BLUE ARCHIVE -1.0   作:あたー

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皆さんお久しぶりで…
ボコォッ!!
◯島「アンタッ!自分が一体何したのかわかってんのかよ!?(3ヶ月半更新なし)」

はい、作るのにめっちゃ時間かかりました。
今回は特に文章直しを何度も何度も何度もしたのでこの有り様でありんす。
大筋を決めてても細かい部分を決めてないとこうなるという典型例ですわ。
ゴジラ-0.0の特報が既に2つも発表されたしどんどん11月が近づいて来てるぅ〜。
とりあえず7月末発売のソフビは真っ先に買います。

それでは34話になります。







シン()・アオハル

「モエっ!!早くエンジンを!!」

「了解!!」

 

 モエがコックピットに乗り込み、ミヤコはヘリコプターの後部扉を開け放ち人を寝かせるスペースを確保する。

 慣れた手つきでヘリのエンジンを始動させながら、モエは無線機の周波数を切り替えてヴァルキューレの戦闘ヘリと交信を試みていた。

 

「こちらSRT特殊学園所属RABBIT…風倉モエっ!!公安局長応答願う!!」

『こちらヴァルキューレ公安局、尾刄。聞こえるぞ風倉。』

「現在重症者一名を輸送中!!直ちに病院へ搬送する必要があるっ!!援護を要請する!!」

『了解した。P(ピー)-03(マルサン)04(マルヨン)の2機をそちらの護衛に当たらせる。お前達は真っ直ぐ中央病院に向かえ。病院へは私から連絡をしておく。』

「こちら風倉了解っ!!ありがとう局長っ!!ヴァルキューレに連絡はついた!!すぐに離陸するよ!!」

 

 スロットルの回転を上げながらモエは後ろの面々に向けて大声で呼びかける。

 一方の後部席では飛び乗ったサオリが抱えていたサキをヘリの床へ横たわらせていた。

 

「サキっ!!わかるか!?今ヘリの中だ!!もう大丈夫だぞ!!だから今だけは寝るなっ!!寝たらそのまま二度と起きられなくなるぞ!!意識をしっかり保てっ!!」

 

 すっかり反応が無くなった彼女へ向けてサオリは必死で呼びかけ続ける。

 その隣ではもう一人の搬送人を降ろしている最中だった。

 

「いい、3で降ろすよ?1、2、3…。」

「い、いえ私は大丈夫ですから…。」

 

 アツコ達に担がれたアコも後に続いてヘリに乗せられる。

 だが、サキと比べてまともに外傷も負っていない自分が同じ負傷者として扱われることが気不味かったのか、遠慮するような言葉を発した。

 

「病院まではアコさんが一緒にいてあげて。そうすれば一応サオリに監視役を付けている体裁にできるはずだから。」

 

 アツコのその発言はサオリの耳にも入っていた。

 セイアとハスミに姿を見られた以上、もう風紀委員会に匿ってもらうことは不可能に違いない。むしろ即座に拘束されてトリニティ連行されていないだけマシなくらいだ。

 そんな状況で彼女がさり気なくフォローを入れてくれていたことをサオリはすぐに察知した。

 思わず顔をアツコ達の方へと向ける。

 

「それじゃあミヤコさん、サオリを、皆をお願いします。」

 

 そう伝えてアツコ達3人は機外へ出ていく。

 振り返った彼女は扉を閉める直前、一瞬だけ視線をサオリの方をへと向けた。

 お互いの目が合った瞬間、アツコはこちらへ向けて右手の指で左胸と右胸をつつく動作をした。

 

『大丈夫』という意味の手話だった。

 

 それを見たサオリも小さく頷きを返す。

 すぐさま扉は閉められ、アツコ達は急いで機体から離れて行った。

 

「全員搭乗確認!!離陸してくださいっ!!」

 

 ミヤコのその一言で、6人を乗せた機体は空へと飛び立って行った。

 

 

 

 

 

「お前、人のこと馬鹿にしてるのか?」

「この局面でそんなことをすると思うかい?」

「とぼけるな!!ゲヘナの生徒なんてどうせ暴れたいだけの単細胞な馬鹿しかいないって思ってるんだろ!?そうでなきゃそんな頓珍漢なことが口から出てくるわけない!!なんで私がお前に復讐しなきゃならないんだよ!?」

 

 唯でさえ怒り心頭で赤くなっていた顔を更に真っ赤にさせながらゲヘナ生徒はセイアに詰め寄る。

 だが当の本人は既に答えを決めていたのか、その怒号にも全く動じなかった。

 

「そうか、ならば一つずつ理由を話していこうか。君達のこれからにも関わってくることだからね。」

「そんなこと言ってただ時間稼ぎをしようとしてるだけじゃないだろうな。そもそもなんで自分から痛い目に遭いに行くようなことを言うんだ?お前の考えていることが全くわからないぞ。」

「怒りを鎮めるには、まずその原因を明確にしなければならない。根本を見据えなければ、たとえキヴォトスの全てを破壊したとしても君達の怒りが治まることはないだろう。そうなれば、待っているのは破滅だけだ。君達も、私達も、何もかも。それを防ぐためなら、私はいくらでもこの身を投げ売つよ。」

「そうかよ、だったら教えてもらおうか。お前の言う理由とやらをよ?」

 

 ゲヘナ生徒が話に応じる姿勢を見せたことで皆の注目がセイアに集まる。

 そして一呼吸置いた後、彼女は口を開いた。

 

「では今一度整理しようか。まず君達が報復心を抱いた原因は何だった?」

「今更何言ってるんだ、空井サキが先生を死なせたからだよ。アイツが…。」

「違う。そもそも最初に報復心を抱いた相手がいただろう?」

「怪物1号のことか?」

「そうだ。先生の死亡と同時に存在が発表され、あらゆる生徒達が倒そうと行動し、私達が駆逐した存在。君達が本来殺意を向けていたのはそちらではなかったのか?」

「今更何を分かりきったことを!!そうさ、私は怪物1号が憎い…絶対に許さない!!だけど、もう怪物1号はいないんだ!!お前達が…!!」

 

 そこまで言いかけた所で彼女はセイアが言わんとしていることを察したのか一度言葉を切ると、答え合わせをするかのように改めて問い直した。

 

「まさか、怪物1号の抹殺を自分達で独占したから悪いって思ってるのか?」

「そうだ。君達に怪物1号の存在を公表したのも、報復心を向けるよう煽り立てたのも、元を辿れば私達上層部の判断が原因だ。それなのに、私達は君達の存在を無視して勝手に決着をつけてしまった。ならば行き場の無くなった怒りをぶつけるべき相手は、私以外に無い。」

 

 セイアの言葉は目の前にいる人物だけでなく、周りいる者達の耳にもはっきりと届いた。

 だがその発言に対する反応は、納得ではなく困惑に満ちたものだった。

 

「はっ、何言ってるんだ?私以外に無い?なんでその理屈でお前だけに相手を限定しなきゃならないんだよ!そんなものが『先生殺し』を放置する理由になるものか!!そんなに痛い目に遭いたいなら望み通りにしてやる!!お前が終わったら今度こそ奴の番だ!!」

「…彼女をこれ以上害するのはやめておいたほうがいい。きっと後から後悔するはずだ。」

「ああ!?さっきからお前はアイツの肩を持つようなことばかり言って、一体何を考えてるんだ!?全っ然わからねえよ!!」

「…君はこのキヴォトスで罪の重さを決める時、最も重視されるものが何か知っているかい?」

「え?」

「もし知らないのなら今ここでしっかり覚えていってほしい。罪の重さを決める最も重要な指標、それは、『殺意』や『悪意』の有無だ。」

「殺意や、悪意…。」

「私や君達と、空井サキが決定的に違うのはそこだよ。私達の目的は相手を殺すこと、彼女の目的は大切なものを守ることだった。それが成功したか、失敗したかの違いだ。私は、本人に会って始めてそのことを知った。君はどうなんだ?」

「…。」

「あの日、空井サキが先生の命を守れなかったことは紛れもない事実だ。だが、それは決して彼女が望んで起こしたものではない。様々な要因が絡んだ結果起こってしまった事故だ。彼女は…この結果を誰よりも悔いていた人間なんだよ。それこそ、本気で自死を考える程に。」

「な…!?」

「殺意しか持たなかった私達と、そうでなかった彼女と、一体どちらが本当の悪い奴なんだろうね。」

「そんなの…本人がどう思ってたかなんて私達には関係無い!!重要なのは結果だ!!奴は先生を守りきれなかった!!それが事実なら私がやることは何も変わらない!!」

「君にとってその選択は、この先絶対に後悔しないと言えるものかい?」

「後悔?」

「自殺を考える程に罪悪感と自責の念に苦しむ者を身勝手に害する行為を、君は今後の人生で絶対に後悔しないと断言できるかと聞いてるんだ。」

「そんなの…奴のしたことを考えれば当然の報いだろう!それなのに後悔なんて…!」

「今はそう思えてしまっているかもしれない。だが、その手を血で汚してしまったが最後、人は二度と元に戻れない。そしていつか事の重大さに気付いた時、君の心は現実に耐えれれないだろう。」

「そんなの…どうだっていい!私の目的は先生を殺した奴に復讐することだ!!その後のことなんかどうなろうが知ったこっちゃない!!未来の希望なんて…もう残ってなんかないんだから…。」

「…そうか。」

 

 『未来の希望なんて残っていない』という言葉を聞いたセイアは一瞬だけ曇った表情を浮かべた後、意を決して次なる行動を起こした。

 

「なら、私は君にしっかりと償いをしなければならないね。」

 

 そう言って拳銃が握られたゲヘナ生徒の手を掴むと、それを自身の頭まで持ち上げさせ眼孔に銃口を突きつけさせた。

 その行動を見たトリニティの生徒達が騒然とし始める。

 

「セイア様!?何をするつもりですかっ!?」

 

 既に怪我を負っているところへ更に自傷を行おうとする彼女を止めようとハスミは二人の方へ足を踏み出す。

 だが他ならぬセイア自身がそれに待ったを掛けた。

 

「邪魔をするなっ!!」

「そうはいきません!!」

「この事態は私達上層部の怠慢が招いたものだ!ならばその一員たる私が身を削ってでも清算をしなければならない!それどころか護られるべき被害者に更なる出血を強いてしまうようでは、生徒会長という存在に何の意味があるというのか!」

「っ!!」

「これから起こることは見た目こそ違えども昨日私達がゴジラを相手にした事と何ら変わらないものだ!同じことをした私達が何の罪にも問われないなら、彼女だって同様に扱わなければ公平とは言えないだろう!ハスミ、私がここで斃れても彼女を罪人として扱うんじゃないぞ。これはティーパーティーのホストとしての命令だ!」

 

 セイアがこれまでにないほどの大声を張り上げる。

 普段の彼女らしからぬ気迫にハスミも踏み出した足を止めてしまった。

 

「最後に一つ君と私の関係がどんなものか分かりやすく話してやろう。皆が絶望に沈まないよう殺意に駆り立て、それでいて一度のチャンスも与えず、こちらだけで何もかも終わらせて今や清々しく他人に説法を説いている、それが君にとっての私だ。これがどれだけ邪悪で身勝手なことかくらい分かるだろう?」

「う…。」

「もし先生がこの話を聞いていたら、きっと私のことをこっ酷く叱っただろう。そもそも復讐なんてするんじゃないと、自分のことで争いなんか起きて欲しくないと。だが私はそれを良しとせず、血が流れることを望んだ。私はね、先生の意思を無碍にしたとても悪い生徒なんだよ。そんな奴なんて復讐相手にぴったりだろう?少なくとも空井サキを撃つより遥かに罪悪感は薄いんじゃないのか?」

「…!」

「さあ君は君の目的を果たせ!私達がゴジラへの復讐を是とし救いとしたように、その選択が君の救いとなり、胸を張って誇れる経験となるなら、まずは私からやるんだ!私の眼球なら君達の風紀委員長と違ってこの拳銃の弾丸で簡単に潰せるはすだ、手始めにはちょうど良いだろう!」

「それは…。」

「どうした?今更怖気づいたのかい?そんなあっさり曲がるような覚悟なら今からでもやめておくんだね。きっと後から後悔するよ。」

「…っ!!」

 

 物騒なことを言うセイアは語気こそ強いものの異常に冷静で、その不釣り合いさが更に不気味な情景を映し出していた。

 その威圧感に押されまいと、ゲヘナ生徒も改めて拳銃を相手へ構え直す。

 二人の間に沈黙と緊張が走る。

 だが、次の瞬間は中々訪れなかった。

 

「どうした?何故撃たない。私もやられるなら早いほうがいいのだが。」

 

 引き金は引かれることなく時間だけが延々と過ぎていく。

 それどころか銃を構える彼女の腕は段々と小さく震えだし始めていた。

 

(私の…救い?誇れるもの?)

 

 ゲヘナ生徒の脳内でセイアの言葉が反芻する。

 先生を殺した者へ復讐を。

 その志が絶望のドン底に居た彼女に生きる原動力を与えていたのは間違いない。

 だが怪物1号は遥か海の向こうで何時の間にか消し去られ、次に何を目標にすればいいか分からなくなってしまった。

 だから、代わりの敵を求めた。

 そんな折にネットで空井サキの話題を見かけた。

 

『先生が亡くなった時一緒にいたのはコイツ』

『コイツが先生を死なせた』

『コイツは人殺し』

 

 復讐のことしか頭に無かったあの時の自分はそんな誰が言い始めたかも分からない情報にどんどん飲み込まれていき、こうして同じ意思を持った者達の集まりへ参加するまでになっていた。

 

「これは先生を奪われた自分達の正当な権利だ。誰にも文句は言わせない。」

「未来を奪われた私達の怒りを思い知らせてやる。」

「先生を死なせたアイツは怪物1号と同じ。」

「先生殺し。」

 

 集まった皆が口々にそう言っていた。

 自分もそれらの話を完全に信じ切り、この復讐(人殺し)に一切の躊躇いも罪悪感も抱かなくなっていた。

 

 そんな状態でぶつけられたセイアの言葉は、血が昇りきっていた頭に冷水を掛けられるようなものだった。

 

 ふと、銃を握る指先に意識が向かう。

 ついさっき空井サキを撃ち、重症を与えた手だ。

 だが自分に撃たれる前、彼女は一体何と言っていた?

 

『おいっ!!まだこの車に閉じ込められてる人がいるんだっ!!後ろの扉を開けさせてくれっ!!』

『おいやめろっ!!今ここで撃ったら引火して大変なことにっ…!!』

 

 先生殺しと呼ばれ、暴行を受けていた間でも彼女が最後まで気に掛けていたのは自身のことではなく他人のことばかりで、こちらに敵意を見せることは一切無かった。

 あの状況でも他者を優先するなら、怪物1号と対面した時も同じだったのではないのか?

 そんな人物にする復讐など、果たして自分が本心から納得できることなのか?

 セイアの言っていた通り、後になってから後悔して次の復讐相手を探そうとするだけではないのか?

 

 セイアから聞かされた今の話を嘘だと言い切るか、信じるかは自分次第だ。

 だがもし事実であるならば、私は怪物1号や空井サキどころの次元ではない極悪人となってしまう。

 止めようと思えば止められた立場にも関わらず殺意を優先し、悪事を働いた自覚がありながらそれを正当な権利であるかのように言い訳する奴など、絶対に許されていいはずがない。

 

 セイアの言っていた『破滅』とはそのことなのだろう。

 先生が守ろうとしていた大切なもの(生徒達の未来)を私がこの手で壊してしまう。

 私は崩壊した世界の中で今度こそ絶望と孤独と後悔の渦中へ叩き落とされる。

 そこまで辿り着いてしまってからでは全て手遅れなのだ。

 

 ふとそんな考えが頭を過ぎると、自らの意思で人を害した自分があまりにも惨めに思えてくる。

 今の話を聞いても尚この行動が正しいと、意味のあるものだと信じていられればまだ良かった。

 

 だが、そうはなれなかった。

 暗闇の中で見えた僅かな希望の光が、最悪の破滅へと向かう道標だと言われて尚同じ道を進めるほど、彼女は絶望に堕ちきれてはいなかった。

 いや、最初に自身が選んだ復讐という(頭を使う)行動そのものが、彼女を完全なる絶望の底に落とさないための最後の灯火(理性)となっていたのである。

 

「なんてことしてくれたんだよ…。」

 

 拳銃を持っていた腕から力が抜けていく。

 彼女の指先から抜け落ちた銃はそのままセイアの掌へと渡った。

 

「お前が余計なこと言うから、気づいちゃったじゃないか…。」

「…。」

「お前さえ…お前さえこんなところにいなければ、最後まで幸せな馬鹿でいられたかもしれないのに…。」

「…。」

「私…一体何のためにこんなこと…。」

 

 その場に膝から崩れ落ちる。

 先程までの復讐者としての威容はもはや見る影もなく、残っていたのはどうにもならない事実に打ちのめされて嘆き悲しむ女の子の姿だけだった。

 俯き、嗚咽を漏らし続ける彼女をセイアはそっと抱きしめた。

 

「すまない。全て私達の責任なんだ。君の手を人の血で汚させてしまった。」

 

 抱きしめる腕の力は段々と強くなっていく。

 それが他に何も差し出せない彼女ができる精一杯の謝罪だった。

 

「…うるさい。」

「…。」

「責任責任って似てもいない先生の真似事なんかするんじゃねえよ。お前なんか…お前らなんか、嫌いだ。大っ嫌いだ…。」

「…ああ、それでいい。私を嫌え。恨め。それだけのことを私は君にしたのだから。」

「よくねえよ。お前は正しいことをしたんじゃないか。私みたいなマヌケよりよっぽど…。」

「君だって偉い子さ。自らの意思で最悪の選択を回避したんだ。君はそのことを誇って良いんだよ。」

「その先生の猿真似やめろって言ってるだろ…ちくしょう。」

 

 ゲヘナ生徒は涙声でそう言い返すものの、自身に掛けられたセイアの腕を振り解こうとはしなかった。

 

 

 

 

 

「皆さんっ!!火災が広がり始めていますっ!!公園の外へ避難を!!私が先導します!!」

 

 ニコが発したその大声で2人に集中していた皆の意識は、ようやく周りに広がり始めていた炎へと向けられるようになった。

 

 

 

 

 

 カンナの命令で出動してきたヴァルキューレ警察学校の生徒達が目にしたのは火の手が上がる公園と、それを遠目に眺める意気消沈した生徒の集団だった。

 暴徒鎮圧という司令を受けたはずが、火災から避難してきただけにしか見えない状況にどう対処していいかわからず困惑していたところ、彼女らを見たヒナ達が指示を出すことで段々と処理は進められていき、続いて到着したヴァルキューレ警察学校消防局による消火作業等全ての対応が終わったころには西の空が紅くなり始めてしまっていた。

 

「彼女らの身柄はヴァルキューレ警察学校で一時的にお預かりします。各学園への収容者の引き渡しは聴取を終えてから行うことになるかと。」

「かしこまりしました。」 

「事が事だけに、聴取の内容次第では全員を引き渡しすることは叶わないかもしれませんが…。」

「ええ、それも理解しているわ。罪状が明確な殺人となれば、普段のように簡単な処理だけではとても済まないでしょうからね。」

「ご理解いただき、感謝します。」

「セミナーへはあたしのほうからもう報告してある。そのうちヴァルキューレにうちの偉い奴から連絡が行くと思うぜ。」

「わかりました。では、我々は撤収にかかります。本日はご協力くださり、ありがとうございました。」

 

 そう言ってカンナは綺麗な敬礼をした後、待機していたヴァルキューレ生徒達の方へと走り去っていった。

 残されたヒナ達3人も、仲間達が待っている場所へ向けて歩き出す。

 歩いて行った先には焦げ臭さが立ち込めている公園と、火種が残っていないか確認を続ける消防局の生徒達が見えた。

 

「オーライ!オーライっ!!」

 

 公園内の一角では、すっかり焼け焦げた戦車の残骸をクレーンで回収しているミレニアムサイエンススクールの生徒達の姿もあり、ウタハ達エンジニア部が作業の音頭を取っていた。

 そして3人の仲間達は、公園の入り口近くの縁石に腰掛けてその回収風景を見物していた。

 

「あっ、ヒナさんおかえりなさい。ハスミさん達もお疲れ様でした。」

 

 3人の接近に気付いたアツコが先んじて労いの言葉をかける。

 振り返った彼女の腕には小さな白い兎が抱えられていた。

 

「今ミヤコさんからサキさんの治療が終わったって連絡があったんだ。まだ意識は戻らないみたいだけれど、もう命に別状は無いそうだよ。」

「そうなのね。よかった…。」

 

 アツコの話を聞いてヒナもホッと息をつく。

 先生に次いで更に知人の死亡報告を聞いていたら、今度こそ本当に心が保たなかったかもしれない。

 

「お取り込み中失礼します。SRT特殊学園3年、吉野ニコです。皆さんにお伝えしたい事がありまして。」

「なにかしら。」

「先程避難を行った際、混乱に乗じて現場から逃走を図る者がいないか心配していたのですが、公園外から観測していた隊員の報告で、脱走者は皆無だったそうです。」 

「それは本当なの?」

「はい。その隊員も驚いていました。とはいえあのゲヘナ生徒も元々はシャーレに所属していた方のようですし、皆セイアさんの話を聞いて罪悪感を感じてしまったのもしれません。元々法を犯す行為に慣れていた方々では無いようですから。」

「…。」

「とにかく、今回の事件の被疑者は全員ヴァルキューレに拘束されたと見て間違いないでしょう。お伝えしたかったのはそれだけです。」

「了解したわ。報告をありがとう。」

「こちらこそ、ご助力いただきありがとうございました。では、私は任務に復帰しますので、これにて。」

 

 そう言ってニコはヒナ達に短く敬礼すると、急ぎ足でその場から去っていった。

 これで対応すべき事案は全て片付いたと思った、その時。

 

「結果として最悪の事態は免れたとはいえ、流石に心身にくるものがあるね。今回の件は。」

 

 そう言いながらセイアはヒナ達へと近づいてくる。

 応急処置として頬に貼られた大きな絆創膏が非常に目立っていた。

 

「怪物1号が出現してから、私もどこかおかしくなってしまったらしいな。随分と自分らしくないことをするようになったものだ。」

「まあこんなことになっていつも通りでいられる奴の方が稀だろ。だからあんま一人で抱え込むなよ。」

「わかっているさ。だが、これも私が背負わなければならない責務だ。それが生徒会長というものだからね。」

「そんな風に振る舞って、結局自分を限界まで追い詰めて失敗する生徒会長を知ってるから全然安心できねえんだよ。お前さっき怒鳴った時無意識にゴジラって口走っただろ。その名前じゃアイツらに伝わる訳もないだろうに。慣れないことしてボロが出たな?」

「なんだ?ネルはもうゴジラの名を知っていたのか?」

「昨日ラゴス島で月雪ミヤコから聞いたんだよ。とにかく、あんな無理して慣れない振る舞いしてるのがバレバレな奴なんて誰でも心配になるっての。最後の一線を越えてからじゃ遅えんだ。駄目になりそうだと思ったらすぐ誰かに相談しろ。もし身内にできないならあたしが話を聞いてやる。いいな?」

「ありがとう、助かるよ…本当に。」

 

 セイアの態度に妙なデジャヴを覚えたネルは先んじて相手に釘を差す。

 その言葉で少し肩の荷が降りたのか、セイアは目を瞑ると一度大きく深呼吸をして沈んでいた気分を落ち着かせた。

 そして再び目を開いた次の瞬間、彼女の目つきは生徒会長のものへと変わった。

 

「だが、どうやら私よりもおかしなことになっている面々が随分と近くにいたようだ。まさか風紀委員会がアリウススクワッドと既に接触していたとはね。しかも随分友好的な関係を築いているようじゃないか。」

 

 その目つきは普段の穏やかなものとは異なり、疑念と警戒感に満ちた敵対者(トリニティ生徒)のものだった。

 何時の間にか彼女のすぐ隣へ移動していたハスミは小銃の引き金に既に指を掛けており、いつでもこちらを攻撃できる準備が整っていることを分かりやすく見せつけていた。

 そんな彼女もまた、ヒナ達を警戒心に満ちた瞳でじっと見つめていた。

 

「さて聞かせてもらおうかな。君達の間に、一体何があったのかを。」

 

 

 

 

 

「ねえナギちゃん、こんな時間に学園の外へ出掛けるなんて一体何があったの?いい加減理由を教えてよ〜。」

「すみません、セイアさんからの要望でミカさんへの説明は待つようにと言われておりまして…。」

「えー何それ、また私だけ除け者なの?セイアちゃんは相変わらず意地悪だなぁ。」

 

 すっかり周りが暗くなり皆が床に就く準備を始めるような時刻、ミカは突然ナギサに呼び出されてそのまま車に押し込められ、何処かへと移送されていた。

 何も知らされず、教えられず、ただ命令されて動くだけ。

 ティーパーティーのホストをしていた頃からは想像もできないような扱いに何度目かもわからない不満をぽつりと呟く。

 だが、その後に次の言葉が続くことは無かった。

 

(まあ、私のことを気に掛けてくれてるってのは分かってるんだけどさ。)

 

 ミカは友人達が自分に隠し事をすることが何を意味しているかを概ね察していた。

 

(さっき一瞬ミネ団長が別の車に乗るのが見えた。今の情勢でティーパーティーと救護騎士団のトップが一緒に動くってことは先生に関することで進展あったか、それに準ずる何かが起きたってこと。きっとセイアちゃんはその説明をするためにわざわざ私を呼んだんだ。この前と同じ。)

 

 先生が亡くなったことを報告された時もそうだった。

 ギリギリまで具体的なことを漏らさず、全ての準備が整ってから説明を始める。

 できるだけ、ミカ(地雷原)を刺激しないように細心の注意を払って。

 

(だったら、私にできるのはそれをしっかりと受け止めることだけだよね。)

 

 先生の件を聞いた時は結局平常心を保っていられず皆にかなりの迷惑を掛けてしまった。

 ならば、今度はそうならないようしっかり覚悟を決めよう。

 今の私ならきっと大丈夫だと、ミカは車が止まるまでの間ずっと自分にそう言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました。どうぞお降りください。」

 

 停車した車の扉が開き、運転手から降りるよう促される。

 ナギサに続いて車外へ出てみると、ミカにとっても見覚えのある建物がそこにはあった。

 

「ここ…SRT特殊学園の校舎?つい最近閉鎖されたって聞いてたんだけど…。」

 

 装飾豊かなトリニティの校舎とは異なり、機能性を最優先したことが伺える無機質な建物。

 本来ならば真っ暗な廃墟になっているはずのSRT特殊学園の校舎には現在点々と明かりが灯され、僅かながら以前の活力を取り戻したかのようになっていた。

 その光景に違和感を覚えながら、黙ってナギサの後に続いて校舎に足を踏み入れる。

 ミカ達の後ろにはミネとサクラコの二人が続いた。

 入ってみると、すぐに妙な光景が目に入った。

 

(あっちはヴァルキューレ警察学校の生徒で、こっちには正義実現委員会の生徒。でも人数だけで言えば正義実現委員会(うち)の生徒が圧倒的に多い…本来逆じゃないの?)

 

 廃校が決定した後、SRT特殊学園の生徒達はヴァルキューレ警察学校へと編入されたはず。

 であれば、SRTの保有していた建物はヴァルキューレが中心になって管理を行うのが自然な流れだろう。

 だが、そうはなっていない。

 ヴァルキューレの生徒は守衛のような数名だけで、空っぽの教室へ忙しなく機材を運び込んでいるのは正義実現委員会の生徒ばかりだった。

 建物の奥へ歩みを進めていくと、更におかしな光景が目に入る。

 

(え…あれって、ゲヘナの風紀委員会?なんでここにいるの?)

 

 正義実現委員会とテリトリーを2分するかのように、廊下の途中から今度は風紀委員会の生徒達が同じように機材の準備を進めていた。

 一体どんな事がこの場所で起こっているのか、どんどん見当が付かなくなる。

 そうして疑問に疑問を重ねながら歩みを進み続けると、前を行くナギサは会議室らしき大きな観音扉の前で足を止めた。

 そのまま3回、扉をノックする。

 

「トリニティ総合学園桐藤ナギサ以下3名、百合園セイアより招集を受け参りました。」

 

 ナギサの言葉に対して、扉の奥から「どうぞ。」という返事が返ってきた。

 直後に扉が開けられると、中の様子が一気にミカの視界へと飛び込んでくる。

 

(え…?)

 

 一際広い会議室の中には大きなコの字型の机が置かれており、その両端の部分、片方にはセイアとハスミのトリニティ生徒達、そして対面する位置にヒナやチナツ達ゲヘナ風紀委員会の生徒が既に座っている。

 そして両者に挟まれた中央の部分には…。

 

(サオリ…?)

 

 アリウススクワッドの4人が座っていた。

 

「えっと…これ、どういう状況?」

 

 ミカの口から、ついに本音が零れ出た。

 

 

 

 

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