死を告げるらしい鳥がいる 作:エリュシオン
「────様っ、姫様、織姫様っ」
「はっ」
いけないいけない。頭には何故か走馬灯が、口からはエクトプラズムが出ていたような気がする。
「今は……高等部の入学式が終わったのでしたわね」
「はい、その通りでございます」
あれから、初等部、中等部と順調に進んだ私達はついに物語の舞台、高等部へと入学を果たしたのだった。
「呆然とされるのもわかります。まさか、織姫様のソロに割り込んでくるだなんて」
このストレートの黒髪が麗しい美少女は
「そうよそうよ」
「流石は外部生ね、見苦しい」
「注目を浴びようとでもしたのかしら」
「おやめになって」
取り巻きの子達がピーチク喋るのをすっと止める。
「一度の失敗くらい、見逃しましょう」
というか、そうしないと困るのは私達なのだ。今槍玉に上がっているのは『春を告げない鳥がいる』のヒロインの話。つまりこの少女漫画の主人公のことなのだから。
「でも、この学園の伝統が汚されたのですよ!?」
彼女達が何を怒っているのか。それは、この
なんとこの学園の校歌斉唱にはソロパートがあって、それを歌う人が代々存在するのだ。歌が上手い学園の権力者の女子が担当するそれを、今年から私が担うことになっている。
このことは内部生はもちろん、高校から入ってくる外部生にも周知される。ところが外部生であるヒロインはついつられて歌ってしまう、というのが原作の始まりの場面。この世界でもそれは同じだったらしい。
このことはヒロインの今後に大きく影を落とす。だから止めたかったのだけど、せいぜい「校歌にはソロパートがあることをヒロインのクラスで絶対注意して貰うよう頼む」ことくらいしか出来なかった。だってどうやって止めればいいの、つい歌っちゃうんだよついつい。
原作のスタートを止められなかったことにため息をつくと、別の方向に捉えられたらしい。
「そうですよね、織姫様にもやはり忸怩たる思いが────」
と、ここで彼女の声は止まる。同時にぽーっとした表情を浮かべだした。それは玲子さん以外も同様で、その顔に私は何が起きたかを悟る。
「小夜啼」
「
烏帽子
私はこの漫画のヒーローとその友達である彼のことはずっと避けてきた。それが、どうして呼び止められるようなことに?
どうぞどうぞと取り巻きの子達に言われ、私はあれよあれよという間に人気のない場所で烏帽子様と2人佇んでいた。きーっ、裏切り者達めっ。
「烏帽子様、ご用件というのは」
沈黙に耐えきれず口を開いた私に、烏帽子様はポツリとこぼした。
「俺は、お前に好意を抱いている」
「ふえっ?」
え、え、ええっ?
見つめた烏帽子様の黒い瞳にはただ私だけが映っていた。
「月が、綺麗ですね……?」
混乱の中呟いた言葉は、肯定と受け取られたらしい。
「ではまた、な」
フッと滅多にない笑みを見せられたチョロい私は、不覚にもキュンと来てしまったのだった。