死を告げるらしい鳥がいる 作:エリュシオン
「おはよう、小夜啼」
「ごきげんよう、烏帽子様」
入学式の次の日の朝。いつも通り車で登校すると、待ち場には武士系イケメンがいらっしゃった。眼福眼福……ってあれ。
「もしかして、お待たせしてしまったのでしょうか」
「問題ない。お前のことを考えているとあっという間に過ぎていった」
「そ、それはよろしゅうございました……?」
顔からぷしゅーと煙が出そうになる。何でこの人はこういうことをさらっと言うのか。いや、本心を語ってるだけなんだろうけど。
「あー、野武彦に小夜啼さん」
くるりと振り向けば、こちらにもイケメンが。天然鬼畜優等生なこの方こそが、『春を告げない鳥がいる』のヒーローこと
本来は私が恋い焦がれた相手。漫画では真っ青な髪だったけど、この世界ではごくごく普通の黒髪だ。
「僕の髪に何かついてる?」
「いえ、綺麗な
「おはよう真澄……俺の髪はどうだ、小夜啼」
「と、とても綺麗な御髪ですわ」
おかっぱな大瑠璃様の髪も、後ろで結わえている烏帽子様の髪も、どちらもサラサラで甲乙つけがたい。まったく、女子からしてみれば羨ましい限りだ。
「うわー、張り合うのやめてよ野武彦。ってか告白成功したって本当だったんだね」
メールでも電話でも散々聞いたけど、と大瑠璃様は語る。
「当たって砕けろって激励して正解だったか」
「ああ、相談に乗ってくれてありがとう真澄」
「騙されないでくださいませ烏帽子様。そこの方、砕けろとおっしゃっていますのよ……」
やれやれと大瑠璃様が大げさに手と首を振る。
「だって小夜啼さん、ずっと僕らのことを避けていたでしょう? てっきり嫌われているものと」
「そ、それは──」
原作通りになって破滅したくなくて、と言えば変な人まっしぐらだろう。
「恐れ多くて、と女子の嫉妬が怖くて、ですわ」
「女子の嫉妬がって言うんなら今の状況の方が不味くない?」
む、いけない、すぐにボロが出る嘘を吐いてしまった。
「もしかして野武彦が怖くて断りきれなかったとか?」
だとしたら、と大瑠璃様は続ける。
「今言っちゃって大丈夫だよ。そこの馬鹿も僕が食い止めるからさ」
思いがけない優しさに戸惑う私を、烏帽子様が不安げに見つめていた。
……正直なところ、私は烏帽子様のことをそこまで知らない。知ろうとしてこなかった。その罪悪感と、原作を変えられるという打算で付き合うことにしたのだ。だから────
「いいえ、いいえ、むしろ私が嫌になったらすぐに言っていただいて結構ですからね、烏帽子様」
「それはない」
きっぱりと言い切られる。どうしてと思うとともに、何だか嬉しくて口角が上がるのを止められずにいた。
「大瑠璃様」
「なんだい?」
「この方なら守ってくださると、そう思いましたの」
これは本当だ。本心からの、言葉。
大瑠璃様はふっと微笑んだ。
まあ守ってもらうって君達ヒーローとヒロインからだけどね!
「大瑠璃様と烏帽子様と仲良く登校したって本当ですか、織姫様!!!」
「ええ、そうよ」
ここに至っては腹を括るしかない。
「実は、烏帽子様とお付き合いをすることになったの」
ええ~と、大合唱が教室に響く。すぐさま皆がゴシップ記者の顔になった。
「馴れ初めは?」
「あちらから告白をいただいて……」
「ロマンチック〜」
きゃあきゃあと私そっちのけで盛り上がる取り巻きの子達。そんな中、玲子さんだけはこっそりと囁いた。
「断りきれなかったなんてことはありませんか?」
家格で言えば大瑠璃家と烏帽子家、小夜啼家はほぼ同格。故に遠慮する必要などないことはわかっているはずなのに、私の腹心はどうも心配性らしい。
そんな押しに弱い女に見える?と聞くと苦笑いされた。ええ~、こんな押しも押されぬ学校女子のトップなのに〜。
噂は学校中を駆け巡ったらしく、気づけば昨日のヒロインちゃんの失態など誰も気にしていない様子だった。計算したわけじゃないけど、よかったよかった。
「ねえ、織姫。付き合っている人がいるって本当?」
「僕も聞きましたよお姉様」
いや、よくなかった。