どうやら悪堕ち系ゲームの世界に転生したようです   作:趣 廻

1 / 1
トロ助、大地に立つ

俺は一般高校生工藤善一。

 

幼馴染で同級生の毛利蘭丸と水族館に遊びに行って、黒尽くめの怪しげな男など目にすることなく帰宅。

 

明日は学校かと憂鬱になりつつも就寝し目が覚めたらゲームの世界に転生してしまっていた。

 

催眠術だとか壮大なドッキリだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてない。

 

何よりまずいのは転生先が悪堕ち系の魔法少女モノってところだな。

 

転生して十数年、転生当初は特に変わらない現代社会に生まれ直したのかと思ったものだが、土地の名前やクラスメイトの名前から前世でやったゲームの世界だと考えるようになった。

 

もしこの考えが正しければ少なくとも今年中には異世界から地球侵略を目論む悪の組織が現れ、クラスメイトの数人がなんやかんやで魔法少女になりなんやかんやで悪堕ちしルートによっては主人公の魔法少女が悪堕ちからの覚醒により黒幕もろとも悪の組織を撃退、もしくは文明崩壊の2択となる。

 

主人公の学年的にもうそろそろ本編が始まるものかと睨んでいるが特に変わったことは何も起きていない。

 

今日も今日とて学生は学生らしく登校するのみだ。

 

特に意識した訳では無いが俺の通う学校には将来の魔法少女候補が数人いるし、今年の春には主人公が入学してきた。

 

主人公の名前は四季 茜。名前から察すると思うが春夏秋冬をあわせた5人の魔法少女のリーダー的存在となる。魔法の属性は無属性だが他の魔法少女と心を通わせることでその魔法少女の持つ属性の魔法を使えるようになる。活発で誰にも優しくまさに主人公って感じの子だ。

 

などと考えていると視界の端に明るい金髪がたなびく

 

「なーにしょぼくれた顔してんの、席に座るなり考え事でもしてるみたいに黙り込んで。オタクはオタクらしくヤラシイ表紙の小説でも読んでればいいの。」

 

金色のツインテールをたなびかせ、煽りたっぷりにこちらに話しかけてくるのは幼馴染もとい腐れ縁の夏木 日向だ。背は低く乳はでかい、原作で最も早く悪堕ちする魔法少女候補だ。まだゲームの世界だと欠片も思っていなかった頃、隣に住むこの娘を年の離れた妹か娘のように可愛がっていて彼女も懐いてくれていたものだったが、思春期の到来とともにすっかり生意気なメスガキへと変貌してしまった。

 

「日向の前でラノベなんか読んだ記憶はないんだが。」

 

「そうだっけ?まあ何にせよトロ助はトロ助なりにアホ面こいてればいいの。」

 

あいも変わらずとんでもない毒舌だ。一体どんな事が起これば天使のように可愛かったあの娘がこんな小悪魔に育つのか不思議なくらいだ。

 

でも小悪魔とはいえ、可愛がってきたこの娘が黒幕にあんなことやこんなことをされた挙げ句にポイ捨てされるのは忍びない。

 

そんな未来を打ち砕くため、ひいては自分の安全な未来のために今年までになんとか黒幕の正体をつかもうと躍起になっていたのだが、何の成果も得られないままこんな時期になってしまっていた。

 

黒幕について分かっていることはこの学校の生徒であることと悪の組織による最初の怪人化実験被験者だということ。

 

このゲームは序盤こそ魔法少女対悪の組織の構図だが、話が進むにつれて第三勢力とでも言うべき墜ちた魔法少女が現れる。その元締にして悪堕ちの元凶が黒幕なのだ。

 

原作開始までに探し出すことはもう不可能に近いだろう。先程述べた通り悪堕ち魔法少女は序盤には出てこない。つまり、黒幕が被験者となってから行動を開始するまでにいくらかの猶予があるわけだ。つまり悪の組織が現れてから行方不明になった生徒が黒幕ということになる。

 

なんて考えていると前から何やら視線を感じる。

 

ふと顔を上げてみると椅子に逆座りし、背もたれの上に腕を組みながらこちらを見つめる日向がいた。

「今日のトロ助なんかつまんない。」

 

「つまんないと言われても、普段と同じような感じだと思うが。というか日向の席は俺の後ろじゃなかったか?」

 

「トロ助のしょぼくれた顔は後ろからじゃ見れないでしょ。それに私の可愛い可愛いお顔がこんなに間近で見れたんだから感謝しなさい。」

 

「間近でも何も小さい頃にはキスだって…」

 

「うるさい!なんで覚えてるのよこのすっとろトロ助!」

 

日向がまだ天使だった頃、俺と結婚するという全国のお父さんのほとんどが経験したであろうイベントが起こり、不意打ちで唇を奪われてしまった思い出を振り返り懐かしんでいると急に口を塞がれた。

 

真っ赤な顔を指摘しようか迷っているうちに彼女はすごすごと退散していった。まあ、後ろの席に座り直しただけだったが。

 

二度目の高校生活ともなると特に勉強で苦戦する分野も少なく、あっという間に放課後となった。

 

「帰るわよトロ助。」

 

昔は朝も一緒に登校していたのだが、なんやかんや理由をつけられて一人で登校することになった。下校も別々にされそうになったのだが、流石にこんな可愛い娘一人で返すわけにはいかないのでなんとか頼み込んで下校は一緒にしてもらうことに成功した。

その時の彼女はとても満足げな様子だった。

 

駅は高校から数分の距離にあり、そこから十数分電車に揺られることで俺達の最寄り駅に着く。

 

最寄り駅から俺達の家まであと半分といったところで、ふと視界の端に路地裏でうごめく影を見た。

 

「私が話してるのにそっぽ向くなんて失礼。」

 

日向が話しかけてくるが正直頭に入ってこない。それほどに俺は眼の前のモノに意識を取られていた。

 

悪の組織は何もこの世界に来て早々に世界征服を宣言したわけじゃない。尖兵とでも言うべき偵察隊を送り込み、この世界の文明レベルや敵対勢力の戦力を推し量り、その上で本格的に攻め込んできたのだ。

 

今目の前にいるソレは原作で見た尖兵にそっくりの生き物だった。今は後ろを向いているが、ソレが俺や日向を見つけるまでほんの少しの猶予もないだろう。

 

「ちょっと聞いてる?ってきゃあ!?」

 

日向がこちらに話しかけてくるのを無視して、荷物を放り捨てて彼女を抱きかかえて走る。

 

「まって、近い。急にこんな大胆な…、て何すんの!荷物落としちゃったし。」

 

「荷物は後で必ず拾いに戻るから、今は大人しくしていてくれ。」

 

全く余裕がない。今はとにかく逃げることが優先だ。尖兵はそんなに足が速いというわけでもなかったはず。

 

しおらしくなった彼女を腕の中に抱きながらとにかく自宅まで走った。

 

「お姫様抱っこだなんて大胆…。」

 

 

 

自宅についた頃には息も絶え絶え、奴が追ってきているという様子もなかった。

 

もう大丈夫だろうと日向を下ろすと、彼女は恐る恐るこちらの袖を握ってきた。

 

「その…、今日…スるの?」

 

もしかして尖兵の姿を見て不安になっているのだろうか?

 

「日向の両親って今日遅いのか?」

 

「遅いかどうかはわからないけど…、十時には帰ってくると思う。」

 

いつも以上にしおらしく、何やら顔も赤い気がするがよほど不安なのだろうか。

 

「うちの両親も明後日まで出張らしいんだけど、家に来るか?」

 

そう提案した途端、彼女の方が跳ね上がった。

 

「そう、じゃあお邪魔するね。」

 

そう言って彼女は俯きながら我が家の扉をくぐった。

 

「荷物、どうしようかな。」

 

とりあえず数時間ほど様子を見て取りに行くことにしようか。尖兵も何時間も同じところにはいないだろうし。

 

そう考えながら彼女に続いて帰宅した。

 

 

 

とりあえず日向をテレビ前のソファーに座らせて飲み物でも入れに行く。

 

適当なジュースをローテーブルの上に置いてやり、彼女の隣に腰掛けると彼女は驚くほどのスピードでソファーの端まで移動した。

 

「隣に座るなら声ぐらいかけてよ!」

 

「そっちはいつも無言で俺の隣に座るのに?」

 

「今はその…、心の準備がまだだから。」

 

なんの準備が必要なのか。とりあえず彼女が落ち着くまで適当にテレビでも見ながら雑談することにする。

 

一時間も経つと彼女の緊張もほぐれてきたようで、いつもの調子に戻ってきていた。

 

「ねぇ、今日は私が何か作ってあげてもいいけど。」

 

こちらも料理が多少できるとはいえどうしてもワンパターンなものになってしまう。彼女の提案に乗るとご機嫌な感じで台所へと向かっていった。

 

「そうだ、落としてきた荷物取ってくるよ。夕食ができるまでには帰るから。」

 

そう彼女に声をかけて家を出る。尖兵と鉢合わせないように注意していかなければ。

 

 

 

春先とはいえ街灯も少なく少々暗い通学路を歩く。

 

どのへんで落としたっけなと考えていると蛍光灯に照らされた2つの学生カバンが目に入る。

 

汚れをはたきながら学生カバンを回収していると背後に複数人の気配を感じた。

 

尖兵が近くにいたのか油断したと思う間もなく後頭部に衝撃が走り、俺は意識を失った。

 

 

「遅い。いつまで道草食ってるのあのトロ助。」

 

今日はあのニブチンがようやく私に手を付けてきたのだ。それが衝動的なものであれ何であれこれを足がかりに必ずあいつを手に入れるのだ。

 

思春期を迎えてから私はあいつに素直になるのが恥ずかしくてずいぶんな態度をとっていたけれどあいつは変わらずに私のことを愛してくれていた。

 

その愛はまるで妹か娘に向けるようなものみたいだと私のお母さんは言っていたが、生意気な私を疎むばかりかまっすぐに接してくれる彼に更に惹かれるようになった。

 

今日あいつとそういう関係になったならば昔みたいに素直に甘えられるようになるのだろうか。私の心は羞恥と期待と喜びでいっぱいだった。

 

それにしても…

 

「料理、せっかく作ったのに冷めちゃうよ。」

 

いや、これはこれで夫の帰りを待つ感じなのでは!?

 

このときの私はそんな呑気なことを考えながら彼の帰りを待っていたのだった。

 

 

 

余りの眩しさに目を覚ます。おそらくベッドに貼り付けにされていて頭上には大きなライト、あたりを見回すと医療器具らしきものや何に使うのかわからないものが台の上に載せられていた。

 

どう見ても実験体です。本当にありがとうございました。

 

なんて考えている場合ではない。黒幕妨害プランが跡形もなく崩れ去ったのだ。まさか自分が黒幕候補だったなんて。

 

一縷の望みをかけて右手の甲に目を見やると何やら変な模様が浮かんでいる。どう見ても原作で黒幕の右手に浮いていた"王の紋章"の初期段階だ。

 

悪の組織は他次元の生物に改造を施し、自意識のない駒として怪人を生み出す。怪人は雑兵、指揮官、将軍など様々なクラスが存在するが、彼らは他次元の生物に改造を施す際にはまず将軍クラスの怪人を生み出す。そしてその強さや自意識の残り方を見てその次元の他の生物も改造するのか判断するのだ。

 

原作では最初に改造を受けた黒幕は右手に奇妙な模様が浮かび、筋骨隆々のいかにもパワーしか取り柄がありませんみたいな怪人に変身する能力しか得られなかったために悪の組織は以降の地球生物の改造を中止し、手持ちの駒での侵略を決定する。

 

なお、黒幕は廃棄処分されそうになったところを命からがら脱出したようだった。

 

黒幕が本当に手に奇妙な模様が浮かぶだけの筋肉ダルマだったら原作は魔法少女は一人たりとも悪堕ちせずに勝利しかないルートだっただろう。

 

しかし、俺の手に浮かんでいる"王の紋章"こそがこの物語の特異点なのだ。

 

そもそも、魔法少女の変身機構しかり悪の組織の改造しかり、もとはとある次元の技術を源流としたものだった。その技術は資格のあるものに王の権力をもたせ、その王の権力に絶対服従となる兵士を生み出すものであった。ここで言う王の権力の象徴が"王の紋章"であり、兵士にあたるものが魔法少女や改造生物である。

 

悪の組織が将軍クラスの改造に用いるものこそが相応しきものに王の権力を持たせるものであったのだ。ちなみに、資格のないものが受けた場合でも下位のクラスに命令権を持つものは出来上がるが、王の権力に勝るものは生み出せない。

 

この"王の紋章"を手に入れた黒幕は資質を成長させていき一人ひとり魔法少女を悪堕ちさせて行き悪の組織すら手中に収めて文明崩壊した世界の覇者になるというルートがあった。

 

なんの因果か今世の俺は資格を持っていたようだった。

 

(もしかして日向が最初に堕ちるのって幼馴染である俺にホイホイ騙されて墜ちたのか?)

 

夏木 日向、通称チョロガキ先輩。彼女は即落ち2コマもかくやというレベルで最初に堕ちるのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。