不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第2話 懲りない乙女

 はい、薬草採取クエ終了!

 無事納品完了してアリサちゃんに褒められましたわ。ちゃんと薬草採取出来てるって!

 ――それで褒められるのもどうなんですのぉ?

 

 角兎もついでに預けてお肉を料理してもらいましたわ。解体費用とか細かい話はどうでもいいですわね。全部お任せしたので覚えてませんわ~。

 角も拾っておきましたが一応アクセサリーなどの加工品用に使えるらしく、まあ小遣い程度にはなりましたわ。リザルトはそれくらいですわね。いやぁ働いた働いた、まだ昼下がりですけどあとはオフですわ!

 

 帰宅して早速、自室の本棚から薬草図鑑を手に取り読み始める。読書の似合うインテリジェンスガール、伊達メガネも装備ですわ~!

 ――それはそれとして。ワタクシ、実は薬草について少々気になったことがありますの。

 

 薬草と一口にいっても様々な種類があって、採取しやすいものはお安く、逆に採取が難しく効能も高いものならかなりお高めの値段が付く――まあ、ここまでは当然のお話ですわね。

 ウノン平原で取れる薬草は当然お安めのものばかりなのですが、同じ場所で採取出来たものでも状態によって価値が結構変わるようなのです。お安いなりにですが。

 

 つまり、どういう状態のものがより高値が付くのかを知っておけば、より効率よく稼ぐことができるということですわ。あと単純に知識欲も湧いてきましたし。

 どうせしばらくは薬草採取で食いつなぐことになるのですから、無駄な勉強ではありませんわ。一朝漬けで詰め込んだ知識もまだ残ってますし、消える前に補強しますわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして再びやってきましたウノン平原!

 

 あれから数日、色んな本を読みふけり、時に知り合いの錬金術師の方にお話しを聞いたりと、すでにワタクシの薬草知識は付け焼刃ではありませんわ。……いや実践経験が伴わないとあまり大口は叩けませんわね。自戒自戒。

 

 時刻はすでに夜へと移り変わり、日は完全に沈んでしまっています。同じ場所のはずなのに昼のそれとは雰囲気が違いますわね! 誰もいない貸し切りですわぁ! まあ姿が見えないだけで、獣やら何やら沢山いるでしょうが。

 夜なので当然辺りは真っ暗闇――と思いきや、意外と明るい光が降り注いでおります。ええ、そうです、今夜は満月。神秘が満ちる夜ですわ。

 

 そろそろ説明致しますと、どうやら薬草の効能はその身に蓄えたマナの量や質に大きく左右されるそうなのです。その条件が一番良く満たされる時間が、まさに今、満月の夜というわけですわね。

 他にも月の光がより届く高い山の上であればなおヨシとのことですが――贅沢は言えませんわね!

 

 ちなみに夜に町の外に出るのはおススメされておりません。視界が悪いのは勿論のこと、強い魔物が出やすいからですわ。さらに今夜は満月、豊富なマナが降り注いで喜ぶのは薬草さんだけではありません。

 特に注意しなければならないのは――人狼。

 読んで字のごとく、人のような姿をした狼の魔物ですわ。その力は満月の夜に最大になり、獲物を求めて彷徨い出てくるのですわ。怖いですわね、戸締りしときましょう。屋外なので戸はねーんですが!

 

「アオォォォーーーーーーーーン!」

 

 ――フラグ回収早すぎませんことぉ?

 剣を抜きながら、周囲を見回して。月明りで明るいとは言っても、昼同然とまではいきません。人狼の力は人間のそれをはるかに凌駕する――不意打ちなど食らえばひとたまりもありませんわ。

 

 ドン、と重さを感じる音と共に、すぐそばに降り立つ銀色の影。身構えながら目を凝らせば、その正体はまさしく人狼。

 月明りに照らされたその姿はいっそ美しさすら感じます。が、その美しさは一方的に愛でられる芸術のそれとは違う、人に死をもたらす凶器の美しさですわ!

 

 黄金に光る瞳は確実にワタクシを捉え、完全に獲物として見定めていることを教えてくれています。今から背を向けて逃げようものなら、確実にゲームオーバーですわ。生き残るには戦って勝つしかありません。

 さて、ワタクシの剣がどこまで通じるものか。ちろりと唇を湿らせながら、待ち受けます。

 

「ルルル……ゥオーンッ」

 

 威嚇か、と思いきや、次の瞬間には人狼が目の前に! 同時に腹部に衝撃を受け、視界が空の月と草むらとで凄まじい勢いで交互に移り変わっていきます。蹴り飛ばされて、回転しながら吹っ飛んでるんですわコレ!

 

「うぐぇ! ……えほっ、えほっ」

 

 何とか頭部から落ちることは避け、受け身を取って衝撃を殺しつつ起き上がって。咽ながらも呼吸を整えてさらなる追撃に備えます。

 正直滅茶苦茶お腹痛いですが、破れてないならノーカンですわ。脳内アドレナリン全開、気合で耐えます。っていうか戦闘中に一々痛がってたら勝てるもんも勝てませんわ~!

 

「オラァ! 全然効いてませんわよぉ~!」

 

 とりあえず、人狼の速度が目で追えるものじゃないということは分かりましたわ。ですが、見えないなら見えないでやりようはある。勝負はこっからですわ!

 こちらが覚悟を決めるや否や、人狼の姿が再び掻き消えます。来ますわ! ……多分!

 

 ――今です! 必殺、勘で適当にぶんぶん丸~!

 なんかそれっぽい気配がした(強弁)場所に向かってフルスイングですわ。ワタクシ結構こういうの鋭いんですの。ええ、宝くじ当てるよりは簡単ですわ!

 

 しかし攻撃は外れてしまった!

 まあ、そうそう当たるもんじゃありませんわぁ、勘なんて非科学的な。誰ですの、そんなもの信じてるお間抜けさんは。

 視線を素早く巡らせ、人狼の姿を探すと、少し離れた場所に見つけることが出来ました。おやぁ、何で離れてますの?

 

「グルルル……」

 

 何かを警戒するように低く唸っております。なんだぁ、ビビってんのかい? ワタクシのオーラにタジタジかい?

 これはイケそうですわぁ。今精神的にワタクシの優勢! 理由は分かりませんがイケます、多分!

 今度はこちらのターンですわ。全力ダッシュで斬りかかりましょう!

 

「シャオラァ!」

 

 まあ、当然のように避けられたわけですが。アジリティが違いすぎますわぁ、バネみてーにびょんびょん跳びやがってよぉ。

 しかもただ避けるだけでなく、紙一重での回避に加えてこちらの頭上を飛び越えた瞬間背中に一撃当てていきやがりましたわ。格ゲーで言うところのめくりってやつですの? リアルでやられたの初めてですわぁ……凄い痛いんですけど!

 

 ――よし。いや何もヨシじゃないが。とにかくヨシ!

 分かってきましたわ。ええ、ワタクシの攻撃がまともに当たることはないということが!

 じゃあどうするのか。その答えは一つですわ。

 

 とにかく今は待ちですわ。チャンスはきっと来るからさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どれだけの時間が経ったのか。数秒、数分、数十分、それとも数時間?

 楽しい時間は過ぎるのも早いですわ。今ワタクシ最高に興奮しております。アドレナリン出過ぎて鼻血も出そう。

 

 今のところ、勘頼りでブンブンしか出来ることがありませんが、意外とやれるものですわね。何度か掠らせるくらいまでは出来ましたわ。とはいえ、相手も然る者。少しの隙でこちらに一撃入れてくれやがるものですから、ダメージレースは完全に向こう有利ですわ。

 そもそも人狼は回復力も並じゃありません。かすり傷程度ならあっという間に回復してしまいますわ。特に今は満月の夜ですし、尚更ですわね。

 

 この状況でワタクシが勝利するには、とにかく一撃。それも急所にズドンと決定的な一撃を入れてやる必要がありますわ。

 その状況を作る為の秘策――それは、こう!

 

「あっ」

 

 出来るだけ自然に、手から剣をすっぽ抜けさせる!

 今やワタクシは抵抗する牙を失った憐れな獲物。油断は期待できませんが、それでもこの状況ならトドメを刺しに来ることでしょう。

 

 落とした剣を拾いに走るワタクシ。勿論、誘いですわ。仕掛けてくるのは恐らく、剣を拾い上げる直前。その隙だらけの無防備な身体――細い、首筋!

 ちりり、とうなじに感じる気配、勘を頼りに。剣を拾う動作を中断し、即座に振り向きながら左腕を首元へと。

 

「――ぐうっ!」

 

 グサリと鋭いものが刺さる感触、そしてメキリと骨が軋む感触。

 大きな顎でワタクシの腕ごと頸を噛み千切らんと、人狼が凄まじい力を掛けてきて。そのまま振り回されてしまえばワタクシは終わりですわ。咄嗟に脚を人狼の身体に引っ掛けて、とにかく耐える!

 

 腕と頸の肉が引き裂かれて、下手をしなくてもこのままでは死にますが――なぁに、ここまでは作戦通りですわ。何せ待ちに待った、急所にズドンチャンス到来なのですから!

 無事な右手を素早く走らせ、懐に隠し持っていた短剣を取り出す。あくまで護身用なので些か頼りない長さではありますが、この距離ならむしろ好都合。逆手に持って、あらん限りの力を籠めて。

 

 チャンスは一度きり。狙いはこちらも頸。延髄だか脊髄だか、詳しくは知りませんがとにかく頸の骨辺りに差し込めれば多分死ぬでしょう、きっと恐らくメイビー!

 ――うおおおおっ! 何とかなれーーーー!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ト~レ~イ~ラ~ちゃ~ん?」

「……っす、ウス」

 

 ともすれば人狼よりも恐ろしい圧を掛けてくるアリサちゃんの前からお送りしております。トレランスです。

 結論から言いますと、何とかなりました! やったぜ!

 

 ただし、クソほどボロボロの状態で朝帰りしたワタクシを見てアリサちゃんは失神いたしました。尊い犠牲でしたわぁ。

 いや、正直本気で死を覚悟いたしましたわ。ダメ元で薬草を傷口に貼り付けてみたのが功を奏したのでしょうか。……いや多分意味ないわ。じんわり温かみを感じたので肩凝りには効くかもしれませんが。

 

 倒れたアリサちゃんを奥の部屋へ運んで、律儀に目が覚めるのを待ちつつ、その間に貰った包帯とか薬で適当に応急処置をしました。まあそのうち治るでしょう、若いので。

 そしてアリサちゃんが目覚めると、早速の説教タイムですわね。本当ご心配おかけして申し訳ありませんわ。でもまあ、生きてるんだから良いじゃんね。ほら、高品質の薬草もゲット出来ましたし!

 

「…………」

 

 あ、無言の圧効きますわぁ。涙目で睨まれるともうワタクシ、絶対勝てませんわ。女の涙は必殺の武器なんですのよ~。ワタクシには装備されてませんが!

 いやもう、本当に。もうしませんから。勝手に夜町の外に出たりしませんから。

 

 だからもう、許してくださいまし~!

 

 

 

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