一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女   作:Mckee ItoIto

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どうか、この穢らわしい世界に救いを。



汚染と浄化

 まさか……革命に巻き込まれた子にあんなことが起こるだなんて。

 偶然にして、想像以上の『進化』でした。あれこそまさしく、神の子の所業。

 これまでの有象無象を悉く失敗作へと変えてしまった、私の最高傑作。

 では、神の子を生み出した私は一体何者になるのでしょう?

 

 ……神様?  ……とても良い響きですね。

 

 どうか、頑張ってください。

 新世界の神として、あなたのことを陰ながら見守ってますよ。

 

・・・

 

 

 魔獣の出現には一定のサイクルがある。

 ある程度の出現が続いたあとで一気に増え、そしてピークアウトする。

 先週、関東で大規模な出現があったらしいが、こちらは平和そのもの。

 今回の出現サイクルはおそらくこれで凪の状態に入ったということだろう。

 

 何とか今回も私たちの部隊は、このまま全員無事に休息期間を迎えることができそうだ。

 

 

 対魔獣前線部隊、九州方面担当、第九部隊。

 

 戦闘の矢面に立つ前線部隊としての実力は末席も末席。アタッカーがほとんどいなくて、戦えなくもないがほぼ全員サポーター。

 隊長も第五等級相当でしかなく、はっきりいって雑魚専門の雑魚集団だと言われることも少なくない。

 事実として私たちは、同じ九州方面担当の第八部隊をサポートするための前線支援部隊みたいなものだ。第九部隊が単独で戦闘をすることはそんなにない。

 彼女たちは大陸で溢れる魔獣を堰き止めるための防波堤の役割を持つ、最重要ともいえるこの国の盾。一度たりとも、決して負けるわけにはいかない存在。

 だからこそ、このような配置になっているのだろう。第九部隊のみんなはそれに納得して任務に当たっている。

 前線に出て戦うこともあるってだけで正直、第十から第十六までの後方支援部隊と大して変わらないけど、我々はこの役目に誇りを持っている。らしい。

 

 

 私だけが、それに不満を持っている。

 

 

 やってることは毎回のようにいつだって、第八部隊の援護。後始末。尻拭い。

 彼女たちがどれほどの戦果を上げたとしても、私たちはなかなか評価されない。

 輝かしい英雄の影で、いつも泥を被って縁の下を支えている。

 

 なんで、優しいみんながこんなにも軽んじられているんだと。

 

 別に彼女らの助けになるのが嫌だというわけじゃない。

 第八の人たちが下に見てくる、なんてことは無いと思っている。

 彼女たちはみんな気持ちのいいバカだから、そこはいい。

 

 だけどなんで、私たちも無力な人たちを守っているっていうのに。

 守るべき人たちに馬鹿にされなきゃいけないんだ。

 

 私たちだって、必死に戦っているのに。世間では明確に優劣がつけられている。

 

 冷静に見てしまえば絶望的な情勢。誰もが不安を抱えて、ストレスを感じていて。

 その捌け口として、私たちの部隊はよく槍玉に挙げられる。ふざけるな、誰のために。

 

 前線部隊は魔法少女隊の花形。メディアにもよく取り上げられる。

 だからといって、矢面に立っているからといって、好き放題になんでもぶつけていいわけじゃないんだ。

 そもそも私たちだって目立ちたくて目立ってるわけじゃない。

 

 もちろん、中には純粋に私たちを評価して応援してくれる人たちもいる。

 そういう言葉は素直に有り難く思う。それが嬉しくて、次を探してしまう。

 

 だけれど、どうしても嫌な言葉が気になってしまう。嫌らしい言葉が目についてしまう。

 

 お願いだから、優しいみんなを傷つけないで。汚さないで。

 するなら、私だけにしてほしい。

 

 私はすでに汚れきっている『汚染』の魔法少女。

 

 私になら、何をしたっていいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またヨドさんは、変なものを見ておられますね」

「あ……隊長」

 

 声をかけてきたのは、我らが隊長。美しすぎる聖女。『浄化』の魔法少女。

 私は、彼女がいるから存在を許されている。

 

「あまり気にされてはダメですよ。人目に触れる以上どうしてもそのような声はあるものですから」

「……はい」

 

 でも、気になってしまう。何かあるたびに、思わずエゴサーチしてしまう。

 たまにある温かい言葉のために。みんなが変なこと言われてないか確認して安心するために。

 ……嫌な性分だ。半ば、依存症みたいになってる気もする。

 

「見てしまわれる気持ちも、わからなくはありません」

「……」

「というかまあ、私もたまに見てしまっているのですが」

「え……、ダメです! 目が腐ります!」

「大丈夫ですよ」

 

 そんな……あんな汚物の掃き溜めがこの人の目に触れていただなんて……。

 他の人が見てて嫌な気持ちになったりするってのは見たことも聞いたことあるけど……。

 まさかこんな清らかな人が……。

 

「ひどいことも多く書かれていますけど真っ当な応援などもあって、宝探しをしてるようで意外と面白いですよね」

「それは……そうですけど」

 

 そのひどいことの比率が高すぎるのが問題なんですが……。

 セクハラやストーカー紛いな粘着じみた犯罪予告は日常茶飯事。

 弱すぎて魔法少女の恥晒しだとか、第八の金魚の糞だとか、そんな純粋な罵倒もある。

 

 誹謗中傷をするような奴は主張が長続きしないのか、いつの間にかネットからいなくなったりするものの。

 結局入れ替わり立ち替わりで人が変わるだけで、そういう声が途切れることはほとんど無い。

 

 やっぱり、みんなの心に余裕がないからだろう。

 魔獣のせいで世界は悪くなる一方だと言われている。

 

 だから私たちが、頑張っていかないと。

 みんなが安心して過ごせる平和な世界を取り戻すために。

 

 そしたら、もっと世界は綺麗になるのだろうか。

 

 

 

「ところで少し気になっていたのですが」

「……なんでしょう?」

「私ってそんなにえっちに見えるのでしょうか?」

「……」

「……?」

「……ノーコメントでお願いします」

 

 なんだかんだ魔法少女は見目がいい子ばかりなので、一番多いのはやっぱりそういう話題。

 本部で認識阻害をかけているらしいので現実で直接何かされる、みたいなのは無いけど……。

 そういうのに恐怖心を抱いている子も少なくない。メンタルケアは必須だ。

 

 私たちは戦闘に出るたびに服がボロボロになっちゃうので、前線の子は特にそういう目で見られがちだったりする。

 なので肌を露出させないために魔力で作った服を上から纏ってたりしてて、私は魔女っ子みたいな感じのマントとローブで身体をすっぽり隠している。

 

 隊長は聖女っていう二つ名を気に入っているのか、改造修道服みたいなのをよく纏ってるのだけど……。

 なんかこう、やたらと深い変なスリットが入ってたりしてて、なんていうか。

 

 ……ちょっと大きな声ではいえませんが、正直えっちです。ぶっちゃけすごいえっち。

 

 全体的に露出度は低いはずなのに、この、チラチラ見える黒ストッキングの足が、すっごい。

 上半身も胸元を見せてるわけじゃないのに、なんかすごい。見えてないのが逆にえっち。おっぱいがデカすぎます。

 ネット上で性女様って言われてるのにむかつきながらも、ほんの少し、そうほんの少しだけなんだけど、共感を覚えてしまうくらいえっち。

 私の貧相な身体にも興奮する奇特な奴らはいるようだけど、流石に隊長ほどは盛り上がってない。

 当たり前だ、えっちレベルが違う。えっちすぎます。だめだめ……。

 

 ああ……あんな奴らとほんの一瞬だけでも同じこと考えてしまうだなんて……。

 やっぱり私は汚れてる……。

 

 

「……なるほど」

「あ……」

 

 違います。違うんです。誤解です。なんですかその表情は。

 そんなお顔で近づかないでください。ダメです。勘弁してください。

 

 あ、ちょ、近、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────突然、耳をつんざくサイレンが鳴り響いた。

 

 

 

 

「え、魔獣……?」

「……行きましょう」

 

 なぜ。ピークアウトしたのではなかったのか。

 凪の時期は、低等級の魔獣しか現れない。そのはずなのに。

 鳴るはずのない音が鳴った。

 

 高危険度の魔獣が現れたことを示す、特別警報。

 

「場所は……かなり近いですね。第九部隊が単独でぶつかることになるかもしれません」

「……」

「非常呼集です。支援部隊からも偵察を出してもらい、その他は待機。情報を受け取り次第、10分以内に作戦を決定し現場に向かいます」

 

 私たちは平均戦力が低いので、他の部隊と違って強引な力押しは難しい。

 だからいきなりすぐに現場に向かうことはできない。

 

 もし第八部隊も近くにいれば。一瞬でもそんなことを思ってしまう自分が嫌になる。

 

 今この瞬間も、被害が出ているかもしれないのに。

 魔獣が無力な人たちを襲っているところを想像すると、身が張り裂けそうになってしまう。

 ジリジリと時間が過ぎていくのを、歯痒い気持ちで待ち続ける。

 どんな強さの魔獣が、どれほどいるのか。本当に私たちだけで対処できるのか。

 いつもいつもこの時間は恐ろしく不安で仕方がない。

 

 だから早く。早く。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 

「……状況開始」

 

 目の前に広がるのは第五等級混じりでほとんどが第三等級前後の百体近い魔獣の大群。植物系が多いだろうか。

 数はかなり多いとはいえ、物の数にも入らないような雑魚の群れ。

 私たちでもそれなりに余裕を持って対処できそうな程度の規模でしかない。

 隣で副隊長のヨドさんも少し安心した様子をみせる。

 実際に目で見るまではやはり不安だったのだろう。この方は心配性だ。

 

 幸いにも周囲への被害はまだ出ていない。本当に良かったと思う。

 私たちはこの国を守るものとして、常に最大を救わなければならない。

 そのために切り捨てられる少数というものはどうしたって、生まれてしまうことがある。

 

 必要なことだ。仕方のないことだ。割り切って、切り替える。

 

 部隊の隊長を引き継ぐに当たってこの考えは徹底的に叩き込まれているものの、当然だけど被害はゼロが最良。

 常にそれを目指す努力は忘れてはならないし、少ない犠牲を必要経費として最初から計上する人間にはなりたくない。

 

 とはいえ。今の時点で終わったと考えるのは早計が過ぎるだろうか。気を引き締め直さないと。

 

 先頭の魔獣が辺りを伺い、こちらに気づいた。

 私たちは、すでに戦闘態勢に入っている。

 

 

「『浄化(Purification)』」

 

 

 浄化とは不純を取り除く魔法。

 病気を癒したり汚水を真水にしたりなど、本来は戦闘で使えるような魔法ではなかった。

 実際、私は魔法に覚醒してからも長く第十支援部隊の衛生班に所属していた。

 それが変わったのは、たまたま前第九部隊の戦闘に私が巻き込まれた時のこと。

 

 偶然のことだった。

 魔獣の魔力は混沌と混ざり合っていて、その状態で不自然に安定してしまっている。

 だからそれを純粋な魔力へと清められることで、バランスが崩れて弱ってしてしまう。

 私の魔法は魔獣にとって、致命的な弱体化魔法だったのだ。

 

 私よりも強い魔法少女なんか、一般隊員の中にだっていくらでもいる。

 でも私ほど、一定以上かつ安定したサポートができる魔法少女は他にいない。

 

 私が魔獣を弱らせ、みんなで魔獣を逃さぬよう囲んで叩く。

 数が増えるほどに効果が高まるので、雑魚の群れにはこの上ない魔法。

 突出した高等級の魔獣にはあまり通用しないので他の作戦も用意してあるが、今回は必要ない。

 

 そして、いま隣にいる彼女が入隊したことで、私たちの部隊は真に完成されたといってもいい。

 今や第九部隊は、他の部隊と比べても決して戦力で引けを取らない。

 

 

「『汚染(Pollution)』」

 

 

 ヘドロのような禍々しい魔力の触手が、魔獣に触れた。

 たったそれだけで、大木のような魔獣が色を失い地に伏せる。

 私はその余波を、彼女の邪魔にならないように丁寧に浄化していく。

 

 二年前、いきなり第五等級相当だという新人がこんな底辺の部隊に来ると聞いたときは耳を疑ったものだけど。実際に見てすぐに理解できた。

 いくら強くても、流石に諸刃の剣すぎる。おそらく本部も支援部隊の教育班も持て余していたのだろう。

 前線配属が決まらず、ずっと支援部隊で絶対に魔法は使うなと念を押されながらこき使われていたらしい。

 

 初めて会ったときは魔獣への恨みと人間不信で、身も心もドロドロに澱んでいて。

 それでいながら人のことを本当の意味では決して嫌いになれない純粋さを持っていて。

 

 その力をもって私たちを救ってくれた。

 

 ここに来てくれて本当に良かった。私だったら、この鋭すぎる剥き身の剣の鞘となれる。

 私だけが、彼女を本当の意味で包んであげられる。

 

 歯車が噛み合うように。パズルのピースが埋まるように。

 私たちは出会って、完璧になった。

 

 私と彼女は二つで一つ。

 私は決して清らかなんかじゃないし、彼女は絶対に汚くなんかない。

 彼女を穢らわしいと言う人がいる。私が汚れてしまうと言う人もいる。

 

 ……本当に何も分かってないと思う。表面的なことしか見えていない。

 あなた方の目は曇っている。

 

 見るといい。彼女が歩くだけで、魔獣が跪く。抵抗など無意味。

 私たちは従者のように、その始末をしていく。

 

 本当に美しい。純粋に、素晴らしい光景だとは思わないだろうか。

 例えその戦う姿が禍々しく映ろうと。私にはそれが神様のように見える。

 私たちには、私には決してできなかったことを叶えてくれる、私の神様。

 

 そう。私を聖女というのなら、私が崇める神様は彼女だ。

 そしてその神様は私がいなければ完成しない。その事実に、とてつもない高揚感を覚えてしまう。

 可愛らしくも不完全。その全ての反応が私の心を刺激する。ああ、素晴らしくも不敬。だけど、あなたが望むのなら、全てを差し出し捧げよう。私は鞘で、巫女で、従者なのだから。

 今は恐れ多くも私の立ち位置の方が上だけれど、そんなものは仮の立場みたいなもの。いつか彼女を頭上に戴く日が、本当に、本当に、待ち遠しい。その時は、なんてお呼びすれば。今は対外的な問題もあって恐れ多くもさん付けをさせていただいているけれど私が傅く立場となれば様付けでお呼びしても問題はないだろう。いやそうすべきに決まっている。いやいやもしかしたら名を呼ぶことですら不敬なのでは。そもそも今の状況だって全部おかしいし周りの子は共感してくれてるけどもっともっと崇めてというかあの方を不純な目でみる世間の輩どもなどにもちゃんと布教して浄化せねば、

 

 

 

 

 

「……『浄化(Purification)』」

 

 おちついた。

 いけない、いくら余裕とはいえ今は戦闘中だ。それに集中しないといけない。

 この魔法は精神にも作用するから、不純な気持ちを取り除いて落ち着かせてもくれる。

 あれ、ということはさっきまでの私の精神は不純だったってことなのだろうか……。

 気にしてはいけない気がしたので気にしないことにする。

 

 とはいえ、状況に変化は無いまま。すでにほぼ全ての魔獣が倒れ、私たちが止めを刺した。

 このまま余裕を持って状況は終了しそうだ。

 最初から私たちだけで十分なのは分かっていたので、応援要請はしていない。

 一応、要請する準備はしていたものの、今回は必要ないだろう。あちらにはあちらの任務もある。

 被害もなく、彼女の危険もなさそうだから、このままで何も問題はない。

 

 残りは最後の一体で、すでに片付きかけている。

 私は少し離れた場所で、倒れた魔獣の息の根を止めようと向かった子を眺めて、

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぇ?」

 

 

 予兆は無かったはずだ。なのに。

 何の脈絡もなく。訳も分からず。

 

()()()()()()()()()()()。何か、零れ、

 

 いけな、意識が、まず、……。

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

 何が起こった。私の目の前の光景は何だ。

 無事に終わりかけていた戦闘だったはずだ。

 

 弱って倒れ伏していた最後の魔獣が突然、光ったと同時に動き出した。

 

 刺々しい触手で近づいていった隊員ごと、離れていた隊長を一瞬で貫いて。

 

 まるで、ゴミのように。

 そのままその触手を大きく振るって、二人を宙に高く放り投げた。

 

 ズタズタになって回転する彼女たちを、私は汚染された魔力触手で咄嗟に受け止めようとして。

 

 思わず、無意識に、触れることを躊躇ってしまい、手が止まり、

 

 

 

 それは()()()()()を立てて地面に堕ちた。

 

 

 

「あ……」

 

 

 

 広がる血溜まり。動き出す魔獣。

 

 私は、動けなかった。動かなければならないのに。

 隊長の代わりに。この場の最高責任者として。

 

 震える手で、端末を取り出して、救援要請を出す。

 それから、隊長に代わって、状況判断を、

 

 隊長の代わりに、

 代わりに……?

 

 

 

「ぁあ」

 

 

 

 隊長が、あの人がいなくなったら。私はどうすればいい。

 あの人のおかげで、私は化け物から、魔法少女になれたのに。

 それが今の私は何だ。

 

 無差別に穢れを撒き散らすしかない、ただの災厄。

 魔獣なんかよりもよっぽど酷い怪物。

 

 そう言われていたあの頃のように。戻ってしまったのか。

 

 今の、私は、

 

 

 

 

 

 

 

「しっかりしろ副長ッ!!」

 

 バシンと痛烈に頬を叩かれた。いたい。

 目の前にいきなり現れたのは私の前に副隊長だった人。

 痛覚で突然晴れた視界に戸惑いながらも、状況が少しずつ頭に染み込んでくる。

 

「……隊長たちは」

「隙を見て回収したいが、多分厳しい」

「……」

 

 輝きながら立ち上がった大木は巨木となり、触手を振り回している。

 作戦の要を失った隊員たちが、何とか応戦しているものの、おそらく長くは持たない。

 

 彼女たちはいいところ、第四等級の魔法少女。

 対して復活した魔獣は明らかに第六等級以上。おそらく第七等級に届いているかもしれない。

 戦闘が成立しているかのように見えるのは、ひとえに彼女たちの戦いかたが上手いだけで。

 はっきり言って、勝ち目なんか微塵も存在していない。

 

 何が起こった。第七等級なんか、そんな頻繁に出てきていい等級ではない。

 いや、それより。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 何が、起こっている。

 

 

「副長、私たちは覚悟している。どうか決断を」

 

 魔力弾で前衛を援護している元副隊長が、迷いのない声で決断を迫る。

 やる……本当にやるのか。

 

 現在の第九部隊の作戦は基本的に隊長の『浄化』に依存している。

 そのため万が一、隊長を失った場合は全てを放棄して即時撤退するか無駄死に覚悟で遅延戦闘を続けるかしか、最悪の状況での選択肢が存在しなかった。

 

 

 だけど、今は私がいる。

 

 部隊の損耗とその場の汚染を度外視すれば。

 状況を終結させることが、できてしまう。

 

 作戦名、グラウンドゼロ。

 

 決行条件は、通常作戦の続行が不可能であり、撤退による事後被害がその作戦の影響より甚大であり、そしてそれによる確実な終結可能性があること。

 敵は強大だけれど、浄化の弱体化も、汚染のダメージも、残っている。強化されて底上げされただけで、回復はしておらず消耗はそのままだ。

 

 私が決断してしまえば、全力さえ出してしまえば、勝ててしまう。

 私は西側でたった二人しかいない第七等級魔法少女の一人。全てを穢す、化け物だから。

 

 条件が揃ってしまっている。

 ずっと、机上だけで考えられていて、そんなことずっとなければいいと思っていたことが、目の前に差し迫っている。

 

 

 前衛の子たちも、こちらを一瞬見て、頷いた。

 

 私は、まだ決断できない。

 

 戦線が崩れ始め、元副隊長が私の肩を軽く叩いて前衛に加わった。

 

 私は、まだ決断が、できない。

 

 

 

 隊長が。

 

 血溜まりに沈んだままの隊長が、静かにこっちを見ていた。

 まるで生気を感じられない穏やかな表情で、こちらを見て、全てを許すように深く、頷き、

 

 

 

 

 

──『汚染(Pollution)

 

 

 

 

 

 世界が、全て醜く穢れて染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしてこうなったのだろう。

 

 後に残されたのは、息づくもののいない不毛の大地。

 ひとりぼっちになってしまった。

 

 ……状況を、まとめなければ。隊長の代わりに。

 たった一人の第九部隊の責任者として。状況を。

 

 災厄級の魔獣はあっさりと、完全に穢れ死んだ。余波で周りを穢し尽くした代わりに。

 

 私以外に、この汚れた地獄で動くものは何も存在しない。

 

 フラフラと、隊長だったものに近づいていく。浄化の彼女は、無惨にも汚れきっていて。

 

 

 私の目から、汚いものが流れ始めていた。本当に汚らしい。全部私のせいなのに。

 私がもっと魔法を制御できていれば。周りを汚すことなく、敵だけを倒すことができたなら。

 いや、そもそも最初から私一人だけで特攻していれば、何も問題なかった。

 私は汚れてもいい。いくら傷ついてもいい。私は『汚染』の化け物なのだから。

 いくらみんなが私を仲間として扱ってくれようと、一緒に戦うだなんてやっぱり無理だったんだ。

 

 視界の端で、いつの間にか地面に落ちていた端末がチカチカと光っていた。

 

 ……本当に全く意味のない仮定だけど。

 あの時、この場にいたのが、私ではなくてあの第八隊長であれば。

 こんなことにはなっていなかった。そうに違いない。

 

 私が。私なんかが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 少女の声が聞こえた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、声が。

 

「だれ……?」

「遅くなりました。助けに来ました」

 

 

 ……。

 

 ……何を。

 

 何を助けるというのだろう。

 今更、今更何ができるというんだ。

 

 

 

「……早く、消えてください。あなたが汚れてしまう前に」

「大丈夫ですよ。全部、大丈夫です」

 

 大丈夫……?

 

 何が。

 何を言っている。

 

 冷静でいなければならないのに、頭に血が上ってしまって。

 近寄ってきた少女の胸ぐらを思わず掴んでしまい、言ってしまった。

 

「何が大丈夫なものか……!」

「もう、大丈夫です」

「私のせいでみんな死んだんだ!! こんなのどうにも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『救済(Redemption)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が、赤く染まった。私が汚した世界が、赤く染め直された。

 突然のことに固まってしまった私の腕の先で、少女が力無く項垂れた。

 

 何が、起こった。この少女は何をした。

 

 びちゃびちゃと血を零す少女を抱え、混乱した頭で状況を確認しようとして、気づいた。

 

 汚染が、ほんの少しずつ薄れ始めている。

 効力を失っていたはずの浄化が、再び始まっている。

 これは隊長の、無意識の自動浄化だ。いや、そんなはずは、何が……?

 

 周囲を伺い、目を疑った。

 みんなの身体が、元通り綺麗になっている。何事もなかったかのように。

 

「え?」

 

 何だ、どういうことだ。いまだに状況が飲み込めない。

 

 魔獣は変わらず死んだままだ。

 私たちだけが、助かっている……? 助かって……?

 あれ……? この腕のなかの、これは何だ?

 

「あっ……」

 

 一気に頭が覚醒した。そうだ。この少女が何かした。何か、してくれた。

 私たちを助けるといっていた。救援だったのか。おそらく第八、ではない。誰だ。

 いやそんなことより死にかけているこの少女を何とか助け、

 

「ょ……かっ…………た……」

 

 再び、私は固まってしまった。頭が理解を拒んだ。

 腕の中の少女がいきなり崩れ始め、塩の塊のように、細かくボロボロと、

 私は慌てて、掻き抱くように少女を助けようとして、

 

 

 

 

 ……最後には、風の中に少女は消えた。

 

 

 

 

 私は動けなかった。……動かなかった。

 

 私は心の底で思ってしまったんだ。最悪なことに。()()()()()()

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 気づいた瞬間、背筋が凍った。あまりにも最低すぎる。本当に穢らわしい。

 

 

 だけど、これは心からの本心だった。自覚したら止まらなくなった。

 あの少女への、汚れた感謝の気持ちが。本当に、本当に。

 

 

「あれ……?」

 

 

 隊長が、目覚めた。格好だけがボロボロで、身体は傷一つなく。

 

「これはいったい……?」

「……、……奇跡が」

「……?」

「奇跡が起こったんです」

 

 

 頭の回っていない隊長を抱き止めて、私は思う。

 私は最低の、汚れた化け物。だから、あの少女を悼んだりはしない。

 

 

 

 ただ、感謝を。神に祈るように、感謝を送ろう。

 

 私たちを助けてくれて、本当にありがとう。

 

 

 

・・・




『魔獣等級』
魔獣の危険度を表す指標。
測定魔力量や行動パターンなどある程度認定基準が決まっており、
支援部隊の先遣観測班などが認定して報告をすることが多い。
熟練の魔法少女になると見ただけで何となく大体の等級が分かる。
認定最高位の魔獣等級は第八等級で、十数年前に一回出現し歴史に残るような甚大な被害をもたらした。

魔法少女の強さにも等級を用いられることもあるが、これは正式なものではなく非公式なもので、
大体この等級の魔獣と互角に戦える、もしくはその戦いに大いに貢献できる、といった感じで実態は割と適当。
実のところ人員や魔獣の情報を処理する支援部隊の一人の魔法少女が個人的かつ勝手に決めているものなのだが、多くの魔法少女はこの等級について認めていてその認定に一喜一憂していたりする。

第五等級相当はそれなりにいるものの、第六等級相当はかなり少なく、第七等級相当は各部隊の隊長に四人(うち副隊長が三人)、
第八等級相当は第一部隊の隊長一人のみ。ただし魔法の強さに対して本人が虚弱すぎて前線には基本的に出てこない。


『対魔獣組織』
通称、魔法少女隊とも呼ばれる。男も事務方や作業員としては存在するものの女所帯でそれほど数はいない。
隊のメインである魔法少女は、少女と言われているように基本的に10代の女子で構成されており、
生き残り続けて魔力が衰え始める20代に入ることができたら、引退して事務方に回るようになることも。
もちろん非魔法少女の事務員や作業員の女性もいる。

総本部たる第一部隊(魔法少女4人と事務方多数)
前線部隊たる第二〜第九部隊(魔法少女各15人前後と事務方少数)
支援部隊たる第十〜第十六部隊(非覚醒の者を含む魔法少女各30人前後と事務方多数)

の、全十六部隊で構成。人の(主に魔法少女の)増減が激しいので人数は正式には非公表。
メディアでは国民を守るカッコよくて可愛い守護者みたいな感じでプロバガンダがなされており、概ね好感度は高い。
そのため、魔法少女は女子のなりたい仕事で常に上位についている。魔力の素質がないとそもそもなれないのだが。

人権侵害だとか搾取だとかいう意見は何故か瞬時に封殺されて無かったことになる。
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