実際の理由は救いがないMuv-Luv世界に救いを求めた為。
これは、ある世界の話。
『────世界中の諸君。私の話が聞こえてるのであれば、耳を傾けて欲しい』
一人の男がいた。人並み以上の科学力と頭脳を手にした、人類史上類を見ない天才。彼は自身の技術と才能を────世界平和の為に費やした。
『さて、君達は疑問に思っている筈だ。何故この私がこんな放送をしているのかと。理由は単純だとも。────これから私の行う事を世界中の皆に、ちゃんと理解して貰う為だ』
『博士』、そう呼ばれた男の生み出した兵器は多くの戦争を終息へと向かわせ、犠牲を少数なものに減らした。数年もしない内に大規模な戦争は無くなり、『博士』は人類の歴史に残る偉人となるはずであった。
────ある事件が、起きるまでは。
『これより私は世界を滅ぼそうと思う。うむ、一人残らず滅ぼそうと思っている。老若男女、あらゆる人間を絶滅させようと考えている。文字通り、虐殺ではなく、殲滅だ』
『博士』の家族は、テロリストに殺された。兵器を求めた彼等に家族は捉えられ、人質にされたのだ。そして、寄りにもよって世界平和を第一とする組織は、その要求を拒否してしまった。博士当人に、その事実を伏せる形で。
その結果、『博士』の妻は拷問の果てに殺され、生首が彼とその弟子の元へと送られた。娘と息子も同じように拷問を受け────証拠隠滅の為に、テロリスト諸共組織によって葬られた。
世界平和を願うほど温厚な『博士』であっても、家族を奪われ、その尊厳までも穢されたと知れば怒り狂うのも無理はない。あろうことか、組織が事実を隠蔽したとなれば。
『これから、私は破壊と暴虐の限りを尽くす。そして世界を滅ぼす。初演が終わり次第、私の計画は確実に実行されていく。君達は終わりゆく世界を前に祈るか、私を止めに来るがいい。私も邪魔者は抹殺してでも破滅を遂行する。宣戦布告というヤツだ、よく分かるだろう?』
積もり積もった憎悪は温厚だった心を蝕み、人類と世界への怨恨へと変わり果てた。彼は己の技術と資産を使い、無数の兵器を創り出し────世界に宣戦布告をした。
その結果、数千万の犠牲者が出ることになった。『博士』の開発した無人兵器は人類の持つ技術の数世代も先を超えており、戦争どころかではなく、蹂躙や虐殺のそれであった。一日で自分のような家族、老若男女を含めて殺し尽くした『博士』の心は、あまりにも平坦であった。
────そこでようやく、『博士』は自分が壊れたことを自覚した。人間としても、一人の親としても。大切なナニかを失い、身も心も人類の敵と化したことを。それ故に、手を止めることもなかった。
だが、『博士』の起こした大事件は長く続かなかった。
────突如として、『博士』の虐殺を謎の新兵器が止めたのだ。人の姿をしたマルチスーツ。それを目の当たりにした『博士』は、全てを理解したように目を閉じる。その兵器、いや代物はよく知っていた────彼の弟子が開発した、発明品だったからだ。
尊敬する『博士』の凶行を止めようとした弟子達が動いたのだ。彼等は自分達の発明品を兵器として世界に提供した。それは、彼女たちが忌避していた結果であるに関わらず。『博士』を止めたい、という純粋な願いが其処にあった。
────それを理解した瞬間、『博士』の心は折れてしまった。弟子たちが自分と敵対したことに恨みや怒りはない。それ以上に、教え子達の守りたかったものを奪ってしまった事実に、『博士』は耐えられなかった。
『すまない、■。すまない、■■。すまない、■■■。不甲斐なく愚かな先生を、許さないでおくれ─────私はもう、この世界では笑えなくなってしまったんだ』
そして自身に迫る教え子の前で、『博士』は自決した。世界や人類への憎悪が消えることのない自分を止めるために、教え子たちにその憎悪を向けないために、謝罪と共に引き金を引いた。
そうして、多くの人類を虐殺した世界的な犯罪者 八神博士は人生を幕に下ろした。変わらない人類への裁定、復讐の種を世界に遺して。
ここまでが原典までの話。ここからは、外伝────人類を憎み、憎みきれなかった科学者の、行く先の物語である。
◇◆◇
「────私は」
波の音を受け、覚醒した八神博士は自然と呟く。己を掌を見上げ、転がったまま彼は言葉を漏らした。
「私は、生き残ったのか」
有り得ない、と思考が否定した。自分は拳銃自殺を図ったはずだ。構えた拳銃から放たれた銃弾は脳の重要な部分を撃ち抜き、確実に蘇生不能となっていたはずなのだ。なのに、自分は今無傷である。
何より、疑問は他にある。
「…………ここは、いや………ここはなんだ?」
八神博士は自分が廃艦に居たことを認知した。だが、当時に困惑した。半壊したであろうこの艦は、明らかに八神博士の知る物とは違っている。────八神博士の技術より数世代劣っている、という意味でだが。
艦の中を漁ってみると、新聞が確認できた。時代は数十年も離れている。そこから読み取れる情報的にも、博士の知る世界の常識と差異が見られた。
「つまり、ここは私の知る世界とは違う別世界ということか。マルチバース、理論的には頭に入れていたが、実際に体験するとは…………それに、ここは私の知る世界────Aポイントを起点とした平行世界では無いらしい」
科学者としても、人間としても、他者とは隔絶した頭脳を誇る博士は、この時点で自分の置かれた状況の大半を想定していた。ここまで落ち着いていたのは、元の世界に戻りたいという思いがなかったからか。
「…………取り敢えず、今は拠点を用意しようか」
嘆息した博士は周りを見た。幸いなことに、素材は豊富だ。既に幽霊船と化した戦艦の残骸の中で、博士は作業に取り掛かった。
◇◆◇
それから一週間も経ったある日、棄てられた戦艦のあった場所にはギガ・フロートが建造されていた。半透明な結晶で構成された巨大施設は、八神博士の研究所兼居場所として運用されている。
端から見れば、いつの間にか太平洋のど真ん中に巨大な喧騒物が出来ているようにしか見えない。だが、その事に関しては問題ない。既に対策は講じてあるから、他国に見つかることはないだろう。
八神博士が開発した無人機。それの運用法は大きく二つに分かれていた。一つは、博士の手伝い────ギガ・フロートの開発や調整。主に工事などの仕事を任される形で動いていた。
そして、もう一つは情報収集である。ステルス機能と簡易型の人工知能を搭載した無人機は世界各地へと飛び、あらゆる情報を博士の元へと集めていた。
それにより、八神博士はこの世界で何が起きているかをおおよそ理解した。
「────BETA、厄介な存在が敵らしいな。この世界の人類は」
Beings of the Extra Terrestrial origin which is Adversary of human race、人類に敵対的な地球外起源種の総略。宇宙から現れた人類の敵、と言えばSF要素が強い二次創作を思わせるが、博士から見てもBetaはあまりにも危険な存在であった。
金属を超える程の硬質。あらゆる環境、状況への適応力。敵の制圧の為に其々の能力を特筆させた個体。何より恐ろしいのは、圧倒的な数とそれを統括する頭脳にある。
一戦力として優れた個体が、数を以って攻め込んでくる。兵器の質、数でも負けている人類には勝てるはずもない。現に、宇宙ではBetaに大敗を喫し、地球に攻め込まれる段階にまで来ている一方だ。
ここまでは人類はBetaに滅ぼされるだろう。そう結論付けた博士は──────、
「………正直、助ける理由はないな」
この世界の人類に力を貸すことに、消極的だった。理由としては一つ、八神博士は人間を嫌っている。家族を奪い、見捨てた人類を、その犠牲を無かったことにして平和を謳う人類への憎しみは今も途絶えてはいない。
それは、この世界に来てからも増すばかりであった。無人機達が回収した情報では、この世界の人類の愚かな面が目立っている。Betaという脅威を前に、手を取り合うことなく己の利益だけを求めるその在り様には、嫌悪と侮蔑が激しくなる一方だった。
見殺しにするべきだ。そう告げる自分と────違う意見を告げる自分が、内にあった。
──────あの子達の願いを、裏切るのか
脳裏に過るは、教え子達との思い出。彼等の楽しそうな笑顔を思い出す度、博士は後悔するように手を握り締める。一度はあの子達を裏切った、己の怒りと憎しみに身を任せ、彼女達にさせてはならない選択をさせてしまった。
また同じようなことを、繰り返すのか。そう自問し、八神博士は答えを出せなかった。
──────そしてようやく答えを出せたのは、数日後であった。
『博士、何用ですか?』
『博士、今日の作業は宜しいのですか?』
『博士、顔色が悪いようです』
『博士、お休みになられては?』
『博士、作業は我等にお任せを』
ワラワラ、と集められた無人機達が一様に反応を示す。合計千機弱、開発と偵察を任された全ての無人機が施設内部の大規模ホールに集まって、呼び出した八神博士を待っていた。
無人機たちから感じられるのは、疑問と心配。博士が開発した人工知能は簡易であれど、人類の技術を超える高性能。彼等は心に近い感情を有し、主である博士を第一として行動する存在であった。
まるで子供のように自分を慕う無人機達に、博士は心の底から慈しむ。人間のような愚かさや悪意はない。彼等は機械であるからこそ、純粋であれるのだ。穏やかな笑みを浮かべ、博士は無人機達へ口を開いた。
「─────君達。これから、私達の方針を告げようと思う」
博士の一声に、無人機達は一斉に沈黙した。創造主の言葉を持つように、全ての視線が集中する。それに狼狽えることなく、博士は次の言葉を紡いだ。
「私は、人類に協力することにした。これより、人類の敵対種であるBETAとの戦闘を想定した計画を発令する」
瞬間、無人機達が騒ぎ出した。ネットワークに繋がっているとへいえ、独立した個としての機能を持つ無人機達は互いに話し合い、八神博士の言葉の意味を理解していく。そのざわめきに、博士への不信や疑念はない。ただ、純粋な心配があった。
『──────博士、意見の許可を求めます』
「許そう。何か異論があるのかな?」
『いえ、異論というより…………よろしいのですか?博士は、人類を忌避、嫌悪、憎悪していると記憶しています。博士の行おうとしていることは、博士本人の望みに反するのでは?』
無人機たちも、博士の胸に秘めた感情を理解していたらしい。気を遣わせてしまったな、と申し訳無く感じる。此方を案じてくれる無人機達に笑みを投げかけ、博士は彼等の疑問に答えた。
「ああ、確かに私は人間を憎み、嫌悪している。彼等を救う価値がない、という気持ちは少なからず存在しているし、今も途絶えることはない」
『………では、何故』
「私は信じることにしたのさ。人類全てではない──────僅かにある可能性、一握りの良心をね」
無人機達は口々に『理解不能』と困惑していた。無理もない、あまりにも矛盾している。憎悪を覚えながら、信じようとするそれは心を持つ人間特有のものだ。心に似た感情を持てど、心を持たぬ無人機達にとっては明らかに無縁であるのだから。
だが彼等は理解できずとも、否定はしなかった。それどころか、八神博士の望みを肯定する姿勢であった。
『────理解しました。博士が望むのであれば、我等は如何様にも』
「すまないね、君達。私の我儘に付き合わせてしまって」
悲しそうに笑うと、無人機たちは慌てたように『そんなことありません!』と否定し始める。やはり可愛いものだ、と静かに笑みを深めた博士は白衣をなびかせ、宣誓する。
「さぁ、諸君。長い戦いの始まりだ」
何故、自分が生きているのか。生かされたのか。そんな疑問は最早どうでもよかった。ただ一つ、今を視ることしか自分には出来ない。
かつてのように、人類を滅ぼすような真似は進んではしない。だが、それも彼等次第だ。人間が愚かな真似を、再び争い、傷つけ合うのであれば、Betaによる破滅も宿命として見過ごすことも、自分の手で終わらせるのも視野に入れている。
そうはならない、と博士は信じることにした。無数にある人間、そこにある可能性を、今度こそ信じようと。
「──────世界を、そのついでに人類を救おうか。私達の手で」
──────裁定しよう、人が生きるに値するか。彼等が未来を掴むに相応しいか。
かつては人類の敵となり、多くの恨みと呪いを撒き散らした大犯罪者。彼は別世界にて、死ぬ直前に胸に抱いた僅かな善意を信じ、歩き出すのだった。
主人公紹介
八神宗二
ある世界で人類を大きく繁栄させた大天才。ある事が原因で戦争を起こし、多くの人間を虐殺したヤベー人(諸説ある)。根は優しいけど、色々あって人間嫌いになった。人間は嫌いだけど教え子達を裏切りたくないし、僅かにいる良い奴を見捨てたくないから人類救うわって考え。