不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第12話 見学の乙女

「あぁ~、やっぱり自宅は落ち着くなぁ……」

「ほっとしますわよね~」

「……いやキミの家はここじゃないだろ」

「勝手知ったる何とやらですわ!」

 

 ソファに身を沈めたままのだらけた格好で失礼しますわ。今回はフォティエのお店兼自宅の一室からお送りしております。

 ダンジョンでの黒魔女さんとの一戦の後、律儀に鑑定作業を続けていたフォティエを手伝ったり邪魔したりしつつ、一応の纏まった量の魔鉄を採取出来たところで帰還と相成りました。

 こちらで使う分以外の素材は売却し、報酬を分配。その後アカサビさんたちとは一旦別れ、後日また詳しいお話を聞かせて頂く流れですわね。

 

 そして今はフォティエの家で一緒におだらけタイムですわ。不思議と自宅より落ち着きますわね、何故でしょう。狭いからですかね?

 

「ねえ、今失礼なこと考えてなかった?」

「ええ、狭くて落ち着く良い家だなって」

「こ、コイツ……!」

 

 憤りつつも安楽椅子に沈み込んだまま動こうとしないあたり、マジに疲労困憊って感じですわね。まあ、普段屋内で仕事してる人を無理やり冒険に連れて行ったらこうもなりますか。

 でも一人でするより賑やかで大変楽しめましたわ。またやりたいですわね!

 

「今度はどこに連れて行きましょうかね……」

「恐ろしいこと考えないでくれるかなぁ! ボクはもう絶対行かないからね⁉」

「まあまあまあまあ」

「行かない、絶対行かない」

 

 こりゃしばらくは機嫌を取らなくてはいけませんか。仕方ありませんわね、紅茶でも淹れてあげましょう。

 たしか茶葉はこの棚に――おや、何でしょうこの変わった色の葉っぱは。茶葉の隣に置かれていますが、絶対にお茶用ではないと確信できる毒々しい色合いです。何なら瓶にドクロマークが貼られていて分かりやすいですわね。

 いやその気遣いが出来るならもっと他に出来ることあったでしょうに、管理が杜撰過ぎませんこと? 

 

「フォティエ、このドクロの瓶は何に使うものなんですの~?」

「ドクロの瓶……? ごめんちょっと何言ってるのか分からない」

 

 お前が分かんねえなら当然ワタクシも分かんねえですわね!

 仕方ないので、お湯を沸かしている間にドクロの瓶を持って行ってあげます。ほら、思い出しなさい早く!

 

「……………………?」

 

 そんな可愛らしく小首を傾げても、目の前のドクロの瓶はスケルトンのように消えてなくなったりはしませんことよ!

 っていうか別に記憶が風化するほど昔から置いてあったというわけでもないでしょうに、何忘れてんですかこんなインパクトのある物体を!

 

「あれぇ……、何で思い出せないんだろ。何かこう、モヤがかったみたいにぼやけた記憶しかない」

「そのぼやけた程度で良いので、話せることを話しなさいな。口に出してるうちにハッキリしてくるかもしれませんし」

「んん、それもそうだね。ただ、もう少し纏めないと……」

 

 もにょもにょと小声で記憶を探っている合間に、お茶を淹れておきましょう。温めたポットに茶葉とお湯を入れ数分置く――使い古された砂時計を横にセットして、と。ああ、何かお茶請けありましたかしらん。

 

「あー、うあー……」

 

 ゾンビですか?

 トントンと頭を叩いても記憶は飛び出してこないと思いますが、まあ好きにさせましょう。お茶請けは適当にクッキーで良いですわね。自作するのも良いですが、時間がかかるので今は有りもので。

 

 テーブルにカップを運んで、蒸らしたお茶を注ぎます。最後の一滴はゴールデンボ……ドロップですわね、覚えてます覚えてます。さぁて、まったりティータイムですわ~。

 ん~、良い香り。流石はワタクシが持ち込んだ茶葉ですわね。フォティエは自発的にお茶を淹れる習慣がないので、こうして時々淹れてあげないと。放っておくと井戸水しか飲まねえんですわよね……いや美味しいですけどね、この辺のお水!

 

「で、そろそろ纏まりまして?」

「んー……たぶん……」

 

 ドクロの瓶を間に挟んで始まるティータイム。おお、何ですのこのシュールな光景は。まず乙女の間に挟まっていい物体じゃないでしょう、ドクロの瓶て。早く片付けたいので早く思い出しなさい早く!

 

「ん、三日くらい前だったかな。錬金術でうっかり失敗したポーションを試しに飲んだら、ちょっと酔っぱらっちゃってね。それでほろ酔いのまま作業を始めて――細かいところは全然覚えてないけど、何かヤバそうなものが出来たから、瓶に入れてドクロマーク付けて保管した……のかな。多分本能的に危険物だと思ったんだと思うけど。きっとそう」

 

 思ってたより最近の話だし、ツッコミどころも多くてどう反応するべきか迷いますが。

 まずどうして失敗したものを飲んでしまったんでしょうね。普段井戸水しか飲まないくせに、こういうときだけ思いきりがいいの悪癖ですわよ。冒険心で暴走するのはワタクシも良くあるので、人の事全然言えませんが!

 

「まあ、出どころが不明なよりはマシですか……。でぇ、何かに使えるんですの、コレ」

「そうだなぁ。属性がしっちゃかめっちゃかに混ざり込んでるのに、物質としては不思議と安定してるみたいだから、素材に使えば面白そうだけど。剣を錬成するときに混ぜ込んでみようか?」

「――良いですわね、やりましょう!」

 

 冒険心、大事ですわよね!

 もし失敗しても次に活かせば良いのです。人生はトライアルアンドエラーですわよ! ほほほ!

 

「あ、美味しい」

「そう思うならもっと普段からお飲みなさい」

「……」

「こ、コイツ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――まず剣を錬金釜にぶち込む」

「お待ちになって」

 

 大きな釜の中にワタクシが持っていた予備の剣を躊躇なく落とそうとするのを止めるワタクシ。

 あれれ、剣を錬成するんですのよね。それでどうして剣を入れるんですの。剣を素材に剣を作るなんて……いや、別におかしくないのか?

 

「そ、その。何だかズルじゃありませんこと? 剣を入れたらその時点で完成じゃありませんこと?」

「はあ、これだから素人は。いいかい、トレイラ。錬金術でゼロから剣を作ったら、出来上がるのは剣の形をした別のアイテムだよ。刃までついた剣を作れるのは一部のキチガ……専門家だけさ。ボクは普段、消え物系専門だから尚更難しい。刃の付いてない剣もどきを作って後から研いで刃を入れるんなら、最初から刃の付いた剣を素材に錬成したほうが合理的だろ?」

 

 な、なるほど~。素人意見でどうもすいませんでしたわ。

 余計なことを言って邪魔してもいけませんわね。まずは見に回りましょう、剣だk

 

「次に火の魔石を砕いて混ぜ込む。しばしかき混ぜて――」

 

 ボコボコと沸騰したように表面が謎に泡立ち、真っ赤に変色していきます。内容物はドロドロに溶けているように見えますが……ん? 溶けたら刃が付いてるかどうかとか関係ないんじゃ――いや、素人考えは良くありません。きっとプロにしか分からない手順があるのでしょう。

 ワタクシに出来ることは、一生懸命にかき回しているフォティエの汗を拭ってあげたり、水を持ってきてあげたりするくらいですわ。

 

「頃合いを見て魔鉄を投入する。再びかき混ぜ――」

 

 あ、ワタクシたちが苦労して手に入れてきた魔鉄ですわね。真っ赤な色がさらに変色していき、今度は青白くなっていきます。青白く……青白い光を放ってますわね。

 えっと、大丈夫なやつなんですわよね?

 

「あの、この光ってるのは成功してるんですの?」

「ん? ああ、綺麗だよね」

 

 そうですわね、綺麗ですわね。そういうことを聞きたかったわけじゃなかったのですが……いいえ、プロを信じましょう。

 そこからさらに良く分からない素材をポンポンと入れ込んでいくフォティエ。真剣に混ぜ続ける姿は頼もしいような、若干狂気的で恐ろしいような。あまりこういう所を見ることが無かったものですから、新鮮ですわね。なんだかドキドキしますわ!

 

「そしてこの辺りでコイツを使おう」

 

 で、出た! 例のドクロの瓶!

 中の如何とも名状しがたい色合いの葉をスプーンで掬い、釜に投入します。その瞬間、まるで絵具を垂らしたように色が広がって、わあ、煙も出てきましたわぁ。鼻を衝く異臭も!

 

「フォティエ! こ、これは駄目な奴では……⁉」

「大丈夫、まだいける」

 

 まだいけるはもう危ないでは⁉

 心なしか泡立ちも大きくなっている気がしますし、ワタクシちょっと不甲斐なくも足が震えてまいりましたわ。トロッコの時とは立場が完全に逆です。

 

「もうちょっと入るな……」

 

 やめてぇー! ギリギリを狙おうとしないでくださいまし!

 追加投入された葉によって、いよいよ釜の中は混迷を極めております。目の錯覚でしょうか、泡立つ中に小さな手のようなものが見えたり消えたりしております。溶鉱炉に落ちたサイボーグ並みに暴れまわっておりますわ!

 

「フォティエ、フォティエ! 手、手が! これは駄目ですわよね⁉」

「ちょっと静かにして! 今集中してるとこだから!」

 

 ひぃん、もう誰にも止められませんわ~!

 

 

 

 

 

 

 

 

「できたー!」

 

 フォティエが輝かんばかりの笑顔で釜から剣を取り出し、喜んでおります。

 ええ、非常に喜ばしいことなのですが。ワタクシは心労でどうにかなりそうですわ。気軽に謎の物質を入れ込むのに同意した、数刻前の自分に蹴りを入れてやりたい気分です。

 

「そ、それで、成功と言うことでよろしいのですわね?」

「勿論! 当初予定してたものよりずっと良い物が出来たよ! 酔っぱらって良かった~」

 

 いや、良くはない。それはあくまで結果論ですわよ!

 まあそれは後々訂正させるとして。出来た剣を改めて観察してみましょうか。

 

 ――全体的なシルエットとしては、素材にした剣を踏襲しているようです。大きく変化しているのは、刃の色合いでしょうか。まるで水晶のように半透明で、薄っすらと光を湛えているように見える神秘的な剣身へと変わっています。

 素人目にも数打ちのそれとは一線を画す『格』のようなものを感じられますわね。違ってたらフォティエが謝りますわ。

 

 正直、製作過程を見学していなければ、ワタクシも童心に帰ってはしゃぎ倒したのでしょうが――今もワタクシの脳裏を過ぎるのは、あの必死に伸ばされる小さな手の姿。

 ぶっちゃけコレ呪いの武器ですわよね⁉

 

「さ、トレイラ。これがキミの新しい剣だ。受け取ってくれ」

「…………」

 

 う、受け取りたくねぇ~。しかし、受け取らないという選択肢はありませんわ。

 ワタクシが依頼したことですし、何よりフォティエが心血を注いで作ったワタクシの為の武器。これを拒絶などどうして出来ましょうか。

 

 ええい、魔剣がなんぼのもんですか! 呪いぐらい踏み倒せずして英雄にはなれませんわ!

 覚悟を決めて、ガシリと力強く剣を受け取ります。ふ、ふん、大したことねーですわ――

 

『ゆるさない……』

 

 あ、

 

『絶対に……』

 

 これ、

 

『ゆるs「うおおおおおおおお!」

 

 脳裏に響く謎めいた声を振り払うように叫んで、ワタクシは外へと飛び出して。

 裏庭へと回り、大上段からの振り下ろし! 振り下ろし! 振り下ろし!

 

「しゃあっ、しゃあっ、しゃあっ!」

『ゆ、ゆるさ』

「しゃあっ、しゃあっ、しゃあっ!」

『やめ……』

「しゃあっ、しゃあっ、しゃあっ!」

『ゆ、許し』

「しゃあっ、しゃあっ、しゃあっーーーーー!」

『…………』

 

 ――よし、黙ったな!

 もうワタクシの勝ちだから! 後からマウント取ろうとしても聞きませんので、ごめんあそばせぇ!

 

「トレイラぁ、その、喜んでくれるのは嬉しいけど……近所迷惑だから、もうちょっと静かに……」

 

 あ……。

 ごめんなさい……。

 

 

 

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