艦隊これくしょん サヨナラの海に   作:Xn-i

6 / 7
6:しぶきをあげて

 海へと飛び出した六隻の艦娘は、日向を先頭に大井、阿武隈、榛名、そして雲龍と翔鶴という順の単縦陣で、迫る敵影へと向かった。

 真正面から迫る六隻の深海棲艦は雷巡、軽巡と駆逐で構成される。戦力的には負ける心配は無い。

 

 だが、と翔鶴は思う。

 あの時以来、海戦を彼女達は経験していないし、もう一人の正規空母である雲龍はまだ錬度が低い。

 故に後ろに翔鶴、前に榛名がついているのだが、久しぶりの海戦、特に榛名は持ち直したばかりなので不安要素は拭いきれない。

 

「艦載機を放って、突撃。行くぞ」

 

 日向はそれを打ち消すかのように、艦載機の瑞雲を空高く放つ。

 航空戦艦の名は伊達ではない。雲龍が手にした杖を振ると同時に、翔鶴は弓を引き絞り―――放った。

 敵に空母も軽母も無い。おまけに鎮守府真正面の海域、制空権が取れない筈はない。

 

 冷静に対処する。アウトレンジから航空攻撃の後、遠距離砲撃で弱らせ、雷撃で仕留める。

 いつも通りにやればそれで済んでしまう。いつも通りに、そう、いつも通りに。

 

「ギッ!」

 真っ直ぐに仕掛ける艦攻や艦爆機に対処するべく、敵の雷巡が顔を上に向けて対空砲火を始め、艦隊機動が僅かに乱れ始める。

 そこを逃す手など無い。

「日向さん、榛名さん、今です! 雲龍さん、直掩隊を動かして!」

「ええ!」

 榛名の艤装が動き、戦艦の主砲たる35.6cm連装砲が一気に火を噴く―――次いで日向の41cm連装砲も一斉射をはじめた。

 轟音と共に空を駆ける砲弾―――足を止めていた二隻の雷巡に見事な直撃弾が突き刺さり、哀れな一隻は文字通り轟沈した。

「一隻仕留めました! 流石です!」

「雲龍さん、気を抜かないで!」

 実戦経験が少ないゆえか、或いは今までの鬱憤なのか。嬉しそうにガッツポーズをとった雲龍をたしなめ、翔鶴は後続の敵艦に対処するための第二次攻撃を始める。

 敵はまだ五隻も残っている。

 

 

『敵の戦力が弱そうに見えても、最後まで敵は何をするかわからない』

 一航戦を支えた空母、赤城はある日の演習を眺めながら、そんな事を言った。

 その日、編成の変更があり、赤城と加賀のコンビから加賀と瑞鳳という編成へ代わった。理由としては演習相手の艦隊に空母がいなかったから、らしい。

 最大の搭載機を誇り、錬度も高い加賀の航空隊は敵の先陣を蹴散らすのに充分だった。

『流石は加賀さんですね』

 褒める翔鶴に対して、加賀の横でいつも戦っている赤城が前述の言葉を呟いたのだ。

 

 最後の最後まで気を緩めない、一隻沈めたところで敵はまだ残っている。

 そして余所見をしない。

 

 その時、加賀が瑞鳳の方へ視線を向ける、だがその時艦隊は輪形陣ではなく、加賀は視線を後ろに向けていた。

 加賀としては一瞬だろうが、それは相手艦隊の好機としては充分。加賀らしくないミスだった。

『ね?』

 敵の重巡の砲撃を喰らい、ペイント塗れにされる加賀の姿は初めて見た。

『油断せず、敵に攻撃をさせず、確実に沈めていく。獅子は兎も全力で狩る。これが大事です』

 

「っ…!」

 赤城に言われた事を噛み締めつつ、再び矢を放ち、第二次攻撃隊が猛攻を始める。

 それに榛名の砲撃が加わり、2隻目の雷巡と軽巡が一隻轟沈する。

 

 直後だった。

 軽巡と駆逐ほどしか残っていない敵の後ろから、更に黒い影が見えた。

「増援…?」

「…………敵影、確認だ!」

 日向の叫び通り、確かに後ろに四隻の敵艦が姿を現し、こちらへ接近していた。

 

 うち二隻は雷巡で、もう一隻は見慣れた重巡リ級。だが、その奥にある一隻は重巡クラスだろうか?

 

「新型に注意!」

 翔鶴が注意を飛ばした直後、二隻の重巡が反撃を開始。対空砲火で航空隊の一部が火を噴き、撃墜されていく。

「敵増援か! だが…」

 日向が前に出ようとするより先に、高速戦艦の名に恥じぬ速度で榛名が前に出た。

「勝手は榛名が許しません……沈めぇぇぇぇぇっ!」

 前に出た榛名は一気に艤装を展開、盛大な砲火を至近距離で放った。

「やったか!?」

「いいえ、まだです!」

 日向の問に答える榛名の言葉通り、至近距離での砲撃であるにも関わらず、直撃弾を受けた重巡リ級が火を噴くのに対し、もう片方の新型はその煙の中を抜けてきた。

 目の前に突出する新型。

 

 伸びた砲門からの、至近距離からの砲撃。

 

 敵にやったことをまさにそのまま返された形の榛名が爆炎に包まれる。

 

「榛名さん!」

「榛名は、大丈夫です! 第一砲塔をやられただけ!」

 炎を突き破った榛名は少しだけ後退、新型から距離を取ろうとする。

 まだ、機関は生きている。新型は追いつくよりも生き残りと合流する事を選んだのか、第1陣の軽巡と駆逐コンビへ向かおうとした。

 

 そこへ、大井の雷撃がぶち抜いた。

 

 放たれた魚雷は次々と駆逐と軽巡に吸い込まれ、駆逐一隻を残して二隻は火柱をあげて沈む。

 それを見た新型が足を止める。まさに、隙が出来ている。

 

 今しかない。

 

「主砲、一斉射!」

「全機、一気に畳み掛けて!」

「全機、目標に攻撃を集中!」

 

 日向の砲撃を皮切りに、翔鶴が放った艦攻部隊、そして雲龍隊も加わる空中と砲撃のツープラトン。

 砲撃の方は至近弾だったのか水柱が上がるが、新型の身体を覆い尽くして視界を奪う。だが、それはこちらも同じ事。

「突入します!」

「阿武隈、行きます!」

 水柱が上がった直後、榛名は再び突撃を開始し、続けてやってきた阿武隈もそれに続く。

 戦艦と快速の軽巡が大井の魚雷と艦載機部隊に援護されながらの突撃。決して悪くない、恐らく提督がいれば賞賛を送っていたであろう戦闘。

 

 それでも彼女達は拭いきれなかった、どこかにある不安を。

 

 それは的中する。目の前の海から現れた、更なる敵増援によって。

 

「ん?」

 前進し続ける榛名が急に足を止め、後続の阿武隈もそれに習う。

「どうしました?」

「…足元に、今なにかが…」

 阿武隈の問に榛名がそう答えた直後、大井が叫んだ。

「阿武隈、爆雷!」

「うそ、下!?」

 阿武隈が下を振り向くより先に、そいつらは現れた。

 

 こちらも新型だった。

 

 大きさとしては軽巡ほどだろうが、大きなグローブのような両手は無数の対空砲を備えている。それがダブル。

 そして、艦載機部隊は重巡を包囲しているが、この新手の軽巡はノーマークだ!

 阿武隈と榛名は慌てて現れた新型へ向ける、だが既に対空砲の嵐は艦載機に襲い掛かった。

「反転、回避を!」

「っ…! ダメです、まるでヤマアラシのよう…」

 翔鶴の隊ならともかく、錬度に劣る雲龍の部隊は対空火砲に晒され、次々と炎に包まれていく。しかし翔鶴の隊が無理に援護に入れば、その時は攻撃隊がいなくなる!

 どうする、どうする。

 だが迷っていては命取り。そんな事を気にしている暇はない!

「榛名さん! 少し下がってください! 雲龍さんの隊の損耗が…」

「できません」

 砲撃を放ちながら答える榛名。外した。榛名も少し焦っているかも知れない。

「ですが!」

「下手に下がると阿武隈さんの砲が届きません」

 艦隊は空母だけではない。翔鶴がはっと顔を上げると、日向が横に出ていた。

「私と大井が前に出る。榛名には対空に集中させよう」

「いえ、やれます。攻撃に集中です」

 それを遮ったのは雲龍だった。

「……フォローは出来ませんよ」

「構いません。私も空母です」

 ちらりと見る雲龍の横顔。焦りの無い、まっすぐな決意。

「榛名さん、突撃です! 一気に攻めます!」

 反撃開始。敵の新手にやらせはしない。

 

 再び矢を放った翔鶴の瞳に、再度突入する榛名の姿が映った。

 

 戦艦として、一気に攻めきる姿。

 その慎ましやかな性格から考えられない、荒々しい戦闘。

 

「勝手は!」

 

 火炎と砲撃。

 

「榛名が!」

 

 時に戦慄すら覚えさせる絶叫。

 

「許しません!」

 

 それは怒りか、それとも光か。誰にも解らない。

 

 最後まで生きていた新型軽巡の顔面に、日向と榛名の主砲が同時に直撃した。

 顔面を叩き潰された新型は文字通り体液を撒き散らしなが大の字に海に沈み、そして奥へと帰っていく。

 

 そして海上に、荒い息をつく六隻の艦娘が残った。

 

「……榛名さん」

 翔鶴が近づいて一歩声をかける。最前線で戦っていた彼女の艤装は半壊し、服もあちこちが破れ、出血も見える。

 致命的な重傷ではないが、入渠が必要だろう。

「大丈夫。この調子なら」

 彼女は振り返らずにそう答える。翔鶴もそれを聞いて、少しだけ微笑んだ。

 

 いつも通りとはいえない戦闘。だが、いつまでもこのままではいけない。

 

 少しずつでもいい、取り戻していくしかない。前のそのままにはならない事は解りきっている。だけど。

「……負けません」

 風が吹く中、まだ無数の硝煙が消えない中、翔鶴が呟く。

「……」

 同じ海を見つめながら、榛名は頷いた。

「私達は負けません。提督はいなくても……私達はまだいます!」

「……ええ!」

 背を向けて、仲間達の元へ帰っていく。だが、その中に炎は燃えていた。

 

 

 磯風は、その姿を鎮守府から見ていた。

「磯風。戦闘、終わったみたいだね」

「ああ……」

 後ろから清霜が声をかけても、彼女はまだ海を見ていた。

「まだ腑に落ちない顔してるけど?」

 清霜の問に、磯風は眼をそらさずに答える。

「ああ。消えないんだ」

 

「吹雪の後姿が消えない」

 

 あの時、一人で殿になった吹雪の姿が消えない。

 彼女は何を見ていたのか、幻とはナンなのか。磯風にはそれがまだ解らなかった。

 

「一人でも、誰かが消えるのは嫌だ……嫌なんだ…」

 肩を震わせるより先に、背後から別の声が響いた。

「それは誰だって同じ」

 一歩一歩、踏みしめながら近づく早霜は、磯風の前に手を出した。

「だから私達には私達に出来る事をやる……疑い続けては…何も、変わらないし進めない……」

「…」

 顔を逸らした磯風は、何も答えない。

 

 でも、それでも彼女達にも炎は燃えていた。

 違う色か、同じ色かはわからぬが。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。