基地内の個室。
所属する第666中隊でも限られた人間しか立ち入ることしか許されない────部隊長であるアイリスディーナ大尉、カノジョが許可した人間しか入れないその場所は、会話が漏れることはない極秘の密閉空間だった。
「ヴァルター、新しく入った二人。どう思う?」
そう問いかけるのは、アイリスディーナ。腕を組み、真剣な態度で聞く彼女の言葉に応えたのは、壮年の男性衛士────ヴァルター・クリューガー中尉。アイリスディーナが最も信頼する、右腕のような存在であった。
同時に新兵の教育担当であり、所属したばかりの二人の衛士の実力を見計らっていた。
「ヴァルトハイムは、まだまだ未熟。………ですが、素養はあります。時間はかかるでしょうが、日が経てば追いつくことでしょう」
「…………では、アハトゴッド中尉は?────遠慮はいい、率直な意見を聞かせてくれ」
静かに問うアイリスディーナの言葉を受け、ヴァルターは口を閉ざす。そして、己の考えを明確に語り出した。
「────優秀、なんてものじゃありませんな。操縦センス、判断能力、それ以上に機転が効く…………『一人中隊』の異名は伊達ではありません。恐らく、一個人としての戦力は大尉を軽く上回るかと」
「…………やはりな。分かっていたが、経歴は本物のようだ」
そう言いながら、アイリスディーナは洗い出したヴェルナーの履歴を示す書類に目線を向ける。
ヴェルナー・アハトゴッド中尉。
年齢は19歳、誕生日は6月6日、出身はベルリン。BETAの侵略より前に父親と共に山奥に籠もっていたが、父親の死後から数年して軍部への入隊。入隊時期は現在から一、二ヶ月だが、そこから戦術機で絶大な功績を残していた。
過去の防衛戦では、単独で
だが、先日行われた他隊共同のBETA群との戦闘で、彼の実力を理解させられた。────密集戦闘や集団戦、連携を用いる戦闘が得意なバラライカを用いながら、ヴェルナーは多数のBETAを殲滅した。
その機動は有り得ない程機敏で、月で跳ねているかのような動きでBETAを翻弄していた。小型や中型のBETAを屠る際も、使用する銃弾は抑えているらしく、数発でBETAを撃破するというスタンスで動き回っていた。だが、何より恐ろしいのはそれだけの戦闘を行いながら、並列思考も可能であること。
────ある時、ヴェルナーは狙いを定めた
そして、狙ったかのように────突っ込んできた突撃級に、小型のBETAを轢かせたのだ。それも、出来る限り沢山の。そして、仕舞には他の突撃級と相討ちになるように持ち込み、丁寧に数発の弾丸でトドメを刺していた。
同士討ちを誘発させるなんて、簡単に聞こえるがそんな訳無い。100キロを軽く凌駕する速度で迫る塊を計算したように誘い込むなど、考えても実行できない。大体が突撃級により押し潰されるのがオチだ。
機械そのもののような瞬間的な判断能力、そこらの衛士よりも優秀な機転と発想力。前々から上層部が送ると言っていた特記戦力という言葉が、今では実感として分かる。
「実力の面はどちらでもいい…………重要なのは奴がシュタージのスパイである可能性だ」
「それはないな」
もう一人、室内で険しい顔を浮かべていたグレーテル・イェッケルン中尉の語る内容を、アイリスディーナは即答で切り捨てた。驚いたグレーテルはすぐさま、アイリスディーナに噛み付く。
「っ!何故だ!?奴はまだ此方に入ったばかりの人間だ!二ヶ月で中尉にまで昇格など、普通では有り得ない!シュタージが差し向けたスパイの可能性は無視できない!」
「…………そうか?私は彼がスパイを全うできる人間には思えないな。スパイとは、他人に信用されやすいタイプの人付き合いの良い人間が殆どだ。………普通いるか?人付き合いが苦手だと公言するスパイが」
カティアはとある事情により、シュタージとの関係は薄いとされている。だが、だからこそグレーテルはヴェルナーを疑っていた。彼がこの部隊を監視するために向けられたシュタージの人間ではないかと。
だが、アイリスディーナはそれを否定する。彼女は既にヴェルナーを疑ってはいなかった。────少なくとも、何か重要な秘密を隠しているのは察しているが。それがシュタージ関連のものではないと、同時に確信している。
「それに、奴のような実力者をシュタージがスパイに留めて置くはずがない。戦力として手元に置くのが定石だろう。あれだけの戦力なら、特にな」
「同志大尉の考えは理解した。奴がスパイであるかどうか、決めるのは貴様だが…………私も目を光らせておく。スパイであった場合、どうなるかは覚悟しておくんだな」
「分かっているさ、同志中尉」
笑顔で答えるアイリスディーナに、不服そうに鼻を鳴らすグレーテル。ヴァルターがその空気にやれやれと呆れたように笑みを浮かべていると、突如扉が開いた。
「─────隊長、緊急事態です」
入ってきたのは、軍服を身に纏う銀髪の青年衛士 ヴェルナー。話題となっていた当人が来たことで、アイリスディーナやヴァルターの顔も大きな驚きに染まる。そんな中、グレーテルだけは烈火の如く反応を示した。
「アハトゴッド中尉!貴様何を勝手に────」
「────同志中尉。何があった?」
アイリスディーナはヴェルナーが先の会話を盗み聞きしてはいないと理解していた。同時に、彼が決まりを遵守するタイプの人間であることも。だからこそ、ヴェルナーの言う緊急事態が普通ではないことだと、すぐに分かったのだ。
「所属不明の戦術機中隊が複数。この基地へと直進しています」
「何だと………!?機種は!?」
「不明。ですが、バラライカの速度を凌駕しています────識別反応は確認されませんでした」
「「「────ッ!」」」
識別反応がない戦術機。
そう聞いただけで、三人の顔が険しいものへと変わる。この国で識別反応を持たない戦術機を有するものなど、一つしかいない。正式な軍部の人間ではない、自分たち第666中隊にとっても対立関係にある組織。
────国家保安省、シュタージである。
◇◆◇
基地の格納庫前。
既に集まっていたアイリスディーナやカティア、ヴェルナーを含めた基地の人間たちの前で、複数の戦術機が降り立つ。バラライカとは差異が目立つ戦術機、新鋭機体だ。
(MiG-23。随分と特殊なものだ、アレではBETA相手に不十分だろう)
目を細めるヴェルナーは適切なまでに、辛辣な評価を下す。あくまでも、彼等の主体とする機体は対人専用。元より、BETAとの交戦を目的とはしていない。狩るのはあくまでも、国に対抗する人間のみだからか。
軍にBETAと戦わせておいて、自分達は好き勝手にドイツで暴れ回る。何年も横暴を続けている為、国民の大対数………あ或いはほほ全員が、シュタージを好んではいない。当然、軍部の人間も。
降り立つ戦術機、チボラシュカの名を持つ機体が一斉に銃を構える。此方をいつでも撃てるようなその姿勢に、テオドールを含め何人かが歯を噛み締める。突然来て犯罪者扱いされれば、それも当然か。
────戦術機たちの背後に、一基の軍用ヘリが着陸した。そこから何人かの兵士を引き連れ、一人の男が歩み出てくる。
「久し振りだね、アイリス」
「…………ハインツ・アクスマン中佐。武装警察軍が、一体この基地に何の用ですか」
あまりにも馴れ馴れしい赤髪の男 ハインツ・アクスマン中佐は敵意にも等しいアイリスディーナの睨みを受けても笑みを崩さない。ヴェルナーもその存在を認知している。悪名高いシュタージの中でも一番動き回っている男────シュタージ内部でも、畏怖されている実質的な幹部だ。
当然、アイリスディーナの対応も冷たい。明らかに敵を見るようなその態度に、アクスマンは「手厳しいなぁ」と笑う。そして、アイリスディーナの問いに応える形で口を開いた。
「なに………そこにいるカティア・ヴァルトハイム少尉に、任意同行を願いたいのだよ」
「…………!」
(………不味いな)
露骨に顔を歪めるアイリスディーナ。同じように、並んでいたヴェルナーは近くで驚愕した様子のカティアを見ながら、静かに思考を回していた。ヴェルナー自身も、カティアの立場が怪しいと思えることは無理もない。だが、思ったよりもシュタージの動きが強引すぎる。
「彼女は正式な手続きで我が中隊に編入された衛士だ。尋問の必要は認められない」
「残念ながら、我々としてはそうはいかない。少尉の亡命は突発的でありながら、受け入れと編入が素早く行われたようじゃないか。それに────」
アイリスディーナと話し合うアクスマンの眼が、ヴェルナー達衛士へと向けられる。いや、より正確には青い顔をしたテオドールへ。アクスマンの視線を受け、何かを思い出したのか怯えた様子を見せていた。
そんな彼の様子を見ながら、アクスマンが笑みを深める。
「少尉を保護したのが、過去我々に世話になった衛士となってはね。疑り深くなるのも無理はないというものだよ」
────そこでヴェルナーは、テオドールの人間不信の理由を大方察した。家族が原因でシュタージに捕らえられ、尋問されたのだろう。連中の悪辣さ、子供にまで拷問するという話が本当であれば、彼がああも他人を信用しなくなるのも無理はない。
「さぁ、手間を掛けさせないから一緒に来てくれるかな。カティア・ヴァルトハイム少尉」
「わ、私は………」
アイリスディーナやグレーテルの言葉を軽く流し、カティアに同行を求めるアクスマン。明らかに怯えて言葉が出ない彼女に、痺れを切らしたように強引に連れて行こうとする。
止むを得ない──────そう判断したヴェルナーは多少の無理をしてでも庇うべきだ、と動いた。カティアの腕を掴もうとしたアクスマンの手首を掴んで止めたのだ。
「お待ち下さい、中佐」
「ヴェルナーさん………」
「ふむ………君は最近配属されたアハトゴッド中尉か。この手は何かね? 君を公務の妨害した罪で逮捕することもできるのだが…………」
それでも手を離すことはないヴェルナーに、アクスマンが苛立ちを覚える。無表情の鉄面皮を貫くヴェルナーだったが、その口から語られた言葉は予想できないものであった。
「──────アクスマン中佐。顔色が悪いようですが、大丈夫でしょうか?」
────キィィィィン────
「…………は?」
誰もが困惑したその瞬間────呆けていたアクスマンが、突如ふらついた。膝から崩れ落ちそうになった彼だが、ヴェルナーに手首を掴まれていたことが功を成したのか、すぐに起き上がらせてもらった。
だが、アクスマンの顔色は優れない。
「貴様………」
「………中佐、国のために勤勉に働くのは素晴らしいと思いますが、貧血になるまでとは感心出来かねます」
「何だと………?」
自分の状態が分かっていないのか、困惑したように周りを見るアクスマン。シュタージの部下たちも、戸惑いながら気遣う。彼等から見ても、アクスマン中佐の顔色は大いに悪かった。
「ヴァルトハイム少尉の聴取のために、そこまで無理をなさる必要はないかと。………我々やそちらの士気にも大きく関わりますので」
「しかし、だね………我々もここまで訪れたのだ。はいそうですかと、大人しく帰っては────」
「た、大変です!アクスマン中佐!」
「大人しく帰れ」と促すヴェルナーに食い下がるアクスマンに、シュタージの兵士の一人が慌てた様子で駆け寄ってきた。顔色の悪いアクスマンが顔を歪めながら、話を聞くと、彼の余裕が更に崩れることになった。
「マライ・ハイゼンベルクを連行していた部隊との連絡が途絶!いや、壊滅していました!」
「っ!何だと!?」
「襲撃者は依然不明!調査を行っていますが、マライ・ハイゼンベルク諸共影も形も見つからず………やはり例の『亡霊鉄騎』が動いているものと────」
「────馬鹿者!それ以上喋るんじゃない!!」
取り乱したアクスマンだが、更に話そうとする兵士に顔色を変えて大声で怒鳴る。咄嗟に謝罪する兵士を尻目に何度かアイリスディーナやカティアを見たアクスマンは苛立たしそうに歯軋りを漏らし、平静を保つ。
「………すまないね、アイリス。少し用事が出来てしまったみたいだ。君達には悪いが、ここで大人しく帰るとするよ」
「アクスマン中佐。純粋な善意で言うが、少し休んだらどうだ?さっきよりも顔色が悪く見えるが」
「────察して欲しいね。私だって大変なんだ。君が力になってくれるなら、多少休めるんだがね」
「それとこれとは話は別になる」
断れたアクスマンは苦笑いしながら、他の兵士の肩を借りてヘリに乗り込んでいく。そのヘリが飛び出していくと共に、シュタージの戦術機も後を付いていくように撤退していった。
「だ、大丈夫ですよね………?」
「ああ、もう消えたな。これで当分は安全だ」
「良かったぁ………ヴェルナーさん!さっきはありがとうございます!」
心の底から安堵するカティアがヴェルナーへと頭を下げる。気にするな、とヴェルナーは感情を見せない顔で答えた。そのまま去ろうとしたヴェルナーに、カティアがふと声をかけた。
「ヴェルナーさん、さっきのって何ですか?」
「………何の事だ?」
「え?さっき、アクスマン中佐と話してた時────「ヴァルトハイム少尉。少し良いか?」は、はい!すみませんヴェルナーさん!失礼します!」
疑問を問おうとしたカティアをアイリスディーナに呼ばれ、慌ててそちらへと向かう。少し驚いたように、ヴェルナーは呟きを漏らした。
「………アレを気付いたのか」
カティアが聞こうとしたもの。それは、アクスマン中佐が倒れそうになった直前────ヴェルナーから発せられた謎の超音波。普通の人間には聞き取れるはずもない────近くにいたカティアですら、不確かなソレはアクスマン中佐に不調をもたらしたものであった。
◇◆◇
数時間前。
大雪が降る中、一部隊らしき車両が走っていく。シュタージメンバーによる部隊。それは、シュタージに敵対する反対勢力にとっても重要な存在を連行していた。
「────退屈だな。一体何処まで行けゃあいいんだ?」
「………少なくとも、本部に連れて行く必要がある。恐らく奴は重要な情報を握っている。薬を使ってでも吐かせるだろうな」
「ふーん…………それにしてもイイ女じゃねぇか」
助手席に座る男は退屈そうに後ろの窓を覗く。トラックの後方のコンテナには一人の女性が拘束されていた。今は気を失っているが、目覚めようとも抵抗はできない。
彼女こそが、マライ・ハイゼンベルク。反対勢力に与する衛士の一人であり、主要戦力の一人でもあった。彼女と協力していた大隊の指揮官は戦死したが、指揮官との関係が深かった彼女も反対勢力の情報を持っているとされている。
「………なぁ、どうせ時間が掛かるんだ。少しぐらい味見でもしようぜ」
「…………他の奴等にはどうする気だ?密告されても知らんぞ」
「ハッ!なら、他の奴等も誘えばいい。どうせ半日は掛かるんだ!遊んだって、文句は言われねぇだろ!」
「……………勝手にしろ。だが、吹雪が止んでからにしろ。俺はどうでもいい」
仏頂面で告げる操縦席の男に、隣にいた男は下卑た笑みを浮かべて後ろを見ていた。恐らく、この先の事を妄想でもしているだろう。
(救いようのないクズが…………それは俺も同じか)
自分は祖国を救うために努力してきた。だが、今現在自分のやっていることは、かつて思い描いた理想とは欠け離れていた。英雄の一人なれることを望んでいたはずなのに、やったことは血に汚れる所業ばかりだ。
────無実の人間を痛み付け、ありもしない罪を自白させた。親の前で、まだ幼い赤子を苦しめて、自供にまで追い込んだ。父親や母親に、娘が犯される光景を見せつけた。
狂ってる。そう思った男だが、何も出来なかった。不満を覚えた同僚は同じような末路を辿り、精神的に可笑しくなったものまで出てきたくらいだ。男に出来ることは、現体制への呆れと嫌悪を心の底で吐き捨てることしかできなかった。
もういっそのこと、こんな組織など滅べばいい。何なら終わらせてくれ。と何度願ったことか─────そんな彼の願いは、叶うことになる。
────ドォンッ!!!
「あぁ!?どうしたいきなり!」
「っ!………タイヤが壊れた!マトモに動けん!────ハーゼン部隊!聞こえるか!応答を!」
前方を護衛していた部隊に無線越しで連絡するが、無線から聞こえてきたのは吹雪に紛れた、銃声と悲鳴だった。
『―――らハーゼン1!謎の敵勢力から攻撃を受けている!本部を救援を求む!!』
『此方ハーゼン4!奴等、思ったより素早い!此方に来────』
『ハーゼン4!クソ!何なんだお前らはぁ!!』
『ひ、ひぃ!追ってくる……!………来るな、来るなぁあああああ────あぎっ』
『ハーゼン3!クソォ!────あ!?囲まれた!?は、ハーゼン1!た、助けて────』
『ハーゼン2!待ってろ、今助けに────ぐはッ!?』
「どうした!?ハーゼン隊、答えろ!」
必死に呼びかけるが、応答はない。聞こえてくるのは、絶望したのかような、他の兵士たちの断末魔や悲鳴だけだ。だが、無線機が破壊されたのか、グシャッという音と共にノイズしか返ってこない。
「…………ま、まさか。『亡霊鉄騎』か?」
「………なんだそれは」
「最近見るって噂だ。変な兵器が、森や廃墟を彷徨ってるのを。………最近シュタージの奴等が行方不明になってるだろ。それがあいつらの仕業って、有名だ」
「バカ言うな。一体何の話────」
その瞬間、トラックが大きく揺れた。何かが乗ってきたと理解した二人は、思わず前を見る。ボンネットの上に、ソレは乗っていた。
────見たこともない、兵器だった。二本足と二本の腕を持ったその機体は、胴体の部分はヒト型ですらなく、ガラスのような透明な装甲の下にコアらしき球体を嵌め込んだヒト型の無人機であった。
コアらしき部分がチカチカと光り、二人を認識する。直後、振り上げた右腕でフロントガラスを破り、ナイフを突き立てんと迫る。
「っ!避けろ!」
隣りにいた男を突き飛ばし、ナイフの突きを回避する。隣の男は助かったことに安堵するよりも先に「ヒィッ!!」と怯えながら、扉を開けて外へと逃げ出す。
男は咄嗟に、腰から拳銃を引き抜いて即座に撃つ。目の前の兵器に数発叩き込むが、ガラスの装甲に傷すら入らない。弾切れになったその瞬間、無人機が左腕の機関銃を此方に向け、弾を撒き散らし始めた。
「ッ!?クソ!」
咄嗟に扉を開け、外へと逃げ出す。そのまま弾を補充しようとした所で、反対側から悲鳴が聞こえてきた。慌ててそちらの方へと向かえば、逃げたはずの同僚が殺されていた。何体もの無人機に、刃を突き立てられた。
「………………あ」
自分の周りにいる十体の無人機を見渡し、男は拳銃を手から落とす。既に戦意は折れていた。抵抗した所で、惨たらしく殺されることに変わりはない。膝をついていた男に、無人機がゆっくりと歩み寄る。
ブレードを構えた無人機を前に、男は思う。自分の死に方は、きっとマシなのだろう。仲間達は恐怖のままに殺された。だからこそ、怖くはない。それどころか、胸の内に安堵まであった。
────ああ、もう誰も傷つけずに済むのか
良かった、と心の底から思う。目を伏せた男は、自身を切り裂く刃を甘んじて受け入れた。
『────敵勢力、殲滅。これより
無人機────『ガヘル 対人特務機体』の一機が、他の機体へそう通達する。そして、トラックのコンテナを解放し、中に捕らえられていたマライ・ハイゼンベルクへと近付く。
『対象。マライ・ハイゼンベルクを保護。これより証拠隠滅の後、保護対象と共に撤退します』
拘束具を外した『ガヘル』の一機が目の前の女性を見る。(はり彼女の意識はなく、未だ静かに眠っている。連れて行く為に、米俵のように担いだ所で────他の機体が此方を見ていることに気付く。
『…………何か?』
『いや、………A14号よ』
『可憐な女性をそのような持ち方で運ぶのは、本気か?』
『女心が分かっていないな、A14』
『もう少し配慮を覚えるべきだ、A14』
『────お前達は何を言っているんだ。思考回路が壊れたか』
『我々は正気だ。不備など無い』
『これは我々が常識を学んだ結果だ。極めて正常だ』
『私としてはお前達に不備があって欲しかった。………とやかくは言わないが、御託を述べる暇があったらさっさと痕跡を消すように』
『了解…………なんと冷たいやつだ』
『ああ言うタイプはモテないぞ………ああならないよう気を付けよう』
『聞こえてるぞお前達』