不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第3話 登る乙女

 さて、今回のワタクシは町からほど近くにあるウノン平原――からさらに先にあるドエラ山の中腹よりお送りしておりますわ。

 正確な標高は知りませんが、多分2000メートルくらいあるんじゃありませんの? ここまで登るのもしんどかったですわぁ。モンスターもそこそこ居ましたし。

 

 見上げるような巨体に驚異的な再生力を持ったトロール、木々の影から音も無く忍び寄る暗殺者シャドウ、そして癇に障るけたたましい鳴き声と共に空から執拗に襲い掛かってくるハーピィの群れ――どの敵も油断ならない相手でしたわ。

 

 ちなみに今の時間帯はお昼くらいですわ。太陽が真上に居るから分かる。

 前回の反省を活かして町を出たのは朝ですわ。まあ、ちょっと太陽がまだそのお姿をお見せになられる前だったかもしれませんが、空は白み始めていましたから、朝と言えば朝ですわね。お年寄りなら確実に起きて散歩し始めてる時間帯ですわ。

 

 おっと、そろそろ目的についてお話しておきましょう。今回の登山の目的は、ズバリ薬草ですわ! ……またぁ?

 いやそう言わずに聞いてくださいまし。以前少しお話したかと思いますが、高い山に生えた薬草はより月に近いことで、より良いマナを受けやすいのです。とはいえそれは、満月の夜を過ぎればあっという間に劣化してしまう儚いもの。真昼に採取してもあまり意味はない――とお思いでしょう。

 

 しかしワタクシ、今回耳よりの情報を手に入れまして。

 なんとこの山、ドエラ山には少々変わった採取場所があるらしいのですわ。というのも、中腹にある洞窟の奥深くに、山頂から降り注いだ月のマナが溜まるスポットがあるのだとか。そこに生えた薬草は常に満月の光を浴びているのと同じ状態であり、それはもう素晴らしい品質のものが採取できるそうですわ! 夢がありますわねぇ。何で誰も取りにいかないんですのぉ?

 

 何だか少しばかり引っかかる部分のある情報ですが、薬草を取り扱うプロの錬金術師さんからの情報なので間違いねーですわ。嘘だったらドロップキックですわ。無い胸さらに凹ましてやるかんな!

 

 でぇ、そのぉ、お話にあった洞窟というのがぁ――こちらになりますわね。

 汗を拭いながら佇むワタクシの目の前には、大きくぽっかりと空いたエッチな穴が。いやエッチではない。……HELLという意味ならエッチで正解ですが。

 

「オォォォォオォオオオ……」

 

 何なんですのこの唸り声みたいな音は。単なる空気の流れる音ですわよね? そうと言ってくださいまし。

 まあよしんばそうだったとしても、洞窟の周りに散々と転がった、数えるのも億劫になるほどの多種多様なお骨さんたちが無かったことにはならないのですが。

 

 どうやら今回も、無傷で帰るのは難しい気がビンビンとしてきましたわね。ワタクシ最近死にかけたばかりなのですが、今度また大怪我して帰ったら絶対お外出してもらえなくなりますわ。慎重に行きませんと。

 

 まあ、どれほどの危険が待ち受けていようとも、行かないという選択はあり得ないわけですが。

 何せワタクシは――冒険者ですので! オホホホホ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 洞窟の中は、外とはうって変わってひんやりとした空気が流れていて、中々快適なロケーションなようです。

 コツリコツリとワタクシの歩く音が響く様も、雰囲気があって良いですわね。じわじわとテンションが上がってまいります。あ、何か走りたくなってきましたわ。……走りますか!

 

 ――いやいや、慎重に行くと決めたばかりではありませんの。落ち着きのない子供ではないのですから、クールにおなりなさいトレランス。あ~ワタクシは淑女、ワタクシは淑女~。

 

 そんな感じでうずうずしながら奥へと進んで行くと、俄かに明るく開けた場所へと辿り着きました。

 ここが洞窟の最奥でしょうか。となると薬草もこのどこかに……そう考えながら視線を巡らせれば、すぐにそれらしき場所を見つけることが出来ました。

 

 少しだけ高台になっている場所に何処からか降り注ぐ神秘的な光。そしてそれを存分に浴びるのは、まさしく今回の目的たる薬草さんたちですわ!

 まるでスポットライトを浴びて輝くアイドルのようですわね。今から手折ってやるから覚悟しとけよな! ゲースゲスゲス!

 

 そんな馬鹿なことを考えながら迂闊に近づいたのが失敗でした。高台によじ登っている正にその最中、背後に何者かが忍び寄る気配が!

 ワタクシの両手は絶賛ロッククライミング中で、文字通り手が離せない状況。冷や汗をかきながら恐る恐る後ろを確認すると――なんということでしょう、そこにいたのは粘着質で半透明で常に蠢いていて鼻を突くような臭いを発する……要するにスライムですわ!

 

 スライムなんて雑魚でしょとか、いや意外と強敵なんだよとか色々なご意見はございますでしょうが……とりあえずワタクシの所持しているモンスター図鑑によれば、強いか弱いかは環境によるとのことでしたわ! いかがでしたし!

 

 それはそれとして、今は如何にしてこの危機を脱するかを考えるのが先決ですわ。取り得る選択肢は二つ――登るか落ちるかですわ!

 ワタクシは一瞬で視線を上下させて。即座に下は無理と判断。スライムが横にも広がっていて落ちたらドボンですわ。じゃあ登るしかねえよなぁ! 一秒迷ってる余裕があったら一手でも多く上に登った方が生存率が上がりますわー!

 

 ワシワシと岩を引っ掴んで体を上に上にと持ち上げていくワタクシ。登攀スキルがメキメキと上昇していくのが分かりますわ! しかしスライムもまた壁に引っ付き、ワタクシを追ってきます。

 あっつ、あっっっつ! スライムの粘液がワタクシの脚を捉え、焼き焦がしています。消化能力強すぎるでしょ、そんな急いで消化したら体に悪いですわよ⁉

 

 そんで引っ張る力も結構強いじゃありませんの。一度掴んだら離さないとでも言うつもりですの? 生憎ですがワタクシ強引な殿方は好みじゃありませんの! 妊娠しますし!

 そもそもスライムの雌雄とか分かりませんが。つまりその……あるんですの? ち〇この話ですわ!

 

「オオオオオォオォォ!」

 

 そんなシモのネタで盛り上がっているのを咎めるが如く、洞窟の前で聞いた唸り声が響き渡る。よくよく見てみれば、その発生源はスライムに取り込まれた魔物だったようですわ。

 それは牛のような…人のような…牛! ミノさんですわ!

 

 身体は殆ど粘液に飲み込まれ、頭が辛うじて少し外に出ている状態。飲み込まれた体はすでに消化されかけていて、骨が丸見えですわ。

 もうビックリするくらい分かりやすく詰んでますわね。ワタクシの未来を暗示しているようで不吉ですわ~。

 

 さて、おふざけもそろそろ終わりです。粘液に捕らわれた脚を無理やり引っこ抜き、最後のひと踏ん張りで高台に身を乗り上げて。ヨッシャ、これで両手が使えますわ!

 早速意気揚々と剣を引き抜き、スライムを待ち構えます。ほらどっからでも掛かって来いよ、切り刻んでわらび餅みてーにしてやんよ!

 

 そんなワタクシの期待に応えたかは知りませんが、スライムは中々の勢いで下から飛び出してまいりました。それ自体は予測の範囲内だったのですが、あろうことかこの粘着質野郎、まるで壁のように横に広がりながら登ってきてやがったんですわ!

 

 ――少しばかり面食らいましたが、とりあえず切らなきゃ始まらない。全力フルスイングで横凪ですわ!

 思いのほかあっさりと切れましたが、まあこんな流動体が刃も立たない程固かったら、ワタクシは泣きます。ギャン泣きします。

 なんて言ってたら切れた部位をあっさりくっ付けて再び襲い掛かってくるスライムさん。まあそうなりますわよねぇ!

 

 スライムの弱点って知ってますか。例のモンスター図鑑によればスライムには核が存在し、それを潰せば動かなくなるらしいですわよ。

 時々、核を潰された後しばらく時間が経つと、また核が再生したり新しく出来たりして再び動き出すこともあるらしいのですが今は横に置いときますわ! ワタクシは今勝ちてーんですのよ!

 

 核核カクカクかくかくぅ――スライムの圧し掛かりを避けながら、目を凝らして核を探します。

 ど、どうなってるんですの全然見つからねーですわ、本当にあるんですの?

 

 そうこうしてる間にスライムは自らの身体を集めに集め、高台にたっっっぷりと昇天ペガサスMIX盛り。所々に死にかけたり死んだりしてる憐れな被害モンスターが飾り付けられていて、とってもオシャレですわね。地獄か?

 あ……ワタクシ今気づいたんですけれど、もしかしてこのモンスター共の中に核が混じってるんじゃありませんの? 例えばあのデカい頭蓋骨――多分トロールのものでしょうか。あの中に核を隠してたら見つかるわけねーですわ。核を――隠してたら! ね!

 

 ありがとうございます。

 では対策を考えましょうか。全然思いつきませんわ。ええとぉ――誰か攻略wiki纏めてたりしませんのぉ?

 

「アヅぃーーー!」

 

 うなじにポタって零れてくるのやめろぉ! 殺すぞ!

 

 ――よし、一旦退却ですわ。無理無理、剣士が一人でどうこう出来るレベルじゃありませんわ。

 ワタクシがなぁ、魔法使いだったらなぁ! お前なんて一撃で凄い燃やしてやるんだからなぁ!

 

 心の中で捨て台詞を吐きながら、高台から飛び降りるべく走るワタクシ。スライムがいかに集まっていようと端の方はそれなりに薄いものですわ。このぐらいの厚さなら、切って、掬って、投げ飛ばして、以下繰り返しでぇ!

 はい道が開けましたわ。それではサヨウナラ! アイキャンフラーイ!

 

 まあまあ高い場所からの落下ですが、このぐらいなら平気へっちゃらですわ。鍛えてますので。

 ふふ、おバカなスライムさん。下にも残しておけばワタクシの逃げ道を塞げたでしょうに、欲張って全部集めるからあっさり逃げられるんですのよ。

 

 ドロドロと流れ落ちるように追いかけてくるスライムを嘲笑いながら観察する。んー……なぁんか、引っかかりますわね。

 ――ああ、落ちるスピードが所々違うんですわ。

 

 最初に流れ落ちてくる部分は殆ど重力そのままのスピードで、そこに意思が感じられません。下に落ちた後もただドロリと広がるだけで、ワタクシを追ってくる様子もなし。

 その後に落ちてくる部分はある程度の塊を維持したまま、制御された速度で落ちて――いえ、降りてきているようです。塊の中にはいくつかの魔物の死骸が。おそらく、そのどれかの中に核があるのでしょう。

 

 読めてきましたわ。スライムの身体は、その全てを同時に制御出来るわけではないようです。核を中心に精密に制御できる範囲、或いは量が決まっているのでしょう。それ以外の部位に関して出来るのは、単純な動きのみ。

 ――んんん! ピキーンときましたわ! 攻略法ゲット……かもしれません!

 

 

 

 

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