Muv-Lvu 叡智の軌跡   作:虚無の魔術師

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シュヴァルツェスマーケン編、始まります。


干渉

「────いやぁ、懐かしい。まさかまた創り出すことになるとはな」

 

数ヶ月が経過した頃、八神宗二は外に出てあるものを見上げていた。ギガ・フロートから建造した────天へと伸びる巨大な柱。

 

────ユグドラシル、『世界樹』の名を冠する巨大な建造物。特殊な素材で構成された大樹のような柱は、八神博士の拠点として鉄壁と防御を誇る要塞でもある地球全土を覆う大規模なネットワークを構築するアンテナでもあった。

 

当然、高度なステルスにより世界中からは悟られていない。幸いなのは、BETAの侵攻に気が取られていたことが幸いか。お陰で本来は空を飛び交う飛行機や戦闘機がなくなり、太平洋のど真ん中にあるユグドラシルに接触する存在がいないのだ。

 

 

「大方兵器の開発は完了した。あとやるべきことは────」

 

「戦線に介入、するわけではないですか?」

 

 

背後からそう呼びかけるのは機械人形────ではなく、一人の男性。艶のある黒髪が特徴的な美形の男。服装は軍服でありながら、腰に刀を備えたその男に八神博士は穏やかに笑いかけた。

 

 

「やあ、ヤマト。新しい身体には慣れたかな?」

 

「………ある程度は。人の姿は機械よりも頑丈では無い為、慎重さが必要で大変です────もっとも、この肉体は一般的な人間よりも頑丈ですが」

 

 

困惑しながらも、ヤマトは手首を回しながらそう告げる。博士は「そこは仕方ない。慣れてくれ」と軽く流した。いつもの通りマイペースな博士に呆れ、ヤマトは嘆息する。

 

「それで、人類への協力を開始するのでしょうか」

 

「その前に、少し準備をしよう」

 

「準備、ですか」

 

怪訝ながらも納得するヤマトに八神博士は微笑む。そうして、自分の考えを語り出した。

 

 

「一部の国と交流し、密かに拠点を作る。そこで無人機の開発を行い、少しでも戦力を増やしたい。なるべくだが、他国にバレることは避けたい」

 

「ではどちらに? 米国やソ連、中国は避けるとして、日本でしょうか」

 

「────いいや、身を隠すのにうってつけの国がある。ドイツだ」

 

そう口にした八神博士に、ヤマトは驚愕を隠せなかった。ドイツという国は利用するには厳しい要素が幾つか存在していたのだ。

 

 

「お言葉ですが、博士。ドイツは大きく情勢が荒れています。拠点を作るには厳しいと思われますが………」

 

「モノを隠すには騒ぎが必要だ。あの戦火も、我等が入り込めるには相応しいところだ。そこで信用に足る相手を見つけ、交渉が出来れば御の字だとも」

 

「…………敵はBETAだけではありません。我々が干渉しては、戦火が増すばかりかと」

 

「安心してくれ、表立った干渉は避けるさ。ただ、人員を送り込んで、私達は裏から暗躍するとしよう」

 

博士の言葉を聞いたヤマトは静かに目を伏せる。腰に差した刀に手を置き、彼は胸に秘めた戦意を言葉にする。

 

「ならば、私が動くので?」

 

「それは困るなぁ、ヤマト。君には私の補佐をして欲しい。私は労働が苦手だから、荒事を頼みたいんだ」

 

「………私でなければ、誰が動くのですか?」

 

自分が動けないことに思うところがあるらしく、不服そうに問うヤマト。明らかに人間らしいその態度に笑みを深めた八神博士はヤマト──────彼の背後へと呼びかける。

 

 

「今回の件、君に任せたい。いいかな?」

 

ヤマトの後方にいた人影は無言のまま頷く。敬礼する影を見据えた八神博士は引き締まった顔を崩し、穏やかな表情で語り掛ける。

 

「新たに開発した『グリムグランデ』は君に与えよう。その代わり、何度か派手に暴れてくれ。その後どうするかは君の判断に任せよう」

 

了解、と人影は答える。機械的なその声は抑揚もなく、淡々と告げられた。

 

 

◇◆◇

 

 

とあるドイツの戦線。

そこはドイツの戦術機を含めた防衛部隊とBETAとの正面衝突が起きていた。血と火薬の匂いの舞う戦場での激戦は、すぐに状況を大きく変えていた。

 

『クソ!この化け物共がぁ!!』

 

『おい!援軍はまだか!?支援要請は五分前に出しただろ!?』

 

『連中が素直に聞くかよ!要請を受け取ったのはあの「第666戦術機中隊(死神部隊)」だぜ!?どうせ俺達を使い潰して、美味しいトコ掠め取るって腹だろうぜ!』

 

『仲間を責めてる場合か!前に集中しろ!』

 

複数の戦術機による防衛では、多勢を為すBETAに押し込まれてしまう一方だ。正直な話、BETAを相手に防衛は愚策も愚策。高火力による殲滅力があれば話は違うが、今の彼等にそんなものはない。

 

 

『────隊長!後方より、エネルギー反応!』

 

『ッ!馬鹿な!まさか光線級に後ろを取られたのか!?』

 

『いえ、エネルギー反応加速────!信じられない………これは、戦術機です!?』

 

思わず何人かの衛士が手を止めて振り返る。黒煙の漂う薄暗い空に、一筋の軌跡があった。────それはやはり、戦術機のようなものだった。全身を漆黒のカラーで塗り固めた、不気味な影。それは背中の大型スラスターによって超速飛行を行っている。

 

『!所属不明機!何をしているか!すぐに高度を下げ────』

 

ふと、ある事実を思い出した隊長格の男が叫ぶ。あの高度は不味い、そう告げるよりも先に────地上から無数の光が放射される。

 

BETAが輩出する光線級と呼ばれる個体。その特徴は基本的に『一定の高度上の存在を精密に狙撃する』ことにある。それ故に人類は戦闘機などの航空兵器が使えなくなり、戦術機に頼ることになったのだ。

 

光線級の一斉掃射を直撃した謎の機影。撃ち落とされたことを察した何人かは援軍が一瞬で撃墜されたことに絶望し、あるものは悪態を漏らす。

 

────だが、それは杞憂に過ぎなかった。

 

 

『お、おいっ!見ろ!?』

 

 

一人の衛士が上ずった声を上げる。視線の先、上空にいた謎の戦術機は無事だった。それどころか、傷一つ無く空中を滞空している。その事実に、衛士たちは大いに混乱する。

 

それはBETAも同じであったらしい。僅かに、奴等も戸惑った様子を見せる。しかし、それも一瞬。すぐに光線級はレーザーを放ち、謎の戦術機へ集中砲火を浴びせていく。

 

 

『嘘だろ………あんだけレーザーを食らってるのに、ビクともしねぇ』

 

『あの装甲………あれでレーザーを防いでるのか?いや、弾いているのか?』

 

『そんな馬鹿な!アメリカでもあんなモノ造れてないという話だぞ!?』

 

混乱する一同を他所に、漆黒の機体が動き出した。右腰部にマウントした武装────銃と呼ぶには大き過ぎる物体を持ち上げる。

 

銃口から光が漏れ出す。まさか、と目を疑った彼等の前で高出力の真紅のレーザーが放たれた。

 

 

────地上にいるBETAの何体かが、消し飛んだ。高出力のレーザーの熱量により、生きたまま焼却されたのだ。灰すらも消し飛んだBETAたちだが、それだけでは終わらない。

 

地上に撃ち込まれた真紅の光は消えることはない。銃口から放たれたまま地面を撃ち続けている。謎の機体が銃を大きく動かせば、真紅の光は同じように地上のBETA郡を焼いていく。

 

『び、ビーム兵器!?あんなのも搭載しているのか!?』

 

彼等は知る由もない。あれがビーム兵器の一種であるが、銃ではないこと。本来の用途はブレード、要するに近接兵器であることを。

 

光が消失した時には、地上にいたBETAの殆どが消し飛ばされていた。末恐ろしいのは、その殆どが厄介な突撃級と光線級ばかりであったことだろう。上空から残存するBETAを睥睨した戦術機は、左手で腰に接続された筒状の武器を構える。

 

砲口から放たれたのは一筋の閃光────ではなく、空を覆う真紅の雨であった。空中で炸裂したビームは四方八方に拡散され、地上のBETAに破壊と殺戮をもたらす。

 

 

『ば、馬鹿な…………BETAが、祖国を追い詰めた敵が、ああも簡単に』

 

飛翔する漆黒の戦術機は二つの武装を淡々と使用していく。収束高出力レーザー、拡散高出力レーザー。二つの真紅の光は、戦火に包まれたはずの戦場をアッサリと塗り替えた。

 

─────数千を軽く超えるBETAの軍勢を、一匹残らず殲滅する形で。

 

BETAの存在が消えたことを確認すると、漆黒の機体がゆっくりと振り返る。武装を手に降り立とうとする戦術機に、防衛ラインを維持していた戦術機が一斉に武器を身構えた。それを、隊長格の衛士が制止する。

 

 

『………よせ、銃を下ろせ』

 

『っ!何故です!まだ味方とは────』

 

『助けてくれた相手に武器を向けるのは申し訳が立たん。それに、だ。あの戦術機にこんなチンケな武器が通じると思うか?』

 

その言葉を受け、隊員全員が諦めたように武器を下ろす。地面に着地した戦術機は、頭部を此方へと向け────彼らの通信に割り込んだ。

 

 

『東ドイツの、戦術機中隊』

 

 

聞こえてくるのは、平坦な声。機械的な冷たさというよりも、感情の起伏に乏しさを感じられるその声は、短く告げた。

 

 

『────話がある。お前達の、ドイツの未来について』

 

 

◇◆◇

 

 

数時間後。

ドイツ人民共和国────コトッブス基地にて。

 

「お久し振りです。ヒュルガード大尉」

 

「此方こそ、久し振りだな。ベルンハルト大尉」

 

第666中隊、第600中隊、其々の隊長が室内で対面する。第666中隊の隊長 アイリスディーナ・ベルンハルト大尉、気高く凛々しい女性衛士であり、隊長としても優れた人物である。

 

対するは、第600中隊隊長 アゼルナ・ヒュルガード大尉。細身で痩せた体格が目立つが、実際は多くの戦場を駆け抜けた実戦派のエリート。アイリスディーナ同様、隊長として高く評価されている人間でもある。

 

「本来であれば紅茶を呑んで楽しく談義をしたいところだが………君達としてはそうはいかないみたいだ」

 

ポーカーフェイスを浮かべながら、アゼルナはアイリスディーナを見る。凛々しい表情を崩すことなく、アイリスディーナは堂々と口を開いた。

 

「────ヒュルガード大尉。あの防衛ラインで何があったのか、話してもらえるだろうか」

 

「………君には個人的に縁もある。真実を語るのも吝かではない」

 

アイリスディーナの問いに答えたアゼルナは笑みを消し、落ち着いた様子で語り始めた。

 

「我々第600中隊は他中隊が壊滅する中、防衛ラインの死守に専念していた。仲間も何人か撃墜され、瀬戸際であったが────『黒い天使(シュヴァルツェ・エンゲル)』が現れた」

 

「…………シュヴァルツェ、エンゲル。黒の、天使」

 

口の中で含むように繰り返すアイリスディーナ。彼女や背後に並ぶ第666中隊の面々を見渡し、アゼルナは続けた。端から聞けば、絶対に信じられないであろう事実を。

 

「実際は、漆黒の戦術機だった。超高度でありながら、従来の戦術機を超える速度。光線級のレーザーを弾く装甲。そして、突撃級の甲殻を容易く切り裂くビーム兵器。数分もしない内に、その戦術機はBETAの軍勢約一万弱を掃討した」

 

「な………っ!?」

 

アイリスディーナを含む第666中隊に驚きが見られる。当然だ、と思う。最初は嘘だと思っていたようだが、一万弱のBETAの軍勢が消滅した事実もあり、信じざるを得なかった。

 

其々の考えを口に出す隊員達を叱咤し、黙らせたアイリスディーナは軽く咳き込む。そして、アゼルナに対し疑問の一つを投げかけた。

 

「それで、その『黒い天使』はどうなったのですか?」

 

「──────逃げたよ」

 

あっけらかんと告げるアゼルナに、アイリスディーナの背後の衛士達が唖然とする姿が見られた。しかしアゼルナは気にする様子もなく、肩を竦めて話を続ける。

 

「話し合いをしようとしたが、援軍に来た君達の存在に気付いたのかね。慌てたように飛び去っていったよ」

 

「────何故、追わなかったのですか」

 

アイリスディーナの背後に並んでいた衛士の一人、政治将校である少女が険しい顔でそんな言葉を投げ掛ける。瞬間、殺気立つ第600中隊の衛士達。彼等を睨み返しながら、少女は言葉を紡ぐ。

 

「ヒュルガード大尉ならば、その戦術機の有用性、価値は御理解されていたはず。その戦術機を此方に懐柔することもせず、逃亡を見逃すなど…………」

 

「仕方がないだろう。BETAとの戦闘で消耗していたんだから────まぁ、救援要請に応えて、もっと早く来てくれた衛士がいたら、話は別だった思うんだが」

 

「そ、それは………!」

 

口ごもる政治将校は反論しようとしていたが、アイリスディーナによって制され、不満そうに引き下がる。

 

 

「さて、話が終わったのならば、本題に入らせてもらおう」

 

「………何かご要件があるのですね」

 

「まぁ、君達の事だが…………上からの人員派遣だ。確認してくれ」

 

そう言って書類を手渡すアゼルナ。書類に目を通すアイリスディーナを前にアゼルナが手を上げると、背後に並んでた衛士の一人が前へ出てきた。

 

────軍服を着こなした男性、いや青年と呼ぶべきか。その見た目は端正なものであり、目の当たりにした何人かが唖然とするほどに────綺麗であった。

 

それほどまでの美形。人形でも相手にしているのかと思うほどの精巧さ。脱いだ軍帽から伸びる銀色の長髪は光に照らされ、輝きを増していく。しかし、銀色の眉から見られるサファイアの瞳は、感情というものが何一つ感じられない。────機械的な、表情と同じく。

 

 

「本日より、第666戦術機中隊に所属することになりました────ヴェルナー・アハトゴッドであります」

 

青年衛士はそう告げて敬礼を取った。その動きは正確そのものでありながら、口から出された言葉と表情は相も変わらず機械的なものであった。





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