Muv-Lvu 叡智の軌跡   作:虚無の魔術師

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交流

「────で、ここが基地の食堂よ。まだ時間じゃないから、後で一緒にどうかしら? ヴェルナーくん」

 

「宜しければ何時でも。ファムお姉さん」

 

 

第666中隊へと加わったばかりのヴェルナーは先輩でもある女性衛士に基地内を案内されていた。冗談のような言葉を交わす女性に真面目に答えるヴェルナー。そんな彼の返答を受け、女性は面白いのか笑みを零すばかりだ。

 

ファム・ティ・ラン中尉。

第666中隊の中核にも当たる人物であり、穏やかで優しい面が目立つ女性である。挨拶を交わした際、無機質ながら天然なヴェルナーを気に入ったのか、率先して施設の案内を進み出てくれた。

 

表には出せないが、ヴェルナーとしても純粋に感謝している。無論、好きで表に出さない訳では無いのだが。

 

 

「あ、ファム姉……」

 

「あら、アネットちゃん。ちょうど良かったわ、紹介したい子がいるの」

 

廊下を出て二人で歩いていると、一人の少女と出会った。声のかけ方と軍服のマークからして、同じ第666中隊の一員だろう。入隊の際に見なかった顔だが。

 

 

「本日より着任することになりました、ヴェルナー・アハトゴッド中尉です。よろしくお願い致します」

 

「………ああ、そっか。新しく補充されたんだ」

 

明るいタイプに見られるが、影を差すような雰囲気にヴェルナーはピクリと反応する。気に触った訳では無い、単に気になっただけだ。

 

「ファムお姉さん。彼女は何かあったのですか?」

 

「………うん。前回の戦いで、仲良かった子が亡くなったの」

 

「────失礼、気が回らなかった。不用意な発言を謝罪する」

 

表情は変わらないが、ヴェルナーは誠心誠意込めて深く頭を下げる。すると落ち込んでいた少女は慌てたように声を上げた。

 

 

「あっ、いや!大丈夫! あたしの方こそ、変なこと言っちゃってゴメン!気悪くさせたよね………」

 

「それこそ、オレの配慮が足らなかった。衛士として察することは出来たはずだからな────戦場に居るのだから、尚の事だ」

 

人形のような顔立ちに、僅かな翳りが射す。心からそう実感していると、鈍くなければ理解できることだろう。対する少女は暗い空気を払拭させ、笑顔を浮かべた。

 

 

「あはは、ありがと。あんた、意外と良い奴なんだね………無愛想に見えたから、ちょっと身構えちゃった。あたしはアネット・ホーゼンフェルト。よろしくね」

 

「よろしく頼む。オレは人付き合いに慣れてなくてな、感情を出すことが少し難しい時がある。………出来る限り、表に出す努力はするが」

 

「ふふ、そう言っても無表情なのね」

 

握手を交わし合う二人を前に、ファムはクスリと笑みを深めた。そんな彼女にヴェルナーは眉を下げ、困ったように口を開く。

 

 

「仕方ないだろう、ファムお姉さん。難しいものは難しいんだ。すぐにやろうとしても出来るものではない、オレはこういう分野は得意じゃないんだ」

 

「ちょっと待って!…………今ファム姉のことなんて呼んだの?」

 

「………ファムお姉さんだが?」

 

執拗に食い付いてくるアネットに、何か可笑しいのかと言わんばかりに首を傾げるヴェルナー。アネットは彼と隣でにこやかなファムを何度も見返していた。

 

当然ながら、ヴェルナーはアネットの反応に理解が入っていない。彼女が唖然としているのは理解できるのだが、呼び方だけで狼狽するものか、と困惑が混じる。

 

そこで、彼は初対面の時を思い出す。ヴェルナー・アハトゴッドがファムお姉さんと、呼ぶようになった理由を────、

 

 

『私のことはファムお姉さんって呼んでくれても構わないわよ?』

 

『? 了解した。ファムお姉さん』

 

 

────それだけだった。本人としては大きな理由などない、そう呼んでもいいと言われたから、呼んでいるだけなのだ。ここまでくれば分かるだろう。ヴェルナーは感情の起伏が少ないながら、天然なのである。

 

因みに、何の疑問もなく姉と呼んでくれたヴェルナーに何か覚えるものがあったのか。お姉ちゃんと呼ばせようとしていた。事態に呆れたアイリスディーナによって止められた訳だが。

 

 

「そういや、ヴェルナー……中尉だっけ」

 

「それこそ不要だ。敬語よりも、距離感が近い方が互いに気が楽だ」

 

「そっか、じゃあ遠慮なく────あたしは今休隊中でさ。少ししたら復帰出来るから、その時は一緒に戦えるね」

 

「ああ、楽しみ────というのは不謹慎だが、共に戦えることを心待ちにしている」

 

そう言って、アネットと別れた。僅かな交流だったが、それでも良い結果を残せたと思う。ヴェルナーはそう感じながら、ファムによる基地内の案内を受けるのだった。

 

 

◇◆◇

 

案内を終え、ファムと別れたヴェルナーはすぐに暇を持て余すことになった。今後の予定として明確なのはヴァルター・クリューガー中尉による戦術機の訓練だが、それもあと一時間以上の時間は残されている。

 

やることが無い時は、常にボーっとすることが多かった。昔は今よりも無感情だったことを思い出し、ヴェルナーは何かやることでも探そうと頭を回す。

 

結果、戦術機の整備の手伝いでもするか、と廊下を歩き出した所で、角から飛び出してきた人影を目にする。

 

「えっ、きゃ────!」

 

「…………危ない」

 

 

咄嗟に後ろに下がったヴェルナーはバランスを崩して倒れそうになった相手の手を取る。相手は、アネットのように入隊の際に見たこともない顔────恐らくは、アネットやファムの会話にあった前の戦いで死んだ衛士の代わりか。

 

そう判断したヴェルナーは無機質な目で相手を観察する。明らかに小柄で、可愛らしい印象の目立つ少女。明らかにこのような戦場に近い場所にいるべきではない、ヴェルナーからもそう思わせるほどの場違いさが感じられた。

 

 

「す、すみません!ちょっと急いでて………怪我はありませんか!?」

 

「………此方は問題ない。君の方は、問題なさそうだな。走るなとは言わないが、曲がり角は気を付けた方が良い」

 

淡々と告げるヴェルナーは少女は元気そうに「はい!分かりました!」と敬礼を示し、応える。どうやら、思ったよりも純粋で善良な子らしい。無愛想な自分に悪感情を持つ者は多くはないが、良い感情を持つ者も当然多くはない。

 

初対面の自分に対し、こうも元気に接してくる相手は初めてだ。正直、対応が難しいと気を引き締めてしまうのも無理はないだろう。

 

 

「───見ない顔だな。君もオレと同じく、今日入ったばかりか?」

 

「は、はい!今日第666中隊に配属されました! カティア・ヴァルトハイムです! よろしくお願いします!」

 

「…………ヴェルナー・アハトゴッド中尉だ。本日より第666中隊に転属した。人付き合いが得意ではないが、よろしく頼む」

 

「はいっ!よろしくお願いします!」

 

ハッキリと名乗る少女 カティアにヴェルナーは手を差し出すと、彼女は笑顔を浮かべて手を握ってくれた。やはり、本当に純粋らしい。こういう時、普通なら笑顔を浮かべるのが普通だろうが、笑顔ができないヴェルナーは軽く頷く。

 

 

────まず始めに、ヴェルナーは彼女の事はこの第666中隊の誰よりも知っている。彼女がここに配属されることになった経緯、彼女が東ドイツの人間ではなく、西ドイツの人間であることも。そして、それ以上に────────絶対に隠さなければならない秘密があることも、ある程度の事実は理解していた。

 

だが、ヴェルナーはその事実を餌に脅しをかける気も、他の人間に共有する気もない。彼女がここにいると自身で決めたのなら、その方が都合がいい。ヴェルナー個人の、目的のためにも。

 

 

「何をそんなに急いでいる?訓練ならまだ時間はある、自由に行動してもいいと記憶しているが………」

 

「はい!実は………テオドールさんに用があって」

 

「…………エーベルバッハ少尉か。少尉に何こ用なんだ?」

 

聞き覚えのある名前に、ヴェルナーは感情の見られない瞳を細める。

 

テオドール・エーベルバッハ。

自分たちと同じ、第666中隊の衛士であり少尉。ヴェルナーも入隊時に対面したからこそ、よく覚えている────悪い意味で。

 

彼がヴェルナーに向ける感情に、良好なものは感じられない。あるのは猜疑と警戒、それらを上回る敵意であった。馴れ合うつもりはない、と早々距離を取ったテオドールから感じられるのは他者に対する猜疑と拒絶するような敵意だけだ。

 

ヴェルナーはテオドールという個人が嫌いではないが、好きでもない。彼がコミュニケーションを取るのならば応えるが、進んで声をかけるつもりはない。あくまでも無関心、中立と言うべきか。

 

────無感情に等しいヴェルナーの思考は合理性を主軸としている。それ故に、善意を向けられれば不器用ながら応えるし、悪意や敵意を向ける者に優しさを向けることはない。ヴェルナーにとってテオドールは評価が難しい、関わり合う必要のない相手である。

 

 

「はい!私、テオドールさんに教えてもらってるんです!」

 

「……………………エーベルバッハ少尉に?」

 

「?はい!」

 

────前言撤回。

関わる必要があるみたいだ。ヴェルナーの精神構造は先程のように、機械的なものであるが、そんな彼からしても露骨なまでに人間不信らしきテオドールにカティアを近付けさせるのは不安なものを感じる。

 

己の論理を捻じ曲げる程に、目の前の少女がテオドールを見習ってしまう(悪い意味で)可能性を思うと、無視はできないのだ。────最も、ヴェルナーは知らない。純粋な少女に振り回され、ストレスを溜めている哀れな青年将校がテオドール・エーベルバッハであることを。

 

今はまだ、知る由もない。、

 

 

「私、テオドールさんのことも、皆さんのことも知りたいんです」

 

「………良い考えじゃないか。悪くないとは────」

 

「西ドイツも東ドイツの、互いに理解し合えば、争い合う必要もないと思います。手を取り合えば、BETAにも────うむっ!?」

 

 

瞬間、ヴェルナーの動きは早かった。懐から取り出したものを一瞬でカティアの口へと突っ込む。簡単に栄養を摂れる、軍用の携帯食料である。喋ろうとした矢先、口を塞がれたことにモガモガと可愛らしく戸惑うカティアに、ヴェルナーは辺りに気配がないことを察しながら、人気の無い外へと連れ出す。

 

口に押し込まれた携帯食料を取ろうとするカティアにヴェルナーは余計なことを言わないように押し込んでおく。ようやく話せる状況を用意できた時には、何とか携帯食料を食べ終えたカティアが「ぷはぁ!」と息を吸い込む。

 

 

「あ、あの………ご馳走様です! けど、いきなりどうしたんですか………?」

 

「………ヴァルトハイム少尉。これは善意での警告だ。死にたくなければ、人のいる場所であんなことを言い出すな」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

ヴェルナーがこうも口を尖らせるのには、明確な理由がある。

 

国家保安省(シュタージ)、この東ドイツを生きづらくさせた要因でもあり、元凶の組織だ。徹底的なまでの管理、統制を第一と掲げ、国家に反抗する意志の見られる者の捕縛、処刑を繰り返している。

 

そのお陰で、東ドイツは今や恐怖政治による支配が罷り通っている。方針に文句や不満を漏らせば、ソレを嗅ぎつけたシュタージによって始末されるのだ。国民の大半は家族すら疑うほどに荒んだ状況と化している。

 

 

────そんなシュタージこそが、ヴェルナーの目的達成の障害である。それ故に、彼はシュタージを恐れる事は無くとも、怯えることはなかった。

 

だが、カティアだけは例外だ。彼女は事情が事情の為、シュタージに狙われては不味い立場にある。今でさえ、西から来た経緯もあり疑われている状況なのだ。東ドイツの体制に不満を持っていると言われて、連行されてしまえば手の出しようがない。それは、ヴェルナーとしても困る話だった。

 

 

「…………分かってくれたらいい。それより、エーベルバッハ少尉に用があるんだったか。まだ時間はあるし、探すなら急いだ方が────」

 

────直後、大きな物音がした。壁を叩くようなその音に、ヴェルナーもカティアも反応する。何故ならその音はすぐ近くから響いてきたからである。

 

息を殺して駆け寄ってみると、すぐ近くの格納庫の外で二つの人影を見かける。そのまま声をかけようとするカティアを制し、覗き込むと、二人が何者なのかすぐに分かった。

 

 

「エーベルバッハ少尉に…………デギナム少尉」

 

「テオドールさん!…………と、誰でしょうか。あの人」

 

「…………第600中隊の衛士だ。ここに配属される前、少し交流したことがある」

 

デギナム少尉、名をグラテス・デギナム。

僅かに付き合いのあるヴェルナーから見て、彼は人の良い男だ。プライドは高いが、仁義や恩を大事にした戦士気質であり初対面でありながら、ヴェルナーに対しても快く接してくれた。

 

しかし、今の彼の顔は記憶した時よりも険しく、殺意に等しい視線をテオドールに向けていた。当のテオドールは苛立たしそうに、グラテスを睨み返している。

 

 

「────前の戦い、一人死んだんだってな。まだ若い女って話じゃねぇか」

 

「………嫌味か?別に可笑しくもないだろ。BETAを相手にしてるんだ、死人が出ない方が有り得ない話だ」

 

「そうだな────お前が見殺しにしてなきゃ、な」

 

鋭い目を向けるグラテスの言葉に、テオドールが顔をしかめる。一瞬だけ何かを察したように感情を見せたかと思えば─────すぐに無愛想な表情に戻す。

 

「言いがかりだな。俺が見殺しにしただと? それが事実なら、処罰されてここにはいねぇよ」

 

「ハッ、嘘ついてんじゃねぇよ。その面、どうせ隊長様にお節教でもされたんだろ。よく分かるぜ、自分は間違ってねぇ、って不貞腐れたその顔からな」

 

「…………ゴチャゴチャうるせぇな。何が言いたい?」

 

苛立ちを隠さず、不機嫌そうに問うテオドール。そんな彼の様子を目にしたグラテスは露骨に顔をしかめ、静かに口を開く。

 

 

「変わってねぇな。昔から、あの時から何一つ変わっちゃいねぇ───────ニーニャを見殺しにした時と同じだ!」

 

 

突如怒りを滲ませたグラテスが動いた。テオドールの胸倉を掴み、そのまま壁に押し当てる。顔色を変えず、冷たい目で睨むテオドール。彼は驚くほど冷徹に、グラテスの言い分を切って捨てた。

 

「二ヶ月も前の話だろ。アレは事故って話が付いてたじゃねぇか」

 

「俺は騙されねぇぞ!お前はニーニャを光線級が狙ってるのを知ってたはずだ!でなきゃ、あんな素早く動ける訳がねぇ!ニーニャを囮にして、光線級を狩ろうとしたんだろうが! どうせ今回も、味方の不調を無視してたんだろ!ニーニャの時みてぇに!」

 

怒り狂うグラテスの発言から、その理由が大まかに理解できたらしい。大切な誰かが戦死し、その原因をテオドールだとグラテスは考えているらしい。

 

否定したいと言わんばかりに飛び出そうとするアネットとは対象的に、彼女を抑えていたヴェルナーはグラテスの言う通りなのかもしれないと判断していた。

 

そう思わせるほど、テオドールは他人を信頼してない人間不信に見えたからだ。

 

 

「チッ、うるせぇんだよ…………てめぇも、あのイカレ女も」

 

「…………あ゛あ?お前、何言ってやがる」

 

「何度でも言ってやるよ。あの女は勝手に突っ込んだったんだぞ、恋人のてめぇを守るとか抜かして─────それでやられたんだ。自業自得だろうが。逆恨みもいい加減にしろよ、実力不足の戦死を俺のせいにするんじゃねぇよ。てめぇも、あの女も」

 

 

募る苛立ちに身を任せ、罵倒を告げるテオドール。対面するグラテスの顔が激しい怒りに歪んでいくのが分かる。これ以上はまずい。下手すれば殴り合いになりかねない。そう判断したヴェルナーはカティアと共に、止めに入った。

 

 

「あ、あのッ! 喧嘩は止めてください!」

 

「っ、お前────!」

 

「? 嬢ちゃん?」

 

「お二人は、同じ衛士なんですよね!? 何か理由があるのは分かりますけど、それでも喧嘩はしちゃダメです!」

 

驚いて割って入ってきたカティアを見る二人。真剣な様子で語り掛ける少女の言葉に、二人は毒気が抜かれたのか困惑したように反応を示す。そんな彼等の様子を見ながら、ヴェルナーも動く。

 

 

「デギナム少尉………貴方にも呑み込めない思いがあることは理解します。ですが、どうかここは呑み込んでいただきたい。オレ、いや、彼女の為にも」

 

「…………そうだな。悪かったよ、お嬢ちゃん。少し気が立ってたんだ」

 

冷静になったらしいグラテスは、ばつが悪そうに二人に頭を下げた。カティアとヴェルナー、その二人に謝罪するや否やグラテスはその場から立ち去っていく。当然、テオドールへの謝罪はなく、彼の事を見向きすらしなかったが。

 

「…………ッ」

 

テオドールはそんなグラテスの背中を睨む。それでも苛立ちを消せないのか、口の中で舌打ちを溜め込む。

 

掛ける言葉もなく戸惑っているカティアを尻目に、ヴェルナーは冷静に口を開いた。

 

 

「────先の会話の内容、本当なのか?」

 

「………アンタには関係ないはずだ」

 

「先の喧嘩、止めたのはオレだ。最初に絡まれたのはエーベルバッハ少尉の方だが、少尉が挑発したのも事実だ。それならば、少しは説明の義務があると思うが?…………無論、強制はしない。説明してくれるのなら、今回の件は無かったことにする」

 

此方を冷たくあしらおうとするテオドールに、ヴェルナーはそれ以上に冷徹な声で告げる。報告されて説教されても面倒だと理解したのか、素直に語り出した。

 

 

「…………ニーニャ・ストライフ。あの女が勝手な真似をして特攻しただけだ」

 

 

数ヶ月前、ある戦場で他の中隊と合同でBETA戦をしていた時の話をする。ニーニャ・ストライフ、グラテス・デギナムの恋人であった衛士は無理な戦いをした。恋人のグラテスが負傷したことで、激高して頭に血が上ったのだろう。光線級を仕留めようと突貫し────死角外に居た光線級の狙撃を受け、撃墜された。

 

同じ場にいたテオドールは、目の前で撃墜される機体を目の当たりにしていた。地上に落ちる残骸を無視して、光線級の不意を突いたテオドールだが、その迅速な動きが災いし、その光景を目にしていたグラテスに恨まれるようになった。

 

────恋人を囮にして、光線級を撃つために動いた、と。

 

だからこそ、逆恨みだとテオドールは吐き捨てる。しかし話を聞き終えたヴェルナーの見解は違った。

 

 

「それは違うな」

 

「…………なんだと?」

 

「逆恨みであるが、逆恨みではない。それは正当な権利だ。生き残った者が背負うべき、重みだ。少尉がそれを筋違いと言うのであれば、それは逃げに等しい」

 

「さっきから、何が言いたい?」

 

「オレには少尉が臆病に見えた。そう言いたいだけだ」

 

その言葉に、呆けるテオドール。だが言葉の意味を噛み締め、理解した直後、彼の顔が激しい怒りに染まる。歯を見せるほどに歯ぎしりをし、テオドールは吼える。

 

「臆病だと………っ!?俺が!?」

 

「では何故、目の前の仲間を助けなかった?………暴走していた、勝手に突っ込んだ。それは一因に過ぎない。事故というのは、戦場での死はあらゆる理由が関わって起こるものだ」

 

「連中が死んだのは自分にできないことをやろうとした結果だ!それが俺のせいだとでも言う気か!?アンタは!」

 

「なら教えてくれ────少尉は仲間や上司から言われなかったのか。仲間のサポートをして欲しい、と、危ないようだから機を見て助力してやってくれ、と」

 

感情的に吼えたテオドールに、無機質に問い掛けるヴェルナー。彼の詰問を受け、テオドールは言葉を詰まらせた。図星、なのだろう。

 

「恐らく、エーベルバッハ少尉は敢えて距離を取ったんだろう。危険はあるかもしれないが仲間のサポートをする方法はあった。それをしなかったのは、万が一でも危険を負いたくないから。他人の為に命を捨てたくなかった────怖かったんだな」

 

 

あまりにも冷めたその瞳は、ガラスのように感情がない。怒りや軽蔑すらなく、向けられるのは無機質の虚無。こんな感覚は生まれて初めてだった。全身が凍えるほどの寒気を感じるテオドールに、ヴェルナーは静かに目を伏せる。

 

「別にオレは少尉の考えを否定するつもりはない。それが少尉の本心からの望みなら、好きにやればいい。

 

 

 

──────これは警告、いや助言だ。人の生き方の大半は、己の行いで決まる。他人に善意を向ければ、その内善意が返ってくる。悪意や敵意も然りだ。他人に悪意や敵意を向け続けていれば、その内自分の前に積み重ねたものが押し寄せる。自分が大切な誰かを失った時、少尉が言われたらどうする?────全ては弱いお前の責任だと、自業自得だろう、と。

 

 

 

 

 

これは、オレの父上の言葉も含めたものだ。それを踏まえて、周りを見て行動してくれると助かる」

 

返す言葉もなく、立ち尽くすテオドールを一瞥し、ヴェルナーはその場から立ち去った。その後ろ姿は、とても同じ人間のようには見えないほど、感情が感じられなかった。

 




テオドール関連の話を少し盛りました。まぁ初期の頃は擦れてたし、こうもなるかな、と。
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