Muv-Lvu 叡智の軌跡   作:虚無の魔術師

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お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません(反省しろ)

続きを書きました。ご覧くださいませ!


共同作戦

「─────改めて、話を始めようか」

 

 

基地内に戻ったテオドール達、第666中隊が対面するのは白衣の男性 八神博士。明らかに武装すらせず、余裕を見せるその人物に誰も武器を向けることすらない。自分達を助けてくれた恩人である以上に、下手に手出しをすればどうなるか分かっているからのもある。

 

「─────」

 

「………ヴェルナー」

 

 

八神博士の側に立つ男性衛士 ヴェルナーは無表情を貫いていた。アネットやファムの視線を受け、隻眼が一瞬だけ揺らぐ。しかしそれでも鉄面皮を貫くその姿勢は人形であることを是としているようだった。

 

 

「………無理をしなくても、あの子達のトコに言っても良いんだよ?」

 

「─────そんな資格、オレにはありません」

 

「素直じゃないね、全く」

 

 

肩を竦める博士は、無表情を崩そうとしないヴェルナーの様子に困ったように笑う。そうしてため息を吐いた八神博士はテオドール達を見据え、穏やかな笑顔で口を開いた。

 

 

「そう警戒しないで欲しいね。私は別に君達と敵対する気はない。むしろ協力したいんだ、こうして話し合いの場を設けたのもそれが理由さ」

 

「…………お言葉ですが、我々は貴方のことを知りません。突然現れた相手を容易く信用することは出来かねます」

 

「成程、確かにそれはそうか。私の事が分かれば、話は聞けるのだね?」

 

警戒を顕にしながら言葉を発したグレーテルに、八神博士はクスリと笑って立ち上がる。身構える一同の前で一切の動揺や悪意を見せず、白衣を着込んだ男は穏やかに腰を折った。

 

 

「改めて名乗ろう、私は八神宗二。何処の国にも所属していない、一個人の科学者さ。………ああ、無理に挨拶する必要はないよ。私の方で把握しているからね」

 

「何処の国にも所属していない、一個人………!?」

 

「そうとも。名義上であれば私は日本人という区分になるが、どの国の戸籍にも類していない。無論、君達以外誰も私を知ることはないがね」

 

 

どの国にもどの組織にも所属しない個人が、あれだけの無人機や戦術機を造り出せるというのか。その事実に改めて絶句するテオドール達に、八神博士はこれで知らない相手ではないねとばかりに微笑む。

 

 

「さて、私から要望は簡単─────君達には、私の仲間になって欲しい」

 

「………思ったよりも簡単ですな。その意図は?」

 

「無論、君達の為さ。…………ああ、『人類救済機関』なんて言う連中と一緒にしないで欲しいね。彼等のように、この国を捨て石にするつもりはない」

 

なんてことないように言い切った八神博士だが、666中隊としては決して聞き逃せない単語があった。当然ながら、その言葉の意味に一同は食い付く。

 

 

「失礼、八神博士………この国を捨て石にとは、どういう意味ですか?」

 

「君達もある程度知っているんじゃないかい?連中が、冥王星作戦の失敗させようとしていたことを」

 

 

それはよく知っている。

『執行官 エルデ』と名乗ったあの男、シュタージすらも自在に動かす謎の組織の一員と思われる奴がBETAの動きに関与し、援軍に来たはずの米国の戦術機を撃沈させたことも分かっている。

 

だが、後に八神博士が語ったことは彼等にとって予想だにしないものであった。

 

 

「理由は簡単。彼等は人類を追い詰めることが計画なのさ」

 

「追い詰めるって………矛盾しています!人類を救済するという言葉と、明らかに相反することです!この戦いでBETAに負けてしまえば、欧米の大半が壊滅することで人類に大打撃が─────」

 

「弱り果てた人類そのものを管理させたいのか、或いは………追い詰められた人類に、変革と進化を促したいのか。少なくとも、多くの人間を犠牲にするつもりなのと、君達を救うつもりがないことは確かだ」

 

動揺を隠し切れない一同を見据えた上で、八神博士は一息つく。無理もない、勢力争いのゴタゴタにすら納得出来ないのだ。まさか同じ人類を裏切るような真似が、人類の為になると信じている連中がいるとは、思えるはずもない。

 

 

「私は人類に可能性を見ている。それ故に、東ドイツ─────いや、君達に接触した。君達であれば、私としても手を貸すのは吝かではないと、そう思えた」

 

「…………」

 

「無論、私個人としての打算もある。此度の内戦を無事解決した暁には、東ドイツの領地の提供してもらえればそれでいい。君達としても、悪い話ではないと思うが………どうかな?」

 

 

断れるわけもなく、いや断る理由すらない。

現状に於いて、自分達の立場は非常に厳しいものだ。国家保安省

(シュタージ)を動かす執行官からは排除を命じられたということは、シュタージから指名手配されることは免れられないだろう。

 

どのみち東ドイツ内で追い詰められることが目に見えているのであれば、博士の言う提案は悪い話ではない。隊長無き中隊を代表したグレーテルとファム、ヴァルターは、その条件を呑み、八神博士と手を組むことを選んだ。

 

 

◇◆◇

 

 

「────ホントに無人機なのか、アレは」

 

 

話が終わり、一休みするように言われたテオドール達は基地内で作業する無人機達の様子にそう零した。本来の人類の技術では不可能とされていた、無人機技術。独立した意思を持ったように動くそれを見た故の呟きに、反応する声があった。

 

 

「アレ、ではない。彼等には自我がある」

 

「…………ヴェルナー」

 

「ネットワークに接続した人工知能ではあるが、彼等の自意識は多くの経験と情報を経て形成されたものだ。だからこそ、より人間に近しい感情と自我を持っている─────オレの兄弟だ」

 

 

感情の起伏の少ない軍服の青年。機械或いは人形のような冷たさを感じさせながらも、どこか人間味のある温かさや優しさを持ち合わせていた、大切な仲間の一人。

 

しかし、今の彼は違う。中隊の服を身に纏う彼と第666中隊の間には、見えない溝のようなものがあった。中隊以外の立場を持つヴェルナーの正体不明さが、そうさせていたのだ。

 

 

「─────すまなかった」

 

 

長く感じられた沈黙を経て、ヴェルナーは深く頭を下げた。土下座、とまではいかなくても深く折り曲げられた謝罪の姿勢は、彼の誠意が嘘偽りではないことを意味していた。開口したヴェルナーの口から続けて語られたのは、皆の中で可能性として過っていたことである。

 

 

「二つ、皆に黙っていた事実がある。一つは、オレが博士の関係者であること。そして、もう一つは─────オレの正体に関することだ」

 

「…………ッ」

 

「厳密に言えば、オレは人間ではない。分類に言えば、本来のオレは兄弟達と同じである。ネットワークから独立した、自我を形成した人工知能─────『セラフィム』と、区分されている」

 

 

その事実に、誰かが息を呑んだ。

撃ち抜かれた方の目を覆う眼帯を外すと、そこには無機質な空洞が刻まれていた。傷跡と呼ぶよりも、痕跡のような穴を見せながら、ヴェルナーは淡々と口を開く。

 

 

「オレは三番目のセラフィム。人の身体とグリムグランデを博士から与えられた、個体識別名 『Serf-03』。それこそが、オレの正体だ」

 

 

あまりにも機械的な様子で、彼はそう告げた。人間味を感じさせることのない立ち振る舞い、恐らく本来の彼の在り方に戸惑う一同は、声も出ない。特にヴェルナーに気を許していたアネットやグレーテルは、顕著であった。

 

 

「アハトゴット中尉、個人的な興味があったが………君は博士に命じられて中隊に加わったのか?」

 

「いや、博士の命令ではない。第666中隊に所属したのはオレ個人の意思だ」

 

「ふむ、それは何故か?」

 

「─────人として生きろ、と自我を持ったばかりのオレに博士はそう命じた」

 

 

そう言って、ヴェルナーはふと辺りを見る。基地で作業を続ける整備兵や無人機達を見るその目が語るのは、彼が中隊に合流する前に抱いていた感情であった。

 

 

「この国を観測したオレは、人間という種族の愚かさを改めて知った。同族でありながら争い合う。味方でありながら、権力争いや策謀の為に傷つけ合う─────少なくとも、当初のオレは東ドイツという国を救うに値しないと判断していた」

 

「っ、それは────」

 

「────だが、違う人もいた」

 

違うとは言い切れずとも、寂しそうに呟いたヴェルナーに口を開きかけたテオドール。しかし、ヴェルナーは否定から入った。自分自身の抱いていた結論を断じた彼の言葉は続く。

 

 

「見ず知らずの子供を守る為に抗う大人も居れば、誰かの為に戦える者もいた。死ぬかもしれない世界で、必死に生きて前を見て、戦いの中に在り続ける彼等の姿は、輝いて見えた。彼等と同じ場所に立てば、オレも人になれるかと思っていた」

 

「………だから、私達の所に?」

 

「選んだのは、ほんの偶然だ。戦略的かつ、立ち位置的にも重要なアイリスディーナ・ベルンハルトの元であれば、何か事が進むかもしれないと考えた─────打算ではあったが、間違いではなかったと、皆に会えて良かったと思っている」

 

 

そう言って、ヴェルナーは静かに微笑んだ。恐らく無意識なものであろうが、その表情は造られたものには見られないものである。すぐに無表情に戻ったヴェルナーは、テオドール達を見据えた上で口を開いた。

 

 

「…………皆に、頼みたいことがある」

 

「頼み、とは?」

 

「オレは皆を騙していた身ではある。身勝手極まりないと思うが、オレはまだヴェルナー・アハトゴットとしてありたいと自分でも感じている。迷惑でなければ…………だが─────共に戦ってくれるのであれば、助かる…………頼む」

 

 

言いにくそうに、しどろもどろになったヴェルナーはそう言うしかないのか静かに、それでいて深く頭を下げた。言い淀む彼の顔には、不安や怯えが見え隠れしていた。黙っていたことへの軽蔑や拒絶が恐ろしいのかもしれない。

 

 

「………お前、思ってた以上に真面目だな」

 

「……元より、それが本来のオレだ」

 

 

顔を逸らそうとしていたヴェルナーが何とか目線を合わせ、テオドールを見る。不器用に思えながら目を合わせたヴェルナーを見据え、テオドールは間違いないと言わんばかりに告げた。

 

 

「オレは、お前を信じるよ。ヴェルナー」

 

「………テオドール」

 

「お兄ちゃんが言うなら、私も信じます。いつも物静かですけど、良い人なのは間違いないですからね〜」

 

「そう言うお前はまだ猫を被って「は?」…………いや、失礼した」

 

 

テオドールは見えなかったが、リィズの様子にどこか納得いかないように口を出したヴェルナーに彼女は笑顔を向けていた。ドスの効いた低い声は、その場にいる全員が聞こえないように振る舞ってくれる程のものであった。

 

 

「ヴェルナー………あたし」

 

「すまない、アネット。黙っていたことは悪かった、軽蔑されても─────」

 

 

未だ弱気な発言を零すヴェルナーであったが、アネットの姿が視界から消えた。突然走り出した彼女が、ヴェルナーの懐へと飛び込んできたのだ。

 

 

「軽蔑なんて、しないよ」

 

「アネット……」

 

「大切な、仲間なんだから。そんなことするわけ無いでしょ」

 

「だが、オレは───いてっ」

 

 

それでも後悔を滲ませた言葉を漏らすヴェルナーが顔を上げた途端、額をデコピンが打ち抜く。ファムにされたことに驚いていたヴェルナーに、彼女は優しく微笑みながらも苦言を呈す。

 

 

「もうっ、自分を責めないの!誰も、この場にいるみんな貴方を怒ってないんだから!」

 

「ラン中尉!?何を勝手に───!」

 

「あら、同志中尉だってそうだと思ってましたけど………彼の事、怒ってるんですか?」

 

「…………そうなのか?」

 

「い、いや!私は………その」

 

 

心外だと言わんばかりに怒ったグレーテルだが、ファムやヴェルナーの問いに言葉を詰まらせるしかなかった。そんな様子を見て、ヴァルターは険しい顔を解いて笑う。

 

 

「はっはっはっ!ここまで来て意固地になっても意味はないでしょう!我々が救われたのも、アハトゴット中尉が助けを呼んでくれたお陰でしょうしな!」

 

「気付いていたのですか?」

 

「全く動きを見せなかったが、普通の人間でないなら予想できるさ。あの時、エーベルバッハ少尉を止めたのも、援軍が仕掛けるのを待っていたのだろう?」

 

 

既にその場の空気が穏やかなものへと変わっていた。ただ一人、シルヴィアだけはそんな空気に馴染まず、何かを意識しているようであった。当然、違和感に気付いたヴァルターが声を掛ける。

 

 

「………………」

 

「どうした?シルヴィア」

 

「………別に。中尉がいなきゃ私達は全滅してたし、感謝してる。こう見えても…………それよりさ、

 

 

 

 

─────さっきから後ろにいるの、アンタの知り合い?」

 

 

そう問い掛けるシルヴィアの視線の先は、大型コンテナ。その後ろから覗き込むような機影が複数。金属のフォルムを有するソレらは此方に声を掛けられていることに気付いたらしく、姿を顕にした。

 

 

『兄弟が何事もなかったようで何よりだ。一方的に責められるようであれば、我々が庇っていた所だった』

 

『ヴェルナーが認めた者達だ。そんな軽率かつ野蛮な者では無いだろう。私は理解していたとも』

 

『いの一番に飛び出そうとしてたクセに、何言ってんだか』

 

『余計なこと言ってんじゃねー!このポンコツヤロー!』

 

『うるせぇー!ポンコツはお前だーっ!』

 

 

………視界の片隅で二体の無人機が取っ組み合いしているのは触れない方が良いのだろうか、と皆が思っていた。地面を転がる二機を無視して近付いてきた無人機が膝を付いて一礼した。

 

 

『馬鹿な兄弟達は置いておいて………改めて失礼する。当機はSz-A14号、東ドイツ地帯工作第1隊を指揮している』

 

「成程、貴官等が………ヴァルター・クリューガー中尉だ。貴官等の援助、感謝する」

 

『感謝は必要ない。我が兄弟にとっての仲間は、我々にとっても仲間と呼ぶべきもの────兄弟を受け入れてくれたことを、感謝したいくらいだ』

 

 

 

『おい、うるさいぞ。客人の前だ、少しは礼節を弁えろ。A15、A16』

 

『A14が、礼節だと………!?』

 

『馬鹿な………!デリカシーの欠片も無いA14が、よりにもよって礼節を語ると!?』

 

『喧嘩売ってんなら買うぞ────貴様達は博士の代弁者と呼べる立場である。その態度対応が、博士や我が兄弟 ヴェルナーの好名に関わることを理解しろ』

 

『女性を米俵のように抱えていたA14が…………成長したなぁ、A16』

 

『成長したねぇ、A15』

 

『──────』

 

 

沈黙を貫いた無人機が、直後に言葉にならない咆哮を響かせる。四本の脚をジタバタと叩き付けたA14は凄まじい怒りのオーラを放ちながら、他二機に迫る。

 

 

『貴様等ッ!纏めてひっくり返してやるッッ!!!』

『キャー!A14のご乱心だー!』

 

『更年期ー!逃げろーっ!』

 

『逃がすかぁ────ッ!!』

 

 

甲高い悲鳴(恐らく意図的)を上げて転がっていく小さなロボ二機を追いかけて行く一機。突然の事に言葉が出ないテオドール達一同。そんな彼等を他所に、残された無人機達が話をし合っている。

 

 

『あーあ、行っちゃった。どうする?』

 

『追うしかないと思うが、A14を止めるのは我々では力不足』

 

『提案:マライお姉様をお呼びするのが先決かつ有効打かと』

 

『それなら探してくるよー!皆ー、行こーよー!』

 

『はいはい…………あぁ、すみません。失礼します』

 

追いかけるように転がっていく四機────内一機はテオドール達へ頭を下げてから消えていった。ポカンとするしかない皆を尻目に、困ったように溜息を漏らしたヴェルナーが一言。

 

 

「…………オレの兄弟が、すまない」

 

申し訳ないとい言わんばかりの様子に、流石に皆も掛ける言葉が出なかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「────さて、一息ついた所で。これからのことを考えようじゃないか」

 

 

いつも作戦会議で使われる部屋に集められたテオドール達、まず話を切り出したのは椅子に腰掛けた八神博士であった。博士は指を鳴らし、ホログラム上のモニターに複数の画像を展開する。

 

 

「まず、我々の目的は明確に二つ────国家保安省(シュタージ)と執行官エルデの排除、これが果たされぬ限り、東ドイツの脅威は消えないだろう」

 

 

近代的を通り越した技術に驚きを隠せない数名を他所に、もう慣れた面々は驚くことなく話を聞き入れている。そんな彼等を尻目に、八神博士は命題の一つに踏み込んだ。

 

 

「だが、それはあくまでも最終目的。今の我々のすべきことは一つ────そうだろう?」

 

「隊長とヴァルトハイムの救出、ですな」

 

 

静かに頷くヴァルター。八神博士は満足そうに微笑みながら、話を続ける。

 

 

「アイリスディーナ君とカティア君、この二人は重要不可欠だ。この東ドイツを国家保安省から解放するにおいては、2人がいなければ意味がない」

 

「………?それってどういう………ことですか?」

 

「カティア・ヴァルトハイム。彼女はかつて英雄と呼ばれた男の一人娘だ。知る者は知っているかもしれない、東ドイツの語られぬ英雄さ」

 

「っ!?」

 

「彼女の存在を知れば、反体制派の協力も容易いだろう。まぁ居なくても問題はないが、犠牲を減らす為には居ても困りはしないと思うね」

 

 

改めてその事実に驚愕を隠せない者もいれば、事前に知らされていた者ですら、そこまで認知していることへの衝撃が大きい。相手が、博士が味方で良かったと安堵の一息を漏らすテオドールの近くで、険しい顔でグレーテルがある可能性を過ぎらせる。

 

 

「ですが、もしそうだとしたら………二人は国家保安省にとって厄介な存在。始末されても可笑しくないのでは」

 

「始末するのなら最初からしたさ。ましてや相手はあの執行官、彼があの二人を殺すような男には見えないね」

 

「………オレも、そう思う」

 

 

執行官エルデは自分以外を平等に見下している。プライドが高く傲慢で済む話ではない。根本的に向けるべき感情が違う。エルデの中にあるのは、憎悪と侮蔑、嫌悪。子供染みた癇癪すらも、同じ立場の生命体として認めていない、完全な価値観の相違によるものか。

 

だが、勝ち誇ったエルデはその逆である。あの時に余裕を見せた彼は非常に優越感に浸っており、油断を誘うこともあった。少なくとも、出し抜けない相手ではないのだ。

 

 

「二人を救うことは決まったけど、具体的にはどうするの?何処に連れて行かれたのかも分からないんだし………それが分かれば、苦労しないけど」

 

「安心してくれたまえ、既に居場所は掴んでいるよ」

 

 

パチン!と指を鳴らした八神博士の前に浮かぶモニターが変化する。東ドイツ領内を鮮明に照らし出した地図上に無数の光点が浮かび上がる。シュタージの基地を全て照らし合わせたその事実に絶句する者が多い中、八神博士は「所で」と当然話を切り出した。

 

 

「執行官 エルデ、彼が人智を超えた力を持っているのは知っているね?」

 

「えぇ………あの時、裏切っていた整備兵達が自殺したように見えたけど、アレは間違いなくあの執行官の仕業………ですよね」

 

その通り(EXACTLY)

 

 

普通ならば有り得ないことだが、そうとしか思えないと言う憶測を語るファムに、八神博士は微笑みを深めながら答えた。新たに提示されたモニターに浮かんでいたのは、無数のデータから編算した────執行官エルデの力の正体であった。

 

 

「量子電波、彼はそれで他者を支配する。遠隔で機体を操縦し、人間であれば神経だけを無理矢理動かし、本人の意識関係なく行動させる。────BETAすらも、それは例外ではない」

 

「じゃあ────あの男が、世界中のBETAを使役してるっていうのか」

 

「いいや、彼はあくまでも末端、人類救済機関の使いっ走りだろう。恐らくは彼の持つ力と同じもので世界中のBETAを操っているのかもしれない。が、この国のBETAだけは支配されていると見ていい」

 

 

少なくとも確実なのは、冥王星作戦の時も執行官がBETAを操っていたこと。博士はそのことも踏まえた上で、大群を操るのがそう簡単なことではないことを、恐らくはエルデ本人は数十人を操る程度が限界だと語る。何らかの準備がなければ、BETAの大群を指揮することはないと見て良いと。

 

 

「その特殊な量子波が、ある場所で共鳴を起こしていた。丁度君達が彼と対峙していた頃、全く別の場所でね────因みに、今も彼はその付近に駐在しているようだ」

 

「っ!ならアイリスディーナやカティアもそこに────」

 

「でも、そこって基地じゃないんですか?普通に突破するのは難しいと思いますけど」

 

「流石だね、リィズくん。君の案ずる通り、そこはシュタージの基地でもある。無闇に侵入しては制圧されるだろう。

 

 

 

 

なので、一策講じることにした」

 

 

椅子に座った八神博士が、再び指を鳴らす。すると外から轟音が響き渡った。何事かと飛び出したテオドール達を出迎えたのは、鎮座する複数の機影。

 

────MiG-23 チボラシュカ。エルデの指揮下にて既知を制圧し、博士率いる無人機達に制圧されたシュタージの機体である。無力化する際に切り開かれたコクピットは無事に修理されており、全ての戦術機が膝を付いてその場に佇んでいる。

 

そんなチボラシュカを背に、博士は面白そうな笑みと共に悪巧みを語った。

 

 

「忍び込む時には、騒ぎを起こすのが一番だろう?

 

 

 

 

派手な騒ぎを起こして貰おう。同士討ち、内乱とも呼べる混乱をね」




八神博士「わざわざ戦術機を無力化したのはこれが理由なんだよなぁ」


うーん、これは悪い大人。本人の根は善性だけど振り切ったら人類の二、三割は虐殺できる人だからね。子供相手ならともかく、娘のように案じてる(本人談)リィズに酷いことした連中相手だから、慈悲を向けるわけもなく。


無人機達はガヘルムに乗ってるのとは違って、平時用の駆体を使っています。分かりやすい話、攻殻機動隊のタチコマを小さくして、ジークアクスのコンチを大きくしたサイズ。

次回もよろしくお願いします!それでは!
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