一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女   作:Mckee ItoIto

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 変わってしまったら、変わる前に戻れない。
 夢を叶えたら、叶う前には戻れない。たぶんそういうもの。


[ You Can’t Unring a Bell ] _ (2/2)

・・・

 

 

 

 

 私は、私が特別な存在なのだと思い込んでいた。

 

 

 だって、魔力に目覚めたのだから。世界に選ばれたのだから。

 

 

 私を中心に、世界が回っているように思えた。

 この世界が物語なら、きっと主人公は私に違いないって思えた。

 

 

 なんてことはない。そんなの、ただの思い違い。

 

 

 よくある話だともいう。

 

 か弱いはずの女の子が、ある日、不思議な力に目覚める。

 そして、男の子たちを差し置いて、みんなのヒーローになる。

 

 それはとても痛快で、胸がすくような、すごく気持ちの良い夢に思えた。

 

 もちろんそんなことに興味のない子もいるらしいけれど。

 私はそのイメージに魅せられてしまったのだ。

 

 そう、まるで少年のように憧れて。ホント、バカみたいに。

 

 

 

 そんな子供じみた夢想に、あまりにも青い幻想に、かなり長い間、囚われていた。

 

 それなりの才能で、それなりの成績で、それなりの期待を受けて、勘違いをしていた。

 

 

 

 

──お前たちは試験ケースだ。昔は固有魔法無しに魔獣と戦っていたが、今は原則的に許されていない。

 

──だから戦力が全く足りない事態になっているんだ。お前たちは、それを変える希望になれる。

 

──期待しているぞ。頑張ってくれ。

 

 

 

 

 楽勝だと。私なら当たり前にできると。

 

 そんな思い上がりは、あの瞬間、力づくで剥ぎ落とされた。

 

 現実を思い知らされたのだ。残酷なまでに。

 

 

 そうだ。私は主人公なんかじゃない。

 どこにでもいるような、ただのモブなんだと。

 

 

 例えば、意味も無くいつの間にか死んでしまうような。

 物語を引き立てるためだけの、単なる一般人のような。

 

 名前さえもつけてもらえないような。

 そのうち忘れられてしまうような。

 そんなくだらない存在なのだと。

 

 魔獣に、一方的に捕食されてしまうような。

 か弱くてくだらない存在でしかなかったのだと。

 

 

 そう思い知らされた時。

 私の輝かしい夢は。思い描いた未来は。

 あの震えあがるほどの熱は。

 一気に冷めて、どこかへ消えてしまった。

 

 それまでの私は、あの日、あの時に死んでしまった。

 今ここに残っているのは、魂が抜け落ちた身体だけ。

 

 本当ならそのまま身体も死んでいたのに。

 運が良いのか悪いのか、生き残ってしまったってだけ。

 

 

 何で生きているのかもよくわからない。

 なんでだろうな。よくわからないな。

 

 わからないけど、私みたいな終わり方するやつは、見たくないな。

 そんな思いが自然と湧いたから、私は教練担当として頑張ってきた。

 

 クソババアと言われながら、現実を知らないバカなクソガキどもに教えてきたのだ。

 

 お前らがこれから向かうかもしれないのは、地獄なのだと。

 生き残りたければ絶対に勘違いをするなと。思い上がるなと。

 そうじゃなければ、運が良くても私みたいになってしまうと。

 

 

 

 果たして、私が教えてきたことは本当に正しかったのだろうか。

 

 わからない。

 

 

 

 果たして、みんなを強くすることはできてただろうか。

 

 わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 わからない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──これは訓練ではない! 繰り返す! これは訓練ではない! 早く配置に、

 

 

 

 切羽詰まったような、ヒビ割れた怒鳴り声。私たちを引き連れてきた、大人の声。

 

 これまでに何度も想定してきて、訓練した内容を思い出す。

 

 

 部隊の隊舎近く、市街地郊外にて魔獣を確認。中央への救援要請後、状況に応じて観察、戦闘を行う。

 

 

 そんなのあるわけないと思いつつ、何度も何度も、マニュアルをなぞるようにして、完璧にこなしてきた状況。

 

 

 そうだ。やらなければ。

 

 

 後方支援部隊における、魔獣相対時の、行動の、ため、私は、

 

 

 

 

 

 ……。私は?

 

 

 

 

 あれ……?

 

 

 

 

 私は、何をすればいいんだっけ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ?

 

 ふと、眠りから覚めるような感覚。

 見えるのは見知った天井。自室のベッド。

 

 何か、夢を見たような。でもよく思い出せない。何が何だかわからない。

 目覚めは良いが、どこかスッキリしない気分。

 

 そもそも、さっきまで何をしていたんだったか。

 白昼夢を見るように、呆けてしまっている。

 

 

 えっと、自室だし、ここは隊舎か……。いや当たり前だが。

 

 太陽を見るに、今は早朝だろうか。

 空模様は、雲半分くらいの晴れ。まぁまぁいい天気。

 

 

 

 ……?

 

 

 

 何か引っかかった気がする。なんだろう、わからない。

 

 ……まぁいいか。

 

 

 ボーっとした頭を振り払うように、フラフラとクローゼットに向かう。

 隊服に着替えようと思ってたら、妙にボロボロな布切れが出てきた。

 

 ? なんだこれ? 隊服の切れ端? なんでこんなものが?

 

 よくわからない。

 というか何故か、私はマッパだった。私は裸で寝る趣味はないんだが……?

 

 まぁ、いいか……?

 

 とりあえず綺麗な隊服に着替えて出かけるとする。

 

 

 とりあえず今日は何の仕事だっただろうか。

 たしか教練だったような気がするけど、何をするかなかなか思い出せない。

 

 考えても浮かばないときは素直に人に聞く方が早いし賢い。

 そう、たしか同期のあいつも言っていた。まぁこれに関しては同意だ。

 

 

 事務に向かう途中、隊舎の壁やら床が、妙に傷んでいるのが気になった。

 あんな傷とか凹みとか、変な汚れとか、あったっけか?

 

 まぁ……いいか。あとで営繕に入らないとな。

 

 

 

 事務では大人たちがでんやわんやのお祭り状態だった。いわゆる、修羅場。

 なんでも、処理すべき書類やら日報がやたらと溜まっているらしい。……私は出したよな?

 

 まぁ事務は割とどこもかしこも激烈に忙しいので、例えば緊急性の少ない日報なんかは数日ごとにまとめて中央に送っているらしい。

 実際ヤバい連絡は別ルートで送られてるということなので、そこまで大した問題にはならないだろう。まぁあまり良くない慣習とは思うけど。

 

 果たしてこの日報クソ溜まり事件は緊急案件として連絡されるんだろうか……わからないけどされなさそうだな……。

 

 まぁいいか。えっと、今日の仕事は……。

 

 

 

 

 ? 休み?

 あれ? 全休?

 

 

 

 

 見間違いと思ったが、張り出されている予定表は休みになっている。

 隣には今日の日付が自動表示されている時計があるのだから、見間違いではない。

 

 ……でも今日って、この日で合ってたっけか? 故障か?

 

 よくわからない。

 

 周りを見てもあまり疑問に思っている様子はなさそうで、私の考えすぎなのかもしれない。

 

 

 

 

 

「……先輩?」

 

 

 首を傾げながらとりあえず自室に戻ろうとしたら、クソガキに遭遇した。

 

 なんか不思議とすごい久しぶりな気がするな。

 見るに、どうにも浮かない様子。何かあったんだろうか。

 

 

 

「先輩……先輩は……あの子がどこに行ったか……知りませんかぁ……?」

 

「……あの子?」

 

 

 

「っ! モヤシッ!! 先輩のバカッ!!!」

 

 

 

 突然ブチ切れられてビビる。なんなんだ今の。悪口か?

 

 ホントいい度胸してるなコイツ……。……。

 

 ……。……?

 

 

 

 うん?

 

 

 

「あ」

 

 

 

 あぁ、モヤシ、あのモヤシのことか。

 

 モヤシ、モヤシ。なんだか一瞬、ど忘れしてた。

 

 頭の中で何となく思い出す優先順位が下がってるような。そんな感じ。

 

 

「あの、先輩が付けたあだ名ですよねぇ……? ふざけてるんですかぁ……?」

「いや悪い悪い……今日は朝から頭がボーっとしてるんだよ……モヤシいないのか?」

 

「……。はい……」

 

 

 後悔が強く滲む、鎮痛な表情だ。

 仲直り、まだできていなかったのか。

 

 ……モヤシは、もしや、逃げたのか?

 

 

「あのっ、先輩、今日休みって聞きました……探すの手伝ってもらえませんかぁ……?」

 

「いいぞ」

 

「すみません……ありがとうございます……」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ああ、まぁ、ぶっちゃけた話。

 

 新人魔法少女の脱走は珍しいことじゃない。

 

 当たり前だろう。ついこの前まで普通の、年端もいかない少女だったのだから。

 

 いくら魔法少女になることでのアメがあったとしても。

 使命感や正義感、魔獣に対する怒りや恨みがあったとしても。

 

 厳しい組織での役割についていけない奴なんかいくらでもいる。普通のことだ。

 だからまぁ、何回も脱走して、何回も連れ戻される、というケースも少なくはない。

 

 一応、対魔獣組織は建前上、公募によって魔法少女を募っている。実態は全然違うが。

 

 つまりは国のための戦力なのだ。魔獣災害に対処できる、唯一の手段。

 だからこそ、そんな子供のワガママを、国が看過できるわけがない。

 

 必ず連れ戻される。逃げおおせたヤツなんかほとんど聞いたことない。

 だから、見つけたいだけなら私たちが探す意味はあんまりない。

 

 まぁ実際、上が動く前に下で対処する意味は大いにあるんだが。

 発覚すれば部隊の評価も下がるし、早い段階で見つけられるならその方がいいだろう。

 

 それが本人にとっても、部隊にとっても、一番マシな結果になるのだから。

 別に私個人の感傷なんか、くだらないものなのだから。ここでは考える必要はない。

 

 ……このクソガキにも、モヤシにも、悪いことしてしまったかな、みたいな思いは、魔法少女として不要なんだ。

 

 

 

 

 

 

・・・

・・・

 

 

 

 

 

 

 一日、二日。

 

 溜まった仕事をこなす激務の合間、徐々に元気が無くなっていくクソガキに付き合って、いなくなったモヤシを探した。

 一日見つからなかった時点で報告しないわけにもいかなかったので、大人たちにも伝えたが、誰もが興味なさげに、私たちの捜索劇を邪険に扱った。

 

 ぶっちゃけモヤシは、部隊運営上はいてもいなくてもどうでも良い存在だったのだから。

 評価に直結するからか大人たちも一応捜索に付き合ってはくれたが、あまり良い感情ではないことを隠しきれていない。

 

 はっきりいって、私も正直、半分くらい諦めていた。まぁ、仕方ないことだ、と。

 

 私の責任から目を逸らし、他人事のように。

 

 

 

 

 

 三日。

 

 それは突然、終わりを告げた。

 

 

 モヤシが、唐突に帰ってきたのだ。

 いつの間にか、ケガ一つなく、どこからともなく。

 

 

 

 

 そして、青白かった肌をピンクに上気させ、熱に浮かされたような表情で、私たちに話したのだ。

 

 

 わけのわからないまま、血の気が引いて、顔を真っ青にした、私たちに。

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 

 

 

 

 は。

 

 は。はは。

 

 ははは。笑うしかない。

 

 なんだこれ。ふざけてる。こんなの。こんなこと。

 

 

 

 

 

 

 あぁ、そうだ。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 そう。

 

 そうだ。

 

 そうだった。

 

 

 

 全部それが正しいという実感がある。

 認めたくなくても、ありえないはずの、何もかもが。

 

 

 

 あの時に起きたこと。

 訓練のはずだった、短すぎる一日のこと。

 

 何度やってもいつもと変わらず、何事もなく完璧に終えること自体が目的になりかけていた、ただの儀式のようなもの。

 

 それが、あの日は違った。本当に、想定の中だけだったはずの災厄が、本当に来てしまったのだ。

 

 

 実際問題、魔獣が哨戒をすり抜けること自体は、ごくまれにある。

 でもそれは低等級に限られるし数も少ない。精々が第一、第二等級程度のはずだ。

 

 そして、それくらいの魔獣、鍛えたプロの大人なら倒せずとも時間稼ぎぐらいできる。

 この部隊の大人たちだって、魔力が無くたって素人ではなかったのだから。

 

 そうだ。本来なら、何とかなったはずの話。

 救援を要請し、できるだけ周りに被害を出さないように、時間を稼ぐだけのミッション。

 

 魔獣は人間を襲うことを優先するから、基本的に逃亡はしない。

 ましてや自分が有利な立場ならなおさらのこと。

 ケダモノなのだから、後先のことは考えたりしない。

 

 冷静に対処すれば。

 どうにかなったはず。そうだろう。

 

 

 

 あの時のイレギュラーは二つ。

 

 一つ目は、光りながら現れた魔獣が、少なくとも第三、下手したら第四等級はある群れだったということ。

 それは本来であれば哨戒、観測から漏れるはずがないレベルの魔力強度と数なのに。

 

 四足歩行の、トラやオオカミのような混成タイプの群れ。

 

 支援部隊では討伐のしようが無い、少なくとも魔力対処が必須となるレベルのそいつらが、こんなところで襲い掛かってくることなど、本来ならありえるはずなかった。

 

 そして、二つ目は、二つ目は……。

 

 

 ……そうだ。まず真っ先に私が動かなければならなかった。

 

 あの場に現れた魔獣は十数体。

 対して、足止め担当として配置されていた私たち魔法少女も、ほとんどが新人とはいえ同数程度はいた。

 

 だから冷静に、訓練通りの対処ができていれば。

 私がしっかりしていれば、何の犠牲を出すことなく、時間稼ぎくらいはできたはずなんだ。

 

 私にはそれくらいの能力があり、実戦以外では完璧な成果をあげていたのだから。

 なのに私のせいで、最初から全てが狂ってしまった。

 

 まず、やるべきだった救援要請。

 電波と魔力が干渉してしまうため、要請は特別製の通信端末で行われる。

 

 その端末は監視監督役の大人が持っていた。

 あの時、私の代わりに声をあげ、最初に場をまとめようとした大人。

 

 

 そう。そいつが真っ先に襲われたんだ。私は動けなかった。

 

 

 そして大人の手を離れたそれは大きく弧を描くようにして……すぐ近くのモヤシの目の前に落ちた。

 

 そう。モヤシもクソガキも私と同じ足止め役の班にいたんだ。

 

 

 固まったまま、それを確保しに行かなかったモヤシを責めることはできない。

 他の新人たちでもそんなことできなかっただろうから。

 

 モヤシのすぐ後ろにいた大人が咄嗟に動こうとしたが、立ち位置が少し悪かった。

 

 

 

 そして。

 

 通信端末は魔獣に、粉々に踏みつぶされた。

 

 その瞬間、私たちを助けてくれる、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 最悪なことに、予備は無かった。

 だって、本来は訓練だったのだから。必要なかった。

 

 それに、端末は非常に高価で、壊れたらカツカツの予算でやっている支援部隊には大きな痛手だったから。

 仕方ない、いつもそうやってきたから。こんなこと起こるなんて思ってもいなかったから。

 

 

 はは。それを想定するのが目的の訓練だったはずなのに。

 本当にバカバカしい。あまりにも酷過ぎる本末転倒だ。

 

 

 一応、隊舎に予備はある。

 だけど多分、それを取りに行こうとした大人たちも、そのまま襲われていた。

 

 いや、わからないけど。もしかしたら逃げようとしたのかもしれない。

 そう思っておいた方がいいのだろう。もはや意味はなかったけど。

 

 

 そして。

 

 残されたのは実戦経験もロクに無い魔法少女たち。

 始まったのは阿鼻叫喚の地獄。

 

 

 私は、ずっと動けなかった。

 血肉を浴びて、バカみたいに尻もちをついて、そのまま泣いて震えていた。

 むせかえるほどの獣と血の匂いに、気が遠くなっていた。

 

 

 私とモヤシは無駄なまでに運が良かった。

 だから逆に言えば、そのせいで他の奴が、先に私たちの代わりに死んでいった。

 クソガキも割と最初の方にモヤシを庇って死んでいた。

 

 そうだ。

 

 ただただ、私は死にたくなかったんだ。

 ずっとずっと、真っ白な頭で、わけもわからず何かに祈っていた。

 

 だけど。

 魔獣は私にも襲い掛かった。そんなのあまりにも当然のことだが。

 

 

 ああ、そうだ。

 全部思い出した。確実に、私はあの時、死んでた。

 

 そうして、死が着実に近寄る足音を聞き、私は壊れたんだ。

 

 

 そう、死にたくないという気持ちが、もう確実に死ぬしかないという現実を突きつけられて、おかしくなった。

 

 

 張り詰めたワイヤーが切れるように。

 固いスイッチが強引に切り替わるように。

 

 バツンッ!!と、頭の中で何かが弾けたんだ。

 

 

 感じたのは、震えあがる程の魔力の流動。

 訓練の時にしか出せなかった、最高精度の魔力操作。

 

 

 即座に身体強化と魔力止血を行なって、私の腹を食い千切って咀嚼してたケダモノを、まずは全力でブッコロした。

 ついでに近くでモヤシに襲い掛かろうとしてたやつも、魔力弾で撃ち抜いてブッコロした。

 

 

 そう、そうだった。

 その時の視界は真っ赤でほとんど真っ黒だったが、ちゃんと観察すればわかった。

 この時の変に光る魔獣たちは、感じる魔力強度からは不自然に思えるほど脆かった。

 

 なんなら少し、自壊さえしていた。

 肉体に対して魔力が大きすぎる、そんな感じに思えた。

 

 だから、ぶ厚いゴム風船にハリを突き刺し割るかのように、魔獣たちはあっさり倒せた。

 

 まぁもちろん私の実力もあるだろうし、他の新人にはできなかっただろう。

 私は、基本魔法の練度なら前線部隊でもトップクラスの即戦力として、期待されていたのだから。

 

 だからこそ、憤った。人生で一度も感じたことのないほどの激情が、完全にぶっ壊れた身体を突き動かした。

 

 そうだ。

 私なら、この状況を何とかできた。最初から動いていれば、こんなことにはならなかった。

 そんな途方もない後悔が、燃え盛るように魔獣への殺意を生み出した。

 

 もはや意味のないあがきでしかなくても。百万の失点から一点でも過ちを取り返して、見せつけたかった。

 

 

 ……はは。笑える。

 そもそも、全部が全部、私の自業自得なのにな。

 

 

 多少苦戦はしたが、現場の魔獣はそこまで時間もかからず殲滅できた。

 そのせいでなんか色々身体のパーツが足りなくなってたが、不思議と全然痛くなかった。

 

 足りない血は魔力で強引に循環させてたが、たぶん脳みその方でもアドレナリン的な何かがドバドバ出てたんだろう。

 自分でも驚くくらい、魔獣との戦いに集中できていた。何も怖くはなかった。

 

 そして最初の方で魔獣が半分くらい、大人たちに釣られて隊舎に向かってたと思ったので、隊舎に戻ってそれもブッコロした。

 

 隊舎の方にも訓練の別班として魔法少女が何人か残ってたはずだが、そいつらは大した抵抗もできなかったらしい。

 大人たち諸共、とっくに血の海の中だった。たぶん、救援要請もできてなかった。

 

 ああ、そうだった。

 支援部隊の端末はイタズラ防止用に、権限が無いと動かないんだったか。

 だから前線部隊ではともかく、支援部隊では大人しか使えない。

 そもそも使う機会など無かったから、あってもあまり意味がない。

 

 何にせよ、大人たちがみんな死んでしまっては、もうどうしようもなかった。

 

 そう。そうだった。

 だから所詮、あがいたところで何も取り返せやしなかったんだ。

 全部が全部、遅すぎた。何もかもが無意味だった。

 

 そして、私も最終的に魔力が足りなくなって、ぶっ倒れたんだ。

 無理やり身体に留めてた血が、ドクドクと身体から溢れて、一気に意識が遠のいた。

 

 そしたら、後からフラフラついてきたモヤシが、なんか私にすがりついてたっけか。

 耳はとっくにイカれてたから何言ってるかわからなかったし、私もこの時に何を言ったか正直わからないけれど。

 

 その時のモヤシの姿が、ほとんどケガも無い白い肌にたくさんの血をつけてて。

 

 汚れてたのになんとなく、()()()()()()()()()()()って思ったのを、思い出した。

 

 

 

 ……そう。

 これが、ことの顛末の全て。

 

 結局のところ、結果はモヤシを残しての全滅だった。

 対魔獣組織第十二支援部隊は、あの日、間違いなく壊滅したんだ。

 

 

 死んでなければ忘れるはずもなく、死んでいたら思い出せるはずもない。

 

 

 ああ、そうだ。

 全部ありえない、嘘みたいな夢であって欲しかった。

 

 

 そう。そうだ。

 私はあの時、強く、心から祈ってしまってたんだ。

 

 

 最初は、死にたくないと。

 

 最期は、やり直したいと。

 

 

 

 どうか、()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 そう。そうだ。そうだよ。私のせいだ。私のせいで。

 

 

 

 私の願い。私が、()()()()()

 

 

 

 それは、こんなにも残酷な形で、叶ってしまったんだ。

 

 

 

 

 モヤシが興奮して話す内容に、クソガキが耐え切れなくなって席を外した。

 もしかしたら、逃げ出したのかもしれない。

 

 気持ちはわかる。私も正直、吐きそうだ。

 

 そう。そうか。そうだったのか。

 お前は私が死んだあと、そんなこと、してたのか。

 お前も全部、やり直したかったのか。

 

 そんなことしても、本当なら何も元には戻らないはずだったのにな。

 

 そんな、あんまりにも無意味で、あわれで、惨たらしい手慰み。

 本当ならそれも、心が現実を受け入れるための儀式のままに終わったのだろう。

 

 なのに。

 ままごとのような儀式は、歪んだ形で、ふざけた奇跡をもたらしてしまった。

 

 

 ……おかしいだろ。ふざけるなよ。

 

 なんで私の罪を、お前が勝手に償ってんだよ。バカ野郎。

 

 

 

 私も、吐き気をこらえながら考えなければならなかった。

 

 こいつが覚醒させてしまった魔法。

 死と引き換えに、やり直しを与えてくれる魔法。

 

 

 

 ()()()()()()()としての魔法。

 

 

 

 もしこんなのが上にバレたら……こいつはどうなるんだ?

 

 固有魔法は覚醒したら、使い方が何となく本人にわかるらしい。だからその言葉はきっと正しい。

 だけど死と引き換えとかいいながら、こいつは生きている。何かがおかしい。

 

 それにそもそも、代償のある固有魔法なんか聞いたことない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ……まぁ、固有魔法の詳細は機密もあるし、私が知らないだけかもしれないが。

 

 だとしてもこんなの、明らかにリスクとリターンが釣り合ってない。絶対にまだ何かある。

 だけど、そんなの上の人間にとって、絶大な恩恵の前には関係ないだろう。

 

 途中、モヤシが若干ドヤ顔で私にマウントを取るようなこと言ってきたので一瞬ムカついたが。

 本部への固有魔法登録のやり方がわからないので教えて欲しい、と言われた時、自分でも意外なほどに焦りを感じた。

 

 こいつのことなんか、どうでもいいはずだったのに。

 こいつに待ち受けている未来が、到底明るいものに思えなかった。

 

 だから、その手続きを私が引き取った。私が代わりにやるといったのだ。

 

 そんなやり方、知らないのに。

 当たり前だ。私は固有魔法なんか使えないのだから。

 

 だけど、モヤシはアホだから誤魔化せると思った。

 とにかく今は時間をおいて考えないといけないと思った。

 

 

 

 ……。

 

 それからの数日。

 

 実際、ほんの少しの間は誤魔化せた。

 でも、甘かった。

 

 

 前線の戦力補充は急務だから、固有魔法に覚醒すれば大抵の場合、遅くとも数日で異動が掛かる。

 ましてや、モヤシが覚醒した魔法は戦況を一変させ得るものだったのだから、お呼びが掛からないわけがない。

 

 あまりにも忙しかった、というのは言い訳だろう。

 クソガキにモヤシを任せて、一瞬でも考えることから逃げた、私の責任だ。

 

 ……あぁそうだ。私は、また逃げたんだ。

 モヤシは一度も逃げなかったのに。

 

 

 

 

 

 

「先輩……あの子がっ……」

 

 

 

 泣き出しそうな顔でモヤシがどこにもいなくなったことを告げるクソガキを見た時。

 私は、また間違えてしまったんだと思い知らされた。

 

 もし、あいつが逃げたんだったら、その方がずっとマシなのかもしれない。

 でもきっと違う。そんな、間違いのない確信がある。

 

 私の願いを叶えて私たちを救ったように、必ずあいつは誰かを助けに行くのだろう。

 

 

 "持たざる者は与えられない。まだお前は何も持ってない役立たずだ"、と。

 私が、前にあいつの夢を、そう嘲笑ったのだから。

 

 

 そして、あいつはその為の力を身に付けてしまったのだから。

 きっと、止まることはない。

 

 無かったころに、戻ることなんかできない。

 無かったことになんか、できっこないのだから。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……だったら。

 

 

 

 

 

「私……謝れなかった……あの子……なんで……どうしてぇ……」

 

 

 耐え切れず涙を零し始めたクソガキを見て、思う。

 

 そう。そうだ。そうだよ。

 もう、間違えるな。逃げるな。バカ野郎。

 

 

 

 

「……私は強くなる。私には力しかないから」

 

「……?」

 

「もっともっと強くなって、さっさと固有魔法にも覚醒する」

「せんぱい……?」

 

 

「……そう。そうだ。そうだよ。……あいつを救うんだ」

 

 

 憤りに近い、後悔。

 そして、フツフツと心の奥から湧いてくる衝動。

 

 

「ふざけるなよクソモヤシ。……救い返してやる。……()()()()なんかさせてたまるか」

 

 

「……」

 

 

 できるかどうかもわからない。何をすればいいのかもわからない。

 わからないことだらけだけど、きっと何とかしてみせる。

 

 こんなの、根拠の無い、子供のような夢想に過ぎない。

 だけど私はもう、何も怖くないのだから。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は文字通り、生まれ変わったのだから。

 もっともっと、強くなれる。

 

 だからやれる。

 

 やるんだ。

 

 

 

 

 

「……お前はどうする」

 

「えっ……」

 

「……」

「……」

 

「……」

 

 

「……私は。あの子に名前を教えてもらったのに、一度も呼んであげなかった」

 

「そうか」

 

「私の名前も教えたけど、呼んでもらえなかった」

 

「そうか」

 

 

「だから、今度こそ、()()()()()()()()()()()()になる」

 

 

「……」

 

「あの子が勝手にどこかに消えたりしないように、一緒にいたい」

 

「……そうか」

 

 

 

 そうか。それが、お前の夢か。

 

 魔法少女は、認識阻害でよほど親しくないと名前すら認識できない。

 お前らって、そんなに仲良かったんだな。だったら、ちゃんと仲直りしろ。

 

 その夢、絶対に叶えてみせろよ。

 

 

 

「……その時は、先輩も一緒ですよぉ?」

 

「……は?」

 

「あっは……先輩ってホントに言動で損してますよねぇ……ホントはこんなにも優しいのに」

 

「……アホ言うなクソガキめ」

 

 

 

 

 これから何をすべきか。いまから何ができるか。

 

 とにかく、伝手を作り、情報を集め、探し続けて、考える。

 

 考えなければならない。考え続けなければ。

 絶対に、考えることから逃げたらダメだ。諦めたら終わりだ。

 

 夢は、見続けないと忘れてしまうから。それが幻と消えないように。

 

 そういうことだろ?

 

 願うのではなく、待つのではなく、つかみ取ってみせる。

 そう。そうだ。そうだよ。私なら、私たちなら、きっとできる。

 

 

 

 

 

 

 空模様は曇りのち晴れ。夢を語るには、良い天気だ。

 

 

 

 ……覚悟しとけよクソモヤシ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・




 裏から表へ。
 "救済の魔法"は"夢見る救い"から"歪んだ救い"へ。




 ところで関係ないんですが、夢って大体目覚めてすぐ忘れちゃいますよね。
 覚えとくコツってなんでしょ、やっぱり夢日記?
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