まず、開発したのはかつての世界でもよく運用した無人兵器、その改良型である。
『ガヘル Mark-10』
数時間もしない内に開発されたその機体はヒト型に近いようでかけ離れた姿。ホバー機構により地面を滑るように移動できる機能を搭載した二本脚。両腕は基本フレームを主体とすることであらゆる武装や兵器の換装など、戦況の適応に特化できるように開発されている。
関節部は独自で開発した『球状駆動関節部』を使用しており、360°あらゆる角度での腕や脚を曲げることが可能である。これにより、人間と同じ、或いはそれ以上の動きが行える仕組みである。
スラスターは従来の物を継続。移動速度は60キロから80キロを主軸として、高機動による陣形展開を行えることは間違いない。
重要な機体の主核として、コアの機能を有する小型リアクターと内臓バッテリーによる駆動を組み込む。稼働時間は戦闘込で五時間。エネルギー補給の必要はあるが、それは他の機体との連携によって補うので心配はない。
脳の代わりに、小型化された人工知能を搭載し、大規模に展開する予定であるネットワークへ接続させる。それによって他の機体との素早い連携が可能であり、自己学習、独自判断による機動戦闘が実現可能────口頭や通信では難しい、同時作業や先読みによる戦術が成り立つことになるのだ。
次に語るべきは、戦闘において最も重要とされる武装面である。本来のガヘルは高威力及び耐久力のある機銃を使用していたが、今回は新たに開発した────装甲破砕型徹甲機銃を搭載する。
銃弾は着弾と同時に装甲や外皮に深く貫通し、衝撃を受け内側から破裂する『グラファイト杭爆弾』、威力は乏しいが硬度の弱い小型のBETA用の弾丸『V.F2弾』を採用。これらの銃弾を使用した装甲破砕型徹甲機銃を左腕に連結、固定。
右腕には端末操作用のマニュピレーターを保持。腕部にマウントされた小型硬質ナイフを新たに、対BETA用切断ブレードへと転換。展開式のブレードは強度が問題視されているが、同じく採用したナノファイバー軟式により展開時の補強も行われている。
従来のガヘルであれば、これだけで完成であるが、BETAとの戦闘には足りないと判断し、新たな武装────換装ユニットの立案、採用を検討する。
背部に展開されたエネルギー変換装置の上に取り付けることで、銃弾の装填やエネルギーを補給を補える為、ビーム兵器などの使用も問題はない。
現時点では大量のBETAの掃討、及び大型BETAの攻撃援護の為、二つの換装ユニットを開発している。一つは殲滅力に長けた『アサルト・バレット』、もう一つは大型BETAへの支援砲撃を兼ねた『バスター・カノン』。これら二つは性能実験後、効果が見られれば実戦投入が見込まれている。
『アサルト・バレット』は両肩部にガトリング砲をマウントし、大多数の敵の一掃を目的とする。銃弾は同じくマウントされた弾倉から直接装填し、一分間に1000発も撃ち出すことが可能。銃身には特殊な耐熱鋼材を使用しているが、長時間の使用で使い物にならなくなるため、連携により間隔を開けて使用するように調整する。
『バスター・カノン』は戦闘の際に出た障害物────BETAの一種、『突撃級』の甲殻や『要撃級』の前腕部の破壊を目的としたロケットランチャーを両肩部に、他にも放射型の手榴弾や爆裂弾などもマウントし、支援砲撃を得意とするように設計されている。致命的な欠点として、至近距離での砲撃などは此方側にも被害が及んだり、直撃しなければ威力に乏しいため、他の機体との戦闘中のBETAを主体としての使用を行うよう設定する。
次に開発されたのは、ガヘルと共に運用される機体にして発展機。
『ガヘルム mark-6』
幾度も改良を繰り返されたガヘルとは違い、ガヘルムは大型機でもあるため改良は限られたものであった。しかし、ガヘルとの連携を主軸をしているため、一時期は戦争の際も戦況を保てる程に優秀な性能を有していた。
今回の計画では大幅は改良は見られないが、従来の武装を大幅に強化し、支援機としての性能を高めていく。
まず話すべきはガヘルムの特性────歩兵として運用されるガヘルとは大きく違うガヘルムの価値────移動補給拠点としての運用を前提に解説する。
ガヘルムは制圧砲撃を行う大型戦車であると同時に、展開されたガヘルの弾丸補給や破損の修理を行う支援補給機である。
ほぼ二メートル程であるガヘルに対し、ガヘルムは縦に五メートル、横に十メートルという大柄な兵器である。戦車というのもあり、ガヘルのように脚はなく大型のホバー走行を行える機構を搭載したドレス状のユニットを搭載している。
ユニットに連結した胴体部はガヘルよりも大きくしたリアクターとバッテリーを装填。両腕部は接近された際に迎撃する大型クローを取り付け、クロー内部には炸裂型のビーム砲を内蔵させてある。
そして、背中部には主力ともなる大型砲を取り付ける。二種類存在しているが、どれもスライド式で格納されており、移動させることで前方への砲撃が可能になる。
実弾を主体とした長身のカノン砲。直射による高火力貫通弾、斜め上からの空中で爆散し、破片を撒き散らす拡散弾。
2つ目の大型砲こそ、この世界では理論的に厳しいとされている────レールガンである。エネルギーの使用量は少なくないが、確実に射程内の物を消し飛ばせる威力は太鼓判を押せるものだ。
そして、最も語るべき点はガヘルタイプへの補給機能と修理機能を脚部ユニット────バックアップユニットの存在である。背後部には計十基の緊急補給ドローンが搭載されており、一基で五体のエネルギーを補給することが可能。バックアップユニットに直接組み込まれたリペアモジュールによって同時に五体の破損を修理が出来る。
これらの特徴もあり高火力な支援機であるガヘルムだが、当然欠点は存在している。ガヘル以上に大きく、設備や武装が多く、動きが愚鈍であるのだ。かつては装甲を厚くしていた為、大した問題ではなかったが、数と個が優れているBETA相手では狙われた場合が厳しい。
それ故に、護衛用のガヘルを配備するしかない。Betaも馬鹿ではない。そこを集中して狙われればおしまいだ。
「────だからこそ、これを用意するべきだね」
空中に浮かぶホログラムを操作し、八神博士はある設計図を前に出す。ソレはBETAとの戦闘を確認した八神博士が数時間かけて設計した、新型無人兵器である。
「NAS-α-01、αシリーズ。これならばBETA相手にも上手くやり合えることだろう」
既存の無人機の改良型ではなく、新たに設計しBETA戦用に開発した新型兵器。八神博士はこれをαシリーズ計画として用意し、BETAに対抗する特殊兵器の開発に尽力していた。博士本人も基盤となるガヘル等よりも大きな影響力を期待している。
ここで解説したい気分になった八神博士だが、すぐに口を閉ざした。発明品を自慢したいがために一人語りするのは悪い癖だ。新しい発明品は、実戦で価値を示したいという気持ちが過ってくるため、仕方なく諦めたのだ。
ここまで兵器開発は順調である。だが、何か足りないと引っ掛かってしまう。何が必要なのか、思考を回転させていると、後ろから呼びかけられた。
『────博士』
ガシャン、と機械的な音が響く。それも何回も、一定のリズムが響いてくる。それは二本脚で歩いているかのような、そういうパターンであった。
振り返ると、精巧な機械人形────ヒト型のロボットが此方に歩いて来ていた。人間らしい動きとは対照的に顔面の部位は欠落しており、その代わりに光を発する球体コア────人工知能が点滅していた。
ヒト型ロボットの接近を確認した八神博士は、ふと笑みを零す。
「やあ、ヤマト。調子はどうだい?」
『────特には。動きやすいボディであると、自覚しています………音が気になりますが』
超高性能人工知能。八神博士が総力をかけて開発した、人間に近しい人工知能。彼のいなくなった世界ではとある破壊兵器や、教え子に託した心を知覚することに成功したA.I.。目の前にいるロボット、ヤマトのその一つであった。
「悪いが、まだそれで我慢していてくれ。あと少しで、君の新しい身体を作り出せる。まぁ、食事くらいは楽しめるだろう」
『…………まさか人間の肉体ですか?私はそのようなものは欲しくないですが』
「安心してくれ、天然物を利用するわけじゃない。あくまでも、人体を模倣した人工ボディだ。私だって、死体を悪用するほど悪趣味じゃない」
八神博士は知らない。博士の憎悪を受け、暴走した人工知能たちの所業を。人間を殺すために、人間を利用することを選んだ人工知能たちの狂気の行いを。知らずにいたことは、きっと幸せなのだろう。
『それよりも博士、少し興味深いモノが────』
「『戦術歩行戦闘機』、だろう?」
『戦術機です、博士』
そうだったか、と八神博士は首を傾げる。今この世界の人類が地球に飛来したBETAに対抗する為に開発した機動兵器、そう記憶している。
「ヒト型に返り咲いたのは、正直悪くない発想だと思う。従来の戦車や戦闘機とは違い、ヒトの形はあらゆる環境や戦闘に対応できる柔軟性の強い形態だ。脚で跳び、手で武器を使う。これだけでもただ撃ち合うより目立つ活躍は出来るだろう」
博士としては、割と純粋に費用化していた。ヒト型というコンセプトに至った点は賞賛に値する。八神博士の兵器の一部は異形のような形状であるが、それはただの機械よりも生物を模倣した方が戦闘や機動に相応しいという考えがあったからこそ。
巨大ヒト型機動兵器、とだけ聞けば普通は失笑ものだろうが、八神博士は手を叩いて褒め称えるだろう。それほどまでに、人類の着眼点は悪くなかった。
「────だが、まだ足りないな」
その上で、バッサリと断ずる。現時点での戦術機ではBETAには対抗しえない。そう論じた博士に、ヤマトと呼ばれる人工知能が疑問を口にする。
『何が足りないのでしょうか?』
「全部、かな。火力、機動力、装甲────そして兵器の種類。あらゆる面が致命的に欠けている。機動兵器一種に前線を任せていては、容易く打ち破られることだろう。そういう意味では、まだまだ今の人類ではBETAに勝つことは出来ないだろうな………戦術機以前の問題もあるが」
戦術機は素晴らしいが、あくまでも歩兵としての価値しか見られない。単独でBETAに対抗できず、連携しなければ真価を発揮できない。八神博士の無人機『ガヘル』もそうだと言われるだろうが、ガヘルは人工知能による高速演算とネットワークによって繋がった個体との連携が手早い。
ハプニングによって混乱する人間が操る戦術機は、あらゆる可能性を考慮しても前線や陣形の崩壊が有り得る。だからこそ八神博士は無人機を兵器として採用しているのだが。
「────よし、このアイデアだけは採用させて貰おう」
ふと笑みを浮かべた博士は、ホログラムのキーボードを叩く。突然作業を始めた八神博士に驚いたヤマトは戸惑いながらも問い掛ける。
『アイデア、とは?』
「戦術機を造ろうと思う。無論、彼らの造りたがっている量産機とは違う。戦況を覆すことが出来る最強のエース機を。デカいヤツこそが、切り札であるべきだろう?」
楽しみだ、と博士は作業に没頭し始めた。恐らく出来上がるのは従来の戦術機を知る者達からすれば発狂やドン引き間違いなしの
それをおおよそ察知したヤマトは嘆息するしかない。博士は良識はあるが、それでもやはり人智を超えた天才であり割と我儘である。ああなったら一日中はずっとあのままだろう。
────無理はしないで欲しい。そう思いながら、ヤマトは博士の分の夕食を準備しに離れるのだった。
次回らへんから本格的に介入を始める予定です。オルタネイティブやトータル・イクリプスより前のシュヴァルツェスマーケン編に入ると思います。