一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女 作:Mckee ItoIto
彼の地に終末が降り注ぎ四半世紀。
この身の『啓示』に基づいて、十の獣が間も無く生まれる。
滅びた世界の瓦礫を重ね、我ら七人と楽園へ至ろう。
耳あるものは聞くといい。心あるものは刻むといい。
革命は果たされる。審判の日は、近い。
全ては獣へ還り、生命は透き通る魂へ。人々は知恵を捨て、全ての罪は赦される。
あの可哀想な救世主ごと、すべて我々が救ってみせよう。
……さあ。清らかな混沌の無の中へ、お帰りなさい。
・・・
北の国からこんにちわ。
超有名なドラマで超有名なラベンダー畑は、いま無残に踏み荒らされてしまっている。
このご時世、観光なんかできる人はあんまりいないけど、見ててちょっと悲しい気持ちになるね。
眼前には、紫の花を散らす30体ほどの魔獣の群れ。対して私は一人っきり。
はたから見たら絶望的な状況かもしれない。
でも大丈夫。問題ない。
第五部隊は私一人でも戦える部隊だから。
今回だって、戦いに出るのは私だけ。
どうしてそんなことができるのかって。そんなの、私の周りを見たら一目瞭然。
犬型の人形。
鳥型の人形。
人型の人形。
百を軽く超える私の人形たち。
魔力を込められたそれらが、魔獣を威圧するように列を成す。
何も、問題はない。彼らが勝手に状況を終わらせてくれるから。
私は『自動』の魔法少女。
数の暴力を振るう怠惰な指揮官。
「状況開始」
さ。行ってらっしゃい、私の軍勢。
うん、まあなんていうか、何の想定外も無いよね。
滞りなく制圧され、いつも通り私は状況から現実へと帰ってきた。
というか私は人形に充電してゴーサイン出してからは後方腕組みして眺めてただけなんだけどね。
事後処理は他の隊員を呼んで任せ、状況報告だけサクッとまとめて家に帰る。私は怠け者なので?
いやはや、ヘリコプターってほんと偉大な発明だ。
あそこから家まで車だと2時間以上かかるけど、その半分以下で済むからねぇ。
魔法少女といったって、その全員が空を飛べるわけじゃない。
少なくとも、非覚醒だと移動手段は基本的に自力で歩いたりするか車などでの送迎に限られる。
短時間なら魔力弾の反動で飛べなくもないけど、移動手段としては余りにも割に合わないし。
私の場合だと飛べる人形、そん中でも一番でかいガルーダ君に乗れば一応飛べなくはないけど。
でも事前に魔力を充電しておかないとだし、燃費もぶっちゃけ良くはない。
はっきりいって移動手段としてのコスパだけで見たら、文明の利器には到底敵わないんだよね。
社会インフラ的に考えても、世の中には魔法を使えない人の方が当然多いからさ。
人類の叡智はいつまで経っても過去のものとならないよ。
それに魔法だって、使わないに越したことはない。疲れるし。
だから技術者の人たちにはもっともっと頑張ってほしいなぁ。
私は怠けたいんだ。もっと楽させてくれぇ。
あと個人的には開発中止された超伝導鉄道とかいうロマンの塊も見たかったんだけど……。
魔獣が定期的に設置型インフラを壊しちゃうからね……悲しいなぁ……。
支援部隊の操縦士さんに手を振って別れ、我が家の玄関を開ける。
「ただいまー疲れたー」
返事をする人はいない。といっても、人はいるんだけど。
私はルームメイトとルームシェア……いや、ハウスシェア?
みたいなことをしていて、今日はというか今日もそいつがお留守番をしている。
いるくせにしょっちゅうこっちを無視しやがるからなぁ、仕方ない奴だよほんと。
やっほー、今日も楽勝だったよ。
最近は魔獣が活発だっていうけど、北の大地は相変わらず平和だねぇ。
平和っていっても二日に一回くらいは普通に出てくるけど、雑魚ばっかだから大丈夫大丈夫。
それになんたって私は強いので?
私ってか、まあ人形任せで相変わらず私自身は戦ってないんだけど。
やっぱ戦いは数だよ! やはり数の暴力! 数の暴力は全てを解決する!
どっちかというと範囲が広すぎて移動の方が大変なんだよね。君も知ってるだろうけどさ。
いっつも思うけどやっぱおかしいよ私たちの部隊20人だけで東北と北海道全部カバーするって……。
やれてるけど!
やれちゃってるけど、現場の頑張りで維持されてることを当たり前って思わないでほしいよね!
もっと人員寄越せよ本部のバーカ! (小声)
まあ知っての通り私は怠け者なので?
各地に自動人形を配置して勝手に戦わせてるんだけどね?
でも1、2ヵ月くらいで充電しに行かないとだから、結局ほぼ連日どっかに遠征が必要ってのがね……。
今日の警報地域も人形の充電切れそうだったから直接出向かなきゃだったし……。
休みたいなぁ……休めねぇよぉ……働きたくねぇよぉ……。
でも仕方ないよね。
君が隊長だったときだって普通にこなしてたことなんだから、私もそれくらいは頑張らないと。
それ以外は頑張らないけどね!!
あ、そうそう。最近新しく入った隊員で結構見所ある子がいてさぁ。
私が、というか私の人形が直々に訓練してるんだけどね。
なんとなんと第四等級自動人形に完勝したんだよ。覚醒したてなのにすごいよね。
もしかしたら君の副隊長の座も危ういかもね。でも楽しみだねぇ。
君も隊長だったのに副隊長になって、ついには平隊員かぁ。
そしたら君はもう引退するしかないよね。ふふ、ざまぁみろ。
ちょっとは悔しそうな顔見せてもいいんじゃない? ん?
ほらほらどうよ。
「……」
ベッドに横たわる少女。
身じろぎもせず、こちらを一瞥することすらない。
私の声だけが、私たちの部屋に響く。
まるで、意思のない人形だ。
死んでいないだけで、生きているとはとても言えない状態。
かつての幼馴染。
競い合うライバルだと思ってた人。
私が平隊員だった時の、大っ嫌いだった元上司。
誰よりも、私なんかよりも、遥かに才能に溢れてた天才。
一足飛びで私を置いてって、最速で隊長になった、偉大な魔法少女。
あれは……大陸から溢れたスタンピードを抑え込む作戦だった。
その敵戦力は想定以上で、それでも何とかなりかけてたのに。
最後の最後に彼女は私なんかを庇って、運悪く頭部を損傷した。
奇跡的に一命は取り留めたものの、彼女は致命的に壊れてしまっていて。
しばらく関東で『療養』を受けていたものの破壊された脳が回復することは、ついになかった。
家族がいない彼女はそのまま処置無しとして一般病棟に移されて、緩やかに死ぬ予定だったのに。
一部のお偉いさんの思惑により彼女は私に預けられる。
私は最低なので、もちろんその命令に従った。
ま、仕方ないよね。どうせ君も笑って許すんだろう。
君はそういうやつだったし、私はそういうところが嫌いだった。
私だって、理解してるし、気になんかしてない。
第七等級だと言われる存在は全体の1%にすらも満たない。
君も実績を残しすぎちゃったから、まだ使える方法があるならそりゃ使いたいだろうさ。
絶対的な北方の守護者。『加速』の魔法少女。
私の、最強の人形。
でも、もう君の出番は無いよ。このまま君は一生お留守番だ。
今となっては全部、他の人形で事足りる。うるさい大人なんか実績で黙らせてやる。
等級だって、やっと君と並んだんだ。もう代理の隊長だなんて誰にも言わせない。
近いうち、君の退役申請だって、きっと通してみせるさ。
そしたら君は、穏やかに死ね。私が最期を看取ってやる。
あーくっそ、こんなに働きたくないのになぁ。君のせいだぞバカやろー。
ほらほら、充電してあげるから早く起きてご飯にするよ! 今日はオムカレーだ!
『
・・・
──ほらほら、早く準備しろ訓練に行くぞハリーハリー!
うっざ……なにこいつ……。
まだだいぶ時間早いでしょ。ご飯食べてるから待っててよ。
──相変わらずお前は少食だし食うの遅いよな。それじゃ大きくなれないぞ?
やめろ、子供扱いするな。頭に手を置くな鬱陶しい。
──ほら! ほら! 天才の私様が直々に時間を割いて訓練付き合ってやるんだから、はーやーくー!
せかすな隣に座るな手拍子するな! 殴るぞ!! いや殴る!!!
──残念、それは残像だ。
くっそ……まじで死ねばいいのにっ……なんでこいつが私の上司なんだ……。
・・・
ぅお、……びっくりした。
「……」
寝て起きたらなんか近くでじっと顔を見られていた。こわ。ちょっとしたホラーだぞ。
彼女に『自動』で与えている命令は大雑把に、戦闘行動、日常行動に分けられる。あとは色々な禁止事項。
その中の日常行動は食べたり飲んだり出したりなほぼ最低限の生理的なものに限られてて、余計なことは基本しない。
とはいえ『自動』は本来、意思無き無機物を動かす魔法なので、割とイレギュラーな動きをすることもあったりして。
さっきみたいに、たまにこちらにちょっかいみたいなことをかけてきたりとかもあったりなかったり。
まあ危険は無い、と思う。
命令を覆すことは出来ないはずだし、パスは通ってるから最悪いつでも上書きして停止できる。
「……」
ついてこい、みたいな雰囲気で振り返ってリビングに向かったのでおとなしくついていく。
いや、そんな意思みたいなものあるわけないんだけど。なんとなく。
……そうだよ。いくら、あるように見えてもそんなの、ない。
だから私は彼女に無駄なことはさせないし、無駄なことを喋らせたりも、しない。
一回。そう、一回だけ、以前の彼女を再現して喋らせようとしたこともあったけど。
そのあまりの気持ち悪さに吐き気を催したのでやめた。割と似てたんだけどね。
いやまあ彼女の元の中身が酷いってのもあるからなぁ。仕方ないよねぇ。
リビングの食卓には、パンが並べられていた。あれ、というか私の分もある?
日常行動は自分のことしかしないはずなんだけど。
んー……まあいいか。
命令の範疇っちゃ範疇だし、ただのイレギュラーだろう。大した影響はない。
とりあえずレトルトのスープカレーをレンジであっためて、彼女の前にも置く。
パンを浸して私が食べるのを、彼女も真似するように機械的に繰り返す。
私はスープカレーにも断然ライス派なんだけど、彼女はパンが好きだった。カレー好きの癖に。
いや最初はいいけど最終的に具の処理に困るじゃん。パンに挟もうにもびちゃびちゃになるし。
そうやって悩む私を尻目に、彼女は豪快にパンをスープにぶち込んでスプーンでバクバク食べ出したものだった。
いやもはやそれスープカレーである必要ないのでは……とか思いつつ、私はちまちま食べてて。
そんな、そんな日もあったなって。
……って、いやいや、なに感傷的になってんだ。最低か? 最低でしたわ。
そんな懐かしむ資格もないのに、ほんとくそだよ。カレーだけに。まさにびちくそだよ。
……。
……最低すぎて思わず最低な例えを脳内でしてしまった。どうしよう、残りのカレー。
……。
……。スッ。
食べ終えて待機状態になってた彼女が食事を再開する。……ヨシ!
今日も頑張ってくるからちゃんとお留守番しててね!
働きたくないけど、いってきます!
・・・
「あー、状況ー、終了ぅ」
今日も今日とて遠征中。
ていうか一体いつからいつまでが状況なんだよ。くっそだるいんですけど。
戦闘もいつも人形が勝手に始めて勝手に終わらせてるから私にも詳細はちょっとよくわかんないですね。
とりあえず魔力パスを確認して充電やばそうな人形を充電する旅の真っ最中なので、さっさと次へ向かう。
ここ最近は連日遠征続きで、なかなか家に帰れてない。彼女の充電足りるかなぁ。
込めてる命令が複雑だってのもあるけど彼女自身の魔力も干渉しちゃうから、充電は最低限しかできない。
一応念のため介護用の自動人形を配置してるから、充電切れても大丈夫だとは思うけど……。
私の目の届かないところでうっかり死なれてもそれはそれでちょっと嫌だし困る。
待機状態で、あと何日かくらいは何とかもつかなぁ。魔力パスの感覚だとそんな感じ。
できれば今週中には帰りたい。あー、ほんと早くおうち帰りたい。
「あーあーいやーいやだー働きたくなーいー」
「出た、隊長のイヤイヤ期」
「誰がでかい赤ん坊だよ」
この部隊、上役を全然敬ってこないんだけど、どうなんこれ。
組織的に考えて、流石にダメじゃない? 怒った方がいい?
でもそういえば私も彼女のことまったく敬ってなかったわ。じゃあいいか。
冷静に考えると私も隊長としてはどうなのよとも思ったり。でも彼女も大概だったわ。じゃあいいか。
そんなテキトーな部隊。それが第五部隊です! アットホームな明るい職場!(人口密度激低)
こんな感じでも実績があれば怒られないあたり、本部の実績主義は極まってるよねぇ。組織として普通有り得ないよ。有難いけど。
さてさて、今日は噂のスーパールーキーちゃんも一緒だ。
敬われてはいないけど懐かれてはいるのか、私が遠征で近くに来ると大体一緒についてくる。
私以外の隊員は、人形の撃ち漏らしを処理するために各地に散っている。
なので、こうして一緒になることは割と稀だ。というか、前も言ったけど範囲が広すぎるんよ……。
基本的に第五部隊は最低限の作戦内容以外、各員自由に行動させてるのでみんなが具体的に何してるかは私も詳しく知らない。
人形のログを確認した感じ、大体は戦いの援護したりされたり、みたいなのが多そうかな。
隊員同士は割と連絡を取り合ってて、どこで警報が発生したら誰が向かうか、みたいなことも決めてるらしい。私は知らないけど。
まあ変にサボったりとか現地住民とトラブル起こしたりとかせずに、実績さえあげてくれてるなら何の問題もない。
いちいち指示するのもめんどいし。私は怠け者なので?
「ところで今日も副隊長はお見えでないのですか?」
「彼女は別のとこの警備中」
自宅のだけどね。
「あー。一目でいいからお会いしてお話ししたいっスねぇ……」
「ていうかなんで彼女には敬語なのさ。私も敬え」
「副隊長カッコいいじゃないっスか。クールで」
無視すんなや。
ってあれ、ん? ……え?
彼女が、クー……ル? どこが?
南北二大バカの片割れとか言われてたようなやつが?
「あたし、ここに来る前に助けてもらったことあるんスよね。憧れの存在っス」
……。
……ああ、
余計な口を開かなければ、普通に美人に見えるからなぁ。
前は言動で全部台無しだったけど。今は……まあクールに見えなくもないか。
彼女の状態を知っている人は、ベテランの魔法少女ならともかく新人には少ないだろう。
この部隊でも私たちのことを知ってる人たちは口をつぐんでるから、新しい子は何も知らないってことになるか。
彼女が今どういう運用をされているかを私は正直に言うつもりもないし、報告するつもりもない。
まあ、大っぴらに言える話ではないからね。こんな最低最悪な関係を。
これまで散々使っといてなんだけど、やっぱり早く解放してあげないとなぁ。
あーあ、ほんと最っ低。死んでしまえたらいいのに。私も。彼女も。
「……お、魔獣警報」
「近そうっスね」
「んー、人が少ない地域だけど、人形もあんまないなぁ。他から余剰を回収しつつ向かうとしようか」
戦いは続く。でも、彼女の戦いはもうとっくに終わってる。
私は怠け者だけど。でも頑張るよ。だから、休んでるといい。
・・・
「なにあれ」
現場に来てみると、見たこともないような魔獣がいた。
なんていうか、すごく形容し難い。
めちゃくちゃでかいクラゲのようなものの、多分……本体?
の、細い触手の先に、一回り小さいクラゲ的なものがぶら下がってて。
さらにその触手の先にも変なクラゲみたいなのが連なってて。
そんなよくわからないのが絡まりそうになりながらふわふわ宙に浮いてるっていう感じ?
うーん……シャンデリア……というか珠のれん? でかい球体を中心に放射状の珠が連なってる感じの玉のれんクラゲってのが近いかな。
見える範囲にいるのは、とりあえずこの一体だけ。
見た目は意味分かんないけど、見た感じの等級は第五か第六ってところ。
まあ問題は、無いかな。等級は高そうだけどこいつだけならどうとでも料理できる。
「んー、下がってていいよ」
「わかったっス」
「
百鬼夜行の如く引き連れてきた自動人形たちが、一斉に戦闘体勢に移行する。
そしてとりあえずの威力偵察として人型人形ゴリアテ君と狼型人形ダイアウルフ君たちが飛びかかっていった。
……うん、大丈夫そう。
クラゲもどきはゆるゆると暴れてるけど、あまり有効な抵抗は出来ていない。
なんか弱すぎる気がするけど、このまま畳み掛けちゃおう。
といっても、作戦は彼らが戦闘命令に基づいて勝手に考えてくれてる。私がするのは補給と事前の命令だけだ。
何かあれば命令を上書きしたりするけど、ゴーサインを出したら基本的には見てるだけでいい。
人形が連携し合いながら群がり、触手を引き千切り、本体を切り裂いていく。勝手に。自動的に。そして待ってるだけで勝利という結果がもたらされる。
簡単な仕事だ。こんなの、インスタントラーメンを作るのと対して変わらない。
あ、そういえば状況開始の号令を忘れてた。まあ二人しかいないし、いっか。
どうせいつもこれ適当だし。それに、もう終わっちゃいそうだしねぇ。
あたりには珠のれんのタマタマが千切れて散らばってる。本体も、もうボロボロだ。
まあ、こんなもんかなぁ。私の人形の平均等級は第四等級相当だ。並の魔法少女より強い。
そんなのが何部隊分もの数で袋叩きにするのだから、やっぱり数の力は偉大だよ。
今回は50体くらいしかいないけど、でも過剰戦力だったね。
「相変わらずの残虐ファイトっスね……」
「やっぱ戦いは数だよ兄貴」
「兄貴? いや……でもほんとすごいっスよ」
「ふふん。もっと敬え」
まあ、私は最強なので?
全ての人形の総戦力だけで言ったら、私は魔法少女最強と言ってもいい。
……かもしれない。たぶん。おそらく。めいびー。うんやっぱ言いすぎたかも。
どうだろうなぁ。同じ第七等級って言われてる人たちでもみんな普通に化け物だしなぁ。
魔法少女の最上位、第七等級魔法少女。『阻害』『再生』『自動』『加速』『反射』『汚染』『発火』
たった一人で状況を決定的に終わらせる、人の形をした対魔獣兵器。
そして、そんな人たちよりもさらに上の、第八等級が本部にいる。
『執行』の魔法少女。常軌を逸した裁定者。
仮定。そう、あくまでも万が一の仮定だけど、戦って勝てるのか。
……うん、無理だね。むりむり無理ゲーの超絶クソゲー。
私は死んだ方がいいけど、まだ死にたくはないんだ。最低だからね。
私が彼女をすぐ終わらせてあげられないのは、その後の私がどうなるかわからないから。
きっと、ただでは済まない。怖い。だから逆らえないし、大人しく従うしかない。
今の私が彼女を使わずに許されているのは、使わずに二人分以上の実績をあげているからだ。
このまま果たして、彼女を解放することができるのか。信じて、実績を重ねていくしかない。
これもこれでほんとクソゲーだね。
いやだなぁ働きたくないのになぁ。誰よりも働かなきゃだなんて。
私が死ねば助かるのに。なんで私なんかを助けちゃったのかなぁ君は。
……あーあ。ほんと、救われないよ。
「状況、終わりそうっスね」
「そだねー。このあと何食べよっかなー」
「雰囲気緩めすぎじゃないっスか? まあこの辺だとお高いけど牛タンとかっスかね」
「お、いいねぇ。牛タンカレーにしよう。テイクアウトあるかな」
油断。
だったのだろうか。
視界の端で、何かが光ったと同時に。
ドンっと、隣の新人に突き飛ばされて。
おいふざけるなよ。
私は気づかなかったんですけど。
これだから天才ってやつは困るんだ。
──ふざけんな。ふざけんな、なんでみんな私を、
無限とも思える引き伸ばされた一瞬の中、
致命の一撃が訪れる、私は、また庇われ、
──ふ、ざっ、けんな!!!
間に合え、間に合え、
一番近くの人形は、駄目だ、遠い、
近くで、他に動かせるもの、即座に魔力を浸透させられて、パスを通せるもの、
なにか、なにかないか、なにか、
──『
私の身体は最短で真っ直ぐに、人間には不可能な動きと速さで、私たちへ放たれた何かとルーキーの間に。
「ばっ……」
──間に合った。
「っ! 何やってるんスか隊長のバカ!」
「誰がバカだ。私は隊長だぞ。もっと敬え」
「最大戦力が格下を庇って戦力落としてどうするんスか! アホ! バカ! バカ! スカポンタン!」
……ちょっと言いすぎじゃない?
まー私も衝動的にバカなことやっちゃったと思うけどさぁ。
大失態だよ。私だって死にたくないのに、何してるんだろうね。
でも、どうしてもそれだけは許せなかった。許すわけにはいかなかったんだ。
いやぁ、いくらなんでもこれは、流石にバレたら本部に怒られるかなぁ。
骨も筋肉も、たぶんイカレた。内臓もやったかもしれない。
くるくると、宙を舞っていた私の腕がいま、ボタッと地面に落ちた。
思い出したかのように、私の肩から血が溢れ出す。
でも、頭は不思議とクリアだ。
大丈夫。戦闘に支障はない。私の身体は『自動』で動くから。
彼女での経験がこんなところで生きるなんて、世の中ほんと何が役に立つかわかんないね。
「命令。救援要請をして後方待機」
広すぎていつも救援が間に合わないとかつて言われてた第五部隊の管轄だけど。
幸い、ここは関東に近い。第二部隊あたりが来てくれるだろうか。
「早くて2時間後くらいかな? その応援と合流して帰ってきて」
「あ、あの、魔獣は、隊長は、」
魔力を回して止血をしつつ、取り乱すルーキーに端末を押し付け、チラリと魔獣に目を向ける。
千切れた珠同士が触手で再びつながり合い、脈動しながら不気味に輝いていた。
さっきまでのゆるゆるさが嘘のように、激しく触手が振り回されて暴れてて。
人形たちが勝手に応戦してるけど、いま第四等級自動人形のキャンサー君が叩き潰されたとこだ。
……強い。さっきよりも、遥かに。
間違いなく第七等級相当はある。しかも、その中でも格段に上位だ。
何が起こったかは分からないけど、不味いことが起こっていることだけはわかる。
放置すべきではない。じゃあ私は何をすべきか。
「私は遅滞防御に入る。大丈夫、応援までちゃんと待ってるから行ってらっしゃい」
「そんな、こんな状態で一人じゃ、隊長あたしも」
「さぁて足手纏いはバイバイしようねぇ」
「あ、ちょ、や、隊長、やだ、隊長!!」
それいけガルーダ君。うちの期待のルーキー、希望の星だ。しっかり頼んだよ。
「さ、待たせたね」
私は『自動』の魔法少女。
自分勝手で怠惰な指揮官。
──……これより蹂躙を開始する。
・・・
「『
自動人形に魔力を注ぐ。と同時に、自身の身体にも。
身体強化とともに、魔力衣装も戦闘用に本気で編み上げておく。
……ちゃんと衣装構築するのも、久しぶりかもなぁ。最近は完全に人形任せで楽ばかりしてたから。
いくらなんでもサボりすぎてたね。怠けたツケが回ってきたわけだ。
私の衣装は少しフリフリしてて近接戦闘には向かないけど、防御力はお墨付き。
今度は簡単にはやられたりしないはず……いやめんどくさがらず最初からやっとけば良かったって話ではあるけど。うん。
私の軍勢が魔力を漲らせてクラゲもどきに飛びかかる。
魔力の強化レベルを高めたので、さっきみたいに羽虫の如く簡単には潰されたりしない。
元々私の人形に突出した強さのものはなく、一番強くてもせいぜい第五等級相当でしかない。
まあ第五等級といったら他の部隊なら副隊長クラスの主力と同レベルなので、せいぜいって言ったらみんなに失礼かもだけど。
とはいえ、第七等級相当の魔獣相手には流石に力不足だ。たとえ魔力で強化しても、勝てないだろうね。
……でもそれは、一対一での話でしかないんだよ。
いま、一体が弾き飛ばされた。その隙に二体が躍りかかる。
そして、一体が触手で貫かれる。その隙に三体が襲いかかる。
こうして、一体ではたとえ相手にならなくても、五体、十体、二十体と連携を取りながら戦闘が続く。
さらに私の人形たちは、穴が空こうが折れようが千切れようが機能不全にならない限り、怯むことなく自動で戦い続ける。
貫かれた人形が上空に放り捨てられるが、穴が空いたまま何事もなかったかのように体勢を整えて着地し、戦線に戻っていった。
猛烈な攻撃の嵐の中を、人形が人形を盾にしながら道を切り開き確実に、着実に攻略する。
災厄級のはずの魔獣の攻撃……抵抗が、まるで抵抗として成立していない。後退のない侵略行為が敵を飲み込む。
それはまさしく、蹂躙。一方的に存在を踏み躙る、数の暴力だ。
うん……。とまぁ、状況自体に問題はないかな。ほんと我ながらインチキだね。
ま、術者を叩いてどうにかなると思ってたんだろうけど?
残念でした。私の強さは前もって準備した人形の強さ。魔力補充と命令調整は随時してるものの、私自身の強さとは関係ないからね。
問題はただ一つ。私が、あとどれだけもつか。
「──っ」
流れ弾のように飛んでくる攻撃を身体が自動的に避けるたび、掠めるたび、止血した傷口から命が溢れそうになる感覚、激痛とともに命が削れていく感覚がある。
視界は明滅して、口の中はもう血の味しかしないし、息をする度に口から魂が抜けていきそうだ。正直、かなりきっつい。
いやさ、私を攻撃してもほとんど意味ないんだから放置しててくんないかなぁ。っていっても無視してくれるわけないよねぇ……。
まだ救援が来るまで一時間以上あるだろうっていうのに、ちょっとこれ、無理かもなぁ。ほんと失敗した。大失態だ。
『自動』がなければもはや立つことだってままならないんじゃない? ダメージの半分くらいは自爆みたいなもんだから自業自得なんだけど。
攻撃がまた、迫る。避ける。血反吐を吐く。残された命の量はどれくらいだろうか。
これ、このままいったら……下手しなくても足りないかも。意識が揺らぐたびに死の気配が、ゆっくりと忍び寄っているのを感じる。
あーあ。あんなに死にたくなかったっていうのになぁ。
まあでもこの戦闘状況なら、私が死んでも残された人形たちが残留魔力で戦い続けて倒してくれるだろう。
少しずつ呼び寄せてた、近くの地域の人形もみんな集結した。数えるのも馬鹿らしいくらいの、圧倒的物量。
もはやあの魔獣も、捕食者に群がられる獲物に過ぎない。壮観だね。
異様にタフな魔獣だったけど、討伐も時間の問題だ。
ぶっちゃけ救援要請、要らなかったかも。
まあ私は事後処理できなさそうだから、そっちをお任せする感じになるかなぁ。
……あ、というか、そっか。
私いなくなったら自動的に、彼女も解放されるじゃん。
運用継続も不可能だから、自動的に退役だ。良かった。良くないか? いや良かった。
私が彼女の最後を看取ることはできそうにないけど、結果的に望みは叶うわけだ。良かった。やっぱりこうなるべきだったんだよ。そうだよ。そう……。
あー……くっそ、思考が霞んできた。あんなにすっきりしてたのに。アドレナリンが切れ始めたのかな。
敵の攻撃もあの一撃以外は大したことない。危険度と難易度が上がっただけでやってることは最初と変わらないし、だいぶ気が抜け始めてる。ダメだダメだ。
とにかく、私の気力が残ってるうちに、今はこいつだけでも確実に、
……?
肥大化したクラゲの珠が仄かに光ったと思ったら、亀裂が浮かび上がった。
その裂け目は、
──『
私の軍勢が、一斉に動きを止めた。
「──は?」
え、なにこれ。魔獣が、魔法を?
おいおい駄目でしょそれは。私たちの専売特許だよ?
なんなのそれ、いくらなんでもおかしいじゃん。
魔法があるから人間と魔獣とで戦闘が成立してるっていうのに。
そんなことされたら、こんなの
まるで子供がおもちゃを薙ぎ払うかのように、暴力的に、人形ごと吹き飛ばされた。
指一本、自動的には動かなかった。
激しく地面をバウンドして転がり、土煙の中で無様に横たわる。
ほんの一瞬意識が飛んだものの、魔力衣装のおかげでまだ生きてはいる。だけど、これは……。
身体も人形も微動だにしない。
消し飛びそうになった思考の欠片を搔き集めて、必死に考える。
衣装も身体強化も残ってはいる。だけど『自動』の魔法だけが止まった。
パスが切断されても本来なら人形は自律して動く。でも停止したということは、人形側にも干渉されたということ。散らばった人形たちは今やただのガラクタだ。
パスも強制的に切断されたせいで、すぐには再命令の付与もできない。感覚的には再接続するまで5分程度は掛かりそうな予測。
今まで使わなかったことを考えると恐らく1回限り? タイミングを図られたということかな。少なくとも、連発は出来なさそう。
効果としては相手に干渉するタイプのものだけど、制御を奪うような類の魔法ではなく単純に魔法効果を停止させるだけ。その対象は一種類のみのようで、永続的なものでも多分ない。
厄介な魔法ではあるものの、複数人で戦う他の部隊であれば問題なかったかもしれない、のだけど……。
最悪だ。私にとっては、あまりにも致命的なメタとして成立してしまっている。
いける、のか……?
ここから最低5分間。人形無しで、ボロボロな丸腰の状態で、何か勝ち筋はあるのか?
敵の動きは確実に鈍っている。人形の再起動さえできれば、勝てる。それまで生き残りさえすれば……。
身体強化のみで無理やり身体を起き上がらせた。全身がバラバラになりそうだ。
立ち上がれただけでもほとんど奇跡なのに。容赦なく攻撃が迫る。
……そんなの、避けれるわけがない。さっきの光景の焼き直し。
あ……、うん。駄目だ。無理、だね。
ボロ雑巾のようになった私はあっけなく触手に捕まり、私は宙に吊るされた。
まるで罪人のように。最低な私にはふさわしい末路かもしれない。
止血した肩から、絞り出されるように血が流れる。
命が、零れていく。
あぁ、しょうがない、か。こんなんじゃ隊長失格、だなぁ……。
私は全てを諦め、目を閉じようとして。
ふと、何だか、懐かしい魔力を感じて……。
──
……は。
はは。ははは。
またイレギュラー? なんなの今日は。
なんだよふざけんなよ。
私が今まで何のために戦ってきたと思うのさ。台無しじゃん。
留守番、してろって言ったのに。
「『
勝手に命令を破ってるんじゃないよ……
・・・
残像を残し、閃光が走った。
災厄を体現する凶悪な魔獣が、暴力的な触手を振るう。しかし、そこには何もなく。
まるで瞬間移動のように魔獣本体の横に現れて、入れ替わるように魔獣が吹っ飛ぶ。
そして消えたと思ったら、吹っ飛んだ魔獣に追いついて追撃を加えていく。敵は何もできないし、敵に何もさせない。
もはや目で追うのも難しいくらいの、理不尽な速さ。
使われる魔法は『加速』を含めて身体強化のみ。衣装は手甲と足甲のみで、攻撃手段はシンプルに殴る、蹴るのみ。
たったそれだけで、魔法少女の最上位に最速で登り詰めた、天才中の天才。
これが、本当の第五部隊の隊長。本物の第七等級魔法少女。
人形になった状態でこれだっていうんだから……本気でインチキだよ。
私みたいな紛い物とは違う。本当に、本当に……。
あ、いや……感傷に浸ってる場合じゃなかった。彼女は強いが無敵ではない。
魔力残量も不安だ。戦闘に出てもらうつもりはなかったので必要以上の魔力は与えていないのだから。
日常生活であれば数日は持つだろう魔力は与えているけど……このペースで戦闘してたらすぐにガス欠してしまう。
というより魔法出力を高めすぎなんだよ。明らかに過剰なオーバークロックをしてるじゃないか。
横たわる私を守りながら彼女は戦っている。どんな軽い攻撃であろうと、その一切を通させようとしていない。そんな命令与えてなかったのに。
いや、こっちをチラチラ見てるんじゃないよ。意思なんかないはずなのに、心配してる雰囲気みたいなのを感じてなんかすごく嫌だ。
……だけど、今の私には何もできない。見ているしか、できない。
一分、二分と時間が過ぎる。絶え間ない攻撃の中、魔獣はまだ生きている。かなり弱っているはずなのに本当にタフすぎる。
対して彼女の動きはほんの少しずつだけど、鈍ってきた。やはり消費が激しすぎなんだ。
それでも十分速いけど、面での攻撃にシフトされて攻撃が掠り始めている。
三分、四分と経つ。ついに彼女の動きが捉えられてしまう。
薙ぎ払いが直撃し、弾丸のように弾かれて水平に吹き飛ばされるも、空中で回転して着地、そのまま跳ね返るように一瞬で、一直線に反撃へと戻る。
彼女は人形だけど、他の人形と違って生身だ。これ以上大きなダメージを受けるべきではない、けど。
攻撃の手を緩めようとしない。魔力切れも間近なはずなのに。血溜まりに沈んだままの私を庇い続けている。
足手纏いの私のせいで彼女が、徐々に、少しずつ、傷ついていく。
そうして、
ようやく、本当に、本当に一生で、一番長く感じた五分間。
──……『
「……さ、待た、せたね」
嘘のように身体が動く。ガラクタが軍勢に戻る。
そう、私の……私たちの勝ちだ。覚悟するといい。
これより、蹂躙を再開する。
・・・
こうして、状況は終了した。あれからは何の想定外もない。当然だ。
とはいえ私も彼女も、ボロボロ。ああいや、私はもう駄目だけど。
彼女も流石に自動モードの状態であんなのとタイマンしたことは無かったから、傷だらけだ。
今は待機状態に戻って、ぶっ倒れてる。でも復活した魔力パスの状態を見た感じだと、命に別状はない。
彼女はこのまま病院に連れていってもらって、私の魔法が完全に切れたら、人形から彼女自身に戻るのだろう。
そうしたら、君はようやく解放されるんだ。最低な私から。
あー、でも死にたくないなぁ。嫌だけど、一足先にリタイアかぁ。だけどもう働かなくて済むんだから、まあこれもこれで、いいのかなぁ。
ほんと、すごく……疲れちゃった。頑張ったよね私。なんか眠いし、寝るとするよ。もう、いいよね。
え? 事後処理?
そんなの、そのうち応援の人たちがやってくれるでしょ。私は怠け者なので?
あぁ、眠いな……それじゃ、おやすみ、なさい。
──……長、隊長! 隊長!!」
うっすらと、声が聞こえた。
死ぬほど重たい瞼を少しだけ開けると、そこには相変わらず取り乱したままのルーキーちゃん。
「あ、ああ、隊長、副隊長まで、」
うるっさ……ていうか君さぁ、帰ってくるの早いんじゃない? もうあれから2時間以上経ったの?
ちょっと寝てて少しだけ意識飛んでたけど、日の傾き的にたぶん経ってないよね?
新しい気配は、ルーキーともう一人だけ。って……いやいや、応援の部隊は?
この部隊まじで命令無視する奴ばっかじゃん。他の部隊なら懲罰もんだよ?
私がいなくなって再編されたら、こうはいかないよ多分。気を付けなよ。
「た、助け、助けてくれるんスよね!? 早、く!!」
「
……なんだろう。不思議な声だ。包み込むような、自然な声。
ルーキーの後ろから現れたのは、純粋無垢、といった感じの少女。
生きているのか、死んでいるのか、危うささえ覚える透明感。
まるで、人形? いや、人間味が欠け落ちた、偶像……、
「もう大丈夫です」
また目が霞んできた。まぶたが閉じ始める。
ぼんやりとした視界の中の少女は、太陽を背に輝いてみえて──
「『
──赤色が弾けた。
「え……、あ、何……?」
意識が一瞬で覚醒する。
「死……、これ、や……ちが、あぁ」
混乱しかけた頭を無理やり一つの思考にまとめ、崩れ落ちる少女に駆け寄り、
……そう。身体が、動く。なくしたはずの腕が、ある。
これは回復魔法……? こんな途轍もないもの、
「あ……隊長、良かっ……あれ、良かっ……た? ……ぁ、は、」
「落ち着け、まだこの子も生きてるっ」
泣き笑いしてるルーキーもやばいけど、まずはこの子だ。
なんだろう、代償……自己犠牲によってブーストされた回復……?
うん、なるほど。確かにこれは凄まじいね。本部のお偉いさんが見たら、目を輝かせるだろうなぁ。
それとも、もしかしたらその差し金だったりするのかな?
まあなんにしてもさ。
……ふざけるなよ。ほんと、ふざけるな。
私がそんなの、絶対許さない。許すわけにはいかない。
隊長。君もボロボロなんだけど……。
私じゃ遅すぎるからもう一回だけ、また君を使わせてもらうよ。
「
……。
……?
……、……え?
なん、で。
思わず、少女を見た。目が合った。
慈愛に満ちた微笑み。全てをやり遂げた満足そうな顔。
救済をもたらした少女は小さく頷き、
──最期は私の腕の中で、光の粒となって崩れて、風の中に消えた。
私は動けない。身体が動かない。
絶対に許しちゃいけない。こんなの、ふざけてる。
この少女のことも、これを受け入れそうになっている私のことも。
許しちゃいけないんだ。ダメなのに。なのに。
そうだ。私はずっと、君に謝りたいと思ってたんだ。
なのに、そんな日は絶対に、もう、絶対、二度と来ないと諦めてた。
「ん……? あれ、どこだ、ここは」
「ごめんなさい、隊長、ごめん、なさい……」
「あれ、おい、何泣いてんだ。というかお前ちょっとでかくなってないか?」
私が弱かったばっかりに。私の努力が足りなかったばっかりに。君は全てを失った。
私はそんな君の尊厳を踏みにじって、奪い取るように君の場所に立ってた。
君のようにって、ほんの少しは望んでたけど。こんな形でなんて、思ってもいなかったんだ。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。本当は、君の隣に立ちたかったってだけだったのに。
こんな最低の私が報われてなんか、いいわけない。
だけど、だけど、君が救われて、本当に良かった。
良かったって、思ってしまった。
ほんと、最低だ。私は結局、何もしてない。ただの怠け者だ。
救ったのは、あの子。
こんなの許しちゃいけない。絶対に。なのに。なのに。
ああ、私って、本当に最低だよね。ごめん、なさい。
・・・
Q.この物語はハッピーエンドになりますか?
A.多分そう。部分的にそう。