一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女 作:Mckee ItoIto
・・・
まずはご挨拶だ。
戦いは挨拶に始まり、挨拶に終わる。コミックスでもそういっていた。
まあこの挨拶は、ちょっとばかり、痛いかもしれないけどな。
「『
「『
質量を無視して浮かび上がった5メートル級の大岩。
それに魔力の炎を纏わせ、ミサイルのように高速でぶっ飛ばす。
当たる直前に『浮遊』は解除され、それはさながら隕石のような衝撃を与える。
名付けて合体魔法、メテオストライク。
似たことは一人でも出来なくはないが、二人でやれば威力に対してのコスパが段違いだ。
魔力の炎に加え巨大な物理的質量を持ったこの魔法は、当たれば大抵の魔獣の魔力装甲をぶち抜ける。
今回の相手は当ててくださいと言わんばかりの巨大な的だ。
ワタシたちにとっては外す方が難しいだろう。
当然のように直撃し、爆発する疑似隕石。
煙のなかの謎の魔獣。さて、どうなった……?
……。
「……ダメか。硬いな」
「魔力装甲の密度が高いのかも。物理が効きにくいなら私は攻撃面じゃあまり役に立てないかな」
「ヒメの本領はサポートだから問題ない。直接叩きに行くか」
「まって、まだ遠距離で様子を見た方が……」
距離にして、1キロほど前方の敵。
あれが効かないとなると、ここからちまちま攻撃しても埒が明かないだろう。
「いや、突っ込む。何をしてくるかわからない敵は、さっさと完封するに限るからな」
敵に何もさせないのはちょっとヒーロー的じゃないが、そんな余裕はたぶん無い。
早くしないと、
「ここで待っててくれ、必ず戻るから。魔法を頼む」
「……わかった。『
身体が、完全に宙に浮く。
この状態で『発火』すれば、自由自在に空を飛ぶことが可能だ。飛行形態ってやつだな。
まあこれも、一人でやれなくはないが魔法を合体させた方が圧倒的に効率がいい。
さあ、いくぞ。レディ、セット。
「『
ぐんぐん近づく黒い塔。近づくにつれて、その悼ましい見た目が露わになってくる。
まるで、傷だらけの巨木。いや、アレか? ちょっとアレなんだが、これってアレか?
ボコボコしてて脈動してて、黒光ってて、太くて、長くて、霧と一緒になんか変な液体も出てる……。
おぞましいというかなんというか……いや気持ち悪いな! きもすぎる!
こんな言葉にできない汚物、さっさと正義の炎で浄化してやらねば……!
なんかもう直接触るのもいやだったので、近距離だけど炎のビームで焼きつくすことにする。
参考にするのは第三部隊の副隊長、『放射』の魔法。炎を収束し、一気に解き放つ。
「蒸発しろ。プロミネンス」
極光が迸った。
近くて的もでかいから当たり前だが直撃だ。手ごたえあり。
この場面で使える高出力魔法ということで即興でやってみたけど、意外と上手くいったな。
消費はちょっと多いがもう少し調整して普段使いしてもいいかもしれん。
塔の魔獣はえぐれた中心部分を、うじゅうじゅと高速で再生している。
よし、オーケー。効いてるな。だけど回復が早い。畳みかけねば。
「焼き尽くせ。インフ────
──直感が突き抜けた。
五感の全てより一瞬早い、第六感の警告。
「『
魔法の強引な中断で暴走しかけた炎を無理やり抑え込み、全力で後方に退避する。
その、一瞬前にワタシがいた空間に。
何かを貫かんとするような形で、触手が通過していた。
「な、ん……?」
まったく、予兆が分からなかった。はっきり言って今のは運が良かっただけだ。
そして今わかったのは魔獣が光ったのと完全に同時に、今まで影も形も無かった触手が現れたということ。
その触手はコマ送りのような異常な速度で生え、ついでのようにこちらを貫こうとしていたということ。
そして大量の触手が生えたことで、ここまで特に動きを見せてこなかったこの魔獣が一気に攻勢にでてきたこと。
何が起こっている……?
とにかく敵がでかすぎて、何が起こったかその場ではよくわからない。
絡まりそうな無茶苦茶な動きでワタシを貫こうとする触手を三次元的立体起動で避け続け、後退していく。
そして、全貌が、見えた。見えてしまった。
巨大な塔は100メートルに届かんとさらに巨大に。
いたるところから細い触手が垂れ下がり、不規則に暴れまわり、見るもおぞましく霧と粘液を垂れ流す。
脈動する無数のコブの亀裂が少しずつ割れていき、そこから現れたのは。
目玉。
目玉。目玉。
目玉。目玉。目玉。
目玉。そして、無数の口。
見るだけで精神を削るような。
実在する正気を疑わせるような。
果たして現実かと思わせるような。
ワタシたちの存在を否定するような。
こんなものが、ワタシたちの知っている、魔獣、なのか?
そんなわけ、そんなわけ、ないだろう。
だれか、そうだといってくれ。
ワタシを見る無数の目。歪む無数の口。
なんなのだ、これは。思わず心から、心の中で祈ってしまう。
ああ、神よ、ワタシの目の前にある、この、
「マリー!!!」
近づく声に、一瞬で覚醒した。
正気に戻ってすぐの眼前には、束ねられた触手の塊。
素早いワタシを叩き潰すための、巨大な面と質量の攻撃。
「しまっ……」
「『
咄嗟に魔力を込め蹴り上げたその触手の塊は、重さを感じさせることもなくあっさりと弾き飛ばされた。
身体に染み付いた動きが、反射的にひるんだ触手へと追撃の火球を放つ。
「なにしてんのヒーローでしょ! しっかりしてよ!!」
「……すまん、本当にすまん、もう大丈夫だ」
「ホント!? 次またあんな間抜け面晒してたら殴るからね!!」
クソ、ホントにクソ過ぎる……何をしてるんだ。
何がヒーローだ、クソが、いや、落ち着け、落ち着け……。
そう、ワタシはヒーロー、ヒーローは簡単に動揺したりしない、落ち着くんだ……。
そうだ、ホントに冷静にならないと駄目だ。
現状を確認しろ。戦況を把握しろ。
敵の触手攻撃は束を一発丸ごと燃やしたから少し落ち着いている。
変化により増えた攻撃は今のところ触手によるものしかなく、残った触手による攻撃を流れ作業で対処しているだけだ。
だがそれでも十分すぎるといえるほどに、この触手攻撃は苛烈。並の魔法少女では恐らく1分と持たない。
それに……この魔獣の手札はきっとそれだけじゃない。もしそれだけだとしたら変化が余りにも大げさ過ぎる。
何が、本当に何が起こっている。
最初の等級は、仰々しく一体で出てきた割には第五等級の上位といったところだった。
それが今は大幅に強くなって、第七等級相当、その上位に迫っている。
それなりに長いワタシの戦闘経験の中でも、トップクラスの強さだ。
……強くなる、魔獣?
ちょっと待て、何か、何か引っかかる。
最近の情報、報告、……くそ、何かあったはず。はっきりしないな。
いやそうじゃない。
まず、いま考えるべきは戦況だ。
先程までの感触から考えると、これ以上の何かが多少あっても一対一なら問題なく勝てる。
だけどヒメは……無理だ、勝てない。このまま戦えば、最悪、死ぬ。駄目だ。それだけは駄目だ。
守れるかどうか……。それは無理じゃない。不可能じゃない。大丈夫だ、やれる。
だが……、どうだ。一緒に戦わせる、必然性はあるのか。
増える戦力。減るワタシの危険性。増えるヒメの危険性。
……これは流石に許容オーバーだ。こんなの、天秤にかけて考えるまでもない。
「もう、大丈夫だ。だからヒメは退避、を……?」
触手を再生させた塔の魔獣が、動きをピタリと止めていた。
ずっと、こちらを見据えていた無数の目が一斉に焦点を外し、無数の口をゆっくりと開き、
「ッ! 『
考える時間も勿体ない。とにかく、こいつにはこれ以上何もさせるべきじゃない。その直感に従い全力で魔力をつぎ込む。
先ほどまでの炎よりもずっと強大な青い炎球を、何かやり掛けていた敵に思いっきりぶつけた。
塔の胴体を、丸ごと蒸発させるような過剰な威力。普通の魔獣なら、とっくにオーバーキルのはずだ
中心部分を丸ごと失い、巨大な塔の魔獣は上下が分断されて倒れはじめる。
これで、勝ったと思いたいが……。
「インフェルノ」
上下泣き別れとなり、地に落ちていく魔獣の上半分。それを油断なく燃やす。
そのまま下半分も燃やしておく。手を抜かず、気を抜かず、丁寧に燃やし尽くす。
全てを焦がす炎が魔獣を包み、魔獣は巨大な篝火となってあたりを照らす。
……。
……。
勝った……のか?
魔獣が、のたうち暴れながら、ボロボロと、バラバラになりながら燃え落ちていく。
結局、増えたあの目玉と口に何の意味があったのかわからないままだった。
……少しくらい見ておくべきだったか?
結果論だが私は無傷だ。多少の隠し玉があったところで恐らく問題はない。
だとしたら、今後の魔獣対策のための成果として回収しておくべきだったかもしれない。
こんなのが今後もまた出てくるなんて、考えたくもないが……。
あ、いや、いや……やっぱりダメだ、そんなの。
自分の命だけならともかく、この場には守るべき命がある。
それを守るヒーローなのだから、それは決してベットするべきものではない。
これで良かったのだ。そうに決まっている。
なにはともあれ、過ぎたこと。
あとは消えない炎が魔獣を灰にしてしまうのを待つだけだ。
「……なんだったのこれ?」
「わからん。だけど、まだ生きてる。ヒメは後方に退避しててくれ」
「……わかった」
まだスタンピードは終わってない。
少し消耗しすぎたが、こいつが燃え尽きたら次の戦いに備えないと……。
燃え盛る魔獣に照らされながら、炎に魔力を込め続ける。
流石に巨大すぎてまだ少し時間が掛かりそうだが、もう終わる。
瓦礫のように崩れた魔獣が炎の中で、身体をどんどん燃え滓にしながら動きを鈍らせて、蠢いていて、声なき声をあげ……、?
……いま、口が?
──『
・・・
突然、視界が霧に覆われた。
「な……?」
まて、落ち着け、落ち着け。
現状確認、戦況把握が最優先だ。忘れるな。
この霧は落ちた魔獣の欠片が一斉に爆発したもの。
魔力を若干含んでいるが、今の時点で実害は感じ取れない。
何も見えなくなった視界で触手の攻撃に備えるが、今のところ敵の動きはない。
流石にまだ再生はできていないのだろう。こちらの炎はまだ消えていないし攻撃は続行中だ。
あ、いやでも、あれは……、魔、法……だったのか……?
魔法を使う魔獣……そんなのが?
ふざけすぎだろう、有り得な……、い?
ちょっと待て、これも、いや、なんだ、引っかかる、何かあったはずだ。
……、……深く考えるのは後にしよう。
今は、攻撃を継続してきっちりこいつを殺す。早く終わらせるんだ。
あ、違う、違う、ちょっと待て、違うだろ。
終わってない、油断するな。あ、でも。いや?
何かがおかしい。何が?
ワタシは最強のヒーローなのだから、問題など、何も、何も……。
「マリー?」
ヒメが、隣にいた。後ろに下がったはずでは? あれ?
「大丈夫?」
「大丈夫じゃ、ないよね?」
前方を振り返る。霧の中から、
「そうだよね?」
「そうでしょ?」
なに、を……?
「たくさん戦って、でも全部は守れない」
「その度に、みんなが少しずついなくなる」
え……?
「守れないのに、守らなきゃいけないって」
「一緒にいれないのに、一緒にいたいって」
あ……。
「ヒーローは孤独だよ」
「最後はいつでも独りぼっち」
「孤独でも戦うのがヒーロー」
「孤独を受け入れられないのにヒーロー?」
「何を、言ってるんだか」
ぇ、あ……ちが……、
「でも、それでもいいんじゃない?」
「ヒーローじゃなくても、私は受け入れるよ」
「受け入れられないマリーを、受け入れてあげる」
「かわいそうで、かわいいマリー」
ゃ……、
「おいで、守ってあげるから」
……、ぃ……、
……ぃ、
「っ……、『
バッ……、この、バカがッ! クソボケッ!!
こんなの攻撃に決まってるだろ!!
何が大したことはできないだ、最悪の精神攻撃だこんなの!!
幻影、偽物、霧の中の無数のヒメ。
「ヒートナイフ!!」
ヒメの偽物を切り裂く。ほら、消えた、
片っ端から、消す。
消していく。消えろ。
消えてくれ……!
霧が少しずつ薄まり、幻が少しずついなくなり、あと少しなのに、残った敵は硬い。
でも大丈夫だ。ワタシは強い。この敵だって問題なく倒せる。
参考にしたのは第七部隊の隊長、『貫通』の魔法。
炎を極限まで小さく圧縮し、魔力障壁を貫く。
「穿て、クリムゾンレイ……ッ!!」
極小の火球が、レーザーのような曳光を残して最後の敵を貫いた。
全ての敵がいなくなり、霧が晴れていく。
結局、ワタシは無傷のまま。
魔力だけはかなり消耗はしているが、体力は十分で大した問題ではない。
これで万事解決の、パーフェクトな、勝、利……。
……?
「あ……れ?」
なんで?
おかしい。なんでだ?
なんで、
「あ……嘘、だろ?」
霧は晴れた。目の前のものも、頭の中のものも。
本当は理解しかけている。頭がそれを拒んでいるだけで。
ワタシは……、何を、やった?
殺し、た、のか……?
……なに、を?
「……ぁ」
止まってしまった。何もかも。
動きも、思考も、先ほどまで並行で行っていた魔獣本体への攻撃も。
視界の端で、通信端末がチカチカと光っている。
ヒメが応援要請から救援要請に切り替えたのだろうか。
そして、ワタシの援護に入った? バカなのか?
さんざんワタシのことをバカだといっといて。そっちの方がバカじゃないか。
急激に弱まった炎の中で、魔獣が再生を始めているのが見える。
でも、何も、動かない。動かせない。
これがワタシの末路。
守るべきものを守れなかった。それどころか、自らの手で壊した。
守れないのは、初めてじゃない。奪われるのも、初めてじゃない。
だけどこんなの、あんまりすぎる。何が、何がヒーローなのか。
ぼんやりと、魔獣が回復していくのを、見守ってしまった。
再び生えた触手が暴れ回る。がむしゃらに、乱暴に。
周りにある何もかもを吹き飛ばし、振り上げ、巻き上げていく。
それを見つめる。ああ、なんとかしないといけないのに。どうして。どうして……。
──
「あ、ぐっ……! ちょっと失敗、しちゃった、かも……?」
「え……?」
落ちてきたのは、ボロボロの女の子。あの触手に巻き込まれたのだろうか。
落下の衝撃により、もはや負傷者だといっていいぐらいだ。
ただの一般人と変わらないような、弱い魔法少女。
支援部隊……なのか? いったい何をしにきた?
不思議な魔力をしているが、こんな子が来てなんの役にも……?
いや……? なんだ、何かおかしい……?
「……その怪我」
「あ、えっ……と、大丈夫……です。助けに、来ました」
大丈夫? 大丈夫なわけ、いやそれよりも、助ける?
なにを? こんなにも弱い子が、このワタシを?
そんなボロボロの状態で、ワタシのなにを助けると?
なにを、助けてくれると、いうのだ……?
「大丈夫です」
足を引き摺りフラフラとこちらへやってくる、少女を見ながら。
その無力な姿の背後に、触手を振り下ろす化け物を見て。
(あ……)
──『
思考が一気に形を取り戻す。
守らなきゃ。
そう、この子のことも、守るんだ。
身体が勝手に動いた。少女を庇い、流れるように触手を弾き飛ばす。
そうだよ。ワタシは間違えてしまった。そんなのわかってる。
でも、間違え続けるわけにはいかないんだ。だって、ヒーローなのだから。
残った魔力を集中させる。あいつを倒し、この子を守る……!
心を燃やせ。魂を注ぎ込め。諦めてはならない。戦え。責務を果たせ。
そうだ、やるべきことを確認しろ。この魔獣は絶対に倒さなければいけない。
ワタシが負けたら、この子だけじゃない。他の仲間、無力な人々、みんなが死んでしまう。
ワタシがやらなければ。ワタシしかいないんだ。ワタシは、ヒーローなんだ……!
「ここで、待っててくれ。必ず守るから」
「え?」
「ヒメを頼んだ」
「えっ、え?」
少女をヒメのそばに連れて行き、ワタシは魔獣の元へと飛ぶ。
二人を背に。攻撃を絶対に通さないという強い意志を持って戦い続ける。
戦闘は、相手も消耗はしているが最初からやり直しみたいな状況だ。
でも魔法のようなものを使う気配は、もうない。一回限りなのだろうか。
あれさえなければこいつはただの第七等級魔獣に過ぎない。だが何にせよ油断すべきではない。
それでなくても異常にタフなのだから。はたして、この後の戦いに魔力を残せるだろうか。
……ああ、くそ。ダメだな。正直、すぐにだって心が折れてしまいそうだ。
でも戦わないと。守らないと。ワタシが何もかも、守らなければ。
だって……だってワタシは、ヒーローなんだから。
チラリと後ろを見る。少女が横たわるヒメを覗き込み、小さく頷いているのが見えた。
そして、こちらと目が合う。その、透き通った不思議な目と。
緩やかで、穏やかな表情。包み込むような眼差し。
満ち足りていながら、何かが欠けていると思わせる微笑み。
少女の存在感が少し薄まったような気がした。
気配が希薄に、それでいて明らかな輝きを感じさせて。
それは自然そのものの神々しさのようにさえ思えて。
まるで、
違和感。直感。そして、理由のわからない確信。
咄嗟にワタシは、その少女へと──
──『
少女の胸から、赤い花のような鮮血が咲いた。
(な……?)
なにが、起こった? 攻撃?
敵の攻撃には、全て集中して対処していた。だからそんなわけ。
いや、まて、一番最初の攻撃だけ、明確には察知できなかった。ただの運で避けられたようなもの。
最初以外使わなかった以上、可能性はゼロに近いだろう。でもゼロじゃない。
考えるべきは、あ、いや、それは、でも……。
また、間違えたのか……?
攻撃を、通してしまった……?
ワタシは、また守れなかった……?
(あ……)
ダメだ、倒れるな。挫けるな。ワタシは、ヒーローなのだから。
まだ、少女は生きてる。ああ、でも、でもわかってしまう。あれは助からない。
また、守れなかったのだ。これも全部、全部、ワタシの罪だ。
でも立ち上がらなければ。ヒーローなのだから。そうだろう。
……そうじゃ、ないのか?
……。
……そうだ。そうだよ。
「『
ガチリッ、と歯車が噛み合う感覚があった。
心の中で何か挟まってしまっていた硬いものを、強引に砕いて嵌まった感触。
大事な何かが今、欠け落ちた。でも歯車の歯は欠けながらも綺麗に回りだす。これでいい。
あの少女が何をしたかったのかは、何となくわかる。失っていたワタシの魔力が回復してるから。
ワタシは、その未来を守れなかった。もはやそれは過去に捨てられる空想に過ぎない。
全回復した魔力を、そのまま全部使おう。後先なんか、考えない。
こいつは、この化け物だけは、必ず滅ぼすのだ。今のワタシに残っているのはそれだけ。
そう。これがいなくなれば、間接的にたくさんの人が守られるのだから。
ああ……、違うな、ちゃんと自覚しよう。
これは八つ当たりみたいなものだ。その後のことなんか、知ったことではない。
魔力が空になったワタシが、その後のスタンピードを生き残れるのか。まあ無理だろうな。
そしていつか助けられたかもしれない命を、守れる者を、全部見殺しにするのだ。最低だろう?
怠惰で傲慢な自殺行為。大罪人だ。到底、天国には行けそうにない。別に、それはいいが。
でも……そうなると、ヒメにも、お父さんにも、もう会えないのか。まあ仕方ない、よな。
……さあ、行くぞ。これが正真正銘、全力の必殺技だ。
地獄に送ってやるよ。ワタシも、すぐそっちに行く。じゃあな。
「スーパーノヴァ」
全部燃えていなくなれ。
・・・
「あっつ……」
魔法による環境への影響は可能な限り抑えてるけど、それでも多少は暑くなる。
まあ少し前まで魔獣で焚き火してたしな。丸腰だと普通に暑いのだよ。
完全に魔力が空になり、魔力衣装も解けて普通の服で大の字に倒れ込む。
塔の魔獣がいたはずのところには、
周りを巻き込まないように範囲を絞ったつもりだったが、範囲に入ってしまった小高い山ごと綺麗に整地されてしまった。
これじゃ調査もクソもないな。まあ仕方ないか。
そもそも情報持ち帰れるかわからんし。緊急以外の通信もいつも通りロクに繋がらんしな。
あー、スタンピードが始まって、まだ1時間も経ってないくらいか。
この地鳴りは、いったい第何陣目のものなんだろうな。
(よっこいしょっとな)
身体を起こして、こちらへ向かってくる次の大群と向き合う。平均第二等級の群れ。およそ300といったところか。思ったより近づいてくるの速いな。
できれば向こうにいるヒメを弔ってやりたかったのだが……時間的に無理そうだ。
……は。そもそも、なに言ってんだか。
ほんと罪深いな。そんなことしてもなんの償いにもならないのに。
ヒーロー失格だ。いやもう、ワタシはヒーローだなんて言う資格ないか。
まあヒーローの残り滓として、やれることだけはやろう。
魔力弾を撃つくらいなら多分できる。身体強化は無いよりマシ程度、か。十分だ。
さあ、こいよ雑魚ども。ワタシの屍を越えなければ、先には進めないぞ。
覚悟を決めて、踏み出す。
きっとここがワタシの終わり。最後の戦場、最期の一仕事、なのだろう。
あるかどうかもわからないような、なけなしの魔力を練り上げ、戦闘の準備、を……?
……何の、音だ?
──『
大群が、為す術もなくヘドロのようなものに飲み込まれた。
「あ……」
振り返り、そこにいたのは過去に何度も顔を合わせたことがある、魔法少女たち。
集団戦のスペシャリストにして、この場において最高の援軍。
「第九部隊現着。これより第八部隊の救援に入ります。状況開始」
「お久しぶりです、大丈夫……ですか?」
第九部隊の隊長『浄化』の魔法少女と、副隊長の『汚染』の魔法少女。そしてその仲間。
第八部隊と同じく、ともに南方を守る、ワタシたちの心強い味方。
全身の、力が抜けてしまった。もう、いいのか?
もう頑張らなくて……いいのか……?
ああ、でも。こんなの。結局、ワタシだけが助かってしまうなんて。また。
ダメだろ、そんな……そんなの、ない、あんまりすぎる……。
「あっ…………ぅう……っ」
「え、え?」
「……」
「ぅ、ぐ……、大丈夫だ。救援感謝する」
「ええっと、どういたしまして?」
「……」
「ぇ……っとだな、戦闘状況は、さっきまで第七等級魔獣、いや、恐らくその上、第八等級の魔獣と戦闘。ワタシが消滅させたが、副隊長が犠牲に。あ……、違う、ワタシが、この手で」
「……我慢、しなくてもいいんじゃないでしょうか」
『浄化』の聖女様が、ふわりと抱きしめてきた。
やめろ、優しくするな。やめてくれよ。
ワタシは、ワタシは……大罪人なんだ……。
「怪我はされてないようですけど、落ち着くために後方に下がった方が良いかと思います」
「ぅ……」
「あちらの副隊長さんも後方へ。治療を受けてもらいましょう」
「え……。あ……うちの副隊長は、もう……」
「傷は無いようですが、念には念を」
「……え?」
救援のために一緒に来た、支援部隊の隊員に運ばれるヒメが見えた。
その姿は、ボロボロの服以外は前と何一つ変わらず。
その目が、うっすらと、
「……マリー?」
ああ、ワタシは、いま何に感謝すればいいのだろう。
ボロボロと、我慢していたものが溢れてくる。
ワタシには、守れなかった。こんなのヒーローでも何でもない、ただの罪人だ。
じゃあ、ワタシじゃなければ、だれが守ったのだろうか。
そういえば、あの少女がどこにも見えない。死体も無い。
果たしてあの少女は、本当にいたのか? あの希薄すぎる気配、幻だったんじゃないのか?
いや、確かにいた。間違いなく、存在した。
あの回復がなければ、あの魔獣を一撃で消し去るのは難しかったのだから。
それに、そうだ。あの魔法。魔力を回復するだけだと思ってたけれど……。
ワタシが傷を負ってなかったから気付かなかっただけで、本当は、魔力も肉体も、何もかも直してしまう途轍もない回復魔法だったのでは?
だけど普通に考えれば、
ヒメは目覚めた。死んでいなかったということだろうか。
だとしたら、つまりワタシは、
ああ……いや、わかってる。それで罪が減るわけじゃない。わかってるんだ。
相変わらず、ワタシは罪深い。最低すぎる。だけども。それなら。
ワタシは救われたと感じてしまうだろう。
この罪が、救われてしまう。
そして……さらに。そうではなく、もしも。もしも。
あの魔法が普通では考えられない、
何もかも、丸ごと救われてしまうのだ。
ワタシの取り返しのつかない罪も。ヒメの取り返しのつかない命も。
そうだとしたら、全部、全部、あの少女、あの方のおかげ。
ああ、そんなの。そんなの、
ワタシは最低だ。罪深くも、赦されたいと願ってしまっている。
もっと最低なことに、その救済がより大きなものであってほしいと考えている。
それが、もっと神に近い御業であってほしい、と。
どちらにせよ、ワタシたちは救われたのだ。
きっとあの方は死んでいない。ワタシのあの時の感覚など当てにはできないのだから。
いや、もしかしたらそんな感覚すらも超越してしまっているのかもしれない。己の尺度で考えてはいけない。
どこに、いったのだろう。感謝を、祈りを伝えたい。
みんなは見てない? そうか……見てないのか。
あの違和感、存在感、不思議な神々しさ。
もしかすれば、やっぱり、そうなのだろうか。
ホント、ヒーロー失格だ。
自分以外の力に、助けられたいと願ってしまうだなんて。
ワタシなんか、力の責務も果たせない大罪人。
罪深いワタシを、どうか御赦し下さい。救い主様……。
・・・
傷付きながらも何度だって立ち上がれる人って、いいですよね。
※ ちなみに金髪の子、ただの敬虔な中二病患者なので別に技名を叫ばなくても同じことできます
でもルーティン的な感じで咄嗟に効率の良い形に魔法を操作できるので、完全に無意味ではなかったり