不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第5話 捏ねる乙女

「……そっちのお嬢ちゃんはともかく、なぁんでお前まで一緒になってはしゃいでんだ?」

「うう。だ、だってぇ」

 

 コワイ! 縮こまる魔女さんと謎の男~OTOKO~の前よりトレランスがお送りいたしております。

 長身痩躯の、おそらく四十代前後の男性が、探るような眼でこちらを見下ろしてきますが、ワタクシにやましいところなどありませんですわよ!

 まあ謎とか言いましたが、魔女さんの様子を見れば、こちらの方がワタクシを運んでくださった仲間の人だというのは予想が付きますが。

 

 ――少しだけ過去を振り返りましょう。

 あれから魔女さんと連れ立って洞窟を出た後、簡単な魔法をいくつか披露していただきまして。

 箒とは別に、二十センチほどの短い棒を取り出して、無から炎を生み出し蛇のように操る姿はまさしく魔女っ子。

 既視感がありながらも初めて見る光景に、ワタクシの手が霞むほど高速で打ち鳴らされております! パチパチパチパチ~!

 

 気分を良くした魔女さんの得意げな顔のキュートさと来たらもう、花丸百点をあげたくなりましたわ。

 まあその後調子に乗りすぎて周囲の藪に火が燃え移った挙句、慌てて水を生み出して消火したらその向こう側に居た男の人がびしょびしょになってて、当然の如く即説教タイムになったわけですが……落ち込んでもじもじしてる魔女さんもカワイイですわ~。おほほ!

 

「はぁ。まあいい……それでお嬢ちゃん、体の具合は良いのか?」

 

 あれれ、案外怖くない人ですの?

 探る視線はどうやらワタクシの身体の調子を見ていたようですわね。早とちりしてしまいましたわ、男の人といっても誰もが危険というわけではありませんわよね!

 

 ――なあんて、それこそ早計というものですわ! 男は狼、男は狼! 油断しませんわよ、ワタクシの心のバリアはそんなに薄っぺらくないのですわー!

 ですが、それはそれとして助けて貰ったお礼はせねばなりませんわ。人間として!

 

「はい! お陰様でぴんぴんしてますわ。介抱してくださり誠にありがとうございました! このお礼は町に帰り次第きちんとお支払い致します!」

「んー、ああ……そうなぁ……」

 

 どうして謝礼を支払うというと二人とも複雑な顔をしますのぉ?

 あ、そうだ! 起き抜けに魔法の魅力に取りつかれてすっかり忘れてましたわ。お二人の名前をまだ聞いてません!

 

「ワタクシはトレランスと申しますわ。絶賛駆け出したばかりの冒険者です! よろしければお二方の名前も教えていただければ幸いですわ!」

「……名前も名乗り合わずにはしゃいでたのか? はぁ。……俺はアカサビだ。ただのアカサビ」

 

 アカサビ……赤錆ですの? これ絶対偽名ですわ! もしかして何か事情がおありな方なのでしょうか。気になりますが、ここで詮索するのは不躾ですわね。華麗にスルーですわ!

 

「あ、私はマリィね。『魔女の塔』所属の新規新鋭若手筆頭! そっこー人気アゲてバリっと稼ぐ予定なんで、何か良い話あったらよろ~」

 

 こちらの魔女さん改めマリィさんは、アカサビさんとは対照的に裏表とか一切なさそうですわね。キャラが違いすぎて逆にバランスが取れているのかもしれません。

 それにしても『魔女の塔』ですか。そんな面白そうな場所があるんですのね~。

 

「ワタクシまだまだ駆け出しで、あまり世間のことを知りませんで。『魔女の塔』とはどのような所なのでしょう」

「んー、どんなっつてもねぇ。めっちゃ塔が建ちまくってるとこ? 箒やら何やらで空飛べないとまともに移動も出来ないくらい。まあ、住んでるのは大体魔女だから誰も気にしないけどさ。……えっと、こっから西の――海の向こうに船で十日ってところね。まあ、行く機会なんて早々ないと思うけど」

「まあ! 海の向こうだなんて! ワタクシ、国の外にはまだ出たことがありませんの。いつか行ってみたいですわ~」

 

 なんとマリィさんはこの国の外から来たとのことですわ。外人さん! 外人さんですわね! 元日本人の血が騒ぎますわ~。ガイジン! ガイジン!

 

「アカサビさんもマリィさんとはご同郷ですの?」

「いや、俺ぁ――……はぁ。まあ、近いとこだ」

 

 途中で説明が面倒になりましたわね⁉

 では、少し話題を変えましょう。

 

「お二方はパーティを組んでらっしゃるのですよね。ここにはクエストを受けて?」

「そうそう、海超えて路銀も心許なくなってきたからね。ってもチマチマ稼ぐのも面倒なんで強めのヤツ狙いでね~。今の狙いはヴェノドラね」

「ヴェノドラ?」

 

 そんなモンスターいましたかしらん。脳内モンスター図鑑をペラペラめくりますが、引っかかるものが……あ、もしかして。

 

「……ヴェノムドラゴンですの?」

「そーそー、毒吐くやつ。何かこの辺に居るらしいわよ。廃村占拠してるんだってさ」

「ドラゴンと言っても、見た目が似てるだけのただのデカいトカゲだがな。デカいなりにタフだが、魔法に耐性があるわけでもない」

 

 毒を吐く巨大な生き物の時点で、ただのと評するのは些か過小評価と言えなくもないですが。油断しているというより慣れているといった雰囲気です。魔法耐性がないなら、魔女のマリィさんがいれば火力は足りているのでしょうし。

 

 んんーしかしヴェノムドラゴンですか……非常に、ひじょーっに興味がそそられますわね!

 ダメ元で同行を頼んでみましょう!

 

「ワタk「駄目だ」

「被せられましたわー⁉」

 

 にべもなく断られてしまいましたわ! おのれ……男め!

 

「あはは、流石にねぇ。えっと、トレランスだっけ? アンタさぁ、今は平気そうな顔してるけどさ、一回町に戻ってちゃんと治療受けときなさいよ。崖から落ちてんだから」

「せ、正論ですわ! ですが、ワタクシにも言い分はあります! ここから町まではそれなりに距離がありますし、ワタクシ単独で戻るリスクとお二方に付いて行くリスクはそこまでの差はないと考えますわ! ただしヴェノムドラゴン戦でワタクシが大人しくしていられるかということと、帰還までのお二方が被る負担は考えないものとする」

「いや考えろよそこは」

 

 そうおっしゃらずに! そうおっしゃらずに!

 よし、手強そうなアカサビさんは一度置いておいて、まずはマリィさんに狙いを定めますわ~。

 

「マリィさんの活躍が見たいですわ~。魔法でドラゴンを倒すとこ見たいですわ~。絶対邪魔になりませんので~! マリィさん、マリィさん~」

「えぇ~、いやぁ、でもなぁ~」

 

 手応えアリですわっ。っていうかマリィさんがちょろすぎますわぁ。ワタクシが言えた義理ではありませんが、少し心配になりますわね。

 しかし今はワタクシの我儘を押し通させていただきます! ごめんあそばせ!

 

「あくまで保護してもらう立場ですから、クエストの報酬などは求めませんし。指示があれば、言うことも聞きます。頑丈さには自信がありますので、いざという時の盾役も出来ますわ。あ、それとワタクシ毒にも耐性がありますので!」

「毒に耐性って何よそれ⁉」

 

 ふふふ。普段は全く役に立ちませんが、実はワタクシ毒には慣れているのですわ。家庭の事情で!

 幼い頃からの訓練の賜物ですわね。やってて良かった苦悶式!

 

 しかしここまで押しても中々色よい返事が貰えません。さて、どうしましょうか……と考えあぐねている最中、何やらマリィさんの傍の藪に怪しい気配を感じました。野生動物でしょうか?

 ワタクシが注視する最中、ドロリと這い出てくる野生動物……いやこんな気色悪い野生動物はいませんわ! スライムですわコレ!

 

「マリィさん!」

 

 声掛けして注意を促しつつ、剣を抜きながら前に出ます。しかしまた、今日は随分とスライムさんと縁がある日ですわねぇ――んん? こいつもしかして先ほどワタクシが倒したスライムさんじゃありませんの⁉

 中に取り込まれている死骸が見たことある感じですわぁ。お久しぶりですミノさん!

 

「うげ、スライムじゃん。さっきの奴が再生したかぁ」

「……はぁ。抑えとくから焼いちまえ。一発だけなら後に響くこともないだろ」

 

 アカサビさんも前に出て、ワタクシの横に並びます。初対面ですし、お互いの動き方など知るわけもありませんので下手に動くよりお任せしたほうが良さそうですわね! ワタクシは万が一のときマリィさんの盾になれるようにだけしておきましょう。

 

 アカサビさんの武器は曲刀ですわね。切れ味は鋭そうですが、スライム相手では相性が悪いですわ。

 様子を見ている間にも、スライムさんはぐんぐんと体積を増やして体を持ち上げていきます。崖から落ちる前に比べれば半分ほどに減ってはいますが、それでも切ってどうにかなるものではなさそうです。核は……やはり何処かに隠しているようですし。

 

 少しだけ前にいるアカサビさんに狙いを付けたのか、大量の粘液が獲物を取り込まんとして襲い掛かります。対するアカサビさんは棒立ちのまま。

 このままなら、ただ飲み込まれるだけのはず……なのですが。不思議なことに、スライムさんの粘液はアカサビさんの手前でピタリと止まって動かなくなってしまいました。

 

「徹しの骨法――『不動付縛』」

 

 うおおお! 何か良く分からない謎武術きましたわ~! いや武術かは知りませんが!

 

 注意深く観察してみると、アカサビさんの足元に何やら不思議な圧を感じますわ。それが地面を伝ってスライムさんの動きに干渉している――っぽいですわ! 素人判断で恐縮です!

 見た目は何の変化もないので地味ですが、それが逆に玄人っぽくてカッコ良さげですわ~。あとでこっそり練習してみますわ~。

 

「よっし! そんじゃ、アッツイの行くから二人とも気を付けなさいよ!」

 

 お見合いが数秒続いて後、マリィさんの魔法が発動。

 魔法素人のワタクシにもバッチリ分かるほどの高密度の魔力の奔流が、スライムさん目掛けて集まっていきます。

 

「赤の魔法――焼殺(インシネレート)

 

 俄かに、刺すような熱を感じると同時――スライムさんが激しい炎に包まれました。

 いえ、違いますわね。炎に包まれたというよりは、これは。

 

「スライムさんの中から炎が……?」

 

 もはやスライムさんの身体そのものが炉にでもなったかのように、延々と中から炎が噴き出してきて。当然、そんな状態に耐えられるはずもなく、あっという間にその全てを燃料と化して焼き尽くされてしまいました。

 カッコいい、です、が、正直――めっっっちゃコワイですわー!

 

 っていうかお二人のコンビネーションがえげつなさすぎですわ。アカサビさんが動けなくして、マリィさんが焼き殺す。あまりの合理性に無くしたはずのタマタマが縮み上がりましたわ!

 

 ワタクシならどう戦ったものか。魔法そのものは発動までタイムラグがありますし、単体で見ればまだ対処は可能でしょうが……やはりアカサビさんの謎武術が問題ですわね。ジャンプで避けられないでしょうか? んん~。

 

 とりあえず、これを敵に回すヴェノムドラゴンさんには、気が早いかもしれませんがご冥福をお祈りしておきますわ~。

 

 

 

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