不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第6話 燃える乙女

 前回までのあらすじ――

 月のマナを宿した特別な薬草を採取しにドエラ山を訪れたトレランスは、そこで巨大なスライムに襲われる。攻撃の通じないスライムに対し、トレランスは断崖絶壁から飛び降りながら戦うことで核を狙い撃ちにし辛くも勝利。しかし地面への落下の際に衝撃で気を失ってしまう。

 再び目覚めた時、出会った二人の男女……アカサビとマリィのヴェノムドラゴン退治にどうしても付いていきたいトレランスはハチャメチャに駄々を捏ねるのだった――

 

 と、言うことで!

 少し現状を纏めてみましたが、ワタクシこれ当初の目的が完全に置いてけぼりになっているのに気が付きましたわ! 薬草採ってねえ! 薬草採ってねえ!

 

 まあ、スライムさんはもういないので後で取りに行けば良いですわね。今はそれよりもヴェノムドラゴンですわ!

 一応先ほどのやり取りの中で、ワタクシの気配察知能力を評価していただけたのか、それともワタクシの熱いパトスに打たれたのか、渋々ながらも同行を許可してくださったアカサビさん。「……はぁ」って溜息十回くらい吐かれましたわ。そんなに溜息ばかり吐いていると幸運が逃げちゃいますわよ!

 

 さて、お二方からの情報によれば、ヴェノムドラゴンは廃村を占拠しているとのことでしたが。

 この辺に村なんてあったんですのね~。廃村にヴェノドラが来たのか、ヴェノドラが来たから廃村になったのかは気になるところではありますが……今は前者ということにしておきましょう、精神衛生上。

 

 そして今は、その廃村を眺められる丁度良い高台からお送りしております。ポツポツと家屋が並んでいるのが良く見えますわね。少し崩れているものもありますが、概ね形を保っているのを見るに廃村になってそれほど時間が経っているわけではなさそうです。

 ヴェノムドラゴンは――大体中央付近でのそのそしていますわね。結構大きいですわ。黒い鱗が光を照り返していて堅そうです。今は頭を垂れていますが、そそり立った時は迫力がありそうですわね。持久力はどうでしょう……毒液は何回吐けるのかも気になりますわ。ちん〇の話はしてませんわよ?

 

「……まずは俺が注意を引く。その間にマリィが魔法の準備、嬢ちゃんはその護衛。後、俺が相手の動きを止めたタイミングで止めを刺す。やることは先のスライムにやったことと一緒だ……難しいことはない」

 

 奇しくもリハーサルになったというわけですわね。ありがとうございましたスライム先生!

 

「まっかせといて。一発で決めてあげるわよ!」

 

 マリィさんもやる気十分。これはもう勝ちましたわね! むしろ負ける要素どこですか⁉

 これがベタなフィクションならフラグが回収されて酷い目に会いもするでしょうが、まあ現実にそんなことが起こる確率は極めて低いはずです。

 油断だけはしないようにしっかり詰めていけば大丈夫ですわ~。さあ、張り切ってドラゴン退治と行きましょう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――こっそりコソコソ。

 家屋の影に隠れながら、ヴェノムドラゴンに接近中のワタクシたち。

 

 ワタクシはマリィさんの護衛ですので傍におりますが、アカサビさんは囮役なのでヴェノムドラゴンを挟んで大体反対側から近づいています。こちらからは確認出来ませんが、つつがなく進行していることでしょう。

 ワタクシたちは、気取られない程度に離れた、しかし襲い掛かるには十分な距離で一旦待機です。壁越しに様子を伺いますが、ターゲットは実にのんびりとしたご様子。これから起こる惨劇など想像もしていないことでしょう。お可哀想に。

 

「ギャアアアーッ」

 

 おっと、始まったようですわね。

 アカサビさんが曲刀を抜き放って、ヴェノムドラゴンの前をゆったりと歩いております。

 

 ごく自然体ではありますが、きっと見る人が見れば、動きに隙が無いっとか感想を述べたりするのでしょう。ワタクシには分かりませんが!

 しかしヴェノムドラゴンには隙だらけに見えたのでしょうか。ごんぶとの四肢を遮二無二動かして、大口を開けての正面突撃です。ワタクシの目から見ても逆に隙だらけなんですが、大丈夫ですのぉ?

 

 アカサビさんはひょいと何でもない風に突撃を躱して、ヴェノムドラゴンは壁に激突。動きが止まった隙を側面から二、三度斬りつけます。鋭い刃が鱗ごと切り裂きますが、出血は僅かばかりで。やっぱり見た目通りタフですわね。

 それよりも流れた血が地面に落ちた瞬間、じゅわっと煙が上がったのを見逃さないのがワタクシですわ。……え? 血にも毒がある感じですの? コワ~。

 

 あれでは下手に剣で切り刻もうものなら、逆に毒にやられてしまうかもしれません。悪辣な生態してますわねぇ。今回はマリィさんが居られるので魔法で全部解決ですけれど。

 しかし、アカサビさんはどうしたのでしょう。あのスライムの動きを止めた技は使わないのでしょうか。何か使用に条件でもあったりするのかもしれませんね。

 ――なんて疑問が顔に出ていたのか、マリィさんから解説が。

 

「不動付縛で止められるのは体の表面だけだからねー。それも止めてる間は自分も足動かせないし。折角止めても毒液吐かれて、逆にこっちが避けられませんでした――じゃあ、ただの間抜けっしょ」

「なるほど、そういう制限が。つまりアカサビさんが今狙っているのは、相手を止めた上で反撃されない位置取りですか」

「そうなるわね。あとはまあ、単純に削りかな。魔法耐性がないっていっても、あれだけデカいとある程度は削っとかないと仕留めきれずに思わぬ反撃があったりするかもだし。まあ、大丈夫だとは思うけど……」

 

 確実性を重視しているわけですわね。なるほど隙が無いっ。

 というわけで、今しばらくはアカサビさんとヴェノドラのタイマンを観戦させていただきますわ。もちろん周囲の警戒は怠らずに、ですが。

 

 ――轟音を響かせながら暴れまわるヴェノムドラゴン。それを悠々と躱しながら確実に削っていくアカサビさん。返り血に気を付けながらの立ち回りはさながら舞踏ですわね。当の本人は命懸けでしょうから、のんびり観賞されても不本意でしょうが。

 んんー……それにしても。

 

 ヴェノムドラゴンとは、ドラゴンに姿はよく似ていますが種族としては別物とのことでした。確かにドラゴンと聞いて真っ先にイメージする翼が備わっていませんし、単純な強さの格も大きく劣っているのでしょう。

 ですが……何でしょうね。こう、はっきりとは言えないのですが――『思っていたよりはドラゴンっぽい』気がしますわ!

 

 ワタクシが首を傾げていると、状況に変化が起こったようです。

 完全にヴェノムドラゴンの後ろを取ったアカサビさんが、例の技で動きを止めております。ターゲットは頭側が完全に向こう側を向いており、その位置から毒液を吐いたとしても脅威にはならないでしょう。まさに大チャンスですわ!

 

 当然、マリィさんもこの機を逃すはずがありません。すでに駆け出して杖を構えております。

 このまま魔法を撃てば、間違いなく倒せるでしょう。何も問題はありません。

 

 だというのに、何故でしょうか。こう、すごく――嫌な予感がしますわ!

 

「マリィさ――」

「赤の魔法――焼殺(インシネレート)!」

 

 魔力の奔流が、熱へと変換されてヴェノムドラゴンの身体を包みます。先のスライムさんと同様に、灼熱の暴力が身体を内側から焼き滅ぼして――その結末を見届ける前に、ワタクシの足は動いていました。

 驚いた顔のマリィさんを横目に、ヴェノムドラゴンの前へ。炎に包まれたそれは、本来ならば焼き崩れていてもおかしくない状態のはずです。が、ゆっくりと振り返る巨体、その燃える頭部の奥に見える瞳は、死の運命にある者のそれではありませんわ!

 

「グオォォォォォオオオオオオーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!!!」

 

 炎と共に咆哮を上げ、真っ直ぐとこちらへ――いえ、魔法でヘイトを稼いでしまったマリィさんを狙った突撃ですわ!

 気合一発! ここで止めねば何のための護衛でしょう!

 アカサビさんは魔法に巻き込まれないよう、少し距離を離してしまっています。つまりワタクシが盾になる場面です。ばっちこいですわよー!

 

 巨大な火の玉と化したヴェノムドラゴンの突撃を、剣を盾にして受け止めます。うおっ、すっげえウェイト差!

 大型トラックに轢かれるようなものでしょうか。地面に両足の跡を残しながら、それでも何とか耐え抜きましたわ。……あっつ! 燃える燃える!

 

「うそ、何で……魔法が、効いてない?」

「ありえん。ここまで魔法に耐性があるハズが――いや、今は」

 

 アカサビさんが走り込んで、動揺しているマリィさんを担ぎ上げます。そしてそのまま、すかさず危険域から退避です。流石、良い判断ですわ! でもせめて俵担ぎでなく、お姫様だっことかの方が尚良かったと思いますわ! 乙女的に!

 

 さて、後ろに守る対象もいなくなったことで、ワタクシはフリーですわ。取り合えずこのまま受け止めっぱなしだと諸共にこんがりと美味しく焼きあがってしまいますので、華麗にバックステッポ!

 今やファイヤーヴェノムドラゴンと化したヤバイ相手ですが、流石に瀕死ではあるでしょう。お二方には申し訳ありませんが、美味しいところを頂いてしまいましょうか!

 

 おらっ、一撃でその頭叩き切って差し上げますわよ!

 そう意気込んで剣を構えたところで、お相手がぐぐっと頭を引っ込めまして。……何ですのぉそれは。ビビってるんですのぉ?

 

 ――おっとと、相手が引いたら調子に乗るのは悪い癖ですわ。これは逃げではなくおそらく何らかの前動作。多分アレですわ、アレ! 毒液吐こうとしてるんですわ!

 危ない危ない、調子づいて飛び込んでいたら直撃パターンでしたわね。おほほ、完全に見切りましたわ~。

 

「ジャアアアーーーッ」

 

 直後、人を余裕で丸のみに出来る巨大な顎を大きく開いて、毒液が噴出されました。あっ、コレ思ったよりも広範囲ですわ。

 完全に避けるのは無理そうなので剣で防御です。まあ生身に当たらなければどうということはありません。見切ってるから大丈夫ですわ~。

 

 じゅんじゅわ~。防御した剣に毒液が降りかかり、何らかの化学反応が起きてそうな音が上がります。これ毒? 本当に毒ですの?

 あっ、ていうかアッツ! 剣だけで防御しきるのはやはり無理があったようで、カバーしきれていない体の至るところに汚らしい毒液が掛かって白煙が上がっておりますわ。か、髪は勘弁してくださいまし! 女の命ですのよ! 雑に扱ったらワタクシというよりお母様に殺されますわ――ワタクシが!

 

 内心大慌てでいますと、何やらガシャンと金属音がして、不意に手元が軽くなって。な、何たる不手際、まさかまた剣を落としてしまうなんて――いや持ってるわ。ワタクシまだ剣の柄持ってますわ。

 あっ、なぁるほど~。毒液の当たった部分が融けて剣が折れたんですのね~……いやどういう事ですの⁉

 

 毒って金属も溶けるような奴でしたの⁉ それだとちょっと事情が変わってきますわよ!

 そんな、ちょっとしたパニック状態のワタクシを前に、何故かぐるりと後ろへ振り替えるヴェノムドラゴン。わあ、凄く嫌な予感しますわ~。

 

 そして一瞬で視界が黒く染まって。全身を強打されて後、ふわりとした浮遊感がワタクシを包みます。はい、尻尾でホームランされたんですのね。

 こ、こんな見え見えのテレフォンパンチならぬ尻尾ビンタを直撃されるなんて! 屈辱ですわ!!

 

 空中を吹っ飛んだワタクシは、屋根まで飛んで激突。重ねられた天然スレートを吹き飛ばしながらも、意識は保つことに成功しました。こんなん断崖絶壁から飛び降りるよりは全然マシですし! 効いてませんわー!

 

 全身に広がる鈍い痛みが、ワタクシの闘争本能に火を付けます。

 くはははははっ、面白れぇですわねぇ――やっぱり強敵との闘いでしか得られない栄養素はありますわーっ!!

 

 

 

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