BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

33 / 34


皆さんお久しぶりでございます。
コメント、評価をくださった方々につきましては大変ありがとうございます。

まーた2ヶ月空いてしまいました。なんなら事前予告無しの更新止まりなら過去最長かも?誠に申し訳ございません。

なんなら4月一杯はまたリアル事情の関係で更新ができません。

そんでもってこれからの物語ですが、ゴジラの再登場は早くとも40話すぎくらいになると思います。なんてこったい。
なのであんまり1話1話を間延びさせないようにしたいのですが、それで文章何度も手直しして時間かかってちゃ世話ないわな…。

そんなんで更新頻度は相変わらずだと思いますが、今後も付き合ってくださる方がいらっしゃれば嬉しい限りです。

それでは33話になります。どうぞ。







デッドライン

「い、今のは…?」

 

 扉を開けた途端に飛び出して行った白い人影。

 その姿にセイアは見覚えがあった。

 だが何故こんなところに彼女がいるのか。

 混乱していると、車の中から別の人影が現れる。

 

「あ…こんにちは。」

「え…?こ、こんにちは?」

 

 先程飛び出していった人影と似通った白い服を羽織った桃色髪の少女がこちらに挨拶する。

 その姿にもセイアは見覚えがあった。

 

「みんな、早くアコさんの所へ。」

「わかった。」

「は、はい。」

 

 彼女に続いてゾロゾロと出てくる少女たち。

 その全員が見覚えのある顔だった。

 

「アリウススクワッド…どうして君達が?」

「色々と聞きたいことがあると思うけど、今は少し待って欲しい。助けなくちゃならない人がいるから。」

 

 そう告げると、アツコは他の2人を連れて運転席の方へと足早に歩き去っていった。

 

「ねえ!ボーッとしてないでこれ解いて!!早くっ!!」

 

 呆然と立ち尽くしていたセイアはすぐ近くの地面に転がされていたモエの叫び声で現実に引き戻された。

 

 

 

 

 

「お待たせアコさん、今出すよ。」

「あ、ありがとうございます…。」

「瓦礫を少し持ち上げて引っ張り出そう。2人はそっちをお願い。」

  

 アツコはヒヨリ達に簡潔な指示を送ると運転席の中へと潜り込んでいく。

 そのすぐ隣では、サキを抱えて立ち上がったサオリが見えない襲撃者達への牽制を続けていた。

 

「痛ったぁ…な、何だお前っ!?どうして私達を殴れるんだ!?姿が見えるはずないのに!?」 

「そんなバレバレの小細工程度でアリウス生徒の目を欺けるなんて思わないことだな。」

「小細工だと…!?待て、お前今アリウス生徒と言ったのか?」

「ああ、言ったとも。」

「その顔と格好…思い出したぞ!お前指名手配犯の錠前サオリだな!!なんでお前がこんなところにいるんだ!?その車はゲヘナ学園のものだろう!?」

「私達は今朝から風紀委員会に逮捕されていたからな。ついさっきまでゲヘナ学園に出向いていたところだ。」

「はっ、ついに凶悪犯の年貢の納め時ってわけか!それに逮捕されてたってことは今丸腰か!?それなら悪いことは言わない、その先生殺しを渡してさっさと消えろ!!邪魔するなら容赦しないぞ!!」

「さっき私から一撃食らったくせに随分威勢がいいじゃないか。なら試してみるか?もっとも、まだ私の目から逃れられるなんて考えているうちはそちらに勝ち目なんて一切無いだろうがな。」

「見え透いた虚勢を!!」

「本当に虚勢だと思うか?アリウス分校の内情をどこまで把握しているか知らないが、あそこは人間をただの道具扱いすること関しては何処よりも進んでいた場所だぞ?あの事件を引き起こした私が純然な只の人間に留まっていると本気で思うのか?」

「何を言っている?」

「簡単なことさ、人間を兵器として改造するようなことくらい当たり前だったんだよ、アリウスは。そして私の体にもそれに類する処置が施されている。だからお前らの杜撰な偽装擬きを即座に看破して攻撃できたんだ。今くらいはマダムに感謝してやらないとな。」

「なっ…!?」

「さあどうする?このまま戦うか?私はお前らのような装備の質を過信して凡ミスをする(・・・・・・・・・・・・・・・)ような素人に負けるほど弱くはないぞ?」

「うっ…。」

 

 もちろん、サオリは肉体に改造など施されていない、純然な只の人間である。

 攻撃を当てられたのも慢心した相手が晒した隙を目敏く見つけたからでしかなかった。

 だが襲撃者達にとってアリウス分校というものは、よくわからない謎の力を使用してトリニティとゲヘナの両校を相手に攻撃を仕掛けて大損害を齎した学園、という程度の認識しかなかった。

 人体に改造を施していると言われても、それを只のでまかせだと言い切れるほどの判断材料を彼女達は持っていなかったのである。

 他ならぬアリウス分校の生き証人であるサオリから的確に反撃を受けて、更にそんな恐ろしい宣告までされてしまったせいで再度の攻勢に出る勢いは無くなってしまい、ひたすら睨み合いを続けることしかできなくなってしまったのだった。

 

『RABBIT2、3、こちらFOX4、再配置完了。今すぐ援護射撃を始めて大丈夫?応答願う。』

 

 装着していた無線機からオトギの声が聞こえる。

 援護が再開できると聞いたサキは、装着していたインカムを取り外して頭上のサオリの耳にそれをあてがった。

 

『FOX4、こちらRABBIT3!今車の周りを撃ったらダメだよ!!もし燃料に引火したら大変なことになるから!!』

『了解…でもこのままじゃ皆がマズいよ。何とかしないと…。』

 

 突然耳元にインカムを着けられたサオリは一瞬戸惑いを見せたが、無線から聞こえるやり取りを聞いて状況を理解する。

 そして手早く愛用のマスクを装着すると、周囲に気取られないよう小声で無線の相手に声を掛けた。

 

「FOX小隊の狙撃手、聞こえるか。」

『その声…錠前サオリ!?ちょうど良かった、早くそこから離れて!その場所だと援護ができない!!』

「こちらの現在地へ支援射撃を要請する。発砲指示を待て。」

『はっ!?いや今言ったでしょ!?そこにいたら撃てないんだって!!』

「考えがあるんだ。今だけは私の指示を聞いてくれ。」

『えっ?…了解。どうするの?』

 

 

 

 

 

「大丈夫ですかセイア様!?」

「私は大丈夫だ。助かったよ。」

 

 拘束を解かれたモエが参戦したことで拮抗していた二人の格闘ははまたたく間に制圧され、解放されたトリニティ生徒は慌ててセイアの元に駆け寄った。

 大丈夫だとは言われたものの、セイアの顔には暴行を受けた痕がしっかりと残っており、とても安心できるような様子ではなかった。

 

「ごめんなさい…私はなんてことを…。」

「これくらいの怪我などどうということもないさ。本当に苦しんでいる者と比べればね。それより聞きたいのだが、今ここを攻撃している者達には君のようなトリニティ生徒もいるのか?」

「え…?はい、私の友達とか…それなりの人数はいたと思います。」

「それなら、少し手伝ってもらおうかな。君達の付けている無線機、装着者へ一斉に声を聞かせる機能はあるかい?」

「…何をする気ですか?」

 

 トリニティ生徒が見つめるセイアの表情は、とても険しいものだった。

 

 

 

 

 

「よし抜けたっ。みんなで運ぶよ、いい?」

「え?いえ私歩けますよ?」

「もし痛くなくても骨や肉がどうなってるか分からないからダメ。歩いてる最中に転ばれても困るから大人しく運ばれて。」

「は…はい。」

「よしっ、行こう。」

 

 アコを車から引っ張り出した3人は急いで搬送を始める。

 比較的体格の大きい人物を担架式で運ぶ都合上全員の力を合わせて行うしかなかった。

 

「サオリっ!」

「先に行けっ!!すぐに追いつく!!」

 

 急かされたアツコ達は若干の後ろめたさを感じながらも即座に護送車から離れていく。

 そうして現場には大勢の敵と2人だけが残された。

 

 

 

 

 

「ああもう何で次から次へと邪魔が…何でどいつもこいつも先生を死なせたような奴の味方をするの?こっちは時間が無いってのにもう…!!」

 

 公園内を一望できるようなビルの屋上で、眼鏡を掛けた1人のミレニアム生徒が手元の端末を操作しながらブツブツと文句を呟いていた。

 彼女の役割は戦況を俯瞰しチーム全体の行動を指揮することと、とある手段で学園から運び出したトラック・クラッシャーの遠隔操縦である。

 なのだが、作戦は思いのほか上手くいかず、次第に苛立ちを隠しきれなくなっていた。

 

 もとより彼女らも専門の訓練を受けていた特殊部隊員を真っ向勝負で打ち負かせるとは考えておらず、計画していた作戦は総勢10名にも満たないSRTの残党を大人数の陽動部隊で撹乱し、その混乱に乗じて本隊が目的の人物を確保、本物の治安部隊が参戦する前に脱出する、というものだった。

 故に時間を掛ければ掛けるほど此方の敗北は決定的なものとなっていくのである。

 

「こちらミレニアン!皆聞こえる!?もう時間がない!こうなったら皆で持ってる煙幕弾を一気にバラ撒いて撹乱して!何度も言ったと思うけど、今着けてるステルス迷彩には弱点があるのを忘れないでね!変に気を大きくして真っ向勝負なんかしないで…。」

 

 無線機で仲間に向けて再三注意を促す。

 そうして意識を集中させてしまっていたからこそ、背後に近付いて来ていた人影に最後まで気付けなかった。

 

「何をしてるの…?」

 

 突然の声によって彼女に戦慄が走り、背筋がビクンと震える。

 衝撃で掛けていたメガネが顔からずり落ちた。

 そのショックは自分の背後を取られたことに対するものだけでなく、『時間切れ(作戦失敗)』を確信したことと、聞こえた声が彼女のとてもよく知る人物のものであったからだ。

 恐る恐る首を後ろに振り向かせると、そこには想像していた通りの、彼女にとってよく見知った元同僚(・・・)が立っていた。

 

「カリン…何でここに?」

「行方不明になった応援ロボットがD.Uの市街を爆走してると報告があったから鎮圧に来たんだ。私は支援担当だから、観測地点の確保も兼ねてここに来たんだけど…。」

「そ、そっか…。」

「それよりも、セミナー保安部の貴女がどうしてここにいるの?保安部から応援が投入されてるなんて聞いてない…。」

「それは、えっと…。」

「それに前もって貴女がいたならどうして早く連絡をくれなかったの?知らせてくれれば私達はもっと早く行動できた筈なのに…。」

 

 元セミナー保安部の仲間だった角楯カリンにそう詰問されて返答に詰まってしまう。

 『暴走状態で自分では止めようがなかった』といった言い訳を取り繕おうにも、そもそも前もってここに居ておきながら本来伝えるべき相手に連絡をとっていないという事実が逃げ道を完全に塞いでしまっていた。

 

「ねえ、質問に答えて。ここで何をしていたの?」

「…。」

「答えられないなら、その手に持っている機械を見せて。」

 

 不安に塗り潰されたような、目の前の現実(友人が犯人であること)を受け入れたくないと言わんばかりの強張った表情を浮かべながら、対物ライフル(ホークアイ)を構えてカリンはゆっくり近づいてくる。

 それに対する保安部の生徒は、ポケットに隠し持っていた拳銃へゆっくり手を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

『…了解。射撃指示を待つ。』

「ありがとう、頼んだぞ。」

 

 サオリが通信を切る。

 だが、そこで彼女が無線で通話していたことが襲撃者に見破られてしまった。

 

「お前、一体誰と話している…!?」

 

 眼前の敵が何かを起こそうとしていると察知した彼女達がついに動き出そうとした。

 その瞬間だった。 

 

 重々しい爆発音が鳴り響き、トラック・クラッシャーが黒煙を吹きながら近くに墜落してきたのである。

 

「うわっ!?」

「マズい!!風紀委員長が来る!!」

 

 襲撃者達がどよめきを上げる。

 彼女達にとって戦車が破壊されたという事態は、自分が風紀委員長達と正面戦闘を行わなければならないという最悪の展開を意味していた。

 そして敵の注意が逸れた一瞬の隙をサオリは見逃さなかった。

 踵を返して一気にアツコ達の向かっていった方へと走り出す。

 

「なっ!?テメエッ!!」

 

 襲撃者達はどうにか一矢報いてやろうと、慌てて各々が隠し持っていた銃器を構え始める。

 複数のカービン銃や短機関銃が突如空中に浮かび上がった。

 

「撃てッ!!」

 

 サオリが大声で号令を発した次の瞬間、護送車の車体に一発の火花が散った。

 迸った小さなそれは噴き出ていた燃料に火を点け、一気に辺りを燃え上がらせる。

 そして、車が大爆発を起こした。

 

「うわあああっ!?」

 

 巨大な爆発は襲撃者達を巻き込み、炎と熱風は一団に容赦なく襲いかかった。

 

「あちっ!!あちちっ!!」

 

 炎は彼女達の衣服にも燃え移っていき、一人、また一人と上に着込んでいた衣類を慌てて脱ぎ捨てて蜘蛛の子を散らしたように逃げ回る。

 透明化していた部分が消失したことで、様々な服装をした少女達の姿が白日の下に晒されることとなった。

 

「やってくれたなこの野郎ッ!!」

 

 サキを撃った少女も火がついてしまった透明だった服を脱ぎ捨て、下に着ていたゲヘナ学園の制服を眼下に晒す。

 そのまま半ばやけくそ気味になりながら走るサオリを狙って散弾銃を構え、引き金を引いた。

 しかし…。

 

「ぎゃっ!?」

 

 次の瞬間、銃の撃発部分が破裂し散弾銃はバラバラに崩壊した。

 銃の耐久力を無視した連射改造を施して使用したことが仇となり、最初の射撃を行った時点で再度の発砲に耐えられなくなっていたのである。

 

「逃がすな!撃て!撃てっ!」

 

 暴発によって痺れた手を抑えながら、周りの仲間に号令を発する。

 だがその合図に応えたのは、彼女の仲間達では無かった。

 突如轟いた凶悪な銃声と共に襲来した紫色の弾幕が襲撃者達を纏めて薙ぎ払ったのである。

 

「ぎゃあっ!?」

「うぎゃっ!!」

 

 その攻撃によって大多数が一掃され、彼女達の戦力は一気に減退することとなった。

 サキを撃った少女は銃撃を浴びながらも辛うじて意識を保っていたが、激痛によって倒れ込んだまま立ち上がることができなくなってしまった。

 

「畜、生…っ!」

 

 最早自分達の目的を達成することが不可能となったことを悟り、彼女はその場で苦しそうに毒づくことしかできなかった。

 たった今聞こえた銃声は、ゲヘナ学園の生徒にとってあまりにも聞き馴染みのある、圧倒的な武力の象徴だったのだから。

 

「どいつもこいつも…なんであんな奴なんかに…!!」

 

 悔しげに表情を歪めた彼女の瞳には、ヒナ達がサオリと合流している様子が映っていた。

 

 

 

 

 

「ミヤコっ!!」

「サオリさん!!皆さん大丈夫ですか!?」

「サキが重傷だ!!早く手当てをしないと!!」

 

 合流してすぐにサオリはサキの状態を皆に伝えた。

 その当人は既に意識を失いかけている状態だった。

 

「サキ!?あぁ…そんな…!」

「私が確認します!!」

 

 血塗れの姿を見で狼狽するミヤコを押しのけて前へ出たチナツが容態を確認し始める。

 

「傷は銃創ですか!?」

「そうだ、口の中を撃たれたんだ…!」

 

 サオリに経緯を教えてもらいながら状態の確認を進めていくが、彼女の表情は曇ったままだった。

 

「失血が酷いです。早く輸血をしないと…。」

「ヘリで病院まで運ぼう!エンジンを掛ければ5分で飛び立てるよ!」

「ヘリを駐機していた方向にはまだ敵の戦力が残っています。それをまず突破しないと…。」

 

 苦々しい表情でそう呟いた時、彼女らのすぐ横を通って前へ進み出る人影があった。

 

「この無線を聞いている全ての者達へ告げる。私はトリニティ総合学園ティーパーティー所属、百合園セイアだ。君達は現在学園間に跨る規模の騒乱を引き起こす一歩手前の段階まで来ている。直ちに戦闘を停止せよ。聞こえるか。直ちに戦闘を停止せよ。」

 

 自分のすぐ横を銃弾が掠めていくのを気にも留めず、セイアは堂々と前へ進み出る。

 耳には先程自分を殴りつけていた生徒から強奪した無線機が装着されており、それを使用して襲撃者達に向けて言葉を掛けているようだった。

 

「百合園セイア?え?本物?」

「んなわけないでしょ!こんなところにそう都合よくティーパーティーのお偉いさんがいるわけないじゃん!」

「で、でももし本当だったら…。」

 

 彼女の声を聞いたトリニティの生徒達に動揺が広がり始める。

 しかしまだ声の主の姿を見れる距離まで近づけていないこともあり、効果自体は今ひとつだった。

 

『あ、あー!みんな聞こえる!?今の声は本物のセイア様だよ!!今すぐ攻撃を止めて!!これ以上怪我なんかさせられないって!!』

 

 今度は先程セイアに協力を申し出たトリニティの生徒が彼女の横に立ちながら、かつての仲間達に向けて呼びかける。

 すると、その声に強い反応を示す者がいた。

 

「えっ!?これ以上って、セイア様怪我したの!?」

『そうだよ!!今だって頬が真っ赤に腫れてるんだから!!』

「なんて酷いことを…!!」

 

 一部のトリニティ生徒がその声に同調して慌て始める。

 一方相手の内情を知らない他校生徒達はそんな様子に不快感を見せ始めた。

 

「何言ってんだ、お前そんな単純な嘘に引っ掛かるんじゃないだろうな!?」

「今の声私の友達だよ!!こんな時に嘘つくような子じゃないし、やっぱり本当にセイア様がここにいるんだって!!」

「そんなのわかるかよっ!!ったく!!」

 

 セイア達の声をただの撹乱作戦だと判断した一人の生徒が攻撃を再開しようと銃を構える。

 その様子を見たトリニティ生徒は即座に仲間の手を止めにかかった。

 

「ちょっと!!待って待って!!」

「なんだよ!?邪魔するな!!」

「今撃ったらセイア様に当たっちゃうかもしれないでしょ!!」

「そんなのこっちが知ったことか!!そんなに怪我されたくなかったらお前がそのセイア様に早く退くよう言えばいいだろ!!」

 

 そう言われて腕を振り払われてしまった彼女は渋々といった様子で無線機に手を当て、震える声で言葉を絞り出した。

 

「す、すみませんセイア様、その場所にいらっしゃると大変危険ですので今すぐ退避していただきたく…。」 

『私がここを退けば君達は攻撃を止めてくれるのか?』

「いえ、そうではないのですが…。」

『私の目的は君達が取り返しのつかない間違いを犯す前に止めることだ。そちらが攻勢を止めない限りここを退く気はないよ。』

「取り返しのつかない間違い…?」

『言い方を変えようか。『人殺しを止めろ』と言っているんだよ。』

「人…殺し…。」

『既にこちらには出血多量の怪我人が出ている。直ちに病院へ搬送しなければ最悪の事態になってもおかしくないんだ。』

「その怪我人って、もしかして元SRTの生徒ですか?」

『その通りだ。空井サキ、と言えば伝わるかい?』

「それならセイア様も知っているんじゃないですか!?ソイツは先生を死なせた、私達の敵なんですよ!!なんで助けようとするんですか!?」

『先生を死なせた、か。じゃあ聞くが、その死なせた、とはどういう意味だ?意図して殺したという意味か?』

「え?それは、その…。」

『そもそも、君達は当人に直接会ってもいないのか?』

「は、はい。」

『私は先程その空井サキに会って直接話を聞いたよ。あの日大戸島で起こった出来事の端々から、我々が怪物1号と呼んでいる生物の真の名前まで。その上で改めて言わせてもらう、彼女は私や君達の敵などではない。むしろ我々が将来確実に後悔をしないためにも、降り掛かってくる理不尽な悪意から絶対に守らなければならない存在なんだ。』 

「何故そこまでして向こうの味方を…?」

『気になるならまず君も彼女に会って話してみるんだ。繰り返すが、私は今の君達の私刑行為が間違っていると断言する。それでも尚この争いを続けると言うのなら、まずは私を倒して行け。』

 

 無線機から流れるセイアの声の数々が喧騒の中で一際大きく聞こえた。

 

(理不尽な悪意…。)

 

 彼女の言葉を聞いた一部のトリニティ生徒達が少しづつ歩みを止める。

 そのまま何を思ったのか俯いたまま動かなくなってしまった。

 

「ちょっと!!何逆に丸め込まれてるんだよ!!しっかりしろ!!」

 

 前を進んでいた仲間から発破をかけられ、腕を引っ張られるが、彼女達の足はその場に貼り付けられたかのように動かない。

 

「私、やめた。」

「はあっ!?」

「だってセイア様の言う通りじゃんか!!私達は結局空井サキっていう人のこと何も知らない!!ただネットの情報拾って、勝手に決めつけて、それだけ!!そんな偏見に凝り固まった頭でこんな酷いことしたら絶対後から後悔するに決まってる!!」

「何言ってんだ!!ここまでやったくせに今更後戻りできると思ってんのか!?」

「その人はまだ生きてる…!今なら助けられるんだよ!まだ手遅れじゃないんだ!私は魔女(人殺し)になんかならない!!」

 

 そう宣言して自分の銃をその場に放り投げる。

 彼女の行動を見た他のトリニティ生徒達も一人、また一人と武装を解除し抵抗を止めていった。

 

「この…!あっさり権力者の言うことに靡きやがって!!結局トリニティはトリニティが一番大事ってことかよ!!もう勝手にしろ!!」

 

 一方セイアの言葉を与太話程度にしか受け取らなったトリニティ以外の生徒達は攻勢を緩めようとしなかった。

 だが、今度はそれを見て声を荒げる者がいた。

 

「やらせないっ!!」

 

 丸腰となったトリニティ生徒が臆することなくかつての仲間達に掴みかかったのである。

 

「邪魔するなっ!!」

「お断りっ!!そんなに嫌なら私を撃てば?そしたら貴女はもうただの無差別銃撃犯だよ!!」

「そんな脅しなんて今更効かねえぞ!!覚悟しろ裏切り者っ!!」

 

 攻勢を止めようとする動きは忽ち周囲へと波及していき、巨大だった一つの流れに乱れを起こしていった。

 そして、その変化は集団というものを破壊する起点となっていく。

 

「何っ!?誰が敵で誰が味方なの!?」

「おいっ!!お前トリニティの生徒だろ!?お前もそっちの仲間か!?」

「えっ!?ちょっと待ってよ私は…!」

 

 疑心暗鬼に駆られた襲撃者達は次第に仲間同士で争い始める。

 彼女達の数少ない優位点であった数の多さがかえって自身の首を絞める弱点と化していた。 

 そんな状況でも、尚も戦闘能力をある程度保っている者が存在した。

 

「まったく、仲間同士で争って何やってんだか…。」 

「少なくとも私達はまだ見つかってない。この隙に近づこう。」

 

 姿を透明にしていた者達は陽動部隊側で巻き起こっている同士討ちに巻き込まれないまま戦闘を継続できていた。

 しかし先の一件を経て、今は無線に応答しない面々がちらほらと確認でき始めている。

 お互いの姿が見えないが故に、連絡のつかない相手は敵となったか、もしくは戦線を離脱したと考えて動くしかない。

 もう猶予はほとんど残っていなかった。

 

「あの防衛線をどう突破するの?もう風紀委員長があっちに合流してるよ?」

「何でもいいから今ある擲弾や発煙弾をありったけ投げつけるんだ。相手の陣形が少しでも崩れて乱戦に持ち込めればまだこっちにも勝機がある。」

 

 どうにか目的を果たさんと策を練る彼女達の耳に、空から重々しく大きな羽音がいくつも聞こえてきた。

 音の聞こえた方向へ目線を移すと、青と白を基調とした塗装が施されたヘリコプター4機が近づいて来ているのが見えた。

 それはRABBIT小隊のものとは違い『K.S.P.D』の文字が表示された、細いシルエットとミサイルを吊り下げたスタブウイングを備えた攻撃ヘリコプター(AH-64D)だった。

 

「ヘリだ!!ヴァルキューレの戦闘ヘリだぞ!!」

 

 飛来した機体は上空で一度静止すると、機首下に装備した機関砲を襲撃者達へ向ける。

 

『暴徒達に告げる!!お前達は既にヴァルキューレ公安局が包囲した!!直ちに武装を解除し投降しろ!!』

 

 スピーカーから発せられたカンナの声が公園全体に響き渡る。

 

「公安局!?嘘でしょ!?公安局が戦闘ヘリを動員してくるなんて!?」 

「今までまともに仕事してるところなんか見たこともないのに仲間を助けるためにはここまでするってこと!?結局連中も自分の仲間を守ることしか考えてないんじゃないか!!あんな奴らもう二度と信用しない!!」

 

 犯罪行為を起こした者を鎮圧するというのはヴァルキューレにとってごく普通の仕事なのだが、ここにいる者達にとってはむしろ闘争心に火を焚べる行為となってしまっていた。

 

「誰か司令塔役の…なんて名乗ってたっけ?あのミレニアムの子に連絡してヘリに有効な武器がないか聞いて!!もうこっちは普通の銃と手榴弾しか無いって!!」

「わかった!!ミレニアン!!ミレニアン応答せよ!!敵に戦闘ヘリが出てきた!!何か対抗手段はない!?」

 

 今この瞬間も自分達の動きを観測しているであろうミレニアン(ミレニアム生徒)に向けて襲撃者の一人が連絡を図る。

 しかし、返ってきた声は彼女が想像していたものとは異なっていた。 

 

『やっぱり…この子はそっちの仲間だったんだね…。』

「え?急に何言って…ん?待って貴女、なんかさっきまでと声違くない?」

『…残念だけど、私のコールサインはミレニアンじゃない。02(ゼロツー)だよ。』

 

 通信機から発される声の主が自分をゼロツーと名乗った時、彼女の背中にどっとと冷や汗が流れ出した。

 何故なら、彼女はそのコードネームが意味するものを知っていたのだから。

 

「C&C…!?」

『この呼び名が通じたってことは貴女もミレニアムの生徒ってことか。そちらの言うミレニアンは私の隣で伸びてるよ。悪いことは言わないからもう降参して。』

「なっ…!?」

『それに、もうすぐリーダーもそっちに到着するから。』

「嘘…。」

 

 呆然とそう呟いた直後、突然の銃声と共に彼女の後頭部に強烈な衝撃が襲いかかってきた。

 

「あがっ!?」

 

 頭部への攻撃によって一瞬で意識を刈り取られ、その場に力無く倒れ込む。

 手に握られていた短機関銃が力無く地面に落下した。

 彼女を襲った銃声はその後何発も鳴り響き、それと同じ数だけ別の悲鳴が上がった。

 

「ったく、昨日怪物1号と一晩中戦った後だってのに今度は一体何の騒ぎだ?」

 

 地面に散乱した数々の銃を踏み越えながら、その銃声の主は自身の姿を誇示するかのように堂々と前へ進み出る。

 

「アンタは…ミレニアムの美甘ネル!?何で私達が見えてるの!?」

「あん?顔が見えないから誰だかわかんねえけど、お前それ本気で言ってんのか?今自分達が周りの目にどう映ってるか少しは確認しなかったのかよ。」

「え…?」

 

 困惑する姿の見えない何者かに対してネルは彼女の脇に落ちていた銃を撃ち抜いて破壊する。

 

「本体は見えなくても、手に持ってる武器は見えてるんだよ。そうなりゃ後は狙いなんていくらでもつけようがあるからな。」

「あっ…。」

「それにお前ら足元をろくに確認しないで動いてただろ。土にできた足跡で尚更バレバレだっての。道具は良い物みてえだが使い方が下手すぎだ。持ってる銃がどれも短いやつばかりだから弱点を全く分かってなかった訳じゃなさそうだが、作戦が上手くいかなくなって焦ったか?」

 

 この光学迷彩を供与した自称『ミレニアン』は装備を配った相手に対して事前に注意点をきちんと説明していた。

 

『この光学迷彩は相手に見えなくなるだけで無敵になれるような道具じゃないし、透明になれるのは最低限の部分だけだから手に持つ道具とかは普通に相手に見られるんだ。だから絶対に真っ向勝負なんかやらないで。砲撃と陽動部隊で撹乱をしたら本隊は先生殺しを攫って速やかに撤収すること。わかった?』

 

 作戦内容や注意点の全体共有はしっかりと行っており、加えて個人の能力だけを見ればそれなりな人員も多少はいたものの、結局彼女達は所属する学園その他諸々がまるでバラバラ、更にチーム結成から僅か数時間しか経っていないため結束力自体は非常に弱く文字通り烏合の衆でしかなかった。

 最初の時点で護送車の出現に焦った一部のメンバーが勝手に攻撃を始めてしまったことで当初想定していた手順が崩壊、後は成し崩し的に攻撃を仕掛けることしかできなくなってしまった。

 一時的に有利を取れたのは戦車や火砲等戦力が充足した状態で不意打ちを決めることができたほんの一瞬だけだったのである。

 

「さあどうする?戦闘ヘリ相手にわざわざ素手で戦うか?あ、言っとくが今は仕事中だからあたしも手加減する気は一切ねえからな?」

 

 上空から睨みを利かせる戦闘ヘリコプターを背にネルは尚も浮遊し続ける銃火器達に向けてそう宣言した。

 襲撃者達が持ってきていた大型兵器は全て無力化されて、今や一般的な銃と手榴弾類しか残っていない。

 数少ない優位点だった光学迷彩も弱点を看破されてしまった。

そんな状態でゲヘナ学園最強や戦闘ヘリコプターを備えた相手に一体何ができるというのか。

 どう足掻いても一方的に殲滅される未来しか待っていない現実を正しく認識した彼女達は一人、また一人と消していた姿を現し、隠し持っていた武器を投げ捨てて降伏していく。

 この瞬間、襲撃者達は組織としてはほぼ無力化されることとなった。

 

「直ちに負傷者の搬送を行う!!全員、ヘリまでの道を開けなさい!!」

 

 チャンスが生まれたことを悟ったヒナは即座に周囲へ怒号を飛ばす。

 進路を塞いでいた生徒達は、ある者は迅速に、ある者は渋々といった様子で道を開けていった。

 そうして搬送を始めようとサオリがサキを再び抱きかかえた、その時。

 

「待てよッ!!」

 

 公園全体に響き渡るような大声で待ったが掛けられた。

 その声は、先程サキに怪我を負わせた人物のもの全く同じだった。

 

「何勝手に終わらせようとしてるんだ?あぁん!?」

 

 警戒感を顕にしながら声のした方へと皆が視線を向けると、フラフラと今にも倒れそうな足取りでこちらに近づいてくる一人の生徒の姿が目に入った。

 服装はすっかりボロボロになっていたものの、色合いや形からゲヘナ学園の制服だと判別できる。

 故に、ヒナはいつもと同じ感覚で規則違反者の『取り締まり』を行おうとした。

 

「今すぐ止まりなさい。」

「止まってほしいなら先生殺しをこっちに寄越せ…!今度こそ血祭りにあげてやる…!」

「そんなことをすれば矯正局収監の処分だけでは済まなくなるわよ。意味の無い罪を犯すような真似はやめなさい!」

「罪だって!?ソイツは怪物1号と同じ、先生を死なせた張本人だ!!なら委員長達が昨日したのと同じように報復してやるべきだ!!そうだろう!?」

「如何なる理由があろうとも人が人の命を奪うようなことを認めるわけにはいかない!!貴女がやろうとしていることは只の殺人よ!!」

「お前らが勝手に基準を作るな!!怪物1号も空井サキも、『先生を死なせた生き物』ってことには何も変わりないだろうが!!自分達は好き勝手に殺しをやって、それをさも正しいことかのように喧伝しておいて他人には命の尊さを語って殺しはいけない許されないだって!?ダブスタも大概にしろ!!そんなに殺しが駄目なら、初めから怪物1号のこともそう言って守ってやるべきだろうが!?違うか!?」

 

 激昂したゲヘナ生徒はこれまでより一際大きな叫び声を上げながら隠し持っていた小型拳銃(デリンジャー)をヒナに向けて突きつける。

 彼女の大声は辺り一面へと響き渡り、それを聞いた元襲撃者達は皆曇った表情を浮かべる。

 社会上の道徳心や武力による抑圧で行動は止められても、心の奥底で思っていた本心までもが変わった訳では無い。

 彼女達は、決して空井サキ(先生殺し)のことを心から許していた訳ではなかった。

 

「風紀委員長なら少しは私の気持ちがわかるんじゃないのか?私は見てたぞ?先生と一緒にいる時の委員長、凄く幸せそうだったじゃん。」

「…。」

「私も…いやここにいる皆がお前と同じなんだ。先生に助けられて、何度も支えてもらって、いつかちゃんとお礼をしたくて…だけどずっと一緒に居たいって我儘が先に出そうになったりして…。」

「…。」

「私、本当だったら今頃当番としてシャーレに行っていたはずだったんだぞ…。」

「そう、なの…?」

「ああそうだとも…今日は私が先生と久しぶりに会える大事な日だったんだ。けれど、私がシャーレに当番として呼ばれる日はもう二度とやって来ない。こんなに有り様にしたのは一体誰だ!?」

「…。」

「先生が亡くなってから、学園の違いなんて関係なく誰もが口を揃えてこう言ってた。『先生の命を奪った怪物1号に必ず報いを』と!だから私も委員長達と一緒に怪物1号と戦うんだってずっと思ってたのに…。」

「…。」

「結局、お前達は私達みたいな有象無象の生徒達のことなんか気にも留めず、自分達だけで勝手に復讐をやり遂げた!!こっちはなんの通告も無くいきなり蚊帳の外に追い出されて、最初で最後のチャンスを奪われたんだ!!こんなの不公平だろうが!!」

「…。」

「だからソイツに…先生を死なせた奴にこの手で報いを与えてやらないと気が済まないんだよ!!私達はこのままじゃ何も終われないんだ!!」

 

 彼女の言い分は、『先生を殺した相手に報いを与えろと皆が言っていたのだから同じように空井サキにも報復するのが道理だろう』というものだった。

 そんな言い分を聞いて、二人の会話に割り込んでくる者がいた。

 

「成る程。君の言いたいことは凡そ理解した。続きは私が相手になろう。」

 

 たった一人進み出たセイアはヒナの隣から一歩先へ進み出て相手の前に立とうとする。

 

「百合園セイア、貴女は下がっていて。ゲヘナ生徒同士のいざこざでこれ以上トリニティの生徒に危害が及んだら面倒なことになるわ。」

「悪いがそうはいかない。彼女の不満を解消するには、学園間の隔たりを超えた行動が必要だ。そしてそれを解決するための鍵は、この私が持っている。」

 

 発言の意図を読み取れずキョトンとするヒナを他所に更に一方前へと、相手の銃口の寸前にまで進み出たセイアは敵意を剥き出しにする少女の目を真っ直ぐ見つめながら口を開いた。

 

「単刀直入に言おう、君達が正しく報復すべき相手は空井サキではない。この私だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。