不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第8話 求める乙女

「買い物の時間ですわ~!」

 

 バーン! と馴染みのお店の扉を開くワタクシ。

 その先には、安楽椅子に座ってうたたねをしていたショートボブの少女が一人。ワタクシの幼馴染にして錬金術師のフォティエですわ。結構な勢いで入ってきたつもりですが、気持ちよさそうに寝ておりますわね~……もうすぐ日の出ですわよ!

 

「起きてくださいまし! こけこっこー!」

「……うう、なんだい……さわがしいなぁ……」

 

 もう、この子ったらまた夜更かししていたんですのね。どうせ寝るならベッドで眠ればよろしいのに。すこし可哀そうですが、ワタクシが訪れてしまった以上涙を呑んでいただきますわ。ほれ起きんかい!

 しかし、ここで安易にバシバシ叩いたりするのは淑女ではありませんわ。なので安楽椅子を持ち上げて窓際まで持っていきます。次にカーテンを開きます。すると差し込み始めた朝日が、彼女を自動で覚醒させてくれるという寸法ですわね。

 ついでに乱れた髪も櫛で整えて差し上げましょう、ほ~らサラサラ~。あっ、ちょっと引っかかりましたわ。ごめんあそばせ!

 

「ひぃぃ……この容赦ないロイヤル仕草は、ボクの幼馴染のトレイラだね……うう、どうしてキミって奴はいつも開店前に突撃してくるんだ……」

「目が覚めた時が活動開始の合図だからですわ!」

「パワフルすぎるぅ……」

 

 貴女がずぼらなだけですのよ!

 仕方がないので目覚ましのコーヒーでも淹れて差し上げましょう。ついでにパンと卵も焼きましょうか。前世でいうIHのような使い方が出来る魔道具があるので助かりますわ~。

 

「ほら、顔を洗って! 健康は規則正しい生活リズムからですわよ!」

「うう……ママぁ……」

「こんな大きな子供を産んだ覚えはありませんわー!」

 

 女として生まれてしまった以上、いつかはそういう日も来るかもしれませんが――今はまだ冒険がワタクシの相方ですわ。

 そう、そしてその冒険には必要なものが多々あります。武器! 防具! アイテム! そして武器ですわ!

 

 ――つまりワタクシは失くした剣の代わりを買いに来たんですのよ!

 

「さあ、剣をお売りなさい!」

「もぐもぐ……あのさぁ。ボク、っていうかここが何のお店か思い出して欲しいんだけど」

 

 こら、お行儀が悪いですわよ。ちゃんとお口のパンを飲み込んでからお喋りなさいな。

 それにしたって、おかしなことをお聞きになりますわね~。貴女は錬金術師で、ここはその錬金術で生み出したアイテムを売るお店でしょう。何も取り違えてなどいませんわ。

 

「さあ、剣をお売りなさい!」

「ごくごく……鍛冶屋に行きなよ」

 

 マジレスありがとうございますわ。

 でも認めるわけにはいかない事情があるんですのよ。ワタクシだって剣と言えば鍛冶屋という常識くらい弁えていますわ。それを分かっていて尚ここに来たというその事情を酌んで欲しいですわね!

 

「ふぅ……もう、しょうがないなぁ。分かった、予想しよう。つまりアレだ、キミは鍛冶屋に行きたくないんだ。……男臭いから」

「正解です」

「寝るね」

「駄目でーーーーーす!」

 

 お願いします、お願いしますわ、何でもしますから!

 男の楽園たる鍛冶屋などに一歩でも踏み込んだら最後、ワタクシは確実に妊娠してしまいますわ! 冒険どころではなくなってしまうんですのよ⁉

 

 再び安楽椅子に埋もれて目を閉じようとするフォティエのほっぺをムニムニしながら、必死の哀願を行う可哀そうなワタクシ。幼馴染でしょう、ちょっとくらい融通を利かせてもバチは当たらないと思われますわ。

 心底面倒そうに半眼でこちらを睨んでくるフォティエですが、ここは引けません!

 

 ワタクシの想いが通じたのか根負けしたのかは知りませんが、フォティエは溜息を一つ吐くと、眠る為ではなく思考の為に目を閉じて。

 うんうんと一しきり唸った後、サラサラと何かを紙に書き始めました。それをワタクシに渡して――

 

「じゃ、まずはこの素材を集めてきてね。キミの好きなクエストってやつだよ」

「おおー……」

 

 そうそう! こういうのですわ~!

 流石は幼馴染、ワタクシのことが良く分かっていらっしゃる!

 

 お使いクエストも立派な冒険ですわ。早速素材集めに出かけるとしましょう――いや、ちょっとお待ちなさい。だからその冒険に出かけるための装備がないのですわ!

 

「予備の剣くらい持ってないの?」

「…………ああ」

 

 探せば多分ありますわね~……家に!

 

 

 

 

 

 

 

 

 突撃となりのダンジョン、王国編! ですわ~ドンドンパフパフ~。

 ここはトレラの町からほど近くにある、マナ変異型迷宮――通称ダンジョンですわ。

 

 ダンジョンの内部は千差万別で、自然的な洞窟であったり逆に人工的な回廊であったりと様々。ちなみに、ここトレラのダンジョンは鉱山風ですわね。その見た目の通り、主な採取物は鉱石です。

 ダンジョンなので普通にモンスターも多数出現し、時に罠も生成されるので日常的に使う用途分は普通の鉱山で掘り出されています。ここで採掘する場合は大体が個人的な用途か、レアな鉱石目当ての一攫千金夢見るマンですわね。

 

 ワタクシがどちらか? 勿論前者ですわ、と言いたいところですが。

 レアな鉱石がお目当てというのも間違ってはいないのですよね。今回フォティエから指定された素材の一つが『魔鉄』といい、まあ読んで字の如く魔力の宿った鉄なわけですが。

 

 マナの溢れたダンジョン内でならボロボロ出てきそうな名前のくせに、結構なレアものらしく。

 一番確実な採取方法が、ダンジョン奥に時折出現するゴーレム系のモンスターをぶっ壊して入手するという、正に力業。

 

 まあワタクシには性に合ってますわ~! ゴーレムとガチンコしてみたいですわ~!

 もう我慢も限界です、走りましょ――何故か足が地面を離れずバランスを崩してすっ転ぶワタクシ。ぐえーですわ!

 

「はぁ……落ち着きが足りねえ。つか、昨日の今日で何でこんな元気なんだコイツは……」

「いやぁー凄いわよね。私なんてまだちょっとダルいんだけど。大技使っちゃったし」

 

 アカサビさんにマリィさん。今回のお使いクエストに同行してくださる素敵な仲間ですわ。

 そして今日はさらにもう一人!

 

「あのさ。あのさぁ……なんでボクまで連れてこられてるの?」

「ダンジョン攻略パーティと言えば四人と相場が決まっているからですわ! 前衛二人に後衛二人でバランスも良い!」

 

 実際、ギルドでも推奨されている人数ですわ。アリサちゃんも言ってましたし。

 ダンジョンに行くと言ったら心配されましたが、パーティを組むならと納得していただけました。

 

「アカサビさんにマリィさんとは先日共に戦って、その実力には信を置けますし。フォティエとは幼い頃共に野山を駆け巡った仲ですから、現状組める最高のパーティですわ!」

「野山を引きずり回された覚えはあっても、共に駆けた覚えはないよ……」

 

 半眼でぶーたれるフォティエ。全く、都合よく記憶を改ざんしないでもらいたいですわね。ワタクシがそんな非道な真似をするはずがないでしょう――ちゃんと追い付いてくるまで待ったうえで走り出していたはずです!

 

「あー、軽く紹介はされたが、本職が錬金術師なら戦闘は俺らに任せるで良いんだな? 依頼主でもあるわけだし」

「ああ……そうなるね。採取物の鑑定はボクがやるが、戦闘面ではサポートに徹させてもらうよ」

「狭い場所じゃ魔法も使いづらいし、私もほとんど飾りカモ。まあ、前衛二人が頼りになるから大丈夫っしょ」

 

 お互いまだ出会ったばかりなので、少し距離がありますわね。とはいえ、それを言ったらワタクシもお二方とは先日出会ったばかりですが! 絆が芽生えるのに時間は関係ありませんわよね!

 と、フォティエがそっとワタクシに近づいて耳打ちしてきました。

 

「……キミ、男の人が苦手なんじゃなかったかい? 大丈夫なのかな」

「ああ、それについては問題なしですわ。アカサビさんは――」

 

 あれ、何が大丈夫なのでしょうね?

 そういえばワタクシ共に戦いこそしましたが、そこまで良く知っているワケではありませんでした。

 

 ですが、ですが! 仮にとはいえ命の恩人ですし、ご一緒しているマリィさんの人柄も合わせれば、詳細不明な部分を差し引いても大丈夫と判断してもよろしいのでは?

 男は狼ですが、アカサビさんは大丈夫でしょう。ほら、マリィさんもいますし。……マリィさんとの関係も気になってきました。お二人ってどういう――いや、いやいや。親子くらい歳が離れてますわ。きっと健全なカンケイですわ~。

 

「んじゃあ、行くか。言っとくが、俺より前には出るなよ。罠の見分け方も知らねえだろ」

「体で覚えるではいけませんか⁉」

「いけねえよ」

 

 ああんもう、いけず~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アカサビさんが、足をとん、と踏み鳴らすと――前方に隠されていた罠が勝手に発動し、何も巻き込むことなく静かに戻っていく。何でしょうね、罠に感情などあるはずもありませんが、何故か不思議な哀愁を感じますわ。

 っていうか便利すぎませんか、その技。ワタクシも覚えたいですわ~。とん、ってやりたい~。

 

「世の罠師が見たら憤死ものだね。魔法とは違う技術体系のようだけど……」

「錬金術だって似たようなもんだろう。あまり詮索してくれるな」

「それもそうだ、失礼」

 

 む~。何か玄人っぽいやり取り、ズルいですわ~。何故だか寂しいのでマリィさんとお話しますわ。

 

「マリィさんマリィさん」

「ん~、なぁに?」

「マリィさんとアカサビさんって、どういうご関係ですの? ま、まさかの恋仲とか……」

 

 そう聞くと、真顔のまま固まるマリィさん。え、あ、当たりですの⁉

 

「あ、あのねトレランス。私十七歳。アイツ四十歳。……無理があるでしょ!」

「愛に歳は関係ないって本に書いてましたわ!」

「そんないかがわしい本読んじゃいけません!」

 

 い、いかがわしい本ではありませんわよ? 普通の全年齢向けラブロマンス本ですわ~。そういうシーンもキスくらいでしたわ~。

 ほんのり頬を染めているマリィさんは可愛らしいですが、話を誤魔化そうという感じでもありませんし……どうやら早とちりのようですわね。安心しましたわ~。

 

「申し訳ありません、ただ、海すら一緒に渡ってくる関係というのは何か特別なものを感じまして……ご不快にさせるようでしたらこれ以上の詮索は致しません」

「いやぁ、別にそう特別ってほどのものじゃないけどさ~」

 

 ちらり、とアカサビさんの方に視線をやるマリィさん。当然、こちらの会話も聞こえていたであろうアカサビさんは、いつもの如く溜息一つ。

 

「…………ただの叔父と姪ってだけだ」

「そーそー、私のママがアカサビとは兄妹関係でね。だから別に変な関係じゃないのよ~」

 

 パタパタと手を振りつつ、マリィさん。なるほど、叔父と姪。確かにそう言われるとどことなくお二人は似ている――似ているでしょうか? 似ているかも? まあ似ているのでしょう、きっと!

 そんな風にうんうんと一人納得していると、今度はマリィさんから質問が。

 

「んで~? なんだかんだ恋愛に興味がありそうなトレランスちゃんは~、好きな子とかいないのカナ~?」

 

 はっはっはっ。何を急にお聞きになられるのでしょうか。ワタクシが恋愛に興味? ないないありません。男は狼! 男は狼!

 

「フォティエは何か知ってるんじゃないの? トレランスの恋バナ~」

「ボクが知っている限りでは、トレイラがそういう話をしたことは一度しかないね」

「お、あるんじゃん! 聞きた~い!」

 

 ……は?

 いやいや。そんな話、したことありましたっけ?

 ――ない! ワタクシの記憶では!

 

「はぁ……盛り上がってるとこ悪いが、モンスターだ」

 

 一人真面目に探索していたアカサビさんからのナイスインターセプト!

 ……『ソシャゲみたい』は禁句ですわよ!

 

 

 

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