「…おー、ちゃんと食うなお前ら」
鹿せんべいを鹿に食わせながら俺はそう呟く。
…この人生、初奈良である。ちなみにだが転生前もせいぜい修学旅行で一回来たくらいである。
「…しっかし、あいつらも派手に壊したもんだよ全く…」
俺は壊された平和を願う巨大な鹿の像を見てそう呟く。
まあ、どうやら日本政府に対してのアピールが重要みたいだし、財前総理も拘束して基地に連れて行ったみたいだし。
もうここにはあいつらもいないみたいだし、人っ子1人いないし。
…というか原作通りならここで雷門と塔子率いるSPフィクサーズの対戦があるはずなんだけど。
「…もう終わっちゃったのかな」
ここにきて数時間、全く何も動きがないこの状況。
ここは諦めてさっさとレーゼたちが待っている奈良シカTVの方に行こうか…。
そう思い始めた時だった。
「…よーし、必ず奴らの手がかりをつかむぞ!」
「「おおっ!!」」
…この声は。
俺が改めて声が聞こえてきた方向を見ると、円堂たち雷門中の面々が公園内へと散らばっていくのが見えた。
瞳子姉さんも近くで何か考え事をしている。
…というか、円堂たちといろいろ話したいな…。
この世界にやってきたときから、いずれは円堂に背中を任せて一緒に守りたい…って気持ちは持ち続けている。
…だが、さすがにまだエイリア編が始まったばかりだ。
まだのんびりしててもいいだろう。
…まあ、姉さんと円堂には軽ーく接触しといてもいいか。父さんからも「話すだけなら大丈夫」って言われてるし。
周りに誰もいないことを確認した俺は、瞳子姉さんのもとへと歩いていく。
「…姉さん、久しぶりっすね」
「…頼徒、あなた何の用なの?」
姉さんは俺の登場に多少は驚いたようだが、ほぼ顔を変えずに冷たい視線で俺に返してくる。
「父さんから姉さんと雷門が手を組んだって聞いて、しっかり見ておいてくれって言われてるんですよ。
まあ俺としてはどうしてもらってもいいですし、ジェミニに大差で負けるレベルならまだまだどうとでもなりますし。
好きなようにしてもらったらいいと思いますよ」
「…父さんの野望を止めるためにはあの子たちの力が必要なの。
まだまだ遠い道のりだけど、ガイアを倒せるようになると信じてるわ」
「ええ、楽しみに待ってますよ。
…それとですけど」
俺はそう言って姉さんにあることを告げる。
「…豪炎寺のやつ、妹を人質に取られています。
多分このままチームに随行させてても、アイツの本気は出せないしむしろチームの邪魔になるかと」
これは父さんとの話の後、俺の耳に聞こえてきた話である。
…まあ、原作で得た知識もあるが。
俺の言葉に姉さんは「…やっぱりそうなのね」と話してくる。
「何となく察してはいたわ、雷門中を出るとき、なんとなく後ろめたいことを持っている表情だったもの。
…この後どこかでジェミニストームと戦うことがあるだろうけど、そこで彼が本気を出せていないと判断したら一時的にチームを抜けてもらうつもりよ」
俺は姉さんの言葉に「その方がいいと思います」と続けていく。
「…にしても、エイリア学園のあなたがそんなことを言うなんて。
チームの弱体化のためには彼を外さないほうがいいと思うけど」
「それはそれ、これはこれですよ。
俺としては、エイリアと雷門はその時できる限りの全力でぶつかってほしいんです。
…仮に、俺がヒロトや晴也、杏を人質に取られたら全力で出来る気しないですし、さすがにそこまでするなら俺も抵抗感出てくるんですよ」
…正直、豪炎寺の妹、夕香はエイリア学園にとって何も関係ない部外者だ。
それを「豪炎寺という驚異となりえる存在を抑制する」という理由で人質にするのは間違っていると思う。
…まあこれは父さんの意思じゃなくて研崎の意向なんだろうけど。
さすがに財前総理にサッカーを通じて圧をかけるために拉致するのは分かるが、完全な部外者を巻き込むというのは父さんのやり方ではない。
「…そういう訳で、俺からは姉さんと雷門に対して邪魔したりするつもりはないので。
適当に報告はさせてもらうとはいえ、チームの明確な弱点を知らせたりもしないんで。
自由にやってもらえればって思います」
俺はそう話して、その場を立ち去って行った。
◇ ◇ ◇
…初めの接触としては、こんなもんで良いかもな。
姉さんとの話を終わり、建物の影に隠れた俺はふうっと息をつく。
…まあ、父さんの思ってることに関しては俺より姉さんの方が知ってるだろうし。
俺はあくまで原作を知っているだけだ、詳しい心情まではさすがに読めない。
…円堂とも話したいけど、風丸や染岡が近くにいるしさすがに話すのは難しいか。
まあ、この後に起こるSPフィクサーズとの一戦、ジェミニとの再戦、しっかり見届けさせてもらうとしよう。
俺はそう思いながら暗闇の中から雷門の面々を見守っていた。