『──────ヴェルナー!? ヴェルナー!! お願い、返事をしてよ!!』
戦況が、一気に傾いた。
ヴァリエンテの放った針攻撃を受けたヴェルナーの戦術機が沈黙したのだ。しかも、大針を撃ち込まれたのはコクピットの部分であった。
コードネーム、シュヴァルツ9としての名前すら忘れ、アネットは必死に呼び掛ける。当然、返事はない。返事があれば、それこそ奇跡だ。
答えてくれるはずの声が来ないことに、アネットの心が揺れ始める。何度も親友を失い、戦争神経症を患った彼女はヴェルナーとの出会いを経て、ようやく克服を迎えようとしていたところだった。
何より、密かに想いを寄せた戦友が自分を庇ったことで撃墜された。そう理解した彼女の声が震え始め、ついには悲鳴のように名前を呼び続ける。
そして、戦意が消えかけたのは錯乱したアネットだけではなかった。
『────アハトゴッド中尉が、やられた? うそ、ウソよ……』
呆然と呟くのは、グレーテル・イェッケルン中尉。当初はヴェルナーを疑っていた彼女だが、長い付き合いを経た結果、ヴェルナーへの信頼を持つようになっていた。その信頼には、一つの感情に近しいものがあることは、彼女自身自覚はしていない。
だが、それ故に────ヴェルナーへの信頼があるからこそ、撃沈したことを受け止めきれない。既に二名が戦意を喪失しかけている事実に、アイリスディーナは言葉を掛ける事も出来なかった。
『────仕留め損ねたか、まだ生きてるな』
執行官エルデの操るヴァリエンテのモノアイがヴェルナーの戦術を睨む。ゆっくりと歩き出すヴァリエンテは有線を引き戻し、右腕を戻す。その指を開きながら、単眼の戦術機を操作する執行官が殺意を剥き出しにする。
『この俺に舐めた口を利いた罰だ。引き摺り出して、生きたまま「戦車」の餌にしてやる……!』
『────そうは!』
『させん─────ッ!』
そのヴァリエンテを、左右から2つの戦術機が迎撃する。アイリスディーナとヴァルター、その二人の攻撃を受け────エルデは煩わしそうに低い声を漏らす。
『────有象無象が。さっきから鬱陶しいぞ』
『それは悪かったな。だが、私達人間は思ったよりしぶといぞ。見下していれば、足元を掬われるぞ?』
『はぁ?蟻以下の下等生物が、何を言うかと思えば────』
直後、ヴァリエンテの横っ腹を長刀が切り裂く。
装甲に傷はない。だが、駆動部に刃は通っていた。切断面から飛ぶ火花は小さいが、それでもその傷はエルデの思考を焼くには充分だった。
『………よくも、ヴェルナーを』
『…………傷、付けたな?人間風情が、このヴァリエンテを、この俺の機体を!』
『許さない……!お前達みたいな奴等のせいで、皆っ!これ以上、あたしの仲間を────傷付けさせるかぁッ!!』
『────BETAにも劣るカスが!誰に物を言っている!?』
凄まじい勢いで吼えるアネットが、ヴァリエンテへと追従する。振り回される長刀を避け、飛び上がったヴァリエンテが左肩のシールドを掴み、投擲した。
────投擲された円形のシールドは、丸鋸のように刃を回転させ始める。ギャリリリッ!と唸るシールドはアネットの操る戦術機の両足を、紙細工のように切り裂いた。
『うああッ!?』
『ハッ!所詮は口だけの雑魚!この俺に生意気な口を利こうが、肝心の腕はなってないようだな!────安心しろ、お前の気にしているあの死に損ないも、後でキッチリ殺してやる』
地面を転がった戦術機を踏みつけ、嘲笑うエルデの声。アイリスディーナやヴァルターが阻止しようと銃撃するが、ヴァリエンテの装甲には傷など付かない。鬱陶しそうに顔を歪めたエルデは微笑みを浮かべ、脚に敷いたままの戦術機の中にいるアネットを仕留めようと、銃口を向け──────
『………………あ?』
思わず、手を止めた。
興奮に満ちていた意識が、大きく逸れた。アイリスディーナ達にも向けていないその思考は、あるものに集中する。
『なんだ、この反応…………一体、何が起きている?』
困惑する執行官。彼が感じ取ったのは、異様なエネルギーの反応。未知数なナニカがこの戦場に現れたと、ようやく理解した。
◇◆◇
『────動くな。抵抗すれば、この機体の衛士たちを殺す』
とある戦場の一角で、事態が大きく変化していた。
後方待機を任されていたカティアが、バルクやキルケたち第51戦術機甲大隊を説得し、前線で戦う第666中隊の救援に向かおうとしたその時────彼女達は離脱してきたであろう国連軍の戦術機と合流した。
『ヴァルトハイム少尉…………お前が?』
その際、カティアの事を知った国連軍の様子が可笑しかった。その事に気付いた時には国連軍の戦術機が動き出し、カティアを戦術機ごと抑えたのだ。
当然の事に戸惑うキルケを他所に、大隊の指揮官であるバルクは即座に国連軍に銃を向け────制止した。彼等はカティアだけではない、自分達の部下の機体を人質に取っていたのだ。コクピットに銃口を突き付けて、先の脅しを通達していた。
『………貴様ら、何処の所属だ。何の理由があって、こんな真似をする』
『────答える道理はない。道を開けて、見逃して貰おう…………でなければ、新兵が数人名誉の戦死を遂げることになる』
『た、隊長っ!』
『助けて!助けてください!』
機械的な国連軍からの通達、その後に続く覚えた部下達の声にバルクは怒りを抑え込み、歯を噛み締める。下手に手を出せば、彼等は即座に衛士達を始末することだろう。
無闇に手を出せない、バルクやキルケ達。衛士達と同じく捕らえられたカティアは、戦術機の中で戸惑い声を上げた。
『っ!止めてください!その人たちは関係ありません!私が狙いなら、私だけを────!』
『そうはいかない。無関係の君よりも、直属の部下である彼等への方が盾として使える。それに、我々は君を生きたまま連れて行かねばならない』
『そんな!どうして────』
『────ウルスラ』
突如、機密回線に繋げた国連軍の衛士の言葉にカティアは息を詰まらせる。それは、彼女がよく知る名前であった。信用できる相手にしか明かせない、彼女の秘密の一つ。
『名を隠し、西から逃れ東に居たとは…………成程、見つけられなかった訳だ。流石に予想は出来なかった、東に逃げ込んているとはな』
『………何で、その名前を』
『────執行官様が、お探しだ。君は、執行官様が取り逃がした英雄の遺産。計画の障害と成り得る因子────計画の為にも、同行を願う』
そう言い、国連軍の衛士たちはカティアを連れて離れようとする。抵抗しようにも、それすら許されない。せめて一矢報いようと、バルクたちが思案していた────その瞬間。
────閃光が、景色を塗り替えた。
『っ!?』
『な、何!?今のは!』
混乱に包まれる第51戦術機甲大隊と、国連軍。何故ならその光は、BETA郡との交戦が行われている前線で発生したのだ。慌てて通信を繋いだキルケは、通達されたその事実に絶句する。
『────六千のBETA梯団が、消滅!?』
『そんな、馬鹿な!?アレだけの数のBETAが、今のでやられたのか!?一体何が────』
『────なに、あれ』
錯乱する衛士たちが、それに気付いた。薄暗い雲に満ちた空に浮かぶ、一つの黒。血のように赤い光を放ちながら飛翔するその機体は、背中から真紅の翼を展開し、光臨を示すように空に浮かぶ。
その姿は、誰も見たことはない。
だが、それが何なのかは、自然と口から漏れ出した。
『黒い………天使?』
東ドイツで姿を現した、正体不明の戦術機。ソレは絶望的な戦場に飛来した。人類に、今も戦う彼らに、福音を齎すかのように。
◇◆◇
『──────』
上空に君臨する漆黒の戦術機、グリムグランデは未だ現存であるBETA梯団を睥睨する。大量のBETAで構成されたその軍勢には、かつての戦いでは見なかった────
異常なのは、BETA達の動き。四分の一に匹敵する数を消し飛ばされたからか、全てのBETAがグリムグランデを敵として認識し、警戒を示していた。
それ故に、先手を取るのはやはりBETAであった。
────光線級が一斉に閃光を放つ。戦術機を穿つ程の光線は、グリムグランデの装甲には届かない。いや、届いた瞬間貫通することなく、消失しているのだ。
沈黙するグリムグランデ────その胴体の装甲がスライドする。内側から覗くのは、鮮やかな真紅に満ちた大結晶。人智を超えたその結晶が輝きを増すと共に、閃光が再び戦場に炸裂した。
────大地を、真紅の光が焼き尽くす。降り注いだ破壊の光線が地上に群れるBETAの大半を塵へと変えた。その閃光は小型や中型なBETAを粉々に霧散させ、大型のBETAですら駆体を消し飛ばし、一瞬に絶命へと追い込む。
それだけで、戦場を斡旋していたBETA梯団がほぼ壊滅する。生き残ったBETAもチラホラいるが、その数は十にも満たない。米軍が対応していたはずの、二万近くのBETA梯団は完全に無力化にまで至った。
だが、まだ終わらない。装甲をスライドさせ、胸部の結晶を格納したグリムグランデに────再び、光線が放たれる。
グリムグランデが首を動かせば、遠方から大量のBETAが殺到していた。それは、欧州連合軍を含めた人類にとっても想定外である、BETA側の増援である─────その数、二万を超える三万弱。
光線級のレーザーを浴びながら、グリムグランデが動く。翼を大きく広げ、真紅の粒子を撒き散らしながら飛翔、突貫する。凄まじい速度で、地上のBETA軍へと迫っていく。
光線級が放つレーザーだけではなく、要塞級の衝角までグリムグランデを狙う。空中を高機動で飛び回るグリムグランデは十数の衝角を回避し─────機体を穿とうと迫るソレを容易く切り裂く。掌から伸ばしたビームの刃で。
─────左右から打ち込まれた衝角を、両手で掴む。右手に握る衝角を尋常ではない力で握り潰し、左手で掴む衝角を強く引き寄せ、要塞級を大きく引き摺っていく。
転倒するだけでは済まさず、地面を引き摺られながら振り回される要塞級。それだけで小型のBETAが巻き込まれ、押し潰されて消失していく。衝角を伸ばす触手が千切れた時、グリムグランデは千切れた衝角を放り捨て、両手を地上へと向ける。
─────直後、掌から放たれる光弾。血のような赤い粒子の塊は土砂降りのように一気に降り注ぎ、地上にたむろするBETAを根こそぎ仕留めていく。人類を物量で追い詰めてきたはずのBETAが、あまりにも一方的に。
そして、そのまま上空に飛び上がったグリムグランデは両腕を下ろし─────胴体の装甲を展開する。内側から迫り出した結晶が輝きを増すと共に、破壊光線が空からBETAを灼いた。
翼の出力を引き上げ、機体の動きを調整するだけで伸びていく閃光が大きく移動する。それだけで、あらゆるBETAが光に呑まれ、消え去っていく。数千、数万の反応が一斉に途絶えていく。
『…………全てのBETA梯団、消滅』
絶句した衛士の言葉に、誰もが動けない。他国の人間も含め、彼等は空を見上げていた。呆然としながら。
地獄に近い戦場を容易く終わらせた─────真紅の光を宿す漆黒の戦術機を。
◇◆◇
『…………すごい』
『信じられん………アレは何処の国の機体だ?』
呆然と呟くキルケやバルクの言葉にカティアは静かに頷いた。アレだけのBETAを撃滅するなど、人類の戦力で可能だろうか。いや、きっと有り得ない。そう思える程に、あの戦術機の成したことは異常であった。
それ故に、造反をしたであろう国連軍の衛士達の様子も可笑しくなった。
『─────執行官様?………あの機体、目視できますが………は?鹵獲せよ?』
『しかし、あの戦術機を鹵獲するには…………分かっています。操縦者を殺してでも、あの機体を手に入れましょう』
突然話し始める衛士達の声が、通信越しに聞こえる。先のカティアとの会話の際に切り忘れていたのだろう。だが、何故だろうか。通信や無線などではない、存在しない声に答えているように聞こえてくる。
『了解。これより対象を鹵獲─────』
空を見上げた直後、国連軍の衛士たちは目を疑う。先程まで飛翔していたはずの戦術機が、一瞬にして姿を消したのだ。戸惑う彼等が空を見渡すが、その姿は何処にも見えない。
─────当然だ。
その戦術機は空にはいない。真紅の粒子を纏いながら、その戦術機はこの地上に移動していた─────カティアを捕らえていた、国連軍の戦術機の真横に。
『────ッ!横に───』
銃を向けようとした戦術機の頭部が撃ち抜かれる。頭を掴むように伸びた掌から真紅のビームが炸裂したのだ。そのままグリムグランデは片腕から伸ばした真紅の光刃で目の前の戦術機の手足を切り落とす。
崩れ落ちた残骸の音を聞き、他の戦術機が一斉に銃火を放つ。直撃しても不動を貫くグリムグランデは両手の指を広げ、指先から真紅のレーザーを一斉掃射する。
十指から伸びるレーザー光線は糸のように周囲に張り巡らされ、その光線は国連軍の戦術機だけをバラバラに解体した。ゆっくりと腕を下ろしたグリムグランデが背を向けて歩き出す。
『あ、あの………』
【────第51機甲戦術大隊。お前達に頼みたいことがある】
男のものか分からない、複合音声が響く。通信に割り込んできたその音声に戸惑う一同を他所に、
【近くで暴走を起こしていた戦術機が、此方に向かっている。数は七機。そちらの対処を任せたい…………オレは、やるべきことがある】
『と、当然何なの!?まずは何処の誰か、所属を────』
『………良いだろう。貴様の話は受けてやる』
『隊長!?』
何故、と困惑するキルケを制し、バルクはグリムグランデを見据える。正体不明の存在存在を不用意に信用してはいけないが、そうは言っていられない。これ程の存在が味方としてあるのであれば、その協力関係をわざわざ無下にする理由はない。
【敵の座標はそちらに共有する────それでは、失礼する】
『待ってください!』
【…………何か?】
そのまま動こうとしたグリムグランデを、カティアが呼び止める。機械的に振り向いた漆黒の機体を見据えたカティアは、
『先程は、助けてくれてありがとうございます!』
【────】
そう感謝を述べる彼女に、グリムグランデの中にいる者は答えない。無言のまま背を向け、真紅のエネルギーを放出する翼を最大限まで展開する。
空間が振動し軋んでいく程の変化の中、グリムグランデは一瞬で姿を消した。────それが、亜光速にまで匹敵する瞬間超加速であることは、誰にも理解できないだろう。
◇◆◇
『チッ!足止めにすらならんか!この役立たずどもッ!』
執行官 エルデは自分の差し向けた刺客が無力化されたことに、苛立ち混じりの罵倒を吐き捨てる。だが、その苛立ちもすぐに和らぐ。それほどまでの高揚が、エルデの思考を支配していた。
『やはり、あの機体は良い!あれだけの火力!あれだけの殲滅力!人類なんぞ、オレ達の物とも違うテクノロジーの結晶!素晴らしい!アレはやはり、オレが手に入れるに値する代物だ!!アレさえあれば、オレは奴の駒から』
数万のBETAの大軍を殲滅したグリムグランデの力に、エルデは魅入られていた。それは自分を特別視し、外全てを見下す程の異様なプライド故か。あらゆるものを引き付けない強さを誇るその機体の強さを、手中に収めんと欲望を肥大化させていた。
『────生き残りども!あの戦術機は鹵獲しろ!オレの物にする!コクピットは消し飛ばしても構わん!機体さえ残っていれば、それでいい!』
自分の配下たちにそう呼び掛けるエルデ。興奮に満ちていた執行官は、そこで足元に踏み付けていた戦術機を思い出した。
『………ああ、そう言えば。まだいたな、お前』
『ッ!』
『気紛れで生かしてやったが、そろそろ面倒だ。さっさとぶち殺してやろう!』
抵抗するアネットにトドメを刺そうと、ヴァリエンテがライフルを持ち上げた。その瞬間、エルデは一つの咆哮を聞いた。
『おおおおおおおっっ!!』
『ッ!真横────────ッ!!?』
テオドールの声に気付いたヴァリエンテがモノアイを移動させる。そして、その行動が悪手であることをすぐに理解させられた。
真横にスライドしたモノアイに広がる光景。それは、目の前に迫るナイフ────片腕を失いながらも、リィズの戦術機に支えられたテオドールが放った、ナイフの投擲。
叫び声に反応したエルデがモノアイを動かした時には、既に眼前にまで迫って防御は不可能。そして投げられた短刀は、ヴァリエンテのモノアイに見事に突き刺さった。
『…………………………は』
長い沈黙が、空気を支配する。
してやった、と喜んだのも束の間。テオドールは動きを停止させたヴァリエンテに不気味さを感じて止まない。
次の瞬間、予想を超える形で、エルデが動いた。
『────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!ナニしてやがる!このゴミ以下の猿どもがァ!!』
通信に、響き渡る怒声。怒り狂ったエルデの有り様は、発狂という以外にない。通信越しに、激昂したエルデが頭をかきむしるような音すら混じる。
『知能や品性すらない下等な
見下していた相手に一杯食わされた、その事実がエルデの思考を焼き尽くすほどの怒りへと変わる。冷静になろうとすることなどない。思い返せば思い返すほど、彼は更に理性を失っていく。その怒りの対象は、すぐ近くにいるアネットへと向けられた。
『まずはお前だ!低俗な種として生まれた事を後悔しながら、殺してやる!!』
左肩のシールドを持ち上げ、丸鋸として回転させる。装甲を切り裂く刃として振るい、中にいるアネットごと抉ろうとヴァリエンテが腕を振り上げた。その刃を見ながら、アネットは目を伏せる。
(ごめん………ヴェルナー)
その瞬間、真紅の閃光が疾走る。その煌めきと共に、ヴァリエンテの腕が切り裂かれた。手にしていた、シールドチェンソーと共に。
『ッ!この攻撃────まさか!?』
それに気付いたヴァリエンテは、踏み付けていた戦術機が消えていたことに気付く。周りを見渡して探そうとして────上空の影を、見上げる。
────真紅の翼を広げるグリムグランデが、アネットの戦術機を抱えて浮遊していた。此方を見下ろすその機体に、怒りを顕にするエルデ。だが、無線から響いてきた複合音声に衝撃を受ける。
【…………無人、いや遠隔操作。それがお前の能力か】
『!?────貴様!何故分かる!?』
【────コクピットに穴を開けても、動いている時点で理解する】
そこでエルデは、ヴァリエンテの胸に風穴が開けられていることを理解した。先程、アネットを助け出す際に放った攻撃だろう。唖然としていたエルデだが、次第に顔を歪ませる。
嘗められている。
そう判断した執行官は激高して暴れようとした────直後、何らかの通信を受けた。
『………ッ!終わりだと!?ふざけるな!オレはまだやれる!まだコイツラをぶち殺して──────クソ!分かっている!全ては人類の為に!』
腹立たしそうに吐き捨てたエルデは、深呼吸をする。己の胸の内に宿る怒りを鎮めようとした執行官は平静を装いながら、堂々とした態度でヴァリエンテを動かす。
『………失礼。上部のお呼び出しだ。今回は貴様達に勝利を譲ろう────だが、その代価は近い内に払って貰うとしよう。それでは、精々束の間の勝利を味わっておけ。下等生物ども』
最後の最後に怒り混じりの罵倒を吐いて、ヴァリエンテは空へと飛び去った。テオドールやアイリスディーナも、その機体を追うことはしない。
彼等の視線は────アネットの戦術機を地面に下ろしたグリムグランデへと向けられていた。その視線は明らかな警戒に染まっている。当然だ、助けられたとはいえ、相手を無条件で味方と信用するほど安易ではいられない。
【──────】
僅かに沈黙した後に、グリムグランデは背を向けて飛翔し始める。身構えたシルヴィアやヴァルターを、アイリスディーナは制止した。彼女の意思を理解し、銃口を下ろした衛士たちはその戦術機を見上げる。
翼をはためかせたグリムグランデは────亜光速となり、空へと消えた。真紅の流星のように飛び去ったその戦術機は、最早誰にも捉えられない。
────そうして、他の部隊と合流した第666中隊は海王星作戦の終了────人類側の勝利という事実を知ることになった。だが、全員が素直に喜べるような状況ではなかった。