不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第14話 選ぶ乙女

「はあ……はあ……」

 

 ずるりずるり。

 朦朧とした意識の中、何者かに引き摺られているのか、背中と後頭部に感じる痛みを他人事のように受け流す。

 

 ずるりずるり。

 空。青い空。雲。白い雲――

 

「こ、こっちだよ」

「はあ……はあ……何で私が、こんな……」

 

 声。ぼんやりと視線を動かす。

 青白い光を湛えた、美しい髪。空に融けるように流れている。

 

「くっ、重い――チビのくせに、何で出来てるのよっ」

 

 ずるりずるり。

 小さなものを先導に、心地よさすら感じるリズムで引き摺られていちょっと待ちなさい乙女に対して重いは禁句で痛っ!

 

「あっ、段差が」

「……私は悪くないっ」

 

 落差で頭を打ったせいか、再び意識が遠のいていくワタクシ――

 

 

 

 

 

 

 

 

「にんげんだ~」

「食べられちゃうよ!」

「にんげんって妖精食べるの? うえ~」

「た、たべないよ。助けてくれたもん」

「きんいろの髪、キレ~」

「きらきらだ、きらきらだ」

「やめなよ、怒らせちゃうよ」

「きゃっきゃっ」

 

 そして再び浮上した意識が最初に触れたのは、頭上で飛び交う楽しそうな声たち。

 ――なるほど、ここは天国ですわね!

 ちっちゃ可愛い妖精さんたちが、寝そべるワタクシの周りをひらひら舞いながら楽し気にお話ししておりますわ。メルヘン指数急に上がりすぎじゃありませんかね! もっと上げてくださいませ!

 

『何ニヤついてるのよ、気色悪い……』

 

 おっと、いけない。乙女がしてはならない表情になるところでしたわ。

 それにしても、あの後力の使い過ぎで気を失ってから、一体何があったのでしょう。ここは、同じ谷のどこかですか? それにしては、何ともふわふわした空間ですが。

 

『ここは妖精の隠れ家。場所としては谷と同じところにあるけど、存在する空間の層が違うから普通は見つからないし、辿り着けない。妖精の案内無しにはね』

「なるほど。つまり今回お助けした妖精さんにご招待していただいたという訳ですわね! 素晴らしい経験をありがとうございますわ! ……ところで、ここまで運んでくださったのはどなた様なのでしょうか」

 

 言いながら、窺うメルの様子に変わった所はありません。相も変わらず美しい剣身が光を湛えていますわ。ただ地面に刺さっているだけでも絵になりますわね~。

 

『……風にでも運ばれたんじゃない』

 

 では、そういうことにしておきましょう。

 無理に聞き出しても拗れますからね、言いたくなった時が聞き時ですわ。

 

「よっと」

 

 すっかり動くようになった体をぴょいんと起こすと、好奇心が旺盛なタイプの妖精さんが両肩と頭に乗っかってきました。まるで巨人にでもなったような心地ですわね!

 ずしーん、ずしーん。わざとらしく鷹揚に歩いてみせると、乗っている妖精さんたちがきゃっきゃと楽しそうに笑います。あー脳が幸せですわ~。

 

 メルティングを鞘に納めて、改めて辺りを見回してみます。

 布のような素材で作られた住居が点々と存在する、牧歌的な雰囲気の村――ただしそのすべてが妖精サイズで出来ていて、尚更巨人の気分を味わえますわ。

 どうやらワタクシが寝かせられていたのは広場のような場所だったようで、そこにふわふわの、鳥の羽でしょうか、緩衝材が敷かれておりました。もしかしてワタクシの為にわざわざ敷いてくださったのでしょうか……おお、何という優しみ。

 

「思いがけずお世話になってしまったようですわね。皆様、本当にありがとうございました」

 

 周りを飛び交う妖精さんたちにお礼を言うと、何故だが皆さま不思議そうな顔でこちらを見たり、お互いに見合ったりしています。え、何か変なこと言いましたか?

 

「助かったのはわたし達だよ?」

「ありがと~」

「どうしてそっちがありがとうなの~? ヘンなにんげん!」

「あはは! ヘンなの!」

 

 ああ、そういえば困っていた妖精さんを助けるクエストでしたわね。いえ、それでも助かったのは事実ですからお礼は言わせてくださいませ!

 お互いありがとうの応酬で親交を深めていると、他の妖精より少しだけ飾りの多い子がひらひらと飛んでまいりました。

 

「謁見の準備が整いましたので、ご案内します」

「まあ! も、もしかして妖精の長さまに?」

「はい。この隠れ家を守護するクリメリア様が直接礼をと」

 

 お偉い方から直接礼を言われるほど大それたことをした気はないですが、断るのもおかしな話です。これは粗相の無いようにしなければ。

 解れた髪を整えようとすると、肩や頭に乗っかっていた妖精さんたちが察して手伝ってくれました。

 さらにそれを見ていた周りの妖精さんたちもこぞって参加し始め、くるりくるりと編み込み作業開始。見る見るうちに滅茶苦茶だった髪が綺麗な三つ編みに纏められ、最後は花冠を乗せられて完成です。

 

「ありがとうございます! とっても素敵ですわ!」

「きれーだよ~」

「おひめさまだ! おひめさま~」

「楽しかったね……」

「きゃっきゃっ」

「……そちらも準備が整ったようなので、参りましょうか」

 

 沢山の妖精さんたちに見送られながら、妖精の長――クリメリア様のところへと。

 ちなみに案内役の妖精さんも、ワタクシの髪を楽しそうに編み込んでおりました。一見真面目でお堅そうですが、本質は周りのほんわか妖精さんたちと一緒のようですわね!

 

 村から少し離れると、生えている木々が次第に大きく密に変化していきます。人の身体では通り抜けるのも困難なほどに思える密集地。しかし不思議なことに、案内の妖精さんが通るとまるで空間が歪んだように木々の間が広がっていくではありませんか。

 こう、妖精に導かれて神秘の森を歩いていると、自分が英雄譚の主人公になったような気分になれますわね。やったことは、調子に乗って大技使ってぶっ倒れただけなんですが!

 

 心の中で密やかに犯した失敗を反省していると、鬱蒼とした森の中にも関わらず、柔らかな光に溢れた場所へと辿り着きました。

 何という事でしょう、そこにあったのは木と蔦で組み上げられた、人の身であっても十分に巨大な神殿ですわ。光源がどこかまでは分かりませんが、おそらく魔法的な何かだと思います。きっとそう。

 

「クリメリア様は奥でお待ちになられております。どうぞ」

「案内、ありがとうございました。――ああ、その、こちらはそのままでも?」

 

 言いながら、腰に佩いたメルティングを示して。

 一般的に、武器を持ったまま謁見というのは相当な信用が無ければならないものと思いますが。ワタクシにとってメルティングはただの武器ではありませんし、置いていくのは気が引けます。無論、駄目だと言われればそれまでなのですが。

 

「彼女にも謁見の許可は出ていますので、ご心配なく。お二人でお進みください」

 

 ワタクシの心配は杞憂だったようで、妖精さんにとってはメルも恩人の一人と数えられていたようです。ほっとしながら、共に神殿の中へと。

 あ~静まり返った中をこうして一人歩いていると――メルもいますが、歩いているのはワタクシ一人ですし――心地よい緊張感が湧いてきて、引き締まりますわね。

 あの総ほんわか感の妖精さんたちの長とは言え、横柄な態度で臨むのは確実にNG! 仮にワタクシが同じ立場でそんな人を迎えたら、心の中で蹴りを入れますわ! 実際に入れるのは少しだけ我慢しますが!

 

 やがて通路の突き当りに、余裕でワタクシの数倍はあろうかという巨大な扉が現れて、思わず見上げてしまいました。

 ワタクシから見ても大きいのに、妖精さんサイズだと明らかに過剰な作りなのでは……ああ、いえ、最初から別種族も迎えられる前提の設計なのですわね。自己解決しましたわ。

 

 扉にはいくつかのノッカーが付いておりましたので、そちらに手を伸ばしますとまたもや不思議なことが。

 何と、重厚な木製の扉が突然『目』を開き、こちらを見下ろしてくるではありませんか!

 

「おお……お主が。よく来なさったのう」

「おお、おお。めんこいごど、めんこいごど」

「懐かしいのう、竜様の匂いじゃ」

「おお、おお。いさますごど、いさますごど」

 

 両開きの扉の片方ずつが、それぞれ語り掛けてきて。ワタクシの目は左右を行ったり来たりですわ。

 どうしたら良いか考えあぐねているうちに、扉の内側からまた別の声が響いてきました。

 

「これ、ジジ戸にババ戸! お客様を驚かせるでないといつも言うとろうが! さっさと開けんかい」

 

 しわがれたお年寄りのような扉の声とは違う、若い少女のような声。ですが、おそらくはその声の主がここの、妖精の長であるクリメリア様なのでしょう。

 そのお声に従って、扉――ジジ戸にババ戸がギギギと音を鳴らしながらゆっくりと開かれていきます。

 

 扉を通る際、ぺこりとお辞儀をして。少し驚きましたが、何のことはありません、ただ扉の形をしているだけのおじいさんとおばあさんですわ! 開けて下さってありがとうございます!

 そして入った部屋のその奥、そこには巨大な、それはもう巨大な木の幹が鎮座しておりました。上を見上げても天井を貫いて伸びており、その先は見えません。逆に根本には、よく見ればぽつんと一人、木の根で出来た椅子に座っておられる方が。

 

「遠慮はいらん。近うよれ」

「は、はい……!」

 

 許可をもらい近づくと、声の主は予想通り年若い少女の見た目をした方でした。他の妖精さんたちとは違い、サイズは人間の少女と同じくらいですが。

 しかしその表情は未成熟な少女の物とは思えない、落ち着いた雰囲気を湛えていて――自然とこの方が妖精の長なのだと得心致しました。

 

「あまり畏まらんでもよい。妖精の長だの守護者だのと言っても、結局のところワシはただの管理者に過ぎんからの。本当に偉いのはワシにそれを命じた竜様よ。その末裔たるお主であれば、むしろ畏まるべきはワシの方かもしれんのう!」

「まあ、そのようなお戯れを。ワタクシのような若輩者がその血だけを頼りに横柄に振舞えば、それこそご先祖様に顔向けができませんわ!」

 

 どうやらこの妖精の隠れ家は王家とも浅はかならぬ関係があったご様子です。ワタクシは何も知りませんでしたが。

 考えてみればこの谷は王家に伝わる特別な地、そこに住まう妖精たちと関係があってもおかしくはない話です。

 

 ほどほどに挨拶を交わしたあと。クリメリア様の視線が下がって、腰に下げたメルティングに向けられて。身じろぎするように揺れたのは気のせいでしょうが……もしかして緊張してますのぉ?

 

「くっく、なんとまあ愉快な形になっておるのう。窮屈かもしれんが、その娘の手に納まったのも一つの定めじゃろう。しばらくは力を貸してやるがよい」

『……ふん』

 

 よく分かりませんが、グッドコミュニケーションですわね!

 勿論じゃんじゃか力をお借りしますのでよろしくお願いいたしますわ!

 

「さて、それでは本題に入ろうかの。まずは、此度の件――妖精の通り道を塞いでおった竜もどきの退治の礼じゃな。あんなものがどこから紛れ込んできたのか、こちらとしても寝耳に水でのう。ほとほと困り果てておったところじゃ。そこをお主のおかげで混乱も最小限に抑えられた、改めて礼を言わせてくれ」

「いえ、ワタクシも気を失ってしまったところを助けて頂きましたし……」

「そう遠慮をすることはないのじゃがのう。それで気が済まぬというならば、こうしよう」

 

 クリメリア様が手をかざすと、床からにょきにょきと木が二本生えてきまして。先端に付いた『こぶ』が割れて、中から宝物がこんにちわ~。うお、すげえギミック、予め仕込んでおいたんですの? この方もしかして――分かってらっしゃる!

 

「一つは『妖精の剣』。その刃は羽のように軽く、刃こぼれもせず、振るえば風を操り遠く離れた物も断ち切ることが出来る魔法の剣じゃ。便利じゃぞ~。そしてもう一つは、『妖精のマント』。軽いのは勿論のこと、その大きさは所有者の意思で数倍に広がり、包まれれば熱さも寒さも防ぐことが出来る。そして何より、妖精のように姿を消すことも出来るのじゃ。まあ、消えるのは見た目だけじゃから、勘の良い者、匂いや音に敏感な者などには見つかってしまうこともあるがのう……」

「おお……おお……!」

 

 説明を聞いているだけでワクワクしますわ~! ほ、欲しい。どっちも凄く欲しい~!

 しかしこの前フリはつまり……そういうことですわね!

 

「もう分かっているじゃろうが、どちらか一つを礼として与えよう。さて、お主はどちらを選ぶかの?」

「マントでお願いしますわ!」

 

 間髪入れず即答するワタクシ。いや、まあどっちかと言われたら、ねえ。

 最高の剣ならすでに持ち合わせがありますので! 選択といってもワタクシにとっては一択でしたわ!

 

「くっははは! そうかそうか、では妖精のマントを授けよう。大事にするがよい。……どうやら気に入られておるようで、良かったのう?」

『…………うっさい、こっち見んな』

 

 どうやら照れているらしきメルを鞘の上から撫でながら、思わぬ出会いと新たな力に確かな満足感を得たワタクシでした。

 この子たちの使い手に相応しい活躍をご期待あれですわ! おほほほほ!

 

 

 




PCの排熱に殺意を覚える季節。
皆様も健康にはお気をつけて……
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