Muv-Lvu 叡智の軌跡   作:虚無の魔術師

10 / 11
接触

『海王星作戦』から数日後、作戦の成功を祝う戦勝パーティーが司令部で行われていた。人類としてはBETAとの戦いでの勝利は数少ないものであり、海王星作戦も本来は成功確率が著しく低かった。その上で、三万を超えるBETAの大軍を殲滅できたのは素直に喜ぶべきことだろう。

 

─────一部の、真実を知る者以外は。

 

 

「…………それで、海王星作戦はもう終わったのか」

 

「うん、私達の勝利ってことでね。………それより、頭の傷は大丈夫?」

 

「ああ、軽く傷が出来た程度だ。少しすれば自然に塞がる、とのことだ」

 

「そっか………じゃあ、すぐに復帰できるんだ!………ファム姉に続いて、ヴェルナーも重傷だったらと思うと………」

 

「考え過ぎだ、アネット。こういう時は素直に楽しむべきだ」

 

 

作戦内で、ヴェルナーは正体不明の戦術機と激戦を繰り広げ─────僅かな隙を狙われ、機体の胴体に攻撃を受けたのだ。不意打ちで放たれた鉄杭は操縦席の近くを抉っており、ヴェルナーが助かったのは奇跡に等しかった。

 

それで、ギリギリであったのは確かだ。現にヴェルナーは頭部を負傷し、意識を失っていた。致命傷ではなかったが、治療が遅れればきっと無事では済まなかった─────はずだ。

 

 

「────アハトゴッド中尉。怪我は大丈夫か?」

 

「ああ、大して問題はない。………心配をかけてすまない、イェッケルン中尉」

 

 

落ち着いた様子で声をかけてきたグレーテルに、ヴェルナーは軽く頭を下げる。最初はその言葉に驚いたようだが、ふと慌てたように態度を変えた。

 

「勘違いしないで貰いたいが、あくまでも今後の戦闘への影響を鑑みて確認したまでだ。同志中尉が問題ないのであれば、そう報告するつもりだったからな」

 

 

「またまたぁ〜、同志中尉だって心配だったんでしょ?聞いたよ、ヴェルナーのこと私とおんなじくらい心配してたって」

 

「なっ!?そ、それは………!」

 

 

顔を真っ赤に染め、からかうように笑うアネットに食い下がるグレーテル。そんな二人にヴェルナーは軽く微笑みながらも、すぐに笑みを消して話を切り出した。

 

 

「二人に聞きたいことがある………オレが倒れた後、何があった?正直あの状況をどうにか出来る可能性が見られなかった。何がどうなれば、あそこまでの危機的事態を回避できる?」

 

 

真剣な問い掛けに、グレーテルは軽く咳き込む。空気を切り替えるように、いつも通りの雰囲気に戻った政治将校の少女は自分の知る事実を明かした。

 

 

「────同志中尉が意識を失ってから少し経って、前線付近に例の戦術機が現出したわ」

 

「『黒い天使(シュヴァルツェア・エンゲル)』、か」

 

その名はヴェルナーも知っている。

何処から知り得たのか、それは彼本人にしか分からないだろう。だが、今では東や西を含め、ドイツ以外の国もその話題で盛り上がっている。

 

────突如現れた、BETAを滅ぼすモノ。全身黒のフォルムの戦術機、数万のBETA群を数分もせずに殲滅してみせた兵器。人類の大半、主に各国はソレに興味関心を惹かれることになった。

 

大半の国がその戦術機を血眼で探している。勢いが大きいのは大国のアメリカやロシア、中国の三国。────実現不可能とされたビーム兵器を操るその戦術機の技術を手に入れるために、必死なのだろう。

 

 

「その『黒い天使』が展開されていたBETA群、そして私達が接敵していたアンノウン2────ヴァリエンテを撃破したわ」

 

「………黒い天使、アンノウン1はアンノウン2と敵対関係にある、ということか。その逆、アンノウン2はBETAと繋がっている」

 

第666中隊は『黒い天使』を友好性確認正体不明機 アンノウン1と、ヴァリエンテを敵対性確認正体不明機 アンノウン2と呼称。アンノウン1に対し、比較的友好的な対応を取るように配慮し、アンノウン2に対しては徹底抗戦の姿勢を取ると決定された。

 

 

「────少しいいかしら?」

 

三人で囲み合って話していたヴェルナー達に声をかけてきたキルケ。そんな彼女に眉を上げたヴェルナーが反応を示す。

 

 

「シュタインホフ少尉か。何用だ?」

 

「いや、ちょっと────待って、その包帯どうしたのよ?」

 

「………先の戦いで敵にやられてな。大した怪我ではないさ」

 

「そう………なら良いんだけど」

 

「それより、何があった?直接会いに来たということは、話したいことがあるというべきか」

 

心配そうな顔をするキルケを落ち着かせ、ヴェルナーは話を切り出す。キルケは一呼吸置くと、東ドイツでもあまり知られていなかったある事実を語る。

 

「…………先の戦いで、国連軍の衛士が一部暴走したわ」

 

「ッ!その話、やはり真実なのね………!」

 

「────東ドイツ、そっちの上層部は隠蔽したのね。ならやっぱり、少佐の考えがおおよそ間違ってないのかも………」

 

「どういうことだ?」

 

事態が把握しきれていないアネットとヴェルナーが問い掛けると、キルケは作戦中に国連軍の衛士が味方への攻撃、叛意を見せたことを語り始める。

 

 

「暴走した衛士達は、ヴァルトハイム少尉を拉致しようとしたわ。その際、正体不明機………そっちで言う『アンノウン1』の介入で、未遂で済んだけどね」

 

「………その衛士達は、捕らえられたの?」

 

「私達は彼等を何とか無力化して、降伏勧告を行ったわ。けど…………」

 

言葉を濁したキルケは、当時の出来事を思い浮かべる。目の前で無力化された戦術機の中で、衛士達が取ったであろう行動を。

 

 

『────人類に、栄光あれ』

 

「────全員自決したわ。国連側は末端の暴走で済ましてたけど、あの様子だと多分上の人間が指示したものよ。………恐らく、洗脳されてたんでしょうね」

 

 

拳銃やナイフ、或いは舌を噛んで自決を決行した衛士達の有り様を思い出し、嫌な顔を隠さずにキルケはそう口走る。そんな彼女の話を聞いたヴェルナーは、誰にも悟られぬほど小さな声で呟く。

 

 

────頃合いか、と。

 

 

◇◆◇

 

それから、数時間後。

第666中隊の衛士達全員が、会議室へと集められていた。凍りついた空気の中で、震えた声でテオドールが言葉を漏らす。

 

「…………本当、なのか」

 

「………うん、お兄ちゃん────私、シュタージのスパイだったの」

 

全員を呼び出したリィズ・ホーエンシュタインは、そう宣言した。無論、その事実にメンバーの半数が混乱していた。疑いはあったが、本人から宣告されても、素直に信じられるわけではない。

 

その空気の中、ヴェルナーやヴァルターが彼等を落ち着かせる。ただ事実を明かしたわけではない、そう理解した二人は同じように考えに至っているアイリスディーナに視線を送った。

 

 

「…………ホーエンシュタイン少尉。だった、と言ったな。では、今はシュタージのスパイではないと?」

 

「………今は二重スパイとして活動してるの。お兄ちゃんのいるこの部隊に所属したのも、とある人の指示があったからね」

 

「ある人、それが少尉の協力者か。それは誰だ?」

 

「名前は言えないけど、その人が関係してるものは話せる」

 

 

スパイであることを明かしたからか、妙に落ち着いた様子のリィズ。他人に気に入られる必要もないと感じたのか、態度の変わった彼女に戸惑う一同を他所に、リィズは事実の一つを吐き出した。

 

 

「黒い天使、って呼ばれてる戦術機。アレの開発者が、私の協力者よ」

 

「────ッ!何だと!?」

 

「………それは、事実なの?」

 

「なら、もう一つ。アレの本当の名前を教えてあげる────グリムグランデ、あの人はそう呼んでたわ」

 

 

堂々としたリィズの態度からしても、嘘ではないことは明白だ。そう理解したアイリスディーナは険しい顔で問い掛ける。

 

 

「その協力者は、何故この部隊への接触を望んだ?こう言ってもなんだが、私達はただの末端。軍部として重要なポストではないはずだが」

 

「────だって貴女、反体制派でしょ?博士はずっと最初から、目をかけてたみたいだけど」

 

 

サラッと口にしたリィズの爆弾発言に、今度こそ半数のメンバーが驚愕を隠せずにいた。アイリスディーナは反論せずに黙り込み、彼女から事前に話を聞かされていたヴァルターやテオドールも驚きを隠せない。

 

 

「博士は、近い内に隊長と協力関係を結びたいんだって。理由は大体分かるでしょ?」

 

「…………執行官、エルデの存在か」

 

「『人類救済機関』って連中だけど。そいつらとシュタージをどうにかしたいから、手を組みたいんだって。だから良ければ近い内に話し合いたいって、ことだけど────博士?」

 

 

そこまで告げた所で、ふとリィズが耳に手を当てた。何らかの通信を受け取ったであろう彼女の顔が一気に凍りつく。表情の変わったリィズは、その場にいる全員を見て口を開いた。

 

 

「話の途中だけど………シュタージがここに向かってきてるみたい」

 

 

◇◆◇

 

 

基地の外へと飛び出すと、シュタージの戦術機 MiG-23が降り立つ。此方に銃口を向ける戦術機たちの後方で大型ヘリが着陸した。軍用ヘリとは思えない程の大きなそのヘリの扉が開く前に、シュタージの兵士たちが整列して、赤いカーペットを敷き始めた。

 

 

────そして、開いた扉から一人の青年が降りてきた。

 

軍服、というより貴族が着込むような毛皮の備えた品位が目立つ黒い装束。高級そうな服を纏うその青年は垂れ下がった銀髪の下から、虚無に等しい眼を細め、不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

「────初めましてだな、第666戦術機中隊の英雄諸君。あの作戦からの生還を称賛するついでに、自己紹介をしよう。

 

 

 

 

オレはエルデ。国家保安省(シュタージ)特別将官という立場を得ている。立場だけなら、お前達のよく知るアクスマンやベアトリクスよりも上だ。エルデ様か、執行官様と呼べ。それ以外は許さんつもりだから、善処しろ」

 

 

不遜なまでに此方を見下したその青年 エルデの態度に、その場にいる第666中隊の皆が理解した。この青年こそ、あの戦術機ヴァリエンテを操っていた本人であると。彼こそがBETAに与しているとされる、人類の敵の一人だと。

 

 

「………執行官殿、今回は一体何用で訪れたか。教えていただけますか」

 

「随分と、反抗的だな?お前はオレ達の飼い犬だって聞いたはずだが?」

 

「私が貴方達の協力者であることは否定しませんが、私には中隊指揮官としての責務があります」

 

「────ふん。話に聞いてた通り、ただの犬じゃないみたいだ。退屈しなさそうで、何より」

 

 

ククク、と笑みを零すエルデ。対面するアイリスディーナは表情を崩さないが、僅かに冷や汗を流していた。

 

 

「要件を問うたな。それは単純だ────」

 

 

毛皮と共に両手を広げ、エルデは宣言するように告げた。

 

 

「アイリスディーナ・ベルンハルト、カティア・ヴァルトハイム。お前たちを連行させてもらう」

 

「………失礼ながら、容疑は?」

 

「────そんなもの、必要か?お前らに拒否することが許されてるとでも?」

 

 

指を鳴らすと、兵士たちが銃口をアイリスディーナ達へと向ける。殺気立つ空気の中、兵士の一人が意を決したように口を開いた。

 

 

「し、執行官様!お気を確かに!」

 

「…………あ?何?」

 

「執行官様のお考えは理解できます。ですが、理由も無しに連行するのは………軍からの反発を招きかねます」

 

「なら容疑あり、でいいだろ。反革命的言動が見られる、とかそういう報告したろ。それで充分って話じゃねぇのか?」

 

「で、ですが………」

 

「────それ、寄越せ」

 

 

能面のような顔で、エルデが兵士へと告げる。困ったように兵士がライフルを手渡し、エルデはそれの手に取って弄り始めた────かと思えば。

 

 

目の前の兵士に向かって、無造作に銃弾を浴びせた。突然の銃撃に混乱した兵士は地面に転がる。腹から溢れる血に戸惑う兵士の口から、大量の血が吐き出された。

 

「────ご、ごぼっ………?」

 

「………お前さ、オレに口出しできる立場だと思ってんのか?末端の末端、消耗品のクズが」

 

その口に、エルデがライフルの銃口を押し込む。到底人を見るような目とは思えない、冷たく濁ったその瞳を細め、エルデは不機嫌そうに吐き捨てた。

 

 

「お前等みたいな価値もない下等生物が、烏滸がましいんだよ。黙ってオレの命令に従え、それがお前らの存在価値だ。それが出来ないんなら、黙って死ね」

 

数発の銃弾が、兵士の口から頭部を破壊し尽くす。血を撒き散らし、ピクリとも動かなくなった兵士の口から離したライフルを放り捨て、返り血を浴びたエルデは凍りつく兵士達へと振り返った。

 

 

「────で?このゴミみたいに、オレの邪魔をする無能は他にいないよな?」

 

沈黙、だが全員が首を縦に振った。振らざるを得なかった。その様子に少し気が晴れたのか、満足そうに笑うエルデは返り血を拭いながら考えを改める。

 

 

「だが、まぁ………アレの言うことも事実だな。というわけで、物証を用意してやろう────おい、連れてこい」

 

そう言ってエルデが兵士たちに指示すると、連れ出されたのは古参含めた整備兵数人だった。不安そうな彼等に、エルデは笑みを深めて告げる。

 

 

「コイツらは内通者だ」

 

「………!」

 

「シュタージの為にお前等を売ることを選んだ、小賢しい連中だ。だが、そういう奴等の方が生き残りやすい。この状況を見れば、当然だろうなぁ」

 

歯噛みするテオドールたちの様子に、気分を良くしたであろうエルデが嘲笑を滲ませる。すると、整備兵たちの一人が胡麻を擦るように、エルデに擦り寄った。

 

 

「え、エルデ様………中佐から聞いていたのですが、褒賞の方は」

 

「……………ああ、良いぞ。今は多少気分がいい。特別に褒美をくれてやる────────死んで良いぞ、お前等」

 

垂れ下がった銀髪を払ったエルデが、整備兵達を静かに見つめる。その言葉の意味に理解できず、唖然としたのも束の間。内通者である整備兵たちの腕が動いた────本人たちも、意図しないらしく。

 

 

「え………あ、腕が……!?」

 

「は、あ………っ、なんで………勝手にッ!?」

 

「ひっ、助け────ッ」

 

手にしたナイフや銃で、自決し始める整備兵たち。本人たちも望んでいない行動のようで、錯乱した整備兵達は死ぬ最後まで戸惑いと悲鳴を上げて、一人一人死んでいった。

 

あまりの光景に、一箇所に集められていた全員の顔が青く染まる。吐き気が込み上げる者ですらいるくらいだ。

 

 

「────無様だなぁ、この上なく無様」

 

そんな有り様を、エルデは嗤う。心の底からの愉悦と侮蔑を滲ませ、その場にいる全員とさっき死んだばかりの内通者を露骨に見下していた。

 

「ゴミの分際で、身分相応の在り方が出来ないからそうなる。下等生物は下等生物らしく、格下として振る舞えって話だ。それも分からないなんて、ホント人間ってヤツは────愚かで、救いようがない」

 

その感情の中に、異様なまでの殺意と憎悪が込められていたことに気付いたのは数人だけであった。だが、それは感情を押し殺したエルデが口を開いたことで、すぐに意味を成さなくなる。

 

 

「さて、そういうことだ。証拠は十分にある。大人しく着いてきて貰おうか、ベルンハルト、ヴァルトハイム。それとも大切な部下を皆殺しにされてから連行されるか?」

 

「………良いだろう。だが、部下には手出しはしないで貰いたい」

 

「ああ、オレと部下はしないさ。約束しよう」

 

「────分かった。少し、時間をもらえるか」

 

構わない、とエルデは余裕を見せた。反発するテオドールやアネットを宥め、アイリスディーナはグレーテルとファムに中隊の指揮を任せ、カティアと共に兵士達に連れられる。

 

シュタージの兵達はヤケに緊張した様子だ。無理もない、先程エルデから「丁重に迎えろ、一つでも傷が出来たら全員殺す」と笑顔で吐き捨てたのだ。言われた兵士の顔は蒼白を通り越していた。

 

アイリスディーナとカティアの二人がヘリに乗せられた直後、目配せをした兵士の一人がエルデの元へと駆け寄る。

 

 

「………二名は確保しました。他の中隊はどうしますか?」

 

「あ?殺すに決まってるんだろ。オレじゃなくて、アクスマンの部下のお前らがな」

 

 

さっきまでのアイリスディーナとの約束を無視したような発言に、中隊に動揺が過ぎる。最初から約束など守る気など無かったのであろう。兵士達が動き出すより前に、エルテが「ただし」と付け足す。

 

 

「殺すのはオレが去ってからだ。ベルンハルトとヴァルトハイムに悟られては困る─────三分経ってから殺せ、いいな?」

 

「ハッ、了解しました」

 

「…………先走って殺すなよ。銃声が一発でも聞こえたら最低三人には死んでもらうからな」

 

「────は、ハッ!気を付けます!」

 

 

怯える兵士達に、エルデは私兵を連れてヘリに乗り込む。そのヘリが飛び立ってから兵士達が集められたヴェルナー達を囲み、銃口を向けていた。

 

 

「────このままやられてたまるか……ッ!」

 

「待て、エーベルバッハ少尉」

 

「ヴェルナー……っ!何で止める………!?」

 

「─────黙って待っていろ」

 

何とかしようと立ち上がろうとするテオドールを抑えるヴェルナー。反論しようとした彼を黙らせるヴェルナーの気迫に、何も言えない。

 

空気は既に諦めに満ちていた。年長者のヴァルターや整備主任のオットーも諦めたように目を伏せ、グレーテルやシルヴィアが悔しそうに歯噛みし、アネットやリィズが隣にいるファムやテオドールの服を掴む。

 

 

「………時間だ。総員、撃────」

 

直後、周囲に轟音が響き渡った。

それは何らかの砲撃が炸裂したような、大きな音。何が起きたのか混乱したシュタージの兵士の耳に聞こえたのは、無線機からの通信。

 

 

『て、敵襲────敵襲ッ!!』

 

『な、なんだよコイツら!素早────ッ!!?』

 

『クソ!クソ!数が多すぎ────ギッ!?』

 

『ばっ、化け物だ!逃げろおおおおっ!』

 

『貴様!敵を前にして逃げるな!国家保安省としての忠誠を────ごがっ!?』

 

『ひいっ!コイツら、コクピットを……っ!?い、嫌だ。嫌だぁああああッ!!!』

 

通信から聞こえる、味方の衛士達の悲鳴と破壊音。恐怖に怯え、錯乱したであろう彼等の声に、兵士は半ば怯えながら呟いた。

 

「何が、起きている………!?」

 

 

◇◆◇

 

 

────火蓋を切ったのは、一発の砲火であった。

第六中隊の基地を囲むように展開されたシュタージの戦術機 MiG-23が周辺の警戒を行っていた直後、無音の砲撃がその内の一機に直撃した。

 

 

『────なッ!?』

 

突然の事に唖然とした衛士、彼等が見たのは開けた平野の向こうの森から此方を狙ってだろう大型の異形の戦車。『ガヘルム』と呼称されるでうろうその兵器は背中の砲身から空となった薬莢を飛ばすと、次の砲弾を装填する。

 

それと同時に、森の木々から複数の機影が飛び出してきた。戦術機よりも明らかに小さい、人間より少し大きいサイズの手足を有した機動兵器『ガヘル』が数を成して波状攻撃を仕掛けてきた。

 

『ッ!て、敵襲!総員、攻撃────!!?』

 

慌てた戦術機の一機の武装が撃ち抜かれる。横を見ると、周囲の雪原から無数の無人機が飛び出してきた。そのまま銃撃をしながら突撃するガヘル、砲撃態勢に整ったガヘルムが一斉攻撃を繰り返す。

 

『こ、コイツら!雪の中に隠れてたのか………!?』

 

『本部!至急応援を────ダメだ!通信が繋がらない!』

 

『電波妨害か!?まさか、コイツらが……っ!?』

 

『く、クソ!クソォオオオオッ!!!』

 

追い詰められている状況に耐え兼ねたであろう戦術機が飛び出していく。陣形を乱すその動きに静止する味方もいたが、すぐに殺到する無人機の対応に追われる。

 

逃げるように疾走したMiG-23が後ろに目掛けて突撃銃を無造作に撃つ。だが、追走するガヘルは乱射される銃撃の中、滑るように移動しながらMiG-23を追い抜いた。

 

『なんだこの速さ!?BETAよりも、コイツよりも速いってのか!?』

 

驚く兵士の声を無視し、追い抜いたガヘル二機が互いの両手から伸ばしたワイヤーを繋げ、そのままMiG-23へと接近する。再び狙い撃とうとするが、ガヘルは身軽に回避したかと思えばそのワイヤーを戦術機の脚へと絡め、一瞬にして足を取った。

 

『な、なに────ッ!?』

 

バランスを崩し、転倒した戦術機。ワイヤーを斬ろうと近接武器を取り出そうとした次の瞬間────動けなくなったMiG-23に、ガヘルが数機取り付いた。

 

『こ、コイツ装甲を────だ、誰か!誰か引き剥がしてくれ!』

 

コクピットを抉じ開けようとしていることに気付いた兵士が恐怖のままに味方に助けを乞う。だが、無線から聞こえるのは悲鳴と絶叫。同じように装甲を引き剥がし、生きたまま引き摺り出されたであろう仲間の声に、衛士は手にした拳銃を片手に震える。

 

 

『来るな………来るなァァァァアアアアッッ!!!』

 

数発の銃声の後、戦術機から出てきたガヘルが兵士をそのまま引っ張り出した。結果的に、シュタージの用意した戦術機中隊は無人機の軍勢によって鎮圧された。中の人間を生かしたままという、圧倒的な差で。

 

────そのまま数機のガヘルが基地へと向かう。雪の中から現れた、謎の戦術機を伴い。

 

◇◆◇

 

「な、何が起きている…………!?」

 

────シュタージの兵士たちが戸惑ったその瞬間を、ヴェルナーは見逃さなかった。

 

すぐ近くにいた兵士へと飛び掛かったヴェルナーは引き抜いたナイフで兵士の喉を切り裂く。断末魔すら許さぬ不意打ちを取ったヴェルナーは項垂れる兵士の体を持ち上げ、その手にあるライフルの引き金を引き、周囲の兵士たちを撃ち抜いた。

 

「ぎゃあっ!?」

 

「っ!貴様────」

 

ライフルを向けられる直後、ヴェルナーは盾にしていた兵士の死体を眼前の兵士へと叩きつける。そのまま飛び込んだヴェルナーは兵士の一人の顔を膝で蹴り飛ばし、一撃で意識を刈り取った。

 

至近距離であった兵士が真後ろからヴェルナーの頭に目掛け、ライフルを振り下ろす。不意打ちのその一撃は生身の人間の意識を刈り取る────はずであった。

 

振り下ろされたライフルは、粉々に壊れた。部品を撒き散らした銃だったモノに、振るった兵士すら「………え?」と戸惑う。何故なら、今しがた頭部を殴ったはずなのにヴェルナーに傷が出来るどころか、平然と振り返ってきたのだ。

 

言葉を失う兵士の首を蹴り、意識を削り取るヴェルナー。彼の反撃にようやく追いついたテオドールが近くの兵士を取り押さえたかと思えば、中隊の全員がシュタージの兵士達へ反抗を示す。

 

 

「グッ!貴様らぁあッ!!」

 

「っ!」

 

「ファム姉!」

 

「ッ!ファム姉さん!アネット!」

 

隊長らしい男が激高した様子でファムを蹴り飛ばし、銃口を向ける。怪我が治り復帰したばかりで病み上がりの彼女を庇おうとしたアネット。その二人に気付いたヴェルナーがすぐさま動く。

 

そんな彼に気付いた隊長の男は振り返り際に、ヴェルナーを銃撃した。

 

「────ッ!」

 

「ヴェルナーっ!!」

 

撃ち出された銃弾はヴェルナーの左目を撃ち抜いた。悲鳴を上げるアネット、勝利を確信した男であったが、彼等が驚くことになるのは次の瞬間のことだった。

 

────ヴェルナーは一切動揺することもなく、そのまま隊長格の男の顔を掴み、地面に叩きつける。一撃で意識を失った兵士を見下ろし、ヴェルナーは一息ついた。

 

「ヴェルナー!ヴェルナーっ!アンタ、大丈夫なの!?」

 

「………何がだ?」

 

「何がって………その目!早く治療しないと!」

 

「必要ない。それより────皆、聞いてくれ」

 

ドクドクと流れる血を拭い、隻眼となったヴェルナーはシュタージの兵士達を拘束し終えた中隊の皆へと呼びかける。真剣に満ち足りたヴェルナーの声に気付き、話を聞く姿勢となった全員にヴェルナーは端的に告げた。

 

 

「今から現れるヤツは敵じゃない、味方だ。攻撃だけはしないで欲しい」

 

「………味方って、お前。何を言って……」

 

そう言った瞬間、現れたのは二本足の無人機────ガヘル。地面を滑るように現れた未知の存在に警戒を露わにする第666中隊。そんな彼等を無言で静止したヴェルナーは前へと出る。

 

キィーーーン、という音と共にヴェルナーの目が光る。それと同時に無人機達もコアを点滅させていた。訳も分からない状況に混乱するテオドールたちだったが、何故だか彼と無人機が会話をしているように思えた。

 

途端に、警戒を解くガヘル。その様子に、何らかの方法で意思疎通が取れたヴェルナーに疑問は浮かべど、何も言えない中隊の皆。沈黙が続いたかと思えば、更にもう一機別のモノが現れた。

 

 

────戦術機。そう思われるソレは、グリムグランデに似た形状であったが、明確な違いもあった。単眼の機体ではあるが、グリムグランデよりも重厚的で、明らかに戦闘用とは思えない戦術機。

 

その機体のコクピットが開いたかと思えば、1人の男性が降りてきた。いや、正確には降ろされたと言うべきか。地頭で動く戦術機の手に乗った男性は「よっ」と言いながら地面に降り、ふと歩き出した。

 

「やあ、ヴェルナー。久しぶりだね、どうだい?最近よくやれておるかな?」

 

「…………博士、いえ、父上。オレはまだまだ、人間としてはまだ未熟なあまりです。やはり経験が足りないのかと」

 

「君は十分人間らしいよ。人は間違えを経験して成長する生き物だ。君も成長を繰り返していけば、自分らしくなれるさ」

 

白衣の男性と会話するヴェルナー。まるで親しく話すその二人に戸惑うテオドールたちであったが、確か聞き逃がせない単語が聞こえた。それは、ヴェルナーが過去に何度か語っていたことだ。

 

 

「────失礼。君達を無視して、世間話に明け暮れてしまった。血は繋がってないが息子に会うのも久しいからね。肝心の君達を放ってしまったことは謝るよ」

 

「ヴェルナーの父親………?アンタ、一体…………」

 

「申し遅れた。私は八神宗二。この子達無人機の親であり、BETAの敵対者。そこの彼女、リィズ・ホーエンシュタイン少尉の協力者だ。よろしく頼むよ」

 

くたびれたような、白衣の男性────八神宗二はそう名乗り上げた。

 




やっとこの作品のメインキャラでもある八神博士を合流させられた………まだまだこれからだ(疲弊)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。