一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女   作:Mckee ItoIto

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救いが必要な人ほど、何を必要としているか自分で気づけないもの。



安息の療養 下

・・・

 

 

 

 

 

 

 本当は、彼女が目覚めたことをすぐにでも各所に報告した方が良いのだろう。

 とはいえ……彼女との、今の時間を邪魔されたくないという気持ちもある。

 

 上に報告するタイミングは、主治医の人に任せた方がいいだろうな。

 そういうのに柔軟な対応してくれる人だから、きっと良きに計らってくれるはずだ。

 私と同じく一日3回、体位変換を兼ねてモニタリングをしに来てるから、あと2時間もしないうちに来るはず。

 きっと、驚きながらも喜んでくれるだろう。

 

 ……いや、先に報告しろよと自分でも思うけど、でもやっぱりこれは直に見るべき光景だ。

 誰もが回復不可能だったと思っていたはずの、彼女が回復したという、奇跡を。

 

 まだ安心するには早いかもしれないけど……いや、やばい泣きそう。落ち着け。

 

 なんかようやく心が現実に追いついてきた感がある。

 泣いたら止まらなくなりそうだから、頑張って抑えないと……。

 

 

 とりあえず事務室から情報端末を確保して、すぐさま病室に戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、そのまま調べ物を始めた彼女の隣、サイドテーブルで報告のための書類を書いてたのだけど……。

 

 度々咳き込みながらも……なんか、嫌に静かな感じがする。

 

 くるくるずっと指が回っていて、その表情は……なんだろう、複雑そうな……?

 

 

 

「……ボクの現状を知っている人間は、何人いる?」

「えっと……?」

 

 

 唐突に口を開いたかと思えば、そんな質問。

 まあ、関係者という関係者は実際かなり数が少ない。

 

 とりあえず部隊の魔法少女で知っているのは、私を除けば……第一部隊の『阻害』『模倣』『転送』の3名だけ。

 前線へ基本的に出ない総本部の第一部隊には魔法少女が4人しか所属してないので、彼女を除いたその全員知っているということになる。

 

 でもお偉いさんの指示によって他の人たちは、他の部隊の隊長格の人たちですら知らされていない。

 そして当然ながら、無関係な非魔法少女である他の事務員や作業員の人は、第一部隊の人も含めて知っているわけがない。

 

 それ以外の関係者だと、ここでは主治医の女医さんだけ。

 あとは……名目上の最高責任者の人とか組織を管轄してる人とかの、お偉いさんくらい。

 

 

「オーケー、予想通り。つまりここを訪れるのは、第一部隊のあいつら以外は医者と君だけ」

「はい、そうですね。基本的には私と女医さんの二人しか来ませんが、たまに第一の方もお見えになります」

 

 

 お偉いさんなんかは間接的に口を出してくるだけなので、ここにはこない。

 まあ今のお偉いさんに、生身で並の兵器を凌駕する魔法少女と直接顔を合わせる度胸なんか無いだろうし。

 

 

「端末を取りに行く間、誰かに会った?」

「いいえ……?」

 

 

 すれ違うくらいはしたかもしれないけど、急いだので会話は誰ともしていない。

 質問の意図としては多分、そういうことだと思うけど……これはなんの懸念?

 あまりいい予感が、しない。

 

 

「関係者への報告は?」

「あ、いえ……すみません……どこにもまだ、してないです」

 

 

 ……本人からそこを突っ込まれるとは思ってなかった。

 といっても実質的なトップはこの人だから、報告相手に気を遣う立場の人ではないけど……。

 これは流石に、職務怠慢だと怒られるだろうか……。

 

 

「……」

「……あの」

 

 

「のどか」

「はい……?」

 

 

 

 

「……本当に、ごめん」

 

「え……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──『執行(Execution)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

>1. 行動強制 -> 10分間の強制待機。その後必要な準備と片付けのみを行い、速やかに退室

 

>2. 記憶置換 -> 退室時、入室中の記憶情報を過去十回の記憶から上書きして置換

 

>3. 情報補完 -> 記憶を整合させるため現在を自己解釈し記憶を補完

 

>4. 反復条件 -> 再入室時、1ないし3を反復

 

>5. 執行期間 -> 終了条件を魔法解除時および『執行』の魔法少女"阿野間(あのま) 露絵(ろえ)"の死亡時に設定

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり、ボクは……目覚めなかった。そういうことだ」

「──」

「今日は何もなかった。昨日と同じく何も起こらなかった。君は昨日までと同じことしか、見てないしやっていない」

「──」

「だから……もう君は、何も知らない。これで無関係だ。いやむしろ、ボクによる被害者と言ってもいいだろう」

「──」

「……はぁ。本当は自分から動けりゃいいけど、このざまだもんな。余裕ぶってたって……、っげほ、調子は戻りそうにないし」

「──」

「体調も前よりずっと酷いし全身が馬鹿みたいに重い……、昔は健康優良児だったのになぁ。でもまぁ絶望的ってほどじゃないし、コードとか邪魔だけどほんの少しなら歩くくらいはできる、かな?」

「──」

「魔法が使えただけマシ、かぁ。でも魔力の変換回復は……流石に控えめにした方が良さそうだ。そうなると大規模執行も使うなら精々1回ってとこか」

「──」

「しっかし自分を対象にできないってのがホント痛いよなぁ……他人になら回復魔法としても使えるのに。何が神クラスの魔法少女だよ。神ならこんな死に掛けたりしないっつーの」

「──」

「まあ医者が来たら出会い頭に魔法かけて立ち位置を確認しつつ……でもどっちにしろ治療だけは続けてもらわないと困るか。この部屋に監視カメラはないけど遠隔モニタリングは……多分されてそう。でも目覚めがバレてたら医者は確認に来てるだろうし、たぶん急低下とかのアラートしか気にしてないのかな。怠慢だなぁ」

「──」

「まあ一年半も続けてればルーチン化するだろうし手抜きも生まれるよね。半ば諦めてるんだろうけど誰もいないときに途中で起きてたらどうするつもり……あぁ、だから内鍵なのか。いやちょっと何気に扱い酷くない? ナースコール的なのあるからこれで呼べって?」

「──」

「まぁいいか……とりあえず、オムツが嫌だからトイレは頑張って自力で行きたいんだけど……モニターのコード、多分外すとアラート鳴るだろうし……なんかこううまい具合に……いやもういっそ魔法で……それは流石に無駄遣い、だけど……このままオムツはちょっと……うぬぬ」

「──」

「食事は……チューブのままでいいか。食欲もないし医者にこれまで通り処置をしてもらおう。いやはやしかし、寝てる間に身体に穴を空けられてるとは思わなかったよ。こりゃキズモノにされちゃったってやつだねぇ……なんてね」

「──」

「っ……、げほっ、ああもう、嫌になる……肺がおかしいのか? 医者からついでに病状の実態も聞き出した方がいいか」

「──」

「……うん。でもまあ……何とかなるだろ。今回は流石に駄目かと思ってたけど、ご都合主義的に起きられたし?」

「──」

 

「さって……それじゃ、これからボクは伏せ札になる。存在自体が隠された、最強最悪の切り札」

「──」

「ボクがいないと思って蠢き始めた愚か者への、最大の罠。……いなくなってた時の状況をこう表面的に調べた範囲だけでも、ボクの存在が如何に抑止力になってたかがよくわかる。直接的なことはそんなにしてないけど……やっぱり怖かったんだろうね」

「──」

「でも、もう少し泳がせる必要がある。こっちが動けない以上、核心に食らいつくために機を見て隠れ続けなければならない。あとは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「──」

「そんな知られてないけど、認識阻害ならボクにだってできるんだ。流石にあいつみたいにこの場にいない顔も知らない他人に干渉することはできないけど……この場に来る人間を取捨選択することくらいはできる」

「──」

「今よりここを訪れていいのは、灰と黒だけ。君は白と見ていいから本当は遠ざけたいけど……行動を変えるわけにはいかないし、ここに連れてきてくるのも、多分君だろう。でも大丈夫。巻き込んだりしない。何も知らない君が、何も知らないまま全部終わる」

「──」

「そう。だから何もなかった。何もなかったんだ。今日のこの、ここでの出来事は、進展は、一切何も。もし万が一何か幻を思い出しても……そうだな、うたた寝してしまったとでも思うといい。それは全て夢だから」

「──」

 

「だから、もういいんだよ。もう、ボクの世話もする必要ない。今までずっと、ありがとう。……これからのこの時間は、ちょっとした休憩時間になるね。何も覚えてないだろうけど、少しだけでも休むといい」

 

「──」

 

 

「……、うん……今まで、本当に……ありがとう。君がいてくれたおかげで……ボクは確実に救われてたんだ。こんなこと、面と向かって絶対言えないけどね。……ホント我ながら意気地無しだなぁ」

 

 

「──」

 

 

 

……さぁ、もうそろそろ時間だ。いってらっしゃい

 

 

 

 

「──」

 

 

 

 

 

 

ばいばい、ボクの友達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ほんの一瞬、自分がどこにいるかわからなくなった。

 

 ここは、部隊の病棟の、最奥の、特別な病室の扉の前。

 一見普通の、でも無駄に厳重な……守るためではなく、もはや中のものを隠すためだけに存在している、閉ざされた扉。

 

 

 ……、っていやいや、何ボケてるんだか。

 

 普通にいつも通り、彼女に魔法をかけて、動けない彼女の世話をして、部屋を出たんでしょうが。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 ずっとずっと続いている、何も変わらない、何も好転しない、徒労じみた無駄な行為。

 

 でもこれは……私の過ちではなく、お偉いさんたちによる我が儘だから。

 彼女亡き未来を受け入れられない、大人たちの臆病で残酷な、先送り。

 

 そう。だから私のせいじゃない。私が気にする必要なんか……無い。

 気にせず黙って最後まで、彼女の世話をすればいい。それが私の役目だから、それでいいんだ。

 

 そう。必死になる時期なんかずっと前に、通り過ぎてしまったのだから。

 

 とっくの昔に理解している。私はあの時の彼女の、命のギャンブルに、負けたんだって。

 

 これが単なる、死の先延ばしに過ぎないって、もうわかっているんだ。

 

 私の手の中の、彼女のチップはもう取返しのつかないくらいに砕けている。

 

 それを捨てることが許されていないから、持ち続けているだけ。そうなんだよ。

 

 いずれ遠くない未来に、終わってしまう。手の施しようのない最期が、来てしまう。

 

 

 その時、私は……どんな顔をすればいいんだろうな……。

 

 

 

 

 

 ……はぁ。

 

 感傷的になるのも、良くないなって思うけど。どうしてもこの時間は重苦しくなる。

 切り替えないと。患者は他にもまだいるのだから。

 

 

(って、あれ?)

 

 

 いつもより時間が経っている?

 

 ……なんだろう。はっきりしない。

 いつも最後に、少しだけ彼女の顔をぼーっと眺めたりしてるけど……その時に居眠りでもしたのだろうか。

 

 うん、()()()()()()()()()。たぶん、そうだ。

 

 無理はしてないつもりだったけど……やっぱり疲れてるのかな。あんまり寝てないし。

 ……無理しないよう善処するって、ほんと、どの口が言ってるんだか。

 

 

 ふと、鼻にツンときた。視界が滲みそうになる。メンタル的に……これは良くない兆候。

 

 私は毎日忙しいから、四国にある精神衛生の部隊には絶対に行けない。

 

 自分でメンタルケアをする必要がある。

 

 だからか、なんだか……無性に、兄に会いたくなってしまった。

 もう、たった一人しか残っていない、まだ無事な大切な人。

 

 一通り魔法を掛けてまわったら冷やかしに行こう。大人しく寝てるだろうか。

 

 

 

 あぁ……本当に。

 

 ……もう失いたく、ないなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 あれから一週間。

 

 兄が問題なく一日で快癒してしまって、空になった病室をチラリと見る。

 

 次に来るのはいつくらいになるだろうか。

 今はお互いの家が違うから、直接会えるのはほとんどがここの病棟となってしまう。

 

 どうせきっと、また来るのだろう。あの人はそういう人だから。

 

 そうなることを、決して楽しみにしてるわけではない。

 だけど、ネット上以外で声を、顔を見れるのはこの時ぐらいしかない。

 まとまった休みを許されない私に、直接会いにいけるプライベートな時間なんか、無いから。

 

 今だって、忙しい合間を縫って、ついさっきまで彼女の世話をしていた。いつも通り。

 そう。それが私に課せられた役目だから。

 

 

 

 ……、……。

 

 ……あぁ、ほんと最悪だよ。

 

 気づいたらまた、彼女のせいにしようとしてた。

 

 

 彼女も大切なはずなのに。

 もう助からないってわかってるから、ほんの少しずつ存在が小さくなっている気がする。

 

 あんなにも大きかったのに。もう二度と帰ってこないと理解した時、あんなにも絶望したのに。

 今日もまた、彼女の抜け殻を見て、触って、ほんの少しの期待と、失望を繰り返す。

 その度に気持ちがだんだんと小さくなって、代わりに兄の存在が大きくなる。

 

 

 そんな感覚、きっとまともじゃないはず。

 

 本当に、最悪。

 

 

 

 

 鬱屈としながらも、表向きはいつもどおり、部隊の事務室に向かう。

 室内はなんだか慌ただしい様子で……これは、いつものやつかもしれない。

 

 状況を把握するために事務員の女性に声をかける。

 

 

「……何かあった?」

「あ……受け入れ準備です。魔獣災害、20名来ます」

「結構多いね……警報鳴ってないけど魔獣?」

「別地区です。第四部隊によって討伐されましたが、負傷した隊員以外にも運悪く被害者が」

 

 

 今や交通事故より珍しい魔獣の被害。直接魔獣を見たことのない一般人だって、いると思う。

 とはいえ……その被害者は決して少なくはないし、その被害の規模も大きくなりやすい。

 きっと明日には忘れ去られるのだろうけど……これもそこそこの全国ニュースになるだろう。

 

 この部隊は普通の患者も治療対象としてるけど、それでも大半は魔獣による被害だ。

 というかそれは、対魔獣組織なんだから当たり前といえば当たり前だけど。

 色んな傷病者を見てるとその辺の感覚がちょっと曖昧になってしまう。

 

 

 

「緊急の魔法対象者は、5名」

「あれ、思ったより少ない?」

 

 

 

 

「一人は成人男性、自衛官。重症分類です」

 

 

 

 

 心臓が、止まってしまうかと思うくらい、強く跳ねた。

 

 いや……まって、落ち着け、そうと決まったわけじゃないでしょ。

 そう。兄以外にもいるのだから、別地区だから、赤の他人の可能性の方が高いはず。

 

 また、そんな風に、そんな風に、私は他人の悲劇を願ってしまっている。

 最悪。最悪だ。最悪すぎる。わかってるよ。わかってる。

 

 それに、だとしても、きっと大丈夫。

 重篤までは行っていないから。

 大丈夫、大丈夫だから。

 

 

「……、そ……う。わかった、早く準備しなくちゃ」

 

 

 後の言葉は全部耳を滑った。そんなのどうでもいい。

 なんてこと、言ってはいけないのは、私にだってわかってる。

 魔法対象じゃない人も優先順位で後回しにされてるだけで、命に危険がないとは限らない。

 でもどのみち全部魔法をかけるのだから。そうしないと助からない人がいたら、困るから。

 

 私は私に課せられている以上の仕事をする。それが私に求められていることだから。

 

 

 だから早く切り替えないと。落ち着かないと。私は、私の仕事をしないと。

 

 

 だけど、どうか……最悪の結果じゃなければ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして結局、私の目の前には兄がいる。なんとか、生きている。

 

──最悪。

 

 命に別状は無かった。そしてそれはこれからも。状態は安定している。

 

──最悪だ。

 

 運ばれたときは結構ひどかった。でも、命のギャンブルというほどではなかったけど。

 

──最悪すぎる。

 

 あぁ、でもどうして……こんな考えが。私ってこんなにも、最悪だったんだ。

 

 

 

 安堵。そして、あまりにも最低で最悪な……ヨロコビ。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()。どこにも無い。

 

 私の魔法では、もう二度と取り返しがつかない。

 

 

 

 

 こんな障害では仕事は続けられない。もう人を助けることもできない。

 朦朧としている意識も、直に戻る。その時の絶望はどれほどのものか。

 悲しむだろう。悔しがるだろう。兄の努力は今、何もかも消え去った。

 治せなかった私のことを、兄は嫌うかもしれない。怒るかもしれない。

 

 

 でも、それでいいんだ。いいじゃないか。

 もう二度とこの人は危険にならないから。

 

 

 ああ、この場に私以外がいなくてよかった。こんな最悪な顔、誰にも見せられない。

 他人の悲劇をあんなにも願ってたのに、今は大切な人の悲劇を喜んでしまっている。

 

 

 こんなのって、救いようがないくらい最悪じゃんか。

 

 

 でも、それでも……。喜びを隠しきれない。

 やった……。本当に……よかった。やった。

 

 

 この人の命のチップが今、私の手の中に入った。少しひび割れてて、でも壊れてはいない。

 もう二度と、壊れないように、絶対に無くならないように大切に仕舞っておかないと、ね。

 

 

 心臓が、はしゃいでしまっている。気分が高揚している。

 ほんと、最悪な人間だ。とんだ極悪人だよ。でもいいよ。

 それが私なんだから、それで別にいいじゃないか。ふふ。

 

 

 とりあえず仕事辞めて隊舎を出たら、この人も住むところに困るよね。

 それじゃあ私の家に引き取るしかないのかな。まぁでも仕方ないよね。

 

 そしたら遠い昔みたいに、一緒に住める。もうずっと、離れ離れにはならない。

 今は忙しくて帰れてないけど……家に帰れば兄がおかえりと言ってくれるんだ。

 そんな嬉しいことが待っているんだ。だったら忙しくても帰らないといけない。

 

 でも、本当に言ってくれるかな。嫌われるかもしれないし、口を聞いてくれるかな。

 でも、でも、嫌でも私と、どんな風に思っててもずっと一緒に暮らすしかないから。

 

 一緒にいれるなら、きっとなんとでもなるよね。また少しずつ好きになって貰えばいいんだから。

 歩けない兄を、私がお世話するんだ。ふふ、何から何までとは言えないけど、私を頼るしかない。

 そうだよ、私がお世話をしないといけないんだから、やっぱり、毎日帰れるように頑張らないと。

 

 でも、彼女の抜け殻のお世話する経験が、こんな風に役に立つなんて。感謝しなくちゃ。

 もし……両腕もなくなれば本当の全部のお世話ができるけど、やめた方がいい……よね。

 彼女はもう二度と笑ったり怒ったりもしないけど、彼は何かきっと反応を返してくれる。

 

 費やせば費やしただけ、返ってくるんだ。無意味じゃない、意思のこもった反応が。

 たとえネガティブな否定的なものでも、その全てが、想像するだけでワクワクする。

 

 怒って、嫌って、恨んで、悔しんで、死にたいとも思うかもしれない。でも絶対に死なせてあげない。

 少しずつ死ぬ意味を奪って死ぬ手段も取り上げて、それからずっとずっと私の手の中で生きてもらう。

 そして少しずつ、少しずつ、それを幸せに思ってもらえるように。幸せな箱庭で、一緒に過ごすんだ。

 

 ああ、それはきっと、すごく楽しい。明るい未来って、きっとこんな。

 

 

 

 

 

 

 

 

──ガンッ、と頭を壁に打ち付ける。強く、もう一回。

 

 

 

 おい、何を考えている。落ち着け、冷静になれ。どうしたんだ私。狂っちゃダメだろ。

 

 私は正常じゃなきゃいけない。誰よりもここで、必要とされているのだから。

 いつだって万全じゃなければ駄目なんだ。気を付けろ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 鋭い痛みとともに、額を血が伝う。酷く呼吸が乱れている。

 

 

「……『療養(Recuperation)』」

 

 

 鈍くなった痛みが、じわじわと癒される感触。

 でもまだ何か、色々と足りないような感覚。

 

 ああもう、ほんと、ダメ。最悪。

 

 疲れてるのかな……いくらなんでも流石にちゃんと休んだ方がいいのかもしれない。

 といっても、彼女の世話が一日3回あるからそんながっつりは休めないんだけど。

 

 そんなことを考えながら、変わり果てた姿で安定した、彼を眺める。

 

 そう……さっきの思いは偽りではない本当の気持ち。それはわかっている。

 でも目覚めた時、私はどう声をかけるべきなんだろうか。

 

 また色んな想像して口角が上がり掛けたので、自分で自分の顔をビンタする。だから落ち着けって。

 

 ひとまず、ここでやることは終わったのだから、次へ行かないと。

 

 私の助けを待ってる人はたくさんいる。

 その全部終わらせることができてから、その後のことを考えればいい。

 

 

 

 病室を出て、廊下を歩く。近くて遠く、喧騒が聞こえる。

 世界に取り残されたかのような仮初の静寂を抜け出すように、その音へと足早に歩く。

 

 

 

 

 

 その、途中。

 

 不思議な少女と出会った。

 

 

 

 

 

 目に留まったはずなのに、よくわからない。

 

 少女は壁にぶつかるようにしながら、フラフラと私が来た道へと進んで行く。

 

 貧相で、痩せて、青白い肌をした、存在感のない、自然すぎて不自然な気配。

 

 そこにあるのが当然のような、いるのかいないのかわからないけど、いてもおかしくない雰囲気の、希薄で透き通った存在。

 

 それはどことなく、あの、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 一瞬、違和感を感じることができなくて無視するように通り過ぎてしまったけど……急に気になり始めたので、引き返す。

 兄の病室が近づくにつれて、嫌な予感がどんどん膨らんでいく。いったい何が、何なの。

 

 

 

 

 

 そしてそこには。

 

 眠っている兄の横でゆらりと。

 

 不思議な少女が、不思議そうな顔で首を傾げていた。

 

 

 

 

 

「っだれ……!?」

 

「?」

 

「部外者は、出てってよ……!」

 

「……?」

 

 

 思わず言葉が荒々しくなってしまう。でも、だって仕方ない。

 いくらなんでも怪しすぎる。何をするつもりかもわからない。

 

 それは、私だけの大切なものなんだから近づかないでほしい。

 彼に手を出すつもりなら……私は弱いけど、絶対に許さない。

 

 

「……聞いてるの!?」

「えっと……」

 

「このっ……!」

 

 

 なに。なんなの。この女の子は。

 

 目の前にいるのに、魔法少女だってこと以外、()()()()()()()()()

 敵か味方か、部隊の魔法少女か、殉教者の残党か……何の判別もつかない。

 

 ただ、当たり前のようにいる。

 それを受け入れそうになっている、自分が恐ろしい。

 

 この子は、いったい……何?

 

 

 

 

 

 

 

「……迷っちゃった」

 

 

「──……は?」

 

 

 

 いや、ただの迷子? なわけないでしょ。

 というか……そもそもどこから入ってきたの?

 

 

「でも……うーん……」

「……出ていくなら、案内するから」

 

 

 私の顔をチラチラ窺いながら、迷うように視線を動かしている。

 はっきり言って完全に挙動不審なのに、疑問に思うように思い続けていないと……それが消えそうになる。

 この子は危険じゃ……ないのだろうか。危ない感じはしないけど、それすら罠かもしれない。

 

 さりげなく、少女と彼との間を塞ぐように、立ち位置を変えながら少女を出口へと促す。

 

 

「力が、まだ足りないのかな……出直した方がいいのかも……?」

「何を言ってるのかわかんないけど、ほら、出口はあっちだから」

 

「でも……」

 

 

 ブツブツ呟く少女の手を、無理やり引く。

 ほとんど手ごたえもなく、たたらを踏むようにこっちへ踏み出し、ゆらりと。

 

 直接触れているはず、なのに……存在感が無い。

 

 まるでどんどんと幻になるように、視界の中から気配が……。

 

 

「とりあえず……、今のだけでも、助けなきゃ」

 

 

「……たす? ……なに?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「『救済(Redemption)』」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 それは……あまりにも唐突すぎて、わけがわからなかった。

 

 ぴちゃりと、赤いものが降りかかる。何、これ。なんなの。

 部屋中を赤く覆う少女の血……それが、蒸発するように不思議な光の粒に変わっていく。

 

 それは惨い光景であるはずなのに、どことなく幻想的な光景のように、何かの宗教画のようにも見えて。

 

 

「っ、『療養(Recuperation)』!」

 

 

 思わず、反射的に魔法をかける。

 意識ある相手にはあまり効果的とは言えないけど、それでも回復する可能性があるなら命を繋ぎ止めるくらいできる。

 

 でもダメだ、この子は死んでしまう。

 何もかも足りない、これまでの経験と同じ、確信的な失敗の感触。

 

 わかってる。意味がわからないけど、これが単なる自爆なわけがない。

 この子の魔法は何らかの効果をもたらした。

 

 まとまりの無い思考が絡まるように錯綜していく。いったい何がしたかったんだ。

 何の魔法だ。なんの目的が、なんの効果が、なんで死にかけたんだ。

 

 

 

 ……使()()()()()()()()()

 

 それって……?

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 少女が倒れた。握っていた手は……身体から離れた。

 そう。物理的に、千切れるように、その腕が砕けた。

 

 それは幻想的に煌めく、砂でできた人形のように。

 

 

 不思議そうな表情で私を見ていた少女は、最後に彼の方に視線を移して。

 そして小さく頷き、薄く、人間味のない微笑みを浮かべながら……。

 

 

 

 

 ……そのまま空気に溶けるように、光の粒となってどこかへ消えてしまった。

 

 

 

 

 何もわからないまま、凍り付いた空白の心のまま、辺りを見回して、見てしまう。

 

 愕然とした。

 何が起こったのか、彼を見て、理解してしまった。

 

 

「そん……な」

 

 

 

 

 彼が、()()()()()()()()()()()()()()。文字通り、前までのように。

 

 

 彼が……救われてしまったんだ。……何から?

 

 

 

 

 残酷な現実から。()()()()()()

 

 

 

 

 どろどろと、よくわからないものが心から溢れてくる。

 

 震える手で、無かったはずの、彼の両足に触れる。全て……綺麗に。

 

 

 

 衝動的に、弾かれるように、弾き出されるように病室を飛び出した。

 

 

 

 他の傷病者を、確認する。

 

 無傷。

 健康。

 正常。

 

 傷病者はいったいどこへ?

 

 

 

 理解したくない光景。そんな、どういうこと……?

 

 なに、なんなの……私じゃできない、あり得ない不可能。

 

 だったらそんな……私って……いったいなんなの?

 

 

 

 まるで何かから逃れるように、全力で駆け出した。

 必死で、病棟の奥へ、最奥へ、息を切らしながら。

 

 走り続けて……辿り着く。

 

 

 

 

 

 そして扉を開け、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 扉に背を向けて、呆然と立ち尽くす。

 そう、今は私はいつも通り、魔法をかけて、お世話して……?

 

 そんなことする必要ないタイミングなのに。私は何を思ってたのだろう。

 

 心の中で、何かがミシミシと揺らいで音を立てている。

 

 

 

 私の中にたった一つだけ残されていた、命のチップ。

 それがあることに、安堵し……落胆した。

 

 それでも、砕けたそれに、縋りついてしまう。私は……なんなんだ。

 

 

 

 頬が生ぬるい。両手が、勝手に顔を覆う。

 

 それは最悪の思い。最悪な考え。

 

 心を埋め尽くして、何もかも嫌になる……最低最悪な、極悪。

 

 

 

 

 

 ああ、()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

「は……はは……」

 

 

 砂のように乾いた笑いが、零れる。

 ざらざらと乾いているのに、汚いもので濁って淀んでいる。

 

 なんだこれは、なんで、どうして。

 なに、なんなの、なんだっていうの。

 

 

 どろどろな私の思いは、どうしたって叶わない。

 

 

 

「ひっ……ぁ」

 

 

 呼吸が、乱れる。ああ、苦しい……過呼吸になってる。

 意識が、遠のいてしまう。

 

 早く、落ち着かせなきゃ。ここで、私が倒れるわけにはいかない。

 

 ここには、私が必要だから、もとめられてるから、絶対に、私は、

 

 

 私がいないと、私が、私が……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……、……少しくらい倒れても、いいのでは?

 

 

 

 今、プツリと、何かが切れた。

 

 

 

 

 そうだよ。見たでしょう。

 だって今の私の仕事は、彼女の世話以外に、何も無いじゃないか。

 

 

 そう。今だけかもしれないけど……今は、忙しくなんかないんだ。

 

 

 視界が白く塗り潰されていく。チカチカと、狂ったような光を放つ。

 壁にもたれて、そのまま心を手放すように……何も考えずに安息の中へと。

 

 

 そう。救われたんだ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 喜ぼうよ。

 私なんかがいなくても、それ以外のみんなは助かってたんだ。

 喜んで、つかの間の休息を、甘受しようよ。無理をする必要はないんだ。

 

 

 大丈夫だよ。私は、大丈夫。

 だから今だけは……眠ってしまおう。

 

 

 眠って、元気になって……元気になった彼を見送ろう。

 そして私はまた、彼女の世話をする。彼女を看取る、その日まで。

 

 

 そう、それで……いいじゃない。

 

 

 

 ほんと疲れてた。私は……疲れ過ぎちゃってたんだよ……。

 

 

 

 

 

 だからもう、お休みなさい……最悪な私。

 

 

 

 




過労は頭をおかしくするけどそれを自覚することは難しいよねっていう。
ましてや本人が無自覚にまともを装っているなら、なおさら。

なんかいろいろ食い違ってるけど、まあ全体的にトータルした結果プラスならハッピーでいいのでは?


(おまけ)


・『執行』の魔法少女アロエちゃん
傲岸不遜な最強系ボクっ子虚弱合法ロリ18歳。最強議論殿堂入りの住む世界を間違えてる人。
昔は健康だったので雑に無双してたけど、今は持ち芸のように気絶するので前線にはなかなか出られず。
"七星(Septentrion)"と呼ばれた激ヤバな敵たちを処理した際にぶっ壊れてしまったので、それから表に出ているのは全部偽物になる。
目覚めたのは不死身の人が弱体化したタイミングとかなり近いけど、ほぼ偶然。たまたま。意図されたものではない。

大らかな性格の一方、冷酷な一面もあり敵と見た相手には容赦ない。殺人経験あり。本人は平和と安寧を愛しているつもり。
人のことは仲間も含めてあまり信用してないけど友達のことは好き。
話してるとまるで青春の中にいるみたいで、仮初だと分かっていてもとても楽しくなる。
覚醒が早過ぎて学生経験がほぼ無く、幼少から大人に囲まれて過ごしてきたので、割と常識がズレていたり。
経験豊富で慣れているので痛みにもストレスにもかなり強い。我慢も得意。でも命令されるのは正直嫌い。
考え事をしているときに指を動かす癖がある。趣味はパズル。全盛期は遊びながらでも余裕で仕事できてた。
とりあえず今はまともなトイレが恋しい。


・『執行』の魔法
なんでもはできないけど、できることならなんでもできる超絶チート魔法。(ただし自分自身と視界外への干渉は不可)
できることは強制即死から治療回復、洗脳尋問、空間転移、物理破壊、気象操作、その他えとせとら。消費を度外視すれば正真正銘なんでもあり。
不可能以外のあらゆることが可能で、ほんの僅かでも実現可能性があるなら限定的な蘇生や物質創造すら実現させられる。
概念的な因果律に干渉して強制的に結果のための過程をもたらしているので、発動した時点で阻止することは不可能。
というか先に成功という結果が確定してから発動するので、失敗するならそもそも発動しない。
まさに神クラスの魔法で、実際は第八等級どころでは済まないレベルで他の魔法との間に超えられない壁が存在している。文字通り次元が違う。

ちなみに他のほぼ全ての魔法は魔力が尽きたら当然使えない、けどこの魔法に関しては魔力の変換回復ができるので限界を超えて使うことが可能……というか魔力消費的にそれ前提。
ただし使いすぎると代償として、"執行力"(決めたことを実現するための概念的な"力"として身体能力や意識レベル)が低下する。

だというのにそんな神様気取りで何年もこんなチートをポンポン使ってたら、そりゃ人間の身体なんだから壊れて当然なんですよね。

あとなんか似た魔法が別次元にあった気がしますが、多分気のせいです

ところでこの世界にもう一個例外的な魔法がありますが、そっちのチートはいろいろバグり散らかした結果なのでこっちのチートとは根源的に異なります。
似てる部分はあれど、養殖物と天然物、在来種と外来種、メガザルとメガンテぐらい違います。
とはいえ今後あんまり関係しない部分の裏設定なので気にする必要はないのですが。
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