一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女   作:Mckee ItoIto

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※後日談的日常回3編。天気模様は曇り無し?の晴れ。
※『救済』もお休み中。多分いい気分でバカンスしてます。



"Do Peaceful Days Really Last?"

 対魔獣組織の魔法少女は常に魔獣と戦ってるわけじゃないし、そもそもいつも組織の仕事をしているわけじゃない。

 当然、その日の仕事が終われば休みで、休日だって存在する。その仕事が終わるのかどうかは別問題として。

 

 戦う少女たちはそんな一瞬一瞬の束の間に、心身を休めている。友や仲間、大切な人たちと。

 その時間は歪んだ青春でありながら、かけがえのない時間。

 彼女たちが普通の少女に戻れる、唯一の瞬間。

 

 

 そんな非日常と非日常の挟間の、穏やかな日常のお話。

 

 

 

 

・・・

 

<汚れた楽園>

 

 

 

 

 

 

 

 魔法少女には覚醒魔法少女と非覚醒魔法少女がいる。

 これは要するに固有魔法の有無であって、両者の違いはかなり大きい。

 固有魔法はインチキ効果のオンパレードだから、あるかないかでは戦力的にも天と地ほどの差があるわけだけど……。

 

 あ、いや、たまに基本魔法だけで前線に立つやばい人もいるけどそれは例外です。

 

 例えばお隣の第八部隊には"尖兵"って異名の、なんとかであります!って変な喋り方する激ヤバ非覚醒魔法少女がいたり。

 というか固有魔法なしで第五等級相当ってどういうこと……?

 

 いやまぁそれはともかくとして、私たちは戦闘ばかりしているわけじゃないから、当然のことながら普通の仕事してる時間の方が長い。

 だから……固有魔法に覚醒しているとちょっと困る事情があるというか……。

 

 

 固有魔法って……使おうと思わなくても使われてしまうから。

 

 

 つまりどういうことがというと、例えば我らが隊長の『浄化』の場合、何もしなくても自動浄化で勝手に周りが綺麗になる。

 

 じゃあ私の場合は?

 何もかも穢して汚す、『汚染』の場合は……?

 

 

 そう、つまりそういうこと。やっぱり私は穢らわしい存在なんだ。

 

 

 私の存在が許されるのは、ひとえに隊長がいるおかげ。

 隊長の『浄化』によって、まるで『汚染』された私は普通の人間みたいに振る舞える。

 隊長がいなければ私の居場所なんかどこにもなくて、隊長がいる場所が私の居場所。

 

 だから私たちは大体いつも一緒にいる。副隊長室は使わず同じ隊長室で仕事してるし、隊舎で割り当てられている居室も、本来なら私たちは幹部だから個室なのに、同室だ。だから寝る時も隊長の部屋で一緒。

 隊長には申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけど、私が気兼ねなく普通に生活するためには隊長のそばにいないといけないから。

 

 

 

 

「私たちの部屋に現着……なんちゃって」

「ふふ、状況開始ですか?」

「いや……隊長の部屋で何の状況が始まるんですか」

 

 珍しく、今日の私たちはどっちも休みだった。

 一応私たちにもお休みというのは存在している。当直非番休日のローテーションって感じ。

 といっても慢性的に人員不足だし魔獣警報が鳴ったってのに休んでいられるかって言われたら中々そんな人いないだろうから、休みも実質的には非番なんだけど。

 

 これって実際はあれだよね、法律的に労働時間がどーのこーのな感じの建前的なやつ。

 一応法律上、魔法少女の報酬は魔獣討伐に伴って与えられるから組織上は休みだったとしてもタダ働きにはならない。

 むしろ残業的な認定がされるから二重払いみたいになっていつもより多い。いや、私たちお金貰ってもそんな使い道ないんだけどね。

 

 そう、魔法少女って実は結構高給取りだったりする。

 でもみんな当然ながら未成年なわけで、そんな大金をポンと渡されても困る。だから組織にお金を積み立てる制度があって、そこに預ける形になってるわけだ。

 引退したら支払われる、いわば退職金制度的な奴。たとえ本人が受け取れなくても、家族に支払われる。

 ……私には家族はいないも同然だけど。ちょっとそれはなんかなって思う気持ちもほんの少しはあるけど。

 

 その分を差し引いてもある程度まとまったお金がもらえるので、私たちがお金に困ることはほとんどない。

 だからたまの休みには買い物したり、娯楽を楽しんだりできる。こういう息抜きってホント大事。

 

 例えばおしゃれの為に服とかコスメを買ったりとか。

 実質非番みたいなものだからプライベートも隊服のままって人は割といるけど、でもやっぱり女の子なのでおしゃれくらいはしたいもの。私服くらいはこだわりたい。

 最悪、万が一の時はその上から魔力で作った防御用の服を着ればいいし。……まぁ戦闘になったら大抵は中の服も傷んでしまうけどね。しょうがない。

 

 で、今日は二人とも私服でお出かけしてたわけなのだ。

 

 私のファッションはキュロットスカートに、ちょっとおしゃれ系のぶかぶかパーカー。髪型にこだわりはないのでフードは被ったり被らなかったり。

 

 そして隊長は……タイトなジーンズにピタピタなツーピースニット。

 いや、めっちゃ身体のラインを強調するようなデザインなんですけど、えっち過ぎません? 露出度低いけどおっぱいとおしりが大変えっちですよ?

 

 これはグラビアアイドルかな……? 正直そんじょそこらのグラドルさんより大変えっち。

 組織の広報はそういう仕事をシャットアウトしてるから無いけど、絶対覇権を取れると思うんだよね。写真集が出たら絶対に私は買います。

 

 そんな大人体型の隊長と並んで歩くと、ほんと私の子供体型が際立ってしまう。

 待ちゆく人の視線もほぼ隊長に集まるし、絶対えっちな目で見られてたと思う。

 でも隊長は何が恥ずかしいと言いたげに堂々としたものだ。すごい。

 認識阻害があるとはいえ、自分に自信が無いとこうはいかないんだろうな。私にはできそうにない。すごい。

 

 ……またこの人、性女って言われてるんだろうな。それはちょっと嫌だけど、納得でしかない。

 

 

「歩き回って少し汗をかいちゃいましたね……お風呂の準備してきます」

「そうですね、宜しくお願いします」

 

 

 そういえば、私たちのお風呂事情は普通の人とちょっと違う。

 隊舎には大浴場があって隊舎住みの人はそこを使うのが普通なんだけど、隊長用の居室にはシャワー付きの個室風呂が付いている。けっこう広い。

 いま倉庫状態になってる副隊長用の居室にお風呂は無かったけれど、これが隊長特権ってやつなのかな。

 

 それで、私は魔法属性のせいで大浴場は使用できないので、非常に恐れ多くも隊長専用のお風呂を使わせていただいている。

 いつも先に私が入って、その後に隊長が入って、隊長が出てくるのを待ってる、みたいな感じ。

 なぜか新人のだいぶ早い時期からこんな特別待遇を受けてるけど、本当にいいのかなぁ……。

 

 まぁ、私の『汚染』は気をつけて抑えてるつもりでも多少、お風呂場を汚してしまうから隔離的な意味合いなんだろうけど……。

 湯船に浸かると大量の汚水が生まれるから基本はシャワーで済ましてるものの、それでも浴室は多少汚れるし、掃除が大変だからね……。

 うん……昔はホントまさしく汚物みたいな扱いだったから……ふふ……今思い出してもつらかったな……。

 

 そんな私が汚した後のお風呂を使ってもらうのは死ぬほど申し訳ないけど、隊長がそうすべきといったので従っている、というだけ。

 

 いや……属性相性的に、()()()()()()()()()私の『汚染』じゃ隊長の『浄化』を上回らないから、隊長を汚すことはないってのは分かってるんだけど……。

 絶対に気分的には良くないとおもう。とにもかくにも申し訳ない。ほんと悪いことしてるみたいな気持ちになる。

 

 一応、一応ね、私もお風呂出る前に掃除はするんだけど、このあと隊長を待たせてると思うと時間的にも中々きついし、そもそも魔力現象的な汚れだから完璧に綺麗にするには……。

 それにどうせ魔法で浄化できるのだから無駄で必要ないとも言われてて……いや、言われても掃除はするんだけど。

 

 

 閑話休題。

 お風呂の準備を済ませて隊長と一緒にソファに座り、ダラダラしながらテレビを見てたら軽快なメロディーとともに給湯器くんがお風呂が沸いたことを知らせてくれる。

 

「あ、ではすみません隊長、お先にお風呂いただきますね」

 

 

 立ち上がってお風呂グッズを用意して……。

 

 何故か隊長も無言でスッと立ち上がって同じく用意を……。

 

 ……?

 

 

「あの……隊長?」

「はい。どうかなさいましたかヨドさん」

「いや……え? 私いまからお風呂……」

 

 え、なんか普通に脱衣所まで来たんですが、え?

 

「はい。ご一緒しませんか?」

「え……、な……、そんっ」

 

 

 な、そんなご褒美……じゃないっ、流石にそれはちょっと……!?

 なぜ……? なぜ今回急に……!?

 

 いやまて、まて私。冷静になれ。何か理由があるはずだ……。

 単に私とお風呂に入りたいだなんて理由あるわけないし、きっと何かこう、私のせいで何か、隊長がこんな罰ゲームのようなことを決意してしまうような理由が……。

 

 あれかな、やっぱり今まで待たせすぎだった……? 掃除に時間かけすぎてた……?

 

 

「すみません……?」

「? なんのことでしょうか?」

「あ、いえ……いつもお待たせしてましたし……」

「それは構わないのですが……やはり迷惑でしたか……?」

「え……?」

「私が一緒では……迷惑でしょうか……?」

 

「そんなわけ、ぜんぜん迷惑じゃないです!」

 

「では失礼しますね」

 

 

 

 ……あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなった……?

 

 

「お背中、流しましょうか?」

「あ、ぁ、え、い! いいです!!」

 

 

 あああ、どうしましょう。目の前にえっち神が降臨してます。

 近い、近いです。

 

 ていうか。うっわ。でっか。やっば。すっご。

 

 直で見たのは初めてだけど……封印を解かれた隊長の隊長が超絶ヤバい。ロケット……?

 なんかそういう趣味じゃないはずなのに気になって仕方ないんですけど。

 思わず自分の胸に手を当ててしまう。なんか悲しい気持ちになってしまった。くっ……。

 

 

「はい、いいんですね……では、失礼を」

「え、え、いや、ちょ」

 

 

 なんでやねんっ!! 断るていうたやろっ!! 

 なんかあまりの衝撃の展開に脳内が似非関西化してしまったけど、なんで!?

 

 あ! あ、ちょっ! 手つきがっ……え、えっちじゃないですか!?

 え、あれ、スポンジ、え、ほんとスポンジですかそれ!? 振り向いて大丈夫なアレですか!?

 

 ……あ、スポンジでしたね。なんでもないです。

 

 って、いや、背中! 背中だけですよね!? 前は自分でやりますから!!

 

 

 

 

 ああ……なんか……めっちゃ疲れた……。

 脳内で叫びまくってたけど現実ではひたすらキョドってただけな私。悲しいけど私、陰キャなのよね。

 

 しかも隊長は何を血迷ったのか、私で汚したスポンジを手渡してそれで私に身体を洗わせようとしてきたんですけど……それは流石に全力でお断りしました。

 いや無理です殺す気ですか。いろんな意味でおかしいですって。

 

 

 なんだろうこれ……地獄のような楽園……?

 もしかしてここってそういうお店だったのかな……? そうかもしれない……?

 

 

 そして身体も洗い終えたし私は湯船に浸からないのでそのまま退出しようとしたら「いいから浸かれ」(意訳)と穏やかなパワハラを食らったためお風呂に沈められてます。

 

 ああ……これから隊長が浸かるはずのお湯がどんどん汚れてる気がする……やっぱ良くない……良くないよこんなの……。

 

 

「では失礼します」

 

 

 当たり前のように入ってきた隊長。フリーズして全く反応が出来なかった私。

 え、いやほんと何が、いったい何が起こっているんですか……!?

 

 

「ふふ、流石に二人で入ると少し狭いですかね……?」

「あっ、あっ、あっ」

 

 いやちょ、当たるんですがっ!?

 ちょっとでも身体を動かすと隊長の身体に汚れた私の足とかが当たるんですが!?

 

 あ、うぉ、ていうかすごっ、やっぱりそれって浮くんですね……。

 

 

「ヨドさん、一つお願いをしてもよろしいでしょうか?」

「え、え、え、あ、はい!?」

 

「お湯をすくって、私の頭にかけてもらえませんか?」

「え、え? あ、はい」

 

 

 よくわからないけど、言われるままに両手でお湯をすくってかける。

 

 いや、かけた後で気付いたけど、これ汚水なのでは……?

 というかそもそも汚水に浸からせてしまってるのでは……?

 本人の希望とはいえ、失礼にもほどがあるのでは……?

 

 

「ふ、ふふ……やはり直接は違いますね……これこそまさに……、」

「……?」

 

 なんか声が小さくて聞き取れなかった。バプ……? 入浴剤……?

 

 

 

「……お伝えしておきますが、ヨドさん」

「え、はい」

 

「あなたの汚染は決して悪いものではないんですよ」

 

 

……え? ……急に何を?

 

 

「え、いや……ですけど周りを汚してるわけですし……」

「それの何が悪いんですか?」

「え?」

 

どういうこと……?

 

「あなたの汚染はあなたの身から出たもの。すなわち、あなたの世界そのもの。あなたは、あなたの世界で、この世界を塗り潰しているだけ」

「……??」

 

「あなたの世界は、あなたにとって絶対的に正しい。あなたにとって間違ってるのは圧倒的に外の世界の方。あなたの世界が強すぎるから今の世界が耐え切れない。汚染とはこの世界から見た視点での言葉。それだけの話なんです」

「それは……」

 

 

 流石に……違うのでは……。

 私の世界はきっと、間違ってる。そんなの、自分勝手すぎる。

 

 私はこの世界に生きているのだから、いくらなんでもこの世界を汚してしまうことが正しいわけが……。

 

 

「私は、私たちはヨドさんの世界を受け入れてます。それが私たちの身を滅ぼすのだとしても、それは私たちが脆弱過ぎただけの話。……覚えておりますか?」

「何を……でしょうか」

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

「……っ!?」

 

 

 

 

 正直、あまり覚えていない。でも、やったということはおぼろげに覚えている。

 

「私たちは、ヨドさんの世界を受け止めきれなかった。それは仕方ない、という前提の作戦なのですが……」

 

「……すみま、せん」

 

「でも、()()()()()()()()()()()()

 

「……」

 

 

 そう、そんなわけがないのに。魔獣だけが殲滅された。みんなが無事のまま。

 

 いったい何があったのか。いったいどんなことが起こったのか。

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「何が起こったのかはわかりません。少なくとも、あの時点の私では……」

「……」

「……ですがあれ以来、私の『浄化』の出力が、上がってます」

「え……?」

 

「おそらく、戦闘面でも既に第六等級に届いていることでしょう。……今までの私が弱すぎたのもあるのですが」

 

 

 全然気が付かなかった。

 そうだったのか……確かに最近、隊長の調子がいい気はしてたけど、魔法に違いが……?

 

 

「だからもう、あなたは我慢する必要ないんです」

「我慢……?」

 

「私の力はあなたの力を否定するものではなくあなたの力を完成させるもの。その力が大きすぎるなら私が私の力で整えます。不要を削ぎ落して研ぎ澄ますように。より最適で最大の形に。原石を宝石にするように、より美しく、より素晴らしく。私にとっての神の奇跡はヨドさんの存在に他ならない。私にとって()()()()()()()()()()()()()()()()()、なのですから」

 

 

 ぼうっと熱に浮かされるように話す隊長と、呆気に取られてしまう私。

 

 

「あなたは……あなたの世界は、美しいんです。だから、私はあなたの為にここにいる。私の望みはそれだけなんです」

 

「あ……」

 

 

 言葉が出ない。何をどう、言い表せばいいのか、わからない。

 

 でも……私は……いいのだろうか……? 本当に……?

 我慢してもらっている、のではなくて……本当の意味で、受け入れてもらえている……?

 

 

 そんな、()()()()()()()()()()()()()()()()()……?

 

 

 

 

「私たちは、二人で一つ、ですよ。そしてみんなも、あなたの世界の味方です」

 

「……」

 

 

 タイミングが違うなと、自分でも思う。

 

 でもなんか感情が……目から零れてしまった。

 なんで今? わけがわからないんだけど。

 

 

 

 ……。私は、普通に生きていいんだろうか……。

 

 これからも隊長のそばにいないといけないのは、変わりないと思う。

 

 だけど、今だって……できる限り全力で力を抑えようと努力してた。それすらも……もう要らない?

 

 私はそれが……つらかったんだろうか。

 

 なんだろう。これがいったいどういうことなのか何もわからないけど。

 

 

 

 何かいま、私は、私を縛っていたものから解放された、そんな気がした。

 

 

 

 

「ですから、これからも宜しくお願いしますね、ヨドさん?」

 

「……えっと、……よろしく、お願い……します」

 

 

 

 

 私たちは今、本当の意味で二人で一つに、なった。のかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ……なんか響きがえっちだ。裸同士でこの思考は良くない。

 

 自重しようね私……そういう場面じゃないじゃん……。

 でも仕方ないよ隊長えっちなんだもん……。

 

 

 

 

 

 

・・・

 

<命ある享楽>

 

 

 

 

 

 魔法少女には変わり者が多い……というか頭おかしいと思われがちだ。

 

 例えば北の部隊にはすごくバカな守護者がいて、南の部隊にはとてもバカな英雄がいる。

 タチが悪いことにどっちも天才で、とんでもない実績を残してるという最上位の魔法少女。

 そのせいで強い魔法少女ほど頭ヤバいんじゃないかという噂がまことしやかに世間で囁かれてたりするものだけど……違う。

 変に目立ってて人気があるから他もそう思われてるってだけの話。あの二人が特に変なだけ。

 

 というかあの、変な二人だって実際はちゃんと凄い人たちだ。

 私たちの頂点にして、目指すべき場所。私たちを率いる、最高峰の存在。

 最上位魔法少女は全ての魔法少女たちの模範としてふさわしい、本当に凄い人。

 

 と、思ってたんだけど……。

 もしかしたら認識を改めたほうがいいのかも、しれないな……。

 

 

 

 

 対魔獣組織第二部隊。

 

 ここには第一部隊の『執行』と並び称される、生ける伝説がいる。

 

 うちの隊長……『再生』の魔法少女のことだ。

 

 最年長の最古参。人々のため最初期から最前線で戦い続けてる、本物のヒーロー。

 戦えば敗北はあり得ない勝利の女神で、私たちの憧れの存在。

 

 だから実際この部隊に所属することになった時は緊張で死にそうになったほどだけど……。

 

 

 実際にあった時の印象も、決して悪くはなかった。

 想像以上に洗練されてて、大人で、冷静で、新人の私たちより働く、理想の上司のようで。

 

 強く、辛辣だけど甘く、冷たくも優しい。

 私たちのことを大事にしていることがよくわかった。

 

 たとえそれが、私たちに過去の誰かの面影を重ねているだけ、なのだとしても。

 

 ……私たちは彼女の力になれることが、嬉しかったんだ。

 

 そして……そのうち私たちは、彼女のことを助けたいと思うようになった。

 そう、彼女には助けが必要だった。助けが必要なほど、弱っていた。

 

 強くて弱い。強すぎて、脆い。

 壊れないのではなくて……何度も壊れては取り繕っているだけ。

 

 取り返しのつかないくらいボロボロで。

 それでも、その力のせいで何とかなってしまっていた。

 

 死ねない死にたがり。果たされない自殺行為。何度も傷ついては元に戻る。

 彼女の戦いには……救いなんかどこにもなかった。

 

 戦いの中では、彼女は救われない。絶対に。

 でも……どうしたら救えるのか。彼女の大事なものはもう、返ってこないのに。

 

 結局は彼女を戦いから遠ざけることだけしかできなくて。

 その姑息な時間稼ぎも、既にバレてしまった。

 

 どうしたらいいのかわからなかった。

 わからないまま、癇癪を起こして険悪になってしまった。最悪にもほどがある。

 

 そのまま魔獣との戦いが始まり……よくわからないまま戦いは終わっていた。

 

 戦いがあったということ以外、何があったのか、あまり覚えていない。

 

 詳細も曖昧。記憶も朧げ。おかげで報告書を作るのに苦労したけど……。

 

 

 なんとなく……彼女を押し倒したことは覚えてる……いや私、何をしてんだ……?

 それが必要だったって感覚は残ってるものの、ほんと謎なんだけど……?

 

 

 ……だけど。笑った顔も泣いた顔も、あの時、初めて見た。

 

 あれ以来、彼女は変わった。と、思う。

 

 

 多分それは、いい方向に変わったんだろう。

 戦闘は相変わらずだけど、前みたいな雰囲気ではなくなった。

 たまには笑うし、ふざけたりすることもあるし、わがままだって言うようになった。

 非番の時も仕事せず休むことも増えたし、こっちの用事にも付き合ってくれるようになった。

 まるで、普通の女の子のように。だけど、戦いの時は凛々しく、強く。

 

 もう彼女はゾンビのように、呪いに生かされた英雄じゃないんだ。

 生きた人間として、私たちの憧れの存在として、蘇ったんだ。

 

 

 だからそう、これもいい変化……きっといい変化なんだ……。

 

 

 

 

 

 

「おしゃけー」

 

 

 だれだこいつ。

 

 いやまじで……嘘だろおい……?

 誰か教えてくれ……この食堂で呑んだくれてる隊長っぽい女はいったい……?

 

 

「隊長……なのこれ……?」

 

 

「隊長? ふふ、私がそう、隊長。第二部隊だけど、総隊長? ……ははっ!」

 

 

「えぇ……」

 

 

 なんか急に笑い出したけど何が面白いのかまったく意味がわからない。

 

 いや、これが……私たちの憧れだったヒーロー……?

 この多種多様なアルコール飲料に囲まれた、見るも無惨なダメ人間が……?

 

 夢じゃないの……?

 

 

「いやはや中々どうして、こんなにも良いものをずっと他の大人は楽しんでいたんだな。実に楽しい。実にずるい。……実にずるいっ!!」(バンッ!!)

 

 

 台バンすんなや。落ち着け。正気に戻れ。

 

 ていうか……、いやいやちょっと待ってよ、ちょっと。まじで何なのこれ?

 

 

「……ちょ、ババァ! ってちがう! 食堂の方のババァ!! いるでしょちょっと!!」

 

 え、なになに? みたいな顔で反応すんな酔っぱらい!

 今呼んだのあんたじゃないわ!

 

 

「なんだいうっさいねぇ」

「うちのババァが大惨事なんですけど!! 酒出したでしょ!! なにしてくれてんの!!」

「別にかまやしないでしょうが。この子は成人してるんだから」

「いや、まぁ、そうなんだけど……でもこれヤバいよ!?」

 

 

「へいよー、酒なベイベー。ちぇけら」

 

 

「……ヤバいでしょこれ!?」

「楽しそうだろ? 笑うようになってよかったよ」

 

 

 おかしい、味方が……いない……?

 もしかして私の方がおかしいのか……?

 

 いや確かに、ネガティブオーラ出しながら無表情で機械的に飯食ってるよりはいいんだろうけど……!

 この人いちおう今日は休みだけどさ……いや休みでもこんな呑んだくれてたらダメでしょ!?

 

 笑ってるよ? 笑ってるけどさ、これ多分ダメな笑顔よ!? ダメ人間まっしぐらじゃん!!

 

 

「そもそもなんで急にお酒なんか」

 

「ん? ああ、今まで飲まなかったのは飲んでも勝手に魔法で回復して意味が無かったから、ね。でも今の私は気持ちよく飲める。実にいい気分だ」

 

 

 食堂ババァに聞いたつもりなのに、急に横からカットインしてきたアル中ババァ。

 ぐびっ、ぷはっ、と日本酒っぽいのを盛大に煽ってる。なんだこいつ。

 

 いや、私未成年だからよくわかんないけどさ、ちょっとこれ健康に良くない飲み方なのでは……?

 この人に健康を語るのはあまりにも無意味だってのはわかるけど、でも、でもさ……!

 

 

「うぃっ……。ああ、ちなみにタバコは不味かった。たぶん私の肺が綺麗すぎたんだな。でもお酒にはちょっと感動したよ。まさしく最高にハイってやつだ……くくっ……」

 

 なにそれさっきから脊髄で喋ってんの?

 もうちょい脳みそ使ってしゃべってくれませんかね?

 

 ああ、私はこんな面白くない親父みたいな隊長、見とうなかったっ……!

 

 

「ふぃ……ふふ」

「うぅ、こんな隊長やだ……」

 

「一つ教えておく」

 

 

 ……え、なに急に。こわ。

 ついさっきまでへらへら笑ってたのになんか急にスンって表情消すのやめてこわい。

 

 

 

「私は弱体化した」

 

 

「……、え?」

 

 

「色々試したけれど、大幅に弱くなったといえる」

「どういう……」

 

「わからない? 私は今、酔っぱらっている」

「……?」

 

「つまり、酩酊という状態異常に掛かっている」

「それが……?」

 

「すぐに正常な体調に戻らない。再生効果がほとんど働いていない。簡単に言えば、今みたいな状態の私は……()()()()()()()

「……!?」

 

 

 言われていま、ようやく気付いた。

 酔っ払ってるということは、体調も元に戻すとされる『再生』が……今は働いていない……?

 再生しないんなら……今、もし何かあったら、彼女は死ぬんじゃないか……?

 

 

「とはいえ自動再生は無くなったわけじゃないし、身体欠損の回復は早い。弱体化したとはいえ死ににくいのには変わりない。そして即死さえしなければ結局一瞬で『再生』できるのだからあんまり問題はない」

「……」

「元々、一回魔法を使えば魔力も無限再生するから勝手には解除されない。そして以前は使ったあとの解除がずっと出来ないままだった。でも今は出来る。つまりスイッチ式に近い。解除しなければ以前と同じだけど、不要な時は解除してる」

「……それって」

 

 

「大丈夫。勝手には死なない。死のうともしない。これは未必の故意の自殺じゃないから。私が生きるために、生きてていいって思えるために、生きてたい、少し怖いけど、そう、なんとなくこの先……生きてたらいいことが待ってる……そんな気がしてるから……」

 

 

 どこか遠くを見るように。何かを懐かしむように。

 その目は私ではなく……何かの面影を見てる、ように思う。

 

 

「とりあえず指揮官とは分かり合えそうにないな……あの人はヘビースモーカーだったから……でもおさけが呑めるなら話し合えるかなぁ……」

 

 

 ……彼女が過去を語るのはとても珍しい。

 アルコールが、口を軽くしてるんだろうか。

 

 

「もーまんたい、のー、まんたい。のむけど。もむ。のむ。……もむ?」

「なんでだよ」

 

 

 とろんとした目で意味不明なこと呟き始めたと思ったら突然、自らの胸を両手で持ち上げてセクハラをかましてきやがった。

 いや揉ませを迫るのはセクハラなのか? しらんけど。

 

 

 ……。うん。

 

 でもなんだろう。やっぱりいい変化、なのかもしれない。

 彼女は確実に……何かから解放された。そう思う。

 

 少なくとも以前はこんな隙を、弱みを、私たちに曝け出したりはしなかった。

 

 これは多分、脆さではなく柔らかさ。

 触れたら痛む傷じゃなく、隠されていた彼女の軟らかい部分。

 それを、私たちに見せていいと、思ってくれてる……のかもしれない。

 

 

「ふ……ふふ……でもちゅーどくには、きよつけないとね……」

「いやちょ……もう呑むなっ!」

 

「あー……おしゃけ……」

 

「ええい、コップから手を放せっ!」

「……」

 

 

 ……。

 

 

 ……?

 

 

「……え、ね、寝た? いきなり?」

「ああ、ずっと飲んでたからねぇ」

「いや止めろよババァ」

「私には止める資格なんざないさ」

「そういう問題じゃ……」

 

「そういう問題さ。この子の命はこの子が決めるんだよ。ようやく決められるようになったんだから……それを取り上げちゃあいけないんだ」

 

「……」

 

 

 よく、意味がわからなかった。

 たぶん、次も見かけたら止めると思う。

 

 だって私は、『障壁』だから。

 

 彼女が勝手をするなら壁として止めるべきだ。

 そして、彼女が危険になるなら、それも阻まなければ。

 

 そう、弱くなったというのなら私たちが守ればいいってこと。

 

 そうだよ。ようやく、ようやく……私たちに守らせてくれるようになったんだ。

 

 

「しきかん……」

 

 

 私は、彼女の大切な人の代わりにはなれない。

 だけど、今の仲間は……私だ。隣に立っているのは、私なんだ。

 

 今の彼女を守るのは、私の役目。

 

 

 だから……こうして彼女をおぶって寝床に運ぶのも、きっと私の役目。

 ……別に、それぐらい許してくれるよね?

 

 

 顔も知らない指揮官さん……?

 

 

「ん……」

「ほら、仮眠室いくよ酔っ払い。……意外と隊長軽いな」

 

「ん……ん……」

「……ふふ」

 

 

 しかしこうして見ると、なんだか可愛らしい一面と言えなくもないのでは。

 普段があれだけキリッとしてるから、ギャップがあって意外とアリかもしれない。

 

 ……凄まじく酒臭いけど。冷静に見たらかなりダメな大人だけど。

 

 

「……、ん……ごめん……」

「いや……いいって隊長。たまにはこういう日があったって」

 

 

「……吐き、そう」

 

 

「は?」

「ちょっと待って、今からまほー……、ぅ……!」

 

 

 

「おいババァふざけ──

 

 

 

 おまっ、ふざっ、……っえ、なんで全裸!? 服は!?

 やわ、え、あ、魔装、いや魔法解除してるなら中に何か着とけよ!!

 

 

 あー! ちょ、きたなっ……! 酒くさっ……あーっ!!

 

 

 誰か助けて!!

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

<加速する絆>

 

 

 

 

 魔法少女の強さとは何か。

 それはもちろん、魔獣との戦いの強さだろう。

 

 事実、魔法少女の強さの指標としてよく使われる"等級"とは、魔獣等級を基準にしている。

 そのレベルの魔獣に勝てるかどうかで、魔法少女の等級は言い表されている、ということだ。

 

 つまり、強さとは勝利の条件。

 

 そして私はあえて言いたい。その強さとは速さなのだと。

 スピードこそパワーであり、ファストすなわちストロングなのだと。

 

 ……実は英語よくわからんがあいつに聞いたらこんな感じだったから多分合ってる。

 

 

 何よりも速く、何よりも早く。

 誰よりも先に駆けつけ、誰よりも先に敵を倒す。

 敵は待ってくれないのだから、遅さは罪だ。速さは何よりも優先される。

 

 

 で、最速の魔法少女『加速』とは、この私。

 

 つまり、私イズ最強。

 

 そういうこと。

 

 

 速い、早い、強いの三拍子揃った超天才。

 瞬く間に魔獣を瞬殺する、絶対守護者。

 光のように加速する、マッハの戦士。

 

 

 そんなわけで戦闘が私の本領なんだが、今日は特に何もなさそうなんだよな。

 警報もしばらく鳴ってないし、今はパトロールも兼ねたお使い中。

 

 で、現地の人たちにお土産なんかももらったりして。

 

 ……なんか変なリアクションされたけどあれはなんだったんだ?

 

 

 ともあれ任務終了で帰宅だ。

 いやはや、しかしここが私の家ってのもまだ慣れないもんだな。

 

 

 

 

「私様が帰ったぞー!!」

 

「おかえり。ご飯はカレー作ってるから適当に食べなよ」

 

 

 やったぜ。カレーは最高のファストフードだからな。

 しかもレトルトじゃなくて作ってたとか、何気に珍しいじゃないか。

 

 

 ……そう、今の私は何故か隊舎ではなく一軒家に住んでいて、しかも二人暮らし。

 同居人は同僚なのになんだか疎遠になってしまってた幼馴染。

 

 一緒にいるのは別に嫌じゃないし、いまさら隊舎に戻る理由も無いのでそのまま暮らしてるが、疑問は尽きない。

 なんで一緒に暮らしてるのか、そもそも私は死んだはずじゃなかったのか。

 

 いま目の前で人形に何か手を加えて作業をしているこいつは、のらりくらりと何も教えてくれない。いったい何があったのか。

 

 

 ……そうだ。あの時のスタンピード。規模も異常に大きかったが……色々と想定外が多かった。

 とにかく魔獣の波が途切れることなく、少ない隊員で入れ替わり立ち替わり、三日三晩は戦い続けたか。

 

 そこにはもちろんこいつもいた。というか主戦力としてなくてはならない存在だった。

 最強オブ最強の私も身体は一つしかない。何千もの魔獣相手に一人で戦い続けるのも流石に無理があるからな。

 

 でもこいつは……それを可能にできる凄いやつだ。最強ではないが、最優と言ってもいいかもしれない。

 

 人形使いのこいつは『自動』の魔法を使って人形を戦わせている。だから本人は基本戦わない。

 ずっとあっちこっちと勝手に戦う人形の間を飛び回って色々やってる……なんか妖精みたいなやつだ。

 

 その、スタンピードの終わりかけのことだった。交代要員との交代直前に、こいつがミスをした。

 

 大量の人形の魔力充填のタイミングを間違えて、完全に無防備な瞬間ができてしまったのだ。

 まぁほとんど寝てなかったから仕方ないといえば仕方ない。

 こいつがそんな単純なミスをするのは珍しいが、終わりが見えて気が抜けた可能性もある。

 

 だけどその隙はかなり致命的だった。そこに見計らったかのように魔力射撃が降り注いで……。

 

 私はそれに、即断即決で割り込んだ。迷う暇なんかなかったし、身体はほとんど勝手に動いた。

 

 そこで全部その弾幕を捌けたらカッコよかったんだろうけどなぁ。

 まぁこいつへの攻撃は一切通してない、とは思う。それだけが幸いだったか。

 

 しっかし流石の超天才な私様も連日連夜の戦闘で結構疲れてて、どたまにうっかり直撃を喰らってしまって……。

 

 

 

 そこからの記憶はほとんど無い。

 

 

 

 何も考えられず、感じるままに、何かの声に導かれるように、ほとんど夢見心地で勝手に身体が動いてた、みたいな感覚があった……のかもしれない。くらいだろうか。

 

 あれだ、夢遊病?

 何してたかは覚えてないけど、寝てる間に何かしてた、みたいなのを……ぼんやりと何となく覚えてる、みたいな。

 

 とにかく、意識がはっきり戻ったのはここ最近。

 その時の戸惑いみたいな感じは……どっちかというと、この幼馴染が目の前でアホみたいに号泣してたことに対してのものの方が大きいのかもしれない。

 

 まあ、私だってバカじゃない。

 こいつの魔法と、私の状態、あの時の致命的な感覚、組織の人員不足、色々考えてみれば、それまでどんなことが起こってたかは……わからないでもない。

 こいつは意外と真面目で割と臆病だから……きっとやりたくなくてもやらなきゃいけなかったんだろう。こいつの魔法でそんなことできるなんてのは知らなかったけど、必要があってしたことのはずだ。無意味なことでは決してないはず。

 だったら私は私が使われた分には気にしないし、気にする必要だってない。というか気にされても困る。

 

 だというのに、あの日以来こいつは私と向き合うとき、絶対に最初、目を逸らす。さっきだってこっちを見ようともしてない。

 で、私はそれが気に食わないので、その視線に加速して先回りするのがここ最近のお決まりとなってるわけだ。

 

 今みたいに。……『加速(Acceleration)』!

 

 

 

「ぅお! ……いや無駄に魔法使うのやめなって」

「ははは、この環境でお前にだけは言われたくないがな!」

 

 私たちの周りには勝手に動く人形が、まるで生きてるみたいに掃除をしたり洗濯物を畳んでいたりする。

 相変わらず器用だ。どう魔力操作したらこんなことができるんだか。

 

 こんなふうな魔法の私的使用は本来禁止されているが、それを厳密に守っているって魔法少女に私は今まで会ったことがない。建前みたいなもんだ。

 というか使おうとしなくても覚醒魔法少女は属性を垂れ流してるからな。使うなっていうのはどだい無理な話。

 

 ちなみに私の場合は魔法を使わなくても常に動きが速い。魔法を使わなくてもキビキビ動ける。自動加速ってやつだ。

 

 で、こいつの場合は……。

 

 

 ……。……?

 

 

 

 いや、なんだ……? 自動自動……??

 

 

 

「自動自動?」

「なにそれ」

 

「こっちのセリフなんだが。いやお前の魔法って、使ってない時どういう効果なんだ?」

「あー、パッシブ的な話? ……さぁ?」

 

 

 本人にもわからないらしい。

 そもそもその魔法、複雑すぎる。私みたいに単純明快であれよ。

 

 

「あ、でも私あれだ。めっちゃだるいなぁ動きたくないなぁってなってもルーチン的に身体は動かせるから、これなんじゃないかな」

「ふーん、つまりそういうのは勝手にやれるってことか」

「というかルーチンが得意なのもそうかも。一回覚えたら大体は同じことリピートできるから料理なんかも得意だし。……めんどいからあんまりやらないけどね。私は怠け者なので?」

 

 

 確かにこいつは手先が器用で、単純作業をミスすることは滅多にない。

 だからか、普段はしないがいざ食事を作るとめっちゃ上手い。かつめっちゃ美味い。

 

 というか私はさっきから腹が減っているんだよ。カレーの匂いが暴力的に食欲を刺激してくるんだ。

 さっさと食事の準備をして、と。着替えるのもめんどくせぇ! ひゃっはーカレーだ!

 

 カレーはご飯を盛ってルーをかけるだけでできるので、手っ取り早いから私好みだ。ナンやパンでも可。

 あとスープカレーもいいし、ごろごろ野菜カレーもホワイトな白いカレーも好き。

 

 早くて易くて美味い。ホント最高アンド最高な私向けの料理である。

 

 

「うめぇ」

「私も休憩して食べよっと」

「超うめぇ。あー、いつも作ってくれたらいいのになー。毎日毎食私のために」

 

「お? ……お?」

 

 

 うん? そっちから目を合わせてくるなんて珍しい。

 そんなキョトンとしてどうした?

 

 

「…………あ……いやさ……流石にいつもカレーは飽きるでしょ」

「別にお前が作るカレーは飽きないぞ。いつでも食いたい」

「……」

 

 

 いや、なんで顔を逸らす? 私なんか変なこと言ったか?

 

 

「……、ホントこの隊長は……」

「今の隊長はお前だけどな」

「うっさい黙れ」

 

「なんだよ怒るなよ。そんな顔赤くして」

「うっさい死ね。……、……ぁ」

 

 

 ……む? なんだどうした?

 

 

 ……。んーあー……もうこいつ。

 

 だからお前が気にすることじゃないんだっつーのに。

 

 

 私は生きてるだろうが。

 お前が冗談みたいに死ねって言ったところで別に死んだりしねーよ。

 

 あの時のことは、お前のせいじゃないんだから。

 

 

「ぁ……ごめっ……、むぎゅ」

 

「バカだなぁお前ホント」

 

 

 後ろめたいのはわかるんだがなぁ、流石に後ろ向きすぎだろ。さっさと早く前に進もうぜ?

 小さなこいつの小さな顔をむにゅむにゅしながら説教してやる。

 

 ……思ったよりやわらかいな。

 

 

「わっかんねぇかなぁ。終わったことじゃなく、今を見るんだよ。私はここにいるだろ?」

 

 

 なんだっけか。過去とは過ぎて去ると書く、と。

 よくわからんが、要は終わった話なんだってことだろう。

 

 それを覚えとくのはいいかもしれないが、そればっか見てるのは違うと思う。

 だって過去ってことは、もう今には無い話だろ? 今にあるのは今じゃないか。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだろ。そっちばかり見るな。

 

 

 

「だから、()()()()

 

「っ……!」

 

 

 ガンをつけるように、額がつくほど、至近距離で。

 本気の言葉をぶつけてやる。回りくどさなんか必要ない。

 

 率直に、最短で、真っ直ぐに。

 昔の私では不十分だった。足りなかったんだ。

 

 今の私はもう……間違えない。

 

 だから、わからせてやる。見せつけてやる。

 お前の前にいるのは、お前を一瞬のうちに置き去りにする私じゃない。

 お前の元に、一瞬で駆けつける私なのだと。

 

 

「……」

 

「ちか……いんですけど……?」

 

「……」

 

「あの……あの……ちょっと……?」

 

「……()()()

 

「……え」

 

「ああそうだ、やっと思い出せた。お前、心に壁作ってるんじゃねぇよバーカ」

 

 

 目覚めてから、ずっとこいつの名前がわからなかった。

 私が寝てるうちに認識阻害かかるほど心の距離が離れたのかと……割とショックだったんだ。

 

 ほんと良かった。これって今の私をちょっとは受け入れたってことだろ?

 

 

「え……、隊、長……?」

「だーかーら、隊長じゃねえっての。それは昔の私だろ。今の私は副隊長……お前の部下だよ。だから名前で呼べ」

 

「……」

「ほら」

「……」

「ほらほら」

「ちょ、ち、ちか……」

「ちか? 私そんな名前だったか?」

 

 あれ、私に心の壁、無いはずだよな……?

 

 

「……」

「……」

 

 

「はやて……」

 

「お、言えたじゃねぇか。褒めてやる。おらおら、なでなでだ!」

「あ、や、やめ、やめ、お、おお」

「うりうり」

「おおお」

「ぐりぐり」

 

 

 

 

「ぉおお『自動(Automation)』!! この馬鹿を引き剥がしてみんな!!」

 

 

「『加速(Acceleration)』……それは残像だ」

 

 

「……んああっ! くっそむかつく! なんでこの馬鹿が私の部下なんだよ!」

 

「そうそう、私はお前の部下だ。お前についてきてもらう上司じゃなくて、お前についていく部下、な」

 

 

 私は超天才のマッハ戦士だからな。ついてくるのも大変だっただろう。

 だから、これからは私がお前についていってやる。絶対に見失わないし、絶対に置いていかない。

 

 今の私とお前は、そんな関係なんだ。そうやって、ずっと一緒にいようぜ?

 

 

「……」

 

「だから改めて言っとく。これからよろしくな、()()?」

 

 

「……私の命令には従ってよね」

「おう、できるだけがんばるわ」

 

「なんか()()()()()命令を破られる未来しか見えないんだけど……、……」

 

 

 はっきり言えよ。私は聞き逃さなかったけどな。

 

 ……そうか、嬉しいのか。嬉しそうな顔、隠しきれてないぞ?

 

 

 

「うん……これからも、よろしく」

 

 

 

 ああ、よろしくな。可愛らしい私の指揮官様。

 

 

 

 ・・・




拙者、複雑な感情を抱えて色々と拗らせてる少女たちの友情(意味深)大好き侍。義によって助太刀いたす。



※予定より2千字くらい増えたけど、お風呂回は要る(鉄の意志) というか脳内でえっち言い過ぎ。
※普通の少女の日常、とかいいつつ一人ダメな大人が混じってる件。でもこれ、比較的安全な毒耐性実験だから。始めは実験のつもりだったから……!
※曇らせは無いと言ってるのに一人勝手に曇ろうとする子がいたので友情パワーで黙らせました。
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