一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女 作:Mckee ItoIto
増えろ。増えろ。地を満たせ。
愚かな世界の全てを壊し、食らい尽くし、何もかもを無に還せ。
増えろ。増えろ。思う存分『増殖』しろ。
私がお前たちを祝福しよう。
だから、どうか私たちを救ってくれ。
私たち以外の全てを、犠牲に捧げるから。
引き返すべき時はとっくに過ぎた。
止まるわけにはいかない。止めるわけにはいかない。
新たな世界、楽園に至るため。
革命の夜明けを前に。
偽りの希望を、踏み潰せ。
・・・
魔獣は人を襲う。他の何よりも優先して。
だからこいつらを、増長した人類への天罰だとか。審判だとか。
そうのたまう終末論者様どもが、この世にどれほど多いことか。
魔獣を崇める新興宗教まで誕生していて、積極的に魔獣に襲われたり襲わせたりしてる。
意味がわかんない。ほんと狂ってる。
それ故に、魔獣を殺す私たちのような存在はそういった連中から目の敵にされたりもする。
私たちの国は他国と比べてまだマシな方だけど、いないわけでもない。
治安維持組織が比較的機能しているので徒党を組んでどうのこうのっていうのはほとんどない。
でもゲリラ的なものであったり、そうした殉教者以外にも個人が勝手に感化されて突然私たちの邪魔をしようとしたりすることも、あったりして。
とてつもなく鬱陶しい。
なぜ人間を守るために人間を警戒しなければならないのか。
作戦を邪魔したくても大抵の状況では一般人が割り込む余地はない。
作戦外でも本部の認識阻害の魔法により、魔法少女との直接的な接触はまず不可能。
かなり親しくないと、情報と魔法少女個人を結びつけることができないと聞いている。
例え接触されたとしても私たちには魔獣のように物理的なダメージを軽減できる、魔力がある。
非覚醒の魔法少女であっても、一般人が傷を付けることなどまずできない。
だから、そんなのは無駄。そのはずなのに。
「やだ!! もういやだ!!!」
目の前で必死に暴れている少女のように、心につく傷は別だ。
戦闘中に勝手に紛れ込んだ一般人が、彼女の広範囲魔法に巻き込まれて死んだ。
そいつは撮影機材を持っていたらしいから、大方私たちの戦闘映像を撮ろうとでもしたのだろう。
作戦情報は伏されているが、避難を促す魔獣警報がある以上、作戦区域を完全に隠すことは難しい。
私たちの映像は高く売れるらしく、阻害効果が掛かっていてもその価値は高いとされるそうだ。
そのため、たまに命知らずな脳みその足りないアホが戦場に足を踏み入れたりする。
魔法少女の映像は広報から出されるもの以外にはあまりないからというだけの理由で。
その手の恐怖心を麻痺させたクソボケが神気取りで殉教者どもにも情報をばら撒いている。
私たちの邪魔をすることで、人々を間接的に危険に晒している。
だから、そいつは死んで当然だ。
どのみち法律上、彼女には何の責任も存在しない。
ここで死ななかろうが、見つかっていればそいつは拘束されて厳罰に処されている。
だから、気にする必要はない。
……そうやって割り切ってしまえる子が、そこまで多いわけじゃないというのが現実なのだ。
当たり前すぎる。私たちのほとんど全員が、多感な十代の少女なのだから。
メディアは淡々と一つの事実のみを報道する。魔獣との戦闘による一般人の犠牲者が出たことを。
そのニュースの中に人々は、人々を守るべき少女が、殺してしまったことを疑う。
殺してしまった少女は、何度も何度も、自らが書く報告書の中で殺した事実を追認する。
少女はその事実を胸に仕舞い、また殺してしまわないように怯えながら戦場に出る。
ごく一部の人が声を上げ、その声はすぐ鎮圧される。でも、その声は少女を少しずつ壊していく。
たった一人の間抜けが死んで、戦う少女の心を殺す。
そういった意味で言えば。
私たちの敵は残念ながら、本当に残念ながら、魔獣だけじゃない。
もちろん、大半の人々は何事もないかのように静かに暮らしている。
私たちの応援をしてくれる人だって、たくさんいる。本当にたくさん。
でも、たった一粒の悪意の種が、九割九分九厘の善意を塗り潰して芽吹く。
たった一言の罵声が、全ての声より優先して聞こえてしまう。
そう感じてしまう少女は、決して少なくない。
そして、そういう少女はどんどん摩耗していく。
それでも、人々を守るために少女は戦う。
彼女たちは頑張っている。
だけど彼女は少し、頑張りすぎた。
だから、ちょっとだけ休んでているといい。
「『
「ぁ……」
おやすみなさい。
私たちの仕事は、壊れた少女を直すこと。
ここは対魔獣組織、第十一支援部隊。
『鎮静』と『刺戟』の魔法少女が所属している部隊。
魔法少女再生工場だ。
・・・
「今日もほんっま疲れたね!!」
「うっさ」
「おーいもっとテンション上げてこーや!!!」
「間違えた。うっざ」
こいつ……じゃなかった、この人は私の先輩。
私と同じく固有魔法に覚醒しておきながら、戦闘適性が無いため支援部隊にずっと居残っているお局様だ。
私の『鎮静』と、先輩の『刺戟』は、まるで対になるかのような効果を持っている。
だからか、やたらと先輩は私に絡んでくるけど、いつもちょっと、いやかなりうるさい。
昔からここ、四国を拠点としているこの部隊にはメンタルケアを重視する人材が集まっている。
そのため、非魔法少女の大人たちは大半がカウンセラーか医師の資格を持っている。
関東にもそういった支援部隊はあるけど、あっちは身体が重視で、こっちはかなり精神寄り。
前線部隊の支援をしながら、全国から集まってくるメンタル故障者の保養をしているわけだ。
そんなところに配属された私と彼女は、まさにそのために存在しているかのような魔法を持っていた。
これは副作用のない精神剤みたいなもんだから、私たちは割と忙しくしてるんだけど……。
「はぁ……」
「なんや鬱か。関西人の癖に」
「偏見が過ぎるでしょそれ。いやちょっと元気出ないだけ」
「げーんきだーせよー『
「おいこら雑に精神刺戟してんじゃあないよ!! 『
あ……ねむ……ちょっと勢い余った。
くっそ、このやろう……。それある意味精神汚染だからな……?
ちなみに固有魔法に限らず魔法は理由なく私的に使うと罰せられることになっている。
まあ余程のことがない限りほとんど黙認されてるけど。
下らないことでただでさえ数が少ない魔法少女の稼働を減らすわけにもいかないからね。
そう、戦闘以外の下らないことで減らすわけには。
……そうだ。減らすわけにはいかないのだ。
新しく魔力に自然適合できる少女は、多くても年間で100人未満。
10〜14歳の少女のうちの、おおよそ3万人に1人ぐらい。
そして表向き徴用は無いとされてるけど、最終的にはほぼ全員が私たちの仲間になる。
そこから固有魔法に覚醒するのが約3割。覚醒までに3年程度はかかる。
覚醒した魔法少女は余程の事情が無い限り、ほとんどが訓練を経て前線配属となる。
一応非覚醒でも基本魔法のスペックと本人の希望次第では前線に行くこともあるけど。
年間で言えば、大体20から30人ぐらいが前線部隊に配属される。
そして前線部隊の、殉職を含む退役者は年間で平均25人。
少ない?
でも元の数が少なすぎて、割合としては多すぎる。
前線に出ている魔法少女は全国で約100人程度。その4分の1が一年の間で戦えなくなる。
だから減らすわけにはいかない。でも魔力の自然適合が増えないなら新人が増えることはない。
だから、壊れようが直して使う。それが、私たちの部隊の基本方針。
戦えない私が、戦えなくなった少女を戦えるように直して、再び戦いに送り出す。
戦える少女を減らすわけには、いかないから。
戦えない私は、その数には含まれていない。
戦う少女は、戦わされ続けているのに。私は戦わない。
戦えない私が、もう戦えないと言っている戦える少女を、戦わせている。
私はなんでこんな。
なんで。
「……ふぅ」
「どしたん?」
「いや、現実ってクソだなぁって思って」
「今更やなぁ」
「今更かぁ」
「せやで。今更なんだから気にしたらあかんよ」
そうだよね。もう、私が前線に出る可能性は全くない。
私が戦えないのも、みんなが戦わされているのも、仕方ないことなんだ。
ほんとクソだよこの世界。
あぁ、今更、か。
ほんと何年引きずってるんだろ、私。ほんと馬鹿みたい。
「あー! お腹空いた! 先輩、ご飯いこ!!」
「お、ええで。何食いたい?」
「んー……粉物とか?」
「おっけ、こないだいいお好み焼き屋見つけたからそこにしよか」
どうでもいいけど、この先輩は生粋の関西人ではない。かぶれである。
・・・
街を歩き、人々とすれ違う。
笑顔の人。険しい顔のサラリーマン。穏やかな顔の老人。元気な子供。
平和にしか見えない日常の街並み。
これが、私たちの守っているもの。
それがたとえ地獄の上の薄氷だったとしても、かけがえのないもの。
社会インフラはしっかり維持されているし、娯楽だって昔と変わらず溢れている。
暮らしは表向きほとんど変わることはなく、たまに魔獣警報で避難を余儀なくされるだけだ。
魔獣による犠牲者も、年間でいえば2千人以下。交通事故よりも少ない。
人々は団欒の中で普通に暮らせている。
私たちはこれを守り続けなければならないんだ。
へこたれているわけにはいけない。
私のちっぽけな悩みなんか、今更すぎて下らないものなんだから。
ああ、ていうか私は守ってるわけじゃないか。
失礼だったな。私たちじゃない、彼女たちは、だ。
私は覚醒しときながら、ずっと裏方にいる、現役完走をほぼ約束されている存在。
前線の人たちはみんな、成人を超えての穏やかな引退は、まず望めないというのに。
やっぱり、私の悩みは無責任で贅沢だよ。
魔獣は怖い。でも私だって死にたくはない。
魔獣は憎い。でも私じゃどうにもできない。
だから、私は無責任に、彼女たちを死地へと送り出す。
それが私の仕事なんだから。それでいいんだ。今更すぎる。
「ほんまに大丈夫か?」
「ん、へーきへーき」
「……うちも一緒なの、忘れたらあかんよ」
「うん……ありがと」
そうだね。忘れてたわけじゃないけど、そうだった。
先輩だって、同じ。
これは、
「なんだったらもう一本いっとく?」
「エナドリ感覚で刺戟すんのやめよ?」
先輩を適当にあしらってお好み焼き屋の扉をガラガラーっと開く。昭和レトロな雰囲気でいいね。
部活帰りの高校生がいたり、定時上がり? の会社員がいたり、いい意味で場末の食堂って感じ。
ふと思ったけど、見たこともないはずの私たちが生まれる前の雰囲気を、懐かしいって思うのはどういうあれなんだろうね。
懐かしいって言葉以外があんまり見つからないんだけど。
うーん、ノスタルジック? エモい? まあいいか。
適当に座って、適当に注文して、適当にお好み焼きを焼く。
ここは自分で焼くタイプのお店みたいなので、なんかこう、頑張っていい感じに、焼く!
先輩と駄弁りながら、私が二人分を作る。先輩は不器用なので絶対に任せられない。
てか粉物を自分で満足に焼けないのに関西人ぶってて恥ずかしくないんですかね?
っていうと他の一部の関西人も敵に回すので絶対に口には出さないけど。
そんなこんな。ゆるゆるな時間が流れていく中。
ふと、視線を入り口に向けたとき、気づいた。
そこには、いるのか、いないのか、
儚げな雰囲気で、透明な存在感。
痩せて見窄らしく見えるのに、どこか見るものを惑わせるような感覚。
陰を見せつつ輝きがあり、不安定なようで安心感を感じさせる。
僅かな違和感。あり得ない不自然。
なんだろう。これは。
目を離すと煙のように消えてしまいそうな、希薄さがあって。
あんまりジロジロ見るのもと思ったけど、何故か気になってしまった。
その少女は私たちの近くの席に一人で静かに座った。
メニューを少し見て深く頷き、店員に声をかけ。
「えっと、この、激辛スペシャル辛さマシマシ地獄チャレンジ玉をお願いします」
なんかすごいのを頼んだ。
「ほんまにそれ食えんの?」
見るもおぞましい赤い塊を焼き始めた少女に、先輩が普通に絡みにいく。すごいな先輩。
私あの見てるだけでも涙が出そうな煙を出すテーブルに近寄る勇気無いんですけど……。
とかいいつつ、最初とは違う意味でちょっと目が離せないんですが。あれって食べ物なの……?
「え……、あ、はい。辛いのって元気が出て好きなので」
「あーわかるわー、刺戟って大事よな。テンション上がるというか興奮するというか」
「えっと、そうですね、元気のために、たまに食べてます」
「ほーう、中々刺戟的なやつやな。これって30分で全部食ったら賞金が出るやつやねんけど、いけそうなん?」
「あ……はい。多分、余裕です」
不思議少女が先輩のぐいぐい攻撃を喰らって少し引きつつも、うっすら得意げな顔をしている。
まあ嫌がってる雰囲気はないし、別にいいか。特に問題も、
私は自分と先輩のお好み焼きを焼くので忙しいから、このカオスな空間はとりあえず放置する。
そして30分後。そこにはドヤ顔ダブルピースで賞金を受け取る謎の少女がいた。
先輩と店員がちょっと涙目で拍手してる。なんだこれ。
というかすごいな……地獄の化身みたいな塊を汗も流さず平然と食べ切ったんだけど。
先輩と談笑している様子は食べる前と何一つ変わっていない。こいつほんとに人間か……?
「なあなあ、名前なんてーの? 連絡先交換せーへん?」
「名前?」
「先輩ちょっと初対面でその距離感の詰め方えぐいよ」
「うちは関西人やからな!!」
「関西人はそんなセリフ言わない」
「えっと……名前……?」
「ほら困ってるって」
「自分見ててめっちゃおもろいやん? 友達になりたいなーって」
「いや割と失礼だよそれ。ごめんね、この人こんな」
固まった。
今さっきまでの少女は、人間離れした第一印象とは違ってて。
最初の雰囲気はどこにいったのか、どこにでもいる普通の少女に見えていた。
なんか抜けてそうで、大人しい、ただの少女。
お好み焼きも綺麗に焼けない、不器用で戦いなんか全く知らなそうな、普通の少女。
それが、何がきっかけになったかはわからない。
「ごめんなさい」
最初のように。いや、最初よりもっと隔絶した気配に。
「私、いかないといけないから。ごめんなさい」
私たちを置き去りに、少女は出ていった。
傍若無人な先輩が食らいつけないほどの、切実な拒絶。
……先輩が凹んでるのは珍しいな。それはともかくとして。
「先輩、どう思いました?」
「……なにがや」
「あの子……魔法少女でしたよね」
そう。すごくわかりづらい不思議な魔力をしていたけど、間違いない。
でも確実に戦闘要員ではない。私たちと同じ、素人同然の裏方の魔法少女。
だとしたら、支援部隊の仲間。だけど、私たちの部隊にあの子はいない。
他の部隊から応援が来るという話も、無い。
じゃあ何者?
「攻撃性はゼロやった。悪意も無いわ」
「報告は?」
「せんでもええやろ。敵やないし、うちらは何も見てないってことで」
意思ある生物である以上、思考には多少なりとも精神的刺激を伴う。
そして先輩はその種類と強弱を判別することができる。
感情が何となくわかるだけ、というけどそれはある意味、心を読めるといっても過言ではない。
先輩は普段アッパラパーだけど決して馬鹿じゃない。おそらくずっと探ってたのだろう。
その先輩が敵ではないといってるなら、きっとあの子は敵じゃない。
そして私たちの部隊の仲間でもないのだとしたら。
例えば、休暇申請を通せた他の支援部隊の人。なさそうだけど一番可能性が高そう。
それか、目覚めたての一般人。……あの雰囲気で流石にそれはありえないか。
だとしたら、組織からの脱走者。でも、そういった情報は今のところ無い。
無いからといってすぐ手配されるわけじゃないから、いないとも限らないけど。
まあなんにせよ。
「そっか。まあ私たち無責任シスターズだからね」
「なんやそれ」
「敵じゃないのなら、こっちからあえて敵になりにいく必要ないでしょ?」
「ん、せやな。うちも気に入った子の敵にはなりたくないし」
「無責任だなぁ、ほんと私たち」
仮に脱走者だったとしても、報告義務はない。第一、今の私たちは任務外のオフだし。
みんながみんな、組織に盲目の奉仕と無条件の忠誠を誓っているわけじゃないのだ。
いてもいなくても、どうせ戦線に大した影響はない。私たちのような子は前線の子たちとは違う。
逃げ出したなら、逃げるなりの事情があったのだろう。本人が納得してるなら、それでいいじゃないか。
悪意も無く、私たちの敵じゃないなら、それでいい。
そうだよ。選ばれてしまった前線の子とは違うんだ。
……ほんと、私って無責任だね。
とにかく、嫌なことは義務じゃなきゃしない。私だってオフの時に嫌な思いしたくないし。
まあオフっていっても実質非番なんだけどねぇ。何かあったら部隊戻らないといけないし。
……って。
「うわ……魔獣警報」
「最悪やな……しかも特別警報やん」
「また忙しくなりそうだね……はぁ……」
「ええい、気合い入れるで! 『
「だから!! エナドリ感覚で魔法使うなって!!!」
「刺戟的やろ?」
お前いい加減怒られろ!!!!!
・・・
「なんこれ」
魔獣の出現については未だに分かっていないことが多い。
動植物に魔力が浸透し、混沌とした存在となったもの。
たくさんの命を食らった魔獣が直接産み落とすもの。
そして、原因も分からず突然現れるもの。
他にもあるが大体この3パターン。
最初の二つはある程度予期できる。問題は、最後。
本当に、突然現れる。まるで、編集された映像のように脈絡もなく。
それは滅多にないことながら、予兆もなくて対処の仕様がない。
幸いにもそういうのは大抵、人のいないような海や山などで起こるのだけど。
「こんなん、最悪やん」
日の落ちた風景。明滅する灯。揺らめく炎。
瓦礫の山。魔獣の死体。立ち尽くす魔法少女たち。散らばる死体。
最悪なことに、今回の戦場は街のど真ん中だった。
小さな街ながら、一般人の被害が大きすぎる。
最悪だ。恐らく、ここ数年で最悪の状況。
そう時間もかからずに、メディアがやってくるだろう。
そしたら、どうなる?
……無責任だな私。最悪だ。
そんなこと考えてる場合じゃないのに。
状況はすでに終了しているとのことで、先行して現場に向かう指示を受けたのだけど。
断片的な情報から感じた、向かってる途中の嫌な予感は最悪の形で的中していた。
無責任だ。そんなこと考えててもしかたないのに。私たちは私たちのやることをやるだけ。
戦っていた部隊は『貫通』と『振動』の魔法少女が率いる第七部隊。
私たちの第十一支援部隊は主にこの部隊を支援しているから、たまにこの二人とも会うことがある。
私なんかでは手も足も出ない実力者。
いつも自信に満ち溢れていて、堂々とした立ち振る舞いを見せてくれる。
前線でいつも戦っている、そんな一流の魔法少女が。
絶望していた。
「……」
「『
震えながら虚空を見つめ、血塗れで何かを抱えていた副隊長の『振動』の魔法少女。
「あ……あれ、わたしは」
「報告を。何があったんや」
「魔獣がいきなり、隊長が先行して戦ってて、合流して、なんとか被害も出さずに、頑張ってたのに」
辺りには、もう敵はいない。あるのは、残されたものたちの、阿鼻叫喚の地獄。
泣き叫び死んだ子供に縋りつく親。虚ろに瓦礫を掘り返す市民。呻く負傷者。
響く怒号。決して直接的に近寄ってはこない、魔獣と私たちへの敵意。
希望なんか、どこにもなかった。
「魔獣が光って、隊長が、隊長、こんな、あ」
「『
「……取り乱した、ごめん。急に魔獣が強くなって、でもそいつは隊長が相打ちになって貫いた。これ、隊長」
ああ、やだな。こんなの見慣れたくないのに。
見せられたのは、第七部隊隊長、『貫通』の魔法少女。
その、
下半分はどこにあるのだろう。
「わたしがあとの取り巻きを処理して終わり。救援要請はしたけど必要無かった。戦闘状況は以上」
「そっか」
「被害、たくさん出ちゃった。取り巻きも強くなってたけど、そんなの言い訳だよね」
「仕方ないよ。あとの処理は私たちに任せて」
事後処理できるような状況じゃないだろう。
他の第七部隊の人たちも傷だらけだし、限界だ。
「……ごめん。魔法、もうちょっと強くかけてもらってもいいかな」
「いいよ。『
「あ……りがと、もう……眠っても、いい、かな」
「いいよ。おやすみなさい」
彼女だって無傷じゃない。立っているのも辛いんだろう。
頑張ったね、なんて無責任な言葉が浮かんで、口に出る前にそれを飲み込んだ。
彼女は年下だけど、私よりも上の存在。頑張って当然と言われる立場なのだから。
でも……今回は本当に頑張ったね。だから、私が休ませてあげないといけないと。
……さっきから外野がうるさいな。
お前たちは、黙って大人しく守られとけよ。
──『
どいつもこいつも、みんな、みんな、おやすみなさい。
大丈夫。これも事後処理の範囲内だから何も問題ない。報告書は書かないとだけど。
鎮められた状況。壊れた街しか音を出さない不思議な静寂の中。
私たちは黙って被害状況を確認していく。
現実の惨状が、残酷な未来しか見せてこない。
ああ、やだな。
希望なんか、どこにもない。
無責任に思ってしまう。
私ではこれはもう、どうしようもないから。
ああ、どこかに希望が、歩いてたりしないものだろうか。
こんなの全部夢でしたって、言ってくれるような。
そんな、夢みたいな希望。
目が、合った。
そこには、いるのか、いないのか、
儚げな雰囲気で、透明な存在感。
痩せて見窄らしく見えるのに、どこか見るものを惑わせるような感覚。
陰を見せつつ輝きがあり、不安定なようで安心感を感じさせる。
僅かな違和感。あり得ない不自然。
いやいてもおかしくはない。
あの場所とここはそう離れてはいないのだから。
むしろ、いるのが当然のような。いやおかしい。これは、なんなの?
少女は小さく頷き、うっすらと笑う。
あの時の得意げな笑顔とは違う、
──『
静寂に、血の音だけが残された。
何が起こったのか。何を見せられているのか。
私は動くことも、声も出すこともできずに、固まっていた。
なにこれ。こんなの。あまりにも、あんまりだ。
先輩が少女に駆け寄り、取り乱している。すごく珍しい。
何か声をかけながら、話しかけながら、必死になって少女を抱えようとしてて。
少女が崩れた。ボロボロと。
塵に還っていく少女を、心が砕けていく先輩を、私は音もなく見ていた。
ああ、駄目だ。このままじゃ先輩が壊れちゃう。『鎮静』しておこう。
辺りを見渡す。そこにあるのはもう、地獄じゃない。
倒れ伏した犠牲者も、静かに眠る生存者も。
みんな同じように傷一つ無くなり、息づいている。
死んだ魔獣と、壊れた街だけを置き去りに。
それ以外の全ての悲劇が、無かったことになった。
全ての?
これが、希望?
私が望んだ、希望なのか?
全てが夢みたいで、幻のようで。
目を離したら消えそうな少女は、本当に消え去ってしまった。
果たして、本当にいたのだろうか。
これも全部、夢のように忘れさせてくれたらいいのに。
あの時の少女は。本当に。
……鎮めなきゃ。この心の動きも。無責任な思いも。
私は、私のやることをやらなくちゃいけない。
さあ。状況を、まとめないと。
ああ、やだな。
・・・
神様だってたまに休むんだから。人間離れしてたってご飯くらい食べますよ。人間だもの。