不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第4話 落ちる乙女

「スライムさんこ~ちら~ですわっ」

 

 追いかけてくるスライムと付かず離れずの距離を保ちながら、洞窟の外へと駆け抜ける。

 出口から飛び出してすぐ方向転換すれば、そこを紙一重のタイミングでスライムがどばっと溢れ出して――おっとと、今のはひやっとしましたわ!

 遊び過ぎて捕まるなんて間抜けな終わりはゴメンですわ。さあさあ、お楽しみはまだこれからですわよ!

 

 ワタクシが今目指しているのは、とある絶好のスポットですわ。洞窟まで来る途中に見つけた場所なのですが、それはもう素晴らしい景観で。ぜひともスライムさんとご一緒に観覧したいところです。

 駆け抜けている途中でまたハーピィ共がギャアギャアと喚いていらっしゃいますが、今貴女たちと遊んでいる暇はなくってよ! あ、ちょっと石投げるのやめなさい、ぶっ殺しますわよ⁉

 

 カンカンと剣の腹で弾きながら、反撃したい欲をぐっと我慢して走り抜ける。それで調子に乗ったのかハーピィが一匹、急降下してワタクシの後ろから襲いかかってきました。もう本当に面倒ですわ!

 これも適当に弾いてやり過ごそうかと思ったのですが――

 

「ぎゃっ」

 

 間抜けな断末魔を上げてハーピィがスライムさんに取り込まれてしまいましたわ。正確にはワタクシを狙った攻撃だったのでしょうが、丁度良いタイミングでハーピィが割り込んでしまったようです。ご愁傷様!

 いやはや、急な飛び出しは事故の元、ですわね。皆さんも前だけ見て道を横断するような真似はしないでくださいましね! ワタクシとの約束ですわ!

 

 残りのハーピィたちはすっかり畏縮してしまったようで、最早ただのエキストラ同然。オラオラ、主役様のお通りですわ~。そこのけそこのけ~。

 気分よく走り抜けるワタクシとスライムさん。もう誰も止められるものはいません――さあ、いざラストステージへ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして辿り着いたのは、爽やかな風が吹き抜ける場所。視界を遮る木々もなく、映るのはただ何処までも広大な空と、遠くには水平線と。そして付近一帯の地形を丸ごと望める絶好の映えスポットですわ!

 と、まあそれらも素晴らしいのですが、一番の見どころは何と言ってもこの場所そのもの。見てくださいこの切り立ちすぎた崖! ここでハリウッド映画を撮れと言わんばかりの断☆崖☆絶☆壁☆!

 落差1000メートルはあるんじゃないですの? ありませんかどうですか。まあどうでもいいですわ正確な高さなんて! 大事なのは落ちれば地上まで直通、遮る物のない最高の投身ポイントということですわ!

 

 初めて見た時からワタクシ、どうにかしてここから飛び降りられないかと思っていたんですのよ。でも生憎とパラシュートなんて持ち合わせておりませんし、素で落ちたら流石のワタクシでも死んでしまいます。多分。

 しかしここに来て、その願望を叶えるチャンスが巡ってまいりましたわ。一見すれば命の危機でも、やり方次第でいくらでもひっくり返せるというところを見せて差し上げましょう!

 

 崖の淵で急停止し、追いかけてくるスライムさんを待ち構えます。さあ、ワタクシはここですわよ!

 不敵な笑みでその瞬間を待って。5,4,3,2,1――今!

 

 剣を逆手に持ち替え、両手で力を込めて深々と地面に突き刺す。大事なのは気合ですわ、ワタクシならやれるという気合! うおおおっ! 我最強也!

 剣を突き刺した地面に罅が走り、それらが致命的な崩壊を起こすのと、スライムさんの粘液にワタクシが丸ごと飲み込まれるのはほぼ同時だったでしょうか。もちろん消化粘液のダメージも気合で耐えますわ!

 

 ――続いて訪れるのは圧倒的浮遊感。

 スライムさんの中では目を開けていられないので正確な情報はまだですが、狙い通りなら今はスライムさんとワタクシで空中ランデブー中のはず。

 そして空中落下中は核の周りの制御に手一杯で、それ以外の粘液の制御は甘くなる……はず! 十分な検証をしたわけではありませんが、がぁ――信じてますわよ⁉

 

 ワタクシの祈りが通じたのか、全身を捉えていた粘液の圧が弱まってきました。多分、弱まっていると思います。まあ弱まってなくても良いでしょうこの際脱出出来るなら!

 

「んならぁーーーー!」

 

 気合一発、粘液から顔を突き出して。呼吸オーケー! 視界オーケー! 剣はまだ手の中、あとは勝利を手にするだけですわ!

 残りの身体も抜け出して、空中に躍り出る。風圧が凄いですが気持ちいいですわね~……っと、時間制限があるのですから、急ぎませんと。

 

 改めてスライムさんの状況を確認します。大部分はバラバラに散らばってしまっていますが、やはり核を中心にした一部分のみはまだ形を保ったまま落下しているようです。

 そして中にはいくつかの遺骸が。そのどれかに核があるというのがワタクシの予想ですが――まあ、おそらくは中心部にあるトロールの頭蓋骨ですわね。違ったらこの下の地面に埋めてくださって結構ですわ!

 

 邪魔だった大量の粘液は殆ど飛び散りましたし、核も当たりが付きました――ここまで条件が揃えばあとは思いっきり斬るだけですわねぇ!

 空中での姿勢制御にも慣れてきて、手足をピンと伸ばしてぎゅーんと加速、スライムさんの核目掛けて突っ込みます!

 

「おじい様直伝、天下無敵のぉ――超! 気合斬りぃいいいい!」

 

 気合を入れれば剣の刃渡り以上の長さが斬れる。剣士の常識ですわね。

 まあ流石に数十メートルも伸ばすのはまだ無理ですが……その分密度は濃いはずですので!

 

 それはともかくとして、スライムさんの核は無事ぶった切れたようですわ。周囲の粘液ごと纏めて、頭蓋骨が真っ二つです。ちゃんと中に核も入っていたようですわ。

 一瞬ですが、断末魔のかわりなのか周りの粘液がぶるりと震えて、目に見えてその形を崩し始めたので間違いないでしょう。

 

 これにてスライムさん討伐成功! いやぁ一安心ですわぁ――あ、もうすぐ地面ですわね。安心するのはまだ早かったですわぁおほほほ。

 勿論このままだと死にますので、奇策発動! 素のまま落ちたら死んでしまうなら、素のまま落ちなければ良いじゃない! ほら、ご覧くださいな。ここに丁度良いクッションがあるでしょう。

 

 先ほどまで命を懸けて戦いあった敵が、今やワタクシの命を救う重要な役割を担ってくれるのです。美しいですわね!

 ありがとうございますスライムさん。貴方のおかげで最高の体験が出来ました……では早速失礼してっと。

 

 形が崩れたとはいえ粘性まで失われたわけではありませんから、ある程度の緩衝材の役は果たしてくれることでしょう。普通の人間ならそれでも死んでしまうかもしれませんが、ワタクシは訓練を積んでいますので大丈夫です。絶対に真似しないでくださいね?

 

 さあ準備は万端、いざ地上へ! 何ならヒーロー着地でもしてしまいましょうか何つって――地面に激突した瞬間、ワタクシを襲う凄まじい衝撃。あっ

 

 死

 

 

 

 

 

 

 

 

 生きてました!

 

 目を覚ますとそこはどこかの洞窟の中、でしょうか。一瞬死に戻りでもしたのかと思いましたが、ワタクシにそんなチートスキルはないはずです。そんなスキルがあったなら、幼い頃おじい様にしごかれ殺されたときに発動してるはずですからね!

 しかし落下ダメージというものを少し軽率に考えすぎていたかもしれません。次はもうちょっと用意周到に飛び降りますわ。

 

 さて、少し落ち着いてきました。まずこの洞窟ですが、落下前に訪れた月の光が降り注ぐ洞窟とは違う場所のようです。

 ワタクシが落下死……死んでないので落下気絶した後、無意識に歩いてここまで移動したのでなければ誰かが運んだということになりますわ。一体誰が運んだのでしょうね。ちょっとそばにいる知らない女性に聞いてみましょう。

 

「……その前に一つ私から聞いてもいい?」

「はい」

「アンタ本当に人間?」

 

 えっ。

 

「正真正銘、何処からどう見ても人間ですわ。どこにでもいるごく普通の――」

「普通の人間はあの高さから落ちたら普通に死ぬのよ!」

「ええ、ですからスライムさんをクッションにしてぇ……」

「落ちてくるとこ見てたけどさ! あんなの何の意味もないからね⁉ 何なら落ちた時ほとんど散ってたからね⁉」

 

 え、マジですの。……じゃあ素で落ちても平気だったってことじゃありませんの。次からはそうしますわ!

 それはそれとして、結局ワタクシを介抱してくださったのはこの方でよろしいのでしょうか。

 

「はぁ……一応、最初に見つけたのは私だけど。運んだのは私の仲間よ。今は洞窟の外を見回りしてるけど、すぐ戻ってくるでしょ」

「そうでしたか! ではその方には別に礼をするとしまして、まずは貴女さまに礼を。この度は助けてくださり誠にありがとうございました!」

 

 生きていたとはいえ、外で気絶してしまった以上命の危機であったことは間違いありません。介抱してくださった礼はしなくてはいけませんわ。

 

「今は生憎と手持ちがございませんので、町に戻り次第謝礼をお支払いいたします!」

「……貰えるものは貰うけどさぁ」

 

 何やら複雑そうな表情を浮かべる女性。改めて見ますと、中々に可愛らしい顔立ちをしたお方ですわ! ウェーブのかかった明るめの茶髪がギャルって感じで好印象です。歳はワタクシと同年代か少し上でしょうか。

 質の良いローブに身を包み、その手には箒が握られております。……箒ぃ? メイドさんですの?

 

「ああ、これ? 言っとくけど、ただの箒じゃないかんね。私、魔女だから」

「魔女……! と、ということは、魔法とか使えちゃいますの⁉」

「モチ。炎も風も思いのまま、空だって飛べちゃう!」

「す、すごいですわ~!」

 

 思わず拍手してしまうワタクシを誰が笑えましょうか! きっとお父様だって拍手しちゃいますわ! ……いや、お父様大分天然なので参考にはなりませんが。

 しかしまあ、この世界の魔法事情は本で読んだくらいのもので、実際に目にしたことはないんですのよね。あるのは知っていたのですが、おじい様の教育方針で幼少期より剣だけ持たされて鍛えられましたので。お前に魔法はまだ早い! ……的な。

 

 ですがそれも今は昔。ワタクシはもう立派に冒険者として駆け出したのですから、魔法と関わっても何の問題もないのですわ~。

 

「見たい?」

「見たいですわ~!」

 

 ああもう、我慢なりませんわ。逸るワタクシはビヨンと立ち上がり、お外に向かって魔女さんを引っ張ります。

 

「ああこら、袖を引っ張るんじゃないの。もう、しょうがないわねぇ」

「早く早く~」

 

 童心に帰るワタクシをどうか許してくださいまし。

 しかしこの魅惑に抗えるほど、ワタクシは人間が出来ておりませんので~! おほほほ!

 

 

 

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