不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。 作:あやしくない
何とか落ちた橋エリアを抜けると、流石に限界が来たのかトロッコの動きはガタガタに。
もう少し楽しみたかったのですが――ちらりと見やるフォティエの様子はすでにグロッキー。これ以上は恐らくリバース&リリースは確実でしょう。うら若き乙女の口元やら何やらにモザイクを掛けるワケにはいきませんわ。
そろそろ降車する提案をしようと、アカサビさんと目を合わせた時。
ふわりと風が横から流れて、二人同時に状況を把握しました。一瞬で共有される緊張感に場違いな楽しさを感じながらも、すでに体は動き出して。
「え、え、何?」
「ぐぇ……」
魔法による疲労で脱力しているマリィさんはアカサビさんが、小刻みに震えているフォティエはワタクシがそれぞれ抱え上げます。
……迂闊に動かすと内容物がまろび出そうですし、焦らず急いでそっと優しく一瞬で運び出さなければ! 難しいですわね⁉
合理性と個人的な趣向の観点から、運び方はお姫様だっこに決まりましたわ! 役得~!
ちなみにアカサビさんは問答無用で俵担ぎですわ。マリィさん……おいたわしや……。
「わっしょい!」
ワタクシとアカサビさんがトロッコから飛び出した瞬間、突如巨大な岩石が降り注ぐ!
轟音と共に鋼鉄の箱がひしゃげて吹き飛び、土煙がもうもうと立ち込めて。あのまま中に居たら、一部と言わず全身がモザイクを掛けざるを得ない状態になっていましたわね。紙一重ですわ!
下手人は大方の予想通り、巨大な岩の身体を持つモンスター――ゴーレムですわ! 貴方に会いたかったんですのよ! 素材寄こせ!
しかしこうして目の前にしてみると、これは中々……大きくて硬そうですわね。まあ岩ですしね。腕一本でトロッコを潰したあたり、見た目だけでなく中身もみっちり詰まっているのでしょう。
これは魔鉄にも期待できそうですわね、ト〇ポくらい最後までたっぷりだと良いのですが!
「さて、それで問題は――これをどう倒したものか? といったところですわね!」
「え、考えなしにここまで来たのかい?」
いえ、考えというか。気合で斬れるかまず試してみて、駄目なら全力で蹴り壊すか困ったときの
ともかく、まずは斬ってみましょうか。
名残惜しいですが、お姫様だっこ中のフォティエをそっと降ろします。……ちょっと軽すぎですわね、これが終わったらもう少し栄養のあるものを食べさせましょう。ワンチャン今は慎ましやかな一部も育つかもしれませんし。
おっと、その恥ずかしそうに服をパタパタ叩いている仕草は誰向けのサービスですの? 気合入りましたわ!
「まずは一発当ててみますわ! トレランス・ストリクタ、一番槍いかせていただきます!」
家から持ち出した替わりの剣は手に馴染みませんが、大雑把に振るだけなら特に問題はないでしょう。オラァ、気合注入!
ゴーレムは見た目通りの鈍重さでゆったりとした反応を見せますが、油断は禁物。現に初撃のスピードは悪くないものでしたし。おそらく重力の助けがある上から下への動きに関しては、限定的に速度を出せるのでしょう。
よって、こちらの攻撃を当てること自体は難しくありませんが、当てた後、その場に留まれば反撃される可能性が高まります。一撃で倒せればその心配は無用でしょうが――多分無理なので止まらず走り抜けることで対処しますわ!
「どぉおおーーーーっせい!」
気合を込めた一撃は、ある程度の深さの切り傷を付けることに成功しました。ただ、やはり手応えはただの岩よりもはるかに固いですわね。魔鉄入りだからでしょうか。
そして直後に打ち下される岩の拳。ひゅ~、走り抜けていて正解でしたわね。
「斬って駄目なら!」
走る速度をさらに上げて、剥き出しの岩の壁を駆けあがります。この狭い空間では助走に使える幅が少ないので、直接ドロップキックを撃ち込んでも最大限の効果は得られません。ならばどうするか?
答えは皮肉にも敵のゴーレムが教えてくださりましたわ。そうか、貴方も先生だったのですね……!
壁を蹴り、程なく天井へと到達したワタクシ。自然落下が始まる前に、天井を地面に見立てて蹴り飛ばします。初速の勢いと重力による加速、そこに回転を加えてついでにあらん限りの気合を込めれば――
「ロイヤルぅ――踵落としぃぃぃいいいいい!!!!」
ゴーレムの頭に直撃するワタクシの蹴り。ビシィと勢いよく罅が走り、その威力を何よりも物語ります。
ですが、惜しくも倒すまではいかなかったらしく、その堅牢な体は未だ形を保ったまま仁王立ちです。
着地後、すぐさまバックステップでその場を離れます。案の定、何事もなかったかのようにゴーレムの反撃が。
加えて、良く観察すれば、折角入れた罅も目に見える速度で修復されていきますわ。ヴェノムドラゴンとどっちがタフか、良い勝負じゃありませんの? やっぱりここは我らが
「神様仏様マリィさま! どうぞよしなに!」
「急にどうしたの⁉ いや、魔法の出番なのは分かるけどさ~」
おや、何やら反応が芳しくないご様子。どうかなされたのでしょうか。
見ればアカサビさんもやや難し気な面持ちでゴーレムを睨んでおります。
「う~ん、狭い空間で火はあんまり使いたくないし、かといって凍らせて効果があるかは――最悪分解しても良いけど、ダンジョンって崩落したりはしないっけ……?」
「そもそも、たかがゴーレムがこの耐久性ってなぁ、ハッキリと異常だ。どうもヴェノムドラゴン時といい、きな臭ぇ……」
へぇ~、ゴーレムって皆こんなのじゃないんですのね~。レアなゴーレムってことでしょうか、でしたらラッキーですわね! きっとドロップもレアですわよ、おほほ!
って喜んでばかりもいられませんわ。倒せなければレアだろうが意味がありませんからね。
頼りの魔法もむしろ威力が高すぎて使い辛いようですし――分解したら魔鉄の回収も出来なくなりませんかね――ここは少し、別の方法をチョイスしてみましょうか。
「というわけで、フォティエ。貴女の出番ですわよ!」
「…………はぇ?」
ぼーっと見学してる場合じゃありませんのよ、せめて応援しなさい……ではなく。錬金術師なのですから、ほら、あるでしょう。例のアレが!
「爆弾ですわ、爆弾! 錬金術師なら持っているでしょう!」
「キミ、錬金術師を何だと思ってるの?」
何やら色々ぶち込んだ釜をかき混ぜて食べ物から危険物まで何でも生み出すアタオカ職でしょう⁉
まあそれは冗談としても。確かワタクシの記憶では、爆弾製作は定期的に行っていたはずですわよ。需要があるので!
危ないからと、作っているところは見学させて貰えませんでしたが――今思うとあれはワタクシに危険が及ぶという意味ではなく、ワタクシがやらかすという意味の危ないでしたわね! 正しい!
「持ってますでしょう?」
「……持ってるけどさぁ」
ほら~!
ワクワクしながら待っていると、渋々と肩にかけた鞄から手のひらサイズの丸い物体を取り出しました。
「だけど、キミが蹴っても砕けないヤツを一撃でどうにか出来る威力じゃないよ」
「そこは考えがあるので大丈夫ですわ!」
爆発物をただ表面にぶつけても効果は薄い――ですが、中から爆発させれば岩も砕く威力になるのです。手の中爆竹理論ですわね! ハリウッド映画でやってたので知ってますわ!
「待って。その考えってやつをまず教えてくれる?」
「アカサビさんに止めてもらってワタクシが爆弾持って突っ込んで気合で罅を入れたらそこに爆弾押し込んで吹っ飛ばしますわ!」
そこまで難しい工程はありませんわ。フォティエったら、心配性ですわねぇ。あ、爆弾は火をつけないといけませんか。ならば、それはマリィさんにお任せしちゃいましょう。
爆弾を中に入れてさえしまえば遠隔爆破出来るのですから、極めて安全ですわね! ヨシッ!
「ざっくりしすぎなんだよ! ほ、本当に大丈夫なんだよね。ボクの爆弾で怪我とかしないでよ⁉」
「大丈夫ですわ~。ちゃんと指差し確認しますわ~」
危険予知は完璧ですわよ。まあ仮に労災が発生したとしても、冒険者に保険なんて下りないでしょうが……やりがい搾取も甚だしいですわね!
まあそんなこたぁどうでもいいんですのよ! 攻略法は見えたのですから、さっさと終わらせてしまいましょう。アカサビさんお願いします!
「……まあ、考えるのは後でも出来るか」
難しい顔をしていたアカサビさんも、どうやら動いていただけるようです。やることは足止めですが。
いつもの如くスタスタと歩いて近寄るアカサビさんに、ゴーレムが反応しますが遅すぎですわ。何かする前にあっさり射程内に近づかれ、これまたあっさり止められてしまいました。う~ん、無法! 仲間だから許される性能ですわね!
「次はワタクシですわ!」
フォティエから貰った爆弾を左手に握りしめ、突撃です。この一撃で必要なのは、爆弾をより深くに潜り込ませるための罅を入れること!
点での攻撃を意識して、ここは突きを選択します。超・気合突きですわ~!
ざくりと岩の身体に突き刺さる剣。ほぼ体のど真ん中ですので、普通の生き物ならこれで終わりなのですが――まあゴーレムなので痛がる素振りすらありませんわね。
本命はこれからなので楽しみにしておいて下さいまし!
剣を抜き去り、ぽっかりと空いた穴に爆弾をねじ込みます。これで準備は完了、罅が閉じてしまう前に火をつけてもらいましょう。
ゴーレムの身体を蹴り、距離を離します。あ、指差し確認忘れてますわ! ……爆弾設置ヨシ、周囲の安全ヨシッ!
「マリィさん、火をお願いしますわ!」
「小さいので良いのよね……ほいっ」
以前見せて頂いた蛇のような火を操り、ゴーレムの罅の中へイン!
次の瞬間、激しい爆発と共に砕け散るゴーレム。見事な最期ですわ、お疲れさまでした……ん? ゴーレムが砕け散るってことは岩が砕け散るってことで。
――岩が飛び散るって危険じゃありませんこと?
「ぐえー!」
吹き飛んできた岩の欠片がおでこに当たってトレランス吹っ飛ばされたーっ。ワタクシ、何見てヨシって言ったんでしょうね?
ちなみに他の方たちはちゃんと岩陰に隠れてやり過ごしてましたわ。予知出来てなかったのワタクシだけですか⁉
「何やってるのさ、もう……だから大丈夫か聞いたのに!」
すいません、読み取れませんでしたわ……。
まあそれはそれとして、討伐は成功ですわ。さあ、早速ドロップ品を回収しましょう。なんせてんでバラバラに散らばってしまいましたので。誰ですのこんな面倒な倒し方したのは!
「どれにどれだけ魔鉄が含まれてるかも分からん、その辺の鑑定は任せるぞ」
「全部持ち帰るわけにもいかないしね~。うっわ、カケラでも超重いんですけど」
はあ、この岩全部に魔鉄がみっちり詰まっていれば話は早いのですが。難敵だったのですから、そのぐらいのサービスはあって然るべきなのではないでしょうか。
ともあれ鑑定出来るのはこの場ではフォティエだけです。ガンガン目の前に積み上げてあげましょう。ほらほら、まだたくさんありますからね、楽しんでくださいまし!
「ちょ、ちょっと待って、もう少しゆっくり積んで……く、崩れるから!」
俄かに忙しくなるフォティエを横目に、遠くに散った岩を拾いに行くワタクシ。
おっと、こんな端の方まで飛んできてますわ。フォティエ特製の爆弾はやっぱり凄い威力ですのね~。
暗がりに転がる欠片を両手で持ち上げようとしたとき――ふと、誰かに見られている気配を感じて。
顔を上げると、そこには一人の少女が興味深そうにこちらを見下ろしておりました。
「――こんにちわ、竜のお姫様」
えっ。
あのぅ、ワタクシの知らないワタクシの設定を急に投げ込まないでくださいます?