今年もよろしくお願いします。
って更新に2ヶ月近く経っちゃったじゃんかヤバイ!!
頭で考える展開に文章力が追いついてない〜(泣)
とにかくまだ熱量自体はあるので続きは作り続けます。
それでは32話をどうぞ。
「最悪。
悪態をつきながらモエがタブレットをパシパシと叩く。
どうやら当たりどころが悪かったらしく、画面は真っ黒のまま光を取り戻すことは無かった。
「FOX2、すみませんが一時的に私の指揮下に入ってください。」
「了解。」
「これより防衛体勢に移行します。総員で後方の機関銃陣地まで移動、そこでFOX1が火砲を無力化するまで耐え凌ぎます。最優先防衛目標は空井サキ、百合園セイアの2名とします。」
ミヤコが淡々と作戦を説明していると、セイアが小さく手を挙げて声を掛けた。
「小隊長、ちょっといいかな?」
「どうしましたか?」
「守ってもらう立場でこう言うのも何だが、砲撃相手なら籠城するよりも公園から外へ脱出してはどうだろうか?」
「いえ、砲撃が初弾からここへ落ちてきたのを見るに敵には観測手がいる可能性が高いです。加えて公園の外周には歩兵隊らしき集団もいます。敵の総戦力が未知数な以上、行く宛も無い現状で外へ移動するのはかえって危険です。」
「だがここに留まってもジリ貧にならないかい?」
「大丈夫です。元よりこのような事態に備えてヴァルキューレ警察学校の先輩にすぐさま連絡が届くよう準備してありますから。ある程度耐え凌ぐことさえできれば増援が到着します。」
「なるほどね、そういうことならばこれ以上申し立てることは無いよ。」
「チナツさんもハスミさんも、すみませんがご協力をお願いします。」
「了解しました。私は救護担当ですが最低限の戦闘行為は対応できます。ご用命があればなんなりとどうぞ。」
「わかりました。自衛の名目であれば私も戦闘に参加できますので、必要とあればご命令ください。」
「皆さんありがとうございます。それでは移動を…。」
ミヤコが移動の号令を掛けようとしたその時、突然大型の自動車が近くの草むらを突き破って飛び出してきた。
「あれは…!」
「ゲヘナ学園の…!?」
ハスミやサキ達にとっても見覚えのある車は彼女達のいる場所へ猛然と進んでくる。
そのまますぐ真横に停車すると運転席の扉が勢いよく開け放たれ、これまた見覚えのある人物が顔を出した。
「皆さん!!」
「アコさん!?」
「私達の後方から謎の一団が接近してきています!!警戒してください!!」
「なっ!?向こうにも別働隊!?数は!?」
「推測では50名前後と思われますが現状不明です!!理由は判明していませんが、相手は姿を透明にする装備を全員が備えているようなんです!!」
「姿が透明!?本当なんですか!?」
報告にミヤコが一瞬疑問を呈したその時、アコの指差していた方向から銃撃が飛んで来る。
銃弾による火花が車体にいくつも散らばった。
身の危険を感じたアコは慌てて扉を閉めて運転席に身を屈めた。
「うわっ!!本当に撃ってきた!!」
「戦闘発生っ!!総員、サキとセイアさんを中心に防御体勢を!!」
「了解っ!!」
2人を取り囲むように陣形を組み、銃弾を躱すべく身を低くする。
突進をしてくる敵を迎撃するための体勢だ。
「RABBIT4、敵の姿は?」
「奥の茂み越しに撃ってきてるみたいでまだハッキリとは見えない…。」
「それなら敵との距離はまだそれなりに離れているということですね。車がこちらに来たのを見た途端に撃ってきた辺り、今攻撃をしたのは向こう側にとっても想定外の事態のようです。」
ミヤコの建てた推測に同調したモエも彼女へフォローを入れる。
「それに50人もいるわりには銃撃の数が明らかに少ないよ。敵はあんまり統制が取れてないみたい。どうもプロの戦闘集団ってわけじゃなさそうだね。」
「であれば多少数が多くとも私達の敵ではありません。新たな砲撃が降ってくる前に早く移動を終えましょう。RABBIT4、FOX2、ハスミさん、チナツさんの迎撃班は私と共に敵へ制圧射撃*1を、RABBIT3、サキ、セイアさんの退避班は陣地へ先行してください。到着後は陣地にある機銃で我々の援護をお願いします。」
ミヤコの指示に対し、全員が『了解。』と一言返答した。
「アコさん、ご報告くださりありがとうございました。貴女はサキ達の移動に乗じてここから避難してください。まだ
「…そうですね、わかりました。」
「では…。」
「退避班を護衛してそのまま離脱します。この車体なら遮蔽物として充分機能しますからね。」
「あ…ありがとうございます。それでは迎撃班、射撃準備を。発砲の合図は私が行います。退避班、移動準備をお願いします。」
その言葉を聞き、皆が用意を整える。
「射撃用意3!2!1!撃てっ!!」
号令と同時に5人が一斉射撃を開始し、3人と1台が一斉に走り始める。
アコの狙い通り護送車は3人の身を守る盾として機能していた。
(…ん?)
しかし、目的の陣地まであと少しというところでサキは異変を感知した。
(揺れてる…車か?)
地震のような振動が起こっている。
隣を走っていたアコの車を一瞥するが、車体の重量とスピードを考えるとこれほどの揺れを起こすはずはない。
モエ達もいよいよ只ならぬ振動を訝し始めたのか、キョロキョロと辺りを見回し始める。
そうしている間にも揺れは段々と大きくなってきていた。
(待てよ?この揺れ方どこかで…!?)
サキが振動の原因を察知し始めたその時、突如として巨大な鋼の玉が彼女達の真横にある林を突き破って姿を現した。
「うわっ!?」
咄嗟に進行方向の反対へと飛び退き、サキは敵との衝突を回避する。
突進を避けられた鉄塊は猛スピードを保ったまま彼女の真横にいた護送車に激突し、車体を数メートルに渡って弾き飛ばしてしまった。
「アコっ!!」
護送車が自分の身代わりとなって吹き飛ばされてしまったことを理解したサキは悲鳴をあげる。
だが謎の鉄塊は感傷に浸る時間すら与えてくれず、グルリと円を描いて移動すると3人の前へと立ちはだかり停車した。
はっきりと視認したその外観はサキとモエにとって非常に見覚えのあるものだった。
「これって確か…!」
「晄輪大祭の時に見た戦車!?」
『トラック・クラッシャー』
以前開催された晄輪大祭で無差別攻撃を行ったミレニアムサイエンススクール製の
「サキっ!!こっち!!」
サキを自分の方へと呼びながらモエは
だが案の定というべきか、拳銃弾ではその強固な装甲に全く歯が立たない。
お返しとばかりに今度は戦車の前面に搭載された2門の15mm機関砲が火を噴いた。
「避けろっ!!」
3人で揃って横へと飛び退き銃撃を回避する。
ところが戦車は銃撃を継続しながらもその着地の瞬間を狙うかのように再び起動を開始し、サキ達の方へと向かってきた。
「マズい…!」
すると今度は走り出した戦車の装甲で大きな火花が立て続けに散り、衝撃によって軌道を逸れた車体は3人のすぐ脇を掠めるように走り去っていった。
「サキっ!!」
空の上から声が聞こえる。
見上げると上空から紫煙が吹き出る機関銃を構えたヒナが降下してきていた。
彼女はそのままサキの隣に着地する。
「大丈夫?」
「ああ…ありがとう、助かった。ところでそのくっついてるのは誰だ?」
ヒナが着地すると同時に彼女にしがみついていた二人の少女がずり落ちて地面に転がる。
どちらも突然空に攫われてすっかり参ってしまったのか、完全に目を回してグロッキー状態になってしまっていた。
服装は完全に私服で所属は特定できないが、僅かにはみ出ている背中の羽毛から推測するとトリニティの生徒だろうか。
「アレは私が相手する。貴女達は早く行って。」
機関銃を構え直したヒナがサキを守るように戦車の前に立ちはだかる。
彼女にその場を任せて3人は移動を再開することを選んだ。
戦車から背を向けるとすぐさま背後から凶悪な銃声とカタピラの駆動音が聞こえてくるが、今は振り返らずひたすら走る。
そんな中でもサキはアコの乗っていた護送車から意識を逸らすことができなかった。
(中の皆は大丈夫なのか…?)
サキの記憶が確かなら、あの車にはアコだけでなくサオリ達も乗っていたはず。
それが自分の身代わりとなって吹き飛ばされて大事故に遭ってしまったとあれば気にするなというのも無理な話だった。
だが彼女も今この場で自身が何をするべきか理解していないわけではない。
自分がアコ達の救助に向かっても護送車が更なる攻撃に巻き込まれるだけなのが明らかだったからこそ、断腸の思いで陣地へ走ることを選択した。
筈だった。
(ん…?あれは!?)
あるものを見たことでサキの歩みは一瞬のうちに護送車の方へと向かい始めてしまう。
「えっ!?ちょっとどうしたの!?」
「車の燃料が漏れ出してる!!このままアレを放ってたら爆発するぞ!!」
サキの言葉を聞いてモエ達も血相を変えて進路を変える。
いくら頑丈な体を持ったキヴォトスの生徒とはいえ、身動きの取れない密室で火災に晒され続ければいずれ命を落とす。
違う点といえば火傷と酸欠に苦しむ時間が他の生物より長いだけだ。
「悪いけどティーパーティーの人は先に陣地へ行って!最後までエスコートできなくてごめん!」
「何を言う。私は最後まで君達と一緒にいるとも。」
「えぇ…?アンタ自分がどんな立場か分かってるの?そもそもなんでわざわざ自分から危ないところに行こうとするのさ!?」
「そうした方がいいという直感があるのでね。それにこう見えて結構現場仕事は慣れてるんだ。足手まといにはならないよ。」
「直感って…あぁもうなら一緒に来て!!時間ないから!!」
何故か我が強いセイアを呆れ半分のままモエは渋々引き連れて行く。
駆け寄った護送車は運転席部分が特に激しく損傷しており、周囲には既に独特のガソリン臭が立ち込めていた。
「RABBIT3!!周辺警戒を頼む!!」
「了解…って言ってもここで襲われてもまともに撃ち返せないよ!!」
車は完全に逆さまにひっくり返ってしまっており、近くでは既に燃料の水溜りができ始めていた。
割れた窓ガラスを潜って運転席のアコへ声を掛ける。
「おい大丈夫か!!返事しろ!!」
「う…ん?」
彼女は逆さまになった運転席に座った姿勢のままぶら下がっていた。
サキの呼びかけにも僅かながら反応を見せており、朦朧としてこそいるものの意識はあるようだ。
「な、何が…?」
「シートベルトを外すぞ!!早くここから出るんだ!!」
シートベルトを外してアコを座席から落とそうとする。
しかしベルトから解放された彼女の体は相変わらず宙ぶらりのままだった。
「クソッ!!何かに挟まってるのか!?」
足元の方を見上げてみると、下半身がひしゃげたハンドル等のパーツに埋まってしまっている。
「引っ張り出すぞ!!痛むかもしれないけど我慢しろ!!」
アコの胴回りを掴んで引きずり降ろそうとするがいくら引っ張っても抜ける様子が無い。
「痛だだだだだッ!?」
「我慢してくれ!!ああもう一体何に挟まってるんだコレっ!?」
痛みで意識が覚醒したアコは自分を引っ張ろうとしているサキに待ったを掛けた。
「ま、待ってください!!この感覚だと引っ張っただけじゃ抜けません!!まず手前の瓦礫を退かさないと!!」
「だったら…!」
「それよりも貴女は先にこれを!!」
「それよりもって…これは、鍵?」
「後部扉の鍵です!!それで彼女達を外へ!!」
「そうか皆に手伝ってもらおうってことか!!わかった!!RABBIT3!!これで後ろを開けてくれ!!」
「了解っ!!」
投げられた鍵をモエは綺麗にキャッチする。
「待った、君はここで彼女達を守ってくれ。私が代わりに行こう。」
「へ?いやそれだと…。」
「鍵を外して扉を開けるだけだろう?その役割なら私でも十分だ、任せてくれ。」
そう言って横からセイアが手を差し出してきた。
だが乗っている人が人だけに解錠を
「もう誰でも構いませんから早く!!説明なら後でいくらでもできますから!!」
状況をどことなく察したアコが2人に発破をかける。
こうなれば最早躊躇う理由は残っていない。
「じゃあこれをお願い!!どうか気をつけて!!」
「了解。」
鍵を受け取ったセイアはすぐさま走り出す。
直後、これまでとはまた別の爆発音が遠方から響いてきた。
その音の特徴と聞こえた方角はRABBIT小隊の面々が肝を冷やすのに十分なものだった。
「今のは私達の仕掛けた
モエは爆音の聞こえた方向を睨みながら現状を分析する。
音が聞こえたのは自分達が移動しようと向かっていた方向の更に奥から。
そして問題は誰がトラップに引っ掛かったのかである。
方角から見て最初にオトギが発見していた一団と別働隊なのはほぼ確実、そして先程こちらを銃撃してきた集団とも違うとなれば、最悪の場合公園を丸ごと大部隊で包囲している可能性が浮上してくるのだ。
『RABBIT2!3!こちらFOX4!聞こえる!?』
「こちらRABBIT3!FOX4どうしたの!?」
『今熱源探知に映った連中が大挙してそっちに向かってる!!敵は皆を包囲するつもりだよ!!私もここからできるだけ援護するけど、数が多すぎて正直全部は対応できそうにない!!警戒して!!』
二人の装備した無線機からオトギの怒号が聞こえる。
続けて車の後部側から、ゴシャっという肉を叩きつけるような鈍い音が聞こえた。
モエが咄嗟に振り向くと、車体の影から飛び出したセイアが地面に転倒する瞬間が目に入った。
受け身一つ取らず、力無くバタンと倒れ込むその様子は、彼女が何者かから攻撃を受けたのだと判断させるのに十分なものだった。
それを理解したモエが咄嗟にセイアの方へ走り出すと同時に、彼女の頭上を1発の弾丸が掠めていく。
次の瞬間、飛来した弾丸は倒れ伏していたセイアのすぐ真上に
「もうこんな近くに…!!」
急いで駆け寄ってみると、セイアの頬は真っ赤に腫れており、軽い脳震盪まで起こしているようだった。
軽い力で殴った程度で普通こうはならない。
敵がこの人物の正体を知ったうえで攻撃したのかは定かではないが、何れにしても無差別攻撃を実行している時点で碌でもない者達なのは確かだ。
「大丈夫?立てそう?」
「あ…あぁ、すまない。いてて…まったく、あんな大口を叩いておいてこの有り様とは情けないね。」
「アンタはここにいて。ここならFOX4が守ってくれるから。」
そう話している間にもオトギの援護射撃は二人の周辺に次々と飛来し、見えない襲撃者達を次々と打ち倒していく。
今の状態ではこの場所が比較的安全なのは疑いようがなかった。
「じゃあ君は?」
「アレを開けに行くっ!」
モエは落ちていた鍵を拾いあげて扉に飛びつく。
目的の物はすぐ目の前にあった。
だがその直後、これまでとはまた別の、彼女にとっては聞き馴染みのあるロケット花火のような爆音が轟いた。
(無反動砲!?)
思いがけない行動にモエも手を止めて振り返る。
振り向いた先には派手に吹き上がる
狙撃手を排除する手段としての砲撃は大雑把な照準の射撃で相手の陣地を丸ごと破壊できることもあり、状況が許すならば
今の砲撃で
(もう勘弁してよっ!!)
状況は刻一刻と悪くなる。
モエは急いで扉に鍵を押し込むが、最後の解錠を行う寸前に背後から掴みかかってきた腕によって引き倒されてしまった。
「おい皆押さえるの手伝ってくれ!!SRTの生徒なんて用心するに越したことないからな!!」
何者かが仰向けに倒れた自分を押さえつけるように跨っているのが感覚で分かる。
反撃のために動かそうとした手足は忽ち押さえつけられ、身じろぎ一つできなくなった。
だが、それでも目の前には誰もいない。
「このっ!離せっ!!」
「…コイツは違うな。とりあえず縛ってそのへんに転がしておけ。」
「わかった。」
藻掻くモエを他所に襲撃者達は淡々と作業の手を進めていく。
「こっちがハズレなら、運転席側か?」
「サオリ!後ろは大丈夫か!?」
「ああ、皆無事だ。さっき吹き飛ばされた時は思わず吐きそうになったがな。」
「今セイアがそっちの扉を開けに行った!もうすぐ出られるから待っててくれ!!」
サキが車両後部にいるサオリ達に向けて呼びかける。
セイアが扉を開けに行った今、彼女達の存在がトリニティ側にバレるのは最早時間の問題であり、もう隠す必要は無いと判断したのである。
「セイア…百合園セイアか!?ここを開けに来るって大丈夫なのか!?」
「このままじゃ危ないんだ!!車の燃料が漏れ出してる!!もし少しでも火が着いたらこの車ごと全員焼け死ぬぞ!!」
サキがそう答えると小窓の向こうでヒヨリが悲鳴をあげる。
一方でそれを宥めるミサキ達は極々冷静で「またか」とでも言いたげな様子だった。
「RABBIT1!!こちらRABBIT2!!戦況が逼迫している!!援護に来れないか!?」
『RABBIT1よりRABBIT2へ!!現在敵歩兵隊と戦車の挟撃で釘付けにされています!!援護不能です!!』
「くっ…了解…!」
敵の戦力はこちらの想定を大きく上回るものだったようで、ミヤコ達は今も戦闘を継続している。
戦車をこちらに差し向けず迎撃班やヒナの足止めに使っていることからもその規模が伺えた。
そうしている間にも自分達が仕掛けたトラップの聞き覚えある爆音や、それとは別の大きな爆発音が耳に入ってくる。
しかし運転席内からは周囲が今どうなっているか全く判別できなかった。
そんな中、無線機から聞こえてきた声によってサキの焦りは更に加速することとなる。
『RABBIT2、3…こちらFOX4、聞こえる?』
「こちらRABBIT2!FOX4どうした!?」
『足場を崩された…現在援護不能。』
「足場を崩されたっ!?」
サキが急いで割れた窓から公園の外を凝視すると、さほど遠くない場所にあった建物の一つから黒煙が上がっているのが見えた。
おそらくさっき聞こえた大きな爆発音の正体がアレなのだろう。
「FOX4!!大丈夫なのか!?」
『私は大丈夫…でも再配置につくまであと40秒はかかる。その間だけ援護無しで耐えてもらわないといけない。ごめん…。』
それを最後に通信が途切れる。
敵の攻撃がオトギにまで及んだとなると、外のモエ達が今無事なのかどうかが気がかりだった。
「RABBIT3!こちらRABBIT2!聞こえるか!?今どこにいる!?」
無線でモエに呼びかけるも、一向に返事は無かった。
「RABBIT3!!応答しろ!!」
「何事ですか!?」
「…外にいるモエが応答しない…FOX4も敵の攻撃で援護不能状態だ。」
「そんな…!」
返答を聞いたアコの表情にも焦りが浮かび始める。
敵は確実にここへ近づいて来ていた。
セイアが警告していた憎悪の炎が、今まさにこうして襲いかかってきているのである。
「サキさん!!私達のことはいいですから早く逃げてください!!敵の狙いはきっと貴女です!!」
アコが必死でサキに退避を呼びかける。
言われた当人も、敵の目的が何なのかを察知できていない訳では無い。
それでも。
「嫌だ…。」
「えっ?」
「もう嫌なんだよ!!他人を見殺しにして自分だけが生き延びるなんて!!ここから逃げろっていうなら、全員一緒じゃなきゃ駄目なんだ!!」
「サキさん…。」
「待ってろ、すぐサオリ達を出してお前もそこから引っ張り出してやるからな!!」
サキはそう言いながら運転席から這い出ようとする。
しかし、そんな彼女の足は何者かに掴まれ、一気に車外へと引っ張られた。
「駄目っ!!!!」
異変に気付いたアコが咄嗟に手を伸ばすも、その手は僅かに届かず空を切った。
車の外へと引き摺り出されたサキは仰向けに寝かされ、上から見えない何者かに押さえつけられた。
そのままヘルメットを乱暴に剥がされる。
姿が見えないものの、複数の人間に取り囲まれているような気配だけは察知できた。
「…見つけたぁっ!!『先生殺し』っ!!」
酷く興奮した、探し物を見つけた幼子のような歓声が聞こえる。
その様子や発言が何を意味しているのかは明らかだったが、サキの脳内はそれを気に掛けていられるような状態ではなかった。
「おいっ!!まだこの車に閉じ込められてる人がいるんだっ!!後ろの扉を開けさせてくれっ!!」
もうなりふり構っていられる余裕はなく、僅かな希望に縋って自分を取り押さえている相手へ必死で訴える。
だが、返ってきたのは言葉ではなく、鈍い痛みだった。
「がっ!?」
顔面に何かをぶつけられた。
恐らく硬い軍用のブーツで蹴られたのだろう。
その一発目を皮切りに、次々と体に打撃が飛んできた。
「た…頼む…!少しだけ話を…!」
痛みに顔を歪ませながらも、サキは呼びかけることを止めなかった。
大切な人達を、今度こそ守るために。
しかし、襲撃者達にとってその態度は相当神経を逆なでするものらしかった。
「黙れ人殺し…!!」
その発言と同時に目の前の虚空から突如として2本の銃身を備えた小型の散弾銃が姿を現す。
どうやら銃身を短く切り落とした物を透明化した衣服の下に隠し持っていたようだった。
「おいやめろっ!!今ここで撃ったら引火して大変なことにっ…!!」
既に燃料の水溜りは倒れたサキの背面を丸ごと濡らす程に広がっていた。
今ここで発砲されればどうなるかは火を見るより明らかだ。
だがそこで敵は予想を裏切る行動に出た。
銃身をサキの口の中へ無理やり捩じ込んできたのである。
「そんなに火花を散らしたくないんだったら望み通りにしてやるよ…!感謝しろよ?」
そう告げると、何の躊躇いもなく引き金を引く。
重い銃声が2発、鳴り響いた。
(う…?あれ、私どうなって…?)
先程までヒナに攫われて目を回していた生徒の一人が未だに空中に浮かんでいるような感覚を感じながら目を覚ます。
周りはさながら戦場のような有り様となっており、今この瞬間も近くから銃声が聞こえてきていた。
「見つけたぁっ!!『先生殺し』っ!!」
大きな声が聞こえる。
確か自分達と共に今回の襲撃を行ったゲヘナ生徒のものだった筈だ。
ぼんやりした頭で声の聞こえた方を向くと、そこにはひっくり返った大型の車と、彼女にとって非常に見覚えのある人物の姿が目に入った。
「変に邪魔しなければ放っておいたのになんでそんなことするかな?」
「うぐっ…。」
「手間を増やさないでよねまったく…!」
純白の人影が地面に力無く倒れ伏す。
どうやら光学迷彩を装備した自分達の仲間に殴り飛ばされたらしい。
だがその殴られた人物が問題だった。
(あれ…セイア様!?)
トリニティの生徒達にとっては比較的名の知れた、それでいて雲の上の人と言うべきティーパーティーのホスト。
特に百合園セイアはつい先日まで病床に伏していたことが公表されており、トリニティ内では何よりも守るべき対象として扱う風潮が広がり始めていた。
そんな人物が目の前で暴力を振るわれていたのである。
それからの彼女の判断はとても早いものだった。
「ちょっと!!なんてことしてるのっ!!」
躊躇いなくセイアの元へ飛び込み、手探りで彼女を殴った人物に掴みかかる。
犯人も仲間だと思っていた相手から急に襲われて対応が遅れてしまい、またたく間にそのトリニティ生徒に取り押さえられた。
「んなっ!?なにするのさ!!」
「そっちこそなにしてるの!!あの人は先生殺しじゃないでしょ!!」
「ソイツは私達の行く手を阻もうとした!!邪魔をする奴は全て敵!!最初に皆でそう決めたじゃない!!アンタもそれに納得してここへ来たんじゃないの!?」
「そうだったけど…!でもセイア様を傷付けるなんてやっぱり許せない!!」
「セイア様…!?何かと思ったら結局身内贔屓ってこと!?これだからトリニティは!!」
二人が勝手に揉み合いを始めたためセイアはポツンと蚊帳の外に放り出される。
話を聞く限りだと、どうやら片方は自分の味方をしてくれているようだった。
そうなればこのチャンスを逃すわけにはいかない。
「君っ!!すまないが彼女をそのまま抑えていてくれ!!」
「えっ!?は、はいっ!!」
セイアは推定味方のトリニティ生徒に一声掛けると、モエが開けようとしていた後部扉目掛けて一目散に走り出す。
車に飛びつくと、即座に鍵を外して扉を開け放った。
「おいっ!!誰だか知らないが早くここから出…!?」
彼女が話し終えるよりも先に、真っ白いコートを着た人影が猛スピードで車外へと飛び出した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!??」
銃声が鳴ると同時にこれまで体験したことのないような激痛がサキに襲いかかる。
いくらキヴォトスの生徒であっても、体内への攻撃となれば普通の外傷よりもかなり簡単に負傷する。
更に今撃たれたのは一般的な散弾ではなく熊撃ち用の
痛みに悶えてあげた絶叫は口内で吹き出した血によってくぐもったうがいのような鳴き声へと変貌し、こぼれ出た大量の血はそのまま彼女の衣服と地面を紅く染めていく。
「ハッ!咆えた咆えた!こりゃ怪物1号ならぬ怪物
「ねえ次私にもやらせてよ…!」
「まあ待て、まずはコイツを連れてさっさと引き上げるんだ。あの戦車じゃほんの数分しか時間稼ぎにならないそうだからな。ここにいたら命がいくつあっても足りな…?」
そう言って悶えるサキの胸ぐらに襲撃者が手を掛けた瞬間、横から突然飛んできた黒い拳が透明人間に命中し、その体を派手に吹き飛ばした。
「へっ!?…うぎゃっ!?」
突然人影が割って入ってきたことに各々が呆気にとられた僅かな間にも、その乱入者はサキを取り囲む透明人間達目掛けて蹴りや打撃を正確に打ち込み、次々と弾き飛ばしていく。
ものの数秒で襲撃者は二人の周りから全て居なくなってしまった。
(な、何が…?)
サキも突然の出来事に状況の理解が追いついていなかった。
痛む首をどうにか動かし、謎の人影へと目を向ける。
その視界には、彼女の希望の象徴がこちらへ両手を伸ばしている姿が映っていた。
(サオリ…?)
「もう大丈夫だ、サキ。」
穏やかな表情を浮かべながらサオリは油と血で汚れたサキの体を優しく抱き上げ、立ち上がる。
「もうこれ以上、お前を傷つけさせはしない…!!」
蒼い瞳に闘志を滾らせながら、彼女は目の前にいるであろう敵を見据えてそう宣言した。
次の話…何日で作れるかな…