一般通過自己犠牲全体回復魔法持ち魔法少女 作:Mckee ItoIto
・・・
状況開始。心の中で呟く。
私には『再生』による無限の魔力があるので、常に隊服を模した魔力衣装を纏っている。
故にいつ状況が始まっても問題ないし、どんな作戦にも瞬時に移れる。
常在戦場とでもいうべきか。
いつも通り私は部隊に先行し、現場に一人でやってきた。
木々が少ない丘の上。切り立った崖の上から崖下を見下ろす。
眼下には十体の大きな猿型魔獣。平均で第三等級程度。
比較的等級は高いが、数は少ない。
それらが集まって何かをしている様子。
まあ、何をしてようが問題はないだろう。
ふらりと崖から飛び降り、魔獣の眼前に着地する。
突然現れた私に戸惑い隙だらけの、近くの魔獣の腕を掴み……限界以上に身体強化の出力を上げ、一気に引き千切った。
当然、そんな無理な強化に私の肉体も耐えられない。
爆発的な破壊の感触と、慣れ親しんだ激痛。前回の戦闘から少し間があったから、若干痛みが強く感じる。
関節が砕け、筋肉が裂け……それは一瞬で『再生』し、元通りになる。何も問題ない。
今回の魔獣はどうやら普通に痛覚があるタイプのようだ。
顔を歪ませ絶叫し膝を折った魔獣の猿顔に、千切れた腕をフルスイングする。
パァンと小気味良い音を立てて、首から上の大半を失った魔獣が吹き飛び転がっていった。
これで一体目。武器もダメになってしまったから次を用意しなければ。
仲間の惨状を見た魔獣が固まっていたので遠慮無く近づき、毛皮を掴んで叩きつけるように引き倒す。
何が起こったか分からない表情を見せる猿の頭を思いっきり踏み潰し、これで二体目。
不快感を煽る匂いを漂わせ、びちゃりと血のような魔力の体液が足を濡らす。
魔力残滓にむせかえるような、戦場の感触。これが私の居場所。
ゆらりと身を起こし、人類の敵を睥睨する。
ああ、弱いな。
私の敵には成り得ない。
硬直が解けた魔獣が慌てて殴りかかってきた。その腕を軽く打ち払う。
体勢を崩した相手の顔を目掛け、飛び上がるようにして蹴り飛ばす。
醜い顔をもっとひしゃげさせ、他の敵を巻き込んで飛んでいく。
三体目。反動で足が少し傷ついたが、それは瞬く間に治った。
ようやく状況というものを理解したのか、残りの魔獣が一斉に囲い込んでくる。
七対一。自身よりも二回り以上大きい相手の、集団による猛攻。
避け続けることもできるが……いささか非効率か。
所詮は雑魚。当たったところで大した傷にはならないのだから。
殴られたところで、そのほとんどは私の魔力による防御を抜けない。爪も、牙も、さほどの痛手にはならない。
どのみちすぐ治るのだから、実質ノーダメージといっていい。流れた血は蒸発するように魔力へ還り、肉体を巻き戻す。
怯え始めた様子の魔獣を、作業のように一体、また一体と紙粘土の人形を壊すように仕留めていく。
私の身体強化は全魔法少女の中でもトップクラスだ。近接戦なら誰にも負けない。
速さは『加速』の魔法少女には流石に負けるが、膂力は私の方が上。
それに加えて、私には無数の戦闘経験と無限の継戦能力がある。
こんな程度の災厄など、なんの脅威でもない。
残りは五体。そのうちの一体が雄叫びを上げて突っ込んできた。
他の四体を見ると姿勢が引けている。こいつを囮にして逃げる気だろう。
問題ない。すぐ追いつける。
覆い被さるように振り下ろされた爪をそのまま受け、隙だらけの首を握りつぶし、頭を引っこ抜く。
それを、魔力を込めて全力で投擲。轟音とともに逃げた一体に命中し、爆散させた。残り三体。
さて、追いかけなければ。
バラバラに逃げられたので急ぐ必要がある。
身体強化の出力を限界を超えて引き上げ、一番近い逃亡者を目指して一気に加速。
体が、一応、といったように激しい痛みを走らせるがどうでもいいことだ。
どうせ治るし、痛覚も慣れすぎていてすぐに消えるのだから。
逃げる敵を追い抜きながら、後頭部を掴んでそのまま地面に叩きつける。
魔獣の顔をすりおろすようにしながらブレーキをかけ、止まったと同時に頭を潰してトドメを刺す。
残りの奴らを順に見る。反対方向に逃げられたので少し面倒に思う。
逃亡者たちは私から少しでも遠ざかろうと必死に走り、
──『
不可視の壁に激しく衝突して止まる。
その逃亡劇は無情にも早々に阻まれたのだった。
思わず、小さな溜め息を吐いた。
……できれば到着前に片付けたかったのだが。
「第二分隊、現着」
崖の上。見上げると苦虫を噛み潰したような表情の副隊長と、仲間たち。
あれは……怒っているのだろうな。まあそれは後回しだ。殲滅を優先しよう。
近い方の魔獣をサクッと雑に千切って投げ。
残った方は、謎の踊りを踊るようにして傷を増やしながら勝手に倒れて動かなくなった。
『障壁』による不可視の攻撃だろう。火力は無いが、見えないというのはそれだけで脅威だ。
静寂。気まずく視線を合わせる私たちと自然の音だけが残された。
障壁で作られた見えない階段を、小麦粉のような白い粉を軽く撒きつつゆっくり歩いて降りてくる。
これは本人にしか認識できない『障壁』による階段を、後続の人たちが判別できるようにしている、のだが。
相変わらず少しシュールだ。そういうとまた怒るのだろうが。
「……また、たくさん血を流したんだ」
「もう治った。無傷」
「そういう問題じゃないんだっつーの……」
どっちかというと敵の攻撃より強化の反動ダメージの方が遥かに多いのだが。どのみち治ってるので問題ない。
ともあれ、戦闘はあっさりと終わり、あとは事後処理を残すだけ。
ひと気のない郊外の自然の中なので、建造物にも民間人にも被害はない。
帰ってから書類を書くのも楽に終わりそうで良かった。
……そういえば。
魔獣たちは最初何をやっていたのだろうか。
集まって、何か、地面を気にしていたような。
ふと気になって、最初の場所へと向かう。
ついてこようとした仲間たちをその場に留め、私一人で確認をしていく。
全ては片付き、危険など無いはず。だが、感覚的に、というより経験則的に。
なんとなく、そうした方が良いと頭をよぎったから。
──結果的に私の判断は正しかった。
感知が出来ていたわけではない。
対処できたのも、単なる偶然。
爆発的な、魔力の高まり。
光り輝き回転しながら、
ご挨拶とばかりに、金属片のようなものを大量に射出しながら。
私の反射神経を褒めなければならない。後ろには一片たりとも通さずに済んだ。
しかし、傷を『再生』すると共に感じる、嫌な予感。
第六感がけたたましく警鐘を鳴らしている。
「……隔離! 私を中心に半径20メートル!!」
「えっ……!?」
「早くッ!!」
「あ、ぇ、『
目には見えない隔壁により、何か……新たな魔獣と、私が覆われる。
そうして、魔獣と私の一対一の状況が作られる。
これで……何があっても問題はない。
何故か絶望的な表情を浮かべる彼女を尻目に、魔獣と向き合う。
……いや、しかし魔獣、なのか? これが?
それは、まるで翼の生えた十字架。人の背丈ほどであまり大きくはない。
空中で翼を広げたそれは、傷だらけで、つぎはぎのような無数の裂け目があり、
布きれのような触手を何本も垂らしていて、
裂け目は何かを宿すように胎動しながらぼんやりと光り、
何かが寄生した薄い瘤のように見えなくもない。
本来魔獣は、魔の獣、というように獣を模している。
たまに例外があったとしても、植物であったり、またはファンタジー的な生き物、竜など。
なんにしても生きた物の形だ。
だというのに、なんだこれは。
生命というには、あまりにも冒涜的な何か。
あまり……直視したくはないな。さっさと倒してしまうべき。
最初に感じた異常な魔力の割に、今この十字架から感じる魔力は大したことない。
警戒するに越したことはないが様子を見る必要も無い。
どんな隠し玉があったとしても。
どうせ私を殺すことなどできないのだから。
まるで映画やゲームの一場面かのように現れた敵に全力で殴りかかったが、翼で防がれた。
羽のように見えるものも、これは十字架なのか。金属質で、まるで鱗にも見える。
それはダガーのように鋭利なためおろし金を殴ってしまったような感じに手がズタズタになってしまった。
もう治ったが。
衝撃でよろめいた敵に構わず追撃を仕掛ける。
かなり硬い。が、強化の倍率を上げていけば問題ない。
足を折る程の勢いで敵を蹴り落とす、鈍い金属音を立てて重たい羽が散る。
着地。先に地面に落ちた十字架が身を起こそうとするも、不自然によろめく。
不可視の攻撃が襲っているのだろう。しかし邪魔にはなれど通用している様子はない。
……"援護は要らない"とハンドサインを送る。
少し迷って、"撤退しろ"とも。
私と閉鎖空間に閉じ込められている状況は、この魔獣にとって詰みも同然だ。
成す術無く嬲り殺される未来しか、敵には残されていない。
『障壁』も込めた魔力が尽きるか、自発的に解除しない限りは残り続ける。
この壁はこの世界のありとあらゆるものより強固だ。
『破壊』の魔法すら通用せず、かの『執行』ですら簡単には解除できないという完璧な密室。
何もアクションがなければ、維持されるのはおよそ30時間といったところ。十分すぎるといっていい。
であれば、彼女たちがここに残る意味はあまりない。
私にだって思うところはある。私の戦い方は泥臭く、見苦しく、血生臭く、実に汚い。
見る必要が無いのなら、見ない方が良いだろう。ずっと前からわかっている。
見ていて不快。そういう思いが一切無い、とは言えないはずだ。
世界のバグとも言える反則的存在。不滅で、無限に使える人的資源のデメリットはそこにある。
見るもおぞましい化け物であり、戦う姿は人々の目に可能な限り触れさせるべきではない。
輝かしく希望を与えてきたみんなとは、何もかもが違う。
彼女たちとの間には、不可視にして不可侵の壁がある。
だから私は一人で戦うのだ。
誰よりも早く。誰よりも多く。誰よりも長く。
作業のように繰り返す。孤独であることが正しいのであれば、それに従うより他ない。
私の道の先には、永遠と続くそれしか残されていないのだから。
体勢を立て直した敵が金属片を飛ばす。
それは私だけを切り裂き、しかしすべて『障壁』に当たって落ちた。
感じる魔力の割には、攻撃力がかなり高い。魔力による防御どころか、魔力衣装すら簡単に破られてしまう。
問題は無いのだが、いちいち深い傷になって行動が邪魔されるので少し鬱陶しい。
彼女が何か叫んだが、見えない壁に阻まれて聞こえない。
自分の魔法なのに、声が聞こえないことを忘れているのだろうか。何を慌てている。
応戦しながら再度、"撤退するように"と伝える。首を振る彼女と仲間に、"命令"だと念を押す。
葛藤する表情を見せるも、しかし仲間たちは最終的に従ってくれた。
……彼女一人だけは残るようだ。
まあ、最悪一日経っても戦いが終わらない可能性もある。
大丈夫だとは思うが、持久戦には備えた方が良いだろう。
合理的に考えれば、『障壁』を張り直せる彼女が残る意味はあるか。
……そこからはひたすら、命の削り合い。
お互いに決定打のない、まるで人類と魔獣の戦いの縮図のような。
違うのは、私の命は削れても元に戻るということだけ。
敵は通常では考えられないくらい非常にタフだが、所詮は有限の耐久力。
勝利は確定的であり、敵の敗北は必定。ここに流れる時間は私の味方だ。
何故か、何度か『障壁』を解除するそぶりを見せた彼女を視線で牽制するのに気を使ったくらいか。
無用なリスクが発生するだけだ。意味がない。
あとはひたすら、敵の命をすり潰すだけ、
突如、十字架の魔獣が強く光った。
と、同時に触手が私の胸を貫いていた。
何かされたのか? まったく反応できなかったが。
肺も傷ついたのか口に血が溢れるが、問題ない。
触手を手刀で切り落とし、引き抜いて捨てる。傷はすぐ塞がる。
見上げると、何やら様子が変わった十字架には、巨大な眼球と無数の口が。
数を増やした触手と翼を広げ、威圧するようにこちらを見下ろしている。
まるで、勝ち誇ったかのように。堂々と。
「『
私の腕に、巨大な楔のようなものが生えた。いや、刺さったのか?
速過ぎて視認できないのか、内側から発生したのか、わからないが、ともかく避けられなかった。
楔はそのまますぐに消えたが、傷ついた身体がひび割れるように血を噴出させる。
が、瞬時に『再生』する。
「『
触手の攻撃を避けたと思ったら楔が刺さる。腹が裂け、はらわたが顔を覗かせる。
同時に足が、砕けるように削れた。そのまま倒れ──
──ることはない。『再生』した足で踏み込んで跳ぶ。
「『
頭が割れた。文字通り。ぐらりと視界が揺れる。
一瞬のブラックアウトを経て、構わず殴ろうとしたがいつの間にか腕がズタズタになっていた。
仕方ないので身体を捻り、蹴り飛ばす。その間に腕は元に戻った。
魔法。私たち人類の、魔獣への唯一の対抗手段。
そんなもの、決して魔獣が使ってはならないだろう。あり得ない話だ。
ただでさえ人類の武器は少ないのに、まさしく鬼に金棒といった絶望的な強化。
そんな、第七等級か、もしかしたらそれ以上の存在感。圧倒的強者の気配。
勝ち誇ってしまうのも、無理はない、か。
……ああ、実にくだらない。
無機質だった敵に目が備わり、朧気ながら感情が見えてきた。
ほんの一瞬だけ優位に立ったと勘違いした、優越感。
その攻撃が通用していると思い込んでの、嗜虐心。
効いてないことを理解してきた、恐怖心。
勝機など無いことが分かっての、絶望。
ほんの、ほんの一瞬だけ期待した。
必殺の一撃だ。そんなものが何度も飛んでくる。反則的な攻撃。
普通に戦えば、命がいくつあっても足りない。
……くだらない。この程度が切り札なのか。
そんなもの、私には何の意味もないんだよ。
あまりにも相性が良すぎる。相手にとっては最悪だったろうがな。
そもそも『再生』は私の制御下に無いのだから。
たとえ肉体の全てを失おうが、勝手に発動して勝手に『再生』する。
まさに、不死の呪い。永遠を強制する、私への天罰。
お前如きが踏み越えられるものでは、ないんだ。
……そう。何も、問題ない。大丈夫だよ。大丈夫だ。
わかっているだろう。だから、絶対に『障壁』は解除するなよ。
こんなくだらなくて、見苦しい戦いなんか見なくていい。
ただ、待っていれば、それでいい。
そんな青い顔して吐き気をこらえてまで、見るようなものじゃないんだ。
じきに勝つ。それまで目を閉じて、黙ってじっと、待ってておくれ。
私が全部終わらせるから。
・・・
状況終了。心の中で唱える。
日はすっかり翳ってしまった。半日くらいかかったか。
辺りには金属の欠片が、魔力に還りながらいくつも残されている。
バラバラに砕けた十字架の本体にも動く様子は一切ない。
『障壁』を解除してもらい、狭い戦場から彼女の元へと向かう。
途中から魔力衣装の再構築も面倒になって露出が酷いが、終わったのでちゃんと構築して着るとする。
これで元通り、無傷で、一番最初と何も変わらない隊服姿に戻った。
「勝った」
「勝った……じゃないんだよバカ……」
結局最後まで見ていた彼女は、怒ったり慌てたり泣いたり吐いたり忙しそうだった。
「見たくないなら見なければ良かったのに」
「こん……のクソババア……私がやったんだから最後まで見届けるに決まってんじゃんか……!」
律儀な娘だな。そんな無理に不快な思いをしなくてもいいのに。
「ん。そうだった。すぐ隔離してくれて助かった。前半はともかく、後半の敵の攻撃じゃみんなの命が危なかったから」
「……わかってる。理解してる。だから自己嫌悪で死にそうなんだよ」
「気にする必要ない。仕事なのだから」
盛大に舌打ちされた。
まあ、良かった。とにかく倒せたのだ。
最悪、『障壁』で
封印措置は色々な意味で問題があるから最悪も最悪だけど。そうならなくて良かった。
それにしても。この魔獣は何だったのだろうか。
今までの報告にあっただろうか。わからない。
こんなあからさまなみんなの危険、見逃さないとは思うのだが。
魔獣と呼べるかも怪しい存在。魔法を使う化け物、か。
……まるで、魔法少女に対しての、私、みたいだな。
そんな、くだらないことを考えてしまっていた。
事後処理のためとはいえ、意識を外して、思考に囚われてしまっていた。
「『
──彼女の頭に楔が。
反射的に、全力の身体強化で、トドメを刺したと思っていた十字架に接近して踏み砕く。
もはや到底生きているとは感じ取れないほどだった欠片を、粉微塵にする勢いで、執拗に、何度も、何度も、何度も。
完全に魔力に還ったそれを見届けてから、彼女の元に戻った。
その懐から通信端末を取り出して、救援要請を送り、あ、いや……無駄、か。
ひび割れた頭。零れる血液。虚ろな目。失われた。もはや取り返せない。
……ああ、馬鹿だ。何を考えていたんだ。本当に愚かすぎる。全くの、未知の魔獣だったというのに。
全身をバラバラにした程度で、魔力を離散させながら動かなくなった程度で、追撃に何の反応も返さなくなった程度で、仕留めたと勘違いしてしまった。
その程度、私だったら全く問題ないというのに。
そんな実例が、最も身近に存在していたというのに。
擬死。いわゆる、死んだふり。
人類に対して常に上位である魔獣が、決して行わないはずの行動。
今までにもそんな報告は無い。報告は無いが……。
ああ……馬鹿だなぁ。私はまた、そんな可能性を見逃してしまった。
その結果として命が失われたんだ。失われない、私の命と引き換えに。
即死だ。本当に規格外の魔獣。
彼女は十分に、魔法少女の上位クラスだったというのに。たったの一撃。
また。私のせいだ。そんなこと、考えても仕方ない。
終わったことは、どうしたって巻き戻らないのだから。
落ち着いて、事後処理を、していかなければ。
さぁ、落ち着け、落ち着け、
……即死、なんだろう?
目が合った。割れた頭の、光を映さない目が、開くはずのない唇が、動いたように見えた。
"気にする必要ない"
と。
その顔に、別の顔が重なる。駄目だ。堪えろ。
私に感情を動かす資格など、無いのだから。
「……っ」
私の落ち度。私の失態。胸に刻め。決して忘れるな。
私の道は繰り返しの道。だけど、こんなこともう二度と。
同じ過ちは、同じ失敗は、同じ、同じ……、
……何度目の決意なのだろう。本当に無能だ。
なんで、こんな私だけが生き残る。いつも。いつも。
どうして。
「……やっと、ついた」
振り返った。気配がしなかった。
思わず臨戦態勢に入ってしまうが……そこにいたのは無力な少女。
わかりづらい魔力をしているが、魔法少女。味方と思ってもいいはずだ。
恐らく固有魔法の覚醒もしている。とは、思うものの……。
なんだ、この子は……?
「助けに、来ました」
「助け……?」
なんとなく。なんとなく、だが。
だからか、不思議な、嫌な感覚と共に、信用していいという印象を感じる。
しかしこの状況でこの子に何が出来るというのだろうか。
例えば援護。既に敵がいないから、意味がない。
例えば回復。ここには死んだ者と、無傷な馬鹿しかいない。意味がない。
事後処理でも、手伝ってくれるのだろうか。それこそ不要だ。意味がない。
……ああ、くだらないな。
私は、一体何を期待したんだ。実にくだらない。
「もう何もできない。帰っていい」
「大丈夫です」
「助けなんか要らない。意味がない」
「?」
首を傾げられた。わけがわからないといった表情で。
気付いていないのか、といったような呆れた雰囲気で。
何だ、何がおかしいっていうんだ。
「そんなにも強く、助けてって願ってるのに?」
「……え?」
するり、と魂を撫でられた。
核心を覗かれた。そんな感触があった。
透明な目。人間味のない眼差し。この子は一体、なに……を……?
「ごめんなさい。あなたの全部を助けられるとは、まだ言えません」
「待って、いや、待って……」
「えっと、でも……今の私なら……うん大丈夫、これならいける」
気配が、一気に薄まった。見ているのに見逃しそうなほどの、希薄さ。
代わりに高まったのが、色のない魔力。
不純が一切ない清らか過ぎる力が、輝くような光を見せて広がる。
その力は、まるで……、
「待って!!」
「『
決定的な傷が。赤色が。
「あっ……」
手を伸ばし、腕を掴む。その手はあっけなく砕け散る。
少女本人にも、予想外があったのだろうか、少し不思議そうな表情をしていて。
でも、結果的には上手くいった、と言わんばかりに、満足げな顔で微笑み、
零した血も、砕けた肉体も、その身の全てを塵に変えて。
無垢な輝きの中に消えていった。
「……」
なんだったのか。頭が理解を拒んでいる。
こんな魔法が。
こんな魔法があってもいいのか。
「ぁ……れ、隊長……?」
まるで夢のように。幻のように。傷一つない彼女が起き上がった。
その頭にはもう、罅割れた傷は存在しない。
ああ、最低だ。本当に最低だ。
治癒のみに留まらない、常識を超えた力。死者をも生き返らせる、そんな奇跡みたいな魔法。
何もかもひっくり返してしまうような、反則技。
駄目だ。こんなの駄目だ。そんなこと受け入れてしまったら。
あまりにも浅ましい。最低にもほどがある。
私は彼女が助かったことよりも。
思わず、強化した爪で手首を裂いた。
当然のように血が流れ出す。
「ぇ、ばっ、何やってんだババア!?」
「……『
ああ、なんてこと。無意識に、口元に手が。
口角が上がるのを、抑えられない。
「……ぇ、わらっ……て?」
ああ、ああ、こんなのって。
いまさらこんな。
まさしく、極まった恢復じゃないか。そんなことまで、できてしまうのか……。
ずっと暴走していた、呪いのような異常が、自分の力として操れる正常に。
それってつまり。そういうこと、そういうことなんだろう?
口元の手を、首に。そのまま、少しずつ……。
「正気にっ……!! 戻れよバカ!!!」
引き倒され、馬乗りになって押さえつけられた。
「敵か!? クソ、何が起こってっ!!?」
「ああ、いや大丈夫。ふふ、落ち着いて。……は、っはは」
「どこがっ! 全然大丈夫じゃない!! 何をされた!!?」
笑いが、止まらない。涙も出てきた。
こんなにも感情が抑え切れないのは、久しぶりだ。本当に、久々。
罪悪感と、自己嫌悪と、解放感と、何もかもぐちゃぐちゃ。
最低にも、確信してしまった。止められるまでもなかった。
終わりにしようとしたのに、私はそれを勿体ぶった。
本当に終わりたいなら、一瞬で終わったのに。
滑稽だ。道化みたいだ。笑えてくる。酷過ぎるだろう。なんだこれは。
私は、私は……生きたいのか?
こんな世界で? こんな目にあってまで?
ずっと来ないと思っていた終わりがいきなり目の前に選択肢として現れた時。
咄嗟に私は、本当にいま死にたいのか? と思ってしまった。
馬鹿みたいじゃないか。とんでもない大馬鹿だ。涙が出る。
ああ、心が、痛い。胸が締め付けられる。苦しい。
なんで、なんでこんなにも、つらいのに、うれしいんだ。
もう、いつでも終わりにできる。私の命が私の自由になった。
だったら、だったらもう少しくらい?
いまさら何を思ってるんだか。
本当に、本当に、愚か極まりないな……。
「あは、は……私、まだ生きてて、いいのかな?」
「は!? ふざけんな生きてろよ!! ……クッソ、敵は一体」
そっか、生きてていいのか。
こんな、最低で、無意味で、無価値で、くだらない命。
だけど、みんなに助けてもらって残された命。
最悪なのに、それでも、生きててほしいと願われた。
なら、もうちょっとだけ。
ああ、あの子は決して敵なんかじゃない。まさしく、私たちの救世主。
あの子は自分が死なないことを確信していた。私と同じ感覚のように見えた。
だったら、またいつか会えるのだろうか。
まだ無理と言っていたけど、いずれみんなのことも救うことが出来るのだろうか。
私と彼女を助けたように。何もかも、覆してしまうかのように。
そうであれば。くだらない私なんかよりも素晴らしいみんなを。どうか。
……あはは。だったら猶更のこと。
生き続けなければ。
世界は灰色だけど、その未来にはきっと、救いが待ってるはずだから。
※楔はマーカーみたいなものなので、すぐ破壊すれば傷ごと消えます。超初見殺し。
※ていうか即死ギミックをごり押しで突破するのやめてくれませんか。