「貴様、血迷ったか⁉」
壮年の威厳ある風貌の騎士が口元を歪ませる。
その鼻先にはレイナの剣の切っ先が向けられている。
「血迷う……今更なにをおっしゃいますか団長殿」
レイナのすぐ傍では、
あの幼馴染は涙ながらに自分を庇って何かを懸命に喚いていた。
すでに色褪せた記憶の中で言葉の内容は覚えてはいない。
「私は暗黒騎士、あのレンズに魅入られそうしたまでの事」
幾十もの騎士の目がレイナの緋色に染まった呪われた目に向けられていた。
「それ故、あの者は私の獲物。私が必ずや仕留めますゆえ。
この者と私めのご無礼は許していただきたく……」
「馬鹿な!自分が何をしているのか分かっているのか?」
「それともここで私と刺し違えますか。
暗黒騎士である私にはそれくらいの力はありますゆえ」
周囲の騎士たちが剣を引き抜き今にもレイナに斬りかからんとしていたが、
騎士団長は剣に手をかけることもせず、
しばらく何かを思案するかのように固まっていた。
やがて何か打算じみた表情を取り繕い、
何かを口にした————
今となっては騎士団から追放の瞬間が音のない絵画のように、
レイナ自身の脳裏を塗りつぶしている。
「またあの夢か……」
緋色の左目がわずかに疼きその痛みで、
レイナは目を覚ます。
長いことを味わう事のなかった、
あの時の感触に応じるように、
レイナ自身の様々な思い出、希望、昂揚が呼び起こされた。
レイナはベッドから上体を起こす。
あの日あの瞬間より、
自分は暗黒騎士として生き、
そして死に場所もまた一人であると、
レイナは腹を括っていたつもりだった。
まったく、こんな寝覚めになっては憂鬱にもなる。
こういう時は何か悪い予兆が起こりそうで、
騎士らしく剣を振るうことで鬱屈を晴らしたい。
「よう、今日は何の用だ?」
派遣ギルドのカウンター前で落ち着かない様子のレイナに、
いつも通りのゴクトーが低く間延びした声を掛ける。
「ああ……なにかレイナさんにうってつけの仕事がないものかな。
ちょっとしたモンスターの討伐依頼でもいい」
我ながら呆けた感じの声だったかもしれない。
じっと物思いに耽る性質ではないないのだ。
過去の追憶に浸るくらいなら、
剣をぶん回していた方が断然いい。
レイナの言葉に少し考えこんだ表情になったまま、
ゴクトーは鼻を鳴らす。
「そうだな、実は最近気になる事件があってな」
ゴクトーは手元にある依頼書をパラパラとめくり、
目当ての書類を手繰り寄せて説明を始める。
「お前さん……確か西方騎士団領の生まれだったな?」
「ああ、そうだが……」
訝し気なレイナの反応に、
意味深にゴクトーが言葉を続ける。
「ノールスターと西方騎士団領の国境付近の村で、
村民や行商人が襲われたらしい。
初めは盗賊かモンスターの仕業と見なされていたが、
何人かの目撃者の証言から襲撃した者の正体が、
黒い鎧を着た騎士風のアンデッドであり、
更には左右の瞳が違う色に輝いて見えたという証言もある。
近郊の村や町からそのアンデッドの討伐依頼が既に出されているが、
他のギルドから討伐に向かったパーティはみな返り討ちに遭っている」
「ほう……」
「コイツの正体になにか思い当たる節があればと思ってな。
まぁ、お前さんがやりたきゃやるがいい」
ゴクトーからの話を聞き終わり、
寝覚めに感じた暗い予兆が当たってしまったとレイナは直感する。
いや、むしろ自分にとっては僥倖と言えるのではないか、
あの因縁が巡り巡って自分に戻って来た。
ならば、決着をつける時が来たのかもしれない。
レイナは拳を握り無骨な黒鉄のガントレットを鳴らして見せる。
渡りに船でいつでも準備は出来ていた。
「レイナさんに任せろ。
アンデッドの退治なら暗黒騎士の領分だ」
「そうかい、じゃ今回はレイナさんがリーダーを担ってくれや」
売り言葉に買い言葉という事で、
ゴクトーが手早く他のメンバーに召集を掛ける。
そして集まったのが————
「フフフ……面白そうじゃないない。
あわよくば私の眷属が増えるかも」
こうした事件に類は友を呼ぶのか死霊使いのミランが、
周囲の死霊と戯れながら悪戯っぽく微笑んでいる。
「ウム、下僕共良く働けよ。
同じく不死の帝国を築こうとする輩は、
余のライバルなので潰しておくに限る」
更にアンデッドの王を自認するマーカスもまた、
今回の事件に関心を示しやってきたのだった。
「はぁ、命も魔力も無駄遣いは許しませんよ」
最後に人数合わせで呼ばれたギランが、
アクの強いメンバーを前に常識人らしくやれやれと呟く。