不屈の乙女! TS少女剣士は如何にして英雄へと至ったのか。   作:あやしくない

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第9話 姦し乙女

 ――あれはボクがまだ五歳くらいの時だったかな。

 今でこそそれなりに知られるようになった錬金術だけど、当時の王国ではまだ胡散臭い詐欺師まがいに見られることも多くてね。

 

 親の仕事がそうなら、その子供のボクも色眼鏡で見られるのはある意味当然の話で。

 遠巻きに見られるだけならまだしも、時折心無い言葉を浴びせられることもあって。そんな環境じゃあ、家に閉じこもりがちになるのも無理はなかったと言えるね。

 

 その頃は、大体いつも一人で本を読んで過ごしてたはずだ。

 ただ、そんな静かな時間はそう長くは続かなかったけれどね。

 

「面白そうな本読んでるじゃん、俺にも読ませて!」

 

 第一印象はなんか厚かましいやつ、だったかな。

 どんな伝手があったやら、お互いの親同士で仕事関係を切っ掛けに交流が始まってね。その子供同士でもよく顔を合わせるようになった。歳が同じってのもあったから、尚更ね。

 

 当時のトレイラは今よりかなり男の子っぽくて、ボクも最初は本当に男の子だと思ってたくらい。

 とにかく勢い任せで――いや、それは今もか――思い立ったらすぐさまボクの手を引っ張って走り出して。そりゃもう、目が回るような毎日だった。

 

 そうやって外に出るようになれば、当然また意地の悪い子供たちの標的にされることもあったけれど。そのたびにトレイラが庇うように前に出て、あー……その、アレだ。ボクの良いところとか、(笑顔が可愛いとか、怒っても可愛いとか、錬金術のことを夢中で話してるときも可愛いとか……)ガンガン言い返してくれて。まあ、恥ずかしかったけど、嬉しかったね。

 

 ただ、そんな風にずっと一緒にいると、そのこと自体を揶揄ってくるヤツもいてね。

 夫婦だなんだと囃し立てられて、さて今度は何を言い返すのやらと思っていたら――

 

「好きだー! 愛してるぅー! フォティは俺の嫁ーーーー!」

 

 ……ってそりゃあもう情熱t「いやあああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 はい終わり! 終わり終わり! 回想は終わりです! 忘れろ!! 忘れなさい!!!

 忘れろビーーーーーム!!!!

 

「やだ~可愛い~。見たかったなぁ~。当時の二人見たかったなぁ~!」

 

 マリィさんは大ウケで喜んでいらっしゃいますが、ワタクシは古傷を抉られて瀕死ですことよ?

 ちゃうんです、言い訳させてください。その頃のフォティエは守ってあげたくなる系というかお人形さんみたいに可愛らしすぎて、だからワタクシは悪くないんです。当時は自意識が大分男側に傾いていたのと、幼い体に引っ張られて精神的な抑制も利きづらくなっていたんです。おそらくそうです。

 

「くううう……記憶の底に封印していた過去をよくも思い出させましたわね! どうしてくれるんですの、夜寝られませんわよコレ!」

「一人勝手に忘れてた罰だよ、フフフ」

 

 何ぞ楽しそうやなぁ自分! もう部屋の掃除しに行ってやんねーぞ⁉

 あ、ちなみに襲ってきたモンスターは秒でワタクシとアカサビさんが切り捨てました。何かデカいカエルでしたわ。見どころはないのでスキップです!

 

「まあ、その告白からすぐに『教育』が始まって、段々会える日も少なくなったから仕方ない部分もあるけどね。数か月も連絡が付かなくなることもしょっちゅうでさ」

「へぇ~。その教育の過程で今のトレランスになってったワケね。俺からワタクシに? あはっ」

 

 『ワタクシですわ』マラソン――あの終わりのない地獄の特訓の果てに、今の淑女たるワタクシが存在するのです。あとはリアルに千尋の谷に剣一本持たされて突き落とされたり、日々の料理にワンポイント毒混入されてのたうち回ったり。

 おお……こうして振り返ってみるとえげつないですわね、王家(うち)には倫理観というものは存在しないんですの? ええ、無法が下地ならコンプライアンスなんてあってないようなもんでしたわね!

 

「あーそれにしてもさ、意外だったのはトレランスとフォティエが同じ歳ってとこね。……いや、本当ごめんなんだけど、トレランスのこと正直十歳くらいだと思ってたのよね私」

 

 な、何ですと?

 ああもしかしてですが、謝礼云々のとき微妙な顔してたのは、幼い子供からお金貰うのに気が引けてたってことですのぉ⁉

 

「ぐ、ぐ。確かにワタクシの身体は少し平均より小さめかもしれませんが……言っておきますが、胸のサイズはフォティエより上ですわよ!」

「…………え、いや嘘でしょ? ぼ、ボクの方がちい、ちいさ……いやそんな馬鹿な!」

「成長したんですぅー、ワタクシ成長期なのでぇー!」

「あはははははは!」

 

 ちなみにマリィさんは、ワタクシたちと比べるのも烏滸がましいくらいには豊満ですわ。何だか空しくなってきたので、これ以上どんぐり同士で背比べするのはやめておきましょうか。

 

「…………はぁ」

 

 そんなタイミングで、差し込まれるように聞こえてくるアカサビさんの溜息です。

 はい、申し訳ございません。うるさいですわよね、はい。ごめんなさい……。

 

 ちらりと顔色を窺えば、それはもうお顔にデカデカと『喧しい』と書いておりましたわ。でしょうね!

 しかしですね、女三人寄れば姦しいと申しまして。はいすいません、言い訳ですはい。

 

 罠の対処をお任せしているとはいえ、それでワタクシたちが周囲の警戒をおろそかにしては申し訳が立ちません。そろそろ真面目に頑張りましょう!

 

「と、何やら変わった空間に着きましたわね?」

 

 狭苦しい坑道を抜けて、そこそこ広い空間に。見える範囲に確認できるものは――線路と、これは、トロッコでしょうか。

 ははぁ……分かりましたわ。この後の展開が。

 

「ねえ、まさか乗らないよね? こんな怪しいものに、乗らないよね?」

「フォティエ、安心してください」

「あ、あはは。そうだよね、流石にね――」

「貴女はワタクシが守りますわ!」

「ち、違う! 今聞きたいのはそんな台詞じゃない~!」

 

 こら、抵抗するんじゃない! 人生諦めが肝心でしてよ!

 アカサビさんとマリィさんはすでに先に乗り込んでおります。何も言わず、ただあるがままに……お二人の高い経験値が窺えますわね。ほら、いつまでぐずっているのですか。さっさと乗りなさい! 置いていきますわよ⁉

 

 バタバタ暴れるフォティエを詰め込んで、トロッコ発進です。動力? 多分マナでしょう。それ以上は専門家にお聞きくださいませ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やだあああああああああああああ!!」

「「いやっふぅーーーーーーー!!」」

 

 轟々と風を切って走る一両のトロッコ。火花を散らしながらのコーナーリングは最の高。気分はまさにトレジャーハンターですわ!

 ワタクシとマリィさんはテンションアゲアゲで腕を振り回しながら楽しんでおりますが、フォティエも負けじと泣き叫んでいますわね。ええ、それもまた楽しみ方の一つですわ。

 

 同じトロッコがゴブリンを乗せて後ろから迫ってきたりもしましたが、積まれた鉱石を投げつけて無事吹っ飛ばしてやりましたわ。あ~、このアトラクション感たまんねえですわね! お金取れましてよ!

 

「前! 前ぇええ! 岩で線路が潰れてる! 止めてぇええええ!!」

 

 おや、確かに行く先にはどこからか崩れてきたのか、岩が立ち塞がっておりますわね。でもごめんなさい、今からブレーキかけても絶対間に合いませんわー。

 ぶつかる前に脱出するか思案し始めたのと同時、アカサビさんが片足を振り上げて――

 

 ドン!

 

「ぎゃあああああああああああ!!!」

「「きゃあああああああああ♡」」

 

 アカサビさんが足を踏み鳴らした瞬間、トロッコがばいんと跳ねて大ジャンプです。見事岩を飛び越えて、再び線路にイン!

 最早どんな原理なのか考えるのも馬鹿らしくなりますが、滅茶苦茶楽しいので今は気にしませんわ!

 

 ドン! ばいん! ドン! ばいん!

 今ワタクシの脳内では、絶賛横スクロールアクション中です。ワンミスで即死の緊張感たまりませんわね!

 

 ようやくジャンプステージをクリアしたその先では、ワタクシたちの乗る線路の両側にも線路が増えており、案の定ワタクシたちを挟む形でゴブリントロッコ出現です。

 ほら、フォティエ。泣いてないで貴女も石を投げなさい! 敵を殺すのです!

 

 ほとんど密着状態まで近づいてきたゴブリントロッコに対処する為、マリィさんとフォティエに支えてもらいながらのドロップキック! 相手は無事脱線して、轟音と土煙の中に消えていきましたわ。

 反対側のトロッコはアカサビさんが対処。乗っていたゴブリンの一匹を引き摺りだして、そのまま前方にリリース! 汚らしい悲鳴と肉のひしゃげる音と共にトロッコは派手に打ち上がり、そのまま後方に置き去りです。ん~グルーヴィ!

 

「もうやだ、もうヤダ、モウヤダァ……」

 

 抱きついてきてプルプル震えている可愛い生き物を頭を撫でながら慰めていると、どうやら最後の難関が訪れたようです。

 前方、真っ暗な闇の先からびゅうびゅうと冷たい風が吹き込んできます。さらに目を凝らせば、線路は途中で途切れており、そして待ち受けるのは――

 

「わあああ! ブレーキ! 止めて止めてぇ! 先がない! 穴しかないぃいぃぃ!」

 

 はい、説明ありがとうございますわ。

 本来は橋が架かっていたのでしょう。しかしそれも途中までで完全に欠落、向こう側へはどう計算しても届くわけもない距離です。

 

 ですが我々にはアカサビさんがいますわ!

 

「……あー、流石に無理だな」

 

 終わりましたわ!

 ――しかし我々の窮地を救う女神は確かにいました。マリィさんっていうんですけれど。

 

「んじゃま、私の魔法でちょちょいのちょいってね!」

 

 トロッコが猛スピードで線路の切れ目へと突っ込んでいく中、颯爽と杖を取り出して魔法を唱える。

 魔力が冷気へと変換され、破断した線路の先へと集まっていく!

 

「青の魔法――氷柱(アイシクル)

 

 切れた線路の先が、氷で作られた橋によって補完される。線路から外れたトロッコが、氷の上を滑って流れる。

 ただし安定性などは皆無、バランスを崩せばそのまま奈落の底に真っ逆さまですわ!

 

 ガリガリと氷片をまき散らしながら、トロッコが向こう岸へと進みます。全員がトロッコを支えてバランスが崩れないよう重心をコントロール。今、四人の心を一つに!

 

「しぬしぬしぬしぬしぬしにゅしにゅしにゅしにゅし」

 

 ……あの、集中出来ないのでお口チャックしてくれます?

 

 

 

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