RABBIT1!!こちらFOX1!!敵迫撃砲を無力化した!!お前達は直ちに拠点の防備を固めろ!!襲撃者が砲撃に乗じて攻め込んで来るぞ!!」
ユキノは必死に無線機へと怒号を飛ばした。
だが…。
「RABBIT1…!?RABBIT1応答しろ!!ミヤコ!!」
これまで必ず無線連絡に返答していたミヤコからの応答が一切無い。
「FOX3!!直ちに帰投するぞ!!」
「了解っ!!」
クルミと並んで元来た道を引き返しながらユキノは無線の通信相手を切り替える。
「
そろそろサキ主役の内容に戻りたいと思ってきているところ。
次話はなるべくそうしたいなあって。