不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。 作:あやしくない
深い谷間の底から吹き付ける風は鋭く、ワタクシの心を研ぎ澄ます。
冷たく、重く、そして何より乾いている。命を渇望している――早くこの大地にその血を注げと。
というわけで。
今日のワタクシは王家に伝わる特別な修練場、通称千尋の谷からお送りしておりますわ。まあ通称というか、ワタクシが勝手に言ってるだけですが。
最初のポエムも勝手に言っただけなので、谷自体が血を求めてることはないと思いますわ!
むしろ求めているのはウチの血気盛んな一族のほうじゃないですかね……ふふ怖。
場所としてはトレラの町よりかは王都に近い場所にあるのですが、今回は別荘と王都の本宅を繋ぐ、秘密の扉を利用させていただきました。
足で歩く旅も勿論大好きですが、町からここまで馬に乗っても結構かかるので。
――閑話休題。
今日ここに来た理由は色々ありますが、まず、冒険者としてデビューしてから短期間の間に様々な経験が出来たおかげで、ワタクシの力も大分上がっているのは気のせいではないでしょう。
それは勿論とても良いことなのですが、どうも自分自身、今レベルが上がった自分の力を把握しきれていないところがありまして。
魔法や謎の技術にも触れ、試してみたいこともいくつか出来ましたし――そして、コレも!
先日フォティエから作ってもらった新しいワタクシの相棒、魔剣メルティング!
名前は、はい、製作過程がインパクトありすぎてそのまま付けさせて頂きました。響きにティルフィング的な魔剣っぽさがあるから良いでしょう! 他意はありませんわ!
『ぐぬぬ……まだ認めたわけじゃないから。名前をつけたからって主人面しないで』
ワタクシの頭の中でぐぬってるこの声は、やはりあのドクロ瓶の中身に閉じ込められていた精霊的な何かだったようです。
ツンデレキャラとお見受けしたので、そのうちデレるでしょう。大切に使い込んでやりますから、覚悟しておいてくださいね!
それでは早速行ってみましょう。
とうっ、と谷底に向かって飛び降りるワタクシ。崖の角度はまあまあ深いですが、足場を選べば下りられないほどではありません。何度も来ていて慣れたものなので、サクサク下りていきますわよ~。
時折強く吹いてくる風に気を付けて、バランスを崩しさえしなければ、早々滑落することはありませんわ。勿論訓練されていますので素人は真似しないように!
『この谷から流れてくる風――泣いてる』
んんっ。
いけませんわね、真面目なお話なのですから、ここは真面目に受け止める場面ですわ。ワタクシがふざけてポエムるのとは訳が違いますのよ。
「泣いているというのは、精霊が、という話でしょうか?」
『……さあね』
含みますわね~。普段から泣いてて気づいてなかったのか、今何か谷底で異変が起きているのか気になるところではありますが、それこそ行ってみれば分かることでしょう。
さ、参りますわよ~。
◇
谷底についてまず目に入ったのは、巨大な骨。すでに死して時間が経っているのは明白ですので、これ自体に問題はないと思いますわ。自然では良くある光景ですし。
魔剣の精霊――ここはメルと呼んでおきましょうか。彼女も特に言うことなく、沈黙したままです。
少し周りを散策してみますが、今のところ危険な気配は何も感じませんわね。
ほどほどのところで切り上げて、今は当初の予定を消化することに致しましょう。
「うーん、気を、足元に……」
アカサビさんがやっていた技を見様見真似で試してみていますが、中々思うように気を活用できませんね。
原理としては、おそらく足元から気を流して離れた場所に送り、それを遠隔から操って固めて動きを封じる――といったものだとは思うのですが。
まずそもそも地面に流すのが難しいですわ。自身の身体や、持っている剣などに気を流して強化するのは慣れたモノなのですが。地面となるとかなり勝手が違うというか。
んん~……五体投地でもしてみますか。
最初から足元だけで流そうとするから難しいのですわ。五体全てを接地させて、まずは地面に気を流す感覚を掴む! コレですわ!
『……何してるの』
「大地への感謝を表しているのですわ~」
おお、母なる大地よ。我が愛を受け取りたまへ……みょんみょんみょん~。
『ふん、格好だけでしょ』
そ、そんなことありませんわよ? 自然を大切にする気持ちは嘘偽りなくありますし、それにほら、毎日の食事でも大地の恵みには感謝の祈りを捧げておりますわ!
まあ、それは置いといて。この五体投地は中々悪くない発想でしたわね。うん、べったり地面にくっついていると一体感が違いますわ。
しばらくじっと地面に伏せて、気を流し込む修行を続けていると、後ろに何やら気配が。
危険なものではなさそうですが……野生動物でしょうか。それにしては寄ってくる際に音が聞こえませんでしたが。
一度修行を中断して、ちらりと振り返ると――そこには、何もいない空間がありましたわ。……無を取得!
いやお待ちになって。え、え? 確かに気配はあったのに、どういうことですの?
『……仕方ないわね』
メルの声が聞こえたのと同時、頭の中に光が瞬いて、何かが切り替わる感覚を得ました。
するとどうでしょう。何もないはずの空間が揺らめいて、それは次第に形を伴ってワタクシの前に現れました。いえ、最初からそこに居たんですのね。
それは羽の生えた小さな人の姿で、可愛らしい少女に見えるもの。凡そ一般的にイメージされるフェアリーそのものです。おお、ファンタジー万歳!
こんなことも出来たんですのね、素晴らしいですわ。ありがとう、メル。
『誰にでも出来る訳じゃないから。アンタがちょっとおかしいだけ!』
ああ~。竜の血がどうとかっていうやつでしょうか。まあ良いんですよ細かいことは!
ファンタジーな世界に転生して、最初にこういう妖精を探し回った過去を思い出します。残念ながら当時は全く見つけられなかったのですが――数年越しに願いが叶いましたわ!
「可愛らしい妖精さん、何かご用ですの?」
やや警戒しているご様子の妖精さんに、なるべく優しく語り掛けます。怖くないですわよ~、事案ではありませんわよ~。
前世ならともかく、今のワタクシはどこに出しても恥ずかしくない乙女なのでセーフですわ!
「……うう」
ん~、何か話したそうなのに踏ん切りがつかないって感じですわね。そもそも警戒心が勝るなら近づいてすら来ないでしょうし。
ワタクシに寄ってきた理由を考えれば、まあコレしかないでしょうねという心当たりが。
妖精さんがちらりちらりと視線を移しているのは、ワタクシの手元にある剣、メルティング。それをゆっくりと持ち上げて妖精さんの前へかざしてみましょう。
「あ、…………あの」
『何。用があるなら早く言って』
ツンデレメルさん、人間相手じゃなくてもそんな感じなんです?
もう、そんなツンツンしたら怖がって逃げ――あ、妖精さんめっちゃ笑顔になりましたわ。ワタクシと何が違うんですの! 種族が違う? ……そうですわね!
「た、助けてほしいの……わたしたちの通り道に、怖いのがずっといて」
『ふぅん、怖いの、ね』
お助けイベント発生ですわね!
勿論やりますわ~、メルティングの慣らしにもなりそうですし。
『安請け合いするじゃない。危なくなっても助けないわよ』
大丈夫ですわ、勝手に使って助かりますので! というか剣に助けられる剣士なんて名折れにもほどがありますわ。おじい様に怒られてしまいます。
さあさ、大船に乗ったつもりで任せてくださいまし。お相手は誰ですの、鬼が出ようが蛇が出ようがワタクシが切り伏せてごらんに入れましょう! おほほ!
◇
「ゴアアァ……ッ」
谷の狭間の道に鎮座しているのは、巨大な黒の塊。山のように大きな体、ぎらつく鱗、一見して翼がない竜のようにも見える、禍々しい威容のモンスター。
わ~、すっげえ見覚えある~。
「ってヴェノムドラゴンじゃありませんの! え、何で? 倒したはずじゃ……」
『知らないけど……別に世界で一匹しかいないわけじゃないでしょ』
あ、それもそうですわね。
そんな頻繁に見るモンスターではないのでちょっとびっくりしてしまいましたわ。
それにしても、改めて見るとやはり大きいですわね。毒もそうですが、耐久面でもまさに強敵といって差し支えない相手でした。
そういえば、あの時倒したヴェノムドラゴンが黒魔女さんに弄られた個体なのだと思っていましたが。このドラゴンはどうなのでしょうか。もう少し近寄れば分かるかもしれませんが――もしコレもそうなのだとしたら、中々厄介かもしれませんね。
あの時はアカサビさんとマリィさんが居ましたし。ワタクシ一人でどうにか出来れば良いのですが――あ、今はメルもいましたね!
この子の力を引き出せれば、きっと何とかなるでしょう!
『呑気なヤツ……』
とはいっても、どう攻めたものか。毒のブレスもそうですが、体当たりや尻尾の一撃も強烈でしたし。集中すれば避けられはするでしょうが。
今は岩の影に隠れて見つかっていませんが、視認されたら相手がどういう手に出るのか予測しきれません。見つからずに近くに寄れる地形でもありませんしねぇ。
ちらりとメルティングを見て。目の前にかざして、その不思議な光を湛える刀身をじっと見つめます。……試してみますか。
『何をするつもり――ってちょっと、あっ、まって、強い……!』
うおおおおお! 気合注入ぅーーーー!
何か今ちょっとエッチな声が聞こえた気がしますが、気のせいでしょう。それより集中、集中! ガンガン気合をメルティングに注ぎ込みますわよ!
『あっ、あっ、いや、駄目ぇ……っ』
凄いですわ、凄い相性が良い。何かもうスルスル入っていきますわ!
込めた気合がメルティングに圧縮されて、青白い輝きが一気に増していきます。何なら刀身が細かく震えて、甲高い音を奏で始めましたわ。まだまだイケますわよね、メル!
『ムリムリムリムリ、もう入らない、もう、入らないからぁ……!』
貴女なら出来るって、ワタクシ信じてますわよー! うおりゃぁあああーーーーー!
『このクソバカー!』
ワタクシとメルの叫びを皮切りに、臨界点を超えた力が爆発して周囲を暴風が荒れ狂います。
流石にこの様子には、呑気に通せんぼしていたヴェノムドラゴンも気付いたのでしょう。訝しげにこちらを睨んでいますが、もう遅いっ。
「メル、一緒にイキますわよ!」
『もういいから早くしてぇぇえええ!』
気合を込めた剣は刀身以上のものを切れる。剣士の常識ですが、その剣が魔剣ならばさらに長い距離を切れるのではないでしょうか。今のワタクシなら、いいえ、今のワタクシとメルの二人なら、きっと出来ますわ!
おじい様直伝、超気合斬り改め――
「メルティングぅぅうぅ、ザッパーーーーーーッ!!!!!!」
溢れる力を前方、ヴェノムドラゴンへと向かって振るう。もはや暴力の塊とでも言うべき力の奔流が、刀身から青白い輝きと共に撃ち出され、地面を大きく抉っていく。
そしてその力はその持ち手であるワタクシにも襲い掛かってきました。反動と言いましょうか、踏ん張ってはいますが、このままでは制御しきれず吹き飛ばされてしまいますわ!
「んぎぎぎぎーーー!」
咄嗟に、足元に気を集中させ、地面に流し込みます。離れないように、地面が砕けて吹き飛ばないように、ぐっと押し固めるイメージ!
ガッチリ足元を固めておけば、力を出し切るまでなら持ちますわ!
「おおりゃぁぁああああーーーーー!!!!」
閃光、衝撃、そして――静寂。
全ての力を放ち終わり、その暴力の塊が過ぎ去った後には。
「はぁ、はぁ……す、凄いですわね。何にも残ってませんわぁ……」
確かに居たはずのヴェノムドラゴンの姿は、塵一つ残さず消え去っておりました。ちょっと、これは予想外と言いますか。端的に言って――やりすぎ?
まるで本物の竜のブレスでも受けたかのような有様ですわ。それに調子に乗りすぎて力を注ぎ過ぎました。い、一発でヘトヘトですわぁ……。
『うう……なんてことするのよ、消し飛んじゃうかと思ったわ! バカ、本当にバカ! バカ人間! ねえちょっと、聞いてるの――って、あ』
――おやすみなさぁい。ばたり。
『え、嘘、ホントに? え、何、バカ? マジの馬鹿なの?? ねえちょっとぉーっ!』