一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女   作:Mckee ItoIto

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※後章の前日談的な日常回6編詰め合わせ。全2回予定。
※天気模様は概ね晴れ時々曇り。スナック感覚的な軽いお話、のつもり。


"Or Are They Ephemeral In The End?" _ (1/2)

・・・

 

<眠れる興奮>

 

・・・

 

 

 

 

 刺戟。しげき。

 すなわち反応を起こさせるアクション。

 

 そのリアクション。ボケに対するツッコミのような、反射的なふるまい。

 

 そんなツッコミ技術を関西人としてもっと身に付けたいなと内心思っていたり。

 いや、刺戟というからには与える側だし、ボケも磨かなといかんか……?

 

 ……こんど後輩にボケ倒してみよか。

 

 

 

 四国の第十一部隊。

 内海と外海に囲まれて少し特殊な環境にある、この部隊。

 その役割もやっぱり少し特殊。

 

 他の後方支援部隊とは違い、医療専門の部隊にあたる。

 だがここで治療するのは主に身体的なものではなく精神的なもの。

 誤解を恐れずぶっちゃけて言えば精神病棟のようなもの。

 いや、本物の精神病棟がどんな感じかよくわからんけど。

 

 まーでもイメージ的にそんなんだからか陰気なやつばっか、とか言われることも多いんよな……。

 そういうやつらを治療するための部隊なんやし、そんな当たらず遠からずやし、しゃーなしなんやけどなぁ……。

 

 医療現場は基本的にいつだってハードワーク。当直もあれば夜勤もある。

 ご多分に漏れずここも超絶に忙しいので、まとまった休みはほとんどない。

 

 ないのだけど、不定期ながらもポツリポツリとそれなりに休みはあったりもする。

 特にうちらは未成年だからか、多めに休みをもらえてるように思うんやけど……。

 

 決まった日の休みじゃないってのが玉にキズというか、なかなか予定も立てられんのよな……。

 あと呼び出されたら戻るしかない、実際は任意協力要請だけどまず断れない、そんな感じだからそもそも完全休日ってのも実質存在しないっていう問題。

 

 まぁそれでも呼ばれなければ仕事じゃない、のだから休みには違いない。

 

 で、久々の休みなわけなんやけどなぁ。

 呼び出しを考えると遠出もできないけど、せっかくだしちょっとした近所への外出をしようかなぁと。

 

 そう思ってもあまり誘える相手がいない件。

 仕事じゃないのは患者か、患者を気にして大人しくしてるやつばかり。

 

 となるとまー、あいつしかおらんわけで。

 すぐ隣の隊舎へといま歩いてる最中。そして到着。

 

 ノックノック即ガチャン、と。

 アポ取ってるのでカギは掛かってない模様。なので勝手に開けて入る。

 

 

「邪魔するでー」

 

 

「邪魔するなら帰ってー」

「あいよー」

 

 

 そのままきびすを返す……って、なんでやねん。

 

 

「……うわ、戻ってきた」

「戻るにきまっとるやろアホウ」

 

 

 そこにいるのは気だるげな雰囲気の後輩。

 小さくて大人しそうな割に結構トゲのある強いやつ。

 

 この後輩は『鎮静』の魔法少女だ。

 そして自分は『刺戟』の魔法少女。

 

 二人で精神を落ち着かせたり刺戟したりする魔法を使い、この部隊で患者たちの治療を手助けしている。

 

 まー実際はどちらも精神ってか肉体の、なんかこう、魔力的な作用でホルモンやらなんやらがどーのこーのって部隊のお医者様が言ってたけど詳しくは知らん。

 別にわからんでも使えるし、困るもんでもないし。もんもんほるもん。っとな。

 

 ほるもん。

 

 ……。

 

 

「そんなわけでホルモン鍋でも食いに行こや」

「は?」

 

「飯いくでー」

「いやいや、そういうわけってどういうわけ……?」

 

 

 どういうわけもそういうわけ。細かいことは気にしたらあかんよ。

 

 ともあれ似たもの魔法なうちらは基本セットで運用されている。

 なので休みということはこの後輩も休み。暇ならこの後輩も自動的に暇って算段。

 

 

「どうせ暇やろ?」

「いや暇だけどさぁ……ホンっとこの先輩は……」

 

 

 といいつつ、いそいそ準備し始める。というか割とすでに準備万端。

 小動物的な雰囲気も相まってほんまに可愛らしいやつやな。

 まー内面はそう可愛らしくもないんだけど。

 

 

 この後輩、実態は内罰的なバーサーカーなのだから。

 

 

 痛覚という刺戟も、恐怖という感情も、生命の防衛本能。

 それを鎮静して、無視して戦おうとするやつなんか、命がいくらあっても足らん。

 

 お偉いさんの考えてることはよくわからんけど、この後輩がこの部隊に来たのは色んな意味で適材適所だったのかもしれない。

 というよりほかが不適材不適所だったというか。しゃーなしってやつ。

 

 ほんと逆やもんな。

 自分はいつもいつも怖くてしゃーない。夢にまで見て夜も眠れない。

 

 後輩が来て、仕事でも休みでもこの後輩に会うようになって、ようやく薬を使わずに眠れるようになった。

 だから後輩には感謝してる。ほんまやで?

 

 そんで後輩も後輩で、ほっとくと一人でどんどん沈んでいくからこっそりちょくちょく刺戟してる。

 別に無くてもすぐどうもこうもなったりはしないんだろうけど、何もしないのも見てて心苦しいというか。

 

 そんな、家族でもなく、友人とは呼べないような、少し離れた関係。

 先輩と後輩。職場の仲間。だけどこれくらいの距離感が一番いいのかもしれんよな。

 

 よくわからんけど。

 

 

 

「あ。どうせならあの子も誘っとこ?」

「なんや?」

 

 

 あの子?

 

 

 

 なんやよくわからんけど。

 

 隊舎から出る道中、後輩が一人の魔法少女を連れてきた。……うん?

 

 

 

「……あ、どもっス」

「ま、部隊に戻る前の快復祝いってやつね」

 

 

 ?

 

 ん、あー。なるほどなぁ。

 

 この子は前線から精神的負傷でここにやってきた魔法少女。

 所属は北海道の第五部隊で、持ってる魔法は『構築』、だったやろか?

 

 それだけなら珍しくもなんともないのだけど、中々よくならなかったのだ。

 これまで絶大な効果を発揮してきた、お医者様監督によるうちらの魔法による効率的な曝露や認知処理もそこまで効果的ではなかった。

 

 

 というより、そもそも原因不明。()()()()()()()()()()()

 

 もちろん魔獣との戦闘は日常茶飯事。

 一応それが原因と考えられてるが……可能性は低いとも思われてる。

 

 ただいきなり、赤い物、特に赤い液体がトラウマになった。

 

 

 とはいえ断片的健忘というのも珍しい話ではない。根気強くやるのみ。

 魔法少女は数が限られてて、この子はその中でも戦える魔法少女なのだから。

 使えるように直さなければならない。それがこの部隊の方針なのだから。

 

 とか思って、こりゃ長期戦やろなと考えてたわけだけども。

 それがこれまた急に回復傾向を迎え、そのまま本人の希望もあり前線に戻る運びとなったわけで。

 

 ……いやよくわからん。どういうことやねん。

 

 

「いやぁ、お世話になったっス」

「よかったじゃん。戻るのはまだ少し先だけどね」

 

 

 刺戟を受ければ反応する。感情も反応の一種。

 それを紐解けば、ほんの少しだけ、心がわかる。

 

 だからわかってしまう。後輩は少しだけ複雑な思いであの子を見ている。

 それを沈めている。無理やり、無意識のうちに。

 

 嫉妬と憐憫と罪悪感と無力感。すべてがブレンドされた責任感。

 

 この後輩は自分を無責任というけど、そんなことはない。

 そう思わないとやってけないってだけ。

 

 自分とはぜんぜん違う。自分はただの臆病者の卑怯者なのだから。

 強く振舞うことしかできない、甘ったれのハリボテに過ぎない。

 

 

 違うんか?

 違わんやろ?

 

 

 ……よくわからんけど、な。

 

 

 

「……」

 

「先輩?」

「ん? あー、なんでもないで」

 

 

 第五の隊員の子が出かける準備のために部屋に戻りしばしの待機中。

 ボーっとしてた後輩が振り返って訪ねてくる。

 

 なんていうか……よくわからんけど、あきれ顔な、したり顔。

 

 

「……ふぅ。今更ですよ先輩」

「……」

 

 

 そうして、心を読めるわけでもないくせに。サラッと心を撫でてくる。

 少しだけザラついた心を静めるように。

 

 

「……」

「……今更やなぁ」

 

「てか今更なんだからーって前に先輩が言ったんじゃん。無責任」

「ははっ。まー、うちら無責任シスターズやからな」

 

 

 反射的に言葉を返すと後輩が軽く笑った。

 お、ウケたか……?

 

 

「そう! 私たちは無責任シスターズ!」

「お、なんやなんや」

 

「今日も無責任に魔法少女を癒してお帰りいただくよ!」

「……おう、そやな!」

 

 

 

 それが()()()にしかできない()()()だけの役割なのだから。

 

 せめて悔いを残さないようにやっていくしかない。

 だから無責任にガンバっていくのだ。

 

 

 

「それじゃ今日はさしずめ、あの隊員の子の退院祝いってやつやんな! こりゃ傑作やで!!」

 

 

「……」

「……」

 

「……」

「……?」

 

「先輩」

「……なんや」

 

 

「それ普通におもんないですよ」

「……すまん」

 

 

 

 こわ。

 ふだん標準語しか喋らない関西出身の後輩がたまにちょっぴりこわい件。

 

 これうちが悪かったんか……?

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

<無重力の火>

 

・・・

 

 

 

 うかばないと、うかばれない。

 しずんだままじゃ、すくわれない。

 

 

 そう言ってた幼いあの子は今どこで何をしているのか。

 ずっと前に魔法少女として最初に所属した後方部隊で一緒だった、眠たげな同期の子。

 

 小さいころから一緒だった幼馴染と離ればなれになって、ほんの少しだけ寂しさを覚えていた私の心の穴を、ほんの少しだけ埋めてくれた子。

 

 結局、私が先に固有魔法に覚醒して前線に行ったから、それからどうなったのかは知らない。

 

 薄情だろうか。

 私の固有魔法は『浮遊』、浮かび上がる魔法。

 あの子の影響もきっと少なくはないのに。

 

 沈まないよう必死にもがいていた同期のあの子も、固有魔法に覚醒して希望してた前線に行けたのか。それともまだ後方部隊にいるのか。

 

 魔法少女は覚醒すると固有魔法登録とともに魔法名が公表される。

 だから、新しい覚醒魔法少女が出るたびに、この子かも、と意味もなく思う。

 

 認識阻害により名前も分からない。ずっと会ってないからちゃんと顔も覚えてるか怪しい。

 ほんの一時期だけの、友達とも呼べないようなそんな間柄。

 

 結局見つけられなくて、少しずつその記憶も遠い思い出になり始めて、それでも今もたまにそれをなぞる。

 

 

 

 

 なんてことを幼馴染に話したら「え……浮気してたのか……?」とかのたまいやがったんだけど。

 いや私らただの幼馴染でしょうに、なにバカなこと言ってるんだか。

 

 

 ……ああもうほんと、私の幼馴染はバカだ。

 

 阿呆ではない。バカぢからとかの意味のほうでのバカだ。むしろ頭自体は良い。

 でも色々と度を越してるというか、思い切りが良すぎるというか。本当に紙一重。

 

 周りにも結構迷惑をかける。そんなバカだけど、不思議と許せてしまう。

 それは彼女の人間性にもあるんだろう。

 

 自由奔放で裏表が無い、誰よりも仲間思いで優しい。

 要領も良いくせに、頭の使いどころがちょっとおかしくて抜けている天然。

 

 

 そして、正真正銘の対魔獣戦闘の天才。

 

 

 彼女の名はマリー・アッシュフォード。

 対魔獣組織でたった七人しかいない第七等級魔法少女の一人で、第八部隊隊長。

 この国に生まれた人間とは少し違う、金髪碧眼の『発火』の魔法少女。

 

 私たちの国の代表的な最上位魔法少女であり、生まれ故郷だった亡国の期待も一身に背負っている。

 少しバカだけど誰よりも頼れるリーダーで、途轍もなく強い小さなヒーロー。

 

 

 私よりも少し年下で、近所に母親と一緒に引っ越してきた、元難民の母娘。

 だから少し年長の私にお世話する役目が押し付けられた。それだけの関係だった。

 

 明らかな腫れ物。コミュニティに馴染めるわけない厄介な奴ら。

 私の出身は微妙に田舎だったから、あの子たちはそんな風に思われてたわけだ。

 

 まぁ私も正直めんどいなって思ってた。

 それがいつの間にやら、私にとってこんな重たい存在になってたっていう、ね。

 

 

 

「どうしたマイベストフレンド?」

「別に何も、というかその呼び方ちょっと鬱陶しいんだけど……」

 

「え」

「……え?」

 

 

 この世の終わりみたいな表情。

 おそらく本気じゃないんだろうけど、いまワタシ本気で傷ついてます的な顔。

 いつものことだしどうせ演技なんだろうけど。

 

 

「そんな……ワタシは……ヒメのベストなフレンドじゃないのか……?」

「……」

 

 

 ……演技、だよね?

 

 

「……」

「……」

 

「……」

「……まぁ」

 

「……」

「ベスト……ではあるけど……」

 

 

 

 ……おいそのドヤ顔やめろ。

 無言で両手広げてハグ待ちをするな。しないからね。

 

 しないってば。

 

 

「……」

「……ハグはしないからね」

 

 

 バッサリと切り捨て。そしたら少し面白いくらいにしょんぼりされる。

 表情があっという間にコロコロ変わる。ホントこの子は大げさ。

 

 付き合っててぶっちゃけめんどいという気持ちは少なからずあるけど、それがそこまで嫌じゃないって感じ。

 それは幼馴染の友達だからなんだろうなって、なんとなくまぁいっかって思える。

 

 ちょっとだけ心地よい、そんな空気感。

 

 

「しないのか……」

「いや、友達でも普通はそうベタベタしないでしょうが」

 

「親友でもか?」

「親友でもよ」

 

 

「ああ、でもそうか、ヒメは私を親友と思ってくれてるんだな。ありがとうな」

 

 

 ……。

 

 

「ちっ」

 

「ははは照れるな照れるな。それじゃワタシはパトロール行ってくるぞ!」

 

 

 してやられた感。ホントこの子のどこがバカなんだと。

 小賢しい小悪魔系メスガキだよ、この子。

 

 それでも、なんか憎めないのがちょっぴり悔しい。

 私はいつもこの顔に騙されるんだ。これで何回目やら……。

 

 

「……というかまたパトロール? 非番でしょ?」

「ん、ああ。探し物ついでだしな」

 

「?」

 

 

 ……ふと、変だなと思った。

 

 この子が休みの日にパトロールすることは別におかしくない。

 みんなを守るヒーローを自認するこの子が、街の様子を見て回るのは何も珍しい話じゃないから。

 

 でも、何か引っかかった。

 ぼんやりと、浮かび上がるような違和感。

 

 

 

 ……ついで?

 

 二の次?

 

 

 

「……えっと、探し物って?」

「ん、ああ探し物というか、探し人というか」

 

「え」

 

 

 人を探してる? 誰を?

 この子が、ヒーローとしての活動よりも優先することが、その誰かを、見つけるってこと?

 

 

「……。んー……まぁヒメになら話してもいいかもな……」

 

 

 そう言ったこの子の表情は大人びて、どこか上気していて。

 

 なにやらためらうように口ごもる。

 それは、まるで恋する乙女のような……。

 

 

 ……え、うそ。

 

 まさか? あの、マリーに?

 

 ウソでしょ?

 

 

 

 

「ワタシは、見つけたんだ。ワタシの信じるべき、あのお方」

 

 

 

 

 熱に浮かされるような、恋する表情。

 その姿に、今までの何も知らないような女の子の姿は無い。

 

 そんな、ずっと、子供だと思ってたのに、まさ、か――

 

 

 

 

 

 

「夢の中で」

 

「……夢落ち!!」

 

 

 ずっこけた。

 関西の芸能人もびっくりのずっこけ方をしてしまった。

 

 いや、まぁいいんだけど。

 

 

「夢ってあんた……」

「ははは。まぁでも救われたのは事実だ」

 

 

 ……。

 

 まぁでも……この子は隊長としていろいろな喪失も経験している。

 

 私も副隊長としてそうなのだから、この子の隊長としてのそのストレスも相当にヤバく、半端なものではない。

 こうしてお互い明るく振舞っているのも、私たちなりの処世術というべきもの。

 

 断じて忘れてはならない。だけど決して引きずられて沈んではならない。

 沈んでしまった者に、何かを掬い取れることはないのだから。

 浮かれてはならない。でも浮かんでなければ、浮かばれない。

 みんなわかっているんだ。沈んだらダメだと。だから必死に明るく振舞う。

 

 一応、そういうストレス解消のための自由活動は対魔獣組織としても奨励されている。

 その心のケアの方法は人それぞれ。趣味に没頭する子もいれば、趣味が無くて専門家のカウンセリングを受ける子もいる。

 

 例えば私は魔力を使わない種も仕掛けもあるマジックが好き。

 それを動画に撮ったり、誰かに見せたりして持て余す不満や承認欲求を解消したりしてる。

 

 

 そして、この子……マリーはヒーローとしての自分に固執していた。

 

 目覚めた魔力が誰よりも強かったから。

 その活動をもって、より多くを助けられる存在であろうとした。

 

 本当は強がりで見栄っ張りで、泣き虫の弱い子なのに。

 

 小さなころから一緒にいる私だけが知ってるあの子の姿。

 私が支えてあげなきゃいけないのに。

 

 ……。

 

 はぁ。私ってダメだなぁ。沈んじゃダメなのに。

 

 

 

「ふぅん……それって男の人?」

「あ、いや、それがな……いかんせん上手く思い出せなくてな……」

 

「ダメじゃん。まぁ夢なら仕方ないけど」

「でも、確かに居たんだ。ワタシはその方に助けられた」

 

「なるほど、ねぇ……。マリーほどのヒーローを助けられるって、王子様ってより神さまって感じよね」

 

 

 

 私もこの子も信じる神様が特にいるってわけじゃないけど。

 何でもできるこの子を助けられるくらい凄い存在なんか、それこそ魔法少女の最上位の『執行』以外には考えにくい。

 

 そこまでいったら、もう()()()()()()()()()だろうってね。

 

 

 ……ほんとは神さまなんかじゃなくて、人がこの子のことを助けないといけないのに。

 

 そう、ほんとなら、私がそうなれるように頑張らなきゃいけないのに、ね……。

 

 

 ……。

 

 

 

 ……?

 

 

 

「……そうだ」

「?」

 

 

 

()()()()()。ワタシは確信している」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 なんのこと?

 

 夢の、話じゃ……?

 

 燃えるような熱。それは静かで、熾火のような、ほの暗い明り。

 そのまなざしは、どことなく、狂気じみているような。

 

 

「ワタシはあの日から違和感を辿り続けている。忘れそうなら思い続ければいい。思い出せないなら思い出せる全てを確かめればいい。そうすればおのずと思うべきものが浮かび上がるのだから」

 

「マリー……?」

 

「難しいけどな。何か作為的なものも感じる。だけど……ワタシの熱はこの程度で冷めたりはしない」

 

 

 

 暗い炎が見える。にじみ出るような狂気を感じる。

 

 いったい、何が……? あの日……?

 スタンピードの時のこと……?

 

 あの時は珍しくマリーも私も失敗続きで、少しばかり記憶が混乱してた。

 あとから来た応援の第九部隊の人たちに報告などを補完してもらって何とかしたって感じだったと思うけど……。

 

 何にもなかったと思う。なかったはず。なのに。

 

 

 ……。

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 ふと、脳裏に昔見たお祭りの風景が浮かんだ。

 今はもうやってない、ランタンや気球を飛ばすお祭り。

 

 火をつけ炎を受けてふわりと浮かび上がる。重力を失い、無重力の空へと。

 どんどん遠ざかり、小さくなり、消えていく。

 

 そこに、子供の私は、この小さな金色の友達の姿を幻視したのを、思い出した。

 

 

 

 

「……マリー」

 

「……」

 

 

 ……いつの間にか、うつむいてしまっていた。

 ふと、顔を上げて正面に目をやると……。

 

 

 なぜかそこには、両手を広げてハグ待ちの体勢を取るバカの姿が。

 何してんの……?

 

 

 

「大丈夫」

「……」

 

「ワタシはどこにも消えて行かないぞ。だからヒメは私の帰る場所であってくれ」

 

「……なにその恥ずかしいセリフ。バカみたい」

「あいるびーばっく」

 

「……バーカ」

 

 

 ……まぁ? 私は友達だし?

 たまにはハグされてやってもいいだろう。そういう文化の国から来た子だし。

 

 そんな気持ちでおずおずと近寄る。

 

 

 

 

 

 

「ふはは! 捕まえたぞ心の友よ!!」

 

「ああああ!! いや、ちょ、力強い!! うざっ!!」

 

 

 

 

 

 やっぱこいつホントバカ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・

 

<扉を叩く音>

 

・・・

 

 

 

 

 魔獣とは何か。

 魔力とは何か。

 

 そして、魔法少女とは何か。

 

 現代科学は未知を究明するために発展してきた。

 人類の歴史の中で、多くの神秘が物理法則の延長にあると暴かれてきた。

 

 しかし今の人類の叡智をもってなお、魔力の神秘は扉の奥に隠されている。

 

 世紀末に生まれた新たな神話。

 恐怖と畏敬の異形たちが現れ、この世を証明不可能な超常が埋め尽くした日。

 

 人の子の手には決して届かない、大いなる力があると、驕り高ぶる人間は思い知らされた。

 

 すべては人間の、信仰に等しい儚き祈りによってもたらされたもの。

 

 物理を超越する力。災厄の特異点。

 進化する人類。試練の門番たる獣。

 

 

 その先にある、神の実在の証明。

 

 

 光は落ち、地獄の蓋は開かれた。

 心せよ。正しき道を見定めよ。

 

 

 間もなく、最後の審判が訪れる。

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 ……とかいう、どうでもいい話。

 殉教者どもが崇める、新興宗教の言葉の数々。

 

 バカバカしい。

 だけど、なかなかに無視しがたい。

 

 というかこいつらは、存在があらゆる意味で邪魔すぎるんだよな。

 結局こいつらは普通の人間だから、対応を誤るとかなり面倒なことになるのだ。

 

 

(……まぁでも。自分がいない間もそれなりに対処できるみたいだ)

 

 

 病棟特有の、毒を消す匂い。

 静寂の中を淡々と、打鍵音が響く。

 通信端末が、密室の外の様子を教えてくれる。

 

 まぁ今使ってるのはタブレットだし、打鍵音というかタップ音なんだけど。

 

 

(ふふふ、タンタンってね)

 

 

 淡々だけに。タップタップ、タンタンタン。

 

 そんな意味不明な、くだらない洒落。

 それをあきれながら聞いてくれるやつは、いたのに今はいない。

 

 ……なぁに、別に気にするほど大したことでもない。

 

 頂点とは孤独なもの。大丈夫だ。

 自分は孤独だった時間のほうが、ずっとずっと長いのだから。

 

 

(……)

 

 

 ベッドの上で、タンタンと、淡々と。

 

 薄暗い明りの病室。ここは地下にあるらしいから、窓もない。

 今は日中だが太陽など見えるわけもなく、時間もこの薄っぺらい機械の時計でしかわからない。

 

 周りには大げさな医療用の機械が並ぶ。

 自分はそこからいくつも延びるコードとチューブに繋がれている。

 まるで、鎖で縛り付けられているように、雁字搦めに。

 

 

 世界の頂点。唯一の第八等級魔法少女。

 『執行』の名のもとに、不可能以外のあらゆる現象を武器に使う。

 絶対的な強権により、世界の敵を裁く者。

 

 

 ……それがこんな有様。

 貧相という言葉も生易しい、肋骨の浮く枯れ枝のような虚弱児。

 

 最強無敵の魔法少女だとかそんな風に持て囃されてる。

 だけどこっちから言わせてもらえば過大評価だ。自分はそんな凄くない。

 別に、なんでもできるわけじゃないし。

 

 世界をゼロとイチで支配する魔法。願いを叶える確定の奇跡。

 それがどれだけ可能性低くとも、不可能でなければ100%のものとして必ず執行される。

 反面、元々が0%の場合は絶対に執行できない。

 

 ……ぶっちゃけ欠点まみれといっていい。

 所詮、器用貧乏な万能で、全能には程遠いのだから。

 

 命令をする際に、魔力を込めて対象を指定する必要もある。しなくても使えるは使えるが。

 生物非生物は問わないものの、対象が無差別だと複雑な命令ができず無駄な消費も多いので、直接的な視認状態での使用が望ましい。

 

 だから目の届かない範囲には基本的にできることがない。

 できるのはせいぜい、周辺の意識を逸らす使い方程度。

 

 そして可能性が存在しないものに対しては何もできない。

 

 例えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、なんてことはできないわけだ。

 

 ……まぁ正確には発動しないだけだから試せるけれど、魔力の無駄撃ちになる。意味が無い。

 

 

 そしてあまりにも致命的な二つの欠点。

 

 自己を執行対象にできない。

 発動の成否に関わらず、使うと身体を不可逆に蝕む。

 

 

 

(……)

 

 

 

 それは、他の魔法との明確な違い。

 

 魔法は本来、対象を選ばない。自分だろうが他人だろうが関係ない。

 そして魔法少女が魔法を使うとき、魔力以外を消費することは無い。

 

 

 そう。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 

 

 驚異的な力と代償。

 

 異質であり異端。異形であり異物。

 埒外の化け物であり、理外の怪物。

 

 何もかも常識外れの例外的で、有り得ない存在。

 

 今にして思えば、昔から自分はそうだったのかもしれない。

 両親もなく、生まれも不明。何もかも謎の、不気味な子供。

 

 そして、身元不明児として孤児院で名づけられた、自分の"阿野間(あのま) 露絵(ろえ)"という名前。

 

 名前の由来はアロエだって、先生は仏頂面で言ってたけど。

 

 

 

 本当は、お前は異常(アノマリー)だということ、なのかもなって。

 

 

 

 ……。

 

 ……いや、というかアロエも意味がわからないな。

 なんでアロエだったんだ……?

 

 ヨーグルトとかに入ってるやつだよな……?

 アロエって……?

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 

――魔法少女アロエちゃん。なんか休日の朝に放送されてそうですね。

 

 

 

 

 

 

 

 なんか思い出の中からめちゃくちゃ失礼な幻聴が聞こえた。

 いや、これでも自分、この組織ではめちゃくちゃ偉いはずなんだが……?

 

 ほんと、クソ度胸にもほどがあるだろう。

 そんなことをこの自分に言えるのは、君くらいだろうなと。

 

 

 魔法を使うたびに弱っていく自分のための、専属の医療チーム。

 

 その中の一人、『療養』の魔法少女。

 

 名前は小鳥遊(たかなし) (のどか)

 

 

 4年前ほどに来て、自分は最近まで1年半ほど寝てたらしいから、たった2年半ほどの付き合いしかない。

 

 それでも、不思議と他の誰よりも気が合った。

 波長が合ったというか。……合わせてもらえてたというか。

 

 あまりにも身分が違う。魔法少女としての力量もかけ離れている。

 それでも、まるで対等な友人のように振る舞える。

 

 それはまるで、物語の中でしか知らなかった、青春のような。

 

 

 

(……)

 

 

 

 ……一体なにを夢見てたのだろうか。

 

 超常の裁定者。最悪の処刑人。

 そんな風に恐れられてて、物騒な噂はいくらでもある。

 

 実際、いくらかは事実でもある。

 ほとんど正解だ。この手は昔から赤く汚れているのだから。

 

 その声は晩鐘の音。

 その手は死神の鎌。

 

 ただ一言、死ねと告げるだけで、あらゆる生命に死を強制できる。

 

 そんな、悪魔のような存在と違いはない。

 

 

 

(……)

 

 

 

 こんなのと仲良くなろうだなんて。

 すごいやつだなと、本当に思う。心の底から尊敬できる。

 

 だからこそ。そんな君を危険には巻き込めない。

 

 

 

「……っ、けほ」

 

 

 

 今日は空咳が多い。咳をしても、この部屋には自分のみ。

 別に誰に心配をかけるでもない。大丈夫。

 

 本当なら手遅れだったはずの病状。

 医者の所見から察するに、自分が目覚めたのはまさしく奇跡に近い。

 

 どんな奇跡が起こったのかは定かではないが、有り難い話だ。

 

 

 で、あれば……このロスタイムを決して無駄にはできない。

 奇跡という薄氷がいつまでも足元を支えてくれるとは限らないのだから。

 

 

 何か、水面下で大きなことが起きている。調べれば調べるほどおかしな点が多い。

 修正されている作戦情報も妙に多い。なぜこれが問題視されていない?

 

 他にも不自然な点は多くあるが、目的が分からない。

 断片的ながらいくつかの仮説はある。だがとにかく情報が不足している。

 機密を探るには、この端末では権限が足りない。

 

 自分は『執行』の非能動的効果で他の魔法が効きにくい。

 世界を覆うほどの『阻害』の認識阻害すらもほとんど効果をなさない。

 

 だから前回の七星事変の時のように、()()()()()()()()()()()()()()()自分には通用しない。

 

 しかし自分が直接大きく動くわけにもいかない。

 現状、魔法もそう何度も使えそうにないし、魔力も節約すべきだろう。

 身体強化がなければ満足に動かないほど弱った身体だけど、それも最低限にすべき。

 

 この部屋に訪れるのは、『療養』の彼女と、主治医の女の二人。

 あとは不定期に様子を見に来るという、第一部隊の、仲間……『阻害』と『模倣』と『転送』だけ。

 

 『療養』の彼女は文句なしのシロ。そして医者も結局情報を持っていなかった。

 

 だから、待つしかない。

 自分も万全ではない。かつてのように何もかも笑いながら踏み潰せた自分はもういないのだから。

 

 機を見計らわなければ。

 相手にとって最悪のジョーカーとして、最後の秘密の伏せ札でなければならない。

 

 そう。だから、決して自分の目覚めがバレてはならない。

 行動も最小限にしなければならない。

 

 

 ……。

 

 

(とはいえ……正直八方塞がりなんだよな……)

 

 

 コソコソ雑多な情報を漁りながら、相手の動きを待つしかないという状況。

 できれば関係者全員と直接対面して、チェックをかけたいのだが。

 

 ……ああ、本当にもどかしいな。

 

 孤独な戦いだ。誰にも頼れないし頼るべきじゃない。

 扉の先は未知数。恐ろしく危険な戦いが待っているのは間違いない。

 だから、暗闇に踏み入るのは自分だけでいい。

 

 どうせ壊れかけの自分に未来はないのだから。

 命は有効に使わなければ。

 

 大丈夫。問題ない。

 成し遂げるための力はこの手に存在する。

 

 

 

 

 

 

――カチャリ。

 

 

 

 

 

 定刻。

 いつも通り、自分の友人だった彼女が病室を訪れた。

 特に意味はないが、なんとなく自分の服装を軽く整える。

 

 ……いや、別に心待ちにしてたわけじゃないが。

 

 自分は一人でも平気だから。大丈夫。

 いつまでも友達気分で青春の残滓にすがるような、そんなこと。

 考えるだけでも罪深いだろう。そんな資格、もはや存在しないのだから。

 

 ほら、彼女の姿を見てみろ。

 

 光のない目。直立したまま動かない身体。

 記憶は操作され、この部屋の出来事は何も覚えていない。

 時間が過ぎるまで待機し、時間が来たらそのまま出ていき、いつもの日常に戻る。

 強制された望まぬ行動。人格を踏みにじられた操り人形。

 

 万が一にも、この『執行』の目覚めを外に知らせないために、自分が処理した。

 もう一人、ここにやってくる医者と同じく、機械的に片づけたのだ。

 

 

 

 

 そうだ、()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ……心に刻むべきだがあまり気にするべきじゃない。

 最善の状況のための犠牲。いや、犠牲というものでもない。

 

 その身体には傷一つつけてはいないし、つけさせないのだから。

 全部終われば元通り。彼女は何も知らないまま日常に帰れる。

 

 今日もいつも通り、このまま10分もしたら彼女は出ていく。

 寝たきりの患者の世話をしたというように、記憶を改竄されて。

 一日3回、かつて自分が目覚めぬ眠りについていた時の日常をなぞり続ける。

 

 いつものこと。これが自分の今の日常。

 気にせず、自分は自分の作業に専念する。それだけの話だろう。

 

 

 

(……)

 

 

 

 ベッドの上で淡々と、情報端末を指先で叩く。

 タン、タン、と。画面の先にある、見えない扉をノックするように。

 

 ……だが道が開かれることはなく、進展は正直思わしくない。

 少しばかり、心身の疲労を感じる。

 

 

 

(……休憩するか)

 

 

 

 集中できていない。頭が火照っている気もする。

 関節が固まってるような痛みもあるので軽く伸びをする。

 いちいちコードとチューブがまとわりついて少し鬱陶しい。

 薄っぺらい病衣が汗で張り付く感じがし、若干気持ち悪い。

 

 ……よし。そうだな、着替えるか。あと、下も替えとこう。

 

 

 うん……下半身のやつも……。

 

 

 そう……。自分、いま……オムツなんだよなぁ……。

 

 

 いや、今まで入院経験は腐るほどあるけどさすがにオムツは使ったことなかったんだよなぁ……いつの間にか目覚めたら標準装備になってたけど……。

 なんていうかこう、尊厳のようなものがゴリゴリ削れる感覚があったけど、これも仕方ない話なんだよな……。

 それに医療用のコードとかチューブとか治療的にもデータ的にも下手に外せないし……そうなるとベッドからあまり離れることできないし……。

 

 幸い、清潔な着替えと新しいオムツは彼女が毎回持ってきてくれる。

 介助の為に来るのだから当たり前だが。

 

 そして、使用済みのものも回収して持って帰らせている。

 あまり彼女の手を煩わせるわけにもいかないが、外部に怪しまれないためにもいつも通りの行動をさせなければならない。

 そのあたり、改竄した記憶の整合性なども取るために、これは仕方ないこと。

 

 

 ……。仕方ないことだから。うん。

 

 そう。必要があってやってること。

 

 彼女と医者が、一日3回ずつこの部屋に訪れる。

 つまり、一日に6回しかチャンスがない。

 

 何のチャンスかって、それはあれだ、そう、あれ。あれです。

 

 いろいろ考えた結果の合理的な判断なわけだ。大丈夫、問題ない。ないったらない。

 というか別に変なことするわけでもないし。いたって自然な生理現象なわけで。

 

 うん。

 

 

 

(……)

 

 

 

 ……ええい、友達の目の前で、とか変にためらうから変な気持ちになるんだ、やるぞ。

 

 やるぞ……!

 

 

 

 ……、

 

 

 

 

(……んっ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふぅ……。

 

 

 

 ……。

 

 ……いや、別に言い訳ではないのだが。

 そもそも寝たきりの自分しかいなかったこの病室には、汚物を捨てるごみ箱がないのだ。

 

 だからタイミングを逸すると、彼女らが訪れるまで下半身が非常に不快なことになる。

 だからといって脱いで放置するのも衛生的によろしくない。

 それを避けるためには、タイミングを合わせる必要がある、ということ。

 

 タイミングを合わせるって、そう、だからそういうことだ。別にやりたいからやったわけじゃない。

 必要だからやったこと。必要じゃなかったらやってない。言い訳じゃないです。

 

 ……そりゃ自分にだって多少の羞恥心はある。

 だからこうして顔が熱くなったりするのは当たり前の話なんだ。

 

 これは変な意味で赤くなっているわけじゃない。断じて違うぞ。

 

 

 ……。

 

 

 えっと、この、身体がゾクゾクっとなるやつも、アレだ。

 シバリングとかいうやつだから。多分。

 

 開けるつもりなかった変な扉が開きそうだけど、きっとこれは閉じておかなければいけないやつ。

 

 

 ……あ、いや、のどか、違う、そんな目でボクを見ないでくれ。

 

 

 

 ……。

 

 

 

(……?)

 

 

 

 ああ、ボクもうお嫁にいけないかも……そもそも余命が無いんだけど。

 

 とかアホみたいなくだらない洒落を考えてたら、直立不動の彼女と目が合った。

 その綺麗で見飽きない顔を見ていて、ふと気づく。

 

 のどかって意外とまつ毛が長いな……とかそんなことは横に置いといて。

 

 以前よりも目元のクマが薄らいでる気がする。

 顔色もちょっと良くなってる、のか?

 

 

 ……いいことだ。心境の変化でもあったんだろうか。

 

 

 彼女に限った話じゃない。

 ここ最近の状況を調べるに、対魔獣組織の魔法少女たちにも良い変化が起きているように思える。

 状況が好転している。そんな順風を感じる。

 

 だから、大丈夫だ。

 自分に与えられたロスタイムは、きっと決定打をつかめる。

 

 そんな予感めいた確信がある。

 ……そのあとの自分がどうなるかはわからないが。

 

 『執行』の名のもとに、どうか良きみんなには良い未来を。

 

 そして、悪しき者たちには。……。

 

 

 

 

 彼女が、スッと移動を始めた。定刻だ。

 

 病室の扉を開け、彼女は彼女の、いつもの一日に戻るため、ここから出ていく。

 そして自分もまた薄明りの孤独に潜る。

 

 

 

 

 それじゃあ……また。

 

 願わくば、そう遠くないうちに、君が二度とここを訪れずに済むように。

 

 君と、君たちのため。たくさんの貰った物を返すため。

 

 ボクは秘密の扉の前で待ち続けているから。

 

 

 

 

 

・・・




 まだ半分なのか、もう半分なのか。
 まだ続くというべきか。まだ終わらないというべきか。



※あと余談というか何度目かの弁解ですが、作者は別に聖水が好きなわけではないです。誤解です。無実です。
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