黒鉄の軌跡   作:紫仙

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そして大まかに目ぼしの付いた地域まで、

4人はキャリーのテレポートで運んでもらい、

その先は土地勘のあるレイナが一行を先導する。

周囲は乾燥した丘陵地帯でところどころ木立があるものの、

概して空も大地も枯れた色彩に染まっていた。

 

「ところで貴様、土地勘があるらしいな。

ここはどんな場所なのだ?

アンデッドと所縁の深い場所など、

余はバーガンディア城しか知らぬからな」

 

道すがらマーカスが興味深げにレイナに話しかける。

 

「私の故郷に興味を持ってもらい光栄だね、

アンタとは一度話をしてみたかったんだ」

 

「では光栄に浸りながら説明するが良い」

 

自尊心を刺激され上機嫌なマーカスに、

レイナが語り始める。

数年前までここは西方騎士団領で、

レイナは一時期この場所の砦に配属されたことがあった。

当時敵対していたノールスターとの戦がひと段落し、

休戦協定によりこの地域がノールスターに編入されると、

騎士団の砦はそのまま打ち捨てられた。

砦がまだ残っているならば、

何者かが根城として利用していてもおかしくはない。

それにかつてあの砦にはアレがあったのだ————

 

「噂をすれば……ああ、見えて来たかな」

 

乾ききった大地に砂埃が舞う。

その乾いた大気の果てに朽ち果てた砦が見える。

既に人々からは忘れられてしかるべき存在が残っていることに、

レイナは口元を歪ませつつも懐かしむ。

 

「ふ~ん、あれはあれで雰囲気があるじゃない」

 

ミランが目を細めてクスリと笑って見せる。

目の前の放棄された砦は、

退廃的ながらも優美さがあったバーガンディア城とは対極的で、

殺伐とした不毛そのものが砂ぼこりを着込んだようなものであった。

霊媒気質のミランは遠目からでも、

悪霊が砦で踊っている姿でも見えるのかもしれない。

更にレイナたちが砦の近くまで歩いてゆく。

門の前まで来てみると、

砦のところどころで土塁や城壁が崩れいる有様で、

残った木の柱など亡者の腕のように、

未練がましく天へと伸びているように思えた。

 

「さっそく歓迎してくれるようねぇ……」

 

ミランの周囲の亡霊が色めき立つように光り騒めいている。

直後地面から数体の人型のアンデッドが爆ぜるように現れる。

レイナが得物であるシュヴァルツヴァッフェを構える。

左目の緋色が疼き血に飢えた闘争本能と呼応しているかのようだ。

 

「やはり、ここに居るようだな……」

 

レイナは仲間を守るために大盾の黒い鋼を前面に出し、

誰にも悟られないように独り言ちる。

 

「ええい、有象無象の雑魚めが!

アンデッドの王たる世に出会ったことをあの世で悔いるが良い」

 

レイナがアンデッドの攻撃を防いでいる隙に、

マーカスが杖を掲げレンズを発動させ、

大爆発が起こり一気にアンデッドの群れを薙ぎ払う。

 

「あの世も何も既に死んでるじゃない」

 

自分の力を誇示し上機嫌のマーカスに、

同じく追撃の魔法を叩き込むミランが水を差す。

さらに砦の奥から後続のアンデッドたちの第二波が来る。

その中にはレイナと同じ黒鎧の騎士が混じっている。

その瞳はレイナと同じく片目が緋色に染まっていた。

レイナの中で何かが心の蔵に重くのしかかる。

 

「あれが、こ奴らの首魁か!

一気に余が蹴散らしてくれる」

 

同じアンデッドである好敵手の存在にマーカスが魔力を昂らせる。

 

「まだどれだけ敵が居るか分かりません。

魔力は温存してくださいよ」

 

自身も魔法の援護射撃で加勢しつつ、

マーカスとミランの魔法攻撃にギランが難色を示す。

 

「今更チマチマ戦っておられるか、

この程度の相手、雑兵ごと余一人で充分」

 

襲い来る黒騎士の長剣の斬撃を盾で受けきるレイナ。

剣圧を受けると共にかつての記憶が蘇る。

 

「やめるんだ、コイツは……」

 

前衛からレイナが言い終わるよりも先に、

マーカスが忠告を無視して黒騎士に大口径の魔法を撃ち込む。

黒騎士は眷属諸共爆炎に包まれる。

 

「フン、他愛もない」

 

マーカスの圧倒的な魔力の前に、

黒騎士は眷属ごと一気に消し炭になったかに見えたが、

爆風で吹き飛ばされ肉体が焦げつつも、

黒騎士は立ち上がり長剣を構えていた。

 

「あら、まだ動けるのね……」

 

「ええい、余の一撃を喰らって涼しい顔をするなど生意気な」

 

ミランが興味深そうに目を瞬かせ、

マーカスは悔し気に歯ぎしりしてみせる。

それどころか一度は魔力に焼かれ、

倒れていた眷属たちが復活し始めている。

 

「これは、魔力の流れが循環している?」

 

ギランは不可解そうにモノクルを指でつまむ。

マーカスたちの攻撃を凌いだ黒騎士が、

長剣を構え勢いよく跳躍し襲い掛かる。

 

「この程度の攻撃……っ」

 

先ほどよりも強力で重い剣の圧が、

大盾越しにもレイナの四肢に響く。

レイナはその太刀筋を受け、

衝撃を殺せず重装備ごと僅かに後退る。

左目の奥が灼けるように痛む。

視界がかすみ、鈍く金属が響き合うような頭痛がする。

いつものレイナの盤石な防御態勢が崩れ、

レイナが片膝を付きながらガントレットで左目を覆う。

 

「大丈夫ですか、レイナさん!」

 

レイナの異変にギランが気付き声を掛ける。

 

「大丈夫だ。少しバランスを崩しただけだ」

 

レイナは左目の痛みを気力でねじ伏せ、

忘れかけていた懐かしくも忌まわしい感覚が蘇った事を知る。

レイナが歯を食いしばりシュヴァルツヴァッフェを構え、

長剣による連撃を繰る黒騎士と刃を交える。

 

「久しぶりに使ってみるか」

 

気が付けば復活した眷属の群れが、

レイナたちを半円状に取り巻いている。

眷属たちが魔法による攻撃を開始し、

マーカス、ミラン、ギランは慌てて物陰へと避難する。

アンデッドたちの力も先ほどよりも格段に向上しているように見えた。

 

「さっきよりも強化されていない?この子たちの魔力」

 

建物の陰に隠れつつ応戦しているミランが呟く。

 

「何を馬鹿な、そんなことがあり得るか!」

 

マーカスが地団太を踏んで見せる。

 

「いえ、信じられませんが……

我々の失った魔力の分だけアンデッドが強化されています。

まさかこちらの魔法攻撃が吸収されている?」

 

狼狽えつつギランは熟考してみせる。

こんな時だからこそ敵戦力の分析に余念がないらしい。

レイナは大盾で黒騎士の攻撃を防ぎつつ、

反撃の機会を伺う。

ミランとギランは敵の魔法を迎撃するため防戦一方になっている。

 

「凄まじい魔力……

この場の全員の魔力を結集しても勝てないかも」

 

それまで余裕を見せていたミランさえ、

絶望的な状況を認め始める。

マーカスは己が魔力で敵を強化してしまった失態からか、

杖で群がる雑兵を払いのけつつレイナと剣を交える黒騎士のアンデッドを、

既に眼窩となった穴で睨みつける。

 

「あんな訳の分からぬ奴が余を上回るとは許せん」

 

「あと二、三発で私とミランさんは魔力切れです」

 

遠距離からの迎撃に専念していたギランが、

節約のルーンを一瞥し絶望的な計算をはじき出す。

レイナは黒騎士との戦いで押され始めている。

これだけの敵を一気に殲滅できるとすれば、

未だ底知れぬ魔力を持つマーカスしかいなかった。

が、失敗すれば今度こそ全滅は免れない。

 

「大丈夫だ————」

 

ようやくレイナの左目の痛みが引き、

視力も澄んだように明晰になってゆく。

今のレイナには、

黒騎士とアンデッドの群れの奥へと伸びる光の束が見えている。

今のレイナにとっては一筋の反撃のための光明なのだった。

 

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