Muv-Lvu 叡智の軌跡   作:虚無の魔術師

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大きく展開が変わるところです。よろしければ優しい目で見ていただければ幸いです。


海王星作戦

海王星作戦、その始まりは人類側が優勢であった。

 

旧ポーランド領のグダンスク湾に配備された艦船から出撃する戦術機、それに続き支援砲撃が大量に集まるBETA群を殲滅していった。高火力で敵を殲滅し、空いたところから展開していき────BETAの軍勢を四方から囲み、攻撃を繰り返す。

 

東ドイツの出番もなく、欧州連合軍によって全てが終わる。誰もがそう考えていた───────ある存在を、事前に知る者以外は。

 

(『人類救済機関』、執行官エルデ)

 

リィズがシュタージ内部から持ち出した機密情報。ハインツ・アクスマン中佐の協力者であり、正体不明の存在。海王星作戦の失敗を予知した何者は、きっと何か細工したのかもしれない。人類が敗北するであろう、逆転の一手を。

 

何故、人類の邪魔をするのか、という疑問はあった。人類の為、という名とは裏腹に、明らかに人類側とは思えないことまでしている。明確な行動の矛盾が、不気味なものを感じさせていた。

 

 

その直後、待機しながらその事を思案していたヴェルナーはあることに気付いた。考えもなしに侵攻を続けていたBETA群、それが突如歩みを止めたことに────敵を前にして、全ての個体が。

 

 

◇◆◇

 

 

「────おーおー、よくやるなぁ。人類も」

 

少し離れた雪山で、一人の青年が感心したと言わんばかりに声を漏らす。積もった雪の上に不自然に配置された、丸机と椅子。荘厳な椅子に腰を掛け、貴族のような服を着た青年が戦場を見下ろし、嘲笑を滲ませる。

 

机に並べられたカップを手に取り、温かい紅茶を口に含む男。その男の態度は、戦いとはあまりにも無縁な状況であった。しかし、戦火を映すその眼にはどす黒い程濁りきった闇しかない。

 

「考え無しの脳無しBETAどもでは、もう終わりだな。………頭脳級といえど、所詮は末端か。重頭脳級といい、末端に知能を期待するだけ無駄だったか────馬鹿な奴等だ」

 

心の底から、BETAを嘲笑う青年。空になったティーカップを横に向けると、隣に並んでいた黒装束の兵士が紅茶を注ぐ。軽く口に含んだ青年は、懸命に戦う連合軍に目を向け────憐れみを抱いた。

 

「悪いな、人類諸君────お前達に勝って貰っては困るんだよ。そういう、シナリオなのでね」

 

半分飲んだティーカップを机に置き、青年は椅子から立ち上がる。隣の兵士からヘルメットらしきものを受け取り────背後に鎮座していた大きな黒い物体へと乗り込んだ。

 

それにあるのは、座席だけだった。戦術機の操縦席のようなそれにモニターや操縦器はない。座席に乗り込んだ青年はヘルメットを頭に被り、背中を預ける。

 

────カチ、と両腕と両足を装置に嵌め込む。それと同時に黒い装置から伸びたケーブルがヘルメットに、青年のうなじへと接続されていく。同時に、呼応するように鮮やかな発光を始める黒い装置。手足と身体を機械に繋げた青年は、優越感に浸った笑みのまま告げた。

 

 

「連合軍諸君、お前達には悪いが負けて貰おう────人類の為にも」

 

 

◇◆◇

 

 

『────BETA群、突如侵攻を停止!全個体、沈黙!』

 

『停止?何だ、いきなり………』

 

ピタリと動きを止めたBETAに、欧州連合軍を含めた全てが困惑する。明らかに、異様な光景だ。BETAが全て、電源が落ちたように停止しているのだ。混乱した前線であったが、すぐに状況は様変わりする。

 

『ッ!BETA群、再起動しました!』

 

『各員!陣形を保て!今まで通り、殲滅を────』

 

『ぐ、ああああ────ッ!?』

 

先程までのように、包囲殲滅で対処しようした彼等は直後に理解させれた。BETAの動きが、明らかに変わったのだ。

 

『は、早い────!突撃級が、こっちを狙って────』

 

『ッ!?光線級のレーザー!?馬鹿な、高度は上げてないぞ!?』

 

『や、奴等関係なく狙ってやがる!この乱戦で、避け切れ────!』

 

数体の突撃級が、凄まじい速度で戦場を駆ける。ただの突進ならばまだしも、その動きは他の個体と連携し、上へと逃げるしかない状況に誘い込む。そして、上へと飛び上がった戦術機が、光線級により撃ち落とされていく。

 

無論、彼等の言う通り、光線級が優先して狙う高度より下にも限らず、光線級は待ってましたと言わんばかりに、狙撃しているのだ。

 

その状況に、連合軍────米軍も圧倒されていく。湾内に配置された戦艦も援護射撃を行うとするが、それが叶わない。一目散に迫るBETA群の対処に、手が回らないのだ。

 

だが、これを他の軍が黙って見ていることはない。

 

『国連軍は、これより欧州連合軍の援助を開始する!総員!戦闘開始!』

 

『────了解、これより作戦を開始する』

 

一方的に追い込まれる欧州連合軍の手助けの為に動き出す国連軍。集中して欧州連合軍を狙うBETAの背中を撃とうとしたその時、先導していた国連軍の戦術機が真後ろから撃たれた。

 

『がッ!?………お前達!?何の真似────っ!?』

 

『し、司令部!味方から攻撃を受けている!繰り返す!味方から攻げ────!』

 

『貴様ら!一体、何のつもりだ!?』

 

『何のつもりだと?…………知れたこと』

 

幽鬼のように揺れる戦術機。同士討ちを始めたその機体だけが可笑しいのではない。国連軍だけではない、西ドイツの部隊でも同じように味方が攻撃を始めている。訳も分からない状況の中、同士討ちを行った戦術機の衛士が同じようなことを口走った。

 

 

『────全ては、人類の為に』

 

◇◆◇

 

 

「────ハッ!他愛もない………俺が手を加えただけで、ここまで総崩れになるとは。やはり弱いなぁ、人間は」

 

黒い装置の中で、青年は悦に浸っていた。それは虫を潰す子供のように無邪気な、悪意に満ち足りたものであると見る者ならば理解できようものだ。

 

しかし、退屈そうにため息を漏らす。鬱屈としているのか、つまらなさそうにしていた青年は、横に立つ兵士に呼び掛けた。

 

「────ヴァリエンテを出せ。一機で構わん、残党狩りでもして楽しませて貰う」

 

『………執行官様、動かせるのは試作機です。他の機体、執行官様用の機体はまだ調整中で────』

 

「プロトで構わん。さっさと出せ────これ以上御託を吐かれると、イライラする」

 

忠言を示す兵士に、執行官と呼ばれた青年は顔をしかめて吐き捨てる。兵士はそれ以上に食い下がることはなく、大人しく従った。

 

「さぁ、何人殺してやろうか────米国の切り札でも潰してやろうか」

 

執行官 エルデはウズウズとしながら、視界に広がる光景を前に笑う。自分自身が、他のものに接続された感覚を実感しながら、エルデはソレを操り、望むがままに破壊を振りまこうとするのだった。

 

 

◇◆◇

 

そして、今現在。

後方で待機していたはずの第666戦術機中隊は、戦場へと向かっていた。国連軍や欧州連合軍の救援を受け、いつも以上に危険な作戦─────光線級吶喊(レーザーヤークト)を実行しようとしていた。

 

上の意見は散々なものだった。分かりやすい話、今戦ってる他国の軍を見捨てるというものだ。彼等としては別の都合があるのだろうが、直接繋げられた国連軍の要請を無視しろと言うのだ、そういうことだろう。

 

当然ながら、アイリスディーナはワルシャワ条約機構司令部の意向を無視し、要請の方に従った。そして、第666中隊はカティア、シルヴィアの二名を後方に置き、目的の光線級吶喊の為に動き出していた。

 

『─────今回の作戦、BETAが前線を圧倒し始めたと共に、同士討ちが起きた。偶然と言うには、出来すぎている』

 

『…………まさか、同士討ちすらBETAの仕業だと?』

 

『信じたくはないが、そう疑うしか無いだろう』

 

アイリスディーナは、どうやらこの状況に大方の予想を付けているらしい。だが、ヴェルナーは彼女の予想の先────規格外の可能性を頭に浮かべていた。

 

(BETAではない、第三勢力の介入じゃないのか?)

 

そう思う要素としては、BETAの停止。唐突に指令系統が変わったように動きが変化したのは、BETA側の仕込みとは思えない。乗っ取られたのではないかと思わせる動きだ。

 

何より、事前に聞いていた────『人類救済機関』なる存在。それらが動き出したのではないか、と直感めいたもので理解していた。

 

 

『─────総員!後方に退け!』

 

前を進んでいた第666中隊、しかし彼等に声を上げたのはアイリスディーナ。彼女の叫びを受け、全ての機体が一気に速度を押し殺すと、目の前に複数の残骸が降ってきた。

 

─────その機体は良く知っている。米軍の戦術機であるF-14 である。しかし、作戦当初にBETAを撃滅したその機体は見る影も無く、コクピットを破壊された鉄屑として転がっている。

 

そして─────彼等は目の前の敵と、対面することになった。

 

 

 

『……………あ?貴様らは、第666中隊か。何故こんな所にいる?』

 

その機体は、見たこともない戦術機であった。黒と灰色が混じった重厚的なフォルムの機体。堅牢なその体躯は、戦術機に鎧でも着せたように、重みを感じさせる。左腕にライフル状の大型銃を手にし、もう片方の手で火花を散らすF-14の残骸を持ち上げている。

 

何より、目立つのは─────従来の戦術機とはかけ離れた、モノアイ。左右を見渡せるように動くそのモノアイは、人間的な形状を成す戦術機であるにも関わらず、異形を思わせる不気味さがあった。

 

息を呑む一同は、ふとその機体の胴体を見る。型式番号のように記されたそれは、その機体を示すコードネームでもあった。

 

 

「Varente00………ヴァリエンテ?」

 

『察しが良いな。この機体はヴァリエンテ・プロトタイプ。貴様らのような旧式とは違う、人類最先端の代物だ。本来ならば、貴様らのようなカスが目を通すことすら有り得ない────光栄に思え』

 

露骨に見下す態度に、一同が顔を歪める。だが、無視はできないと感じ取ったであろうアイリスディーナが繋がった通信に答え、対話を開始する。

 

『────此方は、東ドイツ陸軍第666戦術機中隊指揮官 アイリスディーナ・ベルンハルト大尉だ。その機体は所属名と階級を明かしてもらおう』

 

『フッ、話に聞いてた通り堅物だな。大方、国連軍の救援に来たのだろうが、そうはいかん。欧州連合軍には派手に壊滅して貰う必要があるからな』

 

『そうか────今回のBETAの変化といい、奴等の同士討ちは貴様の仕業ということか。何が目的だ?』

 

その時点で、目の前の存在が自分達にとっても、人類にとっても有害であることを理解したアイリスディーナが殺気を滲ませる。声の相手は、つまらなさそうに笑い、遠方の戦場を見つめながら告げた。

 

『強いて言えば、人類の為だ』

 

『人類の為………?何言ってんのよ、今人類が協力してる状況なのよ!それなのに、それを邪魔することの何処が、人類の為って言うの!?』

 

『────さぁ、俺に聞かれても困る。そういうのは、律儀に考えてる奴しか知らないんだ。俺だって、好きでやってる訳じゃない…………やる気はある方だが』

 

アネットの感情的な声を受けても、青年は肩を竦めるに留まる。同じような動きを取ったヴァリエンテはふと首を回し、そのモノアイでアイリスディーナ達を見下ろした。

 

『さて、第666中隊諸君。貴様らは生かして置きたかったが、ここまで来たのなら仕方はない。あの男には悪いが、全員始末するとしよう』 

 

そう告げると、ヴァリエンテは掴んでいたF-14の残骸を此方へと叩きつけるように投げてきた。咄嗟に回避行動を取った一同は、その一瞬を以て戦闘を開始した。

 

 

 

──────戦闘の始まり。開幕は戦術機複数による一斉掃射が幕を上げた。しかし、すぐにアイリスディーナ達は違和感に気付く。

 

『っ!実弾が、効いてない!?』

 

『ハハッ!効くわけねーだろ、このヴァリエンテはお前等人間の旧式よりも高性能だ。量産するための劣化品なんぞ、相手になるわけねーだろうが!!』

 

執行官の笑い声と共に、ヴァリエンテが左腕のライフルで撃ち始める。小型化された弾丸だが、それは此方の戦術機が使う銃とは違うものであり、明らかにあちらの方が優れている。

 

─────旧式と宣うだけはある。直撃したシールドが大型シールドがその威力に凹み、使い物にならなくなる。至近距離で突撃したテオドールはその銃撃を浴び、シールドごと戦術機の左腕が弾け飛ぶ。

 

それを考慮した上で、突撃砲からナイフへと武装を切り替える。そのまま加速し、ヴァリエンテの装甲に刃を突き立てた。引き裂くように深く、力強く。

 

─────そして、テオドールの眼前で、ナイフの方が砕けた。全力を込めた一撃は、ヴァリエンテの装甲に傷一つ、付くことなく終わった。

 

 

『思ったより、学習能力がないな』

 

心の底から、嘲りを込めて執行官は嗤う。無防備になった戦術機を蹴り、地面に叩きつけられた機体に向け、銃口を固定した。

 

 

『お前等如きの旧式じゃあこのエルデ様のヴァリエンテを破れないって、何度言えば分かるんだ?やはりどれだけ文明人気取ろうと、猿は猿だな。BETAに滅ぼされるのも当然ってワケだ!!』

 

『────お兄ちゃんッ!!』

 

回避できないテオドールを守ったのは、リィズの戦術機であった。加速を緩めることなく、テオドールの戦術機を拾い上げる。しかし、既に放たれた銃弾は防ぎきれず、胴体に何発か被弾した。

 

『くぅ………っ!?』

 

『リィズ!』

 

『ハッ!雑魚がしぶとく足掻くか!だが、そっちの機体もマトモに動けまい!二匹仲良く鉄屑と一緒にしてやろうか!』

 

『────させるか』

 

 

直後、二つの戦術機がヴァリエンテの背中を撃つ。鬱陶しそうに振り向いたヴァリエンテからの射撃を回避しながら、ヴェルナーはともに戦う少女に呼び掛ける。

 

『シュヴァルツ6。オレが前に出る。合図と共に、駆動部を狙え』

 

『了解!────シュヴァルツ9、無理しないでよね!』

 

『────分かっている』

 

シュヴァルツ6────アネットの心配を受け取りながら、シュヴァルツ9────ヴェルナーの戦術機が加速する。一気に距離を詰めてきた戦術機に、エルデは即座に弾丸をばら撒いた。

 

しかしそれを先読みするかのように潜り抜けていくヴェルナー。機体に取り付けられたスラスターを其々別の方向へ吹かすことで、人間離れした機動を実現する。

 

 

『クソ!何だこの動き!人間風情にこの俺が遅れを取るというのか!?有り得ん、そんなことあってたまるか!』

 

『────理解ができない話ではない。オレの方がその機体よりも優れている、という話だろう』

 

『──────誰に口利いてんだ、人間!!』

 

翻弄された事、そして無感情に告げられた事実にエルデは怒髪天を衝く。怒りのままに動いた執行官は、驚くほど冷静にヴェルナーの意識を削ぐ行為を選択した。

 

『ッ!────シュヴァルツ6!』

 

突如、ヴァリエンテが空いた右手をアネットの戦術機へと向ける。一瞬で何かを察知したヴェルナーがスラスターを噴射させ、一気に加速していく。

 

 

────直後、ヴァリエンテの右手が飛んだ。比喩ではない、射出するように飛来した右手は有線を伴い、突然のことに足を止めたアネットを操縦席ごと抉るように迫る。

 

 

『アネット──────ッ!!』

 

そんな彼女を、ヴェルナーは機体ごと蹴り飛ばした。悪い、と謝罪しながら吹き飛ばされる機体を尻目に、ヴェルナーは迫る右手を迎撃する。突撃銃による銃弾を何発も浴びせるが、右手は素早さを緩めることなく、此方に狙いを定めて突っ込んでくる。

 

(不味い………奴相手に時間を取られて、本命の連合軍の救援が叶わない───────状況が状況だが、ここは『アレ』を動かすしか────)

 

戦況を大まかに把握していることで、ヴェルナーの思考に焦りが宿る。それ故に、思考を回すことに集中した結果、ヴェルナーは相手の動きを読み違えた。

 

迫る右手を、後ろに飛び退いて回避する。その瞬間、待ってましたと言わんばかりに、右手の掌から一発の大針が射出された。

 

杭のように太く、槍のように鋭いソレは回避行動を取ったヴェルナーの機体を正確に狙い、撃ち出されたものであった。空中に飛んでしまったヴェルナーに避ける行動は取れず────

 

 

 

────ヴァリエンテの放った仕込み大針は、戦術機をヴェルナーのいるコクピットごと貫いた。

 




戦術機 ヴァリエンテ

型式番号 ???
武装 【軽装大口径ライフル】
【有線式右腕部】『ベロクティ』
【右掌内蔵投射針】『スピアダート』
【左肩部スフィアシールド】(???)
【??????】
装甲 ???

人類救済機関 『執行官』エルデが操る戦術機。人類の有する戦術機を超越する性能を有しており、現時点で最高峰の『F-14』を軽く凌駕するものである。

あらゆる物理攻撃を無効化する装甲を全身に採用しており、実弾は、ナイフや長刀による近接武器ですら傷一つ付かない。重量的な見た目とは裏腹に、機体速度は第666中隊のバラライカと同等、若しくは僅かに上。

頭部にはモノアイユニットを搭載しており、360°を見渡すことが可能。

右腕の先、右手は有線式の分離機構を積んでおり、相手との距離を関係なく、攻撃が可能。何より右手の掌には大針『スピアダート』を撃ち出す武装があり、その威力はバラライカの装甲を貫通するほど。その威力と速度故に、投射直後はチャージに数秒を要する。

他にも武装を搭載しており、未だ謎の多い機体。人類救済機関の機体と言うには、不気味な様相────宇宙人のモノのような雰囲気を宿す、異質と悪意のあるものだった。
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