不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第1話 駆け出し乙女

 ワタクシの名前は、トレランス・ストリクタ。花の十五歳、お母様譲りの美しいブロンドヘアが自慢の穢れなき乙女。愛称はトレイラ。好きな食べ物はおばあ様の作った山菜の煮物。特技はおじい様直伝の剣術!

 そんな、どこにでもいるごく普通の少女であるワタクシが少しだけ普通と違うところがあるとすればそれは――

 

 前世の記憶がある元男ってところカナ!

 

 あ、あと先ほど穢れなきとか言いましたけど。ちょっと今まさに穢されそうになってるとこも追加しておきましょうか。いやしておきましょうかじゃねえわ、大ピンチだわ。

 ご、ゴブリンごときがよぉ~、このトレランス様の純潔を散らそうだなんて不逞なんだよぉ~!

 いや不逞っていうか太ぇっていうか、小柄な体のわりに結構なモノをお持ちで……わ、ワタクシの腕くらいありますわ! それは流石に無理ですわ~!

 数匹のゴブリンに群がられて世はまさに大強姦時代、やめろ擦り付けるな、先走るな、尻を揉むな!

 

 このままだと串刺し刑で見るも無残なオブジェに成り果ててしまう危機感から、ワタクシの身に秘めたるスーパーパワーが覚醒したちまち大逆転! ゴブリン共を千切っては投げ千切っては投げの大活躍――なんて都合のいい展開が訪れるはずもなく。

 とにかく必死に迫りくるち〇ぽ、もといゴブリン共を引きはがしながらその辺にあった石を引っ掴んでゴブリンヘッドにシューッ! 超エキサイティン!

 ビリビリに引き裂かれたスカートにも構わず立ち上がり、落とした剣を飛び込み前転から華麗に(諸説あり)拾い上げて振り向きざまに薙ぎ払い。哀れ腹を裂かれたゴブリンがワタクシを追ってきた勢いのまま横を転がっていきます。

 

「あぐっ」

 

 お返しとばかりに投げつけられた石で肩を痛めるも、幸いにして左肩。剣を持った利き腕の右はまだ無事。調子くれやがってゴブガキがよ! 死に晒せ!

 文字通り飛んできたジャンピングゴブリンの股間目掛けて剣を振り下ろし、竿ごと唐竹割りに。

 

 ラスト一匹! ここまでくればよ、もう楽勝なんだよ。勝ち確だよ勝ち確!

 所詮ゴブリンなんだよな、女の子に数匹がかりでこの様って生きてて恥ずかしくないの?

 対ありっした、じゃあこれ終わったら風呂入ってくるんで! フトモモがぬるぬるするからさぁ!

 

「ギアアア! ギアアアアア!」

 

 うっせ、うっせえわ。急に叫ばないでくれますか。ここ洞窟なんで。響くんで。

 何、斬新な命乞いかなにかですの? 申し訳ありませんがゴブリンは見敵必殺。助命とかありえないんでごめんあそばせ?

 ワタクシは世界平和のため、心で泣いて最後の一撃をゴブリンに与え――与えようとしたところで何か凄い嫌な予感がして洞窟の奥に視線を移すと、そこには信じられない光景が。

 

「ギエエエエエエ!」

 

 はい追加入りまーす。

 いやいやいやいや、無理! 無理寄りの無理ですわ!

 奥から出てくるわ出てくるわ、普段は過疎ってるのにお祭りになるとお前らどこに詰まってたんだよってくらい湧いてくる地元住民の如くポップしてくるゴブリンたち。

 まさに多勢に無勢。いくら未来の英雄たるワタクシにも出来ないことはありますわ。

 

 瞬時に戦況を見極めた賢いワタクシは全力で逃走を選択。

 ペッ、もうこねーよ!

 ……次来るのはプロだかんな! ワタクシみてーなトーシロじゃなくてよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレイラちゃぁん……?」

 

 圧。プレッシャー。

 それは目に見えなくとも実際にあると断言できる視線の力。

 

 冒険者ギルドの見目麗しい受付嬢、アリサちゃんに睨まれてワタクシは、心なしか物理的にも体が小さくなってしまったように思える。タダでさえ小さいのに、これ以上小さくなってたまるもんですか!

 

「いえ、その。これには深ぁいワケがございまして――」

「どんなワケがあろうとも、パーティも組まずたった一人でゴブリンの巣に入るなんて自殺行為には違いありません! もう二度とこんな真似しないでくださいね!」

「う、うす」

「トレイラちゃん!」

「はいぃ! もう二度といたしあmせにょわ~!」

 

 ひぃん、カワイイ顔して怒ると怖いですわ。うちのお母様とどっこいくらい怖いですわ。しかし言い訳させてほしい。口に出すとまた怒られるので心の中で。

 ワタクシがパーティも組まずネストにゴーしたのには已むに已まれぬ事情があったのです。     

 

 実はワタクシ――男の人が苦手なんですの! ……今ふざけてんのかってお思いになりまして? とんでもない、ワタクシはいたって大真面目ですわ。

 勿論、お父様やおじい様は別ですわよ。でも身内以外の男なんて怖いし、あと臭いし、それに近づくだけで妊娠しちゃう危険もありますわ。元男だから分かる。

 

 かといって女性の冒険者なんてそう多くはありませんし、女性だけのパーティなど言わずもがな。実際数日ギルド内をちょろちょろしてパーティ候補を探しましたが、そもそも候補自体片手で数えられる程度で……何の成果も得られませんでしたわ!

 っていうか、どうしてワタクシが声をかけると曖昧に笑いながら後ずさりしますのぉ?

 

 うーん、しかし見つからなかったからといって、また一人で危ないクエストなんて受けさせてもらえるワケないし、詰んだコレ?

 

 受付嬢のアリサちゃんは、怒りながらも本当にワタクシのことを心配してくれている。

 まあ自分より頭一つも小さい女の子が一人で巣に突っ込んだと思ったら、スカートすら剥ぎ取られてズタボロの姿で戻ってきたらそりゃ過保護にもなろうってもんですね。

 自身を省みる余裕すらなかったものだから、下着丸出しのままフラフラとギルドに入ってっちゃいましてね。アリサちゃんたら血相変えて飛び出してきて、そのまま奥の部屋に連れ込まれて汚れを拭き取るついでに怪我の応急処置までしてくれて。

 

 で、少し落ち着いてきて現在。ガチ説教ですわ。

 一応ゴブリンの巣の位置や規模は伝えたので、近日中にあの巣はお片付けされることでしょう。その成果自体は確かなものなのでそこはちゃんと評価されましたわ。

 まあそれとこれとは話が別なんですけどもね。はい、すいません、少し調子にのっておりました。

 

 正直ワタクシかなり出来る方だと思ってまして。ゴブリンくらい楽勝だろうと。いやー数の力って侮れませんね。無理なもんは無理だわ。現実を思い知りました、ええ。

 しかしそうなるとやはり問題になるのはパーティですわ。女性だけのパーティを組むのが現実的ではない以上、OTOKOとパーティを組まねばなりません。ああなんて恐ろしい、きっとワタクシ来月には身籠ってますわ。マタニティ美少女剣士として名を馳せてしまいますわ~!

 

 冗談はともかく。リアルな話取れる選択肢は大きく三つ。一つ目は我慢して男と組む、二つ目は諦めて引退する、そして三つ目に現状維持で一人のままでも出来るクエストをこなす。

 ――よし、三つ目で。

 

 いや考えなしの即決ではなく、これでも結構真面目に考えた末ですわ。

 まず男は無理、妊娠する。そして引退も無理、他に出来る仕事ありませんわ。つまり一人でどうにか出来るクエストを探す以外に取れる道がねーんですのよ! 最初から選択肢なんてなかったわ!

 

「アリサちゃん、ワタクシとりあえずパーティが見つかるまでは、一人でも出来るクエストを受けたいと思うのですが……」

「うう、出来れば一人のうちは大人しくしてて欲しいんですけど。そうもいかないんですよね? んー、じゃあやっぱりここは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけでやってきました、ウノン平原。町からほど近い場所にあるだだっ広い草原地帯です。

 ここは回復薬、ポーションの原料となる薬草が群生している採取地となります。今回はここで薬草を摘んでギルドに卸すクエストを受けてきたわけですわね。

 

 この薬草採取クエは冒険者成りたてのひよこちゃん達がよく受けるクエストであり、実際危険は殆どない簡単なお使いクエと言われていますわ。ただ、完全に安全な仕事かと言われるとやっぱりそんなことはなく。

 

「わーっ! 角兎だ!」

 

 おや、早速ですか。

 俄かに騒ぎ出した明らかに年若い――そしてみすぼらしい少年たちの視線の先には、立派な角が生えた兎が数匹。たかがウサギと侮るなかれ、その走る速度は人のそれをはるかに上回り、その勢いで角を突き刺されれば命の危険もある立派なモンスターなのです。

 このままでは前途有望……かは存じ上げませんが、年若い子供たちに犠牲者が出てしまいます。

 

「こっちですわ! ワタクシの後ろにお逃げなさい!」

 

 駆け寄りながら叫んで、子供たちを誘導する。何人かはバラバラに逃げてしまいましたが、幸いワタクシの声に従ってくれた子たちのほうが数が多く、角兎もこちらに気を取られてくれたようです。近づいてくるワタクシを警戒してさらに殺気立っていますが、所詮ウサギですわ! 鍋の具材にしてやんよ!

 

 角兎もまたこちら目掛けて走り始め、結果、凄まじい速度でお互いの距離が縮まっていく。高まる集中、迫る角。

 バネのように跳躍し、ワタクシを突き殺さんとするその角――狙うのはまさにそこ。完全にタイミングを合わせた切り払いが角を横から打ち、根本から切断する!

 

 綺麗に決まりましたわ! おっと、敵はまだ残っているのですから、気を緩めてはいけません。

 いつでも次の動きに移れる態勢を維持しながら、残りの角兎を注視。……どうやら一匹やられたことで戦意を削がれたようですわね。すでに疎らに逃げ始めていました。

 

 ――ここで一息。ついでに角を折られたツノナシ角兎を一瞥すると、力なく項垂れている様子が見られました。

 ワタクシ解体の仕方とか知りませんし、持ち帰ってプロに任せましょう。

 

 あー、一仕事終わったぁ。疲れたしもう帰りましょ……いや違ぇわ何も終わってないわ。兎じゃなくて薬草取りに来たんだったわ。

 それらしいものを探すべく視線を泳がせてみると、角兎が飛び出してきたであろう茂みの中にちらほらと推定薬草が生えているのを発見しました。先ほどの少年たちもこのあたりで採取していたのでしょう。そこに突然角兎がポップしてきたらそりゃあビックリしますわよね。慌て過ぎたのか靴が片方だけ落ちてましたわ。

 

 近づいて改めて探してみると、結構な種類の植物が生えているのが分かります。面倒だなぁ、分かりやすく一種類だけ生えてればな~。

 ただまあ、一応ここに来る前に、一通りイラスト付きの薬草図鑑を読み込んできたのである程度の判別はできますわ。アリサちゃん曰く、ド新人はマジ適当に摘んでくるから選り分け作業が面倒すぎて〇したくなる(意訳)とのことですが――そりゃ、なんの知識もなく薬草採取なんて出来るわけないじゃんね。むしろ専門家がいてもおかしくないお仕事ですわよ……なんで新人にやらせてんの?

 

 閑話休題。

 一夜漬けならぬ一朝漬けで知識バフを掛けたワタクシは、期間限定で薬草採取のプロですわ!

 まあ数日も経てば徐々に記憶が揮発してすっからかんになるでしょうが、大事なのは今だから。明日のことは明日のワタクシがなんとかしてくれますわ~。

 

 ぶちぶち。ぶちぶち。

 うう、緑臭い……。

 腰痛い……。

 

 ぶちぶち。ぐちぐち。

 

 

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