不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第11話 竜の乙女

 ――遥か昔、まだ人が竜に仕え共に生きていた時代。

 世界は竜が守りし聖域と、混沌に染まる外界に分けられ、その境界では外より来る怪異たちとの飽くなき闘争が繰り返されていたという。

 

 その戦いは竜と人の力を持ってしても苛烈極まり、長い時を掛け少しずつ聖域は侵されていった。

 いずれ来る破綻の時を恐れた竜は、ついにその全戦力を持っての攻勢に出る決断を下す。

 

 しかし、いかに竜と言えどその戦いにおいて生還の望みが薄いことは分かっていたのだろう。竜は残される人々の為、そして自らの種族を絶やさぬ為、その血を人に混ぜることで未来への礎とした。

 その時竜と交わった血族こそが今日に続く王家の一族であり、つまり――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――君、というわけだ」

 

 はぇ~、そうだったんですのね~。

 急に歴史の授業が始まってビックリしましたわ。歴史というか、神話でしょうか。まあ、王権神授説的な箔付けと見れば、まあまあありがちなお話だとは思いますが……。

 

「本来なら教授されるまでもなく、知っていて然るべき話なのだがね。親から何も教わっていないのかね?」

「…………教わって、教わ、お……おそ………………多分教わりましたわ!」

「そ、そうかい」

 

 やめて下さいまし。そんな可哀そうな子を見るような目でワタクシを見ないで下さいまし。

 違うんですのよ、ワタクシが物覚えの悪い馬鹿なのではなく、そういう生存に直結しない情報は優先度が低くなって他の情報に圧迫されてしまうんです。

 

 計算とかは前世の記憶の助けもあって割と覚えていたのですが――歴史系は、ね。それよりも剣の振り方とか気の操り方とかの方にキャパシティを取られてしまったのです。ち、知識欲はあるんですよ!

 折角覚えた知識が崖を転がり落ちる拍子に抜けていく感覚をご存知でして? 癖になりますわよ!

 

「まあ、いいさ。吾輩としてもここで君と遇えたのは僥倖だ。今や竜と言えばどれもこれも劣化しきった紛い物ばかり。真の竜族と言えるのは最早、ストリクタ王家の直系を残すのみだからね。ぜひその血は採取しておきたかった」

 

 血が欲しいんですの? 採血なんて前世で受けた健康診断のとき以来ですわねぇ。

 ワタクシはそれなりに健康的な食生活を心がけておりますので、多分異常はないと思いますが……。

 

 それよりこの少女、見た目の若さと言動が少しちぐはぐと言いますか。もしかして、もしかしたらば、この子――ロリおばあちゃん系だったりするのでしょうか! まさか年齢を聞くわけにもいきませんが、気になりますわ!

 そんなおバカなことを考えている間に、気付くとすぐ目の前に少女の顔が。幼くも見え、歳を経ているようにも見える、恐ろしく美しい顔立ち。琥珀色の瞳に引き込まれるように、視線を逸らせません。

 

「協力してくれるね。竜の姫、トレランス・ストリクタ――」

 

 不思議な雰囲気を纏ったその少女は、そっとワタクシの手を取って、それを自らの口元に運んでいく。何でしょう、舐めるんですか。噛むんですか。それとも血を吸うんですか。い、いずれにせよ倒錯的ですわ!

 相手はワタクシの事を知っているようですが、ワタクシは貴女のことを何も知りませんし、流石にちょっと早いと思います。せめて、名前を――

 

「嬢ちゃんから離れろ、黒魔女」

 

 疾風の如く、アカサビさんが割って入り、曲刀を抜き放って。それをするりと避けて、少女は少し離れた場所へ降り立つ。

 怪しげに笑みを深める少女。対してアカサビさんは、ピリピリと、かつてないほどに張り詰めておりますわ。えっと、もしかして怒ってます?

 

「ひっひっ、無粋だぞ赤錆の騎士。折角の邂逅に水を差すなよ」

「……嬢ちゃん、コイツに何もされてないな? 噛まれてもいないな?」

 

 俄かに緊迫とした空気に、カクカクと頷くことしか出来ないワタクシです。

 どうやら因縁がおありのご様子ですが、もしかしてこの子、結構危ない人だったりするのでしょうか。黒魔女……マリィさんとも何かご関係が?

 

「大体、黒だの白だの、勝手に分けて呼ばれるのは不愉快極まる。魔女など大なり小なり『イカレている』ものだろうが。それが魔に身を捧げるということだぞ、赤錆の。お前も魔女の騎士なら知っておろうに」

「こいつの戯言に耳を貸すな。会話してやる必要もない――ただの敵だ、切り捨てるぞ」

 

 正直、まだ飲み込めていない部分も多いのですが、アカサビさんが敵と言うからには敵なのでしょう。ワタクシも剣を構え、意識を切り替えます。戦闘モード起動!

 対する少女、黒魔女は片眉を上げてはっと息を吐き、肩を竦めるだけ。魔女というからには魔法を使うのでしょうが、マリィさんのように杖を持っている様子もありません。どういうことでしょう?

 

「おお、怖い怖い。吾輩、切った張ったは好きではないのでね。君たちの相手は別に用意してやろう」

 

 黒魔女が指を鳴らす。その合図を切っ掛けにガシャガシャと音を鳴らしながら、暗がりから一体の骸骨が進み出てきました。その手には剣と盾が。

 アンデッド系モンスターとしてはポピュラーな、スケルトンですわね。それほど強いモンスターではないはずですが……この場面で一体だけ呼び出すのですから、油断は禁物でしょう。

 

「お察しの通り、コイツは吾輩謹製の改造スケルトンだ。君らが先ほど倒した、ちょいと弄っただけのゴーレムとはモノが違うぞ? ひっひっひっ」

 

 すげえですわ、美少女面でここまで小物臭い台詞吐かれると脳がバグりますわよ!

 黒魔女は高みの見物とばかりに腕を組んで、戦いに参加する気はないように見えます。気は抜けませんが、まずはスケルトンの対処を致すとしましょう。

 

「いきますわよ!」

 

 小手調べとばかりに、まずは先手ワタクシ。相手はスカスカの骨なので、突きではなく薙ぎ払いを選択しますわ。粉々にお成りなさい!

 ガン、と盾て受け止めて、くるりと回転しながらの反撃。骨だけの身体とは思えないほどに流麗で鋭い動きですわ。ワタクシは辛うじて反撃を躱し、地面を転がります。

 

「シッ」

 

 その隙を埋めるようにアカサビさんが仕掛けます。息つく間もないほどの連続攻撃ですが、相手もそれに負けない速度で切り結んでいますわ。

 いつもの足止め技を使わないのは理由があるのでしょうか。相手が早すぎる?

 しかし、拮抗してくる相手にも焦りは見えないアカサビさんです。スケルトンの突きを紙一重で躱し、盾に拳を当てた状態でグンと強く踏み込みます。

 

「『徹し』」

 

 瞬間、盾を持った腕が吹き飛び、盾だけが宙に取り残されるという不思議な現象が。一拍置いてようやく持ち手がなくなったことに気が付いたように、盾はガランと地面に転がりました。

 片腕になったスケルトンに追撃が撃ち込まれますが、これは避けて後方へステップ。仕切り直しですわね。

 

 とは言え相手はすでに片腕。勝負は決まったも同然でしょう――と思っている間にもげた腕がガチャガチャと組みなおされていくではありませんか。

 確かに黒魔女が事前に言った通り、特別製のスケルトンのようですわね。めんどくせえですわ!

 

 再び突っ込んでくるスケルトンを今度はワタクシが迎え撃ちます。

 先ほどのアカサビさんとの剣撃の速度を見るに、ワタクシが真面に受けに回っても対処しきれるとは思えません。ではどうするか?

 

 ワタクシの答えはこうじゃー!

 足元に転がっている盾を蹴り飛ばし、スケルトンへとぶつけます。勿論あっさり弾かれるのですが、構いませんわ。剣も投げるので!

 

「おりゃー! うりゃー! そりゃー!」

 

 岩も投げますわ。そこら中に落ちているので投げ放題ですわー!

 

「お、お転婆が過ぎるぞ」

「……何も言えねえ」

 

 ちょっとお二人、何仲良く引いてるんですの? 真剣勝負の最中ですのよ、剣はもう持ってませんが!

 最初は弾くのに集中していたスケルトンですが、すぐさま適応して距離を詰めてきました。まあ、これで倒せたら苦労はしませんよね。

 

 ですがワタクシも、全く考えなしにこんな真似をしていた訳ではありませんのよ。実は一度目にスケルトンの攻撃を避けた後、ちらりと後方の様子を窺ったんですの。

 その時見えたのは、もちろん我らが頼りのあの方ですわ!

 

「さてさて、コイツが面白いのはこれからだぞ? さあ、『血』に目覚め――」

「白の魔法――解呪(ディスペル)!」

 

 白い光が俄かに坑道内を照らして。眩しいですが、不思議と柔らかさを感じる光です。

 ですが、アンデッドであるスケルトンには致命的だったのでしょう。一瞬で塵となって霧散してしまいました。

 

 相手も何かしようとしていたようですが、一歩遅かったですわね!

 ばっちり魔法発動までの時間稼ぎ成功ですわ~。さすマリ! さすマリ!

 

「…………貴様ぁ、空気を読めんのか!」

「知らねーわよ、んなもん。黒に堕ちた分際で上から目線止めてもらえますぅ? っていうかアンタもアンデッドでしょうが、一緒に消えとけよ蝙蝠ババア」

「~~~~ッ」

 

 顔真っ赤ですわ! 顔真っ赤ですわ!

 マリィさんも常より厳しい声色で、やはり何某かの因縁があったりするのでしょうか。ともあれ、これで現状は断然こちらの有利に傾きましたわね。主に精神的に。

 

 相手はまだ魔法を使っていませんから、本気ではないのでしょうが――さあ、どう出てくるやら。

 

「……すぅ。……はあ。ふん、止めだ止めだ。興が削がれたわ、実に下らん。吾輩も暇ではないのでね、今回は見逃してやろう。精々今のうちに、その下らん主従ごっこを楽しんでおけばよいわ。ああ、竜のお姫様、君とはまた会う事になるだろうから、それまで健やかに過ごしておきまえ。……そうそう、吾輩が実験がてら弄った魔物は他にも何匹か放ってあってねぇ。ゴブリン、スライム、ワーウルフ――変わり種としてドラゴンもどきに竜の血を混ぜ込んでやった奴もいたなぁ。出会うことがあれば、是非遊んでやってくれ。きっと楽しめること請け合いだ、ひっひっひっ!」

 

 すっげえ早口、ワタクシじゃなければ聞き逃しちゃうね。

 黒魔女は一息に言うだけ言って、暗闇にその身を溶かして消えてしまいました。逃げ方自体はボスっぽく堂に入っていて悪くないのですが、どうしてその前に目一杯捨て台詞を吐いてしまったんですのぉ?

 

 どうにも締まらない終わり方となってしまいましたが、捨て台詞の中にも聞き捨てならない内容がありましたので整理しましょう。

 ええと、どうやらゴーレムやスケルトンと同じく、彼女が改造した魔物が他にもいるということでしたわね。ゴブリン、スライム、ワーウルフ、そしてドラゴンもどきですか。

 

 ……はて、何だか見覚えのあるラインナップですわね。

 まるでここ最近戦ってきたモンスターをそのまま並べたような顔ぶれですわ。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……………………。

 

 もしかしてワタクシ――イベント踏む順番、間違えましたぁ?

 

 

 

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